(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6630462
(24)【登録日】2019年12月13日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】ガタツキ抑制機構付き手動ステージ
(51)【国際特許分類】
G12B 5/00 20060101AFI20200106BHJP
【FI】
G12B5/00 T
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-168063(P2019-168063)
(22)【出願日】2019年9月17日
【審査請求日】2019年9月18日
(31)【優先権主張番号】特願2019-70973(P2019-70973)
(32)【優先日】2019年4月3日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506177268
【氏名又は名称】株式会社ミラック光学
(74)【代理人】
【識別番号】100130476
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 昭穂
(72)【発明者】
【氏名】村松 洋明
【審査官】
榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−181035(JP,A)
【文献】
実開昭52−154586(JP,U)
【文献】
特開2010−223611(JP,A)
【文献】
英国特許出願公開第280273(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G12B 5/00
B23Q 5/344
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動部品に設けられ、内側に雌ネジが切られた雌ネジ筒と、固定部品に接続され、外側に雄ネジが切られた雄ネジ棒とが係合され、前記雄ネジ棒の回転操作により前記摺動部品を摺動させる送りネジ式手動ステージにおいて、
前記雌ネジ筒は、前記摺動部品に設けられた凹部に収納される凸部と、
前記雄ネジ棒が貫通する筒部本体と、
前記筒部本体に設けられ、開放端とスリット端とを有するスリット部と、
前記スリット部の前記開放端の幅を調整するガタツキ抑制ボルトと、
からなり、
前記ガタツキ抑制ボルトを回転させると、前記筒部本体は、前記スリット端を回転中心とした回転動作を含みながら前記スリット部の前記開放端の幅が変化し、前記雄ネジと前記雌ネジとの噛合いは、前記スリット部の位置を境にして前記雄ネジ棒の左右で逆向きとなることを特徴とするガタツキ抑制機構付き手動ステージ。
【請求項2】
請求項1に記載のガタツキ抑制機構付き手動ステージであって、前記筒部本体は、前記凸部において前記摺動部品に設けられた前記凹部に係合され、前記スリット部は、前記雄ネジ棒と交差する方向に設けられ、一方の端部が前記スリット部の前記開放端であり、他方の端部が前記スリット部の前記スリット端であり、前記ガタツキ抑制ボルトは、前記筒部本体において、前記スリット部の前記開放端側に近接して設けられることを特徴とするガタツキ抑制機構付き手動ステージ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガタツキ抑制機構付き手動ステージであって、前記ガタツキ抑制ボルトを回転させ、前記雌ネジの形状を変化させることで前記雌ネジ筒内部に軸圧を導入することを特徴とするガタツキ抑制機構付き手動ステージ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のガタツキ抑制機構付き手動ステージであって、前記筒部本体は、前記ガタツキ抑制ボルトを回転させると、前記スリット端を回転中心とした回転動作を含みながら前記スリット部の前記開放端のスリット間隔を変化させることを特徴とするガタツキ抑制機構付き手動ステージ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のガタツキ抑制機構付き手動ステージであって、前記ガタツキ抑制ボルトの回転により、前記筒部本体内の前記雄ネジ棒と前記雌ネジ筒のネジの噛み合いは、前記スリットの位置を境にして左右で逆向きとなり、それぞれ逆方向の締付け力が発生することを特徴とするガタツキ抑制機構付き手動ステージ。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載のガタツキ抑制機構付き手動ステージであって、アリ溝ステージのアリ溝の横方向のガタツキを抑制するガタツキ抑制ネジについて、滑らかに摺動する領域を超えた締付領域で固定することで、前記雄ネジと前記雌ネジとのガタツキを事前に抑制することを特徴とするガタツキ抑制機構付き手動ステージ。
【請求項7】
請求項6に記載のガタツキ抑制機構付き手動ステージであって、摺動固定ネジは、前記摺動固定ネジの孔周りに設けられた、例えばステンレス鋼等の硬い素材からなる軸圧分散板を挟んで前記アリ溝ステージの突出部に軸圧を導入することを特徴とするガタツキ抑制機構付き手動ステージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガタツキ抑制機構付き手動ステージに係り、特に、ガタツキ抑制機構が設けられた送りネジ式手動ステージに関する。
【背景技術】
【0002】
光学機器などの精密機器の位置調整等に用いられる手動ステージにおいては、固定部品に対して摺動部品を摺動させるためにハンドルを回転させて動力を伝達させるのが一般的である。すなわち、雄ネジと雌ネジを互いに係合させて回転運動させ、固定部品に対して摺動部品を移動させる方法である。この場合、雄ネジと雌ネジとに意図的に隙間を設けなければ雄ネジと雌ネジ同士が干渉して回転ができなくなる。しかし、このように意図的に隙間を設けると、所定の方向に回転させたときにこの隙間により機械要素が反対方向に戻る、いわゆる「ガタツキ」現象が発生する場合がある。この「ガタツキ」は、主に雄ネジと雌ネジの間の隙間である「ガタ」が原因であり、光学機器などの精密機器の位置調整等においては、計測の精度が狂う要因となる場合がある。
【0003】
送りネジ式手動ステージは、雌ネジ及び雄ネジを係合させ、光学機器などの精密機器の位置を移動させ最適な位置に精度よく位置合わせをしなければ「ピント」が合わない状態になる。従って、一端、位置合わせした精密機器がガタツキにより微妙に変化しないように慎重に扱わなければならない。
【0004】
この手動ステージの「ガタツキ」を防止する手段として、接着剤などの樹脂を用いて固化させる方法が採用されている。また、自動車などでは、フリクションギアなどのガタツキ低減方法が提案され実用化されている。さらに、ナット本体にフリクションリングと称される緩み止め機構を取り付け「緩み止め効果」を発揮させる技術も開示されている。
【0005】
特許文献1には、可動ステージを固定する際のバックラッシュ、及び、固定後の移動が少ないステージ機構が開示されている。ここでは、クッション樹脂部材が挿入された、一つまたは二つ以上のバックラッシュ吸収部材が設けられ、送りネジの送りに同期して可動ステージをスライドさせるための連結部材を設けることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、送りネジを回転させた際には可動ステージを容易かつ安定的にスライドさせ、送りネジの回転を止めた際には可動ステージのバックラッシュを抑制するステージ機構が開示されている。ここでは、送りネジのネジ溝に沿って回転移動するナット部材を備え、ナット部材のネジ孔方向において挿入孔の両側に形成されたダブルナット構造を有し、挿入孔に対してバックラッシュ吸収部材を挿入することが記載されている。
【0007】
特許文献3には、ネジのバックラッシュ除去方法及び機構が開示されている。ここでは、棒の外周面にネジ溝を切った雄ネジにおいて、棒の外周面であって、雌ネジとの螺合範囲にネジ溝よりも一段低い幅広の谷底となる取付溝を設け、取付溝に螺合相手のネジ山に接触して弾性変形する弾性体を装着することが記載されている。
【0008】
特許文献4には、摺動固定ネジによるストッパ機構が開示されている。ここでは、固定部品の両側の壁部に逆三角形の突出部と溝とを設け、摺動固定ネジを、摺動固定ネジ用孔を貫通させて突出部に突き当てて摺動部品を押さえ込ませ、固定部品に対する摺動部品の位置を固定し、固定部品と摺動部品との摺動の程度を微調整することが記載されている。
【0009】
ここで、
図16を用いて、特許文献1〜3に用いられている「ダブルナット」によるバックラシュ防止機構を説明する。このダブルナットによるバックラシュ防止機構は、振動等によるナットの緩み止めとして用いられている。
図16(a)は、ボルト146に下部ナット142を取り付けて締め込んだ状態であり、
図16(a´)は、下部ナット142の噛み合いに関する部分詳細図である。
図16(b)は、下部ナット142の上方に上部ナット144を取り付けて締め込んだ状態であり、
図16(b´)は、下部ナット142の噛み合い部分に関する部分詳細図である。
図16(c)は、上部ナット144を固定して下部ナット142を逆方向に回転させた状態であり、
図16(c´)は、下部ナット142の噛み合い部分に関する部分詳細図である。
【0010】
図16(a)の状態では、ナットネジ上面148では、ボルト面とナット面とは密着して締付け力(f)が発生する。一方、ナットネジ下面150では、ボルト面とナット面とは隙間が発生する。
図16(b)の状態では、ボルト146と上部ナット144との噛み合いは、
図16(a)に示すように、ナットネジ上面148では、ボルト面とナット面とは密着して締付け力(f)が発生する。一方、ボルト146と下部ナット142とは、離間して締付け
力(f)はゼロとなる。
図16(c)の状態では、ボルト146と下部ナット142との噛み合いに関しては、ナットネジ下面150では、ボルト面とナット面とは密着して締付け力(f)が発生する。一方、ナットネジ上面148では、ボルト面とナット面とは隙間が発生する。つまり、
図16(c)に示すように、ボルト146と上部ナット144との噛み合いとは逆方向に締付け力が発生している。この相反する方向の締付け力がナットの緩み止めとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4838402号
【特許文献2】特許第5346069号
【特許文献3】特開平9−177924号公報
【特許文献4】特開2010−223611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に示す、バックラッシュを防止するために熱可塑性樹脂を内蔵したクッション樹脂部材を用いるという技術は、送りネジに接している樹脂ナットの面を発熱により液状化させ、ネジを止めた際に樹脂ナットが冷えて送りネジに接している面が固体化して送りネジのバックラッシュをロックする機構である。この機構では、樹脂が効果を発揮するまで時間がかかり、樹脂の劣化により性能が低下するなどの問題がある。
【0013】
特許文献2に示す、バックラッシュを防止するためにダブルナットを用いるという技術は、送りネジ式手動ステージにおいて操作方法が難しいという問題がある。
【0014】
また、特許文献4に示す、アリ溝式手動ステージの摺動固定ネジを利用してアリ溝式手動ステージの「ガタツキ」を防止する方法がある。この方法によれば、通常のアリ溝式手動ステージに何も付加することなくガタツキを防止することができる。しかし、アリ溝式手動ステージの摺動固定ネジを締めたまま手動ステージを位置合わせしなければならない。そのため、摺動固定ネジを締め付けることで発生する摩擦力により、摺動部品の移動操作に手間がかかるという問題がある。
【0015】
本願の目的は、かかる課題を解決し、手動ステージによる位置調整時に発生する、固定部品に対する摺動部品のいわゆる「ガタツキ」を簡易な構成及び操作により抑制するガタツキ抑制機構付き手動ステージを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明に係るガタツキ抑制機構付き手動ステージは、摺動部品に設けられ、内側に雌ネジが切られた雌ネジ筒と、固定部品に接続され、外側に雄ネジが切られた雄ネジ棒とが係合され、雄ネジ棒の回転操作により摺動部品を摺動させる送りネジ式手動ステージにおいて、雌ネジ筒は、摺動部品に設けられた凹部に収納される凸部と、雄ネジ棒が貫通する筒部本体と、筒部本体に設けられ
、開放端とスリット端とを有するスリット部と、スリット部の
開放端の幅を調整するガタツキ抑制ボルトと、からな
り、ガタツキ抑制ボルトを回転させると、筒部本体は、スリット端を回転中心とした回転動作を含みながらスリット部の開放端の幅が変化し、雄ネジと雌ネジとの噛合いは、スリット部の位置を境にして雄ネジ棒の左右で逆向きとなる、ことを特徴とする。
【0017】
上記構成により、固定部品と摺動部品とから構成されるアリ溝式の手動ステージにおいて、雌ネジ筒が摺動部品の凹部に係合される凸部を有し、雌ネジ筒は、雄ネジ棒が貫通し、内側に雌ネジが切られた筒部本体と、筒部本体に設けられたスリット部とから構成され、ガタツキ抑制ボルトによりこのスリット部の間隔を調整することで雌ネジの内部に軸圧を発生させ、送りネジ式手動ステージにおいてガタツキ抑制機構を簡易に付加することができる。
【0018】
また、ガタツキ抑制機構付き手動ステージは、筒部本体が凸部において摺動部品に設けられた凹部に係合され、スリット部が雄ネジ棒と交差する方向に設けられ、一方の端部がスリット部の開放端であり、他方の端部がスリット部のスリット端であり、ガタツキ抑制ボルトが筒部本体においてスリット部の開放端側に近接して設けられることが好ましい。
【0019】
すなわち、筒部本体が凸部において摺動部品の凹部に係合されることで、ガタツキ抑制ボルトの操作により筒部本体の移動を抑えることが可能になる。また、スリット部が雄ネジ棒と交差する方向に設けられ、一方の端部はスリット部の開放端であり、他方の端部はスリット部のスリット端であり、ガタツキ抑制ボルトが筒部本体においてスリット部の開放端側に近接して設けられる。この構成により、ガタツキ抑制ボルトを回転させて雌ネジの形状を変化させることが可能になる。すなわち、ガタツキ抑制ボルトを回転すると、スリット部の開口部の幅が変化し、スリット端を固定点として筒部本体が変形する。そして、その筒部本体の変形により雌ネジの形状が変化し、あたかも雌ネジのピッチを変化させたような効果を生み出す。これにより、容易に手動ステージにガタツキ抑制機構を持たせることができる。
【0020】
ここで、「スリット部の一方の端部が開放端であり、他方の端部がスリット端である」とは、雌ネジ筒の筒部本体は、U字状にスリットが設けられるが、U字の先端の部位に当たるのを開放端と称し、U字の底の部位に当たるのをスリット端と称す。
【0021】
また、ガタツキ抑制機構付き手動ステージは、ガタツキ抑制ボルトを回転させ、雌ネジの形状を変化させることで雌ネジ筒内部に軸圧を導入することが好ましい。このように、雌ネジの形状を変化させるという簡易な方法で手動ステージにガタツキ抑制機構を備えることができる。
【0022】
また、ガタツキ抑制機構付き手動ステージは、筒部本体が、ガタツキ抑制ボルトを回転させると、スリット端を回転中心とした回転動作を含みながらスリット部の開放端のスリット間隔を変化させることが好ましい。このように、雌ネジの形状を変化させ、雌ネジ筒内部に軸圧を導入して手動ステージにガタツキ抑制機構を導入することができる。
【0023】
また、ガタツキ抑制機構付き手動ステージは、ガタツキ抑制ボルトの回転により、筒部本体内の雄ネジ棒と雌ネジ筒のネジの噛み合いは、スリットの位置を境にして左右で逆向きとなり、それぞれ逆方向の締付け力が発生することが好ましい。このように、ダブルナットの緩み止めと同じ原理を応用し、筒部本体にスリットを設けてガタツキ抑制ボルトによりスリット幅を調節して雌ネジ筒に締付け力を導入するという手法により、手動ステージにガタツキ抑制機構を導入することができる。
【0024】
また、ガタツキ抑制機構付き手動ステージは、アリ溝ステージのアリ溝の横方向のガタツキを抑制するガタツキ抑制ネジについて、滑らかに摺動する領域を超えた締付領域で固定することで、雄ネジと雌ネジとのガタツキを事前に抑制することが好ましい。これにより、上述したガタツキ抑制機構に代替する簡易な手段を適用することができ、或いは、上述したガタツキ抑制機構に付加して適用することもできる。
【0025】
また、ガタツキ抑制機構付き手動ステージは、摺動固定ネジが、摺動固定ネジの孔周りに設けられた、例えばステンレス鋼等の硬い素材からなる軸圧分散板を挟んでアリ溝ステージの突起部に軸圧を導入することが好ましい。これにより、軸圧を適度に分散させることができ、軸圧が集中することで生じる摺動ムラを防止することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明に係るガタツキ抑制機構付き手動ステージによれば、手動ステージによる位置調整時に発生する、固定部品に対する摺動部品のいわゆる「ガタツキ」を簡易な構成及び操作により抑制するガタツキ抑制機構付き手動ステージを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係るガタツキ抑制機構付き手動ステージの一つの実施形態の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1の実施形態の内部のガタツキ抑制機構付き手動ステージを示すA−A透視図である。
【
図4】
図1の実施形態の内部のガタツキ抑制機構を上面から示す透視平面図である。
【
図5】送りネジ式手動ステージにおいて雌ネジ筒を摺動部品に固定し、回転操作部を回転させて摺動部品を固定部品に対して移動させる駆動機構を示す断面図及びC−C断面図である。
【
図6】ガタツキ抑制機構の構成を拡大して示す詳細断面図である。
【
図7】ガタツキ抑制ボルトにより雌ネジの形状を変化させて軸圧を導入するガタツキ抑制機構を示す説明図である。
【
図8】ガタツキ抑制機構付き手動ステージの他の駆動機構を示す斜視図である。
【
図9】
図8に示す他の駆動機構を示すA´−A´透視図である。
【
図10】
図8に示す他の駆動機構を上面から示す透視平面図である。
【
図11】
図8に示す他の駆動機構を示す断面図及びC´−C´断面図である。
【
図12】
図8に示す他の駆動機構の構成を拡大して示す詳細断面図である。
【
図13】
図8に示す他の駆動機構によるガタツキ抑制機構を示す説明図である。
【
図14】従来の送りネジ式手動ステージの概要を示す参考図である。
【
図15】従来のラックアンドピニオン式手動ステージにおいて、摺動固定ネジ及び摺動調節ネジによる摺動固定方法及び摺動調節方法を示す参考図である。
【
図16】従来のダブルナットによるバックラッシュ防止機構の原理を示す断面図及び部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、図面を用いて本発明に係るガタツキ抑制機構付き手動ステージ1につき、詳細に説明する。
図1に、ガタツキ抑制機構付き手動ステージ1の一つの実施形態の概略構成を示す。また、
図2に、
図1のガタツキ抑制機構付き手動ステージ1をA−A透視図で示す。また、
図3に、
図1のガタツキ抑制機構付き手動ステージ1をB−B側面図で示す。また、
図4に、
図1のガタツキ抑制機構付き手動ステージ1を上面から見た透視平面図で示す。
【0029】
図1に示すように、例えばカメラなどの精密機器は、摺動部品2に設けられた精密機器取付孔15に取り付けられる。また、
図2に示すように、固定部品3は例えば土台などに設けられた土台固定孔16に固定される。摺動部品2と固定部品3とは、共に裏面が相対するように設置される。そして、摺動部品2に設けられ、内側に雌ネジ25(
図5(a)参照)が切られた雌ネジ筒6と、固定部品3に接続され、外側に雄ネジ24(
図5(a)参照)が切られた雄ネジ棒5とが係合されることで摺動部品2と固定部品3とが接続する。また、雄ネジ棒5の端部には、軸受板7を介して回転操作部4が接続される。この回転操作部4では、六角レンチ9等により雄ネジ棒5を回転させることができる。また、軸受板7は、
図2に示すように軸受板固定ボルト1
7により固定部品3に固定される。そして、この軸受板7は、ナット13及びワッシャ14により雄ネジ棒5を支持して固定する。さらに、軸受板7と反対方向には、端部板29が設けられ、端部板固定ボルト35により固定部品3に固定される。また、摺動部品2の一部は、雄ネジ棒5の締め付けを容易にするため切欠部12が設けられている。この軸受板7の前後には、ワッシャ14を介して雄ネジ棒5及びナット13により予圧がかけられる。この予圧は、雄ネジ棒5及び回転操作部4の軸方向のガタツキと、軸受板7との面方向のガタツキを防止するためである。
【0030】
(送りネジ式手動ステージ)
図14に、従来の送りネジ式手動ステージ100の概要を示す。
図14(a)は、送りネジ式手動ステージ100の斜視図であり、
図14(b)は、送りネジ式手動ステージ100の内部を示す断面図である。上述した
図1〜
図4に示す本発明に係るガタツキ抑制機構付き手動ステージ1は、
図14に示す送りネジ式手動ステージ100をベースとしてガタツキ抑制機構120を付加した手動ステージである。そこで、
図14を用いて、送りネジ式手動ステージ100の概要を説明する。
【0031】
図14に示すように、送りネジ式手動ステージ100は、摺動部品2、固定部品3、及び、回転操作部4から構成される。そして、送りネジ式手動ステージ100は、摺動部品2に設けられ、内側に雌ネジ25が切られた雌ネジ筒6と、固定部品3に接続され、外側に雄ネジ24が切られた雄ネジ棒5とが、
図1に示す係合部8にて係合される。送りネジ式手動ステージ100は、回転操作部4で雄ネジ棒5を回転操作することにより摺動部品2を摺動させる駆動機構110(
図5参照)を備えている。このように、送りネジ式手動ステージ100は、摺動部品2に取り付けられた、例えばカメラなどの精密機器を、例えば土台などに固定された固定部品3に対して摺動させて位置調整を行う手動ステージであり、摺動部品2を所望の位置にセットするため搭載されたストッパである摺動固定ネジ132(
図15参照)を機能させて位置固定を行うことができる。
【0032】
(送りネジ式手動ステージにおける駆動機構)
図5に、送りネジ式手動ステージ100における駆動機構110を示す。
図5aは、駆動機構110の側面から見た断面図であり、
図5bは、
図5(a)のC−C断面図である。雄ネジ棒5は、ワッシャ14及び軸受板7を介して回転操作部4に接続している(
図2参照)。そして、
図5に示すように、雌ネジ筒6は筒部本体22から摺動部品2に向かって突起した凸部21を有し、この凸部21は摺動部品2の裏面に設けられた凹部20に係合している。従って、回転操作部4を回転させると雄ネジ24が雌ネジ筒6の内部の雌ネジ25に対して回転し、雌ネジ筒6が前後に移動する。この雌ネジ筒6の移動は、雌ネジ筒6の凸部21及び摺動部品2の裏面に設けられた凹部20を介して摺動部品2を固定部品3に対して駆動させる。そして、摺動部品2に取り付けられた、例えば、カメラ等の精密機器を所望の位置にセットする。
【0033】
送りネジ式手動ステージ100の駆動機構110における、いわゆる「ガタツキ」とは、雄ネジ24と雌ネジ25とが係合し合う駆動機構110において意図的に設けられた隙間のことである。この隙間がないと雄ネジ棒5と雌ネジ筒6とが干渉しあって回転操作ができなくなる。そのため、送りネジ式手動ステージ100においては、この隙間によるいわゆる「ガタツキ」は避けられない技術的な要素である。しかし、送りネジ式手動ステージ100を使用して光学機器などの精密機器の位置調整等を行う場合、一旦セットした位置が、この「ガタツキ」により位置が微妙に動いてしまうことは精度が狂う要因となり避けなければならない場合がある。
【0034】
(ガタツキ抑制機構付き手動ステージ)
図6及び
図7を用いて、ガタツキ抑制機構付き手動ステージ1におけるガタツキ抑制機構120を説明する。
図6に、ガタツキ抑制機構120の構成要素を示す。
図6(a)はガタツキ抑制機構120に関連する構成要素の断面図であり、
図6(b)は
図6(a)のE−E方向から見た断面図であり、
図6(c)は
図6(a)のD−D方向から見た断面図である。
【0035】
図6に示すように、ガタツキ抑制機構120の構成要素は、摺動部品2に設けられ、内側に雌ネジ25が切られた雌ネジ筒6と、固定部品3に接続され、外側に雄ネジ24が切られた雄ネジ棒5とが係合される。そして、この雄ネジ棒5の回転操作により摺動部品2を摺動させる送りネジ式手動ステージにおいて、雌ネジ筒6が摺動部品2に設けられた凹部20に収納される凸部21と、雄ネジ棒5が貫通する筒部本体22と、その筒部本体22に設けられたスリット部11と、このスリット部11の幅を調整するガタツキ抑制ボルト10とから構成される。この構成により、スリット部11を貫通するガタツキ抑制ボルト10を回転させ、雌ネジ25の形状を変化させて雌ネジ25の内部に軸圧を発生させることができる。なお、
図6(a)には、ガタツキ抑制ボルト10の締め付け前のスリット部11の幅を示す。
【0036】
図7に、ガタツキ抑制機構120によるガタツキ抑制の機構を示す。ガタツキ抑制機構付き手動ステージ1では、ガタツキ抑制はガタツキ抑制ボルト10により行われる。
図7(a)は、六角レンチ9等を用いて回転操作部4を回転方向R1に回転させ、それに伴い雄ネジ棒5を回転させて摺動部品2を所望の位置に移動させた状態を示す。このとき、摺動部品2に接続された、例えば、精密機器(図示せず)等も摺動部品2と同様に図中M1方向(摺動部品の摺動方向)に移動させて所望の位置にセットされる。回転操作部4の端部には、例えば、六角レンチ9用の挿入孔が設けられている。但し、摺動部品2を移動させて所望の位置にセットする手段については、この方法に限らず他の方法でも良い。
【0037】
図7(a)に示すように、雌ネジ筒6のスリット部11には、所定のスリット幅(d)が設けられている。本実施形態では、このスリット部11は、そのスリット幅(d)が一定な状態になっている。しかし、このスリット部11の形状は、これに限らず、スリット幅(d)が逆V字の形状であっても良く、また、スリット部11が逆U型の形状であっても良い。
【0038】
次に、ガタツキ抑制機構120によるガタツキ抑制の構成要素の働きについて詳細に説明する。筒部本体22は、凸部21において摺動部品2に設けられた凹部21に係合されている。これにより、ガタツキ抑制ボルト10の操作により筒部本体22の移動を抑えることが可能になる。また、スリット部11は、雄ネジ棒5と交差する方向に設けられる。また、スリット部11は、一方の端部が開放端31であり、他方の端部がスリット端32である。ここで、開放端31及びスリット端32とは、雌ネジ筒6の筒部本体22にスリットが設けられるが、スリットの開放側を開放端31と称し、筒部本体22とつながっている方をスリット端32と称す。スリットの幅が一定な状態から、ガタツキ抑制ボルト10をR2の方向(時計回り)に回転させると、
図7(b)に示すように、スリット部11の開放端31側のスリット幅(d)が減少する。
【0039】
図7(b)には、ガタツキ抑制ボルト10を回転させ、雌ネジ25の形状を変化させた状態を示す。ガタツキ抑制ボルト10を回転させ、雌ネジ25の形状を変化させることで雌ネジ筒6内部に軸圧を導入する。このガタツキ抑制ボルト10は、筒部本体22において、スリット部11の開放端31側に近接して設けられる。ガタツキ抑制ボルト10を回転させると、筒部本体22は、スリット端32を中心とした回転動作を含みながらスリット部11の開放端31のスリット幅(d)を変化させる。このように、ガタツキ抑制ボルト10を回転させ、スリット部11の開放端31のスリット間隔を収縮させることで、筒部本体22に設けられた雌ネジ25の形状を変化させることができる。なお、
図7(b)には、ガタツキ抑制ボルト10を回転させて雌ネジ25の形状を変化させた状態は、微妙な曲線になるため記載を省略して直線により表現する。
【0040】
図7(c)には、
図7(b)の状態での雄ネジ棒5の雄ネジ24と雌ネジ筒6の雌ネジ25の噛み合いの状態を示す。ガタツキ抑制ボルト10の回転により、雄ネジ24と雌ネジ25との噛合いの状況は、スリット部11の位置を境にして変化する。すなわち、一方の噛合い部26aでは、ネジ山の片側が密着して他方の側は離間する。他方の噛合い部26bでは、ネジ山の片側が離間して他方の側は密着する。このように、雌ネジ25の形状を変化させることで雌ネジ筒6内部に軸圧が導入され、固定部品3に対して摺動部品2を摺動させる際のガタツキが抑制される。
【0041】
本発明では、ガタツキ抑制ボルト10を時計回りに回転することでスリット部11のスリット幅(d)を収縮させて雌ネジ25の形状を
図7(c)のようにして軸圧を発生させることができる。一方、ガタツキ抑制ボルト10を反時計回りに回転することでスリット部11の収縮したスリット幅(d)を元に戻して「ガタツキ量」を制御することができる。この構成により、雄ネジ24と雌ネジ25とが係合し合う駆動機構110において発生する「ガタツキ」を抑制することが可能となる。さらに、ガタツキ抑制ボルト10の回転量によりこの「ガタツキ量」を制御することができる。
【0042】
(摺動調節ネジによるガタツキ抑制機構)
図15に、従来のラックアンドピニオン式手動ステージ130において、摺動固定ネジ132を用いて摺動部品2を固定する手段を示す。また、摺動調節ネジ118を用いて摺動部品2の摺動を調節する手段を示す。
図15(a)は、摺動固定ネジ132を上面から見た平面図である。
図15(b)は、
図15(a)のF−F断面図であり、摺動固定ネジ132の断面を示す。
図15(c)は、
図15(a)のG−G断面図であり、摺動調節ネジ118の断面を示す。ここでは、固定部品3の両側、又は片側の壁部136に逆三角形の突出部138と溝部134とを設け、摺動固定ネジ132を、摺動固定ネジ孔131を貫通させて突出部138に突き当てて摺動部品2を押さえ込ませ、固定部品3に対する摺動部品2の位置を固定する。また、複数の摺動調節ネジ118を、摺動調節ネジ孔119を貫通させ、その先端部133を突出部138に突き当てて摺動部品2を押し付ける。このように、摺動固定ネジ132が、摺動部品2を固定部品3に対して固定する役割を有するのに対し、摺動調節ネジ118は、摺動部品2の固定部品3に対するガタツキ及び摺動の滑らかさを調節する役割を担う。
【0043】
従来のラックアンドピニオン式手動ステージ130における摺動調節ネジ118を、
図3に示すガタツキ抑制機構付き手動ステージ1にて、軸圧分散板28を介してガタツキ抑制ネジ27として適用する。すなわち、
図3に示すように、固定部品3の両側の壁部36に逆三角形の突出部38と溝部34とを設け、ガタツキ抑制ネジ27を貫通させて突出部38に突き当てて摺動部品2を押さえ込ませ、固定部品3に対する摺動部品2の摺動の程度を調節する。この複数のガタツキ抑制ネジ27により固定部品3と摺動部品2との「ガタツキ」を抑制する。
【0044】
このように、従来、アリ溝ステージのアリ溝の横方向のガタツキを抑制するガタツキ抑制ネジ27について、滑らかに摺動する領域を超えた締付領域で固定することで、雄ネジ24と雌ネジ25とのガタツキを事前に抑制する。
【0045】
図4に示すように、ガタツキ抑制ネジ孔30の孔周りに設けられた例えばステンレス鋼等の硬い素材の軸圧分散板28を挟んでガタツキ抑制機構付き手動ステージ1の突出部38に突き当てて摺動部品2を押し、固定部品3と摺動部品2との「ガタツキ」を抑制する。
【0046】
また、摺動部品2を移動させて位置合わせする際に、例えばステンレス鋼等の硬い素材の軸圧分散板28を挟んでガタツキ抑制機構付き手動ステージ1の突出部38に軸圧を導入する。これにより、軸圧を適度に分散することができ、かつ、摺動部品2の移動の手間が軽減されてスムースに摺動できる。
【0047】
図8〜
図13に、ガタツキ抑制機構付き手動ステージ1において雌ネジ筒6を摺動部品2に固定する他の駆動機構200の実施形態を示す。これは、
図1、
図2、
図4、
図5、
図6及び
図7に示す駆動機構に対して改良を加えた実施形態である。
図1、
図2、
図4、
図5、
図6及び
図7に示す実施形態では、雌ネジ筒6に設けられた1箇所の突起部23が、摺動部品2に設けられた凸部21に差し込まれて摺動部品2に係止されている。このディテールによると、雌ネジ筒6は摺動部品2に対して固定されずに浮いている(フローティング)ように挙動するため、雌ネジ筒6と摺動部品2との間で「こじれ」が生じないという特徴を有する。一方、摺動部品2に対して雌ネジ筒6が1箇所で係止されているため雌ネジ筒6が回転するという問題あった。また、手動ステージによる位置調整時において、バックラッシュによりガタが発生するという問題があった。他の駆動機構200は、この点を改良し、2個の固定ネジ210により雌ネジ筒6の回転を抑えると共に、固定ネジ孔220に挿入された固定ネジ210により雌ネジ筒6を摺動部品2に螺合させ、ガタを完全に止める機構とした。
【0048】
図8に、ガタツキ抑制機構付き手動ステージ1の他の駆動機構200の概略構成を斜視図で示す。また、
図9には、
図8に示す他の駆動機構200をA´−A´透視図で示す。また、
図10には、
図8に示す他の駆動機構200を上面から透視平面図で示す。
図11には、送りネジ式手動ステージにおいて雌ネジ筒6を摺動部品2に固定する他の駆動機構200を断面図及びC´−C´断面図で示す。また、
図12には、他の駆動機構200の構成を拡大して詳細断面図で示す。さらに、
図13には、他の駆動機構200によるガタツキ抑制機構を説明図で示す。
【0049】
以上の実施形態で説明されたガタツキ抑制機構付き手動ステージ1の構成、形状、大きさ、及び配置関係については、本発明が理解、実施できる程度に概略的に示したものにすぎない。従って、本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 ガタツキ抑制機構付き手動ステージ、2 摺動部品、3 固定部品、4 回転操作部、5 雄ネジ棒、6 雌ネジ筒、7 軸受板,8 係合部、9 六角レンチ、10 ガタツキ抑制ボルト、11 スリット部、12 切欠部、13 ナット、14 ワッシャ、15 精密機器取付孔、16 土台固定孔、17 軸受板固定ボルト、20 凹部、21 凸部、22 筒部本体、23 突起部、24 (雄ネジ棒の)雄ネジ、25 (雌ネジ筒の)雌ネジ、26a,26b (雄ネジと雌ネジの)噛合い部、27 ガタツキ抑制ネジ、28 軸圧分散板、29 端部板、30 ガタツキ抑制ネジ孔、31 開放端、32 スリット端、33,133 先端部、34,134 溝部、35 端部板固定ボルト、36,136 壁部、38,138 突出部、100 (従来の)送りネジ式手動ステージ、110 駆動機構、118 摺動調節ネジ、119 摺動調節ネジ孔、120 ガタツキ抑制機構、130 (従来の)ラックアンドピニオン式手動ステージ、131 摺動固定ネジ孔、132 摺動固定ネジ
、140 ダブルナット、142 下部ナット、144 上部ナット、146 ボルト、148 ナットネジ上面、150 ナットネジ下面、200 他の駆動機構、210 固定ネジ、220 固定ネジ孔、F 軸圧、f 締め付け力、d スリット幅、M
1 (摺動部品の)摺動方向、R1 (六角レンチによる)回転方向、R2 (ガタツキ抑制ネジの)回転方向。
【要約】
【課題】手動ステージによる位置調整時に発生する、固定部品に対する摺動部品のいわゆる「ガタツキ」を予め抑制するガタツキ抑制機構付き手動ステージを提供する。
【解決手段】ガタツキ抑制機構付き手動ステー
ジは、雌ネジ筒6が摺動部品2に設けられた凹部20に収納される凸部21と、雄ネジ棒5が貫通する筒部本体22と、筒部本体22に設けられたスリット部11と、スリット部11の幅(d)を調整するガタツキ抑制ボルト10とから構成され、ガタツキ抑制ボルト10を回転させてスリット部11のスリット幅(d)を変化させて雌ネ
ジに軸圧を導入し、手動ステージのいわゆる「ガタツキ」を抑制する。
【選択図】
図6