(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
既知濃度の溶液成分が複数含まれる混合溶液が取り扱われる環境雰囲気において、複数のガス成分を同時に検知可能な単一のガス検知センサを用いて、前記混合溶液に含まれる複数の溶液成分から揮発する複数のガス成分のそれぞれの濃度を推定するガス検知方法であって、
前記混合溶液に含まれる前記複数の溶液成分のそれぞれの濃度を提供するステップと、
提供された前記複数の溶液成分のそれぞれの濃度に基づいて、前記環境雰囲気中の前記複数のガス成分の混合比を推定するステップと、
前記ガス検知センサにより前記複数のガス成分を検知して単一の検知信号を取得するステップと、
前記複数のガス成分のそれぞれに対する前記ガス検知センサの検知感度と、推定された前記複数のガス成分の混合比と、前記ガス検知センサにより取得された単一の検知信号とから、前記複数のガス成分のそれぞれの濃度を算出するステップと
を含むガス検知方法。
前記環境雰囲気の温度および/または湿度を測定し、測定された温度および/または湿度に応じて、前記複数のガス成分のそれぞれに対する前記ガス検知センサの検知感度を補正するステップをさらに含む請求項1または2に記載のガス検知方法。
前記環境雰囲気中の前記複数のガス成分の混合比を推定するステップが、提供された前記複数の溶液成分のそれぞれの濃度から、ラウールの法則を利用して、前記環境雰囲気中の前記複数のガス成分の混合比を算出することを含む、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス検知方法。
前記複数のガス成分のうち少なくとも1つのガス成分に対する前記ガス検知センサの検知感度について、前記ガス成分の濃度と前記ガス検知センサの検知信号強度との関係が、前記ガス成分の濃度の2次関数で近似される、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス検知方法。
既知濃度の溶液成分が複数含まれる混合溶液が取り扱われる環境雰囲気において、前記混合溶液に含まれる複数の溶液成分のそれぞれから揮発する複数のガス成分のそれぞれの濃度を推定するためのガス検知器であって、
前記複数のガス成分を同時に検知して単一の検知信号を出力する単一のガス検知センサと、
前記混合溶液に含まれる前記複数の溶液成分のそれぞれの濃度を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記複数の溶液成分のそれぞれの濃度に基づいて、前記環境雰囲気中の前記複数のガス成分の混合比を推定する第1演算部と、
前記複数のガス成分のそれぞれに対する前記ガス検知センサの検知感度と、推定された前記複数のガス成分の混合比と、前記ガス検知センサから出力された単一の検知信号とから、前記複数のガス成分のそれぞれの濃度を算出する第2演算部と
を含むガス検知器。
前記第1演算部が、前記記憶部に記憶された前記複数の溶液成分のそれぞれの濃度から、ラウールの法則を利用して、前記環境雰囲気中の前記複数のガス成分の混合比を算出する、
請求項6〜8のいずれか1項に記載のガス検知器。
前記複数のガス成分のうち少なくとも1つのガス成分に対する前記ガス検知センサの検知感度について、前記ガス成分の濃度と前記ガス検知センサの検知信号強度との関係が、前記ガス成分の濃度の2次関数で近似される、
請求項6〜9のいずれか1項に記載のガス検知器。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係るガス検知器およびガス検知方法を説明する。ただし、以下に示す実施形態は一例であり、本発明のガス検知器およびガス検知方法は、以下の例に限定されることはない。
【0021】
本実施形態のガス検知器およびガス検知方法はそれぞれ、既知濃度の溶液成分が複数含まれる混合溶液が取り扱われる環境雰囲気において、混合溶液に含まれる複数の溶液成分のそれぞれから揮発する複数のガス成分のそれぞれの濃度を推定するために用いられる。本実施形態のガス検知器およびガス検知方法は、たとえば、トルエン、キシレン、酢酸エチルなどの揮発性有機化合物(VOC)を複数種類含む混合溶液を使用するような作業環境において、混合溶液から作業環境内の雰囲気中に揮発するガス成分の濃度を推定し、雰囲気中のガス成分の濃度を監視するために用いることができる。ただし、本発明のガス検知器およびガス検知方法は、そのような例に限定されることはなく、濃度が既知の溶液成分を複数含む混合溶液が取り扱われる環境において、その混合溶液から揮発するガス成分の濃度を推定する必要のある他の用途にも用いることができる。
【0022】
混合溶液は、それぞれの濃度が既知である複数の溶液成分により構成され、取り扱われる環境内において複数のガス成分の揮発源となる物質である。混合溶液は、環境雰囲気内で取り扱われて、混合溶液を構成する複数の溶液成分のそれぞれに対応して、複数のガス成分を環境雰囲気中に放出する。混合溶液としては、それぞれの濃度が既知である複数の溶液成分により構成されていれば、特に限定されることはないが、たとえば、複数種類の揮発性有機化合物を溶液成分として含む混合溶液が例示され、より具体的には、塗料、印刷インキ、接着剤、防腐剤、断熱材、殺虫剤、防蟻剤、可塑剤、芳香剤、洗浄剤、ガソリン、灯油、シンナーなどが例示される。混合溶液中の溶液成分の濃度は、たとえば、安全データシート(SDS)から入手することもできるし、公知の分析手段により測定することもできる。
【0023】
混合溶液に含まれる溶液成分としては、環境雰囲気中で揮発するものであれば、特に限定されることはないが、たとえば上述した揮発性有機化合物が例示され、より具体的には、メタン、エタン、n−ブタン、イソブタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、n−ペンタン、2−メチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、n−ヘキサン、3−メチルヘキサン、n−ヘプタン、3−メチルヘプタン、ノナン、デカン、ウンデカン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ビシクロヘキシル、プロピレン、cis−2−ブテン、trans−2−ブテン、2−メチル−2−ブテン、2−メチル−1−ブテン、1,3−ブタジエン、イソプレン、cis−2−ペンテン、trans−2−ペンテン、1−ヘプテン、ジペンテン、ベンゼン、トルエン、キシレン、1,3,5−トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、クメン、スチレン、ナフタレン、テトラリン、クロロメタン、ジクロロメタン、クロロホルム、臭化メチル、クロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、塩化ビニル、1,1−ジクロロエチレン、n−プロピルブロマイド、1,2−ジクロロプロパン、塩化アリル、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、ベンジルアルコール、フェノール、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチルセロソルブ、イソプロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、酸化プロピレン、エチレンオキシド、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ギ酸メチル、酢酸エチル、トリフロロ酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ビニル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピオン酸、アクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn−ブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、イソホロン、ジメチルスルホキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン、シクロヘキシルアミン、ピリジン、ピペリジン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトニトリル、アクリロニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、トリフロロメチルプロフィルケトンなどが例示される。
【0024】
環境雰囲気は、混合溶液が取り扱われる環境を占める空間内の雰囲気である。混合溶液が取り扱われる環境としては、混合溶液が使用され、製造され、放置されるなどして取り扱われる環境であればいかなる環境であってもよく、特に限定されることはない。混合溶液が取り扱われる環境は、たとえば、工場内、建築現場内、家屋内などが例示され、閉じられた環境に限られることはなく、開かれた環境であっても構わない。環境内の雰囲気としては、特に限定されることはなく、たとえば、大気雰囲気が例示されるが、大気成分とは異なるガス成分組成の雰囲気であってもよいし、大気雰囲気とは異なる圧力の雰囲気であってもよいし、常温よりも高い温度や低い温度の雰囲気であってもよい。
【0025】
<ガス検知器>
ガス検知器1は、混合溶液から揮発する複数のガス成分を検知し、検知した複数のガス成分のそれぞれの環境雰囲気中の濃度を算出する。ガス検知器1は、
図1に示されるように、複数のガス成分を同時に検知する単一のガス検知センサ2と、混合溶液中の溶液成分の濃度を記憶する記憶部3と、溶液成分の濃度からガス成分の混合比を推定する第1演算部4と、環境雰囲気中のガス成分の濃度を算出する第2演算部5とを含んでいる。ガス検知センサ2、記憶部3、第1演算部4および第2演算部5は、それぞれが以下で詳しく述べるように機能することができれば、その配置は特に限定されることはなく、すべてが同じ装置内に設けられてもよいし、記憶部3、第1演算部4および第2演算部5が、公知のパーソナルコンピュータや、タブレット端末およびスマートフォンなどの携帯端末など、ガス検知センサ2とは別の情報処理装置に設けられてもよい。
【0026】
ガス検知センサ2は、複数のガス成分を同時に検知して単一の検知信号を出力する。ガス検知センサ2は、環境雰囲気内に複数のガス成分が導入される前後の環境雰囲気の変化を検知し、複数のガス成分の種類および/または濃度に応じた環境雰囲気の変化を検知信号として出力する。ガス検知センサ2として、本実施形態では熱線型半導体式センサを用いており、複数のガス成分が熱線型半導体式センサの半導体材料表面の吸着酸素との化学反応に伴い抵抗値が変化し、その抵抗値の変化を検知信号として出力する。ガス検知センサ2は、複数のガス成分を同時に検知して単一の検知信号を出力することができれば、特に限定されることはなく、たとえば、熱線型半導体式センサ以外にも、公知の基板型半導体式センサ、接触燃焼式センサなどを用いることができる。
【0027】
ガス検知センサ2は、本実施形態では、熱線型半導体式センサが採用され、
図1に示されるように、公知のホイートストンブリッジ回路として構成される検知回路D内に設けられる。検知回路Dは、ガス検知センサ2と、3つの固定抵抗R0、R1、R2とがブリッジ状に配置され、電源Eによって常時または間欠的に通電される。環境雰囲気内に複数のガス成分が導入されると、複数のガス成分がガス検知センサ2の半導体材料表面上の吸着酸素との化学反応にともないガス検知センサ2の抵抗値が変化し、検知回路Dの電位差に変化が生じる。検知回路Dに生じる電位差の変化は、検知回路Dに設けられる電位差計Vによって測定され、検知信号として出力される。出力される検知信号は、検知回路Dに通信可能に接続される第1演算部4に送られる。ただし、ガス検知センサ2は、複数のガス成分を同時に検知して単一の検知信号を出力することができれば、本実施形態に限定されることはなく、たとえば検知回路Dに組み込まれることなく、他の回路に組み込まれてもよいし、単体として用いられてもよい。
【0028】
記憶部3は、混合溶液に含まれる複数の溶液成分のそれぞれの濃度を記憶する。たとえば、記憶部3は、混合溶液に含まれる複数の溶液成分、各成分の濃度、検知センサの検知感度を記憶する。複数の溶液成分のそれぞれの濃度とは、混合溶液中でのそれぞれの溶液成分の割合のことを意味する。記憶部3は、
図1に示されるように、第1演算部4に通信可能に接続されている。記憶部3に記憶される複数の溶液成分のそれぞれの濃度は、第1演算部4に送られる。記憶部3は、混合溶液に含まれる複数の溶液成分のそれぞれの濃度を記憶することができれば、特に限定されることはなく、たとえばハードディスク、固体メモリ、光記録媒体などを用いることができる。複数の溶液成分のそれぞれの濃度は、あらかじめ測定された濃度が図示しない入力手段によって入力されて記憶部3に記憶されてもよいし、図示しない分析手段によって測定された濃度が直接送信されて記憶部3に記憶されてもよい。また記憶部3に記憶される情報は、前記情報に限定されるものではなく、例えば演算処理の手法に応じた必要な情報が記憶されていればよい。
【0029】
第1演算部4は、記憶部3に記憶された複数の溶液成分のそれぞれの濃度に基づいて、環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を推定する。複数のガス成分の混合比とは、混合溶液から揮発して生成した複数のガス成分のすべてにより構成されるガス(以下、「混合ガス」という)の中での、それぞれのガス成分の割合のことを意味する。第1演算部4は、
図1に示されるように、ガス検知センサ2、記憶部3および第2演算部5に、通信可能に直接または間接的に接続されている。第1演算部4は、ガス検知センサ2から検知信号を受け取り、記憶部3から溶液成分の濃度を受け取り、後述する温度センサ6から環境雰囲気の温度情報を受け取り、ガス成分の混合比を推定して、推定したガス成分の混合比を第2演算部5に送る。ここで、混合溶液に含まれる複数の溶液成分は、それぞれの純液体の状態での蒸気圧が互いに異なるとともに、互いに混合されることでそれぞれの蒸気圧が純液体の状態の蒸気圧から変化する。したがって、環境雰囲気内においては、混合溶液内の各溶液成分は、その混合比(濃度)に比例した量で揮発することはなく、それぞれのガス成分の混合比は、混合溶液内の各溶液成分の混合比(濃度)とは異なることになる。本実施形態では、第1演算部4は、記憶部3に記憶された複数の溶液成分のそれぞれの濃度と、複数の溶液成分のそれぞれの純液体状態の蒸気圧とから、混合溶液状態での複数の溶液成分のそれぞれの蒸気圧を求めることによって、環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を算出する。より具体的には、第1演算部4は、記憶部3に記憶された複数の溶液成分のそれぞれの濃度から、ラウールの法則を利用して、環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を算出する。ラウールの法則によれば、混合溶液の各溶液成分の蒸気圧は、以下の数式1に示されるように、混合溶液中の各溶液成分の濃度(モル分率)x
iと、各溶液成分の純液体状態での蒸気圧P
i0との積で表される。混合溶液中の各溶液成分の濃度は既知であるので、それぞれの純液体状態の蒸気圧から、混合溶液中での各溶液成分の蒸気圧を算出することができる。そして、混合溶液中の各溶液成分の蒸気圧の比は、環境雰囲気中における各ガス成分の混合比に対応するので、混合溶液中の各溶液成分の蒸気圧の比を求めることで、環境雰囲気中における各ガス成分の混合比を算出することができる。
【0030】
P
i=x
i・P
i0 [数式1]
P
i:混合溶液中の溶液成分iの蒸気圧
x
i:混合溶液中の溶液成分iのモル分率
P
i0:溶液成分iの純液体状態の蒸気圧
【0031】
なお、混合溶液の環境雰囲気との界面近傍の微小領域は、気化に伴い溶液の組成が変化するが、その微小領域における溶液の量に対して混合溶液全体の量が多ければ、その変化を無視することができる。このような場合には、混合溶液中の各溶液成分の元々の濃度を考慮して、上述したようにラウールの法則のような気液平衡論に基づいて環境雰囲気中のガス成分の混合比を求めることができる。一方、微小領域における溶液の量に対して混合溶液全体の量が少ない場合には、気化に伴う溶液の組成の変化が無視できなくなるので、環境雰囲気中のガス成分の混合比を算出するにあたり、混合溶液の組成の変化を考慮することが好ましい。さらに、混合溶液が液膜の状態であれば、混合溶液は全て気化するものとして、ガス成分の混合比を算出することが好ましい。このように、混合溶液の利用状況に応じて、ガス成分の混合比の算出方法を修正してもよい。
【0032】
ここで、混合溶液中の溶液成分の蒸気圧は、環境雰囲気の温度に応じても変化し得る。したがって、環境雰囲気中のガス成分の混合比を推定する場合には、環境雰囲気の温度を考慮することが好ましい。本実施形態では、ガス検知器1は、
図1に示されるように、環境雰囲気の温度を測定する温度センサ6をさらに含んでいる。温度センサ6は、第1演算部4に通信可能に接続され、測定した環境雰囲気の温度を第1演算部4に送信する。そして、第1演算部4は、記憶部3に記憶された複数の溶液成分のそれぞれの濃度から、温度センサ6により測定された温度に応じて、環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を推定する。より具体的には、第1演算部4は、温度センサ6によって測定された環境雰囲気の温度に対応した、各溶液成分の純液体状態の蒸気圧を用いて、各溶液成分の混合溶液中での蒸気圧を算出する。各溶液成分の純液体状態の蒸気圧は、温度センサ6によって測定された温度と対応させて、あらかじめ実測された実験値を用いてもよいし、公知のアントワン式などの実験式または経験式から求めた値を用いてもよいし、公知のクラウジウス・クラペイロン式などの理論式から求めた値を用いてもよい。ガス検知器1が温度センサ6を含むことにより、環境雰囲気の温度を考慮して環境雰囲気中のガス成分の混合比を推定することができるので、複数のガス成分の混合比をより精度よく推定することができる。ただし、環境雰囲気の温度は、環境雰囲気中に設けられた別の温度センサにより測定されてもよいし、あるいは、環境雰囲気が加熱も冷却もされずに室温がほぼ維持されている場合には、温度センサによって測定することなく、室温に近い特定の温度(たとえば25℃)と仮定してもよい。例えば、前記温度センサによって温度を測定しない場合には、温度センサ6を含まない構成としてもよい。また温度センサ6を含む場合、温度情報は、記憶部3に通信されて、記憶されるようにしてもよい。この場合、第1演算部4は、ガス検知センサ2から検知信号を受け取り、記憶部3から溶液成分の濃度と環境雰囲気の温度情報を受け取り、ガス成分の混合比の推定を行う。
【0033】
第1演算部4は、ラウールの法則に加えて、活量係数を用いて、混合溶液中の各溶液成分の蒸気圧を算出して、環境雰囲気中の複数のガス成分のそれぞれの混合比を算出することもできる。混合溶液が、ラウールの法則が成立する理想溶液(たとえば希薄溶液)に近い場合には、上述したラウールの法則を用いた算出方法が好適に採用されるが、混合溶液が、ラウールの法則が成立しない非理想溶液である場合には、ラウールの法則と活量係数とを組み合わせた方法が好適に採用される。後者の場合、以下の数式2に示されるように、混合溶液中の各溶液成分の蒸気圧は、各溶液成分の混合溶液中での活量係数γ
iと、混合溶液中の各溶液成分の濃度(モル分率)x
iと、各溶液成分の純液体状態での蒸気圧P
i0との積で表される。対象とする混合溶液を、ラウールの法則が成立する理想溶液として取り扱うか、またはラウールの法則が成立しない非理想溶液として取り扱うかは、実験的および/または理論的な検討によって、混合溶液の種類に応じて適宜決定することができるが、たとえば、最終的に算出されるガス成分の濃度と他の手法で求められる濃度とを比較することによって、いずれが適しているかを決定することができる。
【0034】
P
i=γ
i・x
i・P
i0 [数式2]
P
i:混合溶液中の溶液成分iの蒸気圧
γ
i:混合溶液中の溶液成分iの活量係数
x
i:混合溶液中の溶液成分iのモル分率
P
i0:溶液成分iの純液体状態の蒸気圧
【0035】
なお、活量係数とは、現実の溶液系(非理想溶液)を熱力学的に取り扱えるような理想溶液として近似する場合に必要となる補正係数である。活量係数は、実験的に、経験的に、または理論的に求めることができ、特に限定されることはなく、たとえば、公知のWilson式、SILS式、NRTL式などを用いて推算することができる。これらの公知の推算方法は、経験的ファクターにも依存するので、その経験的ファクターによって、最終的に算出する蒸気圧が左右される可能性がある。これらの公知の推算方法を採用する際には、あらかじめ、混合溶液中の溶液成分のモル分率に対する混合溶液の蒸気圧の変化(蒸気圧曲線)を推算して、推算された蒸気圧曲線と実測値とを比較したうえで、実測値に最も近い推算結果が得られる手法を採用することが好ましい。
【0036】
第1演算部4は、記憶部3に記憶された複数の溶液成分のそれぞれの濃度に基づいて、環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を推定することができればよく、上述したラウールの法則を用いた方法やラウールの法則と活量係数とを組み合わせた方法を用いて推定することに限定されることはない。たとえば、あらかじめ、同じ混合溶液を同じ環境雰囲気に置いて、どのような混合比でガス成分が環境雰囲気中に導入されるかを調べておいて、その調べた結果を実際の環境雰囲気中のガス成分の混合比として推定してもよい。
【0037】
また、混合溶液中の溶液成分の蒸気圧は、環境雰囲気の温度だけでなく湿度に応じても変化する場合があり得る。そのような場合には、環境雰囲気中のガス成分の混合比は、環境雰囲気の温度および/または湿度を考慮することにより、より精度よく推定することができる。その場合、ガス検知器1は、環境雰囲気の温度および/または湿度を測定するセンサ(図示せず)をさらに含んでいてもよい。温度および/または湿度を測定するセンサは、第1演算部4に通信可能に接続され、測定した環境雰囲気の温度および/または湿度を第1演算部4に送信する。そして、第1演算部4は、記憶部3に記憶された複数の溶液成分のそれぞれの濃度から、上記センサにより測定された温度および/または湿度に応じて、環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を推定してもよい。たとえば、第1演算部4は、測定された温度および/または湿度に応じて、各溶液成分の混合溶液中での蒸気圧を算出し、環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を推定してもよい。また、第1演算部4は、あらかじめ、同じ混合溶液を同じ環境雰囲気に置いて、どのような混合比でガス成分が環境雰囲気中に導入されるかを調べておいて、その調べた結果を実際の環境雰囲気中のガス成分の混合比として推定してもよい。上記センサが測定した温度および/または湿度情報は、温度センサ6が測定した温度情報と同様に、直接第1演算部4に送信されても、一旦記憶部3に送信されて、記憶されてもよい。また、上記センサは、温度センサと湿度センサとが一体となったものでもよいし、温度センサと湿度センサとが別体となったものでもよい。なお、混合溶液中の溶液成分の蒸気圧については、たとえば空気に対する水のモル分率を計算すると小さく、蒸気圧曲線から理想と近似しており、理想状態と仮定しても問題はないので、必ずしも湿度補正を行なわなくてもよい。
【0038】
第1演算部4は、記憶部3に記憶された複数の溶液成分のそれぞれの濃度に基づいて、環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を推定することができれば、特に限定されることはなく、たとえば公知の中央処理装置(CPU)などを用いて構成することができる。
【0039】
第2演算部5は、複数のガス成分のそれぞれに対するガス検知センサ2の検知感度と、第1演算部4によって推定された複数のガス成分の混合比と、ガス検知センサ2から出力された単一の検知信号とから、複数のガス成分のそれぞれの濃度を算出する。複数のガス成分のそれぞれの濃度とは、環境雰囲気中でのガス成分のそれぞれの割合のことを意味する。第2演算部5は、
図1に示されるように、第1演算部4に通信可能に接続され、ガス成分の推定された混合比を第1演算部4から受信する。また、第2演算部5は、任意で、算出された複数のガス成分のそれぞれの濃度を出力するために、液晶ディスプレイなどの表示装置やプリンタなどの印字装置などの出力部7に通信可能に接続されてもよい。
【0040】
ここで、検知感度とは、検知対象であるガス成分の濃度と、その濃度のガス成分をガス検知センサ2が検知したときに出力される検知信号強度との比のことを意味する。たとえば、対象ガス成分の検知感度は、特定のガス(たとえば、トルエンガス)を基準ガスとして、所定の濃度の基準ガスに対して得られるガス検知センサ2の検知信号強度と、同じ所定の濃度の対象ガスを検知することで得られるガス検知センサ2の検知信号強度との比によって、基準ガスに対する相対的な検知感度(相対検知感度、感度比)として表わすこともできる。検知感度は、あらかじめ測定された値を用いても良いし、後述するように、あらかじめ測定された値から補正された値を用いても良い。検知感度は、たとえば、記憶部3に記憶される。
【0041】
検知感度は、
図2(a)に示されるように、検出対象であるガス成分の種類やガス検知センサの種類などに応じて変化する。
図2(a)は、異なるガス成分の濃度と生の検知信号強度との関係の例を示している。ガス検知センサの種類によっては、
図2(a)には示されていないが、ガス成分の濃度と生の検知信号強度との関係が線形性を有するなど、生の検知信号強度をそのまま用いてガス成分のガス濃度を求めることができる場合がある。そのような場合には、ガス検知センサの校正を行なう必要がない。一方で、ガス検知センサの種類によっては、
図2(a)に示されるように、ガス成分の濃度と生の検知信号強度との関係が線形性を有さないなど、生の検知信号強度をそのまま用いてガス成分のガス濃度を求めることができない場合がある。そのような場合には、ガス検知器では、一般的に、ガス成分の種類やガス検知センサの種類などに応じて、ガス成分の濃度と検知信号強度との間の相関関係に線形性が得られるように校正が行なわれる(
図2(b)の基準ガスを参照)。そのように校正されたガス検知器では、基準ガスの検知感度(ガス成分の濃度と検知信号強度との比)は、ガス成分の濃度によらず一定の値(傾き)を有することになる。しかしながら、本実施形態のように、複数のガス成分を単一のガス検知センサで検知するような場合には、1つのガス成分についてガス検知器の校正を行なうと、他のガス成分については、ガス成分の濃度と検知信号強度との相関関係に線形性が必ずしも得られるとは限らず、検知感度(ガス成分の濃度と検知信号強度との比)が、ガス成分の濃度に応じて変化する場合がある。たとえば、
図2(b)に示された例では、他のガス成分Aについては、ガス成分の濃度と検知信号強度との相関関係に線形性が見られるが、他のガス成分Bについては、ガス成分の濃度と検知信号強度との相関関係に線形性が見られない。そのような場合には、基準ガスとするガス成分については、ガス成分の濃度と検知信号強度との相関関係を一次関数で表わされるようにガス検知器を校正しておいて、他のガス成分については、ガス成分の濃度と検知信号強度との相関関係を、その相関関係を表すのに適した関数で近似するのが好ましい。他のガス成分について、ガス成分の濃度と検知信号強度との相関関係を、その相関関係を表すのに適した関数で近似することにより、ガス成分の濃度をより精度よく求めることができる。
【0042】
ガス成分の濃度と検知信号強度との相関関係を表すのに適した関数は、特に限定されることはなく、ガス検知器により予め純ガス成分について得られた測定データから近似的に求めることができ、たとえば1次関数や、2次関数などの高次関数などを用いることができる。たとえば、複数のガス成分のうち少なくとも1つのガス成分に対するガス検知センサの検知感度について、ガス成分の濃度とガス検知センサの検知信号強度との相関関係が、ガス成分の濃度の2次関数で近似されてもよい。複数のガス成分のうちすべてについて1次関数で近似するのではなく、少なくとも1つのガス成分について2次関数で近似することにより、ガス成分の濃度をより精度よく求めることができる。たとえば、本実施形態のようにガス検知センサとして半導体式センサを用いるような場合には、
図2(a)に示されるように、ガス成分の濃度と生の検知信号強度との相関関係は2次関数で近似することができない。たとえばトルエンなどの基準ガスについて、ガス成分の濃度と検知信号強度との間の相関関係に線形性が得られるようにガス検知器の校正を行なうことで、
図2(b)に示されるように、基準ガス以外の他のガス成分についてガス成分の濃度と検知信号強度との間の相関関係を2次関数で近似可能となる。したがって、任意に選択した基準ガスの濃度と検知信号強度との間の相関関係に線形性が得られるようにガス検知器の校正をしたうえで、その他のガス成分の濃度と検知信号強度との相関関係を2次関数で近似することが好ましい。
【0043】
ガス成分の濃度と検知信号強度との相関関係を表す関数として2次関数を採用することで以下のような利点もある。ガス成分の濃度とガス検知センサの検知信号強度との相関関係を2次関数で近似する場合、
図2(b)に示されるように、2次関数曲線は原点(0、0)を通るので、2次関数の0次係数はゼロとなり、2次関数を決定するのに必要な変数は1次係数および2次係数の2つである。この2つの係数は、ガス検知センサにより濃度の異なる複数の同じガス成分を検知したときに得られる複数の測定データから近似的に求めることができる。ところが、検知感度は、同じ種類のガス検知センサであっても、出荷品の固体差や経時によって変化するため、出荷品の固体差や経時に応じて補正する必要がある。このとき、検知感度が変化する前の2次関数の2次係数を固定値として扱うことにより、検知感度が変化したとしても、検知感度が変化したガス検知センサにより1つの既知濃度のガス成分を検知することにより得られる測定点P(
図2(c)参照)のデータのみから、2次関数を補正することができる。より具体的には、固定値とした2次関数の2次係数と、検知感度が変化したガス検知センサにより得られる1点の測定点Pのガス成分の濃度C1および検知信号強度I1とから、検知感度が変化した後の2次関数の1次係数を求めることができるので、それによって2次関数を補正することができる。この方法によれば、同じ種類のガス検知センサの出荷品の固体差や経時によって検知感度が変化した場合であっても、1点の測定点Pを測定するだけで校正曲線の補正を行なうことができる。
【0044】
本実施形態では、第2演算部5において、まず、複数のガス成分のそれぞれに対する検知感度と、環境雰囲気内における複数のガス成分のそれぞれの混合比とから、複数のガス成分のすべてにより構成される混合ガスの検知感度が算出される。つぎに、その混合ガスの検知感度と、ガス検知センサ2の単一の検知信号強度とから、環境雰囲気中の混合ガスの濃度が算出される。最後に、その環境雰囲気中の混合ガスの濃度と、複数のガス成分のそれぞれの混合比とから、複数のガス成分のそれぞれのガス濃度が算出される。
【0045】
第2演算部5は、複数のガス成分のそれぞれに対するガス検知センサ2の検知感度と、第1演算部4によって推定された複数のガス成分の混合比と、ガス検知センサ2から出力された単一の検知信号とから、複数のガス成分のそれぞれの濃度を算出することができれば、特に限定されることはなく、たとえば第1演算部4と同様に公知の中央処理装置(CPU)などを用いて構成することができる。また、第1演算部4および第2演算部5は、本実施形態ではガス検知器1にそれぞれ別に設けられているが、1つの演算部として設けられてもよい。
【0046】
なお、複数のガス成分のそれぞれに対する検知感度は、環境雰囲気の温度および/または湿度に応じて変化し得る。したがって、複数のガス成分のそれぞれに対する検知感度を、環境雰囲気の温度および/または湿度に応じて補正してもよい。それによって、複数のガス成分のそれぞれの検知感度をより精度よく求めることができ、各ガス成分の濃度をより精度よく算出することができる。その目的のために、ガス検知器1は、環境雰囲気の温度および/または湿度を測定するセンサ(図示せず)と、測定された温度および/または湿度に応じて、複数のガス成分のそれぞれに対するガス検知センサ2の検知感度を補正する第3演算部(図示せず)とをさらに含んでもよい。たとえば、第3演算部は、あらかじめ測定された検知感度から導き出される実験式または経験式を用いて、温湿度センサにより測定された温度および/または湿度に対応した検知感度を算出することによって、検知感度を補正してもよい。補正された検知感度は、直接第2演算部5に送信されてもよいし、一旦記憶部3に送信されて、記憶されてもよい。なお、第3演算部は、他の演算部4、5と別に設けられていてもよいし、他の演算部4、5と一体として設けられていてもよい。
【0047】
以上に示したように、本実施形態のガス検知器1は、環境雰囲気内の複数のガス成分に対して、単一のガス検知センサ2によって単一の検知信号を出力し、その単一の検知信号から複数のガス成分のそれぞれの濃度を算出する。ガス検知器1は、ガス成分の種類の数に応じて、複数のガス検知センサを用いて複数の検知信号を出力する必要もなく、また、複数のガス成分をあらかじめ分離する必要もない。したがって、本実施形態のガス検知器1によれば、環境雰囲気中の複数のガス成分の濃度を迅速かつ簡便に低コストで推定することができる。
【0048】
つぎに、本実施形態のガス検知方法について説明する。以下においては、上述したガス検知器1を用いて複数のガス成分のそれぞれの濃度を推定する例をもとに、本実施形態のガス検知方法を説明する。しかし、本発明のガス検知方法は、以下の例に限定されることはなく、上述したガス検知器1以外の装置を用いても実施することができる。また、以下においては、本実施形態のガス検知方法に含まれる複数のステップを順に説明するが、複数のステップを実施する順は、以下の説明の順と同じであってもよいし、以下の説明の順と異なっていてもよい。
【0049】
<ガス検知方法>
本実施形態のガス検知方法は、既知濃度の溶液成分が複数含まれる混合溶液が取り扱われる環境雰囲気において、複数のガス成分を同時に検知可能な単一のガス検知センサを用いて、混合溶液に含まれる複数の溶液成分から揮発する複数のガス成分のそれぞれの濃度を推定する方法である。
【0050】
本実施形態のガス検知方法は、混合溶液に含まれる複数の溶液成分のそれぞれの濃度を提供するステップを含んでいる。上述したガス検知器1を用いた本実施形態では、複数の溶液成分のそれぞれの濃度は、記憶部3に提供され、記憶部3から第1演算部4に提供される。複数の溶液成分のそれぞれの濃度は、あらかじめ測定された濃度が公知の入力手段によって入力されて記憶部3に提供されてもよいし、公知の分析手段によって測定された濃度が記憶部3に提供されてもよい。ただし、複数の溶液成分のそれぞれの濃度は、後述するステップを実施するために提供されれば、特に本実施形態に限定されることはなく、たとえば記憶部3を介さずに第1演算部4に直接提供されてもよいし、ガス検知器1以外の装置の演算部に提供されてもよい。
【0051】
本実施形態のガス検知方法はまた、提供された複数の溶液成分のそれぞれの濃度に基づいて、環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を推定するステップを含んでいる。上述したガス検知器1を用いた本実施形態では、第1演算部4を用いて、提供された複数の溶液成分のそれぞれの濃度に基づいて、環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を推定する。本実施形態では、第1演算部4を用いて、複数の溶液成分のそれぞれの濃度と、複数の溶液成分のそれぞれの純液体状態の蒸気圧とから、混合溶液状態での複数の溶液成分のそれぞれの蒸気圧を求めることによって、環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を算出する。より具体的には、環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を推定するステップが、提供された複数の溶液成分のそれぞれの濃度から、ラウールの法則を利用して、環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を算出することを含んでいる。ラウールの法則によれば、混合溶液の各溶液成分の蒸気圧は、上述の数式1に示されるように、混合溶液中の各溶液成分の濃度(モル分率)x
iと、各溶液成分の純液体状態での蒸気圧P
i0との積で表される。混合溶液中の各溶液成分の濃度は既知であるので、それぞれの純液体状態の蒸気圧から、混合溶液中での各溶液成分の蒸気圧を算出することができる。そして、混合溶液中の各溶液成分の蒸気圧の比は、環境雰囲気中における各ガス成分の混合比に対応するので、混合溶液中の各溶液成分の蒸気圧の比を求めることで、環境雰囲気中における各ガス成分の混合比を算出することができる。
【0052】
ここで、混合溶液中の溶液成分の蒸気圧は、環境雰囲気の温度に応じても変化し得る。したがって、環境雰囲気中のガス成分の混合比を推定する場合には、環境雰囲気の温度を考慮することが好ましい。本実施形態のガス検知方法は、環境雰囲気の温度を測定するステップをさらに含んでおり、環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を推定するステップが、測定された環境雰囲気の温度に応じて実施される。上述したガス検知器1を用いた本実施形態では、温度センサ6を用いて、環境雰囲気の温度を測定し、第1演算部4によって、測定された環境雰囲気の温度に対応した、各溶液成分の純液体状態の蒸気圧を用いて、各溶液成分の混合溶液中での蒸気圧を算出する。各溶液成分の純液体状態の蒸気圧は、温度センサ6によって測定された温度と対応させて、あらかじめ実測された実験値を用いてもよいし、公知のアントワン式などの実験式または経験式から求めた値を用いてもよいし、公知のクラウジウス・クラペイロン式などの理論式から求めた値を用いてもよい。環境雰囲気の温度を考慮して環境雰囲気中のガス成分の混合比を推定することで、複数のガス成分の混合比をより精度よく推定することができる。ただし、環境雰囲気の温度は、環境雰囲気中に設けられた別の温度センサによって測定されてもよいし、あるいは、環境雰囲気が加熱も冷却もされずに室温がほぼ維持されている場合には、温度センサにより測定することなく、室温に近い特定の温度(たとえば25℃)と仮定してもよい。
【0053】
また、本実施形態のガス検知方法は、環境雰囲気の温度および/または湿度を測定するステップをさらに含んでもよく、環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を推定するステップが、測定された環境雰囲気の温度および/または湿度に応じて実施されてもよい。上述したガス検知器1を用いた本実施形態では、温度および/または湿度を測定するセンサ(図示せず)を用いて、環境雰囲気の温度および/または湿度を測定し、第1演算部4によって、測定された環境雰囲気の温度および/または湿度に対応した、各溶液成分の純液体状態の蒸気圧を用いて、各溶液成分の混合溶液中での蒸気圧を算出する。なお、上記センサが測定した温度および/または湿度情報は、温度センサ6が測定した温度情報と同様に、直接第1演算部4に通信されても、一旦記憶部3に記憶されてもよい。
【0054】
また、環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を推定するステップは、ラウールの法則に加えて、活量係数を用いて、混合溶液中の各溶液成分の蒸気圧を算出して、環境雰囲気中の複数のガス成分のそれぞれの混合比を算出することを含んでいてもよい。混合溶液が、ラウールの法則が成立する理想溶液(たとえば希薄溶液)に近い場合には、上述したラウールの法則を用いた算出方法が好適に採用されるが、混合溶液が、ラウールの法則が成立しない非理想溶液である場合には、ラウールの法則と活量係数とを組み合わせた方法が好適に採用される。後者の場合、上述の数式2に示されるように、混合溶液中の各溶液成分の蒸気圧は、各溶液成分の混合溶液中での活量係数γ
iと、混合溶液中の各溶液成分の濃度(モル分率)x
iと、各溶液成分の純液体状態での蒸気圧P
i0との積で表される。対象とする混合溶液を、ラウールの法則が成立する理想溶液として取り扱うか、またはラウールの法則が成立しない非理想溶液として取り扱うかは、実験的および/または理論的な検討によって、混合溶液の種類に応じて適宜決定することができるが、たとえば、最終的に算出されるガス成分の濃度と他の手法で求められる濃度とを比較することによって、いずれが適しているかを決定することができる。
【0055】
環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を推定するステップは、複数のガス成分の混合比を推定することができれば、上述したラウールの法則を用いた方法やラウールの法則と活量係数とを組み合わせた方法を用いて推定することに限定されることはない。たとえば、あらかじめ、同じ混合溶液を同じ環境雰囲気に置いて、どのような混合比でガス成分が環境雰囲気中に導入されるかを調べておいて、その調べた結果を実際の環境雰囲気中のガス成分の混合比として推定してもよい。また、環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を推定するステップは、本実施形態では、ガス検知器1の第1演算部4によって実施されるが、他の装置の演算部によって実施されてもよい。
【0056】
本実施形態のガス検知方法はまた、ガス検知センサ2により複数のガス成分を検知して単一の検知信号を取得するステップを含んでいる。上述したガス検知器1を用いた本実施形態では、ガス検知センサ2が組み込まれた検知回路Dを用いて、環境雰囲気内に複数のガス成分が導入されることによって生じる検知回路Dにおける電位差の変化が単一の検知信号として取得される。ただし、単一の検知信号を取得するステップは、ガス検知センサにより複数のガス成分を検知して単一の検知信号を取得することができれば、本実施形態に限定されることはなく、他の回路に組み込まれたガス検知センサを用いて、あるいは単体としてガス検知センサを用いて、単一の検知信号を取得してもよい。
【0057】
本実施形態のガス検知方法はまた、複数のガス成分のそれぞれに対するガス検知センサ2の検知感度と、推定された複数のガス成分の混合比と、ガス検知センサ2により取得された単一の検知信号とから、複数のガス成分のそれぞれの濃度を算出するステップを含んでいる。上述したガス検知器1を用いた本実施形態では、第2演算部5を用いて、複数のガス成分のそれぞれの濃度を算出する。本実施形態では、第2演算部5を用いて、まず、複数のガス成分のそれぞれに対する検知感度と、環境雰囲気内における複数のガス成分のそれぞれの混合比とから、複数のガス成分のすべてにより構成される混合ガスの検知感度を算出する。つぎに、その混合ガスの検知感度と、ガス検知センサ2の単一の検知信号強度とから、環境雰囲気中の混合ガスの成分濃度を算出する。最後に、その環境雰囲気中の混合ガスの濃度と、複数のガス成分のそれぞれの混合比とから、複数のガス成分のそれぞれのガス濃度を算出する。
【0058】
複数のガス成分のそれぞれの濃度を算出するステップは、本実施形態ではガス検知器1の第2演算部5によって実施されるが、他の装置の演算部によって実施されてもよい。
【0059】
本実施形態のガス検知方法はまた、環境雰囲気の温度および/または湿度を測定し、測定された温度および/または湿度に応じて、複数のガス成分のそれぞれに対するガス検知センサ2の検知感度を補正するステップをさらに含んでいてもよい。上述したガス検知器1を用いた本実施形態では、温度および/または湿度を測定するセンサ(図示せず)を用いて、環境雰囲気の温度および/または湿度を測定し、第3演算部によって、測定された環境雰囲気の温度および/または湿度に応じて、複数のガス成分のそれぞれに対するガス検知センサ2の検知感度を補正する。補正された検知感度は、上述した複数のガス成分のそれぞれの濃度を算出するステップにおいて用いることができる。本実施形態では、第3演算部を用いて、たとえば、あらかじめ測定された検知感度から導き出される実験式または経験式を用いて、上記センサにより測定された温度および/または湿度に対応した検知感度を算出することによって、検知感度を補正する。
【0060】
本実施形態のガス検知方法は、環境雰囲気の圧力を測定し、測定された圧力に応じて、環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を推定するステップ、および/または複数のガス成分のそれぞれに対するガス検知センサ2の検知感度を補正するステップをさらに含んでいてもよい。その目的のために、上述したガス検知器1は、環境雰囲気の圧力を測定するための圧力センサ(図示せず)を備えていてもよい。本実施形態では、第3演算部によって、圧力センサにより得られた環境雰囲気の圧力に応じて、環境雰囲気中の複数のガス成分の混合比を推定し、および/または複数のガス成分のそれぞれに対するガス検知センサ2の検知感度を補正する。
【0061】
以上に示したように、本実施形態のガス検知方法は、環境雰囲気内の複数のガス成分に対して、単一のガス検知センサによって単一の検知信号を取得し、その単一の検知信号から複数のガス成分のそれぞれの濃度を算出する。ガス検知方法は、ガス成分の種類の数に応じて、複数のガス検知センサを用いて複数の検知信号を取得する必要もなく、また、複数のガス成分をあらかじめ分離する必要もない。したがって、本実施形態のガス検知方法によれば、環境雰囲気中の複数のガス成分の濃度を迅速かつ簡便に低コストで推定することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例をもとに本発明のガス検知器およびガス検知方法の優れた効果を説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
<実施例1>
(1)検知センサ
ガス検知器の検知センサとして、公知の熱線型半導体式センサを用いた。検知センサの検知信号を取得するために、熱線型半導体式センサが組み込まれた新コスモス電機(株)製XP−3120−Vを用いた。前記機器に対して、予め求められた検知感度(相対検知感度)は、酢酸エチル:15.6、トルエン:1、m−キシレン:3.5、ベンゼン:0.33、イソプロピルアルコール(IPA):13.76であった。
(2)混合溶液
(2−1)混合溶液1
20℃の環境で、酢酸エチル0.3g、トルエン3.0g、m−キシレン6.7gを撹拌して混合溶液1を得た。
(2−2)混合溶液2
22℃の環境で、酢酸エチル1.0g、トルエン1.0g、m−キシレン2.0gを撹拌して混合溶液2を得た。
(2−3)混合溶液3
20℃の環境で、ベンゼン2.0g、IPA3.0gを攪拌して混合溶液3を得た。
(3)測定用サンプル
(3−1)測定用サンプル1
20℃の環境で、純空気(住友精化(株)製;合成空気AIR−Zero−A)で充填した1LのPET製サンプリングバッグ(近江オドエアーサービス(株)製、Flek−Sampler(登録商標))に混合溶液1を3mL加えて、2時間以上放置した。その後、得られた飽和蒸気のうち70mLを21.195Lチャンバで希釈して、20分間放置して測定用サンプル1を得た。チャンバ内は、20℃、60%RHであった。
(3−2)測定用サンプル2
22℃の環境で、純空気(住友精化(株)製;合成空気AIR−Zero−A)で充填した1LのPET製サンプリングバッグ(近江オドエアーサービス(株)製、Flek−Sampler(登録商標))に混合溶液
2を3mL加えて、2時間以上放置した。その後、得られた飽和蒸気のうち30mLを21.195Lチャンバで希釈して、20分間放置して測定用サンプル2を得た。チャンバ内は、22℃、63%RHであった。
(3−3)測定用サンプル3
20℃の環境で、清浄空気1Lで充填した2LのPVF製サンプリングバッグ(近江オドエアーサービス(株)製、テドラーバッグ(登録商標))に混合溶液3を3mL加えて、2時間以上放置した。その後、得られた飽和蒸気のうち10mLを21.195Lチャンバで希釈して、20分放置して測定用サンプル3を得た。チャンバ内は、20℃、60%RHであった。
(4)ガス成分の混合比の推定方法
ガス成分の混合比を推定するために、混合溶液1、混合溶液2および混合溶液3をそれぞれ、理想溶液および非理想溶液と仮定して、上述した数式1および数式2を用いて混合溶液中の溶液成分の蒸気圧を算出した。溶液成分の純液体状態の蒸気圧は、公知のアントワン式を用いて算出した。また、混合溶液中の溶液成分の活量係数は、公知のWilson式を用いて算出した。
(5)ガス成分の濃度の算出方法
上述した方法で、複数のガス成分のそれぞれに対するガス検知センサの検知感度と、複数のガス成分の混合比と、ガス検知センサから出力された単一の検知信号とから、複数のガス成分のそれぞれの濃度を算出した。
(6)ガス成分の濃度の理論値の算出方法
上記(4)に従って、各成分の混合比から計算される混合溶液
の蒸気圧の成分分圧を理想溶液の場合と非理想溶液の場合について算出して、その各成分の分圧に、上記(3)における希釈倍率を掛けることにより得られる理想溶液と非理想溶液の各成分の濃度を理論値とした。
【0064】
<実施例2>
(1)検知センサ
上述した実施例1と同じガス検知センサを使用した。機器における検知感度(相対検知感度)については、ガス成分の濃度とガス検知センサの検知信号強度との関係を、ガス成分の濃度の2次関数で近似して、測定用サンプル4については、アセトン:30.89、IPA:24.05とし、測定用サンプル5については、アセトン:26.20、ベンゼン:0.29、IPA:20.65とした。
(2)混合溶液
(2−4)混合溶液4
20℃の環境で、アセトン7.5g、IPA42.5gを撹拌して混合溶液4を得た。
(2−5)混合溶液5
20℃の環境で、アセトン2.5g、ベンゼン45.0g、IPA2.5gを撹拌して混合溶液5を得た。
(3)測定用サンプル
(3−4)測定用サンプル4
20℃の環境で、ホウケイ酸ガラス製のU字管(15φ、U字管高さ130mm)に混合溶液4を15mL加えて、そのヘッドスペースの高さ35mmの空間にある混合溶液4の飽和蒸気をサンプルとした。このサンプルのうち3mLを採取して、湿度60〜65%RHに調整された空気で1/20に希釈して測定用サンプル4を得た。
(3−5)測定用サンプル5
20℃の環境で、ホウケイ酸ガラス製のU字管(15φ、U字管高さ130mm)に混合溶液5を15mL加えて、そのヘッドスペースの高さ35mmの空間にある混合溶液5の飽和蒸気をサンプルとした。このサンプルのうち3mLを採取して、湿度60〜65%RHに調整された空気で1/10に希釈して測定用サンプル5を得た。
(4)ガス成分の混合比の推定方法
上述した実施例1と同じ方法でガス成分の混合比を推定した。
(5)ガス成分の濃度の算出方法
上述した実施例1と同じ方法で複数のガス成分のそれぞれの濃度を算出した。
(6)ガス成分の濃度の理論値の算出方法
上述した実施例1と同じ方法でガス成分の濃度の理論値を算出した。
【0065】
測定用サンプル1および2について、混合溶液を理想溶液として仮定した場合の結果を表1に、混合溶液を非理想溶液として仮定した場合の結果を表2に示す。表1から、混合溶液を理想溶液と仮定した場合に、測定用サンプル1および2ともに、ガス成分の算出濃度と理論値とが比較的近い値を示していることが分かる。このことから、本実施形態によるガス検知器およびガス検知方法によれば、環境雰囲気中の複数のガス成分の濃度を迅速かつ簡便に低コストで推定することができることが分かる。一方、表2から、混合溶液を非理想溶液と仮定した場合には、混合溶液を理想溶液と仮定した場合と比べて、ガス成分の算出濃度と理論値とが少し離れた値を示していることが分かる。このことから、本実施例の混合溶液(酢酸エチル、トルエンおよびm−キシレンの混合溶液)を対象とする場合には、混合溶液を理想溶液として仮定する方が、非理想溶液と仮定するよりも、精度よくガス成分の濃度を算出することができることが分かる。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
測定用サンプル3について、混合溶液を理想溶液として仮定した場合の結果を表3に、混合溶液を非理想溶液として仮定した場合の結果を表4に示す。表4から、混合溶液を非理想溶液と仮定した場合に、ガス成分の算出濃度と理論値とが比較的近い値を示していることが分かる。このことから、本実施形態によるガス検知器およびガス検知方法によれば、環境雰囲気中の複数のガス成分の濃度を迅速かつ簡便に低コストで推定することができることが分かる。一方、表3から、混合溶液を理想溶液と仮定した場合には、混合溶液を非理想溶液と仮定した場合と比べて、ガス成分の算出濃度と理論値とが少し離れた値を示していることが分かる。このことから、本実施例の混合溶液(ベンゼンおよびIPAの混合溶液)を対象とする場合には、測定用サンプル1および2とは異なり、混合溶液を非理想溶液として仮定するほうが、理想溶液と仮定するよりも、精度よくガス成分の濃度を算出することができることが分かる。
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
測定用サンプル4について、混合溶液を理想溶液として仮定した場合の結果を表5に、混合溶液を非理想溶液として仮定した場合の結果を表6に示す。表6から、混合溶液を非理想溶液と仮定した場合に、ガス成分の算出濃度と理論値とが比較的近い値を示していることが分かる。このことから、本実施形態によるガス検知器およびガス検知方法によれば、環境雰囲気中の複数のガス成分の濃度を迅速かつ簡便に低コストで推定することができることが分かる。一方、表5から、混合溶液を理想溶液と仮定した場合には、混合溶液を非理想溶液と仮定した場合と比べて、ガス成分の算出濃度と理論値とが少し離れた値を示していることが分かる。このことから、本実施例の混合溶液(アセトンおよびIPAの混合溶液)を対象とする場合には、測定用サンプル1および2とは異なり、混合溶液を非理想溶液として仮定するほうが、理想溶液と仮定するよりも、精度よくガス成分の濃度を算出することができることが分かる。なお、別に行なったガスクロマトグラフによるガス成分のそれぞれの濃度測定の結果も、混合溶液を非理想溶液と仮定した理論値と近い値を示しており、この結果も、混合溶液を非理想溶液として仮定するほうが、本実施例のガス成分の濃度の算出に、より適していることを示唆している。また、本実施例では、検知感度に関して、ガス成分の濃度とガス検知センサの検知信号強度との関係をガス成分の濃度の2次関数で近似したが、1次関数で近似した場合のアセトンおよびIPAの算出濃度は、混合溶液を理想溶液と仮定した場合には、それぞれ13.26ppm、12.17ppmで、混合溶液を非理想溶液と仮定した場合には、それぞれ16.30ppm、8.03ppmであった。これらの結果は、表5および表6の結果と比べて、理論値から少し離れた値を示している。このことから、本実施例では、検知感度に関して、ガス成分の濃度とガス検知センサの検知信号強度との関係をガス成分の濃度の2次関数で近似した方が、ガス成分の濃度をより精度よく求めることができることが分かる。
【0072】
【表5】
【0073】
【表6】
【0074】
測定用サンプル5について、混合溶液を理想溶液として仮定した場合の結果を表7に、混合溶液を非理想溶液として仮定した場合の結果を表8に示す。表8から、混合溶液を非理想溶液と仮定した場合に、ガス成分の算出濃度と理論値とが比較的近い値を示していることが分かる。このことから、本実施形態によるガス検知器およびガス検知方法によれば、環境雰囲気中の複数のガス成分の濃度を迅速かつ簡便に低コストで推定することができることが分かる。一方、表7から、混合溶液を理想溶液と仮定した場合には、混合溶液を非理想溶液と仮定した場合と比べて、ガス成分の算出濃度と理論値とが少し離れた値を示していることが分かる。このことから、本実施例の混合溶液(アセトン、ベンゼンおよびIPAの混合溶液)を対象とする場合には、測定用サンプル1および2とは異なり、混合溶液を非理想溶液として仮定するほうが、理想溶液と仮定するよりも、精度よくガス成分の濃度を算出することができることが分かる。なお、別に行なったガスクロマトグラフによるガス成分のそれぞれの濃度測定の結果も、混合溶液を非理想溶液と仮定した理論値と近い値を示しており、この結果も、混合溶液を非理想溶液として仮定するほうが、本実施例のガス成分の濃度の算出に、より適していることを示唆している。また、本実施例では、検知感度に関して、ガス成分の濃度とガス検知センサの検知信号強度との関係をガス成分の濃度の2次関数で近似したが、1次関数で近似した場合のアセトン、ベンゼンおよびIPAの算出濃度は、混合溶液を理想溶液と仮定した場合には、それぞれ9.47ppm、55.51ppm、1.53ppmで、混合溶液を非理想溶液と仮定した場合には、それぞれ7.87ppm、35.66ppm、4.01ppmであった。これらの結果は、表7および表8の結果と比べて、理論値から少し離れた値を示している。このことから、本実施例では、検知感度に関して、ガス成分の濃度とガス検知センサの検知信号強度との関係をガス成分の濃度の2次関数で近似した方が、ガス成分の濃度をより精度よく求めることができることが分かる。
【0075】
【表7】
【0076】
【表8】
【0077】
ここで、
図3に、ベンゼンおよびIPAの二成分混合溶液の蒸気圧について、二成分混合溶液を理想溶液と仮定して、ラウールの法則のみを用いた算出方法によって算出した値と、二成分混合溶液を非理想溶液と仮定して、ラウールの法則と活量係数とを組み合わせた方法によって算出した値とを比較した結果を示す。このとき、活量係数の推算には、Wilson式を用いた。
図3から、ラウールの法則と活量係数とを組み合わせた方法による算出値の方が、ラウールの法則のみを用いた算出値よりも、実測値により近いことが分かる(実測値は、I. Brown, W. Fock and F. Smith, “Thermodynamic properties of alcohol solutions. II. Ethanol and isopropanol systems”, Aust. J. Chem., 9(3), 364-372(1956)より引用)。このことは、ベンゼンおよびIPAの二成分混合溶液の場合には、二成分混合溶液を非理想溶液として取り扱い、ラウールの法則と活量係数とを組み合わせた方法によって蒸気圧を算出する方が、より精度よく蒸気圧を算出することができることを示している。そして、このことは、上述した測定用サンプル3の結果とも整合する。また、ここでは活量係数の推算方法にWilson式を採用したが、Wilson式を採用しても、問題なく、より実測値に近い値が得られることが分かる。このように、混合溶液中の溶液成分のモル分率に対する混合溶液の蒸気圧の変化(蒸気圧曲線)を推算して、推算された蒸気圧曲線と実測値とを比較することで、採用する推算方法の妥当性を検証することができる。