特許第6629574号(P6629574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6629574
(24)【登録日】2019年12月13日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】エンジン試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 15/02 20060101AFI20200106BHJP
【FI】
   G01M15/02
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-222482(P2015-222482)
(22)【出願日】2015年11月12日
(65)【公開番号】特開2017-90321(P2017-90321A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000127570
【氏名又は名称】株式会社エー・アンド・デイ
(74)【代理人】
【識別番号】100088214
【弁理士】
【氏名又は名称】生田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100129805
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 晋
(72)【発明者】
【氏名】小川 篤志
(72)【発明者】
【氏名】内田 潤
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−019652(JP,A)
【文献】 特開2010−043940(JP,A)
【文献】 特公昭56−002295(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力軸にシャフトを介してトルクを付与するダイナモメータと、前記シャフトのトルクを計測するトルク計と、前記ダイナモメータを回転数でフィードバック制御するために、該ダイナモメータ内蔵のエンコーダで計測した該ダイナモメータの回転数である回転数フィードバック値と、過渡条件の回転数目標値とを用いてトルク指令値を演算する制御装置と、を備えたエンジン試験装置において、
前記制御装置は、前記トルク指令値から前記トルク計の計測値をフィルタを通さずに減算して補正トルク指令値を求め、該補正トルク指令値に基づいて前記ダイナモメータを制御することによって、前記エンジンのトルク変動を前記ダイナモメータで相殺することを特徴とするエンジン試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジン試験装置及び方法に係り、特にロバスト性や応答性などの面で優れた制御性能を有するエンジン試験装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン性能を試験する装置として、エンジンベンチが知られている(特許文献1参照)。エンジンベンチは、供試エンジンが所定の性能を備えているかを評価する試験装置であり、供試エンジンは、台上試験機(エンジンベンチ)に取り付けられる。エンジンの出力軸はトルク計を介してダイナモメータに接続され、このダイナモメータによってエンジンの回転力が吸収される。ダイナモメータは一般にフィードバック制御されており、ダイナモメータの回転数が目標の回転数となるように制御されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-88187
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のエンジンベンチでは、回転数の目標値と実測値との間にズレが生じており、特に過渡条件で試験を行った際にズレが大きくなるという問題があった。試験の精度を高めるためには、PI制御の条件を最適化する必要があるが、供試エンジンごとに試行錯誤を繰り返して条件を設定しなければならず、時間と手間を費やしていた。また、PI制御の条件を最適化するだけでは、過渡条件での精度を十分に向上させることができないという問題もあった。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたものであり、試験の精度を簡単に高めることができるエンジン試験装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は前記目的を達成するために、エンジンの出力軸にシャフトを介してトルクを付与するダイナモメータと、前記シャフトのトルクを計測するトルク計と、前記ダイナモメータを回転数でフィードバック制御するために、該ダイナモメータ内蔵のエンコーダで計測した該ダイナモメータの回転数である回転数フィードバック値と、過渡条件の回転数目標値とを用いてトルク指令値を演算する制御装置と、を備えたエンジン試験装置において、前記制御装置は、前記トルク指令値から前記トルク計の計測値をフィルタを通さずに減算して補正トルク指令値を求め、該補正トルク指令値に基づいて前記ダイナモメータを制御することによって、前記エンジンのトルク変動を前記ダイナモメータで相殺することを特徴とするエンジン試験装置を提供する。
【0007】
本発明の発明者は、回転数フィードバック値に基づいて演算したトルク指令値からトルク計の計測値を減算して補正トルク指令値を求め、これに基づいてダイナモメータを制御すれば、エンジン側のトルク変動分をダイナモメータ側で相殺することができ、前述の誤差を極端に減らすことができるという知見を得た。本発明はこのような知見も基づいてなされたものであり、トルク指令値からトルク計の計測値を減算して補正トルク指令値を求め、これに基づいてダイナモメータを制御したので、回転数の目標値と実測値との誤差を極力減らすことができる。これにより、過渡条件での試験にも対応することができ、目標値を変動させる場合であっても、実測値を精度よく目標値に追従させることができる。さらに本発明は、非常に簡単な演算処理を追加するだけであり、エンジンやダイナモメータの慣性値を入力する必要がない。したがって、様々な種類のエンジンに対して、簡単に試験精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回転数フィードバック値に基づいて演算したトルク指令値から、トルク計の計測値を減算して補正トルク指令値を求め、これに基づいてダイナモメータを制御したので、回転数の目標値と実測値との誤差を極力減らすことができ、精度の良い試験を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態のエンジン試験装置を模式的に示す図
図2】制御装置での演算処理を説明する図
図3】本実施の形態のエンジン試験装置の作用を説明する説明図
図4】本実施の形態のエンジン試験装置の作用を説明する説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
添付図面に従って本発明に係るエンジン試験装置及び方法の好ましい実施形態について説明する。図1は、本発明が適用されたエンジン試験装置10の概略構成を示している。
【0012】
同図に示すエンジン試験装置10は、試験対象であるエンジン12の性能を測定・評価する装置であり、主としてダイナモメータ14、シャフト部材32、ダイナモ制御部16、エンジン制御部18、制御装置20で構成される。なお、本実施の形態では、ダイナモ制御部16、エンジン制御部18、制御装置20を分けて説明するが、これらの一部あるいは全てを一緒に構成してもよい。
【0013】
エンジン12は、架台22に固定されており、その出力軸がシャフト部材32を介してダイナモメータ14に接続されている。シャフト部材32は、メインシャフトなどの複数の軸部材が連結されることによって構成されており、その連結部分にはユニバーサルジョイント34が介在される。シャフト部材32にはトルクメータ36が取り付けられ、このトルクメータ36によってトルクが計測される。
【0014】
ダイナモメータ14は、エンジン12に所定の負荷トルクを与える装置であり、電流・電圧を可変させることで負荷トルクを設定できるようになっている。ダイナモメータ14にはダイナモ制御部16が接続されており、このダイナモ制御部16によって、ダイナモメータ14に印加する電流・電圧が可変制御され、エンジン12の負荷トルクが制御される。
【0015】
一方、エンジン12には、エンジン制御部18が接続される。エンジン制御部18は、スロットル開度や点火進角等の制御指令値をエンジン12に与えることによって、エンジン12を駆動制御する手段であり、通常はECU、もしくはECUにバイパス回路を付加したエンジン制御回路で実現される。ECUの代わりに仮想ECUと称されるDSP(Digital Signal Processor)で実現してもよい。このエンジン制御部18によってエンジン12に制御パラメータ(たとえば所定のスロットル開度)が与えられる。これにより、エンジン12が回転し、その回転がシャフト22を介してダイナモメータ14に伝達される。なお、エンジン制御部18から与えられる制御パラメータとしては、回転数、スロットル開度の他、燃料注入量、空気注入量、燃料と空気の混合比、点火時間(ガソリンエンジンの場合)、燃料噴射制御方法(ディーゼルエンジンの場合)など様々なパラメータがある。
【0016】
上述したダイナモメータ14、ダイナモ制御部16、エンジン制御部18、トルクメータ36は、制御装置20に接続されている。制御装置20は、ダイナモ制御部16やエンジン制御部18等を介してダイナモメータ14やエンジン12をフィードバック制御する機能を備えている。たとえば、制御装置20には、エンジン12の回転数目標値やトルク目標値が設定(入力)されており、制御装置20は、この回転数目標値になるようなスロットル開度指令値を決定して出力したり、それに必要なダイナモメータ14のトルク値を演算し、その演算値に基づいて算出したトルク指令値をダイナモ制御部16に出力したりするようになっている。
【0017】
図2は、ダイナモメータ14の制御に関する回路図を示している。同図に示すように、制御装置20は、PI制御器21を備えており、回転数目標値と回転数FB値の差が入力される。ここで、回転数目標値とは、予め設定(入力)された値であり、定常条件だけでなく過渡条件の場合も含まれる。また、回転数FB値は、実際に計測した回転数の値であり、たとえばダイナモメータ14に内蔵されたエンコーダ等から入力される。PI制御器21には、PI制御に関するパラメータが予め設定されており、回転数目標値と回転数FB値の差が入力されると、ダイナモメータ14をフィードバック制御するためのトルク指令値が演算される。従来装置では、このトルク指令値がダイナモ制御部16に出力され、ダイナモメータ14がフィードバック制御される。
【0018】
本実施の形態では、PI制御器21で求めたトルク指令値から、トルクメータ36で計測した軸トルク値を減算し、補正トルク指令値を求めている。そして、この補正トルク指令値をダイナモ制御部16に出力し、ダイナモメータ14を制御している。なお、トルクメータ36からの軸トルク値は必要に応じてフィルタやアンプを通しても良い。
【0019】
次に上記の如く構成されたエンジン試験装置10の作用について説明する。図3は本実施の形態の作用を説明するために、US06モードをトレースした試験結果を示している。図3(a)は、ダイナモメータ14の回転数の経時変化を示しており、図3(b)はその一部を拡大した図である。また、図3(c)は従来装置(すなわち、PI制御器21で求めたフィードバック制御値をそのままトルク指令値とした装置)で同様の試験を行った結果を示している。
【0020】
なお、図3(a)、図3(b)、図3(c)のいずれも、ダイナモメータ14の回転数の実測値を実線で示し、エンジン12の回転数の目標値を点線で示しているが、図3(a)、図3(b)では両者が重なって一本の線のように示されている。
【0021】
図3(c)から分かるように、従来装置では、ダイナモメータ14の回転数の実測値と、エンジン12の回転数の目標値が微妙にずれている。これは、エンジン12で発生するトルクに現れるトルク変動により、エンジン12側とダイナモメータ14側とで回転数がずれてしまうことを示している。このように従来装置では、過渡条件で試験を行った際に、目標値と実測値が大きくずれてしまうという問題があった。この問題を解消するためには、PI制御器21におけるパラメータを最適化することが一般的である。しかし、その作業は非常に困難であり、時間と労力がかかるという問題だけでなく、過渡条件で目標値と実測値とを精度よく一致させることが困難であるという問題がある。
【0022】
これに対して、図3(a)と図3(b)に示すように、本実施の形態のエンジン試験装置10では、ダイナモメータ14の回転数の実測値と、エンジン12の回転数の目標値とがほぼ一致している。すなわち、過渡条件であっても、目標値と実測値がほぼ一致している。
【0023】
上述したように、本実施の形態では、PI制御器21で求めたトルク指令値からトルクメータ36の値を引いて補正トルク指令値を求め、この補正トルク指令値に基づいてダイナモメータ14を制御している。その結果、シャフト部材32の両端にかかるトルクの差分を極力小さくした状態で、ダイナモメータ14が制御されることになる。これにより、トルクの差分に基づく回転数偏差を抑えることができ、精度の良い試験を行うことができる。
【0024】
図4(a)はエンジン12の伝達特性を示しており、図4(b)はダイナモメータ14の伝達特性を示している。どちらも本実施の形態を実線で示しており、従来装置(すなわち、PI制御回路で求めたフィードバック制御値をそのままトルク指令値とした装置)を点線で示している。両結果ともに10〜20Hzの間に共振点が確認できるが、従来装置に比べて本実施の形態では、共振点のゲインを抑制することができている。
【0025】
以上説明したように、本実施の形態によれば、PI制御器21で求めたトルク指令値から、トルクメータ36で計測した軸トルク値を減算して補正トルク指令値を求め、この補正トルク値に基づいてダイナモメータ12を制御している。これにより、エンジン12のトルク変動をダイナモメータ14で相殺することができ、エンジン12を目標の回転数で正確に制御することができる。また、シャフト部材32の機械的なねじれを抑制できるので、軸共振を抑制することができ、発振を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0026】
10…エンジン試験装置、12…エンジン、14…ダイナモメータ、16…ダイナモ制御部、18…エンジン制御部、20…制御装置、22…架台、24…吸引管、26…スロット、28…排気管、30…触媒装着部、32…シャフト部材、34…ユニバーサルジョイント、36…トルクメータ
図1
図2
図3
図4