特許第6631061号(P6631061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6631061
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】防着液塗布方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/00 20060101AFI20200106BHJP
   B05D 1/18 20060101ALI20200106BHJP
【FI】
   B05D3/00 B
   B05D1/18
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-141125(P2015-141125)
(22)【出願日】2015年7月15日
(65)【公開番号】特開2017-18931(P2017-18931A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 佳男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元
(72)【発明者】
【氏名】梅田 和幸
【審査官】 高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−174548(JP,A)
【文献】 特開平05−034954(JP,A)
【文献】 特開平06−051545(JP,A)
【文献】 特開2014−152200(JP,A)
【文献】 特開2015−098142(JP,A)
【文献】 特開2004−313990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D
B05C1/00−3/20;7/00−21/00
B29B7/00−11/14;13/00−15/06
B29C31/00−31/10
B29C37/00−37/04
B29C48/00−48/96
B29C71/00−71/04
C08J7/00−7/18
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉体を30質量%以上含む防着剤を水に分散した防着液を接触槽と貯留槽との間で循環させながら、前記接触槽にてゴムシートに防着液を付着させる防着液塗布方法において、
前記接触槽から前記貯留槽へ向かう循環経路にて前記防着液中で凝集した前記防着剤の固形分を回収して、この回収した前記防着剤の固形分を分散機によって再分散したうえで前記循環経路に再投入することを特徴とする防着液塗布方法。
【請求項2】
前記防着剤の固形分を前記循環経路において前記防着液の液面に浮遊する凝集体の状態で回収することを特徴とする請求項に記載の防着液塗布方法。
【請求項3】
前記分散機が前記防着剤の固形分を水中超音波によって微粉砕する超音波ホモジナイザーであることを特徴とする請求項1または2に記載の防着液塗布方法。
【請求項4】
前記防着剤の消費成分を前記循環経路に追加投入することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の防着液塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防着液を接触槽と貯留槽との間で循環させながら接触槽にてゴムシートに防着液を塗布する防着液塗布方法に関し、更に詳しくは、循環時に防着液中の防着剤が凝集することを防いで、凝集した防着剤の固形分による防着液塗布装置やゴムシートの汚染を防止することを可能にした防着液塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミキサー等の混合機で混合されてシート状に成形された未加硫ゴムシートを次工程へ供給する際には、未加硫ゴムシートどうしの密着を防ぐために、未加硫ゴムシートの表面に防着液を塗布することが行われている。防着液としては、例えば、タルクや炭酸カルシウム等の無機粉体を含む防着剤を水に分散したものが用いられる。例えば、特許文献1の防着液塗布方法では、このような防着液を接触槽(防着液槽)と貯留槽(防着液収容タンク)との間で循環させながら、未加硫ゴムシートを接触槽(防着液槽)を通過させて未加硫ゴムシートに防着液を塗布している。
【0003】
しかしながら、接触槽と貯留槽との間で循環を繰り返すうちに、防着液中の防着剤(無機粉体成分)が凝集し、更にその凝集体が沈降するという問題がある。特に、防着剤には前述の無機粉体の他に界面活性剤が含まれるため、循環中に防着液が泡立ち、泡の表面に防着剤の無機粉体成分が濃縮され、この泡が壊れる(泡の水分が揮発する)際に無機粉体成分が凝集し易くなっている。このように凝集・沈降した防着剤の固形分を放置すると、防着液塗布装置(接触槽、貯留槽、循環経路等)が汚染されたり、この固形分が未加硫ゴムシートの表面に付着して未加硫ゴムシートを汚染するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3695783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、防着液を接触槽と貯留槽との間で循環させながら接触槽にてゴムシートに防着液を塗布する防着液塗布方法であって、循環時に防着液中の防着剤が凝集することを防いで、凝集した防着剤の固形分による防着液塗布装置やゴムシートの汚染を防止することを可能にした防着液塗布方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
記目的を達成するための本発明の防着液塗布方法は、無機粉体を30質量%以上含む防着剤を水に分散した防着液を接触槽と貯留槽との間で循環させながら、前記接触槽にてゴムシートに防着液を付着させる防着液塗布方法において、前記接触槽から前記貯留槽へ向かう循環経路にて前記防着液中で凝集した前記防着剤の固形分を回収して、この回収した前記防着剤の固形分を分散機によって再分散したうえで前記循環経路に再投入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の防着液塗布方法では、上述のように、循環中に凝集した防着剤の固形分が、接触槽から貯留槽へ循環する途中で、分散機によって再分散されるので、凝集した防着剤の固形分が防着液中に残存しなくなり、防着液塗布装置やゴムシートの汚染を防止することができる。
【0009】
接触槽から貯留槽へ向かう循環経路にて防着剤の固形分を回収する場合、防着剤の固形分を循環経路において防着液の液面に浮遊する凝集体の状態で回収することが好ましい。即ち、循環経路では防着液は泡立っているため、防着剤の固形分は泡中に凝集体として存在しており、更に、このような泡は液面に集まるので、浮遊する凝集体(即ち、防着液の上層)を回収するという簡単な方法で防着剤の固形分を容易に捕集することができる。
【0010】
本発明では、分散機が防着剤の固形分を水中超音波によって微粉砕する超音波ホモジナイザーであることが好ましい。これにより、容易かつ効率的に防着液の固形分を再分散することが可能になる。
【0011】
本発明では、防着剤の消費成分を循環経路に追加投入することが好ましい。これにより、単に凝集した防着剤の固形分を再分散しただけでは、ゴムシートに塗布された分の防着剤の成分が不足して、防着液の組成を充分に維持することが難しいところ、防着液の組成を確実に一定に保つことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第一の防着液塗布方法における防着液の循環システムを模式的に示 す説明図である。
図2】本発明の第二の防着液塗布方法における防着液の循環システムを模式的に示 す説明図である。
図3】従来の防着液塗布方法における防着液の循環システムを模式的に示す説明図 である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1に例示するように、本発明の防着液塗布方法では、貯留槽1と接触槽2との間を防着液Lが循環し、接触槽2にて未加硫ゴムシートRに防着液Lが塗布される。図1の例では、貯留槽1と接触槽2の他に、防着液Lを調整する建浴槽3を有する。
【0015】
防着液Lは、タルク、炭酸カルシウム、ベントナイト、モンモリロナイト等の無機粉体を主要成分として含む防着剤を水(工業用水)に分散して調製される。この防着液Lが未加硫ゴムシートRの表面に塗布されると、防着液L(防着剤)が未加硫ゴムシートRの表面を覆って、防着性や滑り性を付与し、未加硫ゴムシートRどうしが密着することを防ぐことができる。防着剤における前述の無機粉体の配合割合は30質量%以上、好ましくは60%以上である。また、防着剤は、前述の無機粉体を未加硫ゴムシートRの表面に付着し易くするために、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、軟セッケン、金属セッケン等のセッケンや、セッケン以外の合成界面活性剤を用いることができる。これら界面活性剤の配合量は特に限定されないが、防着剤中に例えば30〜60質量%含まれるとよい。
【0016】
貯留槽1には、建浴槽3で調整された防着液Lのうち必要量が貯留される。尚、建浴槽3では、前述の防着剤を水に投入し、撹拌手段4を用いて分散している。或いは、貯留槽1で直接防着剤Lを調整しても良い。いずれの場合も、貯留中に防着液L中の防着剤が凝集しないように、貯留槽1において防着液Lを撹拌するとよい。
【0017】
貯留槽1から循環経路を通じて接触槽2に送られた防着液Lは、接触槽2に搬送されてくる未加硫ゴムシートRに塗布される。尚、未加硫ゴムシートRは、例えばミキサー等の混合機(不図示)で混合されてシート状に成形されてから接触槽2に搬送されてくる。また、未加硫ゴムシートRは、防着液Lを塗布された後は、防着液Lを乾燥させる乾燥工程を経てから、次工程へ供給されるまで保管される。このとき、保管される未加硫ゴムシートRは、その表面に防着液Lの乾燥しない成分(防着剤)が付着しているので、未加硫ゴムシートRどうしの密着は防止される。
【0018】
防着液Lは、接触槽2において、順次搬送されてくる未加硫ゴムシートRに塗布されて消費されるので、貯留槽1から接触槽2へ前述の循環経路を通じて順次送られる。このとき、建浴槽3で補充液を調整して、接触槽2で消費された分に相当する量および組成分を貯留槽1に補充するようにしてもよい。その一方で、接触槽2中の防着液Lの一部は、接触槽2からポンプP等によって汲み出されて循環経路を通じて貯留槽1へと送られる。この接触槽2から貯留槽1へ向かう循環経路には、防着液L中で凝集した防着剤の固形分を再分散するための分散機5が挿入されている。そのため、分散機5を通過して貯留槽1に戻される防着液L中では、接触槽2で凝集した防着剤の固形分は再分散されている。
【0019】
このように、本発明では、循環中に防着液L中で凝集した防着剤の固形分を、接触槽2から貯留槽1へ循環する途中で、分散機5によって再分散するようにしているので、凝集した防着剤の固形分が防着液L中に残存しなくなり、また防着液成分が良好な範囲に保たれるので防着液塗布装置や未加硫ゴムシートRの汚染を防止することができる。
【0020】
分散機5としては、例えば、超音波ホモジナイザーを用いることができる。超音波ホモジナイザーとは、溶液中に超音波振動を与えることで圧力差による微小な気泡を発生させ、溶液中の物質に繰り返し激しい衝撃を与えることで溶液中の物質を微粉砕する装置である。従って、このような超音波ホモジナイザーを用いることで、防着液L中で凝集した防着剤の固形分を微粉砕して、防着液L中に再分散することができる。
【0021】
上述のように防着液Lが循環する際、防着剤中では無機成分(無機粉体)に比べて有機成分(界面活性剤)の方がゴム(未加硫ゴムシートR)との親和性が高いため、防着液L(防着剤)中の無機成分よりも有機成分のほうが多く消費される傾向にある。その一方で、従来の防着液塗布方法では、無機粉体の一部が凝集・沈降していたため、結果的に、循環する防着液Lの組成の変化が少なかった。これに対して、本発明では、凝集した防着剤の固形分を再分散することができるので、無機成分と有機成分との消費量の差が反映されて、循環を繰り返すうちに防着液Lの組成が変化する(無機成分の割合が多くなる)傾向がある。そのため、前述のように補充液を追加する場合、初回液(循環開始時に調整された防着液L)と同じ組成の防着液Lを補充液として追加投入するのではなく、消費成分を選択的に補充することが好ましい。例えば、前述のように無機成分に比べて有機成分の消費量が相対的に大きくなる傾向があるので、初回液に対して無機粉体の割合を減少した補充液を調整して、この補充液を追加投入するとよい。
【0022】
図1の例では、接触槽2から貯留槽1へ循環する防着液Lの全量を分散機5で処理しているが、例えば、図2に示すように、接触槽2から貯留槽1へ循環する防着液Lから防着液L中で凝集した防着剤の固形分を回収して、その回収分のみを選択的に処理するようにしてもよい。具体的には、図4の例では、接触槽2から貯留槽1へ向かう循環経路の中途に回収手段6が挿入されている。この回収手段6を通過して防着剤の固形分が除去された防着液Lの液成分はそのまま貯留槽1へと戻される。一方で、回収手段6によって回収された防着剤の固形分は、前述の液成分とは別経路を通じて分散機5に送られて再分散される。そして、再分散された回収分は、接触槽2から貯留槽1へ向かう循環経路へと戻される(図2の例では、貯留槽1に直接戻されている)。この場合、分散機5による処理量を減少することができ、凝集した防着剤の固形分を効率良く再分散することができる。
【0023】
このとき、回収手段6としては様々な方法を採用することができるが、防着剤の固形分を循環経路において防着液Lの液面に浮遊する凝集体の状態で回収することが好ましい。即ち、防着液Lは前述のように界面活性剤を含むため、循環を繰り返すうちに泡立ち、防着剤の固形分は泡中に凝集体として存在するようになる。このとき、発生した泡は防着液Lの液面に集まるので、防着剤の固形分は基本的に凝集体として液面に浮遊することになる。従って、防着液Lの上層の泡(防着液Lの液面に浮遊する凝集体)を回収するだけで防着剤の固形分を確実かつ容易に捕集することができる。
【0024】
図2に示すように接触槽2から貯留槽1へ循環する防着液Lから防着剤の固形分を回収する場合も、図1の例と同様に、分散機5としては超音波ホモジナイザーを用いることが好ましい。また、防着液Lは、建浴槽3または貯留槽1のいずれで調整しても良い。更に、防着液Lの消費分を補充する場合は、防着剤の消費成分を選択的に追加投入することが好ましい。
【実施例】
【0025】
<実施例>
表1に示す原料を用いて4トンの防着液(初回液)を調整した。この防着液を図2に示すように循環させながら、接触槽にて未加硫ゴムシートに塗布した。このとき、防着液の消費に応じて補充液を2トンずつ追加しながら連続的に防着液の塗布を行った。補充液は、初回液における無機成分の半量を水に置換したものに相当する組成とした。尚、防着剤の固形分は防着液の液面に浮遊する凝集体の状態で回収し、分散機としては超音波ホモジナイザーを用いた。この場合、補充液の総追加量が12トンの時点(補充6回)でも、防着剤の固形分による未加硫ゴムシートの汚れは発生しなかった。
【0026】
<従来例>
表1に示す原料を用いて4トンの防着液(初回液)を調整した。この防着液を図3に示すように循環させながら、接触槽にて未加硫ゴムシートに塗布した。即ち、防着剤の固形分の回収・再分散は行わずに、防着液を循環させた。このとき、防着液の消費に応じて補充液を2トンずつ追加しながら連続的に防着液の塗布を行った。補充液は、初回液と同じ組成とした。この場合、補充液の総追加量が4トンの時点(補充2回)で、未加硫ゴムシートの表面への防着剤の固形分(凝集塊)の付着が発生した。
【0027】
【表1】
【0028】
表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
−タルク:日本タルク社製 汎用タルク MS-P
−炭酸カルシウム:白石工業社製 ホワイトン P-10
−軟セッケン:ミヨシ油脂社製 エマルソープB
−金属セッケン:日本油脂社製 ステアリン酸カルシウム
−合成界面活性剤:日本油脂社製 サンアミド CF−10
【符号の説明】
【0029】
1 貯留槽
2 接触槽
3 建浴槽
5 分散機
6 回収手段
L 防着液
R 未加硫ゴムシート
図1
図2
図3