【文献】
臼井明、宮崎豪,インバイロワンで剥離除去したPCB、鉛などの有害物質含有塗膜処理の動向−環境対応型塗膜剥離剤により剥離した塗膜処理の動向−,一般社団法人日本橋梁・鋼構造物塗装技術協会第17回技術発表大会予稿集,一般社団法人日本橋梁・鋼構造物塗装技術協会,2013年 5月19日,第1〜10頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、鉛及びPCBを含有する含有物から、前記PCBを効率よく無害化処理できると共に、鉛を高濃度に含む飛灰を効率よく分別処理することができる鉛及びPCB含有物の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 鉛及びPCBを含有する含有物を、焼却炉を有する処理装置により850℃以上で2秒間以上焼却して、前記PCBを無害化する焼却工程と、
前記焼却工程で発生した鉛を含む飛灰を分別する飛灰分別工程と、を少なくとも含むことを特徴とする鉛及びPCB含有物の処理方法である。
<2> 850℃以上1,000℃以下で2秒間以上5秒間以下焼却する前記<1>に記載の鉛及びPCB含有物の処理方法である。
<3> 前記飛灰中における前記鉛の含有量が、0.1質量%以上である前記<1>から<2>のいずれかに記載の鉛及びPCB含有物の処理方法である。
<4> 前記鉛及びPCBを含有する含有物が、鉛及びPCBを含有する塗膜の廃棄物である前記<1>から<3>のいずれかに記載の鉛及びPCB含有物の処理方法である。
<5> 前記鉛及びPCBを含有する塗膜が、重防食塗料を建造物に塗布した塗膜である前記<4>に記載の鉛及びPCB含有物の処理方法である。
<6> 前記焼却炉が、流動床式焼却炉である前記<1>から<5>のいずれかに記載の鉛及びPCB含有物の処理方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、鉛及びPCBを含有する含有物から、前記PCBを効率よく無害化処理できると共に、鉛を高濃度に含む飛灰を効率よく分別処理することができる鉛及びPCB含有物の処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(鉛及びPCB含有物の処理方法)
本発明の鉛及びPCB含有物の処理方法は、焼却工程と、飛灰分別工程とを含み、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
前記鉛及びPCB含有物の処理方法によれば、鉛及びPCBを含有する含有物から、PCBを効率よく無害化処理できると共に、鉛を高濃度に含む飛灰を効率よく分別処理することができ、前記飛灰中の前記鉛は後述する鉛回収工程で回収することができる。
【0010】
<焼却工程>
前記焼却工程は、前記鉛及びPCBを含有する含有物を、焼却炉を有する処理装置により850℃以上で2秒間以上焼却して、前記PCBを無害化する工程である。
【0011】
−鉛及びPCB含有物−
前記鉛及びPCB含有物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、鉛及びPCBを含有する塗膜等の廃棄物などが挙げられる。前記鉛及びPCBを含有する塗膜の廃棄物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、防錆機能を有する前記鉛を含有した、鉛及びPCBを含有する重防食塗料を建造物に塗布した塗膜などが挙げられる。前記建造物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、橋梁などが挙げられる。
前記鉛及びPCBを含有する塗膜における前記鉛の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1質量%〜50質量%が好ましい。
本発明の鉛及びPCB含有物の処理方法で処理される前記鉛及びPCBを含有する含有物における前記PCB濃度は、5,000mg/kg以下であることが好ましい。
前記鉛及びPCB含有物が飛散するおそれがある場合、密閉容器に収容後に密封してから、本発明の前記鉛及びPCB含有物の処理方法を行うことが好ましい。前記密閉容器としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ペール缶、メディカルペール、コンテナボックス、蓋付きのバケツ、ダンボール箱などが挙げられる。
【0012】
前記鉛及びPCB含有物を焼却する温度は、850℃以上であり、850℃以上1,000℃以下が好ましく、860℃以上920℃以下がより好ましい。また、前記鉛及びPCB含有物を焼却する時間としては、2秒間以上であり、2秒間以上5秒間以下が好ましく、3秒間以上5秒間以下がより好ましい。前記焼却が850℃未満で2秒間未満であると、前記PCBが無害化できないことがある。
ここで、前記PCBの無害化とは、燃え殻、飛灰、中和灰においては、前記PCBの溶出濃度が0.003mg/L以下であることを意味する。
排ガスにおいては、前記排ガス中に含まれる前記PCBの量は、いかなる場合においても0.25mg/m
3(液状のPCB等の焼却施設にあっては0.15mg/m
3)を超えないこと、排ガス中に含まれる前記PCBの量は、平均して0.15mg/m
3(液状のPCB等の焼却施設にあっては0.10mg/m
3)を超えないことを意味する。
前記燃え殻、前記飛灰、及び前記中和灰におけるPCBの無害化されたことの検証方法としては、「産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法(昭和48年2月17日環境庁告示第13号)」により行うことができる。
また、前記排ガスにおけるPCBの無害化されたことの検証方法としては、「PCB等を焼却処分する場合における排ガス中のPCBの暫定排出許容限界について(昭和47年12月22日環大企第141号)」により行うことができる。
【0013】
−処理装置−
前記処理装置は、前記焼却炉、及び集塵機を有し、更に必要に応じて、その他の設備を有してなる。
【0014】
前記焼却炉としては、前記焼却工程を行うことができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、流動床式焼却炉、固定炉、連続炉、ロータリーキルン式焼却炉等が挙げられる。これらの中でも、処理が簡易となる点から、前記流動床式焼却炉が好ましい。
なお、前記焼却炉が後述する二次燃焼室を含み、PCBが無害化されたガス(排ガス)を更に燃焼する排ガス燃焼工程を同時に行う場合は、前記焼却炉のいずれかの場所において850℃以上で、前記排ガスを燃焼することが好ましい。
【0015】
前記流動床式焼却炉としては、特に制限はなく、処理物のサイズ、及び形状に応じて、炉の形状、炉内容積を適宜選択することができ、例えば、押込送風機、スクリーンコンベアなどを有するものが挙げられる。
【0016】
前記集塵機としては、前記飛灰分別工程を行うことができるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィルタ、灰コンベア、灰バンカなどを有するものが挙げられる。前記フィルタの目の粗さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記鉛を含む前記飛灰を効率よく補足することができる目の粗さが好ましい。前記フィルタの密度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、織布のフィルタの場合は、48±2(本/25mm)×40±2(本/25mm)である密度などが挙げられる。また、前記集塵機で処理される前に、珪藻土、前記飛灰などを中和する消石灰などの助剤を加えてもよい。
ここで、前記飛灰とは、焼却灰のうちの焼却廃ガス中に浮遊するものをいい、すす、灰など、燃焼廃ガス中に含まれる固体の粒子状物質で、集塵灰及びボイラ、ガス冷却室(減温塔)、再燃焼室などで捕集された煤塵の総称のことをいい、本実施形態では、特に前記集塵機で回収するものをいう。
前記飛灰中における前記鉛の含有量としては、0.1質量%以上であり、0.3質量%以上5質量%以下が好ましく、0.5質量%以上3質量%以下がより好ましい。前記鉛の含有量が0.1質量%未満であると、前記飛灰からの前記鉛の回収を効率良く行うことができないことがある。
前記集塵機は、別の物質を分別するために複数有していてもよく、例えば、前記飛灰以外の煤塵を中和するために、重曹、及び活性炭などを加えて、別の目の粗さのフィルタにより中和灰として分別する別の集塵機などが挙げられる。
【0017】
前記二次燃焼室としては、前記焼却炉で発生した前記排ガスを更に燃焼する場合に、前記排ガスを更に燃焼する(排ガス燃焼工程)ものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記蒸気ボイラとしては、前記焼却炉において焼却されて前記PCBが無害化されたガスを、前記減温塔に移動させるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、更に必要に応じて、燃え殻を回収する灰コンベア、及び灰バンカ等の装置、並びに蒸気エネルギーを回収する機能を有していてもよい。
前記減温塔としては、前記集塵機に流入する前記PCBが無害化されたガスを、200℃以下に冷却することにより、ダイオキシン類等が生成されることを防止することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、更に必要に応じて、燃え殻を回収する、灰コンベア、灰バンカなどを有していてもよい。
前記PCBが無害化されたガスを冷却する手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水噴射方式、間接冷却方式などが挙げられる。
【0018】
<飛灰分別工程>
前記飛灰分別工程としては、前記焼却工程で発生した前記鉛を含む前記飛灰を分別する工程である。前記鉛は、前記焼却工程において、焼却されて前記PCBが無害化されたガスなどのうち、少なくとも前記飛灰に含まれている。
前記飛灰を分別するための手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記集塵機などが挙げられる。分別された前記鉛を含む前記飛灰は、別の処理装置で、鉛だけを回収することができる(鉛回収工程)。
【0019】
なお、理由は定かではないが、前記PCBを無害化するために前記焼却を行うときに、前記鉛が、塩化揮発反応(塩化揮発法)などにより前記飛灰に濃縮されると考えられ、前記飛灰が、前記PCBが焼却されて前記無害化されたガスとともに、前記蒸気ボイラを介して、前記減温塔に送られる。
ここで、塩化揮発反応(塩化揮発法)とは、鉱物を塩化すると、揮発しやすくなる性質を利用したものである。
したがって、前記鉛及びPCB含有物が、重防食塗料として塩化ゴム系塗料を塗布してなる塗膜の廃棄物であるときは、前記焼却工程によって、前記塩化揮発反応が起こり、前記鉛が前記飛灰に濃縮される。前記鉛及びPCB含有物が、塩化ゴム系の塗料でないときは、例えば、別に塩化ビニル樹脂を含む廃棄物や塩化カルシウムなどの塩化物を投入し、前記鉛及びPCB含有物と一緒に前記焼却工程を行うことにより、前記塩化揮発反応を起こすことができる。
【0020】
本発明によれば、前記鉛が前記飛灰に高濃度に濃縮されることにより、効率よく鉛を回収することができるという有利な効果がある。
【0021】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、排ガス燃焼工程、鉛回収工程などが挙げられる。
前記排ガス燃焼工程としては、前記焼却工程で発生した前記排ガスを燃焼する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記二次燃焼室などによって、排ガスを燃焼させる工程などが挙げられる。
前記鉛回収工程としては、前記飛灰分別工程で得た前記飛灰から、前記鉛を回収する工程であれば、前記鉛を回収する手段などに特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0022】
次に、図面を用いて本発明の鉛及びPCB含有物の処理方法を詳細に説明する。
図1は、本発明の鉛及びPCB含有物の処理方法に用いる処理装置の一例を示す概略図である。
図1の処理装置1は、前記焼却炉に流動床式焼却炉10を採用している。また、第1の集塵機42で前記飛灰を分別し、第2の集塵機44で前記中和灰を分別する構成である。
図1に示すとおり、鉛及びPCB含有物の処理方法は、まず、鉛及びPCB含有物2を流動床式焼却炉10に投入する。このとき、鉛及びPCB含有物2をそのまま投入してもよいが、予め前記密閉容器などに収容して密閉した上で投入することが好ましい。
流動床式焼却炉10の内部は、蒸気ボイラ20に至るまでの経路のうち少なくとも一部が850℃以上に設定され、更に滞留時間が2秒間以上に設定されており、投入された鉛及びPCB含有物2が含む前記PCBは、850℃以上、滞留時間が2秒間以上で焼却されるため分解され無害化する(焼却工程)。それとともに、鉛は、前記塩化揮発反応などにより前記飛灰に濃縮され、前記飛灰が、前記PCBが無害化されたガスとともに、蒸気ボイラ20を介して、減温塔30に送られる。このとき、蒸気ボイラ20と、減温塔30において、燃え殻が回収される。また、蒸気ボイラ20において、蒸気エネルギー(熱エネルギー)を回収して、別に利用してもよい。無害化された前記ガスに含まれる煤塵、及び前記飛灰は、減温塔30において、200℃以下に冷却されて第1の集塵機42に送られる。第1の集塵機42に送られるときに、予め珪藻土、消石灰などの助剤を加えてもよい。第1の集塵機42では、フィルタ等により、鉛を含む前記飛灰が分別される(飛灰分別工程)。分別されなかった前記煤塵は、さらに重曹、及び活性炭等を加えて中和され、第2の集塵機44で前記中和灰として分別される。その後、前記燃え殻、前記飛灰、及び前記煤塵が除去されて、無害化された前記ガスは、誘引ファン50、及び煙突60などを介して外気に放出される。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)
鉛及びPCBを含有する重防食塗料を塗布してなる塗膜を橋梁から剥がした塗膜くず502kgを、複数のペール缶に収容して密閉した上で、
図1に示す鉛及びPCB含有物の処理装置を用いて、内部温度が880℃、前記及びPCB含有物の滞留時間が3秒間となるようにした流動床焼却炉に、略70kg/hで7時間投入して処理を行った。なお、同時にシュレッダーダスト19,900kgも流動床焼却炉に、コンベアで略2,843kg/hで7時間投入して処理を行った。前記シュレッダーダストは、廃棄された自動車等から鉄を始めとする金属資源を回収した後の残渣物をいい、廃プラスチック類、紙くず、木くず、繊維屑、ガラス、ゴム、金属などの廃棄物を含む混合物のことである。
前記塗膜くずのPCB及び鉛の含有分析結果を表1に示し、シュレッダーダストのPCB及び鉛の含有分析結果を表2に示した。
前記塗膜くず、及びシュレッダーダストの含有分析結果は、鉛については、特別管理一般廃棄物及び特別管理産業廃棄物に係る基準の検定方法(平成4年7月3日厚告192号別表第1に準拠)、及びJIS−K0102「工場排水試験方法(ICP質量分析法)」により測定した。PCBについては、「特別管理一般廃棄物及び特別管理産業廃棄物に係る基準の検定方法」別表第三の第三又は第四に準拠した方法によって測定した。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
前記焼却工程後の流動砂、燃え殻、飛灰、及び中和灰の溶出試験結果を表3に示す。
鉛の前記溶出試験結果については、産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法(昭和48年2月17日環告13号)、及びJIS−K0102 工場排水試験方法(ICP質量分析)により測定した。
PCBの前記溶出試験結果については、産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法(昭和48年2月17日環告13号)、及びJIS−K0093工業用水・工場排水中のポリクロロビフェニル試験方法により測定した。
【0028】
【表3】
【0029】
表3に示すとおり、前記流動砂、燃え殻、飛灰及び中和灰のPCBは、基準値(0.003mg/L)を下回っており、無害化されたことがわかる。また、燃え殻のPb溶出値は埋立基準(0.3mg/L以下)を下回っており、Pb不溶化のための薬剤などの添加を必要としないことがわかる。
【0030】
次に、減温塔で冷却され、助剤であるタクロン(三井金属鉱業株式会社製)が添加された飛灰を、密度48(本/25mm)×40(本/25mm)であるガラス2重織布PTFEメンブレン(泉株式会社製)のフィルタを有する第1の集塵機で分別した。
投入したときのシュレッダーダスト、及び塗膜くずの鉛の含有量と、流動砂、燃え殻、第1の集塵機で分別された飛灰並びに第2の集塵機で分別された中和灰での鉛の含有量を表4に示す。
物量[kg]は、各原料、及び産出物の重量をトラックスケール(大和製衡株式会社製)により測定した。
Pb濃度[%]は、各原料、及び産出物を塩酸、硝酸及びフッ化水素酸からなる混酸に投入後に混ぜて、鉛を抽出し、ろ過、希釈操作を経てICP−AESにより測定した質量基準の割合(質量%)である。
Pb量[kg]は、各産出物の発生重量にそれぞれの鉛含有濃度を掛け合わせることにより算出した。
【0031】
【表4】
なお、表4において、燃焼後のガス(可燃分)の数値については、Pbの定量下限以下(<0.02mg/Nm
3)であったため記載を省略している。前記燃焼後のガスの分析方法としては、JIS K0083:2006「排ガス中の金属分析方法」、及びJIS K102:2013 54.4(52.5)「工場排水試験方法(ICP質量分析法)」により測定した。
【0032】
表4に示すとおり、投入した塗膜くず(鉛及びPCB含有物)を含む廃棄物由来の鉛の60質量%以上が飛灰に濃縮されたことがわかる。その結果、前記鉛を多く含む飛灰を効率よく分別することができることがわかる。