特許第6629581号(P6629581)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6629581
(24)【登録日】2019年12月13日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】ヒドロキシチロソール含有茶飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20200106BHJP
   A23F 3/00 20060101ALI20200106BHJP
【FI】
   A23L2/00 B
   A23F3/00
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-234039(P2015-234039)
(22)【出願日】2015年11月30日
(65)【公開番号】特開2017-99323(P2017-99323A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2018年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】不破 喬
(72)【発明者】
【氏名】中尾 優希
(72)【発明者】
【氏名】松林 秀貴
【審査官】 堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−077125(JP,A)
【文献】 特開2010−088392(JP,A)
【文献】 特開2005−073588(JP,A)
【文献】 特開2000−103746(JP,A)
【文献】 特表2013−537546(JP,A)
【文献】 特開2013−247872(JP,A)
【文献】 特開2011−125329(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/023800(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/032215(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/059870(WO,A1)
【文献】 特開2008−212024(JP,A)
【文献】 特開2010−142129(JP,A)
【文献】 特開2014−138610(JP,A)
【文献】 国際公開第1993/04670(WO,A1)
【文献】 特開2010−43031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/
A23F 3/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシチロソールを0.8〜5mg/100mL含み、グルコースとマルトースとを[グルコース]/[マルトース](重量比)が0.01〜0.5となるように含み、グルコースの含有量が50〜2000mg/100mLである、飲料。
【請求項2】
ヒドロキシチロソールと、グルコース及びマルトースとの重量比([ヒドロキシチロソール]/[グルコース]+[マルトース])が0.0001〜0.005である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
前記飲料が茶飲料である、請求項1又は2に記載の飲料。
【請求項4】
ヒドロキシチロソールを0.8〜5mg/100mL含む飲料の香味を改善する方法であって、
飲料中の[グルコース]/[マルトース](重量比)を0.01〜0.5に調整する工程、及び
グルコースの含有量を50〜2000mg/100mLに調整する工程
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシチロソールを配合した飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
オリーブ(Olea europaea)は、モクセイ科オリーブ属に属する植物で、地中海地域をはじめとして広く栽培されている。その果実は、オリーブ油の抽出や食用として全世界で幅広く利用されており、食経験は非常に豊富である。
【0003】
オリーブの果実には、オレウロペイン、ヒドロキシチロソール、アクテオシド等のポリフェノールが含まれており(非特許文献1、2)、オリーブ抽出物やそれらのポリフェノール成分は、動脈硬化作用(非特許文献3)、高血圧抑制作用(特許文献1)、骨重量減少抑制作用(非特許文献4)等を有することが報告されている。また、オリーブ抽出物は抗酸化、美白、皮膚の抗老化、抗腫瘍効果を有すること(特許文献2)が報告されている。
【0004】
ヒドロキシチロソールは、オリーブに含まれる代表的なポリフェノール成分の一つであり、抗酸化活性を有することが知られている。抗酸化は、高血圧症、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病や、狭心症、心筋梗塞、脳循環障害、悪性腫瘍などの予防や改善に有用であることが一般に知られている。そのため、このような抗酸化活性を有する素材を含む飲食品の開発は強く期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−334022号公報
【特許文献2】特開2002−186453号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Agric Food Chem, vol.52, pp479-484, 2004
【非特許文献2】J Agric Food Chem, vol.53, pp8963-8969, 2005
【非特許文献3】Atherosclerosis, vol.188, No.1, pp35-42, 2006
【非特許文献4】Clin Nutr, vol.25, No.5, 859-868, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した通りヒドロキシチロソールは抗酸化活性を有しており、生活習慣病等の予防や改善において非常に有用な素材である。しかしながら、ヒドロキシチロソールには、特有のエグ味及び異臭(例えば、収斂味)があるために、飲料中に配合すると、飲料の嗜好性が著しく低下するという問題がある。
【0008】
そのため、本発明の課題は、ヒドロキシチロソールを含有しながらも飲みやすい飲料を提供することにある。
【0009】
また、本発明は、ヒドロキシチロソールを含有した飲料において、ヒドロキシチロソールに起因するエグ味及び異臭を低減する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ヒドロキシチロソールを含有した飲料に対し、特定の比率となるようにグルコースとマルトースとを含有させることにより、ヒドロキシチロソールに起因する好ましくない香味(具体的には、後味として残る収斂味)を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、これに限定されるものではないが、以下に関する。
(1)ヒドロキシチロソールを0.5〜50mg/100mL含み、グルコースとマルトースとを[グルコース]/[マルトース](重量比)が0.001〜1となるように含む、飲料。
(2)ヒドロキシチロソールと、グルコース及びマルトースとの重量比([ヒドロキシチロソール]/[グルコース]+[マルトース])が0.0001〜0.005である、(1)に記載の飲料。
(3)前記飲料が茶飲料である、(1)又は(2)に記載の飲料。
(4)ヒドロキシチロソールを0.5〜50mg/100mL含む飲料の香味を改善する方法であって、飲料中の[グルコース]/[マルトース](重量比)を0.001〜1に調整する工程を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、抗酸化活性を有する飲料を提供することができる。そして、本発明によって、ヒドロキシチロソールを含有していながらも、エグ味や異臭などのヒドロキシチロソールに起因する好ましくない香味(例えば、収斂味)が改善された飲料を提供することができる。本発明の飲料はまた、血流の改善にも有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ヒドロキシチロソールを含み、グルコースとマルトースとをさらに含む飲料である。
【0013】
(ヒドロキシチロソール)
ヒドロキシチロソール(hydroxytyrosol)は、オリーブ等の植物に含まれているポリフェノールの一種である。ヒドロキシチロソールの構造式は下記の通りであり、その別名は4-(2-Hydroxyethyl)-1,2-benzenediolと称される。また、ヒドロキシチロソールのCAS登録番号は10597−60−1である。
【0014】
【化1】
【0015】
ヒドロキシチロソールは、非常に強い抗酸化作用を有するのみならず、悪玉コレステロールであるLDLがさらに悪化した酸化LDLになることを防ぐ作用を有することも知られている。また、ヒドロキシチロソールは血流改善作用を有することも知られている。
【0016】
ヒドロキシチロソールは、市販されているものを用いてもよいし、自体公知の方法を用いて自ら調製したもの、例えば、水や油等の溶媒を用いてオリーブ等の植物から単離及び精製したもの、を用いてもよく、特に制限されない。また、ヒドロキシチロソールを含有する植物抽出物を利用することもできる。
【0017】
また、本発明においてヒドロキシチロソールは配糖体であってもよい。本明細書において「配糖体」とは、糖の水酸基が非糖質化合物と結合してできる化合物をいう。配糖体における糖は、単糖であってもよく、或いは二糖又はそれ以上の複数の糖であってもよく、特に限定されない。糖の種類も特に限定されず、グルコース、マンノース、ガラクトース、フコース、ラムノース、アラビノース、キシロース等のアルドース、フルクトース等のケトース、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸等のウロン酸、アピオース、ルチノース等が挙げられる。また、配糖体に用いられる糖はD体であってもよいし、L体であってもよい。
【0018】
本発明の飲料は、0.5〜50mg/100mLのヒドロキシチロソールを含有する。抗酸化効果や血流改善効果を得る観点からは0.5mg/100mL以上のヒドロキシチロソールを含有することが好ましいが、0.5mg/100mL以上のヒドロキシチロソールを含有する飲料は後味が悪くなる傾向にある。特に0.8mg/100mL以上のヒドロキシチロソールを含有する飲料は、後味として収斂味が残る傾向にある。本発明の飲料におけるヒドロキシチロソールの含有量は、好ましくは0.8〜5mg/100mL、より好ましくは0.8〜2.5mg/100mLである。ヒドロキシチロソールが配糖体や水和物等の形態にある場合は、これを遊離体(フリー体)に換算した上で上記含有量を算出するものとする。本発明におけるヒドロキシチロソールの含有量は、当業者に公知の方法に従って測定することができ、例えば、LC−MS/MS、HPLC等を用いて適宜条件を設定して測定することができる。
【0019】
(グルコース、マルトース)
本発明の飲料は、グルコースとマルトースとを、その重量比([グルコース]/[マルトース])が0.001〜1となるように含有する。本発明の飲料におけるグルコースとマルトースとの重量比は、好ましくは0.02〜0.5であり、より好ましくは0.025〜0.25である。ヒドロキシチロソールを含有する飲料におけるグルコースとマルトースとの比(重量比)が上記の特定の範囲内にあれば、ヒドロキシチロソールに起因する好ましくない香味が改善される。
【0020】
飲料中のグルコース及びマルトースの含有量は、グルコースとマルトースとの比が上記の範囲内であればよく、特に制限されない。飲料の種類によって、所望される甘味などを考慮して決定すればよい。例えば、茶飲料であれば、ほとんど甘味を感じない(ほとんど茶葉由来のスクロースである)20〜3000mg/kg程度のスクロースであってもよいし、例えば有糖茶のように甘味を付与した飲料では、3000〜100000mg/kg程度のスクロースであってもよい。したがって、飲料におけるスクロースの含有量は、これに限定されないが、飲料の甘味の設計によって、20mg/kg以上、例えば、20〜100000mg/kg程度となりうる。グルコースの含有量は、このスクロースの含有量に準じて設定してもよいし、これとは異なる含有量に設定してもよい。そして、マルトースの含有量は、グルコースの含有量と上記の比(重量比)から決定すればよい。本発明の飲料におけるグルコースの含有量は、例えば50〜2500mg/100mLであり、好ましくは100〜2000mg/100mL、より好ましくは120〜1000mg/100mLである。また、本発明の飲料におけるマルトースの含有量は、例えば200〜5000mg/100mLであり、好ましくは3000〜4950mg/100mL、より好ましくは4000〜4900mg/100mLである。
【0021】
グルコース及びマルトースはまた、ヒドロキシチロソールとこれらの合計量(即ち、グルコース及びマルトースの合計量)との重量比([ヒドロキシチロソール]/[グルコース]+[マルトース])が0.0001〜0.005となるように含有させることができる。ヒドロキシチロソール由来の香味改善の観点から、その重量比は、好ましくは0.00012〜0.002、より好ましくは0.00014〜0.001である。
【0022】
飲料中のグルコース及びマルトースの含有量は、当業者に公知の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等を利用して測定することができる。
【0023】
本発明は、別の観点からは、ヒドロキシチロソールを0.5〜50mg/100mL含有する飲料において、飲料中のグルコースとマルトースとの重量比([グルコース]/[マルトース])を0.001〜1となるように調整する工程を含む、飲料の香味を改善する方法に関する。
【0024】
(飲料)
本発明の飲料における、飲料の種類は特に限定されず、炭酸飲料、非炭酸飲料、アルコール飲料、非アルコール飲料、茶飲料、栄養飲料、機能性飲料などいずれであってもよい。本発明において好ましい飲料としては、例えば、緑茶、ほうじ茶、ブレンド茶、麦茶、マテ茶、ジャスミン茶、紅茶、ウーロン茶、杜仲茶などの茶飲料などが含まれる。
【0025】
本発明の飲料は、上記に示した各種成分のほか、飲料の種類に応じて、各種添加剤等が配合されていてもよい。各種添加剤としては、例えば、上記以外の糖類等の甘味料、酸味料、香料、ビタミン、色素類、酸化防止剤、乳化剤、保存料、エキス類、食物繊維、pH調整剤、品質安定剤等が挙げられる。
【0026】
本発明の飲料は、上述した成分を適宜配合することにより製造することができる。本発明の飲料を茶飲料とする場合は、茶葉又はその抽出物等を配合して製造することができる。また、本発明の飲料は、必要に応じて殺菌等の工程を経て、容器詰め飲料とされる。例えば、飲料を容器に充填した後に加熱殺菌等を行う方法や、飲料を殺菌してから無菌環境下で容器に充填する方法により、殺菌された容器詰め飲料を製造することができる。
【0027】
容器の種類は特に限定されず、PETボトル、缶、瓶、紙パックなどを挙げることができる。特に、無色透明のPETボトルは、容器中の飲料の色味が外部から視認しやすく、且つ充填後の飲料の取り扱いも容易であるため、好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、実験例及び実施例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、本明細書において、特に記載しない限り、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0029】
オリーブ果実抽出物 HT−6(エーザイフード・ケミカル社)を用いて、評価用の飲料(サンプル)を作製した。具体的には、前記オリーブ果実抽出物、グルコース(昭和産業社)及びマルトース(ナカライテスク社)を、ヒドロキシチロソール、グルコース及びマルトースの含有量が下記の表1及び表2に記載の量(濃度)となるように水に溶解して、合計100mLの各飲料を調製した。なお、前記オリーブ果実抽出物にはヒドロキシチロソールが6%(w/w)含まれているものとして、前記オリーブ果実抽出物の添加量を計算した。
【0030】
得られた飲料について、十分に訓練を受けた3名の専門パネリストにより、香味の官能評価を行った。評価用の飲料は、室温にて調製された飲料をそのまま使用した。香味については、収斂味の観点から主に評価した。具体的には、下記の通りとした。
1点:収斂味が強すぎる。
2点:収斂味が強い、もしくは甘さが強い。
3点:収斂味と甘さのバランスがとれている。
4点:収斂味と甘さのバランスがさらによい。
5点:もっとも好ましいキレのある甘さが感じられる。
【0031】
その結果を表1及び表2に示す。ヒドロキシチロソールを0.8〜10mg/100mL以上含む飲料に関しては、グルコースとマルトースとをグルコース/マルトース比が0.01〜0.5になるように加えると、飲料の収斂味と甘さのバランスが良くなることがわかった。特に、ヒドロキシチロソールを0.8〜10mg/100mL以上含む飲料に関しては、グルコースとマルトースとをグルコース/マルトース比が0.03〜0.25になるように加えると、収斂味と甘さのバランスはさらによいものとなった。
【0032】
【表1】
【表2】