(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6630145
(24)【登録日】2019年12月13日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】フライアッシュのメチレンブルー吸着量予測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20200106BHJP
【FI】
G01N33/38
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-248452(P2015-248452)
(22)【出願日】2015年12月21日
(65)【公開番号】特開2017-116267(P2017-116267A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】桐野 裕介
(72)【発明者】
【氏名】黒川 大亮
(72)【発明者】
【氏名】平尾 宙
【審査官】
倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−226245(JP,A)
【文献】
特開平09−225441(JP,A)
【文献】
特開平11−262749(JP,A)
【文献】
特開2007−217244(JP,A)
【文献】
特開2010−043933(JP,A)
【文献】
特開2006−300627(JP,A)
【文献】
特開2002−323412(JP,A)
【文献】
特開2015−124136(JP,A)
【文献】
特開2010−030885(JP,A)
【文献】
特開2002−047051(JP,A)
【文献】
特表2012−522103(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0304893(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第102712533(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38,
C04B 18/08,28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)式を用いて算出したRs値に基づき、フライアッシュのメチレンブルーの吸着量を予測する、フライアッシュのメチレンブルー吸着量予測方法。
Rs=R380〜410/R490 ・・・(1)
(ただし、(1)式中、R380〜410は380〜410nmの範囲から任意に選ばれる1つの波長の光を、フライアッシュに照射して得られる拡散反射率を表し、R490は490nmの波長の光を、フライアッシュに照射して得られる拡散反射率を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライアッシュによるメチレンブルーの吸着量を、短時間で予測する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
フライアッシュセメントは、火力発電所などの微粉炭ボイラーの燃焼排ガス中から回収された、微細な石炭灰であるフライアッシュを混合材として含むセメントである。フライアッシュは、非晶質の二酸化けい素を主成分とする球状の微粒子であり、コンクリートのワーカビリティーを改善するとともに、セメントの水和によって生じた水酸化カルシウムと反応(ポゾラン反応)して緻密な硬化体組織を形成する。
このように、高いポゾラン活性を有するフライアッシュは、コンクリート材料として非常に有用であるため、JIS規格化され(JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」)、また、フライアッシュが特定量使用されたフライアッシュセメント等はグリーン購入法の特定調達品目に指定されている。
【0003】
しかし、一般社団法人石炭エネルギーセンターの石炭灰全国実態調査報告書によれば、平成25年度に国内で発生した石炭灰の内、セメント混合材やコンクリート混和材(フライアッシュ)として有効利用されている量は約18万トンで、これは石炭灰発生量全体の1.4%に過ぎない。この理由の1つに、フライアッシュ中に残存する未燃炭素がコンクリート中のAE剤(空気連行剤)を吸着して空気連行性を阻害し、コンクリートのフレッシュ性状を悪化させることが挙げられる。
【0004】
JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」では、未燃炭素量の指標として、強熱減量(LOI)が定められている。しかし、フライアッシュの強熱減量は、フライアッシュに含まれる水和物からの脱水や、炭酸塩が分解して生じる炭酸ガス等の揮発による減量も含まれるため、強熱減量と未燃炭素量は同じではない。
フライアッシュ中の未燃炭素は、AE剤と同様に、メチレンブルー(MB)も吸着することが知られている。染料であるメチレンブルーの吸着量は、吸着前後の溶液中のメチレンブルーの濃度(色調)の変化から容易に定量できるため、フライアッシュによるメチレンブルーの吸着量は、強熱減量に代わる、フライアッシュの未燃炭素の含有量を示す指標になる。
公益社団法人土木学会の「コンクリートライブラリー94 フライアッシュを用いたコンクリートの施工指針(案)(1999)」によると、フレッシュコンクリート中の空気量の管理において、AE剤の種類や使用量の調整が不要とされるメチレンブルー吸着量の上限値は、0.4mg/gである。
メチレンブルー吸着量の測定方法は、一般社団法人セメント協会の標準試験方法(JCAS I−61:2008)および電源開発法(電発法)が広く用いられており、両方法の測定値の間には大きな違いはない。ただし、これらの試験方法は、メチレンブルー吸着量の測定に約1時間要するため、より短時間に結果が得られ、且つ、測定者間でバラツキが生じない方法が求められている。
この課題に対し、特許文献1と特許文献2ではメチレンブルー吸着量の自動測定装置が提案されている。しかし、両装置ともに複雑な機構を有する専用装置であり、汎用的な測定装置とは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−94745号公報
【特許文献2】特開2002−228588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、フライアッシュのメチレンブルー吸着量を、簡易な装置を用いて短時間で予測できる方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、簡易な装置を用いたメチレンブルー吸着量の予測方法を鋭意検討した結果、特定の範囲の波長の光をフライアッシュに照射して得られる拡散反射率と、特定の1点の波長の光をフライアッシュに照射して得られる拡散反射率の比が、フライアッシュのメチレンブルー吸着量を予測するための指標となることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は下記の構成を有するフライアッシュのメチレンブルー吸着量予測方法等である。
【0008】
[1]下記(1)式を用いて算出したRs値に基づき、フライアッシュのメチレンブルーの吸着量を予測する、フライアッシュのメチレンブルー吸着量予測方法。
Rs=R
380〜410/R
490 ・・・(1)
(ただし、(1)式中、R
380〜410は380〜410nmの範囲から任意に選ばれる1つの波長の光を、フライアッシュに照射して得られる拡散反射率を表し、R
490は490nmの波長の光を、フライアッシュに照射して得られる拡散反射率を表す。
)
【発明の効果】
【0009】
本発明のフライアッシュのメチレンブルー吸着量予測方法は、フライアッシュのメチレンブルー吸着量を、簡易な装置を用いて短時間で予測できる。また、本発明のフライアッシュ含有セメント組成物は、AE剤の空気連行性に与える影響が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】フライアッシュに照射した光の波長と、フライアッシュの拡張反射率の関係を示す図である。なお、凡例の数字は試料の番号である。
【
図2】フライアッシュに照射した光の波長と、フライアッシュのメチレンブルー吸着量および拡散反射率の間で単回帰分析を行って求めた相関係数の関係を示す図である。
【
図3】フライアッシュに照射した光の波長と、Rsの関係を示す図である。なお、凡例の数字は試料の番号である。
【
図4】フライアッシュに照射した光の波長と、フライアッシュのメチレンブルー吸着量およびRsの間で単回帰分析を行って求めた相関係数の関係を示す図である。
【
図5】Rsと、フライアッシュのメチレンブルー吸着量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、前記(1)式を用いて算出したRs値に基づき、フライアッシュのメチレンブルーの吸着量を予測する方法、およびフライアッシュ含有セメント組成物である。
以下、本発明について、フライアッシュのメチレンブルー吸着量予測方法と、フライアッシュ含有セメント組成物に分けて、詳細に説明する。
【0012】
1、フライアッシュのメチレンブルー吸着量予測方法
本発明のフライアッシュのメチレンブルー吸着量予測方法で用いる指標は、前記(1)式に示すように、490nmの波長の光をフライアッシュに照射して得られる拡散反射率(R
490)に対する、380〜410nmの範囲から任意に選ばれる1つの波長の光をフライアッシュに照射して得られる拡散反射率(R
380〜410)の比(Rs)である。後掲の
図4に示すように、フライアッシュに照射した光の波長と、フライアッシュのメチレンブルー吸着量およびRsの間で単回帰分析を行って求めた相関係数は、380〜410nmの範囲で最大値(0.8)を取るから、他の範囲の波長を用いた場合よりも予測精度は高くなる。
前記拡散反射率は、市販の色差計を用いて、例えば、JIS P 8152「紙、板紙及びパルプ−拡散反射率係数の測定方法」に準拠して測定できる。
【0013】
2.フライアッシュ含有セメント組成物
本発明のフライアッシュ含有セメント組成物は、前記フライアッシュのメチレンブルー吸着量予測方法を用いて算出したRs値が、0.6以下であるフライアッシュを含むセメント組成物である。フライアッシュのRs値が0.6以下であれば、一般的なAE剤の調整が不要となる目安であるメチレンブルー吸着量が0.4mg/g以下を満たすため、フレッシュコンクリートの空気量の管理において、AE剤の種類や使用量の調整が必要ない。
また、本発明のフライアッシュ含有セメント組成物に用いるセメントは、特に制限されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、およびエコセメントから選ばれる1種以上である。また、前記セメントと前記フライアッシュの混合装置は、例えば、ボールミルやヘンシェルミキサ等が挙げられる。また、フライアッシュ含有セメント組成物中のフライアッシュの含有率は、強度発現性およびコンクリートのワーカビリティの向上の観点から、5〜30質量%である。
【実施例】
【0014】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用材料
(1)フライアッシュ
7つの石炭火力発電所の9ラインから採取した19種のフライアッシュを試料として用いた。同一ラインから複数の試料を採取する場合、試料の採取日を変えた。また、全ての試料は、JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」のフライアッシュII種またはフライアッシュIII種に分類される。
これらのフライアッシュのメチレンブルー吸着量は、一般社団法人セメント協会の標準試験方法(JCAS I−61:2008)に準拠して測定し、強熱減量、密度、ブレーン比表面積、および45μmふるい残分は、JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」に準拠して測定した。また化学分析値は、蛍光X線分析法(検量線法)により測定した。これらの結果を表1に示す。
【0015】
【表1】
【0016】
2.メチレンブルー吸着量と相関性の高い指標の探索
メチレンブルー吸着量と相関性の高い指標を見い出すために、下記(1)に従いフライアッシュの拡散反射率を測定して、下記(2)〜(4)の探索を行なった。
(1)フライアッシュの拡散反射率の測定
試料1〜19を5.0±0.1g計量して、色差計の測定セルに入れた。測定セルに蓋をした後、測定セルを5cmの高さから15回落下させて、フライアッシュを測定セルに充填して測定用試料とした。次に、前記測定用試料を分光色差計(日本電色工業社製 SE6000)に装着して、380〜780nmの波長の範囲で10nmおきに拡散反射率を測定した。その結果を
図1に示す。
図1に示すように、どの試料も照射した光の波長が長くなる程、拡散反射率が高くなる傾向がある。
【0017】
(2)メチレンブルー吸着量と拡散反射率の間の関係
試料1〜19の前記メチレンブルー吸着量、および前記拡散反射率の間で単回帰分析を行い、相関係数を求めた。次に、該相関係数とフライアッシュに照射した光の波長(10nm間隔)の関係をグラフにプロットした。その結果を
図2に示す。
図2から、照射した光の波長は長くなるにつれて、前記相関係数は単調に減少してプラスからマイナスに転じ、相関係数がゼロになる特異な波長(490nm)が存在することが分かる。
【0018】
(3)フライアッシュに照射した光の波長とRsの関係
そこで、メチレンブルー吸着量と最も相関が低い490nmの波長の光を使って測定した拡散反射率を分母に置き、380〜780nmの波長の範囲において10nmおきに測定した各フライアッシュの拡散反射率を分子に置いて、比(Rs)を求めた。
そして、Rsと、フライアッシュに照射した光の波長(10nm間隔)の関係をグラフにプロットした。その結果を
図3に示す。
【0019】
(4)メチレンブルー吸着量とRsの間の関係
試料1〜19の前記メチレンブルー吸着量、および前記Rsの間で単回帰分析を行い、相関係数を求めた。次に、該相関係数とフライアッシュに照射した光の波長(10nm間隔)の関係をグラフにプロットした。その結果を
図4に示す。
図2と
図4の相関係数を比べると、前記Rsの分母に採用した波長490nm以外の全ての測定点で、
図4に示す相関係数が、
図2に示す相関係数よりも高いこと、特に、380〜410nmの範囲で高いことが分かる。そこで、最も相関係数の高かった波長380nmの拡散反射率を分子に採用した場合の、Rsとメチレンブルー吸着量の関係をグラフにプロットした。その結果を
図5に示す。
図5に示すように、決定係数(R
2)は0.67と高く、Rsを指標に用いた本発明のフライアッシュのメチレンブルー吸着量予測方法は、実用可能な予測精度を有していることが分かる。
また、従来の標準試験方法(JCAS 1−61:2008)は試験に約1時間かかるのに対し、本発明のフライアッシュのメチレンブルー吸着量予測方法は、数分で終了した。
【0020】
本発明の予測値のみでも、メチレンブルー吸着性能に関するフライアッシュの良否を判断できるが、本発明の予測方法を1次評価試験として用い、該一次評価試験の結果、さらに詳細な確認が必要と判断されたフライアッシュに絞って、前記標準試験方法等の従来の方法によりメチレンブルー吸着量を測定すれば、より確実なフライアッシュの品質評価を、少ない作業量で迅速に行うことができる。