(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6630817
(24)【登録日】2019年12月13日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】中空ばね部材及び中空ばね部材製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 8/22 20060101AFI20200106BHJP
C21D 1/06 20060101ALI20200106BHJP
C21D 9/02 20060101ALI20200106BHJP
F16F 1/02 20060101ALI20200106BHJP
F16F 1/16 20060101ALI20200106BHJP
B60G 21/055 20060101ALI20200106BHJP
【FI】
C23C8/22
C21D1/06 A
C21D9/02 A
F16F1/02 B
F16F1/16
B60G21/055
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-508548(P2018-508548)
(86)(22)【出願日】2017年2月15日
(86)【国際出願番号】JP2017005577
(87)【国際公開番号】WO2017169234
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2018年7月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-68014(P2016-68014)
(32)【優先日】2016年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 盛通
(72)【発明者】
【氏名】丹下 彰
【審査官】
中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−152315(JP,A)
【文献】
特公昭46−006326(JP,B1)
【文献】
特開昭55−011169(JP,A)
【文献】
特開2010−189758(JP,A)
【文献】
特開昭61−003878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 8/22
C21D 1/06
C21D 9/02
F16F 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用の中空ばね部材であって、
一方及び他方の端部が開口され、中空の内部空間を有する鋼管と、
前記鋼管の前記内部空間に封入される前記鋼管を加熱する前の浸炭性ガスと、
前記浸炭性ガスを前記内部空間に閉じ込めた状態で前記鋼管を加熱するために、前記浸炭性ガスが封入された前記内部空間を外部から遮断して前記浸炭性ガスを前記内部空間に閉じ込めるように、一方及び他方の前記端部の前記開口を封止する固定部と、
を具備していることを特徴とする中空ばね部材。
【請求項2】
前記浸炭性ガスは、アルコール蒸気を含むことを特徴とする請求項1に記載の中空ばね部材。
【請求項3】
前記浸炭性ガスは、前記鋼管の内面を浸炭させるとともに、前記鋼管の内部空間に還元性ガスを生じさせることを特徴とする請求項1に記載の中空ばね部材。
【請求項4】
車両用の中空ばね部材の製造方法であって、
両端部が開口された鋼管の内部空間に浸炭性ガスを封入し、
前記内部空間が前記浸炭性ガスで置換された状態で前記鋼管の前記両端部の前記開口を固定部によってそれぞれ封止して、前記内部空間を外部から遮断し、
前記鋼管を加熱して前記浸炭性ガスの一部を前記鋼管の内面に浸炭させる場合において、
前記鋼管の内部空間は、前記鋼管を加熱する前に、前記浸炭性ガスで置換されると共に、
前記鋼管は、前記両端部の前記開口を前記固定部で封止して、前記浸炭性ガスを前記内部空間に閉じ込めた状態で加熱されることを特徴とする中空ばね部材製造方法。
【請求項5】
前記鋼管の一端に前記浸炭性ガスを送り込んで該一端とは反対側の他端から前記鋼管の前記内部空間の大気を追い出して該内部空間を前記浸炭性ガスで置換することを特徴とする請求項4に記載の中空ばね部材製造方法。
【請求項6】
浸炭において高温になった状態の前記鋼管を急冷することにより、前記鋼管を焼入れすることを特徴とする請求項4に記載の中空ばね部材製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、車両用の中空ばね部材及び中空ばね部材を製造する中空ばね部材製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、ばね部材やダンパ部材等の種々のサスペンション部材により構成され、車体と車輪との間に介在するサスペンション装置が備えられている。ばね部材には、車軸の荷重を支えて衝撃を緩和するコイルばねや、左右や前後の車輪のサスペンション部材を連携動作させるスタビライザ等が含まれる。スタビライザは、例えばU字状に曲げられたトーションバーである。
【0003】
車両を軽量化するために、ばね部材の内部を中空にした中空ばね部材(中空スタビライザ、中空コイルばね)も知られている。耐疲労性を向上させるために中空ばね部材の鋼管外面及び鋼管内面を硬化させたい。
【0004】
表面を硬化させる方法として、焼入れが広く知られている。理想的な冷却速度で焼入れされた場合、鋼の硬度は炭素濃度で決定される。しかしながら、中空ばね部材の表面は、材料である素管の段階からすでに若干脱炭している。焼入れのために中空ばね部材を高温にするとさらに脱炭が進む。鋼管外面であればショットピーニング等の簡易な方法で残留圧縮応力を生じさせることができるため、炭素濃度が万全でなくても問題ない。一方、鋼管内面はそのような処理が困難である。耐疲労性向上のため、中空ばね部材のとりわけ鋼管内面において焼入れの効果を高めたい需要がある。
【0005】
焼入れ後の硬度を高めるため、焼入れ前に鋼管内面を浸炭して炭素濃度を調整することが考えられる(例えば、特許文献1)。しかしながら、浸漬や塗付により液状の浸炭剤を鋼管内面に付着させる場合、浸炭される炭素の量が多すぎる。部位毎の炭素濃度にムラが生じることもある。過剰に硬化される部位が生じることは、ばねとしての靱性を要求される中空ばね部材にとって好ましくない。また、浸炭炉の内部を浸炭性ガスで満たし、炉内に中空ばね部材を投入して浸炭する場合、専用の浸炭炉及び変成炉が必要となるため設備費及び管理費が高価になる。炉内を加熱するために消費するエネルギーが増加する。炉内への投入がバッチ式になるため、製造ラインにおいて中空スタビライザが完成するまでに要する時間が延びる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−118224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、浸炭に必要な時間及びエネルギーを節約でき、浸炭のために専用の浸炭炉等を必要としない。しかも、鋼管の内部空間を防錆雰囲気にできる中空ばね部材及び中空ばね部材製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に係る車両用の中空ばね部材は、一方及び他方の端部が開口され
、中空の内部空間を有する鋼管と、前記鋼管の
前記内部空間に封入され
る前記鋼管を加熱する前の浸炭性ガスと、
前記浸炭性ガスを前記内部空間に閉じ込めた状態で前記鋼管を加熱するために、前記浸炭性ガスが封入された前記内部空間を外部から遮断
して前記浸炭性ガスを前記内部空間に閉じ込めるように、一方及び他方の前記端部の前記開口を封止する固定部と、を
具備している。
【0009】
また、一実施形態に係る車両用の中空ばね部材の製造方法は、
両端部が開口された鋼管の内部空間に浸炭性ガスを封入し、前記内部空間が前記浸炭性ガスで置換された状態で前記鋼管の
前記両端部
の前記開口を
固定部によってそれぞれ封止し
て、前記内部空間を外部から遮断し、前記鋼管を加熱して前記浸炭性ガスの一部を前記鋼管の内面に浸炭させる場合において、前記鋼管の内部空間は、前記鋼管を加熱する前に、前記浸炭性ガスで置換される
と共に、前記鋼管は、前記両端部の前記開口を前記固定部で封止して、前記浸炭性ガスを前記内部空間に閉じ込めた状態で加熱される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係る中空ばね部材が装着されるサスペンション装置の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示された中空スタビライザの端部の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図1に示された中空コイルばねの端部の一例を示す側面図である。
【
図4】アルコール蒸気を含んだ原料ガスを発生させるアルコール蒸気発生装置の一例を示す断面図である。
【
図5】中空ばね部材の内部空間を浸炭性ガスで置換するガス置換装置の一例を示す断面図である。
【
図6】中空スタビライザの製造工程の流れの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る中空ばね部材について、
図1乃至
図6を参照して説明する。
図1は、中空ばね部材が装着されるサスペンション装置1の一例を示す斜視図である。サスペンション装置1は、中空スタビライザ10や中空コイルばね20を含む種々のサスペンション部材で構成されている。
【0012】
中空スタビライザ10及び中空コイルばね20は、いずれも本発明の中空ばね部材の一例であり、ばね鋼材等から形成された鋼管を曲げ成形して形成されている。中空スタビライザ10及び中空コイルばね20を構成するばね鋼材の種類は特に限定されないが、中空スタビライザ10向けの鋼材として、低炭素Mn−B鋼であって炭素濃度0.15〜0.40質量%程度の鋼材を用いることができる。例えば、米国自動車技術者会の規定に準拠するSAE10B21、SAE15B26が挙げられる。その他にも、例えば、26MnB5、34MnB5が挙げられる。
【0013】
また、中空コイルばね20向けの鋼材の例として、一般的な懸架コイルばね用鋼材を用いることができる。その他に、Si−Mn鋼又はSi−Mn−B鋼であって炭素濃度0.15〜0.60質量%程度の鋼材、UHS1900若しくはUHS1970、又はND120S若しくはND120Mを用いることができる。
【0014】
或いは、中空スタビライザ10及び中空コイルばね20を構成するばね鋼材の他の例として、米国自動車技術者会の規定に準拠するSAE9254や、JISに準拠するSUP7を用いてもよい。それ以外のばね鋼材であってもよい。ばね鋼材のみに限られず、鋼種は高強度鋼や浸炭用鋼であってもよい。中空スタビライザ10は、U字状に曲げ成形された前述の鋼管から構成され、一端11Eと、一端11Eとは反対側の他端12Eと、を有している。中空コイルばね20は、螺旋状に曲げ成形された前述の鋼管から構成され、一端21Eと、一端21Eとは反対側の他端22Eと、を有している。
【0015】
図2は、中空スタビライザ10の一端11Eを含む端部11の一例を示す斜視図である。
図2に示すように、端部11には、中空スタビライザ10を車両に装着するための固定部(目玉部)が形成されている。なお、他端12Eを含む端部12にも、一端11E側の端部11と略同一の形状の固定部が形成されている。端部11,12にそれぞれ形成された固定部は、中空スタビライザ10の内部空間13を外部から遮断している。つまり、中空スタビライザ10は、一端11Eを含む端部11及び他端12Eを含む端部12がそれぞれ封止されている。中空スタビライザ10の内部空間13には、後述する浸炭性ガスが封入されている。
【0016】
図3は、中空コイルばね20の一端21Eを含む端部21の一例を示す側面図である。なお、他端22Eを含む端部22は、端部21と略同一の形状を有している。
図3に示すように、端部21は、内部空間23を外部から遮断するように塞がれている。つまり、中空コイルばね20は、
図2に示す中空スタビライザ10と同様に、一端21Eを含む端部21及び他端22Eを含む端部22をそれぞれ封止されている。中空コイルばね20の内部空間23には、浸炭性ガスが封入されている。
【0017】
浸炭性ガスは、有機化合物を含んだ原料ガスを窒素やアルゴン等の不活性ガスで希釈したものである。
図4は、アルコール蒸気を含んだ原料ガスを発生させるアルコール蒸気発生器30の一例を示す断面図である。なお、原料ガスは、アルコール蒸気を含んだ混合ガスに限られず、例えばガスボンベ等から供給された高濃度COガスでもよい。プロパンガスやブタンガス等の炭化水素ガスを変成炉で変成させたRXガスでもよい。また、原料ガスは、浸炭性の有機化合物が気相状態のものに限定されない。鋼管10Pの内部空間へ供給し、封止できれば、浸炭性の有機化合物が液相状態であっても固相状態にあってもよい。また、原料ガスに含まれる浸炭性の有機化合物は、一種に限定されるものではなく、複数種を組み合わせてもよい。
【0018】
図4に示すアルコール蒸気発生器30は、液体の有機化合物が収容されたトレイ31と、多孔質ブロック32とを備えている。トレイ31に収容された液体の有機化合物の一例は、メタノールやエタノール等のアルコールである。なお、トレイ31内の有機化合物は、常温で液体であればアルコールに限られない。例えばアセトン等のケトンであってもよいし、カルボン酸であってもよい。
【0019】
多孔質ブロック32は、連続気泡性の多孔質体からなり、内部を貫通する流通孔33が形成されている。多孔質体の一例は耐火レンガである。多孔質ブロック32の少なくとも一部は、トレイ31の有機化合物に浸漬されている。
【0020】
高温に加熱された窒素やアルゴン等の不活性ガスが流通孔33の一端34に流入すると、多孔質ブロック32の内部に浸透・拡散していたアルコールが気化され、流通孔33の他端35から高濃度のアルコール蒸気を含んだ原料ガスが流出する。アルコール蒸気発生器30によって得られた原料ガスは、不活性ガスでさらに希釈されて所定のカーボンポテンシャル値の浸炭性ガスとして調製される。なお、希釈前にすでに所定のカーボンポテンシャル値であれば、浸炭性ガスは、不活性ガスで希釈されていない原料ガスのみでもよい。
【0021】
図5は、中空ばね部材の内部空間を浸炭性ガスで置換するガス置換装置40の断面図である。なお、図示した例では中空ばね部材として中空スタビライザ10をガス置換しているが、中空ばね部材が中空コイルばね20の場合も同様である。
【0022】
ガス置換装置40は、第1取付部材(第1口金)41と、第2取付部材(第2口金)42と、を備えている。第1取付部材41は、中空スタビライザ10を構成する鋼管10Pよりもやや大きい内径を有し、鋼管10Pの一端11Eに外嵌されている。第1取付部材41は、図示しない流量調整器を介してアルコール蒸気発生器30や不活性ガス供給源に接続されている。第2取付部材42は、第1取付部材41と略同一の形状を有し、外部の排気系に接続されている。
【0023】
図6は、中空スタビライザ10の製造工程の流れの一例を示す図である。
まず、ばね鋼材等から形成された長尺の素管を曲げ成形して、
図1に一例を示すばね形状(トーションバー)の鋼管10Pを形成する(工程A:ベンディング)。ベンディングは、例えば冷間加工で行う。なお、再結晶温度以上に加熱して熱間加工で成形してもよい。
【0024】
鋼管10Pの内部空間13を浸炭性ガスで置換する(工程B:ガス置換)。
図5に示すガス置換装置40を使用する場合、中空スタビライザ10を構成する鋼管10Pの一端11Eに装着した第1取付部材41から浸炭性ガスを供給するとともに、他端12Eに装着した第2取付部材42から大気や余剰の浸炭性ガスを回収する。内部空間13の雰囲気ガスが大気から浸炭性ガスにガス置換される。
【0025】
内部空間13をガス置換したのち、端部11,12を変形させて、浸炭性ガスを内部空間13に閉じ込める(工程C:ガス封止)。鋼管10Pの全長と比べて一端11E及び他端12Eの開口は狭い。そのため、端部11,12を封止するため加工している間も浸炭性ガスの大部分は内部空間13に滞留している。中空スタビライザ10を封止する場合、端部11,12を例えばアプセット加工やプレス加工によって塑性変形させて
図2に示す固定部を形成し、一端11E及び他端12Eの開口を封止する。中空コイルばね20を封止する場合、端部21,22を例えばスピニング加工やプレス加工によって
図3に示すように塑性変形させ、一端21E及び他端22Eの開口を封止する。
【0026】
浸炭性ガスを内部空間13に閉じ込めた状態で中空スタビライザ10を加熱する。中空スタビライザ10の加熱方法は、加熱炉に投入してもよいし、電極を接続して通電加熱してもよい。加熱されて高温になった中空スタビライザ10の鋼管内面14に浸炭性ガスが接触すると、浸炭性ガスに含まれるアルコール蒸気などの有機化合物が、高級から低級へと順次分解される。例えば、エタノールの場合、C
2H
5OH⇔CH
4+CO+H
2に分解されて還元性ガスを生じる。メタノールの場合、CH
3OH⇔CO+2H
2に分解されて還元性ガスを生じる。
【0027】
有機化合物が分解されて生じたCOガス等の還元性ガスは、ブードア反応2CO⇔C+CO
2や、CO+H
2⇔C+H
2O、CH
4⇔C+2H
2といった反応により、鋼管内面14に炭素を固溶させる。これにより、鋼管内面14の少なくとも表層部に浸炭層が形成される。
【0028】
有機化合物が分解されて生じた還元性ガスは、その一部が、ブードア反応に使用されるものの、その残余が、窒素やアルゴン等の不活性ガスと、ブードア反応で生じたCO
2ガスと、材料となる有機化合物等とともに、内部空間13の雰囲気中に存在している。
【0029】
加熱されて鋼管内面14に浸炭層が形成された中空スタビライザ10を、焼入れ組織(マルテンサイト)が生じる温度勾配で急冷する。つまり、本実施形態の中空ばね部材製造方法は、浸炭及び焼入れを連続で行う(工程D:浸炭及び焼入れ)。急冷前の中空スタビライザ10の温度は、例えば980〜1000℃(オーステナイト化温度)である。例えば油槽や水槽にオーステナイト化温度の鋼管10Pを浸漬して急冷することができる。
【0030】
中空スタビライザ10を焼戻して硬度を調整する(工程E:焼戻し)。歯車やカム軸等では通常250℃未満で焼戻すところ、中空スタビライザ10は、車両用のスタビライザとして要求される靱性を確保するため、低温焼き戻し脆性の温度範囲を避けつつ歯車やカム軸等の条件よりもやや高温で焼き戻すことが好ましい。本実施形態に係る焼戻し温度の一例は、150〜350℃である。
【0031】
中空スタビライザ10の鋼管外面15にショットピーニングを施す(工程F:ショットピーニング)。ショットピーニングにより、鋼管外面15を硬化して鋼管外面15の表面応力を均一化できる。また、鋼管外面15に残留圧縮応力を付与して耐久性及び耐疲労破壊性を向上させることができる。
鋼管外面15に化成処理層を形成する(工程G:化成処理)。化成処理層は、例えばリン酸亜鉛等のリン酸塩により形成できる。
防錆性及び耐チッピング性を向上させるため、鋼管外面15を塗装する(工程H:塗装)。塗膜は、例えば粉体焼付塗装により形成できる。
【0032】
以上のような工程を経て、素管から中空スタビライザ10を完成させる。なお、素管から中空コイルばね20を製造する場合、前述の工程Aにおいて、素管をU字状に曲げ成形するベンディングに代えて、素管を螺旋状に成形するコイリングを行う。コイリングは、前述のガス置換(工程B)及びガス封止(工程C)の前工程ではなく後工程で行う。他の工程D〜Hは、これまで説明した中空スタビライザ10の製造工程と同様である。コイリングは、熱間加工で行ってもよいし、冷間加工で行ってもよい。本実施形態の中空コイルばね製造工程は、一般的な中空コイルばね製造工程と概ね同様の工程に加え、さらに前述のガス置換(工程B)、ガス封止(工程C)、浸炭及び焼入れ(工程D)を備えている。
【0033】
以上のように構成された本実施形態に係る中空スタビライザ10及び中空コイルばね20は、内部空間13,23に浸炭性ガスが封入されている。浸炭のためにする加熱と焼入れのためにする加熱とを各別に行うと、その都度エネルギーを消費するが、本実施形態に係る中空スタビライザ10及び中空コイルばね20であれば、焼入れのためにする加熱中に鋼管内面14,24を浸炭できる。或いは、浸炭のためにする加熱で高温になった状態の中空スタビライザ10及び中空コイルばね20を急冷して焼入れできるともいえる。これにより、浸炭と焼入れとを連続して行うことが可能となり、製造工程で消費されるエネルギーを節約できる。
【0034】
さらに、浸炭性ガスが分解されて生じたCO等の還元性ガスのうち、浸炭層の形成に使用されなかった残余が内部空間13,23に閉じ込められているため、内部空間13,23が還元性雰囲気に保たれている。その結果、長期間に亘って鋼管内面14,24を防錆できる。
【0035】
本実施形態の中空ばね部材製造方法は、浸炭性ガスの原料ガスとしてアルコール蒸気を含んだ不活性ガスを使用している。材料となるエタノール等のアルコールは廉価に入手できるため、浸炭に要するコストを低減することができる。常温で液体のアルコールから原料ガスを発生させるため、RXガス等を発生させる場合と比較してガス漏れ等による爆発の危険が少ない。工場の安全性を向上できる。
【0036】
材料であるアルコール等は、アルコール蒸気発生器30によって気化できる。アルコール蒸気発生器30は、RXガスを変成するために一般的に使用される変成炉等と比較して構成が簡素でコンパクトであり、焼入れに必要な冷却槽等や加熱装置の近くにレイアウトできる。設備同士の距離を互いに縮めることができるため、浸炭と焼入れとを連続して行う本実施形態に好適に使用することができる。
【0037】
本実施形態では、ガス置換装置40によって中空スタビライザ10及び中空コイルばね20の内部空間13,23をガス置換している。専用の浸炭炉を使用して中空スタビライザ10及び中空コイルばね20に浸炭性ガスを導入する場合、設備費や浸炭性ガスの使用量が大きい。一方、ガス置換装置40は、浸炭炉と比較して構成が簡便である。設備費や浸炭性ガスの使用量を節約できる。
【0038】
本実施形態では、鋼管10Pを加熱する(例えば、工程D)よりも前工程において、一端11E及び他端12Eの開口をすでに封止している(工程C)。そのため、内部空間13を外部から遮断して酸素が流入することを阻止できる。外部からのガスが混入しないため、内部空間13の雰囲気のカーボンポテンシャル値を正確に予想できる。
【0039】
或いは、本実施形態の変形例として、
図6に示す例から工程Bを省略して内部空間13を浸炭性ガスでガス置換することなく一端11E及び他端12Eを封止した場合、内部空間13に閉じ込められた大気に含まれる酸素を有限にできる。変形例によれば、加熱によって鋼管内面14から深い位置に存在していた炭素を鋼管内面14に移動させて鋼管内面14の炭素濃度を若干回復させる(復炭させる)ことができる。
【0040】
さらに、ガス置換する工程Bまで備える本実施形態では、鋼管内面14を復炭させて炭素濃度を若干回復させるだけでなく、浸炭性ガスの炭素を浸炭させて鋼管内面14の炭素濃度を高めることができる。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
10…中空スタビライザ(中空ばね部材の一例)、10P…鋼管、11,12…端部、11E…一端、12E…他端、13…内部空間、14…鋼管内面、20…中空コイルばね(中空ばね部材の一例)、21,22…端部、21E…一端、22E…他端、23…内部空間。