(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
か焼コークスの熱膨張係数を推算する方法であって、か焼コークスより黒鉛体を形成することなく水蒸気の存在下でか焼コークスを加熱ガス化し、か焼コークスの重量変化速度に応じてか焼コークスの昇温速度が連続的に変化するようにか焼コークスの温度を制御して熱重量変化曲線(TG曲線)を求め、この曲線に基づいて、か焼コークスに含まれる各炭素質成分のガス化開始温度および各炭素質成分の存在量を求め、各炭素質成分のガス化開始温度および存在量よりか焼コークスの熱膨張係数を推算することを特徴とする熱膨張係数を推算する方法。
請求項1〜3のいずれかに記載のか焼コークスの熱膨張係数の推算方法により得たか焼コークスの熱膨張係数を用いて、製鋼用電極製造に用いられるか焼コークスを選定するか焼コークスの選定方法
請求項1〜3のいずれかに記載のか焼コークスの熱膨張係数の推算方法により得たか焼コークスの熱膨張係数を用いて、か焼コークスの品質を管理するか焼コークスの品質管理方法
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のCTEの推算方法は、か焼コークスに含まれる結晶性もしくは配向性の異なる炭素質を分離定量することにより、CTEを推算することを特徴とするCTEの推算方法である。
【0016】
か焼コークスとは、生コークスを高温でか焼し水分や揮発分を除去したものであり、か焼コークスの中でも繊維状配向組織が発達したものをニードルコークスと呼び、黒鉛電極等の黒鉛成形体の原料として用いられる。
【0017】
本発明において分析の対象となるか焼コークスは、石油系重質炭化水素由来、石炭系重質炭化水素由来のいずれでもよく、又これらの混合物でもよい。
【0018】
一般的にか焼コークスのCTEの測定は、か焼コークスを粉砕し、バインダーピッチ等と混合、成形後、黒鉛化処理を施した黒鉛成形体を熱機械分析装置(TMA)等で所定温度域の熱膨張測定を行い、CTEを算出するが、測定に必要な黒鉛成形体を製造するためには、煩雑なプロセスが必要である。
【0019】
本発明の手法を用いることにより、前記のような煩雑なプロセスを必要とせず、か焼コークスそのものを用いてか焼コークスのCTEを推算することが可能となる。
【0020】
すなわち、本発明の手法を用いることにより、か焼コークス中の結晶性もしくは配向性が異なる炭素質をそれぞれ分離して、その存在量及びガス化開始温度を分析することができ、異なる結晶性もしくは配向性を有する各炭素質の存在量及びガス化開始温度よりCTEを推算することが可能となる。
【0021】
本発明の熱膨張係数(CTE)を推算するためには、か焼コークスに含まれる各炭素質成分のガス化開始温度および各炭素質成分の存在量を求める必要がある。
か焼コークスに含まれる各炭素質成分のガス化開始温度および各炭素質成分の存在量は、水蒸気の存在下でか焼コークスを加熱ガス化し、か焼コークスの重量変化速度に応じてか焼コークスの昇温速度が連続的に変化するようにか焼コークスの温度を制御してか焼コークスの加熱昇温時のガス化反応による重量変化量を計測することにより熱重量変化曲線(TG曲線)を求め、この曲線を解析することから求めることができる。
【0022】
前記熱重量変化曲線(TG曲線)を求めるとき、水蒸気の存在下でか焼コークスを加熱ガス化するが、水蒸気はか焼コークスに含まれる各炭素質のガス化剤として作用する。
以下、か焼コークスを加熱ガス化する方法について説明する。
【0023】
か焼コークスの加熱ガス化に用いる水蒸気は、不活性ガスと混合して用いることが好ましい。水蒸気分圧は特に限定されないが、0.1〜60kPaが好ましい。
水蒸気分圧が高くなると、ガス流路および熱重量同時測定装置内にて結露することがある。装置内にて結露が生じるとガス化量の測定が困難になる。
さらに、水蒸気分圧が小さすぎるとガス化反応速度が遅くなり、また一定の測定時間におけるガス化量が小さくなるため測定が困難となるため、可能な範囲で高いことが望ましい。
【0024】
上記の理由より、水蒸気分圧は分析する全温度域および装置内において結露しない水蒸気分圧で、且つ高い水蒸気分圧であることが好ましく、1〜60kPaがより好ましく、5〜50kPaの水蒸気分圧がさらに好ましい。
【0025】
不活性ガスへの水蒸気の混合は、いかなる手法により実施してもよい。例えば、一定温度の水に不活性ガスをバブリングさせ、その温度における飽和蒸気圧分の水蒸気を付与する方法、またはシリンジポンプ等を用いて定量的に水をガス流に添加し、加熱により気化する方法などが利用できる。
【0026】
か焼コークスのガス化は、温度制御可能な電気炉中にか焼コークスを入れた開放型の反応容器を設置し、水蒸気を流通させた雰囲気下で、炉内温度を昇温させることによりか焼コークスを加熱してガス化させる。
水蒸気を電気炉中に流通させることにより、水蒸気を連続供給でき、且つ、炭素からガス化したガスや発生するタール成分を連続除去することが可能となり、再現性の高いガス化量の測定が実現できる。
【0027】
か焼コークスに含まれる各炭素質成分のガス化開始温度および各炭素質成分の存在量を求めるには、か焼コークスに含まれる各炭素質成分の種類により、ガス化する温度および速度(DTG)が異なる点を利用する。か焼コークス中に存在する炭素質は、炭素質の結晶性もしくは配向性の差によりガス化する温度および速度(DTG)が異なる。
例えば、結晶性炭素質と非結晶性炭素質からなるか焼コークスの場合、非結晶性炭素質の方がより低い温度、もしくは早い速度でガス化反応が進行する。さらに例えば、配向性の高い炭素質と配向性の低い炭素質からなるか焼コークスの場合、配向性の低い炭素質の方がより低い温度、もしくは早い速度でガス化反応が進行する。
【0028】
すなわち、加熱昇温時のTG曲線およびDTG曲線を解析することにより、か焼コークスに含まれる結晶性もしくは配向性の異なる炭素質のガス化反応を分離することができ、該当する重量変化量を計測することにより、各炭素質の存在量を分析することができる。
【0029】
熱重量変化曲線(TG曲線)は、か焼コークスを昇温加熱し、加熱昇温時のガス化反応による重量変化量を計測することにより求めることができる。
【0030】
TG曲線は、昇温時におけるか焼コークスの温度(℃)と熱重量(g)との関係を示すものであり、このTGを微分した微分熱重量測定(Derivative Thermo Gravimetry、以下、DTGと略す)は、温度と熱重量変化速度(g/秒)との関係を示すものである。
なお、TG曲線およびDTG曲線の測定は、熱重量測定が可能な公知の熱分析装置を用いることができる。
【0031】
熱分析装置に導入するか焼コークスの形状は、測定容器に導入できれば特に限定されないが、均一な状態であることが好ましい。また、装置に導入するか焼コークスの形状、重量、寸法もしくは体積は装置内の天秤および/または試料容器に導入できれば特に限定されない。
【0032】
TG曲線の測定は、ガス化剤の存在下でか焼コークスを加熱ガス化し、か焼コークスの減量速度に応じてか焼コークスの昇温速度が連続的に変化するようにか焼コークスの温度を制御すればよい。
【0033】
TG曲線は、水蒸気の存在下でか焼コークスを加熱ガス化し、か焼コークスの減量速度に応じてか焼コークスの昇温速度が連続的に変化するようにか焼コークスの昇温速度を制御することによって測定する。
【0034】
か焼コークスの重量変化速度に応じてか焼コークスの昇温速度を連続的に変化するようにか焼コークスの温度を制御する方法は、昇温方法を段階的もしくは連続的に変化させることができる。
段階的に変化させる方法としては、例えば、測定の初期は早い昇温速度で加熱し、重量変化が観測される評価温度付近では昇温速度を5〜20℃/minの間で段階的に制御する方法を挙げることができる。
【0035】
ここで、昇温速度が遅すぎると、分析に時間がかかり迅速な分析法にはならない。一方、昇温速度が速すぎると、目的の炭素質のガス化反応が完了するより前に、他方の炭素質のガス化反応が開始するため、炭素質の分離が困難となる。
上記の理由より、昇温速度は5〜20℃/minであることが好ましい。
【0036】
より好ましい、か焼コークスの重量変化速度に応じてか焼コークスの昇温速度を連続的に変化するようにか焼コークスの温度を制御する方法は、以下のような方法を例示することができる。
【0037】
すなわち、か焼コークスの重量変化速度に応じてか焼コークスの昇温速度を連続的に変化させか焼コークスの温度を制御するより好ましい方法は、(A)あらかじめ定速昇温熱重量分析によりTG曲線を測定し、TG曲線より決定される又はTG曲線の微分曲線(DTG曲線)より推定される炭素質のガス化開始温度におけるDTG値(重量変化速度)の絶対値より小さい値を昇温速度の制御目標値とする工程と、(B)か焼コークスの減量速度が前記の制御目標値よりもゆるやかなときには、昇温速度は定速昇温条件と同一、か焼コークスの減量速度が前記の制御目標値よりも急激なときには、昇温を停止もしくは昇温速度をゆるやかに制御することにより、か焼コークスの昇温速度を制御する工程を含む方法である。
【0038】
上記(A)の工程におけるあらかじめ定速昇温熱重量分析によりTG曲線を測定する方法は、ガス化剤の存在下でか焼コークスを一定の昇温速度で加熱ガス化し、TG曲線を測定する。ここで、前述の理由より、昇温速度は5〜20℃/minであることが好ましい。測定の温度範囲は、か焼コークス中の各炭素質のガス化反応が計測できる温度範囲であればよい。具体的には、低温側はか焼コークス原料となる生コークス製造時のコーキング温度付近、例えば450℃付近から、高温側は結晶性炭素質(黒鉛質)のガス化反応が生じる1600℃付近までの温度範囲を測定すればよい。
【0039】
か焼コークス中に存在する複数の結晶性もしくは配向性の異なる炭素質(結晶性の低い順に炭素質1、炭素質2、炭素質3とする)のガス化開始温度は近いことが多く、各炭素質のガス化反応が連続して生じることが多い。この場合は、定速昇温によって得られるTG曲線の解析からは炭素質2、炭素質3のガス化開始温度を決定することは困難である。
【0040】
得られたTG曲線より決定される又はTG曲線の微分曲線(DTG曲線)より推定される炭素質のガス化開始温度におけるDTG値(重量変化速度)の絶対値より小さい値を昇温速度の制御目標値とする方法は、以下のような方法により例示できる。
TG曲線を微分することによりDTG曲線を描き、各炭素質のガス化開始温度におけるDTG値を求め、その絶対値より小さい値を昇温速度の制御目標値に設定することができる。
【0041】
上記(B)の工程では、重量変化速度が前記の制御目標値よりもゆるやかなときには、昇温速度は(A)の工程における定速昇温条件と同一、か焼コークスの重量変化速度が前記の制御目標値よりも急激なときには、昇温を停止もしくは昇温速度をゆるやかに制御し、TG曲線を測定する。
【0042】
ここで、昇温速度の制御目標値は、試行錯誤により決定した値であっても良いが、(A)の工程に記載された手法により、定速昇温熱重量分析により測定したTG曲線の微分曲線(DTG曲線)より推定される炭素質のガス化開始温度におけるDTG値(重量変化速度)の絶対値より小さい値を制御目標値することがより好ましい。
定速昇温熱重量分析により前記の制御目標値を決定することにより、異なるか焼コークスの分析をより正確に進めることが可能となる。そして、前記の制御目標値を、ガス化開始温度におけるDTG値(重量変化速度)の絶対値に近づけることにより、より迅速に異なるか焼コークスの分析を進めることが可能となる。
【0043】
続いて、TG曲線に基づいて、か焼コークスに含まれる結晶性もしくは配向性の異なる炭素質を分離定量する。
か焼コークスに含まれる炭素質を分離定量する方法は、得られたTG曲線を用いて、各炭素質のガス化開始温度を決定し、各炭素質のガス化開始温度で区分される温度範囲における各炭素質の存在量を測定することでできる。
【0044】
各炭素質のガス化開始温度は、試料重量の減少が開始する温度もしくは試料重量の減少速度が変化する温度より、決定することができるが、各炭素質の試料重量の減少が開始する温度によるのが好ましい。
また、ここで各炭素質の存在量の算出は、各炭素質がガス化する特定された温度域における試料の重量変化量より算出するのが好ましいが、発生ガスに含まれる炭素量を計測する等により行ってもよい。
【0045】
以上、本発明における試料の重量変化速度に応じて昇温速度を連続的に変化させる制御方法による熱重量測定を用いることにより、異なる炭素質のガス化反応による重量減少の境界が明瞭に計測でき、炭素質存在量の分離定量が精度良く測定できる。
【0046】
次に、本発明においてCTEを推算する方法について説明する。
CTEは、各炭素質成分のガス化開始温度および存在量により推算することができる。
【0047】
CTE値は炭素質の結晶化度および配向性と相関を示すことは既知である。本発明において炭素質の結晶化度および配向性は炭素質のガス化開始温度Tに反映されており、ある単一の結晶化度および配向性を有する炭素質のCTEは、
CTE[×10
−6/K]=A+BT (1)
で数式化される。
ここでAおよびBは実験値より決定される定数であり、Tはガス化開始温度[K]である。
【0048】
本発明に従い、結晶化度および配向性の異なるn成分の炭素質からなるか焼コークスの場合、炭素質nのガス化開始温度T
nとその重量分率α
n、炭素質nに帰属するCTEをCTE
nとすると、
CTE
n=A+B×T
n (2)
Σα
n=α
1+α
2+α
3+・・・+α
n=1 (3)
より、n成分の炭素質からなるか焼コークスのCTEは、式(4)より算出できる。
CTE=Σ(CTE
n×α
n)
=CTE
1×α
1+CTE
2×α
2+CTE
3×α
3+・・・+CTE
n×α
n
(4)
【0049】
定数AおよびBは、既知のCTE値を有するもしくは測定によりCTE値を得た複数種のか焼コークスを用いて、本発明における熱重量測定により各炭素質のガス化開始温度T
n、各炭素質の重量分率α
nを算出し、連立方程式を解くことにより決定することができる。
【0050】
具体的に、結晶化度および配向性の異なる3種類の炭素質からなるか焼コークスのCTEは、以下の式により求めることができる。
CTE=(A+B×T
1)×α
1+(A+B×T
2)×α
2
+(A+B×T
3)×α
3 (5)
α
1+α
2+α
3=1 (6)
【0051】
さらに具体的に、結晶化度の異なる2種類の炭素質からなるか焼コークスの場合について説明する。
まず既知のCTE値を有するもしくは測定によりCTE値を得た複数種のか焼コークスを用いて、本発明における熱重量測定を実施し、各炭素質のガス化開始温度T、各炭素質の重量分率αを算出し、連立方程式を解くことにより、定数AおよびBを決定する。
【0052】
次にCTE値が未知のか焼コークスに対して、本発明における熱重量測定を実施し、炭素質1のガス化開始温度T
1とその重量分率α、炭素質2のガス化開始温度T
2と重量分率1−αを求める。
【0053】
前記で求めた定数AおよびB、炭素質1のガス化開始温度T
1とその重量分率α、炭素質2のガス化開始温度T
2と重量分率1−αを用いて、CTE値を式(7)により算出できる。
CTE[×10
−6/K]=α(A+BT
1)+(1−α)(A+BT
2)
(7)
【0054】
次に、本発明により推算した黒鉛成形体のCTE値を用いたか焼コークスの製造工程における品質管理方法について説明する。
黒鉛成形体のCTEは黒鉛の結晶性および配向性を表す指標の一つとして利用されている。熱膨張係数が4×10
−6/Kより小さいものは黒鉛の結晶性が高く、粒子形状が針状になりやすい。一方、5×10
−6/Kより大きいものはアスペクト比が小さくなるが黒鉛結晶が未発達である
【0055】
本発明を用いてか焼コークスより推算した黒鉛成形体のCTEが、例えば5×10
−6/Kより小さい場合、製鋼用電極製造に用いられるニードルコークスとして好適なか焼コークスであると判定することができる等、か焼コークスの選定する方法として本発明の技術を用いることができる。
【0056】
本発明を用いてか焼コークスより推算した黒鉛成形体のCTEにより、か焼コークスの品質を管理する品質管理方法としても本発明の技術を用いることができる。
【0057】
さらには、か焼コークス製造工程において、あるCTE値を持つか焼コークスを製造するための製造条件を決定するために用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例をもって本発明のCTEの推算方法およびか焼コークス製造における品質管理方法について説明する。
なおこれら実施例は、それぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0059】
(評価試料)
評価試料NC−1、NC−2およびNC−3は、市場で調達した石炭由来のか焼コークスであり、評価試料NC−4、NC−5およびNC−6は、市場で調達した石油由来のか焼コークスである。
【0060】
(熱重量分析装置)
熱重量測定装置には、水蒸気作動型示差熱天秤(株式会社リガク製TG−DTA/HUM−1)を用いた。
【0061】
(重量変化速度制御値の決定)
石炭系か焼コークス試料(評価試料NC−1)をおよそ10mg、0.01mgまで精秤し、熱重量測定装置に導入した。ここにガス化剤として水蒸気と窒素を混合したガスを300ml/min流した。このときの水蒸気分圧は20kPaとした。ガス化剤を流通した条件で、10℃/min昇温速度で1350℃まで定速昇温し、TG曲線およびDTG曲線を計測した。
昇温時に試料重量が減少し始める温度より炭素質のガス化開始温度1153℃を決定した。ガス化開始温度付近である1160〜1170℃におけるDTG値(重量変化速度)の絶対値の平均値は0.0023%/秒であった。
従って0.002%/秒を昇温速度の制御値に設定した。
【0062】
〔実施例1〕
(CTE推算のための定数AおよびBの算出)
CTE値既知試料である石炭系か焼コークスである評価試料NC−1(CTE値=3.3×10
−6/K℃)および石油系か焼コークスである評価試料NC−4(CTE値=4.5×10
−6/K)を用いてCTE推算のための定数AおよびBを算出した。
【0063】
重量変化速度の絶対値が制御値0.002%/秒になるように昇温速度を制御して、評価試料NC−1および評価試料NC−4の熱重量測定を実施し、炭素質のガス化開始温度および存在量の重量分率を求めた。
まず評価試料NC−1(石炭系か焼コークス)をおよそ10mg、0.01mgまで精秤し、熱重量測定装置に導入した。ここにガス化剤として水蒸気と窒素を混合したガスを300ml/min流した。このときの水蒸気分圧は20kPaとした。ガス化剤を流通した条件で、重量変化速度の絶対値が制御値0.002%/秒よりも小さいときは10℃/minの昇温速度で昇温し、重量変化速度の絶対値が制御値0.002%/秒以上の場合には昇温を停止するように昇温速度を制御して、TG曲線を計測した。得られたTG曲線を
図1に示した。
【0064】
評価試料NC−1は1段階の重量減少を示した。このことから、評価試料NC−1は結晶性および配向性が揃った炭素質のみから形成されていることがわかった。ガス化開始温度T1は1153℃、α=1.00が得られた。
【0065】
評価試料NC−4について評価試料NC−1と同様にTG曲線を計測した。得られたTG曲線を
図2に示した。評価試料NC−4も評価試料NC−1と同様に1段階の重量減少を示し、結晶性および配向性が揃った炭素質のみから形成されていることがわかった。ガス化開始温度T1は1141℃、α=1.00が得られた。
【0066】
評価試料NC−1および評価試料NC−4の各CTE値および計測結果より、CTE推算のための定数を算出し、A=98.8[K
−1]、B=−0.0667[K
−2]を得た。
【0067】
(CTEの推算)
〔実施例2〕
評価試料NC−2(石炭系由来か焼コークス)のTG曲線を実施例1と同様に計測した。得られたTG曲線を
図3に示した。評価試料NC−2は2段階の重量減少を示したことから、結晶化度もしくは配向性の異なる複数の炭素質が存在していることが確認できた。
TG曲線より、ガス化開始温度T1=1113℃、T2=1135℃、α=0.08を得た。
【0068】
得られたT1、T2、αおよび実施例1において決定した定数A、Bを用いて評価試料NC−2のCTE値を推算したところ、CTE値=5.0×10
−6/Kと得られた。一般的な手法により黒鉛成形体を調製し測定したCTE値の実測値は4.3×10
−6/Kであり、比較的良い一致を示した。CTEの推算値および実測値は表1に記載した。
【0069】
得られたCTEの推算値は5.0×10
−6/Kであり、製鋼用電極製造等に用いられるか焼コークスとして、評価試料NC−2は適していることが確認できた。
【0070】
〔実施例3〕
評価試料NC−3(石炭系由来か焼コークス)に変更した以外は、実施例2と同様に実施した。得られたTG曲線を
図4に示した。
ガス化開始温度T1=1013℃、T2=1111℃、α=0.34を得た。CTEの推算値は8.7×10
−6/Kと得られた。CTEの実測値とともに表1に記載した。
【0071】
得られたCTEの推算値は8.7×10
−6/Kと大きく、評価試料NC−3は製鋼用電極製造等に用いられるか焼コークスとして適していないことが確認できた。
【0072】
〔実施例4〕
評価試料NC−5(石油系由来か焼コークス)に変更した以外は、実施例2と同様に実施した。得られたTG曲線を
図5に示した。
ガス化開始温度T1=1108℃、T2=1132℃、α=0.12を得た。CTEの推算値は5.3×10
−6/Kと得られた。CTEの実測値とともに表1に記載した。
【0073】
得られたCTEの推算値は5.3×10
−6/Kであった。製鋼用電極製造等に用いられるか焼コークスとして、評価試料NC−5はあまり適していないことが確認できた。
【0074】
〔実施例5〕
評価試料NC−6(石油系由来か焼コークス)に変更した以外は、実施例2と同様に実施した。得られたTG曲線を
図6に示した。
ガス化開始温度T1=1137℃、T2=1159℃、α=0.25を得た。CTEの推算値は3.6×10
−6/Kと得られた。CTEの実測値とともに表1に記載した。
【0075】
得られたCTEの推算値は3.6×10
−6/Kであり、製鋼用電極製造等に用いられるか焼コークスとして、評価試料NC−6は適していることが確認できた。
【0076】
【表1】
【0077】
評価試料NC−1〜NC−6に対して、CTE値の推算値と実測値の相関性を
図7に示した。
【0078】
表1および
図7に示されたように本発明の手法を用いることにより、黒鉛成形体を調製することなく、か焼コークスそのものを用いて黒鉛成形体のCTEを精度高く推算できることが確認できた。また評価対象となるか焼コークスは石炭系由来であっても石油系由来であっても同じようにCTEを推算できることがわかった。
【0079】
本発明の手法は、か焼コークス製造工程における品質管理手法として有効であることが確認できた。