特許第6630673号(P6630673)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱瓦斯化学株式会社の特許一覧 ▶ MGCフィルシート株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6630673-光学シートおよびその製造方法 図000005
  • 特許6630673-光学シートおよびその製造方法 図000006
  • 特許6630673-光学シートおよびその製造方法 図000007
  • 特許6630673-光学シートおよびその製造方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6630673
(24)【登録日】2019年12月13日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】光学シートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/02 20060101AFI20200106BHJP
   F21V 5/04 20060101ALI20200106BHJP
   F21V 5/02 20060101ALI20200106BHJP
   F21V 5/00 20180101ALI20200106BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20200106BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20200106BHJP
【FI】
   G02B5/02 C
   F21V5/04 200
   F21V5/02 100
   F21V5/00 100
   B32B27/36 102
   B32B27/34
【請求項の数】14
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-552044(P2016-552044)
(86)(22)【出願日】2015年9月29日
(86)【国際出願番号】JP2015077451
(87)【国際公開番号】WO2016052475
(87)【国際公開日】20160407
【審査請求日】2018年6月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-204352(P2014-204352)
(32)【優先日】2014年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【弁理士】
【氏名又は名称】潮 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】柿木 修
(72)【発明者】
【氏名】武田 聖英
(72)【発明者】
【氏名】大野 翔太朗
(72)【発明者】
【氏名】大西 猛史
(72)【発明者】
【氏名】杉山 真隆
【審査官】 植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−156944(JP,A)
【文献】 特開2014−151487(JP,A)
【文献】 特表2008−537792(JP,A)
【文献】 特開2010−134429(JP,A)
【文献】 特開2012−171260(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0276980(US,A1)
【文献】 特開2012−32821(JP,A)
【文献】 特開2012−11732(JP,A)
【文献】 特開2012−236381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00− 5/136
G02B 1/00− 1/18
G02B 3/00− 3/14
B32B 1/00−43/00
B29D11/00
F21V 5/00− 5/04
B29D 7/00− 7/01
B29C48/16−48/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂を含む第1層、ポリアミド樹脂を含む第2層、及び第3層が共押出成形にて積層された光学シートであって、
前記第1層と前記第3層との間に前記第2層が積層されていて、
前記第1層と前記第2層、及び前記第2層と前記第3層とは界面にて剥離可能であり、
前記第1層の外側表面において微細凹凸形状が形成されていることを特徴とする光学シート。
【請求項2】
前記第3層がポリカーボネート樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載の光学シート。
【請求項3】
前記第1層及び前記第3層が、同一の材質で形成されていることを特徴とする請求項2に記載の光学シート。
【請求項4】
前記第1層の外側表面とともに前記第3層の外側表面においても微細凹凸形状が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光学シート。
【請求項5】
前記第1層と前記第2層との界面、および/または前記第2層と前記第3層との界面において微細凹凸形状が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光学シート。
【請求項6】
前記第1層の厚みが30〜250μmの範囲にあることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の光学シート。
【請求項7】
前記第2層に含まれるポリアミド樹脂が、結晶性ポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の光学シート。
【請求項8】
前記第2層に含まれるポリアミド樹脂が非晶性ポリアミド樹脂であり、
前記第1層に含まれるポリカーボネート樹脂のガラス転移温度と、前記第2層に含まれる非晶性ポリアミド樹脂のガラス転移温度との差が±40℃以内の範囲にあることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の光学シート。
【請求項9】
前記第1層に含まれるポリカーボネート樹脂と前記第2層に含まれるポリアミド樹脂との260℃における溶融粘度比が、剪断速度が100s−1の時に、1:5〜5:1の範囲にあることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の光学シート。
【請求項10】
前記第1層と前記第2層との180度ピール試験における剥離強度、および/または前記第3層と前記第2層との180度ピール試験における剥離強度が、試験速度を150mm/min、クランプでチャッキングして走査させる方のシート層の厚みを50〜150μmとした場合に、1〜100N/mの範囲にあることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の光学シート。
【請求項11】
前記微細凹凸形状がマット形状、プリズム形状、マイクロレンズ形状のいずれかであることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の光学シート。
【請求項12】
前記第3層が、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、 ポリ塩化ビニリデン、ポリ乳酸、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、ポリスチレン、ABS樹脂、 アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエステル、ナイロン、アラミド、ポリアミド、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS樹脂)、シクロオレフィンポリマー(COP)から選択される樹脂を含むことを特徴とする、請求項1に記載の光学シート。
【請求項13】
ポリカーボネート樹脂を含む第1層、ポリアミド樹脂を含む第2層、及び第3層を、共押出成形にてシート状にして前記第1層と前記第3層との間に前記第2層を積層させる工程を有し、
表面に微細凹凸構造を有する賦形用冷却ロールと、圧着ロールとの間で、前記第1層、前記第2層、及び前記第3層の3つの層の積層体を狭圧することにより、前記第1層の外側表面に微細凹凸形状を賦与することを特徴とする光学シートの製造方法。
【請求項14】
前記圧着ロールが、金属剛体ロール、もしくは金属弾性ロールであることを特徴とする請求項13に記載の光学シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学シートおよびその製造方法に関する。本発明の光学シートは、テレビをはじめとする各種ディスプレイ装置や、照明機材、デジタルサイネージなど各種表示装置の輝度向上や視野角改善に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂シートの溶融押出成形を行う際、しばしば、表面に微細凹凸構造を有する賦形用冷却ロールを用いて、その微細凹凸構造をシート表面に転写することで、熱可塑性樹脂から成るシート成形品の表面に様々な機能を付与している。例えば、表面に微細なプリズム構造を設けたロールを用いて、当該プリズム構造を転写させることにより、高機能の輝度向上シートを溶融押出成形にて製造している。
【0003】
このようなシート成形品を溶融押出成形するためには、一般的に、Tダイやコートハンガーダイのリップ部から流出した溶融状態の熱可塑性樹脂から成るシートを、表面に微細凹凸構造を有する賦形用冷却ロールと圧着ロールとの間で圧着する。一般的には、シートの厚みが薄ければ薄いほど、微細凹凸構造の転写性が低下してしまう傾向がある。これはダイリップからロール圧着部(賦形用冷却ロールと圧着ロールでの圧着箇所)までのエアギャップと呼ばれている領域において、シート状の溶融樹脂が冷え易いこと、更には、ロール圧着部においても賦形用冷却ロールへの伝熱等によって相対的に速く固化してしまうことなどが挙げられる。
【0004】
溶融押出成形により製造される薄いシートの転写性を向上させるために、ダイやロールの設定温度を高くすることや、圧着圧力を上げるという試みがなされている。しかしながら、ダイ設定温度やロール設定温度が高過ぎると、賦形用冷却ロールと圧着ロール間でのプレスから、賦形用冷却ロールを離れてシートが剥離するまでの間に熱可塑性樹脂が十分に固化冷却されず、シート成形品が賦形用冷却ロールに粘着してしまい、剥離マークと呼ばれる外観不良が発生する。それ故、ダイやロールの設定温度を高くすることには限界がある。また、圧着圧力を上げ過ぎると、ロール剛性が不足している場合にはロールベンディングが発生し、シート成形品の膜厚制御が難しくなり、あるいは又、均一転写が困難になるといった不具合が発生する。
【0005】
溶融押出成形による形状転写型の光学シートの製造方法として、易剥離性を有する保護フィルムからなる第1層と、光学形状を有するフィルムからなる第2層とを共押出法により積層させる工程を有し、前記保護フィルムからなる第1層がポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂からなり、かつ前記第2層における光学形状を、前記保護フィルムからなる第1層と接しない面に形成させるという方法が、特開2012−66410号公報に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2012−66410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開平2012−66410号公報における光学シートの製造方法は、光学シートをロール状に巻いた際のシート表裏面の擦れ合いによるスクラッチの防止を主眼としたものであり、更に副次的な効果として、ハンドリング性の向上や低コスト化、光学シート裏面側へのマット柄賦与等が挙げられてはいるが、溶融押出成形時における微細凹凸構造の転写性向上を狙ったものではない。また、保護フィルムからなる第1層をポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂にて構成しているため、これらの樹脂の結晶性が高い場合には、冷却固化時の層間の体積収縮差によって反り(カール)が発生し易く、第1層と第2層が意図に反して剥離してしまうといった問題がある。更には、これらの樹脂は基本的に成形温度が低いため、微細凹凸構造の転写率を上げようとしてダイ等の設定温度を高くした場合、樹脂分解等が発生して、シートの外観に悪影響が出るなどの問題もある。即ち、ポリカーボネート樹脂のような、成形温度が非常に高くて、非晶性の極性高分子材料である樹脂を一方の層の材料として使用する場合には、成形温度が相対的に低く、結晶性の高い非極性高分子材料であるポリオレフィン樹脂を二層構造の相手材(他方の層の材料)として使用することは極めて困難である。
【0008】
従って、本発明の目的は、溶融押出成形によるシートの反りや外観への悪影響を防止するとともに微細凹凸構造の転写性の向上を十分に図ることができる光学シートの製造方法と、反りがなく良好な外観を有し、かつシート厚さに対する溝深さの大きい高機能な光学シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の通りである。
(1)ポリカーボネート樹脂を含む第1層、ポリアミド樹脂を含む第2層、及び第3層が共押出成形にて積層された光学シートであって、
前記第1層と前記第3層との間に前記第2層が積層されていて、
前記第1層と前記第2層、及び前記第2層と前記第3層とは界面にて剥離可能であり、
前記第1層の外側表面において微細凹凸形状が形成されていることを特徴とする光学シートである。
(2)前記第3層がポリカーボネート樹脂を含むことを特徴とする上記(1)に記載の光学シートである。
(3)前記第1層及び前記第3層が、同一の材質で形成されていることを特徴とする上記(2)に記載の光学シートである。
(4)前記第1層の外側表面とともに前記第3層の外側表面においても微細凹凸形状が形成されていることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれかに記載の光学シートである。
(5)前記第1層と前記第2層との界面および/または前記第2層と前記第3層との界面において微細凹凸形状が形成されていることを特徴とする上記(1)から(4)のいずれかに記載の光学シートである。
(6)前記第1層の厚みが30〜250μmの範囲にあることを特徴とする上記(1)から(5)のいずれかに記載の光学シートである。
(7)前記第2層に含まれるポリアミド樹脂が、結晶性ポリアミド樹脂であることを特徴とする上記(1)から(6)のいずれかに記載の光学シートである。
(8)前記第2層に含まれるポリアミド樹脂が非晶性ポリアミド樹脂であり、
前記第1層に含まれるポリカーボネート樹脂のガラス転移温度と、前記第2層に含まれる非晶性ポリアミド樹脂のガラス転移温度との差が±40℃以内の範囲にあることを特徴とする上記(1)から(7)のいずれかに記載の光学シートである。
(9)前記第1層に含まれるポリカーボネート樹脂と前記第2層に含まれるポリアミド樹脂との260℃における溶融粘度比が、剪断速度が100s−1の時に、1:5〜5:1の範囲にあることを特徴とする上記(1)から(8)のいずれかに記載の光学シートである。
(10)前記第1層と前記第2層との180度ピール試験における剥離強度、および/または前記第3層と前記第2層との180度ピール試験における剥離強度が、試験速度を150mm/min、クランプでチャッキングして走査させる方のシート層の厚みを50〜150μmとした場合に、1〜100N/mの範囲にあることを特徴とする上記(1)から(9)のいずれかに記載の光学シートである。
(11)前記微細凹凸形状がマット形状、プリズム形状、マイクロレンズ形状のいずれかであることを特徴とする上記(1)から(10)のいずれかに記載の光学シートである。
(12)前記第3層が、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、 ポリ塩化ビニリデン、ポリ乳酸、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、ポリスチレン、ABS樹脂、 アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエステル、ナイロン、アラミド、ポリアミド、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS樹脂)、シクロオレフィンポリマー(COP)から選択される樹脂を含むことを特徴とする、上記(1)に記載の光学シートである。
(13)ポリカーボネート樹脂を含む第1層、ポリアミド樹脂を含む第2層、及び第3層を、共押出成形にてシート状にして前記第1層と前記第3層との間に前記第2層を積層させる工程を有し、
表面に微細凹凸構造を有する賦形用冷却ロールと、圧着ロールとの間で、前記第1層、前記第2層、及び前記第3層の3つの層の積層体を狭圧することにより、前記第1層の外側表面に微細凹凸形状を賦与することを特徴とする光学シートの製造方法である。
(14)前記圧着ロールが、金属剛体ロール、もしくは金属弾性ロールであることを特徴とする上記(13)に記載の光学シートの製造方法である。
(15)ポリカーボネート樹脂を含む単層の光学シートであって、少なくとも一方の外側表面において微細凹凸形状が形成されていて、光学シートの平均溝深さ(μm)/光学シートの厚さ(μm)の値が0.0375以上0.5以下であり、シート厚が1〜120μmであることを特徴とする光学シートである。
(16)押出成形により製造された連続シートである、上記(15)に記載の光学シートである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光学シートは、ポリカーボネート樹脂を含む第1層と、ポリアミド樹脂を含む第2層と、第3層とが共押出成形にて積層された光学シートであって、第1層と第3層との間に第2層が積層されていて、前記第1層と前記第2層、及び前記第2層と前記第3層とはその界面にて剥離可能であり、かつ、前記第1層の外側表面に微細凹凸形状が形成されている。これらの複数の層を有する光学シートは、溶融押出成形、即ち、微細凹凸構造転写時におけるシート全体の厚みを厚くすることが可能であるため、エアギャップ領域やロール間圧着時における樹脂の急速冷却を防止できるだけの十分な熱量を成形中の積層体に保持させることが可能であり、微細凹凸構造の転写性を著しく改善することができる。さらに、転写率の向上のために成形時の温度を特別に高く設定することは不要であるため、成形されるシートの外観を良好に保つことも容易に可能である。そして、共押出成形後にポリカーボネート樹脂を含む第1層とポリアミド樹脂を含む第2層とを剥離によって簡単に分離することが可能であるので、微細凹凸構造の転写率が高いにも関らず、非常に薄い光学シートを最終的に、すなわち積層体の剥離後に成形することができる。更に、表面に微細凹凸構造を有する賦形用冷却ロール同士を用いて狭圧をした場合は、一度の成形で、第1層と第3層から2枚の光学シートを得ることも可能である。
【0011】
加えて、ポリカーボネート樹脂とポリアミド樹脂は適度な剥離強度を有しているため、共押出成形にてシート化した際にも、成形中に界面剥離が発生したりすることもない。さらに、例えばポリアミド樹脂を非晶性とし、ポリカーボネート樹脂とのガラス転移温度差を±40℃以内とした場合には、成形収縮量をポリカーボネート樹脂とほぼ同程度とすることが可能であり、反りなどの問題が発生することもない。
また、共押出成形時の積層体の厚みを増すために使用し、剥離後、最終的に光学シートとして使用されない第2層、または第2層および第3層の樹脂は、回収し、再利用することも可能である。その為、光学シートとして利用されない樹脂層においては、予めポリカーボネート樹脂とポリアミド樹脂のリサイクル材料を使用してもよい。
また、このように、リサイクル材料を使用できることから、本発明によれば、光学シートの製造コストを抑えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明における第1の実施形態の光学シートの概略断面図である。
図2】本発明における第1の実施形態の光学シートの剥離構造の概略を説明するための断面図である。
図3】本発明における第2の実施形態の光学シートの概略断面図である。
図4】本発明における光学シートの製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
(I)光学シート
本発明においては、溶融押出成形法によって、表面に微細凹凸構造が高転写された超薄肉の光学シートを得ることができる。このような超薄肉の光学シートを得るために、詳細を後述するポリカーボネート樹脂と、ポリアミド樹脂、好ましくは結晶性ポリアミド樹脂、または非晶性ポリアミドのアロイ(非晶性ポリアミドの混合物)等を組み合わせて使用する。ポリカーボネート樹脂とポリアミド樹脂は共に極性材料であり、適度な接着力を有しているため、ポリオレフィン樹脂のような非極性材料で、且つ分子間力の弱い樹脂を使用した場合と比較すると、成形途中で剥離現象が起きるといった不具合現象を回避することができる。
また、ポリオレフィン系樹脂は結晶性を有する場合が多く、固化収縮量が極めて大きいため、ポリカーボネート樹脂のような非晶性材料と共押出成形を実施すると、反りが発生して、成形中にシートが丸まってしまったり、界面剥離が発生したりする可能性が高い。本発明の光学シートにおいては、ポリアミド樹脂を用いているので、ポリカーボネート樹脂と固化収縮量がほぼ同程度であり、反りなどの問題の発生を回避することができる。
【0014】
さらに、ポリオレフィン系樹脂は、ポリカーボネート樹脂と成形温度が著しく異なるので、ポリカーボネート樹脂との共押出成形を実施しようとすると、ポリオレフィン系樹脂の分解やゲル化が起きるケースが多々ある。特に、ポリオレフィン系樹脂の結晶性を下げる為に、第2成分、第3成分を添加したコポリマー材料に関しては、その傾向が強い。シート表面に微細凹凸構造を高転写で賦与するためには、ポリカーボネート樹脂の押出温度を上げる必要があるが、ポリオレフィン系樹脂の場合には、設定温度に制約が出てしまうので、共押出成形を実施したとしても、転写性を向上させることができない。
【0015】
これに対し、本発明の光学シートにおいては、ポリカーボネート樹脂との共押出材料として、ポリアミド樹脂を用いているため、成形温度領域がポリカーボネート樹脂とほぼ同程度であり、高転写に有利な高温での共押出成形が問題なく可能である。その為、溶融押出成形時の形状転写性を向上させ得ることが可能である。
なお、ポリアミド樹脂として、結晶性ポリアミド樹脂を用いることが好ましい。ポリカーボネート樹脂層の表面上の凹凸形成時にポリカーボネート樹脂層の変形を抑制する効果が大きいためである。ただし、非晶性のポリアミド樹脂も使用可能であり、特に、詳細を後述する積層体の第1層を形成するポリカーボネート樹脂と、ガラス転移温度の差が±40℃以内の非晶性ポリアミド樹脂、好ましくは±30℃以内、より好ましくは±20℃以内の非晶性ポリアミド樹脂を選択して第2層を形成することによって、ダイ温度やロール温度の適切な設定が可能となる。
【0016】
光学シートの表面、すなわち、後述するポリカーボネート樹脂による第1層の外側表面においては、微細な凹凸が形成される。より具体的には、マット形状(光拡散)、プリズム形状(集光)、またはマイクロレンズ形状(光拡散且つ集光)のいずれかの微細凹凸形状が形成されている。ここで、マット形状の場合には、Ra(算術平均粗さ)が0.1〜5.0μm、好ましくは1.0〜3.0μmの範囲にある光学シートを例示することができる。プリズム形状の場合には、本発明における光学シートの全体厚みの関係上、V溝の深さが150μm以下、好ましくは100μm以下であり、且つV溝の頂角が30〜150度の範囲で任意である光学シートを例示することができる。また、マイクロレンズ形状の場合には、レンズ径が1〜100μm、好ましくは5〜50μmである光学シートを例示することができる。
【0017】
(II)第1層を形成するポリカーボネート樹脂
本発明においては、ポリカーボネート樹脂を用いて、最終的に光学シートとなる積層体の第1層を形成する。使用されるポリカーボネート樹脂としては、芳香族ポリカーボネート樹脂、および脂肪属ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。これらのうち、芳香族ポリカーボネート樹脂の使用が好ましい。
芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体又は共重合体である。
芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。また、溶融法を用いる場合には、末端基のOH基量を調整したポリカーボネート樹脂を使用することができる。
【0018】
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビスビス(4−ヒドロキシジフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシジフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第3ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4‘−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3‘−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルファイド、4,4‘−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルファイドのようなジヒドロキシジアリールスルファイド類、4,4‘−ジヒドロキシジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4‘−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくは、ビスフェノールAが挙げられる。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
【0019】
分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、上述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を、以下の分岐剤、即ち、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物や、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチン等の化合物で置換すればよい。これら置換する化合物の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0020】
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、上述した中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、又は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が好ましい。また、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーとの共重合体等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体であってもよい。更には、上述した芳香族ポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量を調節するには、一価の芳香族ヒドロキシ化合物を用いればよく、例えば、m−及びp−メチルフェノール、m−及びp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。
【0022】
本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、押出成形性、強度等の点から、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量[Mv]が、10,000〜40,000、更には15,000〜35,000であるものが好ましい。このように、粘度平均分子量を15,000以上とすることで機械的強度がより向上し、35,000以下とすることで流動性低下をより抑制して流動性を改善する傾向にあり、成形加工性容易の観点からより好ましい。
粘度平均分子量は中でも、10,000〜25,000、更には15,000〜24,000、特に17,000〜23,000であることが好ましい。また粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよく、この際には、粘度平均分子量が上記好適範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよい。この場合、混合物の粘度平均分子量は上記範囲となるのが望ましい。
【0023】
ポリカーボネート樹脂には、一般に用いられる各種の添加剤を添加しても良く、添加剤としては、例えば、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、光拡散剤、難燃剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、染顔料などが挙げられる。これらの添加剤のポリカーボネート樹脂中の含有量は、光学シートの透明性を維持できる範囲内で任意であるが、シート成形の際の添加剤付着によるロール汚れ等を防止するために、1質量%以下とすることが望ましい。
【0024】
また、添加剤の他に、異種ポリマー材料をポリカーボネート樹脂にブレンドすることも可能である。ブレンド可能な異種ポリマー材料としては、透明性を維持できる範囲内で、特に限定はされないが、非晶性のポリエステル系樹脂や、ポリカーボネート樹脂と相溶する特殊アクリル樹脂などが好ましい。この場合、ポリアミド樹脂との共押出成形性という観点から、ポリカーボネート樹脂が主成分であることが好ましく、ポリカーボネート樹脂:異種ポリマー材料の好ましいブレンド比率(質量比)としては、100:0〜50:50、より好ましくは、100:0〜70:30である。これらポリカーボネート樹脂と異種ポリマー材料とのブレンド材料を使用すれば、ポリアミド樹脂とのガラス転移温度の差を所定の範囲内に調整することが容易となる。
なお、ポリカーボネート樹脂とポリアミド樹脂のガラス転移温度差を所定の範囲内に調整する方法としては、既に上述したように、2種類以上の(芳香族)ポリカーボネート樹脂をブレンドしたり、或いは2種類以上のモノマーを用いて共重合体を形成させることによっても可能であることは言うまでもない。
なお、ポリカーボネート樹脂として、リサイクル材料を用いても良い。例えば、詳細を後述する第3層をポリカーボネート樹脂で形成し、かつ第3層を光学シートとして使用しなかった場合においては、第3層に含まれていたポリカーボネート樹脂をリサイクル材料として、以後の第1層または第3層の形成に活用しても良い。
【0025】
上述のポリカーボネート樹脂により形成される第1層の厚さは、30〜250μmの範囲にあり、好ましくは30〜200μmの範囲にあり、より好ましくは30〜150μmの範囲にある。
【0026】
(III)第2層を形成するポリアミド樹脂
本発明においては、ポリアミド樹脂を用いて、光学シートを製造するための積層体の第2層を形成する。本願明細書において、「ポリアミド」樹脂とは、主鎖中にアミド(−NHCO−)結合を有する重合体を意味し、ラクタムの開環重合で得られるポリアミド化合物、ω−アミノカルボン酸の自己縮合で得られるポリアミド化合物、ジアミンとジカルボン酸を縮合することで得られるポリアミド化合物、及びこれらの共重合物等のことを指す。
【0027】
本発明の実施の形態において用いられるポリアミド樹脂としては、結晶性ポリアミドが好ましい。結晶性ポリアミドとしてポリアミド(PA)6、ポリアミド(PA)66等が使用可能であり、好ましくは、PA6等が使用される。ポリアミド樹脂を用いると、積層させるポリカーボネート樹脂層の表面に微細な凹凸を形成する際のポリカーボネート樹脂層の変形を抑制できる効果が認められ、この効果は、結晶性ポリアミド樹脂、または非結晶ポリアミド樹脂のアロイにおいて顕著である。また、結晶性ポリアミド樹脂には、非結晶ポリアミドよりも安価であるという利点も認められる。
【0028】
また、本発明においては、ポリアミドとして、非晶性ポリアミド、特に好ましくは非結晶ポリアミド樹脂のアロイを用いることもできる。第2層を形成するポリアミド樹脂の結晶性が高い場合には、光学シート製造時の冷却固化時における、第1層を形成するポリカーボネート樹脂との体積収縮差によって反り(カール)が発生し易いものの、非晶性ポリアミドを用いると、この問題をより確実に解消することができる。非晶性ポリアミドとは、ポリアミド樹脂の中でも融点を持たないポリアミドである。非晶性ポリアミドとしては、例えば、ポリアミドを構成するジカルボン酸、ジアミン、並びにラクタム及びアミノカルボン酸のうち、非対称性の化学構造を有する原料モノマーを重合させたポリアミドが挙げられる。
【0029】
非晶性ポリアミドとしては、例えば、PA12/MACMI(ラウロラクタム/3,3−ジメチル−4,4−ジアミノシクロヘキシルメタン、イソフタル酸)、及びPA12/MACMT(ラウロラクタム/3,3−ジメチル−4,4−ジアミノシクロヘキシルメタン、テレフタル酸)などのポリアミド12(PA12)を含む共重合体、PAMACM12(3,3−ジメチル−4,4−ジアミノシクロヘキシルメタン、ドデカンジカルボン酸)、PACM12(1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ドデカンジカルボン酸)、PA6I/6T及びPA6I/6T/MACMIなどのPA6I/6T共重合体などが挙げられる。上記非晶性ポリアミドの表記は、JIS−K6920−1に従った表記である。
【0030】
非晶性ポリアミドは、特に限定されるものではなく、従来公知の方法により製造することができる。また、非晶性ポリアミドとして、市販されているものを用いてもよく、例えば、PA12/MACMI(商品名:グリルアミド(登録商標)TR55(EMS社製))、PAMACM12(商品名:グリルアミド(登録商標)TR90(EMS社製))、PAMC12(商品名:トロガミド(登録商標)CX(デグサ社製))、PA12/MACMT(商品名:クリスタミド(登録商標)MS(アルケマ社製))、PA6I/6T(商品名:ノバミット(登録商標)X21(三菱エンジニアリングプラスチックス社製))などが挙げられる。
【0031】
ポリアミド樹脂には、一般に用いられる各種の添加剤を添加しても良く、添加剤としては、例えば、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、光拡散剤、難燃剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、染顔料などが挙げられる。これらの添加剤のポリアミド樹脂中の含有量は、光学シートの透明性を維持できる範囲内で任意であるが、シート成形の際の添加剤付着によるロール汚れ等を防止するために、1質量%以下とすることが望ましい。
【0032】
また、添加剤の他に、異種ポリマー材料をポリアミド樹脂にブレンドすることも可能である。ブレンド可能な異種ポリマー材料としては、透明性を維持できる範囲内で、特には限定されないが、ポリエステル系樹脂などが好適である。この場合、ポリカーボネート樹脂との共押出成形性という観点から、ポリアミド樹脂、特に結晶性ポリアミド樹脂が主成分であることが好ましく、ポリアミド樹脂:異種ポリマー材料の好ましいブレンド比率(質量比)としては、100:0〜50:50、より好ましくは、100:0〜70:30である。これらポリアミド樹脂と異種ポリマー材料とのブレンド材料を使用すれば、ポリカーボネート樹脂とのガラス転移温度の差を所定の範囲内に調整することが容易となる。
なお、ポリカーボネート樹脂とポリアミド樹脂のガラス転移温度差を所定の範囲内に調整する方法としては、複数のポリアミド樹脂をブレンドする等の方法も適用可能である。
【0033】
上述のポリアミド樹脂により形成される第2層の厚さは、20〜250μmの範囲にあり、好ましくは30〜150μmの範囲にあり、より好ましくは30〜100μmの範囲にある。
【0034】
(IV)第3層を形成する樹脂
本発明においては、光学シートを製造するための積層体において第3層を形成する。第3層は、第1層との間に第2層を挟むように、積層体において第1層とは反対側に積層される。このような第3層を形成することにより、積層体の収縮を防止することが可能になる。上述の第1層と第2層のみを積層させた積層体においては、成形時の高温から常温に戻る際に、第1層を形成するポリカーボネート樹脂に比べて第2層を形成するポリアミド樹脂の収縮量が大きいことから、反りが発生して成形不良となる可能性がある。これに対し、積層体の第1層との収縮量の差の小さい材質で、第1層とは反対側に第3層を形成することにより、上述の第2層の収縮およびそれに起因する積層体の反りを抑制できる。また、第1層と同様に外側表面に微細な凹凸を形成させることにより、第3層を第1層とともに光学シートとして活用することもできる。
なお、第2層を形成するポリアミド樹脂として結晶性ポリアミド樹脂を用いると、上述のように、微細な凹凸を形成する際のポリカーボネート樹脂層の変形を抑制する効果が大きく、非結晶ポリアミド樹脂よりも安価であるという利点が認められる
【0035】
第3層を形成する材料としては、ポリカーボネート樹脂が好ましい。特に、第3層を主に形成する材料として第1層に含まれるポリカーボネート樹脂と同一の材質であるポリカーボネート樹脂が好ましい。このように、第3層が、ポリカーボネート樹脂、特に、第1層に含まれるポリカーボネート樹脂と同じポリカーボネート樹脂を含む積層体においては、第1層と第3層との間の上述の収縮量の差および積層体の反りを抑えることが容易に可能である。なお、第1層を形成するポリカーボネート樹脂と同一の材質であるものには、主な成分が実質的に共通するポリカーボネート樹脂が含まれ、例えば、粘度グレードが異なるものの主成分を同じくするポリカーボネート樹脂などが含まれる。
【0036】
第3層は、積層体の反りを軽減することができる限り、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂により形成されていても良い。例えば、第3層は、ポリ塩化ビニル、 ポリ塩化ビニリデン、ポリ乳酸、ポリウレタン、ポリスチレン、ABS樹脂、 アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタラート 、ポリトリメチレンテレフタラート、 ポリエチレンナフタラート 、ポリブチレンナフタラート等のポリエステル、ナイロン、アラミド、ポリアミド、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS樹脂)、シクロオレフィンポリマー(COP)から選択される樹脂を含むことが好ましい。
【0037】
上述の第3層の厚さは、30〜250μmの範囲にあり、好ましくは30〜150μmの範囲にあり、より好ましくは30〜100μmの範囲にある。なお、第1層〜第3層の各層の厚さは同じである必要はなく、上述の範囲内で任意の厚さに成形可能である。
【0038】
(V)積層体
本発明においては、上述のポリカーボネート樹脂を含む第1層と、ポリアミド樹脂を含む第2層と、第3層とを共押出成形によりシート状に積層させ、第1層から第3層を有する積層体を形成する。
【0039】
ポリカーボネート樹脂とポリアミド樹脂とを共押出成形するに当たっては、溶融押出成形時の設定温度領域において、両樹脂の溶融粘度を極力合わせる必要がある。両樹脂に溶融粘度差があり過ぎると、フローマークと呼ばれる波模様が発生してしまったり、最悪の場合には、シート幅方向の全域に亘って積層できなかったり、厚み分布幅が大きく成り過ぎたりする場合がある。一般的にポリカーボネート樹脂を溶融押出成形する場合の設定温度の中心値は260℃程度であり、また、溶融押出成形時における剪断速度の中心値は100S−1程度であるので、当該剪断速度において、両樹脂の260℃における溶融粘度比が1:5〜5:1、より好ましくは1:3〜3:1の範囲にあることが望ましい。ポリカーボネート樹脂の場合、100S−1近傍の剪断速度領域において、粘度曲線が大きく変化するという性質を示すので、当該剪断速度での溶融粘度を共押出可否判断の指標として用いると、材料選定が容易となる。
【0040】
また、ポリアミド樹脂、特に非晶性ポリアミド樹脂は透明性の高い材料であるので、ポリカーボネート樹脂との積層状態においても外観検査が可能であるというメリットもある。ポリアミド樹脂は均質な材料であり、各部位において成形収縮量が均一であるので、その界面が粗面化して光線透過率が低下するという懸念も少ない。
【0041】
なお、微細凹凸形状を第3層の外側表面に形成させない場合(第3層が平面である場合)には、当該第3層を構成するポリカーボネート樹脂は透明である必要はない。故に、適度な剥離性を損なわない範囲で、着色剤や無機フィラー等を含んでいても良い。なお、無機フィラーの好ましい添加量としては、1〜30質量%を例示することができる。
【0042】
(VI)光学シートの製造方法
本発明の光学シートは、以下のように製造される。まず、ポリカーボネート樹脂を含む第1層、ポリアミド樹脂を含む第2層、及び第3層を、共押出成形にてシート状にして前記第1層と前記第3層との間に前記第2層を積層させる工程により、積層体を形成する。このように、ポリカーボネート樹脂層の片面に、剥離可能なポリアミド樹脂層を積層した上述の積層体は、次のような共押出成形装置によって製造される。即ち、ポリカーボネート樹脂を押し出すための押出機と、ポリアミド樹脂を押し出すための押出機によって構成され、それぞれの押出機の概略の大きさは、積層体の層厚比などによって決定される。ポリカーボネート樹脂用の押出機の温度条件は、通常230〜320℃であるが、微細凹凸形状の転写性を上げるためには、270〜300℃に設定することが望ましい。ポリアミド樹脂用の押出機の温度条件は、使用する材料グレードによって適宜変更することが可能であるが、本発明においては、ポリアミド樹脂の溶融粘度とポリカーボネート樹脂の溶融粘度をほぼ同程度にしておくことが望ましい。この場合、両押出機の押出温度条件はほぼ同程度となり、積層時の不具合発生を未然に防ぐことが可能となる。また、樹脂中の異物を除去するために、押出機のダイスより上流側にポリマーフィルターを設置することが好ましい。
【0043】
3種の溶融樹脂を積層する方法としては、マルチマニホールド方式、フィードブロック方式などの公知の方法を用いることができる。マルチマニホールドダイの場合は、該ダイ内で積層された溶融樹脂はダイ内部にてシート状に成形された後、表面に微細凹凸形状が施された賦形用冷却ロールと圧着ロールとの間で狭圧されて、ポリカーボネート樹脂の表面の一方又は両方に微細凹凸形状が転写されたシート状成形物となる。このシート状成形物が賦形用冷却ロール通過中に、微細凹凸形状の固定が行われ、積層体が形成される。また、フィードブロックで積層された溶融樹脂はTダイなどのシート成形ダイに導かれ、シート状に成形された後、表面に微細凹凸形状が施された賦形用冷却ロールと圧着ロールとの間で狭圧されて、ポリカーボネート樹脂層の外側の表面に微細凹凸形状が転写された積層体が形成される。ここで、ダイの設定温度としては、通常250〜320℃、好ましくは270〜300℃である。賦形用冷却ロールの設定温度としては、通常100〜190℃、好ましくは110〜180℃である。シート成形装置のロール構成としては、縦型ロール機または横型ロール機を適宜使用することができる。
なお、圧着ロールとしては、金属剛体ロール、金属弾性ロール、ゴムロール等を適宜使用することができる。圧着ロールの設定温度としては、金属剛体ロール及び金属弾性ロールの場合には、当該ロールに接する方の樹脂のガラス転移温度より5℃から30℃程度、低い温度に設定することが好ましい。ゴムロールの場合には、冷却効率が悪いため、冷媒を用いて、100℃以下に設定するケースもあり得る。
【0044】
ポリカーボネート樹脂層とポリアミド樹脂層との層厚比の微調整に関しては、押出機の回転数を変更して、吐出量を調整することによって可能となる。また、多層シートの総厚み調整に関しては、シート成形装置上流側(押出装置)の吐出量調整の他に、シート成形装置下流側(ロールユニット)のライン速度を変更することによっても可能である。
表面に微細凹凸構造が設けられた賦形用冷却ロールは、鉄芯ロール上にメッキを施した後、ダイヤモンドバイトによる切削加工、砥石による研削加工、選択的に腐食を施すエッチング加工やその他多くの既存のパターンニング技術を用いて、製作することができる。
前記メッキ種としては、銅メッキ、ニッケルメッキ等が挙げられるが、溶融押出成形の場合には高い線圧がかかるので、耐久性に優れた表面硬度の高いニッケル−リンメッキが最も好ましい。ニッケル−リンメッキの施工方法には、電気メッキ法と無電解メッキ法があるが、どちらを使用しても構わない。この他、セラミックス層や低熱伝導金属材料層を下地層として設け、溶融樹脂の冷却を遅延することにより、微細凹凸形状の転写性を向上させたような特殊な賦形用冷却ロールを使用しても構わない。
また、ポリカーボネート樹脂により形成された第1層と、ポリアミド樹脂により形成された第2層との180度ピール試験における剥離強度が1N/m以上あると、成形中に両樹脂層が剥離してしまうようなトラブルが発生することがないので好ましい。剥離強度の上限値に関しては特に規定はないが、接着力が強過ぎるとハンドリング性が低下するので、好適値として、100N/mを例示することができる。すなわち、光学シートの第1層と第2層間の剥離強度は、1〜100N/mの範囲にあり、好ましくは2〜50N/mの範囲にある。これらの剥離強度値は、ピール試験時の試験速度を150mm/minとし、クランプでチャッキングして走査させる方(引き剥がす方)のシート層の厚みが50〜150μmの場合の数値である。また、ポリアミド樹脂により形成された第2層と第3層との剥離強度も、上述の範囲内にあることが好ましい。
【0045】
透明性の高いポリアミド樹脂を使用する場合には、積層体全体が透明となるので、光学シートの外観確認が非常に容易である。
また、ポリカーボネート樹脂層とポリアミド樹脂層の界面をマット面とすることもできる。マット面化する場合には、樹脂フィラーや異種高分子材料をブレンドすることにより達成される。物理的な凹凸の発生による粗面化に加え、局所的な固化速度差や収縮量差を設けることによって、粗面化が促進される。
【0046】
本発明の表面賦形型光学シートは、ポリカーボネート樹脂とポリアミド樹脂、好ましくは結晶性ポリアミド樹脂との共押出成形によって得られるが、ポリカーボネート樹脂とポリアミド樹脂の相溶性が比較的高いため、その界面部分に適度な剥離強度を有している。それ故、共押出成形中に発生する種々のトラブルを抑えることができることに加えて、当該光学シートのトータル厚みが厚いが為に所有熱量が相対的に高く、エアギャップ部における溶融樹脂の過冷却を防止することができる。
さらに、薄い積層体を製造するときには、シート状の溶融樹脂が冷え易く、溶融樹脂からロールへの伝熱も大きいことから溶融樹脂が速く固化してしまうため、微細凹凸構造の転写性が低下してしまう傾向が認められる。これに対し、第2層のみならず第3層をも第1層に積層させる本発明においては、製造時の溶融樹脂の温度を高く保つことが容易である。
これらの効果によって、本発明においては、賦形用冷却ロールの表面に設けられた微細凹凸形状の転写率、すなわち、光学シート表面に実際に形成された微細凹凸形状の溝の平均深さに対する、ロール表面に設けられていた微細凹凸形状の溝の平均深さの比率を大幅に向上させることが可能である。このため、ポリカーボネート樹脂層とポリアミド樹脂層を剥離させてしまえば、非常に薄く、かつ微細凹凸形状の転写率が高くて凹凸の大きいポリカーボネート樹脂層、すなわち高性能の光学シートが得られる。
【0047】
より具体的には、最終的に単層の光学シートとなるポリカーボネート樹脂層においては、転写率(%)/光学シートの全体厚さ(μm)の比の値が0.4(%/μm)以上である。例えば、ほぼ100%の転写率を250μmの厚さのポリカーボネート樹脂層(光学シート)において実現することが可能であり、このときの転写率(%)/光学シートの全体厚さ(μm)の比の値が0.4である。好ましくは、転写率(%)/光学シートの全体厚さ(μm)の比の値は、0.58以上、より好ましくは0.66以上であり、特に好ましくは0.97以上である。
また、本発明においては、最終的に単層の光学シートとなるポリカーボネート樹脂層の平均溝深さ(μm)、例えば、微細凹凸形状がプリズム形状である場合にはプリズム高さ(μm)と、ポリカーボネート樹脂層(単層の光学シート)全体の厚さ(μm)の比の値として、0.375以上を実現することができる。例えば、プリズム高さ(平均溝深さ)7.5μm/ポリカーボネート樹脂層全体の厚さ200μmのもの(比の値が0.0375)、およびこれよりも比の値の大きいもの(プリズム高さ(平均溝深さ)が7.5μmであってシート厚が120μm以下のものなど)も製造できる。また、上記比の値の上限値の目安となる具体例として、プリズム高さ(平均溝深さ)25μm/ポリカーボネート樹脂層全体の厚さ50μmの光学シートも製造できる。以上のように、平均溝深さ(μm)/光学シートの全体厚さ(μm)の比の値は0.0375以上であり、上限としては例えば0.5以下である。好ましくは、平均溝深さ(μm)/光学シートの全体厚さ(μm)の比の値は、0.05以上であり、より好ましくは0.075以上、特に好ましくは0.12以上、または0.24以上である。
【0048】
さらに、第3層を積層させて厚みの大きい積層体を共押出成形により形成し、積層体の剥離により単層の光学シートを得る本発明の製造方法によれば、プレス成形により製造される光学シートと同等以上に転写率の高い光学シートを、連続シートとして製造できるという効果が認められる。すなわち、プレス成形によれば、比較的容易に転写率の高い光学シートを製造できるものの、製造装置の制約から、連続シートとして光学シートを得ることは困難であるのに対し、本発明によれば、転写率の高い光学シートを、共押出成形(溶融押出成形)により連続シートとして容易にかつ大量に製造できる。
また、場合によっては、圧着ロールの表面に微細凹凸形状を設け、第1層と第3層の両方の外側表面に微細な凹凸を形成し、一度の成形で2枚の光学シートを得ることも可能である。
【0049】
以下、本発明の実施形態および実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態および実施例のみに限定されるものではない。
【0050】
本発明の第1の実施形態の光学シート10の概略的断面図を図1に示す。第1の実施形態の光学シート10は、ポリカーボネート樹脂により形成された第1層12と第3層13、ポリアミド樹脂により形成された第2層14を含む。これらの各層は平滑な界面16と17で互いに接するように積層されている。第1層12の外側の表面、すなわち、界面16とは反対側の表面12Sにおいては、図中では誇張されている微細凹凸形状が形成されている。すなわち、プリズム形状である。一方、第3層13の外側の表面13Sは平滑である。図2に示すように、第1層12と第2層14、及び第2層14と第3層13は、それぞれ界面16、17にて互いに剥離可能である。
【0051】
なお、第1の実施形態の光学シート10(図1および2参照)においては、ポリカーボネート樹脂の第1層12の外側の表面12Sに微細凹凸形状が形成されているが、外側の表面12Sを平滑にして、ポリカーボネート樹脂の第1層12の内側の表面12Iとポリアミド樹脂の第2層14の第1層12側の表面14Iにおいて、微細凹凸形状を形成しても良い。このように、内側表面12Iおよび表面14Iにおいて、すなわち、界面16において微細凹凸形状を形成することにより、光学シート10として用いられる第1層と第2層とのスタッキングを確実に防止することができる。
なお、上述のように、第1層および第2層の界面16において微細凹凸形状を形成するためには、第2層のポリアミド樹脂として結晶性ポリアミド樹脂を用いることが好ましい。そして、詳細を後述する外側表面12Sへの微細凹凸形状の形成に用いられるロールの代わりに、表面が平滑なロールを用いることにより、外側表面12Sを平滑にしつつ界面16において微細凹凸形状を形成することが可能である。
【0052】
また、第2の実施形態の光学シート30(図3参照)においては、ポリカーボネート樹脂の第1層32のみならず、第3層33においても表面に凹凸が形成されている。すなわち、第1層32の外側表面32Sと、第3層33の外側表面33Sのいずれにおいても、微細凹凸形状が形成されている。すなわち、外側表面32Sにおけるプリズム形状、および外側表面33Sにおけるマイクロレンズ形状である。第2の実施形態は、この点において第1の実施形態と異なる。なお、図3に示すように、本実施形態の光学シート30においても、光学シート10と同様に、第1層32と第2層34、及び第2層34と第3層33は、界面36および37において、それぞれ互いに剥離可能である。
【0053】
また、第1層32と第3層33の外側表面32Sおよび33Sの微細凹凸形状は、後述するように、表面に微細凹凸形状を有する2つのロールを用いて単一の工程で形成することができるため、第1層32と第3層33からなる2つの光学シートが効率的に製造可能である。
【0054】
上述の第1および第2の実施形態の光学シート10、および30は、いずれも図4に一部を例示する共押出成形装置40によって製造される。共押出成形装置40のダイ42においては、第1の流路44、第2の流路46、第3の流路45が形成されていて、加熱したポリカーボネート樹脂は流路44及び流路45を、ポリアミド樹脂は流路46に通し、賦形用冷却ロール48および圧着ロール50との隙間で挟圧することにより、光学シートが製造される。なお、ダイ42はマルチマニホールドダイであり、ロール52は鏡面ロールである。
【0055】
賦形用冷却ロール48は、製造される光学シートの表面の微細凹凸形状に応じた表面形状を有する。このため、第1の流路44を通過するポリカーボネート樹脂によって形成される積層体60の第1層62の表面に微細凹凸形状が形成され、上述の光学シート10(図1参照)が製造可能である。なお、第1〜第3の流路44〜46を通過させる樹脂を適宜選択することにより、製造される積層体60の第1〜第3層の材質を調整できる。また、圧着ロール50の代わりに、もう一つの賦形用冷却ロール(図示せず)を用いると、積層体60の第1層62および第3層63のいずれの外側表面にも微細凹凸形状が形成され、第2の実施形態の光学シート30(図3参照)が製造される。
【0056】
次に、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0057】
実施例1においては、ポリカーボネート樹脂として三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製のユーピロンS−3000N(芳香族ポリカーボネート;Tg:145℃)を、ポリアミド樹脂としてEMS株式会社製の非晶性ポリアミド樹脂のグリルアミドTR XE 3805(Tg:153℃)を使用した。非晶性ポリアミド樹脂を75mmφのベント付き単軸押出機にて、ポリカーボネート樹脂を40mmφのベント付き単軸押出機と32mmφのベント付き単軸押出機にてそれぞれ可塑化し、280℃に設定した800mm幅のマルチマニホールドダイ(図4のダイ42参照)を用いて積層してシート状に押し出した。上記積層体は、上流側よりポリカーボネート樹脂I(32mmφのベント付き単軸押出機)、非晶性ポリアミド樹脂(75mmφのベント付き単軸押出機)、ポリカーボネート樹脂II(40mmφのベント付き単軸押出機)の層構成となるように成形した。ダイのリップ部から流出中であるシート状の溶融樹脂は透明であり、ゲル、ブツ等の点状欠陥や筋状の外観不良等の中で著しく顕著なものは特に観察されなかった。
【0058】
積層されたシート状の溶融樹脂をポリッシングロールユニットに導いて通紙させた後に、押出量(押出機のスクリュ回転数)とライン速度を変更して厚み調整を実施した。各樹脂層の厚みを、ポリカーボネート樹脂層Iを約35μm、ポリアミド樹脂層の厚みを約190μm、ポリカーボネート樹脂層IIを約75μmに設定することにより、トータル厚みが約300μm程度の多層シートとした。尚、この時のライン速度は3m/minであった。厚み調整完了後、135℃に設定した300mmφの賦形用冷却ロールと、130℃に設定した300mmφの金属弾性ロールの間にて圧着してポリカーボネート樹脂層IIの表面に微細凹凸形状を転写させた。金属弾性ロールの圧着圧力(線圧)は20kg/cmとした。ここで、使用した賦形用冷却ロールの表面にはピッチ80μm、頂角90°のV溝が連続して設けられている。当該V溝はロール円周方向に沿って設けられており、これを転写させたシートはプリズムシート、即ち輝度向上シートとなる(図1参照)。成形したプリズムシートの表面形状を三鷹光機株式会社製三次元形状測定装置NH−3Nを用いて計測した結果、平均溝深さは29.4μmであり、賦形用冷却ロール上のV溝深さ(40μm)との比率で表した転写率は73%であった。さらに、株式会社島津製作所製オートグラフAGS−100を用いて180度ピール試験を行った結果、ポリカーボネート樹脂層Iとポリアミド樹脂層の剥離強度は2.7N/mであった。
【比較例1】
【0059】
比較例1においては、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ポリカーボネート樹脂のユーピロンS−3000N(Tg:145℃)のみを使用し、厚みが75〜130μm程度のプリズムシートを成形した。主たる成形条件は実施例1とほぼ同じとした。厚みが75〜100μmではシート上にプレスムラと呼ばれる局所的な転写不良部が発生し、良品は取得できなかった。また、厚みが100〜130μmでの当該プリズムシートの転写率は65%であった。
【比較例2】
【0060】
比較例2においては、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ポリカーボネート樹脂のユーピロンS−3000N(Tg:145℃)のみを使用し、厚みが300μm程度のプリズムシートを成形した。主たる成形条件は実施例1とほぼ同じである。当該プリズムシートの転写率は74%であった。
【0061】
【表1】
【0062】
前述した実施例1及び比較例1〜2の結果からわかるように、ポリカーボネート樹脂とポリアミド樹脂を組み合わせて共押出成形することによって、実施例1では、剥離後の最終的なシート、すなわちPC樹脂層IIの厚みが薄いにも関らず、微細凹凸形状の転写率、およびPC樹脂層IIの厚さに対する平均溝深さ(μm)の比率の高い光学シートを成形することが可能であった。より具体的には、上述のように転写率が73%であり、平均溝深さは29.4μmであり、PC樹脂層IIの厚みは75(μm)であったことから、転写率(%)/光学シートの厚さ(μm)の値は0.97(%/μm)、光学シートの平均溝深さ(μm)/光学シートの厚さ(μm)の比率は0.39であった。このように、薄層化され、かつ光学シートの厚みに対する転写率および平均溝深さの比率が高い実施例1の光学シートは、組み込まれる各種表示装置の省スペース化に貢献できる。
一方、比較例1においては、転写率が低いという問題が認められた。この問題は、ポリアミド樹脂の層が形成されておらず、共押出成形時の積層体の厚さが実施例1に比べて薄かったことに起因すると考えられる。比較例2では、転写率に問題はないものの、シートの厚さが大きくなり過ぎており、全体の厚みに対する転写率および平均溝深さの比率が低く、光学シートとして幅広い用途に使用できないという問題が認められた。
【実施例2】
【0063】
実施例2においては、ポリカーボネート樹脂のグレードを三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製のユーピロンH−4000N(ビスフェノールAとホスゲンを界面重縮合でポリマー化したビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート、粘度平均分子量[Mv]は約15000;Tg:140℃に変更した点、ポリアミド樹脂の種類をEMS社製ポリアミド樹脂のグリボリーG−21(非晶性ポリアミド樹脂であり、ナイロン(登録商標)6T(ヘキサメチレンジアミン+テレフタル酸)およびナイロン(登録商標)6I(ヘキサメチレンジアミン+イソフタル酸)の混合物であり、結晶性のPAの分子構造のランダム性が増し非結晶化されたもの)Tg:125℃)に変更した点、ポリカーボネート樹脂層Iの厚みを75μmに、ポリアミド樹脂層の厚みを約150μmに変更した点、並びに圧着用金属冷却ロールを賦形ロールに変更した点以外は、実施例1と全く同様にしてシーティングを行った。成形時におけるトラブル等の発生もなく、外観レベルも非常に良好な多層シートが得られた。ここで、使用した圧着用賦形ロールの表面には、Rz15〜17μmの表面粗さのマット形状が設けられている。当該マット形状はロール全面に設けられており、これをポリカーボネート樹脂層IIの表面に転写させたため、得られたシートはマットシート、即ち光拡散シートとなる。また、実施例1と同様にV溝を転写させたポリカーボネート樹脂層Iはプリズムシートとなる。成形したマットシートのHaze値を村上色彩研究所製ヘイズメーターHM−150を用いて計測した結果、50.3%であった。また、得られたマットシートの転写率は89%、平均溝深さは約14.2μm、各ポリカーボネート樹脂層とポリアミド樹脂層の剥離強度は3.1N/mであった。
【比較例3】
【0064】
比較例3においては、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ポリカーボネート樹脂のユーピロンH−4000N(Tg:140℃)のみを使用し、厚みが75〜130μm程度のプリズムシートを成形した。圧着ロールを実施例1と同じ金属弾性に変更した。それ以外の主たる成形条件は実施例2とほぼ同じとした。厚みが75〜100μmでは比較例1と同様にシート上にプレスムラと呼ばれる局所的な転写不良部が発生し、良品は取得できなかった。また、厚みが100〜130μmでの当該プリズムシートの転写率は78%であった。
【比較例4】
【0065】
比較例4においては、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ポリカーボネート樹脂のユーピロンH−4000N(Tg:140℃)のみを使用し、厚みが75〜130μm程度の光拡散シートを成形した。賦形ロールをプリズムロールから表面粗さRz15〜17のマット形状に変更した。それ以外の主たる成形条件は実施例2とほぼ同じとした。厚みが75〜100μmでは比較例1・3と同様にシート上にプレスムラと呼ばれる局所的な転写不良部が発生し、良品は取得できなかった。また、厚みが100〜130μmでの当該光拡散シートのHaze値は49.4%であった。
【0066】
【表2】

前述した実施例2及び比較例3・4の結果からわかるように、ポリカーボネート樹脂と非晶性ポリアミド樹脂を組み合わせて共押出成形することによって、厚みが薄いにも関らず、微細凹凸形状の転写性、およびPC樹脂層IおよびIIの厚さに対する平均溝深さ(μm)の比率の高いシートを成形することが可能である。より具体的には、上述のように転写率が89%であり、平均溝深さは14.2μmであり、PC樹脂層IおよびIIの厚みは75(μm)であったことから、転写率(%)/光学シートの厚さ(μm)の値は1.18(%/μm)、光学シートの平均溝深さ(μm)/光学シートの厚さ(μm)の比率は0.19であった。また、狭圧に使用する冷却ロールを、両方とも微細凹凸形状を有する賦形ロールにすることによって一度の成形で2枚の光学シートを取得可能であることがわかる。
【実施例3】
【0067】
実施例3においては、ポリアミド樹脂として宇部興産株式会社製の結晶性ポリアミド樹脂であるUBEナイロン1030Bを使用し、厚みが75μm程度のプリズムシートを成形した。主たる成形条件は実施例1とほぼ同じとした。当該プリズムシートの転写率は74%であった。
【実施例4】
【0068】
実施例4においては、圧着ロールとしてゴムロールを使用し、厚みが75μm程度のプリズムシートを成形した。主たる成形条件は実施例2とほぼ同じとした。当該プリズムシートの転写率は60%であり、他の実施例よりも低かったものの、概ね良好な結果が得られた。
【比較例5】
【0069】
比較例5においては、第2層の樹脂として、ポリアミドの代わりに、株式会社プライムポリプロ製ポリプロピレンホモポリマーF113Gを使用し(表3の「C」参照)、厚みが75μm程度のプリズムシートを成形した。第2層の樹脂の種類の他、主たる成形条件は実施例1とほぼ同じとした。該シート成形時には、樹脂の積層不良や賦形ロールへの粘着などの成形不良が発生し良品は取得できなかった。
【0070】
【表3】
【0071】
上述の実施例3の結果から、第2層の樹脂として、実施例1および2において使用した非晶性ポリアミド樹脂の代わりに結晶性ポリアミド樹脂を用いても、良好な結果、すなわち、高い転写率等を実現できることが確認された。
また、実施例4においては、実施例1および2と同様に非晶性ポリアミド樹脂とポリカーボネート樹脂とを組み合わせたものの、金属ロールの代わりにゴムロールを用いて共押出成形したところ、転写率は60%であった。この転写率は、概ね良好なレベルではあるものの、他の実施例よりも低かった。従って、積層体のシートを製造する際の樹脂層の狭圧(圧着)においては、金属ロールの使用が特に好ましい点が確認された。
また、比較例5においては、ポリアミド樹脂の代わりにポリウレタン樹脂を用いて第2層を形成したところ、成形不良により良品を得られなかった。このため、第2層の材料として、非晶性あるいは結晶性のポリアミド樹脂の使用が好ましい点が確認された。
図1
図2
図3
図4