特許第6630827号(P6630827)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6630827結晶シリコン系太陽電池およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6630827
(24)【登録日】2019年12月13日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】結晶シリコン系太陽電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0236 20060101AFI20200106BHJP
   H01L 31/0747 20120101ALI20200106BHJP
【FI】
   H01L31/04 280
   H01L31/06 455
【請求項の数】19
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-525236(P2018-525236)
(86)(22)【出願日】2017年6月28日
(86)【国際出願番号】JP2017023829
(87)【国際公開番号】WO2018003891
(87)【国際公開日】20180104
【審査請求日】2018年8月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-130762(P2016-130762)
(32)【優先日】2016年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】足立 大輔
【審査官】 吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−192370(JP,A)
【文献】 特開2008−091531(JP,A)
【文献】 特開2014−229876(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0085397(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶シリコン基板の第一主面に、真性シリコン系薄膜と導電型シリコン系薄膜とが前記結晶シリコン基板側からこの順に積層された非単結晶シリコン系薄膜、および透明導電層を備える結晶シリコン系太陽電池であって、
前記結晶シリコン基板は第一主面の表面にピラミッド状の凹凸構造を有し、
凹凸の頂部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚が、凹凸の中腹部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚よりも小さい、結晶シリコン系太陽電池。
【請求項2】
結晶シリコン基板の第一主面に、真性シリコン系薄膜と導電型シリコン系薄膜とが前記結晶シリコン基板側からこの順に積層された非単結晶シリコン系薄膜、および透明導電層を備える結晶シリコン系太陽電池であって、
前記結晶シリコン基板は第一主面の表面にピラミッド状の凹凸構造を有し、
凹凸の頂部上に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚が、凹凸の中腹部上に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚よりも小さい、結晶シリコン系太陽電池。
【請求項3】
凹凸の頂部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚が、凹凸の中腹部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚よりも小さい、請求項2に記載の結晶シリコン系太陽電池。
【請求項4】
凹凸の頂部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚が、凹凸の中腹部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚の0.75〜0.95倍の範囲内である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の結晶シリコン系太陽電池。
【請求項5】
凹凸の谷部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚が、凹凸の中腹部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚よりも小さい、請求項1〜4のいずれか1項に記載の結晶シリコン系太陽電池。
【請求項6】
凹凸の谷部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚が、凹凸の中腹部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚の0.75〜0.95倍の範囲内である、請求項5に記載の結晶シリコン系太陽電池。
【請求項7】
凹凸の頂部上に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚が、凹凸の中腹部上に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚の0.5〜0.9倍の範囲内である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の結晶シリコン系太陽電池。
【請求項8】
凹凸の中腹部に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚dに対する凹凸の頂部上に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚dの比d/dが、凹凸の中腹部に設けられた導電型シリコン系薄膜の膜厚Dに対する凹凸の頂部上に設けられた導電型シリコン系薄膜の膜厚Dの比D/Dよりも小さい、請求項1〜7のいずれか1項に記載の結晶シリコン系太陽電池。
【請求項9】
/dが、D/Dの0.5〜0.9倍の範囲内である、請求項8に記載の結晶シリコン系太陽電池。
【請求項10】
凹凸の谷部上に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚が、凹凸の中腹部上に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚の0.50.9倍の範囲内である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の結晶シリコン系太陽電池。
【請求項11】
凹凸の中腹部に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚dに対する凹凸の谷部上に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚dの比d/dが、凹凸の中腹部に設けられた導電型シリコン系薄膜の膜厚Dに対する凹凸の谷部上に設けられた導電型シリコン系薄膜の膜厚Dの比D/Dよりも小さい、請求項1〜10のいずれか1項に記載の結晶シリコン系太陽電池。
【請求項12】
/dが、D/Dの0.5〜0.9倍の範囲内である、請求項11に記載の結晶シリコン系太陽電池。
【請求項13】
前記ピラミッド状の凹凸構造の凸部の平均高さが0.5〜10μmである、請求項1〜12のいずれか1項に記載の結晶シリコン系太陽電池。
【請求項14】
凹凸の頂部上に設けられた前記透明導電層が結晶質であり、凹凸の中腹部上に設けられた前記透明導電層および凹凸の谷部に設けられた透明導電層よりも結晶化率が高い、請求項1〜13のいずれか1項に記載の結晶シリコン系太陽電池。
【請求項15】
結晶シリコン基板の第一主面に、真性シリコン系薄膜と導電型シリコン系薄膜とが前記結晶シリコン基板側からこの順に積層された非単結晶シリコン系薄膜、および透明導電層を備える結晶シリコン系太陽電池を製造する方法であって、
前記結晶シリコン基板は第一主面の表面にピラミッド状の凹凸構造を有し、
凹凸の頂部上の膜厚が凹凸の中腹部上の膜厚よりも小さい真性シリコン系薄膜を形成し、その上に導電型シリコン系薄膜を製膜することにより、前記非単結晶シリコン系薄膜の形成が行われる、結晶シリコン系太陽電池の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の結晶シリコン系太陽電池の製造方法であって、
第一主面の表面にピラミッド状の凹凸構造を有する結晶シリコン基板の第一主面上に、凹凸の頂部上の膜厚が凹凸の中腹部上の膜厚よりも小さい真性シリコン系薄膜を形成し、その上に導電型シリコン系薄膜を製膜することにより、前記非単結晶シリコン系薄膜の形成が行われる、結晶シリコン系太陽電池の製造方法
【請求項17】
前記導電型シリコン系薄膜を製膜する前の真性シリコン系薄膜は、凹凸の頂部上の膜厚が、凹凸の中腹部上の膜厚の0.5〜0.9倍の範囲内である、請求項15または16に記載の結晶シリコン系太陽電池の製造方法。
【請求項18】
結晶シリコン基板の第一主面上に、プラズマCVD法により真性シリコン系薄膜を製膜後に、
CVDチャンバ内に水素を導入しながらプラズマ放電を行い、シリコン系薄膜の表面に水素プラズマ処理を施すことにより、凹凸の頂部上の膜厚が凹凸の中腹部上の膜厚よりも小さい真性シリコン系薄膜を形成する、請求項15〜17のいずれか1項に記載の結晶シリコン系太陽電池の製造方法。
【請求項19】
水素に加えて、水素に対して1/3000〜1/150の量のシリコン含有ガスをCVDチャンバ内に導入しながら、前記水素プラズマ処理が行われる、請求項18に記載の結晶シリコン系太陽電池の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶シリコン基板表面にヘテロ接合を有する結晶シリコン系太陽電池、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶シリコン基板を用いた結晶シリコン系太陽電池では、結晶シリコンの異方性エッチング等により基板表面にピラミッド状の凹凸を形成し、光反射を低減している(いわゆる光閉じ込め)。これにより、結晶シリコン基板での光利用効率が増大し、太陽電池の電流密度が向上する。
【0003】
結晶シリコン基板の表面に非晶質シリコン等の非単結晶シリコン系薄膜を備える太陽電池(ヘテロ接合太陽電池)では、凹凸が形成された結晶シリコン基板と導電型シリコン系薄膜との間に、真性のシリコン系薄膜を設けることにより、結晶シリコン基板表面の欠陥に対するパッシベーション効果が得られる。
【0004】
真性シリコン系薄膜等のシリコン系薄膜は、一般にプラズマCVD法により形成される。凹凸が形成された結晶シリコン基板上にプラズマCVD法によりシリコン薄膜を形成すると、一般には凹凸の先端(頂点)部分の膜厚が大きく、谷の部分の膜厚が小さくなる傾向がある。特許文献1では、結晶シリコン基板表面への凹凸形成時に谷の部分が丸くなるようにエッチングを行うことにより、その上に形成される非晶質シリコン薄膜の膜厚を均一化できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO98/43304号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ヘテロ接合太陽電池において、結晶シリコン基板と導電型シリコン系薄膜との間に設けられる真性シリコン系薄膜は、結晶シリコン基板のパッシベーション効果による開放電圧向上効果をもたらす。一方、真性シリコン系薄膜は光励起キャリアの生成や回収に直接寄与しない層であるため、真性シリコン系薄膜の膜厚が大きくなると、真性シリコン系薄膜の光吸収による電流密度の低下や、直列抵抗に起因する曲線因子低下の原因となる。すなわち、結晶シリコン基板の表面に設けられる真性シリコン系薄膜の膜厚が大きくなると、パッシベーションによるプラス要因と、直列抵抗および光吸収によるマイナス要因とがトレードオフの関係となる。このトレードオフの関係は、特許文献1のように、シリコン系薄膜の膜厚を均一化した場合でも同様である。
【0007】
上記の諸特性を踏まえ、本発明は、ヘテロ接合太陽電池のさらなる高効率化を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、結晶シリコン基板の表面の凹凸の斜面に沿って、シリコン系薄膜に特定の膜厚分布を持たせることにより、高いパッシベーション効果を維持しつつ直列抵抗に起因する電気的ロスを低減し、太陽電池の変換効率を向上できることを見出した。
【0009】
本発明は、結晶シリコン基板の第一主面に、真性シリコン系薄膜と導電型シリコン系薄膜とからなる非単結晶シリコン系薄膜、および透明導電層を備える結晶シリコン系太陽電池に関する。結晶シリコン基板は第一主面の表面にピラミッド状の凹凸構造を有する。結晶シリコン基板の表面に設けられたピラミッド状の凹凸構造の凸部の平均高さは、0.5〜10μmが好ましい。
【0010】
凹凸の頂部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚は、凹凸の中腹部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚よりも小さい。凹凸の頂部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚は、凹凸の中腹部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚の0.75〜0.95倍の範囲内であることが好ましい。
【0011】
本発明においては、真性シリコン系薄膜が、凹凸に斜面に沿って特定の膜厚分布を有することが好ましい。凹凸の頂部上に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚は、凹凸の中腹部上に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚の0.5〜0.9倍の範囲内であることが好ましい。結晶シリコン系太陽電池の製造においては、このような膜厚分布を有する真性シリコン系薄膜を形成後、その上に導電型シリコン系薄膜を製膜することが好ましい。
【0012】
凹凸の中腹部に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚dに対する凹凸の頂部上に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚dの比d/dは、凹凸の中腹部に設けられた導電型シリコン系薄膜の膜厚Dに対する凹凸の頂部上に設けられた導電型シリコン系薄膜の膜厚Dの比D/Dよりも小さいことが好ましい。d/dは、D/Dの0.5〜0.9倍の範囲内であることが好ましい。
【0013】
凹凸の谷部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚は、凹凸の中腹部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚よりも小さいことが好ましい。凹凸の谷部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚は、凹凸の中腹部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚の0.75〜0.95倍の範囲内であることが好ましい。
【0014】
凹凸の中腹部に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚dに対する凹凸の谷部上に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚dの比d/dは、凹凸の中腹部に設けられた導電型シリコン系薄膜の膜厚Dに対する凹凸の谷部上に設けられた導電型シリコン系薄膜の膜厚Dの比D/Dよりも小さいことが好ましい。d/dは、D/Dの0.5〜0.9倍の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の結晶シリコン系太陽電池は、結晶シリコン基板の凹凸構造上に設けられたシリコン系薄膜が所定の膜厚分布を有するため、高変換効率を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態の結晶シリコン系太陽電池を示す模式的断面図である。
図2】結晶シリコン基板上に非単結晶シリコン系薄膜が形成された状態を表す模式図である。
図3】結晶シリコン基板上のシリコン系薄膜の膜厚分布の模式図である。
図4】シリコン系薄膜の膜厚と太陽電池特性との関係を説明するための図である。
図5】実施例および比較例における中腹部のシリコン薄膜の膜厚と太陽電池の変換特性との関係をプロットした図である。
図6】実施例および比較例における頂部のシリコン薄膜の膜厚と太陽電池の曲線因子との関係をプロットした図である。
図7】水素プラズマ処理時間と膜厚の関係をプロットしたグラフである。
図8】水素プラズマ処理時の水素希釈倍率と膜厚の関係を片対数プロットしたグラフである。
図9】酸処理前後のITO透明導電層表面のSEM観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は一実施形態の結晶シリコン系太陽電池(ヘテロ接合太陽電池)の模式的断面図である。ヘテロ接合太陽電池100は、結晶シリコン基板1の第一主面上に第一非単結晶シリコン系薄膜2を備え、その上に第一透明導電層3を備える。第一非単結晶シリコン系薄膜2は、結晶シリコン基板1側から、第一真性シリコン系薄膜21と第一導電型シリコン系薄膜22とが積層された構成を有する。なお、「非単結晶シリコン」とは、非晶質シリコン、微結晶シリコン(非晶質シリコン中に結晶質シリコンを含むもの)および多結晶シリコンを包含する概念である。
【0018】
結晶シリコン基板1の第二主面上には、第二非単結晶シリコン系薄膜4が設けられており、その上に第二透明導電層5が設けられている。第二非単結晶シリコン系薄膜4は、結晶シリコン基板1側から、第二真性シリコン系薄膜41と第二導電型シリコン系薄膜42とが積層された構成を有する。
【0019】
結晶シリコン基板1としては、単結晶シリコン基板または多結晶シリコン基板が用いられる。太陽電池の変換効率を高めるためには、単結晶シリコン基板が好ましく用いられる。結晶シリコン基板1の導電型は、n型およびp型のいずれでもよい。第一導電型シリコン系薄膜22と第二導電型シリコン系薄膜42とは異なる導電型を有し、一方がp型、他方がn型である。図1に示す両面電極型のヘテロ接合太陽電池では、変換効率を高める観点から、結晶シリコン基板1がn型単結晶シリコン基板であり、p型シリコン系薄膜の形成面を受光面とした構成が好ましい。
【0020】
結晶シリコン基板1は、少なくとも受光面側の表面に、ピラミッド状の凹凸構造を有する。ピラミッド状の凹凸構造は、例えば、単結晶シリコン基板の表面に異方性エッチング処理を施すことにより形成される。結晶シリコン基板の表面に凹凸構造が設けられることにより、光反射が低減するため、結晶シリコン基板での光利用効率が向上する。
【0021】
結晶シリコン基板1の表面に真性シリコン系薄膜21,41が設けられることにより、結晶シリコン基板への不純物拡散を抑えつつ表面パッシベーションを有効に行い、太陽電池の開放電圧を向上できる。真性シリコン系薄膜は、ドーパントを含まない、またはドーパント濃度が極めて低いシリコン系薄膜である。具体的には、真性シリコン系薄膜21,41のドーパント濃度は、p型またはn型のシリコン系薄膜22,42のドーパント濃度の20分の1以下である。真性シリコン系薄膜21,41のドーパント濃度は、導電型シリコン系薄膜22,42のドーパント濃度の100分の1以下が好ましい。真性シリコン系薄膜21,41は、ドーパントを含まないことが特に好ましい。パッシベーション効果を高めるために、真性シリコン系薄膜21,41は、水素化非晶質シリコンであることが好ましい。
【0022】
真性シリコン系薄膜の膜厚は、2〜15nmが好ましく、3〜12nmがより好ましく、4〜10nmがさらに好ましい。真性シリコン系薄膜の膜厚が過度に小さいと、結晶シリコン基板に対するパッシベーション効果が不十分となる場合がある。一方、真性シリコン系薄膜の膜厚が過度に大きいと、直列抵抗の増大や光吸収の増大により、変換特性が低下する場合がある。後に詳述するように、膜厚増大に伴うパッシベーション効果向上等のプラス要因と直列抵抗や光吸収の増大等によるマイナス要因とを考慮して、変換効率が最大となるように、真性シリコン系薄膜の膜厚を設定することが好ましい。なお、シリコン系薄膜は結晶シリコン基板の凹凸の斜面に沿って膜厚分布を有している。本明細書におけるシリコン系薄膜の膜厚とは、特に断りがない限り中腹部における膜厚dを指す。
【0023】
導電型シリコン系薄膜22,42としては、非晶質シリコン系薄膜、微結晶シリコン系薄膜等が挙げられる。シリコン系薄膜として、シリコン以外に、シリコンオキサイド、シリコンカーバイド、シリコンナイトライド等のシリコン系合金を用いることもできる。これらの中でも、非晶質シリコンが好ましい。導電型シリコン系薄膜22,42の膜厚は、3〜30nm程度が好ましい。
【0024】
真性シリコン系薄膜21,31および導電型シリコン系薄膜22,42の製膜方法としては、プラズマCVD法が好ましい。プラズマCVD法によるシリコン系薄膜の製膜条件としては、例えば、基板温度100〜300℃、圧力20〜2600Pa、高周波パワー密度0.003〜0.5W/cmが好ましく用いられる。シリコン系薄膜の製膜には、原料ガスとして、SiH、Si等のシリコン含有ガス、または、それらのガスとHを混合したものが用いられる。CVDチャンバ内に導入するシリコン含有ガスと水素の比率を調整することにより、シリコン系薄膜の膜厚や膜質を調整できる。非晶質シリコン薄膜を形成するためには、シリコン含有ガスに対する水素ガスの導入量(水素希釈倍率)は、10倍以下が好ましい。水素希釈倍率を大きくすると微結晶シリコンが生成する傾向がある。微結晶シリコン系薄膜を形成する場合の水素希釈倍率は、例えば30〜100倍程度に設定される。p層またはn層を形成するためのドーパントガスとしては、BまたはPH等が好ましく用いられる。
【0025】
本発明のヘテロ接合太陽電池は、結晶シリコン基板表面の凹凸の頂部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚dが凹凸の中腹部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚dよりも小さい。また、凹凸の谷部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚dは、凹凸の中腹部上に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚dよりも小さいことが好ましい。
【0026】
非単結晶シリコン系薄膜2の膜厚とは、結晶シリコン基板1の一方の主面に設けられた真性シリコン系薄膜21の膜厚と導電型シリコン系薄膜22の膜厚との合計である。「膜厚」とは、製膜面上の厚みを指す。ピラミッド状の凹凸が設けられた結晶シリコン基板1上に形成されるシリコン系薄膜の膜厚は、凹凸の斜面の法線方向を厚み方向として、断面観察により求められる。
【0027】
シリコン系薄膜がピラミッド状の凹凸の斜面に沿って膜厚分布を有している場合、頂点付近と谷付近の領域において、局所的に膜厚が変化している場合が多い。そのため、凸部の高さ方向の中央4/6の領域を中腹部とし、高さ方向の1/6ずつの領域を頂部および谷部と定義する。すなわち、凸部を高さ方向に6等分した領域のうち、表面側の1/6の領域を「頂部」、表面から最も遠い1/6の領域を「谷部」、頂部と谷部の間の4/6の領域を中腹部とする。(図2参照)。
【0028】
凹凸の頂部、中腹部および谷部におけるシリコン系薄膜の膜厚は、各領域の高さ方向の中央におけるシリコン系薄膜の膜厚である。すなわち、凸部を高さ方向に12等分して、表面から1/12の部分の膜厚が頂部の膜厚であり、表面から6/12(1/2)の部分の膜厚が中腹部の膜厚であり、表面から11/12の部分の膜厚が谷部の膜厚である。凸部の形状が正四角錐(ピラミッド状)の場合、頂部と中腹部と谷部の面積比は、1(2.8%):24(66.7%):11(30.5%)である。なお、図2では、シリコン系薄膜の膜厚を強調しているため、結晶シリコン基板の谷および頂点の位置とシリコン系薄膜の谷および頂点の位置が大きく異なるように描かれている。実スケールでは、シリコン系薄膜の膜厚はテクスチャの高さの1/100以下であり、膜厚の測定位置(テクスチャの高さの1/12の位置)の決定にあたっては、結晶シリコン基板の谷および頂点の位置とシリコン系薄膜の谷および頂点の位置とが、それぞれ同一であるとみなして差支えない。
【0029】
本発明のヘテロ接合太陽電池では、ピラミッド状の凹凸の斜面に設けられるシリコン系薄膜が、斜面に沿って膜厚分布を有している。凹凸の斜面の面積の約67%が中腹部に該当するため、シリコン系薄膜の全体の膜厚(平均膜厚)は、中腹部の膜厚が支配的となる。そのため、結晶シリコン基板のパッシベーション効果は、中腹部のシリコン系薄膜の膜厚が支配的要因となる。一方、以下に説明するように、シリコン系薄膜の直列抵抗は、最小の膜厚の影響を受けやすいと考えられる。本発明においては、シリコン系薄膜の中腹部の膜厚を大きくしてパッシベーション効果を向上しつつ、頂部の膜厚を小さくすることにより、直列抵抗に起因する曲線因子の低下を抑制できる。
【0030】
図2は、ピラミッド状の凹凸構造を有する結晶シリコン基板1上に、真性シリコン系薄膜21および導電型シリコン系薄膜22からなる非単結晶シリコン系薄膜2が形成された状態を表す模式図である。図2の実施形態では、頂部Tのシリコン系薄膜の膜厚dおよび谷部Bのシリコン系薄膜の膜厚dが中腹部Mのシリコン系薄膜の膜厚dよりも小さい。
【0031】
図3は、図2におけるテクスチャの斜面に沿ったシリコン系薄膜の膜厚分布を模式的に表す図である。仮想線Lは真性シリコン系薄膜21表面の粗さ平均線であり、仮想線Lは非単結晶シリコン系薄膜2(導電型シリコン系薄膜22)表面の粗さ平均線である。
【0032】
図2および図3に示す形態では、導電型シリコン系薄膜22は、中腹部Mの膜厚D、頂部Tの膜厚Dおよび谷部Bの膜厚Dがほぼ一定であり、真性シリコン系薄膜21は中腹部Mの膜厚dが、頂部Tの膜厚dおよび谷部Bの膜厚dよりも大きい。すなわち、真性シリコン系薄膜が凹凸の斜面に沿って膜厚分布を有することに起因して、非単結晶シリコン系薄膜2に膜厚分布が生じている。
【0033】
図2および図3に示すように真性シリコン系薄膜が凹凸の斜面に沿って膜厚分布を有する場合と、仮想線LおよびLで示すように膜厚分布を有していない場合とを比較すると、真性シリコン系薄膜の平均膜厚は両者で同一である。真性シリコン系薄膜が膜厚分布を有している場合は、場所による光吸収量の分布が存在するが、頂部、中腹部および谷部の全体を平均すると、膜厚分布の有無に起因する光吸収量の差はほとんど生じない。したがって、真性シリコン系薄膜の平均膜厚が同じであれば、真性シリコン系薄膜の膜厚分布の有無に関わらず、ヘテロ接合太陽電池の電流密度はほぼ同一となる。
【0034】
真性シリコン系薄膜による結晶シリコン基板表面へのパッシベーション効果についても同様であり、頂部、中腹部および谷部の全体を平均すると、膜厚分布の有無による差はほとんど生じない。そのため、真性シリコン系薄膜の平均膜厚が同じであれば、真性シリコン系薄膜の膜厚分布の有無に関わらず、ヘテロ接合太陽電池の開放電圧はほぼ同一となる。
【0035】
一方、真性シリコン系薄膜の平均膜厚が同じであれば、膜厚分布が存在する方が、膜厚が均一である場合に比べて直列抵抗が小さくなる傾向がある。結晶シリコン基板で生成した光励起キャリアは、直列抵抗が小さい領域に集中的に流れる傾向がある。そのため、真性シリコン系薄膜が膜厚分布を有する場合は、膜厚が小さい部分の抵抗値が、真性シリコン系薄膜全体としての直列抵抗を決する支配的要因となる。
【0036】
例えば、図2および図3に示す形態では、中腹部に比べて真性シリコン系薄膜の膜厚が小さい頂部や谷部が、電流(光励起キャリア)の主経路となると考えられる。そのため、真性シリコン系薄膜に起因する直列抵抗は、頂部および谷部における膜厚に応じた値となり、膜厚が均一な場合よりも直列抵抗が小さくなる。頂部と谷部とを比較すると、頂部は面積が小さい。そのため、頂部の膜厚を局所的に小さくすれは、全体の平均膜厚をほぼ維持したまま、直列抵抗を低減可能であり、太陽電池の特性向上効果が得られやすい。
【0037】
上記のように、真性シリコン系薄膜の平均膜厚が同等である場合、電流密度および開放電圧は真性シリコン系薄膜の膜厚分布の有無による差が小さい。一方、膜厚分布が存在する場合は、膜厚が均一な場合に比べて曲線因子が大きくなる傾向がある。
【0038】
図4は、真性シリコン系薄膜の平均膜厚dave(横軸)に対する、電流密度Jsc、開放電圧Voc、曲線因子FF、および変換効率Effの関係を概念的に表す図である。鎖線は真性シリコン系薄膜の膜厚が均一である場合、実線は真性シリコン系薄膜が膜厚分布を有する場合を表している。
【0039】
真性シリコン系薄膜の膜厚が大きいほど、光吸収ロスが大きくなるため、Jscは平均膜厚daveの増加に伴って単調減少する。真性シリコン系薄膜の膜厚が大きいほど、結晶シリコン基板によるパッシベーション効果が向上し、キャリアライフタイムが大きくなるため、Vocは、平均膜厚daveの増加に伴って単調増加する。真性シリコン系薄膜の膜厚が大きく、結晶シリコン基板表面のパッシベーション効果が十分に高められると、結晶シリコン基板内部でのキャリア再結合の影響が支配的となる。そのため、平均膜厚daveが所定値を超えると、Vocの上昇傾向は飽和する。
【0040】
真性シリコン系薄膜の膜厚が小さい領域では、Vocの増大に伴ってFFが上昇する傾向があるが、膜厚が大きい領域では直列抵抗増大の影響が大きくなるため、膜厚の増大に伴ってFFが低下する。膜厚と直列抵抗とは指数関数的な関係にあると考えられ、膜厚が所定値を超えるとFFが急激に低下する傾向がある。
【0041】
Jsc、VocおよびFFの積で表されるEffは、真性シリコン系薄膜の膜厚が小さい領域では、Vocの向上効果が支配的であり、膜厚の増加に伴ってEffが増加する傾向がある。一方、真性シリコン系薄膜の膜厚が大きい領域ではFFの低下が支配的となるため、膜厚の増加に伴ってEffが低下する傾向がある。このようなトレードオフの関係を勘案して、Effが最大値Emaxとなるように、真性シリコン系薄膜の膜厚を設定することが好ましい。
【0042】
真性シリコン系薄膜の膜厚分布の有無に着目すると、JscおよびVocは、膜厚分布の有無による明確な差がみられない。一方、FFは、膜厚分布が存在する場合(実線)は、膜厚分布が存在しない場合(鎖線)に比べて、曲線が右側(膜厚が大きい側)にシフトする傾向がみられる。これに伴って、膜厚分布が存在する場合は、Effが最大値Emaxとなる真性シリコン系薄膜の膜厚dが大きくなり、真性シリコン系薄膜に膜厚分布がない場合よりもEmaxが大きくなる。
【0043】
このように、真性シリコン系薄膜が膜厚分布を有している場合は、膜厚の増加に伴う直列抵抗の増大が抑制される傾向があり、これに伴って真性シリコン系薄膜の平均膜厚をより大きくできるため、パッシベーション効果向上のメリットを享受しやすい。そのため、より変換効率の高いヘテロ接合太陽電池が得られる。
【0044】
なお、結晶シリコン基板上の真性シリコン系薄膜が膜厚分布を有している場合でも、膜厚が小さい領域(電流の主経路となる領域)の存在分布が偏っていると、電流が局所的に集中するため、直列抵抗を十分に低減できない場合がある。本発明においては、凹凸の中腹部における真性シリコン系薄膜の膜厚と、凹凸の頂部における真性シリコン系薄膜の膜厚とが異なるため、結晶シリコン基板表面の凹凸構造に依存する半周期的な膜厚分布が存在する。電流の主経路となる膜厚の小さい領域が、結晶シリコン基板表面の全体にわたって半周期的に存在することから、電流の局所的集中が抑制され、結晶シリコン基板の面内全体において直列抵抗を低減できる。
【0045】
部分的な膜厚減少による直列抵抗低減効果を得るためには、膜厚分布の凹凸周期が小さく、単位面積あたりに存在する膜厚の小さい領域(電流の主経路となる領域)の数が大きい方が好ましい。凹凸の頂部における膜厚および谷部における膜厚の両方が、中腹部における膜厚よりも小さい場合は、膜厚の小さい領域(頂部および谷部)の数が多いため、直列抵抗低減効果が得られやすい。
【0046】
結晶シリコン基板の表面に設けられる凹凸のサイズを小さくして、凹凸の数(ピラミッドの頂部の数)を増加させることにより、膜厚の小さい領域の数を増加させてもよい。すなわち、凹凸サイズが小さいほど、凹凸の数が大きくなり、これに伴ってその上に形成されるシリコン系薄膜の膜厚の小さい領域の数も大きくなる。そのため、結晶シリコン基板の表面に設けられた凹凸構造の凸部の平均高さは、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。一方、凹凸構造による光閉じ込め効果を高める観点から、凸部の平均高さは0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。
【0047】
シリコン系薄膜の膜厚が大きい領域と膜厚が小さい領域における膜厚差は特に限定されない。膜厚差(膜厚分布)が過度に大きいと、結晶シリコン基板に対するパッシベーション効果が局所的に低い領域が形成されやすく、開放電圧が低下する場合がある。そのため、膜厚が小さい領域(凹凸の谷部や頂部)でも、非単結晶シリコン系薄膜2の膜厚は3nm以上であることが好ましく、真性シリコン系薄膜21の膜厚は1nm以上が好ましい。
【0048】
上記と同様の観点から、膜厚が小さい領域(凹凸の頂部および凹凸の谷部)に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚は、凹凸の中腹部に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚の0.75倍以上が好ましく、0.80倍以上がより好ましい。一方、膜厚分布による直列抵抗低減効果を十分に発揮するためには、膜厚が小さい領域(凹凸の頂部および凹凸の谷部)に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚は、凹凸の中腹部に設けられた非単結晶シリコン系薄膜の膜厚の0.95倍以下であることが好ましく、0.90倍以下がより好ましい。
【0049】
真性シリコン系薄膜21および導電型シリコン系薄膜22からなる非単結晶シリコン系薄膜2の中で、真性シリコン系薄膜21の膜厚が、結晶シリコン基板のパッシベーションや、直列抵抗等の発電特性を左右する主要因となる。そのため、変換効率の高いヘテロ接合太陽電池を得るためには、真性シリコン系薄膜21に膜厚分布を設けることが好ましい。中でも、結晶シリコン基板の凹凸の頂部上に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚dおよび凹凸の谷部上に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚dが、いずれも凹凸の中腹部上に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚dよりも小さいことが好ましい。
【0050】
頂部の真性シリコン系薄膜の膜厚dは、中腹部の真性シリコン系薄膜の膜厚dの0.5〜0.9倍が好ましく、0.55〜0.85倍がより好ましい。谷部の真性シリコン系薄膜の膜厚dは、中腹部の真性シリコン系薄膜の膜厚dの0.5〜0.9倍が好ましく、0.55〜0.85倍がより好ましい。
【0051】
一方、拡散電位を面内で均一に形成するためには、導電型シリコン系薄膜22の膜厚は均一性が高い方が好ましい。頂部の導電型シリコン系薄膜の膜厚Dは、中腹部の導電型シリコン系薄膜の膜厚Dの0.8〜1.2倍が好ましく、0.9〜1.1倍がより好ましい。谷部の導電型シリコン系薄膜の膜厚Dは、中腹部の導電型シリコン系薄膜の膜厚Dの0.8〜1.2倍が好ましく、0.9〜1.1倍がより好ましい。
【0052】
上記の様に、真性シリコン系薄膜21は凹凸の斜面に沿って膜厚分布を有しており、導電型シリコン系薄膜は膜厚が均一である方が好ましい。結晶シリコン基板の凹凸の中腹部上の真性シリコン系薄膜の膜厚dに対する頂部上の真性シリコン系薄膜の膜厚dの比d/d、および中腹部上の真性シリコン系薄膜の膜厚dに対する谷部上の真性シリコン系薄膜の膜厚dの比d/dは、いずれも1より小さいことが好ましい。一方、結晶シリコン基板の凹凸の中腹部上の導電型シリコン系薄膜の膜厚Dに対する頂部上の導電型シリコン系薄膜の膜厚Dの比D/D、および中腹部上の導電型シリコン系薄膜の膜厚Dに対する谷部上の導電型シリコン系薄膜の膜厚Dの比D/Dは、いずれも1に近い値であることが好ましい。
【0053】
結晶シリコン基板の凹凸の中腹部と頂部のシリコン系薄膜の厚みの比に関して、d/dは、D/Dよりも小さいことが好ましい。d/dは、D/Dの0.5〜0.9倍の範囲内であることが好ましく、0.6〜0.8倍がより好ましい。結晶シリコン基板の凹凸の中腹部と谷部のシリコン系薄膜の厚みの比に関して、d/dは、D/Dよりも小さいことが好ましい。d/dは、D/Dの0.5〜0.9倍の範囲内であることが好ましく、0.6〜0.8倍がより好ましい。
【0054】
結晶シリコン基板の凹凸の斜面に沿って膜厚分布を有するシリコン系薄膜の形成方法としては、製膜条件の調整や、製膜後のエッチング処理等が挙げられる。CVD法では、斜面の法線方向に膜が成長しやすい。そのため、製膜時に膜厚分布を設けるためには、テクスチャの頂部や谷部付近を局所的にマスクで被覆する等の方法を採用すればよい。
【0055】
製膜後のエッチング処理としては、各種のエッチング液によるウェットエッチングや、水素プラズマエッチング、反応性イオンエッチング(RIE)等によるドライエッチングを採用できる。例えば、谷部および中腹部を被覆し頂部が露出するように、レジスト等の保護層を設け、フッ硝酸等の酸性溶液や水酸化ナトリウム等のアルカリ性溶液によるウェットエッチングや、RIE等のドライエッチングを行うことにより、頂部におけるシリコン系薄膜の膜厚を選択的に小さくできる。例えば、液体のレジスト材料を用いる場合は、レジストをテクスチャの高さより小さな膜厚で塗布することにより、頂部が露出するように保護層を形成できる。
【0056】
ドライエッチングでは、斜め方向からのエッチング処理を行えば、テクスチャの凹凸が影となるため、中腹部や谷部がエッチングされ難く、頂部を選択的にエッチングして膜厚を小さくできる。水素プラズマエッチングでは、プラズマCVD法により真性シリコン系薄膜を製膜後、CVDチャンバ内に水素を導入してプラズマ放電を行う。水素プラズマエッチング時の圧力やプラズマパワー等を調整することにより、凹凸の頂部の真性シリコン系薄膜の膜厚を選択的に小さくできる。
【0057】
水素プラズマ処理により頂部の膜厚が選択的に小さくなる理由として、水素プラズマによりエッチングされた原子がシリコン系薄膜に再付着する確率に分布が存在することが考えられる。水素プラズマによりエッチングされた高エネルギーの原子は、平均自由行程が結晶シリコン基板の凹凸サイズよりも十分大きいため、凹凸の頂部から飛び出した原子は、凹凸構造内に閉じ込められる確率は低い。一方、凹凸の中腹部や谷部から飛び出した原子は、隣接する凹凸の斜面に衝突する確率が高いため、衝突を繰り返すうちにエネルギーを失ってシリコン系薄膜に再付着する確率も高いと考えられる。このような再付着確率の差に起因して、水素プラズマ処理による頂部の膜厚の減少量が中腹部および谷部の膜厚の減少量に比べて大きくなると推定される。
【0058】
前述の特許文献1(WO98/43304号)や後述の比較例1〜3に示されているように、一般的な条件(例えば、100倍以下の水素希釈倍率でシリコン含有ガスを導入)でプラズマCVD法によりシリコン系薄膜を製膜すると、結晶シリコン基板の凹凸上の薄膜の膜厚は、頂部>中腹部>谷部となる。水素プラズマ処理では頂部の膜厚減少量が大きいため、プラズマのパワー密度や処理時間を大きくすると、頂部の膜厚が中腹部の膜厚よりも小さくなる。
【0059】
水素のみを導入する水素プラズマエッチングに代えて、水素と少量のシリコン含有ガスとをチャンバに導入しながら水素プラズマ処理を実施して、凹凸の斜面に沿った薄膜の膜厚分布を調整することもできる。
【0060】
前述のように、水素のみを導入する水素プラズマエッチングでは、水素プラズマの作用によりシリコン系薄膜の膜厚が減少する。100倍以下の水素希釈倍率で水素とシリコン含有ガスを導入しながらプラズマパワーを印加すると、シリコン系薄膜が製膜される。水素に加えて、一般的な製膜条件よりも少量のシリコン含有ガスを導入して高水素濃度の雰囲気下でプラズマパワーを印加すると、水素プラズマによるエッチングと、雰囲気中に存在するシリコン含有ガスによるCVD製膜とが並行して競争的に生じる。高水素希釈倍率(例えば500倍以上)では水素プラズマエッチングが優勢となりシリコン系薄膜の平均膜厚が減少し、低水素希釈倍率(例えば150〜500倍程度)では製膜が優勢となりシリコン系薄膜の平均膜厚が増加する。
【0061】
少量のシリコン原料ガスを導入しながら水素プラズマ処理を実施した場合も、水素のみを導入する水素プラズマエッチングの場合と同様、凹凸の頂部では水素プラズマエッチングの影響が大きい。水素プラズマ処理により平均膜厚が増加する場合は、谷部および中腹部の膜厚の増加に比べて、頂部の膜厚の増加量が相対的に小さい。谷部および中腹部は膜厚が増加するのに対して、頂部の膜厚が減少することもある。より高水素希釈倍率の条件で水素プラズマ処理を実施すると、平均膜厚が減少する。この場合は、頂部の膜厚減少量が、中腹部および谷部の膜厚減少量よりも大きくなる。水素プラズマ処理の条件および時間を調整することにより、中腹部の膜厚よりも、頂部の膜厚および谷部の膜厚の小さいシリコン系薄膜が得られる。
【0062】
少量のシリコン含有ガスを添加する水素プラズマ処理は、水素のみを用いる水素プラズマエッチングに比べて、膜厚の変化速度が小さいため、より厳密な膜厚分布の制御が可能となる。また、少量のシリコン含有ガスを添加する水素プラズマ処理は、水素のみを用いる水素プラズマエッチングに比べて、太陽電池を量産した際のバッチ内およびバッチ間での膜厚のバラツキが小さくなる傾向がある。
【0063】
ヘテロ接合太陽電池の量産においては、一般に、製膜トレイ上に複数の結晶シリコン基板を載置して、1バッチで複数の結晶シリコン基板上にプラズマCVD法によるシリコン系薄膜の製膜が行われる。シリコン系薄膜の製膜途中あるいは製膜後に水素プラズマ処理が行われる場合も、1バッチで複数の基板に対する処理が行われる。結晶シリコン基板を載置した製膜トレイを入れ替えながら複数バッチの製膜および水素プラズマエッチングを連続で実施すると、連続製膜バッチ数の増加に伴って、トレイ上の中央に載置した基板とトレイ上の端部付近に載置した基板との間の、シリコン系薄膜の膜厚の差(バッチ内膜厚バラツキ)が大きくなる傾向がある。また、連続製膜バッチ数の増加に伴って、バッチ間での膜厚のバラツキも大きくなる傾向がある。水素に加えて少量のシリコン含有ガスを添加チャンバ内に導入しながら水素プラズマ処理を実施することにより、連続製膜バッチ数が増加した場合でも、バッチ内およびバッチ間での膜厚のバラツキを低減できる。
【0064】
バッチ内およびバッチ間での膜厚のバラツキを低減するために、水素プラズマ処理におけるシリコン含有ガスの導入量は、水素導入量の1/3000以上が好ましく、1/1500以上がより好ましく、1/1000以上がさらに好ましく、1/800以上が特に好ましい。凹凸の頂部に形成された真性シリコン系薄膜の膜厚減少量を相対的に大きくして、頂部の膜厚を中腹部の膜厚よりも小さくするためには、シリコン含有ガスの導入量は、水素導入量の1/150以下が好ましく、1/200以下がより好ましく、1/250以下がさらに好ましく、1/300以下が特に好ましい。すなわち、水素プラズマ処理におけるシリコン含有ガスの水素希釈倍率は、150〜3000倍が好ましく、200〜1500倍がより好ましく、250〜1000倍がさらに好ましく、300〜800倍が特に好ましい。
【0065】
水素プラズマの作用により凹凸の頂部に設けられた真性シリコン系薄膜の膜厚を相対的に小さくするためには、プラズマパワー密度は、55mW/cm以上が好ましく、60mW/cm以上がより好ましく、70mW/cm以上がさらに好ましく、80mW/cm以上が特に好ましい。一方、プラズマ処理時のパワー密度が過度に高いと、エッチング速度の増大により膜厚の制御が困難となったり、膜質の低下を招く場合がある。そのため、プラズマパワー密度は1000mW/cm以下が好ましく、800mW/cm以下がより好ましく、600mW/cm以下がさらに好ましく、500mW/cm以下が特に好ましい。
【0066】
水素プラズマ処理は、真性シリコン系薄膜の全膜厚部分を製膜後に実施してもよく、真性シリコン系薄膜の膜厚の一部を形成後に実施してもよい。真性シリコン系薄膜の膜厚の一部を形成後に水素プラズマ処理を行い、その後に、真性シリコン系薄膜の膜厚の残部を形成してもよい。真性シリコン系薄膜の膜厚の一部を形成後に水素プラズマ処理を行い、真性シリコン系薄膜の膜厚の残部を形成後に再度水素プラズマ処理を実施してもよい。真性シリコン系薄膜の膜厚の一部を形成後の水素プラズマ処理は、結晶シリコン基板上のシリコン系薄膜の膜厚が小さい状態(例えば1〜5nm程度)で行われる。そのため、凹凸の斜面に沿ったシリコン系薄膜の膜厚分布の調整に加えて、結晶シリコン基板とシリコン系薄膜との界面に水素プラズマによるパッシベーション効果を及ぼすことができ、太陽電池の特性がさらに向上する傾向がある。
【0067】
前述のように、導電型シリコン系薄膜22は、頂部の膜厚D、中腹部の膜厚D、および谷部膜厚Dの差が小さく、膜厚が均一であることが好ましい。一般的な条件で導電型シリコン系薄膜をCVD製膜すると、頂部の膜厚Dが中腹部の膜厚Dおよび谷部膜厚Dよりも大きくなり、直列抵抗が増大する傾向がある。製膜条件の調整や、製膜後のエッチング処理等により、導電型シリコン系薄膜の膜厚分布を調整できる。
【0068】
例えば、シリコン含有ガスに加えて水素を導入しながら製膜を実施することにより、頂部の膜厚Dと中腹部の膜厚Dとの差が小さくなる傾向がある。より具体的には、シリコン含有ガスに対して1〜150倍の水素を導入しながらCVD製膜を行うことにより、導電型シリコン系薄膜の頂部の膜厚と中腹部の膜厚の差が小さくなる傾向がある。また、シリコン含有ガスに対して150〜3000倍の水素を導入しながら製膜を行った後、シリコン含有ガスに対して1〜150倍の水素を導入して製膜を行ってもよい。シリコン含有ガスに対して1〜150倍の水素を導入しながら製膜を行った後、シリコン含有ガスに対して150〜3000倍の水素を導入して製膜を行ってもよい。
【0069】
上記の様に、本発明の結晶シリコン系太陽電池は、シリコン系薄膜が凹凸の斜面に沿って膜厚分布を有する。結晶シリコン基板の凹凸構造は主に受光面側に設けられるため、受光面側のシリコン系薄膜が凹凸の斜面に沿って膜厚分布を有することが好ましい。結晶シリコン基板の両面に凹凸構造が設けられている場合、受光面側および裏面側のいずれのシリコン系薄膜が凹凸の斜面に沿って膜厚分布を有していてもよく、両面のシリコン系薄膜が凹凸の斜面に沿って膜厚分布を有していてもよい。
【0070】
シリコン系薄膜が凹凸の斜面に沿って膜厚分布を有すること以外は、公知の材料および方法により、結晶シリコン系太陽電池を作製できる。非単結晶シリコン系薄膜2,4上に設けられる透明導電層3,5としては、ITOやZnO等の透明導電性金属酸化物からなる薄膜が好ましい。透明導電層の膜厚は、10〜140nm程度に設定される。透明導電層は、スパッタリング法、イオンプレーティング法、電子線蒸着法、CVD法等のドライプロセスや、導電性インクを用いたウェットプロセス等により形成できる。中でも、ITO等のインジウム系酸化物層の製膜には、スパッタリング法が適している。
【0071】
前述のように、シリコン系薄膜が凹凸の斜面に沿って膜厚分布を有する場合は、シリコン系薄膜の膜厚が小さく直列抵抗が小さい領域に、結晶シリコン基板で生成した光励起キャリアが集中的に流れる傾向がある。キャリアが集中的に流れやすい領域において、シリコン系薄膜と透明導電層との接触抵抗を低減すれば、キャリア取り出し効率の向上によるさらなる高出力化が期待できる。
【0072】
透明導電層のキャリア濃度を増加させることにより、界面での接触抵抗を低減できる。透明導電層におけるドープ金属(例えば、ITO中の錫)の濃度が高い場合や、結晶成分の含有量(結晶化度)が高い場合に、キャリア濃度が増加する傾向がある。一方、透明導電層のキャリア濃度が増加すると、透明導電層による赤外線領域の光吸収が増加して、太陽電池の短絡電流が低下する場合がある。
【0073】
透明導電層による光吸収を抑制し、かつ接触抵抗低減による光生成キャリア取り出し効率を向上するためには、シリコン系薄膜の膜厚が小さく光生成キャリアの流れやすい領域において、局所的に透明導電層のキャリア濃度を高めることが好ましい。具体的には、凹凸の頂部における透明導電層のキャリア濃度を相対的に高くすることが好ましい。
【0074】
例えば、凹凸の頂部の透明導電層を選択的に結晶化し、他の領域(凹凸の中腹部および凹凸の谷部)の透明導電層よりも結晶化率を高めれば、凹凸の頂部の透明導電層のキャリア濃度が相対的に高くなる。同一の条件で製膜を行った場合、膜厚が大きいほど透明導電層を構成する金属酸化物が結晶質となりやすい。一般的な製膜では、凹凸の頂部上の膜厚が、他の場所(凹凸の中腹部および谷部)に比べて大きくなる傾向がある。そのため、製膜厚みを調整することにより、相対的に膜厚の大きい頂部が結晶質となり、中腹部および谷部が相対的に低結晶化率または非晶質となる。結晶化を促進するために、凹凸の頂部の透明導電層の膜厚は15nm以上が好ましい。凹凸の頂部の透明導電層の膜厚は凹凸の谷部の透明導電層の膜厚の1.2倍以上が好ましく、1.3倍以上がより好ましい。透明導電層による光吸収を低減する観点から、透明導電層は、凹凸の頂部における膜厚が60nm以下であることが好ましく、40nm以下であることがより好ましい。
【0075】
結晶成分を生成させるためには、透明導電層のドープ金属含有量が小さいことが好ましい。透明導電層のドープ金属含有量は6重量%以下が好ましく、4重量%以下がより好ましい。一方、低抵抗化の観点から、透明導電層のドープ金属濃度は1重量%以上が好ましく、1.5重量%以下がより好ましい。
【0076】
凹凸の頂点の透明導電層を選択的に結晶化する場合、頂部の透明導電層の結晶化率は20%以上が好ましく、30%以上がより好ましい。結晶化率は、25℃の10%塩酸に20秒浸漬して酸処理(酸による非晶質成分のエッチング)を行った後に、溶解せずに残存する透明導電層の面積比率から算出される。
【0077】
透明導電層3,5上には、電流取り出しのために金属電極7,8が設けられる。受光面側の金属電極は、所定形状にパターニングされている。裏面側の金属電極は、透明導電層上の全面に形成されていてもよくパターン状でもよい。パターニングされた集電極は、各種の印刷法やめっき法等により作製できる。
【0078】
以上、図1に示す両面電極型のヘテロ接合太陽電池の例を中心に説明したが、本発明は裏面側にのみ電極を有するバックコンタクト型のヘテロ接合太陽電池にも適用できる。バックコンタクト型のヘテロ接合太陽電池は、結晶シリコン基板の受光面側に電極を有さず、裏面側にp型シリコン系薄膜およびn型シリコン系薄膜を有し、それぞれの導電型シリコン系薄膜上に電極を有する。結晶シリコン基板の裏面側(電極形成面)に凹凸構造を有するバックコンタクト型の太陽電池において、結晶シリコン基板と導電型シリコン系薄膜との間に設けられた真性シリコン系薄膜が凹凸の斜面に沿って膜厚分布を有していれば、両面電極型太陽電池の場合と同様に、直列抵抗低減による変換効率向上に寄与できる。
【0079】
本発明の結晶シリコン系太陽電池は、実用に供するに際して、モジュール化されることが好ましい。太陽電池のモジュール化は、適宜の方法により行われる。例えば、隣接する太陽電池(セル)の金属電極間をインターコネクタにより接続して、複数のセルを直列または並列に接続した後、封止を行うことにより、太陽電池モジュールが得られる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例と比較例との対比により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
[比較例1〜3]
(結晶シリコン基板へのテクスチャの形成)
入射面の面方位が(100)で、厚みが200μmの6インチn型単結晶シリコン基板を、アセトン中で洗浄した後、2重量%のHF水溶液に3分間浸漬して表面の酸化シリコン膜を除去し、超純水によるリンスを行った。洗浄後の結晶シリコン基板を、70℃の5/15重量%のKOH/イソプロピルアルコール水溶液に15分間浸漬した後、超純水によるリンスを行い、(111)面が露出したピラミッド型のテクスチャが形成された結晶シリコン基板を得た。
【0082】
(受光面側シリコン薄膜の製膜)
結晶シリコン基板を25枚載置可能な製膜トレイ(トレイ面積:0.93m、製膜面の面積:0.67m)上の面内中央載置ポジションに、テクスチャが形成された結晶シリコン基板を載置してCVDチャンバ内へ導入し、基板温度150℃、圧力120Pa、H/SiH流量比10/3、パワー密度11mW/cmの条件で、15秒間製膜を行い、受光面側真性シリコン薄膜を形成した。真性シリコン系薄膜の中腹部の膜厚が、約4nm(比較例1)、約5nm(比較例2)および約6nm(比較例3)となるように、製膜時間を調整した。
【0083】
真性シリコン薄膜上に、基板温度150℃、圧力60Pa、B含有H/SiHの流量比が3/1、パワー密度11mW/cmの条件で、中腹部の膜厚が約3nmのp型シリコン薄膜を形成した。B含有Hとしては、HによりB濃度を5000ppmに希釈した混合ガスを用いた。
【0084】
(裏面側シリコン薄膜の製膜)
結晶シリコン基板を裏返し、受光面側真性シリコン薄膜の形成と同一条件で、中腹部の膜厚が約6nmの裏面真性シリコン薄膜を形成し、その上に、基板温度150℃、圧力60Pa、PH含有H/SiHの流量比が3/1、パワー密度11mW/cmの条件で、膜厚が約4nmのn型非晶質シリコン薄膜を形成した。PH含有Hとしては、HによりPH濃度を5000ppmに希釈した混合ガスを用いた。
【0085】
(電極の形成)
n型シリコン薄膜上およびp型シリコン薄膜上のそれぞれに、凹凸の頂部における膜厚80nm(谷部における膜厚55nm)のITO透明導電層を製膜した。透明導電層は、酸化錫含有量10重量%のITO焼結ターゲットを用い、基板温度150℃、アルゴン/酸素流量:50sccm/1sccm、圧力0.2Pa、パワー密度0.5W/cmの条件で、スパッタ法により製膜した。透明導電層上に、スクリーン印刷により、銀ペーストを櫛形に印刷し、150℃で1時間加熱して、ヘテロ接合太陽電池を得た。
【0086】
[実施例1〜3]
実施例1〜3では、以下のように、受光面側真性シリコン薄膜の製膜後に水素プラズマ処理を実施して、テクスチャの斜面に沿った真性シリコン薄膜の膜厚に分布を持たせた。それ以外は、比較例1〜3と同様にしてヘテロ接合太陽電池を作製した。
【0087】
受光面側シリコン薄膜の製膜において、受光面側真性シリコン薄膜の中腹部の膜厚が、約10nm(実施例1)、約11nm(実施例2)および約13nm(実施例3)となるように、製膜時間を調整した。真性シリコン薄膜を製膜後、一旦プラズマ放電を停止した。SiHの供給を停止し、水素ガスのみをCVDチャンバへ導入し、30秒間ガス置換を行った。その後、パワー密度200mW/cmでプラズマ放電を開始し、圧力520Paの条件下で20秒間水素プラズマ処理(水素プラズマエッチング)を実施した。
【0088】
水素プラズマ処理後の受光面側真性シリコン薄膜上に、比較例1〜3と同一の条件で、中腹部の膜厚が約3nmのp型シリコン薄膜を形成した。
【0089】
[評価]
各実施例および比較例で得られたヘテロ接合太陽電池を1枚含むミニモジュールを作製し、試料温度25℃にて、AM1.5、100mW/cmの光照射下で変換特性を測定した。ミニモジュールは、表裏の電極に配線材を接続したヘテロ接合太陽電池の両面に封止材を配置し、受光面にガラス、裏面にバックシートを配置して封止することにより作製した。変換特性を測定後のミニモジュールを分解し、太陽電池の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、受光面側のテクスチャの頂部、中腹部および谷部におけるシリコン薄膜(真性シリコン薄膜とp型シリコン薄膜の合計)の膜厚を求めた。
【0090】
受光面側シリコン薄膜の膜厚およびミニモジュールの変換特性を表1に示す。表1では、各実施例および比較例のヘテロ接合電池受光面側シリコン薄膜の中腹部の膜厚に対する頂部および谷部の膜厚の比をあわせて示している。平均膜厚は、頂部の膜厚の1/36と中腹部の膜厚の24/36と谷部の膜厚の11/36との和として算出した。表1における変換特性(開放電圧(Voc)、電流(Isc)、曲線因子(FF)および最大出力(Pmax))は、実施例1の値に対する増減(%)で示されている。
【0091】
【表1】
【0092】
実施例1〜3の太陽電池は、いずれも比較例1〜3の太陽電池よりも高い変換効率を示した。比較例1〜3では、テクスチャの頂部のシリコン薄膜の膜厚が中腹部の膜厚よりも大きいのに対して、実施例1〜3の太陽電池は頂部のシリコン薄膜の膜厚が中腹部の膜厚よりも小さくなっていた。比較例1〜3の太陽電池は、いずれもテクスチャの谷部のシリコン薄膜の膜厚が中腹部の膜厚よりも小さくなっており、実施例1〜3では、比較例1〜3よりもさらに谷部の膜厚が小さくなる傾向がみられた。
【0093】
中腹部のシリコン薄膜の膜厚dと、変換特性との関係をプロットしたものを図5に示す。シリコン薄膜の膜厚dの増加に伴ってVocが上昇し、Iscが低下する傾向がみられた。これらは、それぞれ、膜厚の増大に伴うパッシベーション効果の改善およびシリコン系薄膜による光吸収に起因すると考えられる。
【0094】
中腹部のシリコン薄膜の膜厚dの増加に伴ってFFが低下する傾向がみられた。これは、膜厚の増大に伴って直列抵抗が増大したことに関連していると考えられる。実施例と比較例では、膜厚の増減に対するFFの増減傾向に差がみられ、中腹部のシリコン薄膜の膜厚dが同等の場合は、実施例の方が比較例よりも高いFFを示した。
【0095】
シリコン系薄膜の平均膜厚に対して、Voc、IscおよびFFをプロットしたグラフも、図5と同様の傾向を示した(データ不図示)。一方、図6に示すように、テクスチャの頂部のシリコン薄膜の膜厚dと、FFとの関係をプロットすると、膜厚dが同等の場合は、実施例と比較例とが同等のFFを示した。
【0096】
以上の結果から、テクスチャの頂部における真性シリコン薄膜の膜厚が、太陽電池のFFを決定する支配的要因となっており、テクスチャの中腹部のシリコン薄膜の膜厚が大きい場合でも、頂部の膜厚を小さくすることにより、FFが向上することが分かる。
【0097】
図5に示すように、テクスチャの中腹部のシリコン薄膜の膜厚の増大に伴ってVocは上昇しIscは低下する傾向があり、Vocの上昇の方が大きな変化挙動を示す。そのため、中腹部のシリコン薄膜の膜厚を大きくしてVocを高めつつ、頂部のシリコン薄膜の膜厚を小さくしてFFの低下を防止することにより、変換効率の高い太陽電池が得られることが分かる。
【0098】
[水素プラズマ処理条件の検討]
以下では、受光面側真性シリコン薄膜の製膜後に、水素に加えて少量のSiHを導入しながら水素プラズマ処理を実施して、テクスチャの斜面に沿った真性シリコン薄膜の膜厚分布を調整した。
【0099】
[実施例4〜6]
中腹部の膜厚が約4.5nmとなるように製膜時間を調整したこと以外は比較例1と同様にして真性シリコン薄膜を製膜後、一旦プラズマ放電を停止した。SiHの供給を停止し、水素ガスのみをCVDチャンバへ導入し、30秒間ガス置換を行った。その後、水素に対して0.3%の流量(水素希釈倍率333倍)でSiHをCVDチャンバへ導入し、パワー密度200mW/cmでプラズマ放電を開始し、圧力520Paの条件下で水素プラズマ処理を実施した。水素プラズマ処理時間は、実施例4が20秒、実施例5が40秒、実施例6が60秒とした。
【0100】
水素プラズマ処理後の受光面側真性シリコン薄膜上に、比較例1〜3と同一の条件で、中腹部の膜厚が約3nmのp型シリコン薄膜を形成した後、裏面側シリコン薄膜の製膜、および電極の形成を行い、ヘテロ接合太陽電池を得た。
【0101】
[実施例7〜9および比較例4]
中腹部の膜厚が、比較例4では約5nm、実施例7では約7nm、実施例8では約8nm、実施例9では約8.5mとなるように、製膜時間を調整して真性シリコン薄膜を製膜した。その後、水素に対するSiH流量を、比較例4では1%(水素希釈倍率100倍)、実施例7では0.2%(水素希釈倍率500倍)、実施例8では0.1%(水素希釈倍率1000倍)、実施例9では0.05%(水素希釈倍率2000倍)とし、それ以外は実施例4と同様の条件で、水素プラズマ処理を実施した。水素プラズマ処理後の受光面側真性シリコン薄膜上に、比較例1〜3と同一の条件で、中腹部の膜厚が約3nmのp型シリコン薄膜を形成した後、裏面側シリコン薄膜の製膜、および電極の形成を行い、ヘテロ接合太陽電池を得た。
【0102】
[評価]
実施例4〜9および比較例4のヘテロ接合太陽電池の受光面側のテクスチャの頂部、中腹部および谷部におけるシリコン薄膜の膜厚(真性シリコン薄膜とp型シリコン薄膜の合計)、ならびにミニモジュールの変換特性を表2に示す。また、実施例4〜6の頂部、中腹部および谷部の膜厚と水素プラズマ処理時間との関係をプロットしたものを図7;実施例4,7〜9および比較例の頂部、中腹部および谷部の膜厚と水素プラズマ処理時の水素希釈倍率との関係を片対数プロットしたものを図8に示す。
【0103】
[複数バッチの連続製膜(量産)時の膜厚評価]
製膜トレイの25箇所の載置ポジションのうち、中央の1箇所と端部の1箇所の計2つの載置ポジションに結晶シリコン基板を載置してCVDチャンバ内へ導入し、実施例4と同様の条件で真性シリコン系薄膜の製膜、水素プラズマ処理およびp型シリコン薄膜の製膜を実施した(第1バッチ)。第1バッチの終了後、製膜トレイをCVD装置から取出し、製膜トレイの2箇所の載置ポジションに新たな結晶シリコン基板を載置してCVDチャンバ内へ導入し、第1バッチと同様に、真性シリコン系薄膜の製膜、水素プラズマ処理およびp型シリコン薄膜の製膜を実施した。これらの一連の操作を繰り返し、第1000バッチまで処理を行った。実施例7〜9、比較例および実施例2についても同様に、第1〜1000バッチの処理を実施した。
【0104】
実施例2,4,7〜9、および比較例のそれぞれについて、第10バッチで処理を実施した2枚の結晶シリコン基板、および第1000バッチで処理を実施した2枚の結晶シリコン基板のテクスチャの谷部におけるシリコン薄膜の膜厚(真性シリコン薄膜とp型シリコン薄膜の合計)を測定した。シリコン薄膜の膜厚は、TEM観察領域内の3つの凸部の谷部について測定し、その平均値を算出した。第10バッチにおいてトレイの中央部で処理を行った基板上のシリコン系薄膜の膜厚と第1000バッチにおいてトレイの中央部で処理を行った基板上のシリコン系薄膜の膜厚の差を百分率で表したものを「バッチ間バラツキ」とした。第1000バッチにおいてトレイの中央部で処理を行った基板上のシリコン系薄膜の膜厚と第1000バッチにおいてトレイの端部で処理を行った基板上のシリコン系薄膜の膜厚の差を百分率で表したものを「バッチ内バラツキ」とした。これらの数値を表2に示す。
【0105】
【表2】
【0106】
図7(実施例4〜6)に示すように、プラズマ処理時の水素希釈倍率が300倍の場合は、プラズマ処理時間の増加に伴って膜厚が大きくなっており、凹凸の頂部、中腹部および谷部のいずれにおいても、水素プラズマによるエッチングよりも雰囲気中のSiHによる製膜が優勢であることが分かる。頂部の膜厚は、プラズマ処理時間に対する増加量(グラフの傾き)が中腹部および谷部よりも小さい。また、図8(実施例2,4,7〜9)に示すように、水素希釈倍率が100倍の場合は、製膜が優勢であるために頂部の膜厚が大きいが、プラズマ処理時の水素希釈倍率が大きいほど、中腹部に比べて頂部の膜厚減少量が大きくなる傾向がある。そのため、少量のシリコン含有ガスを添加する場合でも、水素のみを導入する場合と同様に、頂部の膜厚を中腹部の膜厚よりも小さくして、太陽電池の変換効率を向上できることが分かる。
【0107】
水素のみを導入してプラズマ処理を実施した実施例2と少量のSiHを導入してプラズマ処理を実施した実施例4,7〜9とを対比すると、初期の変換特性には大きな差はみられなかった。多数バッチの連続製膜を実施した場合の膜厚のバラツキをみると、実施例2では、第10バッチと第1000バッチとのバッチ間バラツキ、および第1000バッチのバッチバラツキが著しく大きいことが分かる。一方、SiHを導入してプラズマ処理を実施した実施例4,7〜9では、同一のCVDチャンバ内で多数バッチの連続製膜を実施した場合でも、バッチ内バラツキおよびバッチ間のシリコン薄膜のバラツキが小さく、量産の安定性に優れていることが分かる。
【0108】
[透明導電層の膜厚および結晶性と発電特性の検討]
実施例10〜12では、透明導電層の形成に用いるITOターゲットとして、酸化錫含有量2重量%のITO焼結ターゲットを用い、膜厚を表3に示すように変更した。それ以外は実施例2と同様にしてヘテロ接合太陽電池を得た。実施例13および14では、透明導電層の膜厚を表3に示すように変更したこと以外は実施例2と同様にしてヘテロ接合太陽電池を得た。
【0109】
[評価]
実施例10〜14および実施例2のヘテロ接合太陽電池の受光面側の透明導電層の膜厚および結晶性、ならびにミニモジュールの変換特性を表3に示す。透明導電層の膜厚および結晶性は、凹凸の頂部および谷部のそれぞれで評価を行った。表3における変換特性は、実施例2の値に対する増減(%)で示されている。
【0110】
透明導電層の結晶性は、太陽電池を25℃の10%塩酸に20秒浸漬して酸処理を行った後、純水で洗浄し、表面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて倍率50,000倍で観察し、酸処理後に残存する透明導電層の面積比率に基づいて評価した。酸処理前の透明導電層表面のSEM像の例を図9A,酸処理後の透明導電層表面のSEM像の例を図9Bに示す。図9Bの丸囲みは、塩酸によりエッチングされずに残存した透明導電層(ITO)の結晶成分が示されている。図9Bに示すような結晶成分の占める面積割合が20%以上であれば結晶質、20%未満であれば非晶質とした。
【0111】
【表3】
【0112】
実施例2よりも透明導電層の膜厚を小さくした実施例13および実施例14では、透明導電層による光吸収量の低減に伴ってIscが増加したが、透明導電層の抵抗の増大に伴ってFFが低下し、太陽電池の出力は実施例2に比べて低下していた。酸化錫含有量の小さいITO透明導電層を備える実施例12では、ITOが結晶質であることにより実施例2に比べて透明導電層が低抵抗化しFFが向上したが、キャリア濃度の増大により光吸収量が増加し、Iscが低下していた。実施例12よりもITOの膜厚を小さくした実施例11は、実施例2と同等の変換特性を示し、実施例12と対比すると、透明導電層による光吸収量の低減に伴ってIscが増加し、透明導電層の抵抗の増大に伴ってFFが低下していた。
【0113】
さらに膜厚を小さくした実施例10では、膜厚の小さい谷部は非晶質であり、膜厚の大きい頂部が局所的に結晶質となっていた。実施例10では、透明導電層の膜厚減少に伴ってFFが低下していたが、実施例13に比べると、FFの低下はわずかであった。実施例10では、頂部のITOが局所的に結晶質であり、局所的に光キャリアが流れやすいため、透明導電層の膜厚減少に伴うFFの低下が抑制されたと考えられる。
【0114】
透明導電層の膜厚が同一である実施例11と実施例14との対比および実施例12と実施例2との対比では、透明導電層が非晶質層である実施例14および実施例2が高いIscを示した。これは、非晶質層のキャリア濃度が小さく、光吸収が小さいためであると考えられる。実施例10では、頂部の透明導電層は結晶質であるが、谷部の透明導電層は非晶質であるため、実施例13と同様に高いIscを示した。前述のように、実施例10では、凹凸の頂部の透明導電層が結晶質であるために透明導電層の膜厚減少によるFFの低下が抑制されている。このように、凹凸の頂部を局所的に高結晶化率とすることにより、FFの向上とIscの向上(光吸収の低減)とが両立し、太陽電池の出力を向上できる。
【符号の説明】
【0115】
1 結晶シリコン基板
2,4 非単結晶シリコン系薄膜
21,41 真性シリコン系薄膜
22,42 導電型シリコン系薄膜
3,5 透明導電層
7,8 金属電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9