特許第6630670号(P6630670)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱瓦斯化学株式会社の特許一覧 ▶ MGCフィルシート株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6630670-合成樹脂積層体 図000004
  • 特許6630670-合成樹脂積層体 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6630670
(24)【登録日】2019年12月13日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】合成樹脂積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/02 20190101AFI20200106BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20200106BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20200106BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20200106BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20200106BHJP
【FI】
   B32B7/02
   B32B7/022
   B32B27/36 102
   B32B27/28
   G06F3/041 460
   G06F3/041 495
【請求項の数】16
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-532936(P2016-532936)
(86)(22)【出願日】2015年7月7日
(86)【国際出願番号】JP2015069475
(87)【国際公開番号】WO2016006589
(87)【国際公開日】20160114
【審査請求日】2018年5月1日
(31)【優先権主張番号】特願2014-141671(P2014-141671)
(32)【優先日】2014年7月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【弁理士】
【氏名又は名称】潮 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】平林 正樹
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−220590(JP,A)
【文献】 特開2000−071392(JP,A)
【文献】 特開2008−268913(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/079867(WO,A1)
【文献】 特開平05−059321(JP,A)
【文献】 特開2006−072694(JP,A)
【文献】 特開2009−133000(JP,A)
【文献】 特開2014−198454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
G02B 1/10−1/18
5/30
G02F 1/133−1/1347
G06F 3/03−3/047
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)を含む基材層、およびその少なくとも一方の面に積層された、熱可塑性樹脂(A)とは異なる熱可塑性樹脂(B)を含む高硬度層を備えた合成樹脂積層体であって、
(i)前記高硬度層の厚みは10〜250μmで、前記基材層と前記高硬度層の合計厚みは0.1〜2.0mmで、前記高硬度層/前記基材層の厚みの比が0.01〜0.8であり、
(ii)前記高硬度層の鉛筆硬度がF以上であり、
前記基材層に含まれる前記熱可塑性樹脂(A)が芳香族ポリカーボネート(a1)を含有する樹脂であり、
前記高硬度層に含まれる前記熱可塑性樹脂(B)が芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体(b1)とビニル系単量体を構成単位とする樹脂(b2)を含有する樹脂であって、
前記(b1)が、芳香族ビニル単量体単位45〜80質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位5〜45質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位10〜30質量%である芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体であり、
前記熱可塑性樹脂(B)が、前記(b1)の55〜90質量部と前記(b2)の45〜10質量部とのブレンド樹脂であり、
前記熱可塑性樹脂(A)および前記熱可塑性樹脂(B)には添加剤が混合されていてもよく、
前記高硬度層と前記基材層のそれぞれの引張弾性率が、1600MPa以上であり、
前記高硬度層と前記基材層の85℃環境下の引張弾性率の差が、|(高硬度層の引張弾性率)−(基材層の引張弾性率)|≦400MPaである、
合成樹脂積層体。
【請求項2】
前記基材層の前記高硬度層とは反対側の表面における水蒸気透過率が0.2〜0.6g/m・dayになるように第3層がさらに積層されており、高温高湿環境下に放置した後の前記合成樹脂積層体のカール形状が前記高硬度層側を凸、又は前記基材層側を凸に曲率半径R≧3.2mとなる積層体であり、
前記高温高湿環境下の放置が、前記合成樹脂積層体を、温度23℃、相対湿度50%の状態に24時間以上投入した後、温度85℃、相対湿度85%の状態で120時間保持し、さらに温度23℃、相対湿度50%の状態で4時間保持することである、請求項1に記載の合成樹脂積層体。
【請求項3】
前記(b2)が、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n―ブチル、アクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2エチルヘキシルのいずれかをビニル系単量体単位とする重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載の合成樹脂積層体。
【請求項4】
前記(b1)の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位がメチルメタクリレートを含むことを特徴とする請求項3に記載の合成樹脂積層体。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(B)が、重量平均分子量50,000〜300,000の前記芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体(b1)55〜90質量部と、重量平均分子量50,000〜500,000のメチルメタクリレート樹脂(b2)45〜10質量部とのブレンド樹脂であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の合成樹脂積層体。
【請求項6】
前記ポリカーボネート(a1)の重量平均分子量が25,000〜75,000であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか記載の合成樹脂積層体。
【請求項7】
前記高硬度層および/または前記基材層が紫外線吸収剤を含有することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか記載の合成樹脂積層体。
【請求項8】
前記高硬度層の表面上にハードコート処理を施した請求項1〜請求項7のいずれかを特徴とする合成樹脂積層体。
【請求項9】
前記樹脂積層体の片面または両面に、反射防止処理、防汚処理、耐指紋処理、帯電防止処理、耐候性処理および防眩処理のいずれか一つ以上を施した請求項1〜請求項8のいずれかに記載の合成樹脂積層体。
【請求項10】
前記基材層が、添加剤を含まない前記芳香族ポリカーボネート(a1)である前記熱可塑性樹脂(A)により形成されていて、
前記高硬度層が、500ppm以下のりん系添加剤および0.2%以下のステアリン酸モノグリセリドのみを含む前記熱可塑性樹脂(B)により形成されている、
請求項1〜請求項9のいずれかに記載の合成樹脂積層体。
【請求項11】
前記基材層が、前記芳香族ポリカーボネート(a1)である前記熱可塑性樹脂(A)で形成されていて、
前記高硬度層が、前記芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体(b1)と前記ビニル系単量体を構成単位とする樹脂(b2)とのアロイである前記熱可塑性樹脂(B)により形成されている、
請求項1〜請求項10のいずれかに記載の合成樹脂積層体。
【請求項12】
(iii)該合成樹脂積層体を、温度23℃、相対湿度50%の状態に24時間以上投入した後、温度85℃、相対湿度85%の状態で120時間保持し、さらに温度23℃、相対湿度50%の状態で4時間保持に放置した後のカール形状が、前記高硬度層側を凸に曲率半径R≧2.0mとなる、請求項1〜請求項11のいずれかに記載の合成樹脂積層体。
【請求項13】
請求項1〜請求項12のいずれかに記載の合成樹脂積層体を含む透明性基板材料。
【請求項14】
請求項1〜請求項12のいずれかに記載の合成樹脂積層体を含む透明性保護材料。
【請求項15】
請求項1〜請求項12のいずれかに記載の合成樹脂積層体を含むタッチパネル前面保護板。
【請求項16】
請求項1〜請求項12のいずれかに記載の合成樹脂積層体を含み、前記合成樹脂積層体の基材層側の水蒸気透過率が3.0〜20.0g/m・dayである、低水蒸気透過率板の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂積層体に関する。詳しくは、本発明は、透明性の基板材料や保護材料に使用され、基材層と表層樹脂層(高硬度層)を有する合成樹脂積層体であって、OCAとITO形成PETの貼り合せなど、基材層側の水蒸気透過率が小さい状態において、高温高湿環境下に放置した後のカールを抑制し、表面硬度に優れる合成樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂板は、透明性や耐衝撃性および耐熱性に優れ、防音隔壁やカーポート、看板、グレージング材、照明用器具、OA、電子機器のディスプレイやタッチパネル前面板などに利用されているが、表面硬度が低いために傷つきやすいという欠点があり、用途が制限されている。
特許文献1には、この欠点を改良する為に紫外線硬化樹脂などで表面をコーティングする方法や、ポリカーボネート樹脂とアクリル系樹脂を共押出した基板にハードコートを施す方法が提案されている。
しかし、ポリカーボネート樹脂の表面にハードコートを施したのでは要求される鉛筆硬度を満たす事ができず、高い表面硬度が要求される用途には使用できない場合がある。
また、アクリル系樹脂とポリカーボネート樹脂との積層体では、表面硬度がある程度向上し、電子機器のディスプレイやタッチパネル前面板などに広く使用されていたが、高温高湿環境に放置した後の板材が大きくカールするなどの形状安定性の問題があり、液晶ディスプレイカバーやタッチパネル前面板などの電子機器関連用途において、重大な欠陥となっていた。
【0003】
高温高湿環境下に放置した後のカールを抑える方法としてポリカーボネート樹脂層の両面にアクリル系樹脂層を積層する方法があるが、その積層体の片面に面衝撃を与えた際にその反対面のアクリル系樹脂層においてクラックを生じ易く、使用方法によっては問題となることがある。
【0004】
特許文献2には、高温高湿環境下に放置した後のカールを抑える方法として、吸水率がアクリル樹脂より低い樹脂であるメチルメタアクリレレート−スチレン共重合体をポリカーボネート樹脂上に積層させることを特徴とする積層体が開示されているが、ここで採用されている環境試験の40℃/90%という条件は、高温高湿の条件として不十分である。
【0005】
特許文献3には、高硬度変性ポリカーボネート樹脂をポリカーボネート樹脂上に積層することを特徴とする積層体が開示されているが、環境変化時の形状安定性については言及されていない。高温高湿環境下に放置した後の板材のカールの方向性については、ディスプレイの前面板などに使用される場合、表層樹脂層側を凸にするカールはある程度は許容され得るが、基材層側を凸にするカールは、外観上、特に好ましくない。
【0006】
特許文献4には、(メタ)アクリル酸エステルと脂肪族ビニルを構成単位とする樹脂をポリカーボネート樹脂上に積層することを特徴とする積層体が開示されており、高温高湿環境下に放置した後のカールの大きさが抑制されている。しかしながら、カールの方向については言及されていない。また特許文献5では、積層する異樹脂のTg差を規定するなどの方法で高温高湿環境下に放置した後のカールの大きさが抑制されているが、カールは、表層樹脂側を凸にするもの、および基材層側を凸にするもののどちらも発生している。
このように、これまで、高温高湿環境下に放置した後の形状について、表層樹脂側が凸となるカールのみに方向性を定め、なおかつカールの大きさを抑制した樹脂積層体はなかった。
【0007】
上述の事実に加え、通常、透明樹脂積層体をタッチパネルの前面板として使用する場合は、透明樹脂積層体の基材層側の面(表層樹脂側の面)に光学粘着シート(OCA)等の接着層を介してITO形成PET等に貼り合わせる。貼り合わせた場合、貼り合わせていない表面側と、貼り合わせた面側との水蒸気透過率が異なる。例えば、タッチパネル用のセンサーとして、OCA 50μmとITO形成PET 25μmを2枚ずつ積層させた場合、Lyssy水蒸気透過率計 L80−5000(PBI Dansenor製)で測定すると水蒸気透過率は0.6g/m・dayとなり、積層体のみで測定した場合の水蒸気透過率は18.4g/m・dayである。従って高温高湿環境下に放置した後のカールは、タッチパネル仕様に貼り合わせる事で大きく影響され、その影響は小さい方が望ましい。しかしながら、これまで、高温高湿環境下に放置した後の形状について、一方の表面側のみの水蒸気透過率が小さい状態におけるカールの大きさを抑制した樹脂積層体はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−103169号公報
【特許文献2】特開2010−167659号公報
【特許文献3】特表2009−500195号公報
【特許文献4】特再公表2011−145630号公報
【特許文献5】国際公開第2014/061817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、透明性の基板材料や保護材料に使用され、基材層側の水蒸気透過率が小さい状態において、高温高湿環境下に放置した後のカールが抑制可能であり、表面硬度に優れる合成樹脂積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、高温高湿環境下に放置した後に高硬度層側を凸に曲率半径Rが2.0m以上のカール形状となる積層体が、基材層側の水蒸気透過率が小さい状態で、高温高湿環境下に放置した後のカール抑制ができることを見出し、本発明に到達した。具体的には、本発明は以下の通りである。
【0011】
<1> 熱可塑性樹脂(A)を含む基材層、およびその少なくとも一方の面に積層された、熱可塑性樹脂(A)とは異なる熱可塑性樹脂(B)を含む高硬度層を備えた合成樹脂積層体であって、
(i)高硬度層の厚みは10〜250μmで、基材層と高硬度層の合計厚みは0.1〜2.0mmで、高硬度層/基材層の厚みの比が0.01〜0.8であり、
(ii)高硬度層の鉛筆硬度がF以上であり、
(iii)該合成樹脂積層体を高温高湿環境下に放置した後のカール形状が高硬度層側を凸に曲率半径R≧2.0mとなる、
合成樹脂積層体。
<2> 基材層の高硬度層とは反対側の表面における水蒸気透過率が0.2〜0.6g/m・dayになるように第3層がさらに積層されており、高温高湿環境下に放置した後のカール形状が高硬度層側を凸、又は基材層側を凸に曲率半径R≧3.2mとなる積層体であることを特徴とする<1>の合成樹脂積層体。
<3> 基材層に含まれる熱可塑性樹脂(A)がポリカーボネート(a1)を含有する樹脂であり、高硬度層に含まれる熱可塑性樹脂(B)が芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体(b1)とビニル系単量体を構成単位とする樹脂(b2)を含有する樹脂であって、前記(b1)が、芳香族ビニル単量体単位45〜80質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位5〜45質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位10〜30質量%である芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体であり、樹脂(B)が、前記(b1)の50〜100質量部と前記(b2)の50〜0質量部とのブレンド樹脂であることを特徴とする<1>または<2>の合成樹脂積層体。
<4> 前記(b1)の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位がメチルメタクリレートである事を特徴とする上記<3>に記載の合成樹脂積層体。
<5> 前記樹脂(B)が、重量平均分子量50,000〜300,000の前記芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体(b1)50〜100質量部と、重量平均分子量50,000〜500,000のメチルメタクリレート樹脂(b2)50〜0質量部とのブレンド樹脂であることを特徴とする上記<3>または<4>に記載の合成樹脂積層体。
<6> 前記ポリカーボネート(a1)の重量平均分子量が25,000〜75,000であることを特徴とする上記<1>〜<5>のいずれかに記載の合成樹脂積層体。
<7> 前記高硬度層および/または前記基材層が紫外線吸収剤を含有することを特徴とする上記<1>〜<6>のいずれかを特徴とする合成樹脂積層体。
<8> 前記高硬度層の表面上にハードコート処理を施した上記<1>〜<7>のいずれかに記載の合成樹脂積層体。
<9> 前記樹脂積層体の片面または両面に、反射防止処理、防汚処理、耐指紋処理、帯電防止処理、耐候性処理および防眩処理のいずれか一つ以上を施した上記<1>〜<8>のいずれかに記載の合成樹脂積層体。
<10> 前記高硬度層と前記基材層のそれぞれの引張弾性率が、1600MPa以上である、上記<1>〜<9>のいずれかに記載の合成樹脂積層体。
<11> 前記高硬度層の引張弾性率と前記基材層の引張弾性率との差が、400MPa以下である、上記<1>〜<10>のいずれかに記載の合成樹脂積層体。
<12> 上記<1>〜<11>のいずれかに記載の合成樹脂積層体を含む透明性基板材料。
<13> 上記<1>〜<11>のいずれかに記載の合成樹脂積層体を含む透明性保護材料。
<14> 上記<1>〜<11>のいずれかに記載の合成樹脂積層体を含むタッチパネル前面保護板。
<15> 上記<1>〜<11>のいずれかに記載の合成樹脂積層体を含む低水蒸気透過率板の積層体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、OCAとITO形成PETの貼り合せなど、基材層側の水蒸気透過率が小さい状態において、高温高湿環境下に放置した後のカールを抑え、表面硬度に優れる合成樹脂積層体が提供され、該合成樹脂積層体は透明性基板材料や透明性保護材料として用いられる。具体的には、合成樹脂積層体は、携帯電話端末、携帯型電子遊具、携帯情報端末、モバイルPCいった携帯型のディスプレイデバイスや、ノート型PC、デスクトップ型PC液晶モニター、液晶テレビといった設置型のディスプレイデバイスなどに好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の合成樹脂積層体の室温および高温高湿環境下における状態を概略的に示す断面図である。
図2】従来例の合成樹脂積層体の室温および高温高湿環境下における状態を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について製造例や実施例等を例示して詳細に説明するが、本発明は例示される製造例や実施例等に限定されるものではなく、本発明の内容を大きく逸脱しない範囲であれば任意の方法に変更して行なうこともできる。
【0015】
<熱可塑性樹脂(A)>
熱可塑性樹脂(A)は、合成樹脂積層体の基材層を形成する主成分である。熱可塑性樹脂(A)は、主として、ポリカーボネート(a1)を含有する樹脂である。
【0016】
<ポリカーボネート(a1)>
本発明に使用されるポリカーボネート(a1)は、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む。即ち、−[O−R−OCO]−単位(Rが脂肪族基、芳香族基、又は脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を有するもの)を含むものであれば特に限定されるものではないが、特に下記式[1]の構造単位を含むポリカーボネートを使用することが好ましい。このようなポリカーボネートを使用することで、耐衝撃性に優れた樹脂積層体を得ることができる。
【化1】
具体的には、ポリカーボネート(a1)として、芳香族ポリカーボネート樹脂(例えば、ユーピロンS−2000、ユーピロンS−1000、ユーピロンE−2000)等が使用可能である。
本発明において、ポリカーボネート(a1)の重量平均分子量は、合成樹脂積層体の耐衝撃性および成形条件に影響する。つまり、重量平均分子量が小さすぎる場合は、合成樹脂積層体の耐衝撃性が低下するので好ましくない。重量平均分子量が高すぎる場合は、樹脂(a1)を含む樹脂層を積層させる時に過剰な熱源を必要とする場合があり、好ましくない。また成形法によっては高い温度が必要になるので、樹脂(a1)が高温にさらされることになり、その熱安定性に悪影響を及ぼすことがある。ポリカーボネート(a1)の重量平均分子量は、15,000〜75,000が好ましく、20,000〜70,000がより好ましい。さらに好ましくは25,000〜65,000である。
【0017】
本発明は、特定の芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体(b1)50〜100質量部と、ビニル系単量体を構成単位とする樹脂(b2)50〜0質量部をアロイした樹脂層(高硬度層)を、ポリカーボネート(a1)を含む樹脂層(基材層)の少なくとも片面に積層させて成る合成樹脂積層体であることを特徴とする合成樹脂積層体である。
【0018】
<熱可塑性樹脂(B)>
熱可塑性樹脂(B)は、合成樹脂積層体の高硬度層を形成する主成分である。熱可塑性樹脂(B)は、主として、芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体(b1)と、ビニル系単量体を構成単位とする樹脂(b2)とを含有する。
【0019】
<芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体(b1)>
本発明の積層体に用いられる前記(b1)は、芳香族ビニル単量体単位45〜80質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位5〜45質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位10〜30質量%である、特定の芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体である。
【0020】
芳香族ビニル単量体単位としては、スチレン、α―メチルスチレン、o―メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2、4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、t−ブチルスチレン等が挙げられる。これらの中でも、相溶性の観点からスチレンが特に好ましい。これらの芳香族ビニル単量体は1種類でも良く、2種以上の併用をしても良い。
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位としては、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n―ブチル、アクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2エチルヘキシル等が挙げられる。これらの中でビニル系単量体との相溶性の観点からメタクリル酸メチル(MMA)が好ましい。これらの(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は1種類でも良く、2種以上の併用をしても良い。
不飽和ジカルボン酸無水物単量体としては、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸等の酸無水物が挙げられ、ビニル系単量体との相溶性の観点から無水マレイン酸が好ましい。これらの不飽和ジカルボン酸無水物系単量体は1種類でも良く、2種以上の併用をしても良い。
【0021】
芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体(b1)の重量平均分子量は、100,000〜200,000が好ましく、120,000〜180,000がより好ましい。上記(b1)の重量平均分子量が50,000〜300,000において、(b2)ビニル系単量体を構成単位とする樹脂との相溶性が良好である。なお、(b1)の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び分子量分布(Mw/Mn)は、溶媒としてTHFやクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定を行うことができる。
【0022】
<ビニル系単量体を構成単位とする樹脂(b2)>
本発明で用いられるビニル系単量体を構成単位とする樹脂(b2)は、例えばアクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n―ブチル、アクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2エチルヘキシル等のビニル系単量体を単独重合したものが挙げられ、特に単量体単位として、メタクリル酸メチルが好ましい。また、前記単量体単位を2種類以上含んだ共重合体でも良い。
【0023】
本発明において、ビニル系単量体を構成単位とする樹脂(b2)の重量平均分子量は、芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体(b1)との混合(分散)のしやすさ、およびこれらのブレンド樹脂(B)の製造の容易さで決定される。つまり、ビニル系単量体を構成単位とする樹脂(b2)の重量平均分子量が大きすぎると(b1)と(b2)の溶融粘度差が大きくなりすぎる為に、両者の混合(分散)が悪くなって前記樹脂(B)の透明性が悪化する、あるいは安定した溶融混練が継続できないといった不具合が起こり得る。逆に、ビニル系単量体を構成単位とする樹脂(b2)の重量平均分子量が小さすぎると、樹脂(B)の強度が低下するので、合成樹脂積層板の耐衝撃性が低下するといった問題が発生し得る。ビニル系単量体を構成単位とする樹脂(b2)の重量平均分子量は、50,000〜700,000の範囲が好ましく、60,000〜550,000の範囲がより好ましい。さらに好ましくは70,000〜500,000の範囲である。
【0024】
<樹脂(B):芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体(b1)とビニル系単量体を構成単位とする樹脂(b2)の混合体>
本発明において、芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体(b1)とビニル系単量体を構成単位とする樹脂(b2)の質量比は、(b1)成分が50〜100質量部に対して(b2)成分が50〜0質量部である。好ましくは、(b1)成分が55〜90質量部に対して(b2)成分が45〜10質量部である。より好ましくは(b1)成分が60〜85質量部に対して(b2)成分が40〜15質量部である。この質量比内にすることにより、透明性を維持しつつ、表面硬度が優れ、OCAとITO形成PETの貼り合せなど、基材層側の水蒸気透過率が小さい状態において、高温高湿環境下に放置した後のカールを抑えるのに適した樹脂(B)となる。
【0025】
高硬度層の硬度については、鉛筆硬度F以上であり、好ましくは、鉛筆硬度H以上である。
【0026】
<各種材料製造方法>
本発明の合成樹脂積層体の形成方法は、特に限定されない。例えば、個別に形成した高硬度層と、ポリカーボネート(a1)(樹脂(A))を含む基材層とを積層して両者を加熱圧着する方法、個別に形成した高硬度層と基材層とを積層して、両者を接着剤によって接着する方法、高硬度層を形成する樹脂(B)と、ポリカーボネート樹脂(a1)(樹脂(A))とを共押出成形する方法、予め形成しておいた高硬度層を用いて、ポリカーボネート樹脂(a1)をインモールド成形して一体化する方法、などの各種方法があるが、製造コストや生産性の観点からは、共押出成形する方法が好ましい。
【0027】
本発明に使用されるポリカーボネート(a1)の製造方法は、公知のホスゲン法(界面重合法)、エステル交換法(溶融法)等、使用するモノマーにより適宜選択できる。
【0028】
本発明において、高硬度層の樹脂(B)の製造方法には特に制限はなく、必要な成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサー、スーパーミキサーなどの混合機を用いて予め混合しておき、その後バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸押出機、二軸押出機、加圧ニーダーなどの機械で溶融混練するといった公知の方法が適用できる。
【0029】
<合成樹脂積層体>
本発明において、高硬度層の厚さは、合成樹脂積層体の表面硬度や耐衝撃性に影響する。つまり、高硬度層の厚さが薄すぎると表面硬度が低くなり、好ましくない。高硬度層の厚さが大きすぎると耐衝撃性が悪くなり好ましくない。高硬度層の厚さは10〜250μmが好ましく、30〜200μmがより好ましい。さらに好ましくは60〜150μmである。
【0030】
本発明において、高硬度層と基材層の85℃環境下の引張弾性率は、合成樹脂積層体の剛性に影響する。つまり、85℃環境下の引張弾性率が低すぎると外力に対する変形が大きくなり、塗工やラミネートなどの加工性が劣り、好ましくない。高硬度層と基材層の引張弾性率は、それぞれ1600MPa以上であることが好ましく、より好ましくは、それぞれ1700MPa以上である。
また、高硬度層と基材層の85℃環境下の引張弾性率の差は|(高硬度層の引張弾性率)−(基材層の引張弾性率)|≦400MPaであることが好ましく、より好ましくは|(高硬度層の引張弾性率)−(基材層の引張弾性率)|≦300MPaである。このように、引張弾性率の差が小さい高硬度層と基材層とを用いることにより、高硬度層と基材層の層間での剥離を防止することができる。
【0031】
本発明において、合成樹脂積層体(シート)の全体厚さ、高硬度層厚さ、高硬度層の組成が、合成樹脂積層体の高温高湿環境下に放置した後のカールに影響する。
つまり、全体厚さが薄すぎると高温高湿環境下に放置した後のカールが大きくなり、全体厚さが厚い時には高温高湿環境下に放置した後のカールが小さくなる。
また、高硬度層の厚さが薄すぎると高温高湿環境下に放置した後のカールが小さくなるが硬度が低下し、表層厚さが厚い時には高温高湿環境下に放置した後のカールが大きくなるため、各々の全体厚さと高硬度層の厚さに合わせた高硬度層の組成を見出す必要がある。
具体的には、前記基材層と前記高硬度層の合計厚みは0.1〜2.0mm、好ましくは0.12〜1.5mm、より好ましくは0.15〜1.2mmであり、前記高硬度層/前記基材層の厚みの比が0.01〜0.8であり、好ましくは0.02〜0.7、より好ましくは0.04〜0.6である。
【0032】
また、合成樹脂積層体に基材層と高硬度層以外の層をさらに積層させることなく、そのままの状態で、詳細を後述する高温高湿の環境下に放置した後のカール形状は、高硬度層側を凸にして、曲率半径R≧2.0mとなることが好ましく、曲率半径R≧2.2mとなることがより好ましい。さらに好ましくは、曲率半径R≧2.4mである。そしてこの場合、基材層側を凸にするカールは生じないことが好ましい。すなわち、基材層と高硬度層以外の層をさらに積層させていない状態で高温高湿環境下に放置した後のカール形状は、曲率半径R=∞となることが好ましい。
以上のように、さらなる層を積層させない状態で高温高湿の環境下においたときに、高硬度層側を凸にしたカールのみを適当な範囲内で生じさせることにより、合成樹脂積層体の基材層側に第3層を積層させて基材層側の水蒸気透過率が低下した状態において、合成樹脂積層体に生じるカールを最小限に抑制することができる。
【0033】
合成樹脂積層体の基材層側の水蒸気透過率は、3.0〜20.0g/m・dayである。また、合成樹脂積層体の高硬度層側の水蒸気透過率は、2.0〜20.0g/m・dayである。
【0034】
また、合成樹脂積層体が、ITO形成PETなどの第3層と積層された場合、上述のように、第3層と接する面側の水蒸気透過率が低下する。第3層との積層により、例えば、合成樹脂積層体の基材層側の水蒸気透過率は、例えば、0.2〜0.6g/m・day程度となる。このように、第3層がさらに積層された状態で、合成樹脂積層体を高温高湿環境下に放置した後の合成樹脂積層体のカール形状は、高硬度層側を凸、又は前記基材層側を凸にして、曲率半径R≧3.2mとなる。より好ましくは、曲率半径R≧4.2mとなり、さらに好ましくは、曲率半径R≧5.6mである。
【0035】
本発明において、基材層を形成する熱可塑性樹脂(A)および/または高硬度層を形成する熱可塑性樹脂(B)には、上述の主たる成分以外の成分を含めることができる。
例えば、熱可塑性樹脂(A)および/または熱可塑性樹脂(B)には、紫外線吸収剤を混合して使用することができる。紫外線吸収剤の含有量が少なすぎると耐光性が足りなくなり、含有量が多すぎると成形法によっては過剰な紫外線吸収剤が高い温度がかかることによって飛散して成形環境を汚染するので不具合を起こすことがある。紫外線吸収剤の含有割合は0〜5質量%が好ましく、0〜3質量%がより好ましく、さらに好ましくは0〜1質量%である。紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系紫外線吸収剤、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチル酸フェニル、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなどのベンゾエート系紫外線吸収剤、ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケートなどのヒンダードアミン系紫外線吸収剤、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−エトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−プロポキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジンなどのトリアジン系紫外線吸収剤などが挙げられる。混合の方法は特に限定されず、全量コンパウンドする方法、マスターバッチをドライブレンドする方法、全量ドライブレンドする方法などを用いることができる。
【0036】
本発明において、高硬度層および/または基材層を形成する熱可塑性樹脂(A)および/または(B)には、各種添加剤を混合して使用することができる。添加剤としては、例えば、抗酸化剤や抗着色剤、抗帯電剤、離型剤、滑剤、染料、顔料、可塑剤、難燃剤、樹脂改質剤、相溶化剤、有機フィラーや無機フィラーといった強化材などが挙げられる。混合の方法は特に限定されず、全量コンパウンドする方法、マスターバッチをドライブレンドする方法、全量ドライブレンドする方法などを用いることができる。
【0037】
本発明において、高硬度層の表面、またはポリカーボネート基材層の表面にハードコート処理を施しても良い。例えば、熱エネルギーおよび/または光エネルギーを用いて硬化させるハードコート塗料を用いるハードコート処理によりハードコート層を形成する。熱エネルギーを用いて硬化させるハードコート塗料としては、例えば、ポリオルガノシロキサン系、架橋型アクリル系などの熱硬化性樹脂組成物が挙げられる。また、光エネルギーを用いて硬化させるハードコート塗料としては、例えば、1官能および/または多官能であるアクリレートモノマーおよび/またはオリゴマーからなる樹脂組成物に光重合開始剤が加えられた光硬化性樹脂組成物などが挙げられる。
【0038】
本発明における基材層上に施す、光エネルギーを用いて硬化させるハードコート塗料としては、例えば、1,9−ノナンジオールジアクリレート20〜60質量%と、1,9−ノナンジオールジアクリレートと共重合可能な2官能以上の多官能(メタ)アクリレートモノマーならびに2官能以上の多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーおよび/または2官能以上の多官能ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーおよび/または2官能以上の多官能エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーからなる化合物40〜80質量%とからなる樹脂組成物の100質量部に、光重合開始剤が1〜10質量部添加された光硬化性樹脂組成物などが挙げられる。
【0039】
本発明におけるハードコート塗料を塗布する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、スライドコート法、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、メニスカスコート法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ビートコート法、捌け法などが挙げられる。
ハードコートの密着性を向上させる目的で、ハードコート前に塗布面の前処理を行うことがある。処理例として、サンドブラスト法、溶剤処理法、コロナ放電処理法、クロム酸処理法、火炎処理法、熱風処理法、オゾン処理法、紫外線処理法、樹脂組成物によるプライマー処理法などの公知の方法が挙げられる。
【0040】
本発明における高硬度層、基材層及びハードコートの各材料、例えば、樹脂(A)および(B)等は、フィルター処理によりろ過精製されることが好ましい。フィルターを通して生成あるいは積層する事により異物や欠点といった外観不良が少ない合成樹脂積層体を得ることが出来る。ろ過方法に特に制限はなく、溶融ろ過、溶液ろ過、あるいはその組み合わせ等を使うことが出来る。
【0041】
使用するフィルターに特に制限はなく、公知のものが使用でき、各材料の使用温度、粘度、ろ過精度により適宜選ばれる。フィルターの濾材としては、特に限定されないがポリプロピレン、コットン、ポリエステル、ビスコースレイヨンやグラスファイバーの不織布あるいはロービングヤーン巻物、フェノール樹脂含浸セルロース、金属繊維不織布焼結体、金属粉末焼結体、ブレーカープレート、あるいはこれらの組み合わせなど、いずれも使用可能である。特に耐熱性や耐久性、耐圧力性を考えると金属繊維不織布を焼結したタイプが好ましい。
【0042】
ろ過精度は、基材層のポリカーボネート(a1)については、50μm以下、好ましくは30μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。またハードコート剤のろ過精度は、合成樹脂積層板の最表層に塗布される事から、20μm以下、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。
【0043】
高硬度層の樹脂(B)と基材層のポリカーボネート(a1)(樹脂(A))のろ過については、例えば熱可塑性樹脂溶融ろ過に用いられているポリマーフィルターを使うことが好ましい。ポリマーフィルターは、その構造によりリーフディスクフィルター、キャンドルフィルター、パックディスクフィルター、円筒型フィルターなどに分類されるが、特に有効ろ過面積が大きいリーフディスクフィルターが好適である。
【0044】
本発明の合成樹脂積層体には、その片面または両面に反射防止処理、防汚処理、帯電防止処理、耐候性処理および防眩処理のいずれか一つ以上を施すことができる。反射防止処理、防汚処理、帯電防止処理、耐候性処理および防眩処理の方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、反射低減塗料を塗布する方法、誘電体薄膜を蒸着する方法、帯電防止塗料を塗布する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
後述する製造例で得られた積層樹脂の物性測定、および実施例ならびに比較例で得られた合成樹脂積層体の評価は、以下のように行った。
【0046】
<AlとSiOの蒸着>
電子銃/抵抗加熱蒸着装置 BMC−800T(河合光学製)を使用し、基材層(A)にアルゴンでRFプラズマ処理後、Alを100μm蒸着し、さらにSiOを20μm蒸着した。その蒸着品についてLyssy水蒸気透過率計 L80−5000(PBI Dansenor製)を使用し、水蒸気透過率の測定を行うと水蒸気透過率0.2g/m・dayであり、タッチパネル用のセンサーを貼り合せた時とほぼ同様な値を示した。
【0047】
<85℃環境下の引張弾性率>
軸径50mmの単軸押出機にアダプター、Tダイとを有する単層押出装置を用いて、高硬度層と基材層の各種材料から、厚さが1mmの合成樹脂単層体をそれぞれ成形し、成形品の中央部でダンベル試験片を作成した。ダンベル試験片は23℃水中に3日間水漬けした後、水分を拭き取り、冷凍機式高温高湿槽を付属したオートグラフAGS−5kNX(島津製作所製)を使用して、85℃でJISK−7161記載の引張試験方法に準拠して、引張弾性率を測定した。
【0048】
<カール形状の評価(曲率半径Rと凹凸の方向)>
高温高湿環境に放置した後の積層体はカール形状をしているため、カールの形状を曲率半径と凹凸の方向を高硬度層(B)側を凸、又は基材層(A)側を凸で評価した。曲率半径(m)={弧長[m](=試験片の長さ)}/(8×矢高さ[m])と定義した。
【0049】
<高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価>
試験片を10cm×6cm四方に切り出した。試験片を2点支持型のホルダーにセットして温度23℃、相対湿度50%に設定した環境試験機に24時間以上投入して状態調整した後、ホルダーを温度85℃、相対湿度85%に設定した環境試験機の中に投入し、その状態で120時間保持した。さらに温度23℃、相対湿度50%に設定した環境試験機の中にホルダーごと移動し、その状態で4時間保持後にh(=矢高さ[m])を測定した。 矢高さの測定には、電動ステージ具備の3次元形状測定機を使用し、取り出した試験片を上に凸の状態で水平に静置し、1mm間隔でスキャンし、中央部の盛り上がりを矢高さとして測定し、(曲率半径[m])={0.116(=弧長[m])}/(8×h[m])でカールの形状を積層体のみとAlとSiOの蒸着した積層体(蒸着品)で評価した。
(積層体のみの場合)
良好(合格):高硬度層側を凸に、曲率半径R≧2.0mとなる。
不良(不合格):上記の範囲以外。
(蒸着品の場合)
良好(合格):高硬度層凸側を凸に、曲率半径R≧3.2mとなる。または、基材層側を凸に、曲率半径R≧3.2mとなる。
不良(不合格):上記の範囲以外。
【0050】
<鉛筆引っかき硬度試験>
JIS K 5600−5−4に準拠し、表面に対して角度45度、荷重750gで基材層(樹脂(A)の層)の表面に次第に硬度を増して鉛筆を押し付け、傷跡を生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を鉛筆硬度として評価した。
(積層体のみの場合)
良好(合格):鉛筆硬度F以上。
不良(不合格):上記の範囲以外。
(塗装品の場合)
良好(合格):鉛筆硬度2H以上。
不良(不合格):上記の範囲以外。
【0051】
<各種材料例>
熱可塑性樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)について、下記に示す材料を例示するが、これに限定されるわけではない。
A1:ポリカーボネート樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製ユーピロンS−1000
S−1000を用いた厚さが1mmの合成樹脂単層体の85℃環境下の引張弾性率は1977MPaであった。
B1:特定の芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体:電気化学工業(株)R−200
B2:特定の芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体:電気化学工業(株)R−100
B3:ビニル系単量体を含有する樹脂:クラレ(株)製メチルメタクリレート樹脂パラペットHR−L
B4:(メタ)アクリル酸エステルと脂肪族ビニルを構成単位とする樹脂:合成樹脂(D12)
【0052】
製造例1〔樹脂(B11)ペレットの製造〕
芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体(b1)としてR−200(電気化学工業製、重量平均分子量:185,000、芳香族ビニル単量体:(メタ)アクリル酸エステル単量体:不飽和ジカルボン酸無水物単量体の比=55:25:20)50質量%と、ビニル系単量体を構成単位とする樹脂(b2)であるメチルメタクリレート樹脂としてパラペットHR−L(クラレ製)50質量%と、りん系添加剤PEP36(ADEKA製) 500ppm、およびステアリン酸モノグリセリド(製品名:H−100、理研ビタミン製) 0.2%を仕込みブレンダーで20分混合後、スクリュー径26mmの2軸押出機(東芝機械製、TEM−26SS、L/D≒40)を用い、シリンダー温度240℃で溶融混錬して、ストランド状に押出してペレタイザーでペレット化した。ペレットは安定して製造できた。
上記のペレットを用いた厚さが1mmの合成樹脂単層体の85℃環境下の引張弾性率は1716MPaであった。
【0053】
製造例2〔樹脂(B12)ペレットの製造〕
特定の芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体(b1)としてR−200を60質量%と、ビニル系単量体を構成単位とする樹脂(b2)であるメチルメタクリレート樹脂としてパラペットHR−Lを40質量%と、りん系添加剤PEP36を500ppmおよびステアリン酸モノグリセリドを0.2%にし、製造例1と同様に混合、ペレット化を行った。ペレットは安定して製造できた。
上記のペレットを用いた厚さが1mmの合成樹脂単層体の85℃環境下の引張弾性率は1891MPaであった。
【0054】
製造例3〔樹脂(B13)ペレットの製造〕
特定の芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体(b1)としてR−200を70質量%と、ビニル系単量体を構成単位とする樹脂(b2)であるメチルメタクリレート樹脂としてパラペットHR−Lを30質量%と、りん系添加剤PEP36を500ppmおよびステアリン酸モノグリセリドを0.2%にし、製造例1と同様に混合、ペレット化を行った。ペレットは安定して製造できた。
上記のペレットを用いた厚さが1mmの合成樹脂単層体の85℃環境下の引張弾性率は1996MPaであった。
【0055】
製造例4〔樹脂(B14)ペレットの製造〕
特定の芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体(b1)としてR−100(電気化学工業製、重量平均分子量:170,000、芳香族ビニル単量体:(メタ)アクリル酸エステル単量体:不飽和ジカルボン酸無水物単量体の比=65:20:15)65質量%と、ビニル系単量体を構成単位とする樹脂(b2)であるメチルメタクリレート樹脂としてパラペットHR−Lを35質量%と、りん系添加剤PEP36を500ppmおよびステアリン酸モノグリセリドを0.2%にし、製造例1と同様に混合、ペレット化を行った。ペレットは安定して製造できた。
上記のペレットを用いた厚さが1mmの合成樹脂単層体の85℃環境下の引張弾性率は1885MPaであった。
【0056】
製造例5〔樹脂(B15)ペレットの製造〕
特定の芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体(b1)としてR−100を75質量%と、ビニル系単量体を構成単位とする樹脂(b2)であるメチルメタクリレート樹脂としてパラペットHR−Lを25質量%と、りん系添加剤PEP36を500ppmおよびステアリン酸モノグリセリドを0.2%にし、製造例1と同様に混合、ペレット化を行った。ペレットは安定して製造できた。
上記のペレットを用いた厚さが1mmの合成樹脂単層体の85℃環境下の引張弾性率は2089MPaであった。
【0057】
製造例6〔樹脂(B16)ペレットの製造〕
特定の芳香族ビニル−(メタ)アクリル酸エステル−不飽和ジカルボン酸共重合体(b1)としてR−100を85質量%と、ビニル系単量体を構成単位とする樹脂(b2)であるメチルメタクリレート樹脂としてパラペットHR−Lを15質量%と、りん系添加剤PEP36を500ppmおよびステアリン酸モノグリセリドを0.2%にし、製造例1と同様に混合、ペレット化を行った。ペレットは安定して製造できた。
上記のペレットを用いた厚さが1mmの合成樹脂単層体の85℃環境下の引張弾性率は2152MPaであった。
【0058】
製造例7〔高硬度層に被覆する光硬化性樹脂組成物(C11)の製造〕
撹拌翼を備えた混合槽に、トリス(2−アクロキシエチル)イソシアヌレート(Aldrich社製)60質量部と、ネオペンチルグリコールオリゴアクリレート(大阪有機化学工業社製、商品名:215D)40質量部と、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(チバ・ジャパン社製、商品名:DAROCUR TPO)1質量部と、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Aldrich社製)0.3質量部と、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(チバ・ジャパン社製、商品名:TINUVIN234)1質量部からなる組成物を導入し、40℃に保持しながら1時間撹拌して光硬化性樹脂組成物(C11:後述の表1参照)を得た。
【0059】
製造例8〔ポリカーボネート基材層に被覆する光硬化性樹脂組成物(C12)の製造〕
撹拌翼を備えた混合槽に、1,9−ノナンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業社製、商品名:ビスコート#260)40質量部と、6官能ウレタンアクリレートオリゴマー(新中村化学工業社製、商品名:U−6HA)40質量部と、コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸のモル比が1/2/4である縮合物20質量部と、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(チバ・ジャパン社製、商品名:DAROCUR TPO)2.8質量部と、ベンゾフェノン(Aldrich社製)1質量部と、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(チバ・ジャパン社製、商品名:TINUVIN234)1質量部からなる組成物を導入し、40℃に保持しながら1時間撹拌して光硬化性樹脂組成物(C12)を得た。
【0060】
比較製造例1〔樹脂(D11)ペレットの製造〕
パラペットHR−L100質量%と、りん系添加剤PEP36を500ppm、およびステアリン酸モノグリセリドを0.2%にし、製造例1と同様に混合、ペレット化を行った。ペレットは安定して製造できた。
上記のペレットを用いた厚さが1mmの合成樹脂単層体の85℃環境下の引張弾性率は1015MPaであった。
【0061】
比較製造例2〔樹脂(D12)ペレットの製造〕
メタクリル酸メチル酸メチル(三菱ガス化学製)77.000モル%とスチレン(和光純薬工業製)22.998モル%と、重合開始剤としてt−アルミパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルぺロックス575)0.002モル%からなる混合液を、ヘルカルリボン翼付き10L完全混合層に1kg/hで連続的に供給し、平均滞留時間2.5時間、重合温度150℃で連続重合を行い、重合槽の液面が一定となるように底部から連続抜き出し、脱溶媒装置に導入してペレット状のビニル共重合樹脂を得た。そのビニル共重合樹脂をイソ酪酸メチル(関東化学製)に溶解し、10質量%イソ酪酸メチル溶液を調製した。1000mLオートクレーブ装置に10質量%イソ酪酸メチル溶液を500質量部、10質量%Pd/C(NEケムキャット製)を1質量部仕込み、水素圧9MPa、200℃で15時間保持して、ビニル共重合樹脂の芳香族二重結合部位を水素化した。フィルターにより触媒を除去し、脱溶剤装置に導入して得られたペレットとりん系添加剤PEP36を500ppmおよびステアリン酸モノグリセリドを製造例1と同様に混合、ペレット化を行った。ペレットは安定して製造できた。
上記のペレットを用いた厚さが1mmの合成樹脂単層体の85℃環境下の引張弾性率は1527MPaであった。
【0062】
実施例1
軸径32mmの単軸押出機と、軸径65mmの単軸押出機と、全押出機に連結されたフィードブロックと、フィードブロックに連結されたTダイとを有する多層押出機に各押出機と連結したマルチマニホールドダイとを有する多層押出装置を用いて合成樹脂積層体を成形した。軸径32mmの単軸押出機に製造例1で得た樹脂(B11)を連続的に導入し、シリンダー温度240℃、吐出量を2.1kg/hの条件で押し出した。また軸径65mmの単軸押出機にポリカーボネート樹脂(A1)(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名:ユーピロンS−1000、重量平均分子量:27,000)を連続的に導入し、シリンダー温度270℃、吐出量を30.0kg/hで押し出した。全押出機に連結されたフィードブロックは2種2層の分配ピンを備え、温度270℃にして(B11)と(A1)を導入し積層した。その先に連結された温度270℃のTダイでシート状に押し出し、上流側から温度130℃、140℃、180℃とした3本の鏡面仕上げロールで鏡面を転写しながら冷却し、(B11)と(A1)の積層体(E11)を得た。得られた積層体(E11)の全体厚みは1.0mm、(B11)から成る層の厚みは中央付近で60μmであった。鉛筆引っかき硬度試験の結果はHで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、高硬度層側を凸に曲率半径が42.5m>R≧11.6mで合格であり、蒸着品では、基材層側を凸に曲率半径が20.3m>R≧14.2mで合格であり、総合判定で合格であった。
【0063】
実施例2
実施例1で使用した高硬度層(B11)の吐出量を3.5kg/hとし、ポリカーボネート樹脂(A1)の吐出量を28.7kg/hとした以外は、実施例1と同様として(B11)と(A1)の積層体(E12)を得た。得られた積層体の全体厚みは1.0mm、(B11)から成る層の厚みは中央付近で100μmであった。鉛筆引っかき硬度試験の結果はHで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、高硬度層凸側を凸に曲率半径が5.9m>R≧2.7mで合格であり、蒸着品では、高硬度層側を凸に曲率半径が17.1m>R≧9.9mで合格であり、総合判定で合格であった。
【0064】
実施例3
高硬度層を製造例2で得た樹脂(B12)とした以外は、実施例1と同様にして(B12)と(A1)の積層体(E13)を得た。得られた積層体の全体厚みは1.0mm、(B12)から成る層の厚みは中央付近で60μmであった。鉛筆引っかき硬度試験の結果はHで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、高硬度層側を凸に曲率半径が3.7m>R≧2.4mで合格であり、蒸着品では、基材層側を凸に曲率半径が79.1m>R≧26.4mで合格であり、総合判定で合格であった。
【0065】
実施例4
高硬度層を製造例3で得た樹脂(B13)とした以外は、実施例1と同様にして(B13)と(A1)の積層体(E14)を得た。得られた積層体の全体厚みは1.0mm、(B13)から成る層の厚みは中央付近で60μmであった。鉛筆引っかき硬度試験の結果はHで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、高硬度層側を凸に曲率半径が4.1m>R≧2.0mで合格であり、蒸着品では、高硬度側を凸に曲率半径が16.9m>R≧9.1mで合格であり、総合判定で合格であった。
【0066】
実施例5
高硬度層を製造例4で得た樹脂(B14)とした以外は、実施例1と同様にして(B14)と(A1)の積層体(E15)を得た。得られた積層体の全体厚みは1.0mm、(B14)から成る層の厚みは中央付近で60μmであった。鉛筆引っかき硬度試験の結果はFで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、高硬度側を凸に曲率半径が27.5m>R≧20.7mで合格であり、蒸着品では、基材層側を凸に曲率半径が4.6m>R≧3.3mで合格であり、総合判定で合格であった。
【0067】
実施例6
高硬度層を製造例4で得た樹脂(B14)とした以外は、実施例2と同様にして(B14)と(A1)の積層体(E16)を得た。得られた積層体の全体厚みは1.0mm、(B14)から成る層の厚みは中央付近で100μmであった。鉛筆引っかき硬度試験の結果はFで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、高硬度層側を凸に曲率半径が63.0m>R≧9.5mで合格であり、蒸着品では、基材層側を凸に曲率半径が5.1m>R≧3.8mで合格であり、総合判定で合格であった。
【0068】
実施例7
高硬度層を製造例5で得た樹脂(B15)とした以外は、実施例1と同様にして(B15)と(A1)の積層体(E17)を得た。得られた積層体の全体厚みは1.0mm、(B15)から成る層の厚みは中央付近で60μmであった。鉛筆引っかき硬度試験の結果はFで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、高硬度層側を凸に曲率半径が41.5m>R≧7.5mで合格であり、蒸着品では、基材層側を凸に曲率半径が10.8m>R≧6.1mで合格であり、総合判定で合格であった。
【0069】
実施例8
高硬度層を製造例5で得た樹脂(B15)とした以外は、実施例2と同様にして(B15)と(A1)の積層体(E18)を得た。得られた積層体の全体厚みは1.0mm、(B15)から成る層の厚みは中央付近で100μmであった。鉛筆引っかき硬度試験の結果はFで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、高硬度層側を凸に曲率半径が8.5m>R≧3.4mで合格であり、蒸着品では、高硬度層側を凸に曲率半径が77.3m>R≧10.4mで合格であり、総合判定で合格であった。
【0070】
実施例9
高硬度層を製造例6で得た樹脂(B16)とした以外は、実施例1と同様にして(B16)と(A1)の積層体(E19)を得た。得られた積層体の全体厚みは1.0mm、(B16)から成る層の厚みは中央付近で60μmであった。鉛筆引っかき硬度試験の結果はFで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、高硬度層側を凸に曲率半径が16.4m>R≧4.8mで合格であり、蒸着品では、基材層側を凸に曲率半径が18.5m>R≧11.8mで合格であり、総合判定で合格であった。
【0071】
実施例10
高硬度層を製造例6で得た樹脂(B16)とした以外は、実施例2と同様にして(B16)と(A1)の積層体(E20)を得た。得られた積層体の全体厚みは1.0mm、(B16)から成る層の厚みは中央付近で100μmであった。鉛筆引っかき硬度試験の結果はFで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、高硬度層側を凸に曲率半径が7.6m>R≧3.4mで合格であり、蒸着品では、高硬度層側を凸に曲率半径が26.6m>R≧11.3mで合格であり、総合判定で合格であった。
【0072】
実施例11
実施例3で得た積層体(E13)の高硬度層(B12)上に、製造例7で得た光硬化性樹脂組成物(C11)を硬化後の塗膜厚さが3〜8μmとなるようバーコーターを用いて塗布しPETフィルムで覆って圧着し、また(A1)から成る基材層上に製造例8で得た光硬化性樹脂組成物(C12)を硬化後の塗膜厚さが3〜8μmとなるようバーコーターを用いて塗布しPETフィルムで覆って圧着した。続いて、光源距離12cm、出力80W/cmの高圧水銀灯を備えたコンベアでラインスピード1.5m/分の条件で紫外線を照射し硬化させてPETフィルムを剥離し、高硬度層および基材層上にそれぞれ(C11)および(C12)から成るハードコート層を備えた積層体(F11)を得た。鉛筆引っかき硬度試験の結果は3Hで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、高硬度層側を凸に曲率半径が9.4m>R≧3.3mで合格であり、蒸着品では、基材層側を凸に曲率半径が58.6m>R≧12.5mで合格であり、総合判定で合格であった。
【0073】
実施例12
高硬度層を製造例2で得た樹脂(B12)とし、ポリカーボネート樹脂(A1)の吐出量を20.4kg/hとした以外は、実施例1と同様にして(B12)と(A1)の積層体を得た。得られた積層体の全体厚みは0.7mm、(B12)から成る層の厚みは中央付近で60μmであった。得られた積層体以外は実施例11と同様として、高硬度層および基材層上にそれぞれ(C11)および(C12)から成るハードコート層を備えた積層体(F12)を得た。鉛筆引っかき硬度試験の結果は3Hで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、高硬度層側を凸に曲率半径が30.6m>R≧4.6mで合格であり、蒸着品では、高硬度層側を凸に曲率半径が18.4m>R≧5.3mで合格であり、総合判定で合格であった。
【0074】
比較例1
高硬度層を製造例2で得た樹脂(B12)とした以外は、実施例2と同様にして(B12)と(A1)の積層体(E21)を得た。得られた積層体の全体厚みは1.0mm、(B12)から成る層の厚みは中央付近で100μmであった。鉛筆引っかき硬度試験の結果はHで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、高硬度層側を凸に曲率半径が1.8m>R≧1.3mで不合格であり、蒸着品では、基材層側を凸に曲率半径が3.0m>R≧2.4mで不合格であり、総合判定で不合格であった。
【0075】
比較例2
高硬度層を製造例3で得た樹脂(B13)とした以外は、実施例2と同様にして(B13)と(A1)の積層体(E22)を得た。得られた積層体の全体厚みは1.0mm、(B13)から成る層の厚みは中央付近で100μmであった。鉛筆引っかき硬度試験の結果はHで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、高硬度層側を凸に曲率半径が1.6m>R≧1.0mで不合格であり、蒸着品では、基材層側を凸に曲率半径が2.4m>R≧2.2mで不合格であり、総合判定で不合格であった。
【0076】
比較例3
高硬度層を製造例2で得た樹脂(B12)とし、ポリカーボネート樹脂(A1)の吐出量を19.1kg/hとした以外は、実施例1と同様にして(B12)と(A1)の積層体(E23)を得た。得られた積層体の全体厚みは0.7mm、(B12)から成る層の厚みは中央付近で60μmであった。鉛筆引っかき硬度試験の結果はHで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、高硬度層側を凸に曲率半径が1.5m>R≧1.2mで不合格であり、蒸着品では、基材層側を凸に曲率半径が1.8m>R≧1.5mで不合格であり、総合判定で不合格であった。
【0077】
比較例4
高硬度層を製造例2で得た樹脂(B12)とし、ポリカーボネート樹脂(A1)の吐出量を19.1kg/hとした以外は、実施例1と同様にして(B12)と(A1)の積層体(E24)を得た。得られた積層体の全体厚みは0.7mm、(B12)から成る層の厚みは中央付近で100μmであった。鉛筆引っかき硬度試験の結果はHで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、高硬度層側を凸に曲率半径が1.3m>R≧0.9mで不合格であり、蒸着品でも、基材層側を凸に曲率半径が1.5m>R≧1.3mで不合格であり、総合判定で不合格であった。
【0078】
比較例5
比較例1で得た積層体(E21)に、実施例11と同様として、高硬度層および基材層上にそれぞれ(C11)および(C12)から成るハードコート層を積層させて積層体(F13)を得た。鉛筆引っかき硬度試験の結果は3Hで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、高硬度層側を凸に曲率半径が1.9m>R≧1.7mで不合格であり、蒸着品でも、高硬度層凸側を凸に曲率半径が3.0m>R≧2.7mで不合格であり、総合判定で不合格であった。
【0079】
比較例6
比較例4で得た積層体(E24)に、実施例11と同様として、高硬度層および基材層上にそれぞれ(C11)および(C12)から成るハードコート層を積層させて積層体(F14)を得た。鉛筆引っかき硬度試験の結果は3Hで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、高硬度層側を凸に曲率半径Rが1.8m>≧1.3mで不合格であり、蒸着品でも、高硬度層側を凸に曲率半径が2.0m>R≧1.5mで不合格であり、総合判定で不合格であった。
【0080】
比較例7
高硬度層を比較製造例1で得た樹脂(D11)とした以外は、実施例1と同様にして(D11)と(A1)の積層体を得た。得られた積層体の全体厚みは1.0mm、(D11)から成る層の厚みは中央付近で60μmであった。得られた積層体以外は実施例11と同様として、高硬度層および基材層上にそれぞれ(C11)および(C12)から成るハードコート層を備えた積層体(F15)を得た。鉛筆引っかき硬度試験の結果は4Hで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、基材層側を凸に曲率半径が1.5m>R≧1.2mで不合格であり、蒸着品でも、基材層側を凸に曲率半径が1.1m>R≧0.9mで不合格であり、総合判定で不合格であった。
【0081】
比較例8
高硬度層を比較製造例2で得た樹脂(D12)とした以外は、実施例1と同様にして(D12)と(A1)の積層体を得た。得られた積層体の全体厚みは1.0mm、(D12)から成る層の厚みは中央付近で60μmであった。得られた積層体に、実施例11と同様として、高硬度層および基材層上にそれぞれ(C11)および(C12)から成るハードコート層を積層させて積層体(F16)を得た。鉛筆引っかき硬度試験の結果は4Hで合格であり、高温高湿環境下に放置した後のカール形状の評価は、積層体のみでは、基材層側を凸に曲率半径が36.1m>R≧15.7mで不合格であり、蒸着品でも、高硬度層側を凸に曲率半径が3.0m>R≧2.1mで不合格であり、総合判定で不合格であった。
【0082】
実施例及び比較例、表1により、i)高硬度層(B)の鉛筆硬度がF以上であり、ii)積層体のみの高温高湿環境下に放置した後のカール形状が高硬度層(B)側を凸に曲率半径R≧2.0mとなる合成樹脂積層体が、水蒸気透過率を低下させるAl+SiO2蒸着した積層体の高温高湿環境下に放置した後のカール形状が高硬度層(B)側を凸、又は基材層(A)側を凸に曲率半径R≧3.2mに収めることが確認された。
【表1】
【0083】
以上のように、本発明の合成樹脂積層体は、高硬度と基材層とが積層されていて、基材層側の水蒸気透過率が小さい状態において、高温高湿環境下に放置した後のカールを抑制する特徴を有する。例えば、図1(A)に示すように、基材層22と表層24(高硬度層)とハードコート層28を積層させた本発明の合成樹脂積層体20は、そのままの状態で高温高湿環境下におくと、表層24(高硬度層)を凸とするように、若干のカールを生じる。そして図1(B)に示すように、合成樹脂積層体20をITO層26に張り合わせた状態で高温高湿環境下におくと、基材層22側と表層24(高硬度層)側との水蒸気透過率に差が生じる結果、カールの発生を大幅に抑制することができる。なお、図1中の矢印の大きさは、水蒸気透過率の値を概略的に示しており、大きい矢印が付されている部材は、水蒸気透過率が高いことを意味する。
一方、例えば、図2(A)に示すように、従来例の合成樹脂積層体10では、そのままの状態で高温高湿環境下に放置した後、基材層12を凸とするようにカールが生じる。このような従来例の合成樹脂積層体10をITO層16に張り合わせた状態で高温高湿環境下に放置した後、図2(B)に示すように、大きなカールが発生してしまう。この結果、合成樹脂積層体10を含む部材の表面の外観を損なう上に、長期的には、合成樹脂積層体10がITO層16から剥離してしまう可能性が高まる。
また、基材層と表層(高硬度層)の引張弾性率を高くし、かつ、基材層の引張弾性率の値と表層(高硬度層)の引張弾性率の値との差を小さく抑えた各実施例においては、上述のように良好な結果が認められるのに対し、引張弾性率の値の低い表層(高硬度層)を採用し、基材層の引張弾性率の値と表層(高硬度層)の引張弾性率の値との差が大きい比較例7および8においては、特に、高温高湿環境下に放置後の積層体のカールが大きくなった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように、高温高湿環境下に放置した際に生じるカールを抑制する本発明の合成樹脂積層体は、透明性基板材料、透明性保護材料などとして好適に用いられ、特にOA機器・携帯電子機器の表示部前面板やタッチパネル基板さらには熱曲げ加工用シートとして好適に用いられる。
【符号の説明】
【0085】
10 従来例の合成樹脂積層体
20 合成樹脂積層体
12,22 基材層
14,24 表層(高硬度層)
16,26 ITO層
18,28 ハードコート層
図1
図2