【実施例】
【0039】
以下では、生体音解析装置及び生体音解析方法、並びにコンピュータプログラム及び記録媒体の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下では、呼吸音の解析を行う生体音解析装置を例に挙げて説明する。
【0040】
<装置構成>
先ず、本実施例に係る生体音解析装置の構成について、
図1を参照して説明する。ここに
図1は、本実施例に係る生体音解析装置の構成を示すブロック図である。
【0041】
図1において、本実施例に係る生体音解析装置は、呼吸音取得部110と、参照情報取得部120と、呼吸相取得部130と、処理部200と、結果表示部300とを備えて構成されている。
【0042】
呼吸音取得部110は、生体の呼吸音を呼吸音信号として取得可能に構成されたセンサである。呼吸音取得部110は、例えばECM(Electret Condenser Microphone)やピエゾを利用したマイク、振動センサ等で構成されている。また、呼吸音取得部110は、生体の呼吸音を呼吸音信号として取得可能に構成されたセンサだけでなく、センサからの呼吸音信号を取得するものを含んでもよい。呼吸音取得部110で取得された呼吸音信号は、時間周波数解析部210及び断続性ラ音判定部220に出力される構成となっている。なお、呼吸音取得部110は、「第1取得手段」の一具体例である。
【0043】
参照情報取得部120は、生体音に含まれる雑音を判別するための参照情報を記憶するデータベースを含んで構成されている。参照情報取得部120は、記憶された参照情報を適宜取得して、捻髪音傾向算出部230及び水泡音傾向算出部240に出力可能に構成されている。本実施例に係る参照情報取得部120は特に、断続性ラ音である捻髪音及び水泡音に関する参照情報を取得可能とされている。なお、参照情報取得部120は、「第2取得手段」の一具体例である。
【0044】
呼吸相取得部130は、生体の呼吸相情報(即ち、吸気相及び呼気相に関する時間軸情報)を取得可能に構成されたセンサである。呼吸相取得部130は、呼吸音取得部110と一体的に構成されていてもよい。呼吸相取得部130で取得された呼吸相情報は、捻髪音傾向算出部230及び水泡音傾向算出部240に出力される構成となっている。なお、呼吸相取得部130は、「第3取得手段」の一具体例である。
【0045】
処理部200は、複数の演算回路やメモリ等を含んで構成されている。処理部200は、時間周波数解析部210と、断続性ラ音判定部220と、捻髪音傾向算出部230と、水泡音傾向算出部240と、捻髪音判定部250と、水泡音判定部260とを備えて構成されている。
【0046】
時間周波数解析部210は、呼吸音取得部110で取得された呼吸音情報に対して時間周波数解析処理を実行する。具体的には、時間周波数解析部210は、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理等を実行可能に構成されている。時間周波数解析部210の解析結果は、捻髪音傾向算出部230及び水泡音傾向算出部240に出力される構成となっている。
【0047】
断続性ラ音判定部220は、呼吸音取得部110で取得された呼吸音情報に基づいて、呼吸音に断続性ラ音が含まれているか否かを判定する。なお、断続性ラ音判定部220における具体的な判定方法については、既存の技術を利用することができるため、ここでの詳細な説明は省略する。断続性ラ音判定部220における判定結果は、捻髪音傾向算出部230及び水泡音傾向算出部240に出力される構成となっている。
【0048】
捻髪音傾向算出部230は、時間周波数解析部210から入力される時間周波数解析された呼吸音信号、参照情報取得部120から入力される捻髪音に関する参照情報、呼吸相取得部130から入力される呼吸相情報、及び断続性ラ音判定部220から入力される判定結果に基づいて、生体音に含まれる音が捻髪音にどの程度近いものであるかを示す捻髪音傾向FCを算出する。なお、捻髪音傾向FCの算出方法については、後の動作説明において詳述する。
【0049】
水泡音傾向算出部240は、時間周波数解析部210から入力される時間周波数解析された呼吸音信号、参照情報取得部120から入力される水泡音に関する参照情報、呼吸相取得部130から入力される呼吸相情報、及び断続性ラ音判定部220から入力される判定結果に基づいて、生体音に含まれる音が水泡音にどの程度近いものであるかを示す水泡音傾向CCを算出する。なお、水泡音傾向CCの算出方法については、後の動作説明において詳述する。
【0050】
捻髪音判定部250は、捻髪音傾向算出部230で算出された捻髪音傾向FCに基づいて、生体音に捻髪音が含まれているか否かを判定する。具体的には、捻髪音判定部250は、捻髪音傾向FCが所定の閾値を超えているか否かによって、生体音に捻髪音が含まれているか否かを判定する。捻髪音判定部250の判定結果は、結果表示部300に出力される構成となっている。
【0051】
水泡音判定部260は、水泡音傾向算出部240で算出された水泡音傾向CCに基づいて、生体音に水泡音が含まれているか否かを判定する。具体的には、水泡音判定部260は、水泡音傾向CCが所定の閾値を超えているか否かによって、生体音に水泡音が含まれているか否かを判定する。水泡音判定部260の判定結果は、結果表示部300に出力される構成となっている。
【0052】
以上のように、処理部200は、呼吸音取得部110で取得された呼吸音情報、参照情報取得部120で取得された参照情報、呼吸相取得部130で取得された呼吸相情報に基づいて、生体音に捻髪音又は水泡音が含まれているか否かを判定することが可能とされている。また、処理部200は、生体音に捻髪音又は水泡音が含まれているか否かだけでなく、捻髪音及び水泡音の強度等を出力可能に構成されてもよい。処理部200は、「出力手段」の一具体例である。
【0053】
結果表示部400は、例えば液晶モニタ等のディスプレイとして構成されており、処理部200から出力される各種情報を画像データとして表示する。
【0054】
<捻髪音と水泡音の特性>
次に、本実施例に係る生体音解析装置において判別される捻髪音及び水泡音の特性について、
図2から
図5を参照して詳細に説明する。ここに
図2は、捻髪音を含む生体音の一例を示すスペクトログラム図であり、
図3は、解析処理後の捻髪音を含む生体音の一例を示すスペクトログラム図である。また
図4は、水泡音を含む生体音の一例を示すスペクトログラム図であり、
図5は、解析処理後の水泡音を含む生体音の一例を示すスペクトログラム図である。
【0055】
なお、
図3に示すスペクトログラムは、
図2に示すスペクトログラムに対してCMN(Cepstral Mean Normalization)処理と、リフタリング処理(具体的には、ケプストラムの高次ケフレンシ―成分のカットとを実行したものである。同様に、
図4に示すスペクトログラムは、
図3に示すスペクトログラムに対してCMN処理と、リフタリング処理とを実行したものである。CMN処理及びリフタリング処理を実行することで、捻髪音及び水泡音の特徴が強調され、その特性がより明確に判別できるようになる。なお、CMN処理及びリフタリング処理については既存の技術であるため、ここでのより詳細な説明は省略する。
【0056】
図2及び
図3を見ると、捻髪音は、吸気相において強く検出され、呼気相においては殆ど検出されないことが分かる。また、捻髪音は、比較的高い周波数帯で発生していることも分かる。よって、捻髪音は、吸気相において比較的高めの周波数帯に現れる特性を有していると言える。
【0057】
一方、
図4及び
図5を見ると、水泡音は、吸気相及び呼気相の両方において検出されていることが分かる。また、水泡音は、比較的低い周波数帯で発生していることも分かる。よって、水泡音は、吸気相及び呼気相の両方において比較的低めの周波数帯に現れる特性を有していると言える。
【0058】
以上のように、捻髪音及び水泡音を含む生体音には、呼吸相における発生時期と周波数特性において明確な違いが存在している。よって、この違いを利用すれば、捻髪音及び水泡音の存在を個別に判定することが可能である。本実施形態に係る生体音解析装置は、以下に詳述する処理を実行することにより、生体音に含まれる捻髪音及び水泡音を判別する。
【0059】
<動作説明>
次に、本実施例に係る生体音解析装置の動作について、
図6を参照して説明する。ここに
図6は、本実施例に係る生体音解析装置の動作の流れを示すフローチャートである。
【0060】
図6において、本実施例に係る生体音解析装置の動作時には、先ず呼吸音取得部110において、生体の呼吸音を示す呼吸音信号が取得される(ステップS101)。呼吸音信号が取得されると、断続性ラ音判定部220において、生体音に断続性ラ音が含まれているか否かの判定が行われる(ステップS102)。判定の結果、生体音に断続性ラ音が含まれていないと判定された場合(ステップS103:YES)、断続性ラ音判定部220からは、生体音には捻髪音及び水泡音が含まれないという判定結果が出力される(ステップS104)。一方、生体音に断続性ラ音が含まれていると判定された場合(ステップS103:YES)、生体音に含まれる断続性ラ音が捻髪音であるのか、或いは水泡音であるのかを判別するための処理(即ち、ステップS105以降の処理)が実行される。
【0061】
生体音に断続性ラ音が含まれている場合には、先ず時間周波数解析部220において、呼吸音信号の時間周波数解析処理が行われる(ステップS105)。また、参照情報取得部120において、捻髪音及び水泡音に関する参照情報が取得される(ステップS106)。更に、呼吸相取得部130において、生体音の呼吸相情報が取得される(ステップS107)。
【0062】
上述した各情報が取得されると、捻髪音傾向算出部230において、捻髪音傾向FCが算出される(ステップS108)。算出された捻髪音傾向FCは、捻髪音判定部250において閾値Aよりも大きいか否かが判定される(ステップS109)。そして、捻髪音傾向FCが閾値Aよりも大きいと判定された場合(ステップS109:YES)、生体音には捻髪音が含まれていると判定される(ステップS110)。一方、捻髪音傾向FCが閾値Aよりも大きくないと判定された場合(ステップS109:NO)、生体音には捻髪音が含まれていないと判定される(ステップS111)。
【0063】
同様に、水泡音傾向算出部240においては、水泡音傾向CCが算出される(ステップS112)。算出された水泡音傾向CCは、水泡音判定部260において閾値Bよりも大きいか否かが判定される(ステップS113)。そして、水泡音傾向CCが閾値Bよりも大きいと判定された場合(ステップS113:YES)、生体音には水泡音が含まれていると判定される(ステップS114)。一方、水泡音傾向CCが閾値Bよりも大きくないと判定された場合(ステップS113:NO)、生体音には水泡音が含まれていないと判定される(ステップS115)。
【0064】
以上説明した、ステップS104、S114及びS115の判定結果は、結果表示部300に出力される(ステップS116)。これにより、結果表示部300では、呼吸音に捻髪音及び水泡音が含まれているか否かが画像データとして表示される。
【0065】
<傾向算出方法>
次に、上述した捻髪音傾向FC及び水泡音傾向CCの算出方法について、
図7から
図11を参照して具体的に説明する。ここに
図7は、捻髪音の2次元分布を示すモデル図であり、
図8は、水泡音の2次元分布を示すモデル図である。また
図9は、捻髪音のパワーの確率分布を示すモデル図であり、
図10は、水泡音のパワーの確率分布を示すモデル図である。
図11は、呼吸音情報のパワー分布比率を区画ごとに示す図表である。
【0066】
図7において、捻髪音は吸気相において比較的高めの周波数帯に現れる特性を有しているため、この特性を呼吸相における発生時期及び周波数特性の2軸上で表すと、図のような2次元モデルが得られる。捻髪音傾向FCは、このような2次元モデルを参照情報として用いることで算出することができる。
【0067】
図8において、水泡音は吸気相及び呼気相の両方において比較的低めの周波数帯に現れる特性を有しているため、この特性を呼吸相における発生時期及び周波数特性の2軸上で表すと、図のような2次元モデルが得られる。水泡音傾向CCは、このような2次元モデルを参照情報として用いることで算出することができる。
【0068】
図9において、捻髪音傾向FCの算出時には、先ず捻髪音に対応する2次元モデル(
図7参照)のパワー分布を区画ごとに数値化する。具体的には、図に示すように、高周波数帯(750Hz〜4kHZ)の吸気相数値Q
FC(1)が「0.7」となり、呼気相の数値Q
FC(2)が「0.1」となる。また、低周波数帯(0Hz〜750Hz)の吸気相の数値Q
FC(3)が「0.1」となり、呼気相の数値Q
FC(4)が「0.1」となる。
【0069】
捻髪音傾向FCは、上記Q
FC(i)を利用して、下記の数式(1)から算出することができる。
【0070】
【数1】
なお、P(i)は、実際に計測された呼吸音信号の区画ごとのパワーを示す数値である。
【0071】
このようにして算出される捻髪音傾向FCは、対数尤度であり、負の値として算出される。このため、捻髪音傾向FCが大きいほど(即ち、0に近い値であるほど)、生体音がモデルに近い(即ち、捻髪音に近い)と判定できる。
【0072】
一方、
図10において、水泡音傾向CCの算出時には、先ず水泡音に対応する2次元モデル(
図8参照)のパワー分布を区画ごとに数値化する。具体的には、図に示すように、高周波数帯(750Hz〜4kHZ)の吸気相の数値Q
CC(1)が「0.1」となり、呼気相の数値Q
CC(2)が「0.1」となる。また、低周波数帯(0Hz〜750Hz)の吸気相の数値Q
CC(3)が「0.4」となり、呼気相の数値Q
CC(4)が「0.4」となる。
【0073】
水泡音傾向CCは、上記Q
CC(i)を利用して、下記の数式(2)から算出することができる。
【0074】
【数2】
このようにして算出される水泡音傾向CCは、捻髪音傾向FCと同様に対数尤度であり、負の値として算出される。このため、水泡音傾向CCの絶対値が大きいほど(即ち、0に近い値であるほど)、呼吸音がモデルに近い(即ち、捻髪音に近い)と判定できる。
【0075】
以下では、上述した算出処理及びその算出結果を用いた判定処理について、具体例を挙げて説明する。
【0076】
図11において、例えば図に示すような比率でパワーが分布する呼吸音信号が得られたとする。この呼吸音信号について、上述した数式(1)を利用して捻髪音傾向FCを算出すると、その結果は以下のようになる。
【0077】
FC=0.82×log
10(0.7)+0.00×log10(0.1)+0.16×log
10(0.1)+×0.02log10(0.1)
=−0.30702
この時、捻髪音傾向FCに対する閾値Aが−0.5であったとすると、FC>閾値Aの関係が成立する。よって、この場合の呼吸音信号には、捻髪音が含まれると判定されることになる。
【0078】
<実施例の効果>
最後に、本実施例に係る生体音解析装置によって得られる技術的効果について詳細に説明する。
【0079】
本実施例に係る生体音解析装置によれば、
図7から
図11で説明したように、呼吸相における発生時期及び周波数特性の2軸上で表された2次元モデル(即ち、参照情報取得部120から取得される参照情報)を利用して、断続性ラ音である捻髪音及び水泡音が判定される。
【0080】
ここで仮に、周波数特性のみで捻髪音及び水泡音を判定しようとすると、周波数が高いか低いかでしか判定できないため、呼気相で発生している高周波数帯の成分を捻髪音として判定してしまうおそれがある。また、吸気相でしか発生していない低周波数帯の成分を水泡音と判定してしまうおそれがある。このように、周波数特性だけを利用する場合には、捻髪音及び水泡音を正確に判別できないおそれがある。特に、周囲の環境音等の影響を受けてしまうと、判別精度は大きく低下してしまう。
【0081】
これに対し、本実施例では、呼吸相のどこで発生しているのかを考慮して、捻髪音であるのか、或いは水泡音であるのかを判定することができる。従って、周波数特性のみを利用して判定する場合と比べると、極めて正確に捻髪音及び水泡音を判定することができる。また、捻髪音傾向FC及び水泡音傾向CCを別々に算出して判定しているため、呼吸音に捻髪音のみが含まれている場合、水泡音のみが含まれている場合、或いは捻髪音及び水泡音の両方が含まれている場合を、それぞれ好適に判別することが可能である。
【0082】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う生体音解析装置及び生体音解析方法、並びにコンピュータプログラム及び記録媒体もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。