(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6630115
(24)【登録日】2019年12月13日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】摘出手術後の体重減少を軽減するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 33/00 20060101AFI20200106BHJP
A61P 41/00 20060101ALI20200106BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20200106BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20200106BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P41/00
A61P3/00
A61P43/00 101
【請求項の数】13
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-213481(P2015-213481)
(22)【出願日】2015年10月29日
(65)【公開番号】特開2017-81862(P2017-81862A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】000231235
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【弁理士】
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】佐野元昭
(72)【発明者】
【氏名】小林 英司
(72)【発明者】
【氏名】多村 知剛
(72)【発明者】
【氏名】竹内 弘次
【審査官】
名和 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/165345(WO,A1)
【文献】
Cancer Chemother.Pharmacol.,2009,64(4),p.753-761
【文献】
Pharmacol.Ther.,2014,144(1),p.1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスを含む気体状医薬組成物であって、
器官または組織の摘出による体重減少を軽減するための、
医薬組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の医薬組成物であって、
酸素ガスをさらに含むことを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組成物であって、
不活性ガスをさらに含むことを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、
前記水素ガスの濃度が、1〜4%(v/v)である
ことを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項5】
請求項2または3のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、
前記水素ガスの濃度が、1〜4%(v/v)であり、
前記酸素ガス濃度が21〜99%(v/v)である
ことを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、
1日あたり0.5〜24時間投与される
ことを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、
手術日後少なくとも1日以上投与される
ことを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、
手術前、および/または、手術中において投与される
ことを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、
前記「器官または組織の摘出」が癌、腫瘍、胆石、挫滅した組織の摘出;肺感染症による肺切除;弁置換、弁形成、大血管置換術、慢性肺血栓塞栓症に対する血栓内膜剥皮術;脳内血腫の除去;大腿骨頭置換術;またはドナーからの臓器摘出に伴う
ことを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、
前記「器官または組織」が、循環器系:消化器系;呼吸器系;神経系;生殖器系;泌尿器;内分泌系;感覚器系;運動器系;乳房;または皮膚からなる群から選ばれる器官または組織の全部または一部である
ことを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、
前記「器官または組織」が、大血管、心臓、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、脾臓、胆嚢、膵臓、肝臓、気管、肺、脳、子宮、卵巣、腎臓、甲状腺、副甲状腺、下垂体、副腎、ランゲルハンス島、松果体、眼、耳、骨、筋肉、乳房、および皮膚からなる群から選ばれる器官または組織の全部または一部である
ことを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、
水素ガスを投与しない場合との比較において、器官または組織の摘出後の最大体重減少を、30%以上軽減することを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、
器官または組織の摘出による体重減少は、全体重の少なくとも10%または少なくとも15%の減少である、
医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスを含む医薬組成物、典型的には、器官または組織の摘出による体重減少を軽減するための気体状医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
手術侵襲は、医原性の外傷であり、様々な生体反応を引き起こすことが知られている。かかる生体反応は、手術後の患者の回復に大きく影響していると考えられる。手術侵襲の中でも、手術後の体重減少は、患者の予後に影響を与える重要な要素の1つである。例えば、がん患者など、器官または組織の摘出が伴う手術を受けた患者は、術後の炎症および発熱、術前または術後の身体的または精神的ストレス、食欲減衰など、様々な要因により、体重が急激に減少することが知られている。このような、手術後の体重減少は、患者にとって体力的および精神的に負担がかかるため、早期に回復させる薬剤が求められている。
【0003】
分子状水素は、これまでに、酸素ラジカルのスカベンジャーとして有用であること(非特許文献1)、およびそのようなフリーラジカルスカベンジャーとしての性質を利用して、虚血再灌流障害を治療することが報告されている(特許文献1、非特許文献2)。また、分子状水素には、抗炎症効果など、多面的な効果があることが報告されている。
【0004】
一方、分子状水素がどのように多面的な効果を発揮するか、その作用機序は未だに明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2007/021034
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】生化学,第77巻第8号(第78回 日本生化学会大会発表抄録集)1053頁 4P−355(2005年8月25日発行)
【非特許文献2】Ohsawa I et al.,Nat Med.2007 Jun;13(6):688−94.Epub 2007 May 7.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、器官または組織の摘出による体重減少を軽減するために有用な医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ラット5/6腎摘モデルの腎不全に対する分子状水素の影響を調査する過程で、意外にも、水素ガスを吸入させた場合に、腎摘後のラットの体重減少を顕著に軽減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明は、上記の知見に基づくものであり、以下の特徴を包含する。
[1]水素ガスを含む気体状医薬組成物であって、
器官または組織の摘出による体重減少を軽減するための、
医薬組成物。
[2][1]に記載の医薬組成物であって、
酸素ガスをさらに含むことを特徴とする、
医薬組成物。
[3][1]または[2]に記載の組成物であって、
不活性ガスをさらに含むことを特徴とする、
医薬組成物。
[4][1]〜[3]のいずれかに記載の医薬組成物であって、
前記水素ガスの濃度が、1〜4%(v/v)である
ことを特徴とする、
医薬組成物。
[5][2]または[3]のいずれかに記載の医薬組成物であって、
前記水素ガスの濃度が、1〜4%(v/v)であり、
前記酸素ガス濃度が21〜99%(v/v)である
ことを特徴とする、
医薬組成物。
[6][1]〜[5]のいずれかに記載の医薬組成物であって、
1日あたり0.5〜24時間投与される
ことを特徴とする、
医薬組成物。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の医薬組成物であって、
手術日後少なくとも1日以上投与される
ことを特徴とする、
医薬組成物。
[8][1]〜[7]のいずれかに記載の医薬組成物であって、
手術前、および/または、手術中において投与される
ことを特徴とする、
医薬組成物。
[9][1]〜[8]のいずれかに記載の医薬組成物であって、
前記「器官または組織の摘出」が癌、腫瘍、胆石、挫滅した組織の摘出;肺感染症による肺切除;弁置換、弁形成、大血管置換術、慢性肺血栓塞栓症に対する血栓内膜剥皮術;脳内血腫の除去;大腿骨頭置換術;またはドナーからの臓器摘出に伴う
ことを特徴とする、
医薬組成物。
[10][1]〜[9]のいずれかに記載の医薬組成物であって、
前記「器官または組織」が、循環器系:消化器系;呼吸器系;神経系;生殖器系;泌尿器;内分泌系;感覚器系;運動器系;乳房;または皮膚からなる群から選ばれる器官または組織の全部または一部である
ことを特徴とする、
医薬組成物。
[11][1]〜[9]のいずれかに記載の医薬組成物であって、
前記「器官または組織」が、大血管、心臓、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、脾臓、胆嚢、膵臓、肝臓、気管、肺、脳、子宮、卵巣、腎臓、甲状腺、副甲状腺、下垂体、副腎、ランゲルハンス島、松果体、眼、耳、骨、筋肉、乳房、および皮膚からなる群から選ばれる器官または組織の全部または一部である
ことを特徴とする、
医薬組成物。
[12][1]〜[11]のいずれかに記載の医薬組成物であって、
水素ガスを投与しない場合との比較において、器官または組織の摘出後の最大体重減少を、30%以上軽減することを特徴とする、
医薬組成物。
【0010】
上記に挙げた本発明の態様の一または複数を任意に組み合わせた発明も、本発明の範囲に含まれる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、器官または組織の摘出による体重減少を軽減するために有用な医薬組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、5/6腎摘モデルを用いたガス吸入試験における、水素群(5/6腎摘+H
2)と窒素群(5/6腎摘+N
2)の体重の継時変化を示す図である。図中。水素群および窒素群の体重推移は、いずれも3個体の平均値で示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
【0014】
本発明において、「器官または組織の摘出による体重減少」とは、器官または組織の摘出手術によって惹起される手術後の体重減少を指す。したがって、器官または組織の摘出行為自体、すなわち器官または組織の摘出部位に起因する重量の減少は、本発明における「器官または組織の摘出による体重減少」には該当しない。
【0015】
本発明の一実施形態において、器官または組織の摘出は、これに限定されるものではないが、手術後から一定の期間にわたって惹起される体重減少であって、全体重の少なくとも5%の減少、好ましくは全体重の少なくとも10%の減少、より好ましくは全体重の少なくとも15%の減少、より好ましくは全体重の少なくとも20%の減少を引き起こすものである。
【0016】
本発明の一実施形態において、「器官または組織の摘出」は、これに限定されるものではないが、悪性黒色腫、腎臓癌、前立腺癌、膀胱癌、乳癌、肺癌、膵臓癌、大腸癌、小腸癌、肝細胞癌、胆道癌、胃癌、卵巣癌、食道癌、十二指腸癌、皮膚癌、喉頭癌、咽頭癌、口腔内の癌などの固形がんの摘出;子宮筋腫、卵巣嚢腫、肺腫瘍、乳房腫瘍、結腸腫瘍、脳腫瘍などの各種の腫瘍の摘出;胆石の摘出;挫滅した組織の摘出;肺感染症による肺切除;弁置換、弁形成、大血管置換術、慢性肺血栓塞栓症に対する血栓内膜剥皮術;脳内血腫の除去;大腿骨頭置換術;ドナー(臓器提供者)からの臓器摘出、などに伴うものであり得る。
【0017】
本発明の一実施形態において、「器官または組織」として、これに限定されるものではないが、大血管、心臓(例えば弁又は心筋の一部)などの循環器系:食道、胃、十二指腸、小腸、大腸等の腸、脾臓、胆嚢、膵臓、肝臓などの消化器系;気管、肺などの呼吸器系;脳などの神経系;子宮、卵巣などの生殖器系;腎臓などの泌尿器;甲状腺、副甲状腺、下垂体、副腎、ランゲルハンス島、松果体などの内分泌系;眼、耳などの感覚器系;骨、筋などの運動器系;乳房;皮膚などを挙げることができる。上記器官または組織は、その一部であってもよいし、全部であってもよい。
【0018】
以下、本発明に係る器官または組織の摘出による体重減少を軽減するための医薬組成物(以下、本発明の医薬組成物とも称する)について説明する。
【0019】
本発明の医薬組成物は、水素ガスを含む気体状の医薬組成物であることを特徴とする。本発明において、水素原子は、その全ての同位体、すなわちプロチウム(Pまたは
1H)、ジュウテリウム(Dまたは
2H)、およびトリチウム(Tまたは
3H)、のいずれであってもよい。したがって、分子状水素として、P
2、PD、PT、DT、D
2およびT
2が含まれうる。本発明の好ましい態様において、本発明の医薬組成物に含まれる水素ガスの99%以上は天然の分子状水素であるP
2である。
【0020】
本発明の医薬組成物は、酸素ガスをさらに含むことができる。酸素ガスは、水素ガスと予め混合されて、混合ガスの形態で存在してもよいし、対象への投与直前にまたは投与時に、水素ガスと混合されてもよい。
【0021】
本発明の医薬組成物は、不活性ガスをさらに含むことができる。不活性ガスは、水素ガスまたは酸素ガスの防爆を目的として使用され、したがって、水素ガスおよび/または酸素ガスとの混合ガスの形態で存在し得る。本発明の医薬組成物に使用できる不活性ガスとしては、これに限定されるものではないが、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどを使用することができる。本発明の一実施形態では、不活性ガスとして安価な窒素ガスが使用される。
【0022】
本発明の医薬組成物において、水素ガスの濃度範囲は、これに限定されるものではないが、例えば1〜4%(v/v)とすることができる。水素ガス濃度の下限値は、器官または組織の摘出による体重減少を軽減する効果を発揮できる濃度の下限値として設定されるものである。したがって、摘出される器官または組織の種類等、摘出される範囲または量、摘出の原因となった疾患または症状などに応じて、摘出による体重減少を軽減することができる最小濃度を適宜設定することができる。一方、水素ガス濃度の上限値は、空気中における酸素の爆発限界が4%であるため、安全性の観点から設定されるものである。
【0023】
本発明の医薬組成物において、酸素ガスの濃度は、水素ガス濃度が1〜4%(v/v)の前提のとき、21%〜99%(v/v)の範囲とすることができる。
【0024】
本発明の医薬組成物において、不活性ガスの濃度は、水素ガスおよび/または酸素ガスの濃度を適切に維持し、かつ、これらのガスの防爆効果が得られる範囲で設定される。したがって、不活性ガスの濃度は、使用される水素ガスおよび/または酸素ガスの濃度に応じて、当業者は適宜適切な濃度を設定することができる。そのような不活性ガスの濃度は、例えば不活性ガスが窒素ガスの場合、例えば、0〜78%(v/v)の範囲で任意にとり得る。
【0025】
なお、本明細書を通じて使用されるガスの濃度は、20℃、101.3kPaでの含有率を示すものとする。
【0026】
本発明の医薬組成物において、水素ガスによる本発明の効果を損なわない限り、二酸化炭素などの他の大気中のガス、空気、または麻酔ガスなどをさらに含んでもよい。
【0027】
本発明の医薬組成物は、例えば吸引手段を用いた吸引により、対象に投与することができる。そのような吸引手段としては、これに限定されるものではないが、例えば吸引マスクを挙げることができる。吸引マスクは、対象への適切な濃度での投与が実現されるように、対象の口および鼻を同時に覆うものであることが好ましい。
【0028】
本発明の一実施形態において、本発明の医薬組成物は、対象にそのまま投与し得る形態で提供される。例えば、この実施形態では、本発明の医薬組成物は、水素ガスおよび不活性ガスのほか、呼吸のための酸素ガス、およびその他任意のガスを、適切な濃度で予め混合することによって調製された、混合ガスの形態で提供される。
【0029】
本発明の別の態様において、本発明の医薬組成物は、対象への投与直前または投与時に調製される形態で提供される。例えば、この実施形態では、本発明の医薬組成物は、水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを収容した容器と、酸素ガスを収容した容器とが、配管を介して吸引マスクに接続され、対象への投与に適切な濃度となるような流量で吸引マウスに送り込まれることによって、提供される。本発明の一態様では、前記容器は、ガスボンベである。
【0030】
本発明の別の態様において、本発明の医薬組成物は、ガスの濃度が一定に維持されるように、密閉小室に水素ガスを供給することによって提供される。例えば、この実施形態では、本発明の医薬組成物は、対象が存在する密閉小室に、前記密閉小室中の水素濃度が適切な濃度に維持されるような流量で、水素ガスと不活性ガスとからなる混合ガスを供給することによって提供される。
【0031】
本発明の医薬組成物は、ガスを収容する1個または複数個の容器の形態、またはガスを収容する複数の容器と、ガスを吸入するための吸入手段と、前記複数の容器とガス吸入手段とを接続する配管とを含む、ガス吸入用デバイスの形態で提供され得る。本発明の一実施形態において、ガス吸入用デバイスは、ガスを収容する各容器からのガス吸入手段へのガスの流量を制御する制御機構を備えることが好ましい。
【0032】
本発明の医薬組成物の対象への投与は、手術前、手術中または手術後のいずれの時点で開始することができ、また、手術前、手術中、または手術後のいずれか、または全ての時点で投与することができる。
【0033】
本発明の医薬組成物の投与間隔および投与回数は、対象の症状、体重減少の早さ、その他対象の年齢および性別などに応じて、当業者が、適宜適切な投与間隔および投与回数を設定することができる。本発明の一実施形態では、本発明の医薬組成物は、手術後一定の期間にわたって、複数回投与される。例えば、本発明の医薬組成物は、手術後少なくとも1日以上、好ましくは少なくとも5日以上、より好ましくは少なくとも10日以上、より好ましくは少なくとも15日以上、より好ましくは少なくとも20日以上、より好ましくは少なくとも25日以上、より好ましくは少なくとも30日以上、連日投与される。手術後、体重の減少が増加に転じるまで吸入させることが好ましい。
【0034】
本発明の医薬組成物の一回あたりの投与時間は、対象の症状、体重減少の早さ、その他対象の年齢および性別などに応じて、当業者が、適宜適切な投与間隔および投与回数を設定することができる。例えば、本発明の医薬組成物の一回あたりの投与時間は、1日あたり、0.1時間〜24時間、好ましくは0.5時間〜12時間、より好ましくは0.5時間〜12時間、より好ましくは0.5時間〜6時間、より好ましくは0.5時間〜3時間、例えば1時間とすることができる。
【0035】
本発明の医薬組成物の投与対象は、特に限定されないが、典型的にはヒトである。
【0036】
本発明の医薬組成物によれば、水素ガスを投与しない場合との比較において、器官または組織の摘出後の最大体重減少を、10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、そして最も好ましくは90%以上軽減することができる。
【0037】
あるいは、本発明の医薬組成物によれば、水素ガスを投与しない場合との比較において、器官または組織の摘出後の体重減少を、少なくとも20%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、より好ましくは9%以下、より好ましくは8%以下、より好ましくは7%以下、より好ましくは6%以下、そして最も好ましくは5%以下に抑制することができる。
【0038】
本明細書において用いられる用語は、特定の実施態様を説明するために用いられるのであり、発明を限定する意図ではない。
【0039】
また、本明細書において用いられる「含む」との用語は、文脈上明らかに異なる理解をすべき場合を除き、記載された事項(部材、ステップ、要素または数字等)が存在することを意図するものであり、それ以外の事項(部材、ステップ、要素または数字等)が存在することを排除しない。
【0040】
本明細書中に引用される文献は、それらのすべての開示が、本明細書中に援用されているとみなされるべきであって、当業者は、本明細書の文脈に従って、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、それらの先行技術文献における関連する開示内容を、本明細書の一部として援用することができる。
【0041】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
ラット5/6腎摘モデルを作製し、水素混合ガス環境下での術後の経過を観察し、体重減少への影響を評価した。
【0043】
ラット5/6腎摘モデルの作製には、10週齢のLewisラット(雄)を用いた。ラット5/6腎摘モデルは、ラットを、イソフルランを用いた笑気吸入麻酔下におき、以下の外科的処置を施すことによって作製した。すなわち、腹部を正中切開し、右腎を露出し、右腎を周囲脂肪織より剥離した後、腎門部で腎動静脈・尿管を結紮切離、右腎を摘出した。次いで、左腎を露出し、腎臓を周囲脂肪織より剥離した後、上下腎動脈分枝を結紮した。なお、コントロール群は、開腹後、両腎の脂肪織からの剥離のみを行い、体重変化のみを調査した。
【0044】
上記処置を行った各ラットは、術後当日、麻酔から完全に覚醒した段階で、ラット用ケース内に維持し、ガス吸入試験に供した。ラットを水素群(窒素+1.3%水素+26%酸素、N=3)、窒素群(窒素+26%酸素、N=3)の2群に分け、ラット用ケース内で1時間ずつ各ガスを吸入させた。吸入は、前記組成の水素混合ガスまたは窒素ガスを、ラット用ケース内に一定の流量で供給することにより行った。なお、ラット用ケース内の水素濃度が均一に維持されていることは、吸引式ガス濃度計でモニタリングすることにより確認した。
【0045】
水素吸入は、1時間/日のスケジュールで、術後28日目まで連日行い、その間、術後28日までの体重を測定した(
図1)。
【0046】
水素群および窒素群ともに手術直後に急激な体重減少を示したが、水素群では術後2日に減少のピークを迎え、術後3日目には体重増加に転じたのに対し、窒素群では術後7日まで体重減少が続き、体重増加に転じたのは術後9日目であった。また、窒素群では、最大体重減少が、ラット全体重のおよそ18%に達したのに対し、水素群では、ラット全体重のおよそ7.5%に留まった。2−3日の間に20%以上の体重減少、もしくは、7日間で25%以上の体重減少が認められる動物は、安楽死の対象にするべきとの倫理基準もあることから、水素群の動物は、安楽死を十分に免れるレベルにまで体重減少を抑制できたという点で、極めて驚くべき結果であった。またこの結果は、水素ガスの吸入によって、吸入を行わなかった群に比較して、ラットの体重減少がおよそ60%近くも軽減されたことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の医薬組成物によれば、器官または組織の摘出による体重減少を軽減することができる。