特許第6631251号(P6631251)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6631251ガラスストランド、ガラスロービング及びその製造方法
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  • 特許6631251-ガラスストランド、ガラスロービング及びその製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6631251
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】ガラスストランド、ガラスロービング及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 25/1025 20180101AFI20200106BHJP
   C03C 25/143 20180101ALI20200106BHJP
   C03C 13/02 20060101ALI20200106BHJP
   D06M 15/333 20060101ALI20200106BHJP
   D06M 15/568 20060101ALI20200106BHJP
   D06M 101/00 20060101ALN20200106BHJP
【FI】
   C03C25/1025
   C03C25/143
   C03C13/02
   D06M15/333
   D06M15/568
   D06M101:00
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-256256(P2015-256256)
(22)【出願日】2015年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-119590(P2017-119590A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2018年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西堀 真治
(72)【発明者】
【氏名】阿部 次郎
【審査官】 山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−534147(JP,A)
【文献】 特開2002−053346(JP,A)
【文献】 特開2006−327860(JP,A)
【文献】 特開2002−060251(JP,A)
【文献】 特開2007−269506(JP,A)
【文献】 特表2002−506414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 25/00 − 25/70
D06M 13/00 − 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZrOを12質量%以上、及びRO(RはLi、Na及びKから選択される少なくとも1種以上)を10質量%以上含有する複数本のガラスフィラメントと、前記ガラスフィラメントの表面を覆う被膜とを含むガラスストランドであって、
前記被膜が、ポリ酢酸ビニル樹脂と、ポリテトラメチレンエーテルグリコールにより構成されているポリエーテル系ウレタン樹脂とを含み、
前記被膜中におけるポリエーテル系ウレタン樹脂の含有量が、固形分比率で、10質量%以上、90質量%以下である、ガラスストランド。
【請求項2】
前記被膜が、エチレン−酢酸ビニル共重合体をさらに含む、請求項1に記載のガラスストランド。
【請求項3】
前記被膜中における前記エチレン−酢酸ビニル共重合体の含有量が、固形分比率で、10質量%以上、50質量%以下である、請求項2に記載のガラスストランド。
【請求項4】
番手が、20tex以上、200tex以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラスストランド。
【請求項5】
長さが、3mm以上、40mm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラスストランド。
【請求項6】
セメント系材料の補強材に用いられる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラスストランド。
【請求項7】
請求項1〜4及び6のいずれか1項に記載のガラスストランドからなる、ガラスロービング。
【請求項8】
請求項7に記載のガラスロービングの製造方法であって、
ノズルから引き出された溶融ガラスを冷却してガラスフィラメントを形成する工程と、 複数本の前記ガラスフィラメントの表面にサイジング剤を塗布し、前記複数本のガラスフィラメントを集束する工程と、
前記複数本のガラスフィラメントを集束することにより得られた集束体を巻き取って、巻回体を作製する工程と、
前記サイジング剤を乾燥させ、前記ガラスフィラメントの表面に前記被膜を形成する工程とを備える、ガラスロービングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスストランド、ガラスロービング及び該ガラスロービングの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスストランドは、GRC(Glassfiber Reinforced Concrete)の補強材として広く用いられており、セメントに対して、脆性を補い、引張強度、曲げ強度、衝撃強度を向上させる有効な手段として知られている。
【0003】
GRCの製造方法としては、例えば、予め混合されたセメント、骨材、水、混和剤等からなるモルタルに、ガラスストランドを切断することにより得られたガラスチョップドストランドを混合した後、所定の形状に成形することにより製造する方法が知られている。
【0004】
また、ガラスストランドは、数百から数千のノズルを有するブッシングから溶融ガラスを引き出すことによって得られるガラスフィラメントに、アプリケーターを用いてサイジング剤を塗布した後、これらを集束することにより得ることができる。得られたガラスストランドは、所定の長さに切断され、ガラスチョップドストランドとして用いられる。
【0005】
ガラスストランドを切断してガラスチョップドストランドとする方法としては、ダイレクト法と、インダイレクト法がある。ダイレクト法は、サイジング剤を用いて複数本のガラスフィラメントを集束することによりガラスストランドとした状態で、直接切断し、乾燥させる方法である。
【0006】
他方、インダイレクト法は、サイジング剤を用いて複数本のガラスフィラメントを集束して引き揃えた状態で、製造紙管に巻き取って巻回体を作製する紡糸工程と、巻き取った巻回体を乾燥し、サイジング剤を乾燥させ、被膜を形成する乾燥工程と、乾燥した巻回体からガラスストランドを解舒しながらカットし、ガラスチョップドストランドを製造する加工工程とを備える方法である。
【0007】
上記被膜は、紡糸工程において形成されるガラスフィラメントの表面に傷が入るのを防止する機能、加工工程における毛羽の発生や糸切れを防止する機能並びにガラスストランドに結束性を付与し、GRCの成型時における作業性、強度特性を向上させる機能を有している。
【0008】
このような被膜を形成するサイジング剤の一例として、下記の特許文献1には、エチレンの含有率が5質量%以上のエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂を含むサイジング剤が開示されている。また、下記の特許文献2には、シランカップリング剤と、ブロックイソシアネートを含むポリウレタン被膜形成剤と、水とを含むサイジング剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−60251号公報
【特許文献2】特表2014−534147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1のサイジング剤は、ガラスストランドの結束性が十分ではなかった。ガラスストランドの結束性が悪いと、ガラスストランドとモルタルを混合する際に、ガラスストランドの解繊や割れが起こり、ガラスストランドの分散が不均一になることがあった。その場合、均質な製品を作ることができず、GRCの強度特性を十分に高めることができなかった。また、GRCの成型時におけるモルタルの流動性が低下し、作業性が悪くなる場合があった。
【0011】
また、特許文献2のサイジング剤を用いて、インダイレクト法によりガラスストランドを製造する場合、乾燥工程において、ガラス繊維からアルカリが溶出し、サイジング剤中に混入することがあった。アルカリがサイジング剤に混入すると、サイジング剤の機能が損なわれ、ガラスストランドの結束性が低下したり、巻回体からガラスストランドを解舒し難くなったりすることがあった。なお、特許文献2には、ダイレクト法による製造方法が記載されているにすぎず、インダイレクト法による製造方法については記載されていない。
【0012】
本発明の目的は、モルタルと混合したときに、モルタルの流動性を低下させ難く、かつセメント系材料の機械的強度を効果的に高め得る、ガラスストランド、それを用いたガラスロービング及び該ガラスロービングの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るガラスストランドは、ZrOを12質量%以上、及びRO(RはLi、Na及びKから選択される少なくとも1種以上)を10質量%以上含有する複数本のガラスフィラメントと、前記ガラスフィラメントの表面を覆う被膜とを含むガラスストランドであって、前記被膜が、ポリ酢酸ビニル樹脂と、ポリエーテル系ウレタン樹脂とを含み、前記被膜中におけるポリエーテル系ウレタン樹脂の含有量が、固形分比率で、10質量%以上、90質量%以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明に係るガラスストランドは、好ましくは、前記被膜が、エチレン−酢酸ビニル共重合体をさらに含む。
【0015】
本発明に係るガラスストランドは、好ましくは、前記被膜中における前記エチレン−酢酸ビニル共重合体の含有量が、固形分比率で、10質量%以上、50質量%以下である。
【0016】
本発明に係るガラスストランドは、好ましくは、前記ポリエーテル系ウレタン樹脂のエーテル部分が、ポリテトラメチレンエーテルグリコールにより構成されている。
【0017】
本発明に係るガラスストランドは、好ましくは番手が、20tex以上、200tex以下である。
【0018】
本発明に係るガラスストランドは、好ましくは、長さが、3mm以上、40mm以下である。
【0019】
本発明に係るガラスストランドは、好ましくは、セメント系材料の補強材に用いられる。
【0020】
本発明に係るガラスロービングは、本発明に従って構成されるガラスストランドからなる。
【0021】
本発明に係るガラスロービングの製造方法は、本発明に従って構成されるガラスロービングの製造方法であって、ノズルから引き出された溶融ガラスを冷却してガラスフィラメントを形成する工程と、複数本の前記ガラスフィラメントの表面にサイジング剤を塗布し、前記複数本のガラスフィラメントを集束する工程と、前記複数本のガラスフィラメントを集束することにより得られた集束体を巻き取って、巻回体を作製する工程と、前記サイジング剤を乾燥させ、前記ガラスフィラメントの表面に被膜を形成する工程とを備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、モルタルと混合したときに、モルタルの流動性を低下させ難く、かつセメント系材料の機械的強度を効果的に高め得る、ガラスストランドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係るガラスロービングを示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0025】
本発明のガラスストランドは、ZrOを12質量%以上、及びRO(RはLi、Na及びKから選択される少なくとも1種以上)を10質量%以上含有する複数本のガラスフィラメントと、上記ガラスフィラメントの表面を覆う被膜とを含む。上記被膜は、ポリ酢酸ビニル樹脂と、ポリエーテル系ウレタン樹脂とを含む。被膜中におけるポリエーテル系ウレタン樹脂の含有量は、固形分比率で、10質量%以上、90質量%以下である。
【0026】
本発明のガラスストランドは、ZrOを12質量%以上含有するガラスフィラメントを含むので、耐アルカリ性に優れている。そのため、セメント系材料の補強材として用いた場合にも、セメント中のアルカリ性物質によりガラスストランドが浸食され難い。従って、アルカリ性物質によって、ガラスストランドの機械的強度が低下することを防止することができる。
【0027】
もっとも、ZrOは、溶融性を低下させる成分であるが、本発明のガラスストランドは、ROを10質量%以上含有するガラスフィラメントを含んでいるので、溶融性が低下し難い。なお、ROが10質量%以上とは、ガラスフィラメント中におけるLiO、NaO及びKOの含有量の総和が、10質量%以上であることをいう。
【0028】
また、本発明のガラスストランドの表面を覆っている上記被膜は、ポリ酢酸ビニル樹脂と、ポリエーテル系ウレタン樹脂とにより構成されているので、ガラスフィラメントから溶出したアルカリ成分と反応し難い。そのため、ガラスフィラメントから溶出したアルカリにより、上記被膜の機能が損なわれ難い。従って、本発明のガラスストランドは、結束性が低下し難く、しかも巻回体から解舒しやすい。
【0029】
さらに、本発明のガラスストランドの表面を覆っている上記被膜は、被膜中におけるポリエーテル系ウレタン樹脂の含有量が、固形分比率で、10質量%以上、90質量%以下であるため、結束性に優れている。結束性に優れているため、本発明のガラスストランドは、モルタルと混合した際に、ストランドの解繊やストランド割れが起こり難く、分散性に優れている。そのため、モルタルと混合しても、モルタルの流動性を低下させ難い。また、セメント系材料の機械的強度を高めることができる。
【0030】
セメント系材料の機械的強度を高めることができるので、本発明のガラスストランドは、セメント系材料の補強材として、好適に用いることができる。なお、本発明のガラスストランドは、巻き取ってガラスロービングとして保管しておき、必要時にガラスロービングから引き出して使用してもよい。
【0031】
以下、本発明のガラスストランド及びガラスロービングについて、さらに詳細に説明する。
【0032】
(ガラスストランド)
本発明のガラスストランドは、複数本のガラスフィラメントの集束体である。上記ガラスストランドを構成するガラスフィラメントの本数としては、特に限定されないが、例えば、数十本から数百本程度とすることができる。上記ガラスフィラメントは、表面にサイジング剤を塗布することにより集束される。
【0033】
上記ガラスフィラメントの具体的組成は、例えば、質量%で、SiO 54〜65%、ZrO 12〜25%、LiO 0〜5%、NaO 10〜17%、KO 0〜8%、R’O(ただし、R’は、Mg、Ca、Sr、Ba、Znを表す) 0〜10%、TiO 0〜7%、Al 0〜2%であり、好ましくは、質量%で、SiO 57〜64%、ZrO 14〜24%、LiO 0.5〜3%、NaO 11〜15%、KO 1〜5%、R’O(ただし、R’は、Mg、Ca、Sr、Ba、Znを表す)0.2〜8%、TiO 0.5〜5%、Al 0〜1%である。
【0034】
ガラスストランドの番手は、特に限定されないが、20tex以上、200tex以下であることが好ましい。ガラスストランドの番手が、上記範囲内にある場合、モルタルの流動性や、セメント系材料の機械的強度をより一層高めることができる。
【0035】
なお、ガラスストランドの番手が、20tex未満である場合、ガラスストランドの表面積が大きくなり、モルタルとの摩擦によってモルタルの流動性が低下することがある。
【0036】
一方、ガラスストランドの番手が、200texより大きいと、ガラスストランドの表面積が小さくなり、モルタルとの接着面積が減少し、得られたセメント系材料の機械的強度が低下することがある。
【0037】
本発明のガラスストランドは、カットされることにより、ガラスチョップドストランドとして用いられることが望ましい。ガラスストランドのカット長としては、特に限定されないが、3mm以上、40mm以下であることが好ましい。カット長が3mm未満である場合、モルタルの流動性が改善される一方、セメント系材料の機械的強度が発現されないことがある。他方、カット長が40mmより大きいと、嵩高くなるため、モルタルの流動性が低下することがある。
【0038】
上述したように、本発明のガラスストランドは、ガラスフィラメントの表面が被膜により覆われている。上記被膜は、サイジング剤をガラスフィラメントの表面に塗布し、乾燥させることにより形成されている。
【0039】
本発明のガラスストランドは、強熱減量が、0.5〜2.0質量%であることが好ましい。強熱減量が0.5質量%未満であると、モルタルとの混練の際に、物理的摩擦によってガラスストランドがモノフィラメント化してしまうことがある。そのため、モルタルの流動性を著しく低下させる場合がある。また、2.0質量%を越えると、ガラスストランドをカットする際の解舒性が悪くなり、モノフィラメント切れを起こすことがあり、その場合、加工性が低下するため、好ましくない。なお、強熱減量は、JIS R 3420(2013年)に従う方法で測定した値である。
【0040】
上記被膜は、ポリ酢酸ビニル樹脂と、ポリエーテル系ウレタン樹脂とを含んでいる。
【0041】
(ポリ酢酸ビニル樹脂)
ポリ酢酸ビニル樹脂は、セメント系材料との親和性が高いため、添加によりセメント系材料の補強効果を高めることができる。ポリ酢酸ビニル樹脂の含有量は、固形分比率で、10質量%以上、90質量%以下であることが好ましい。ポリ酢酸ビニル樹脂の含有量が少なすぎると、セメント系材料の補強効果が低下することがある。他方、ポリ酢酸ビニル樹脂の含有量が多すぎると、ガラスストランドの結束性が十分でなく、モルタルの流動性が低下することがある。なお、上記ポリ酢酸ビニル樹脂の含有量は、上記被膜を100質量%としたときの含有量である。
【0042】
(ポリエーテル系ウレタン樹脂)
ポリエーテル系ウレタン樹脂は、結束性に優れ、ガラスフィラメントからアルカリ成分が溶出したとしても、アルカリ成分との反応性が低いため、ガラスストランドの結束性の低下が起こりにくい。
【0043】
ポリエーテル系ウレタン樹脂は、以下に示すイソシアネート成分とポリオール成分とを共重合させることにより得られるものが使用できる。
【0044】
上記ポリエーテル系ウレタン樹脂を構成するイソシアネート成分としては、特に限定されず、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ジシクロヘキサンジイソシアネート(HMDI)、ヘキサメチレンジイシシアネート(HDI)、トレインジイソシアネート(TDI)又はイソホロンジイソシアネート(IPDI)などを用いることができる。比較的安価で、ポリウレタンとしても反応性が少ないという観点から、上記イソシアネート成分は、ジシクロヘキサンジイソシアネート(HMDI)等の脂肪族イソシアネートであることが好ましい。
【0045】
なお、上記イソシアネート成分は、ブロックイソシアネートでないことが好ましい。本発明は上述のように、優れた被膜特性を持ち、ガラスフィラメントからアルカリ成分が溶出したとしてもアルカリ成分との反応性が低い構造が好ましいため、ブロックイソシアネートなど乖離温度によって反応する構造は好ましくない。
【0046】
また、上記ポリエーテル系ウレタン樹脂を構成するポリオール成分としては、特に限定されないが、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)であることが好ましい。ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)を用いた場合、安価で強靭な被膜を得ることができる。また、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)を用いた場合、より一層滑性に優れる被膜が得られ、繊維自体の滑性をより一層向上することができる。そのため、モルタルと混和した際にも、繊維自体の滑性により、GRCの流動性をより一層向上させることができる。
【0047】
上記ポリエーテル系ウレタン樹脂は、イソシアネート成分としてジシクロヘキサンジイソシアネート(HMDI)を、ポリオール成分として、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)を組み合わせて作製されたポリエーテル系ウレタン樹脂であることがより好ましい。
【0048】
上記被膜中における上記ポリエーテル系ウレタン樹脂の含有量は、固形分比率で、10質量%以上、90質量%以下である。ポリエーテル系ウレタン樹脂の含有量が少なすぎると、強靱な被膜が得られにくくなる。他方、ポリエーテル系ウレタン樹脂の含有量が多すぎると、ガラスストランドが切断し難くなり、加工性が低下することがある。
【0049】
ガラスストランドの結束性をより一層高め、加工性をより一層向上させる観点から、上記被膜中における上記ポリエーテル系ウレタン樹脂の含有量は、固形分比率で、50質量%以上、80質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
なお、上記ポリエーテル系ウレタン樹脂の含有量は、上記被膜を100質量%としたときの含有量である。
【0051】
(エチレン−酢酸ビニル共重合体)
上記被膜は、さらにエチレン−酢酸ビニル共重合体を含んでいてもよい。エチレン−酢酸ビニル共重合体は、ポリ酢酸ビニルと同様にセメント系材料との親和性が高いため、添加によりセメント系材料の補強効果をより一層高めることができる。また、エチレン−酢酸ビニル共重合体は、エチレンを含有しているため、靱性に富む被膜を得ることができ、ガラスストランドの結束性をより一層高めることができる。もっとも、含有量が多すぎると、ガラスストランドを解舒する際の解舒性が悪くなる場合がある。
【0052】
被膜の靱性や、セメント系材料との親和性をより一層高める観点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体の含有量は、固形分比率で、好ましくは3質量%以上、より好ましくは10質量%以上、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0053】
なお、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体の含有量は、上記被膜を100質量%としたときの含有量である。
【0054】
(ガラスロービング)
図1は、本発明の一実施形態に係るガラスロービングを示す模式的斜視図である。図1に示すように、ガラスロービング10は、ガラスストランド11が層状になるように重ねて巻き取られた円筒形状の構造を有している。ガラスストランド11は、本発明に従って構成される上記ガラスストランドである。すなわち、本発明のガラスロービングは、本発明に従って構成される上記ガラスストランドからなる。
【0055】
本発明のガラスロービングの製造方法は、特に限定されず、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0056】
まず、ガラス溶融炉内に投入されたガラス原料を溶融して溶融ガラスとし、溶融ガラスを均質な状態とした後に、ブッシングに付設された耐熱性を有するノズルから溶融ガラスを引き出す。その後、引き出された溶融ガラスを冷却してガラスフィラメントとする。
【0057】
次に、このガラスフィラメントの表面に、後述するサイジング剤を塗布する。サイジング剤が均等に塗布された状態で、そのガラスフィラメントを数百から数千本引き揃え、集束する。集束したガラスフィラメントは、ダイレクト法により直接カットしてもよいが、本製造方法では、以下のインダイレクト法が用いられる。
【0058】
インダイレクト法による製造方法では、まず、サイジング剤を用いてガラスフィラメントを集束して引き揃えた状態で、製造紙管に巻き取ってケーキ(巻回体)を作製する。続いて、サイジング剤を乾燥し、被膜をガラスフィラメントの表面に形成し、ガラスロービングを得る。なお、得られた数個のガラスロービングから解舒されたガラスストランドを一緒に束ねて巻き取ることによりガラスロービングとしてもよい。
【0059】
このようにして作製されたガラスロービングは、その形状でストックし、必要に応じて使用することができる。また、まとめてカットすることもできる。ガラスロービングは、ガラスストランドを解舒しながらカットし、ガラスチョップドストランドとして用いることができる。
【0060】
回巻形状に巻き取られたガラスロービングは、防塵や汚れの防止や、繊維表面の保護などの目的のため、有機フィルム材、例えばシュリンク包装やストレッチフィルム等、用途に応じた包装を施し、複数段に積層した状態で顧客に供給されることになる。
【0061】
本発明のガラスロービングの製造方法によれば、ガラスフィラメントからアルカリ成分が溶出したとしても、本発明で用いられるサイジング剤を塗布して形成した被膜は、その機能が損なわれないため、ガラスストランドの結束性が低下したり、ガラスロービングからガラスストランドを解舒し難くならずにすむ。
【0062】
上記サイジング剤は、ポリ酢酸ビニル樹脂と、ポリエーテル系ウレタン樹脂とを含む。上記サイジング剤中における上記ポリエーテル系ウレタン樹脂の含有量は、固形分比率で、10質量%以上、90質量%以下である。上記サイジング剤を構成するポリ酢酸ビニル樹脂及びポリエーテル系ウレタン樹脂は、それぞれ、上記被膜の欄で説明したポリ酢酸ビニル樹脂及びポリエーテル系ウレタン樹脂と同じものを、上記被膜の欄で説明した添加量で用いることができる。また、エチレン−酢酸ビニル共重合体を上記被膜の欄で説明した添加量で含んでいてもよい。
【0063】
さらに、上記サイジング剤は、上記成分以外に、例えばシランカップリング剤を含んでいてもよい。上記シランカップリング剤としては、具体的には、アミノシラン、エポキシシラン、ビニルシラン、アクリルシラン、クロルシラン、メルカプトシラン、ウレイドシランなどが使用できる。なお、シランカップリング剤を添加することで、ガラスストランド表面のサイジング剤との反応性を改善でき、引張強度等の機械的強度をさらに一層向上させることができる。また、上記サイジング剤中には、上述のシランカップリング剤以外に、潤滑剤、ノニオン系の界面活性剤、帯電防止剤等の各成分を含むことができ、それぞれの成分の配合比は、必要に応じて決定すればよい。
【0064】
上記サイジング剤は、ポリ酢酸ビニル樹脂及びポリエーテル系ウレタン樹脂を含んでいるので、ガラスフィラメントから溶出したアルカリ性成分と反応し難い。そのため、得られたガラスロービングからストランドを解舒する際、解舒抵抗が大きくなり難く、糸切れの発生を抑制することができる。
【0065】
また、上記サイジング剤の塗布量は、上記のガラスストランドの強熱減量が0.5〜2.0質量%となるように調整することが好ましい。
【0066】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0067】
(実施例1)
(サイジング剤の調製)
形成される被膜中の、ポリ酢酸ビニル樹脂が24質量%、ポリエーテル系ウレタン樹脂Aが75質量%、アミノシランカップリング剤が0.5質量%及びパラフィンワックスが0.5質量%となるようにこれらの成分を均質混合して、サイジング剤を調製した。
【0068】
なお、ポリエーテル系ウレタン樹脂Aとしては、ジイソシアネート成分がHMDIにより構成されており、かつポリオール成分がPTMGにより構成されているウレタン樹脂を使用した。アミノシランカップリング剤としては、γアミノプロピルトリエトキシシラン(サイラエースS330:チッソ社製)を用いた。パラフィンワックスは、糸質を調整するために一定量添加した。
【0069】
(ガラスチョップドストランドの作製)
まず、SiO 58.3質量%、ZrO 17.7質量%、LiO 0.5質量%、NaO 14.3質量%、KO 2.0質量%、CaO 0.7質量%、TiO 6.5質量%の組成となるように溶融ガラスを、数百〜数千のノズルを有するブッシングから引き出してガラスフィラメントを得た。
【0070】
次に、得られたガラスフィラメントの表面にアプリケーターを用いて、予め調製した上記サイジング剤を強熱減量が1.61質量%となるように調整して塗布し、これらのガラスフィラメントを集束し、巻き取ってケーキを作製した。
【0071】
次いで、そのケーキを130℃、10時間の条件で乾燥させてガラスロービングとし、ガラスロービングからストランドを解舒しながら13mmのカット長に切断し、ガラスチョップドストランドを作製した。なお、ガラスストランドの番手は40texである。
【0072】
(実施例2〜13及び比較例1,2)
被膜の成分割合、強熱減量、ストランド番手及びカット長を下記の表1〜3のように設定したこと以外は、実施例1と同様にして、ガラスチョップドストランドを作製した。
【0073】
なお、サイジング剤を調製するに際し、実施例5、6、10、12及び13では、さらに、エチレン含有率が5質量%又は10質量%のエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂を添加し、被膜中の各成分の値が下記表1〜3に示す値となるように均質混合した。また、実施例11では、ポリエーテル系ウレタン樹脂Aの代わりに、ジイソシアネート成分がIPDIにより構成されており、かつポリオール成分がPPGにより構成されているポリエーテル系ウレタン樹脂Bを用い、被膜中の各成分の値が下記表2に示す値となるように均質混合した。
【0074】
(評価)
実施例1〜13及び比較例1,2で得られたガラスチョップドストランドについて、下記の評価を行った。結果を下記の表1〜3に示す。
【0075】
(タッピングフロー値)
実施例1〜13及び比較例1,2で得られた各ガラスチョップドストランドを用い、成型時のGRCモルタルの流動性を測定した。
【0076】
成型時のGRCモルタルの流動性は、タッピングフロー値により評価した。タッピングフロー値は、オムニミキサーで作製したセメント10kg、珪砂5kg、水4.2kgのモルタルに対し、実施例1〜13及び比較例1,2で得られたガラスチョップドストランド3質量%を混入したGRCモルタルを使用し、JIS R 5201のフロー試験に準拠して測定した。
【0077】
(曲げ強度)
オムニミキサーで作製したセメント10kg、珪砂5kg、水4.2kgのモルタルに対し、実施例1〜13及び比較例1,2で得られたガラスチョップドストランド3質量%を混入し、オムニミキサーを用いて混練しGRCを作製した。
【0078】
作製したGRCの機械的強度は曲げ強度によって評価した。GRCの曲げ強度測定は、作製後4週間経過したGRC試験体(275×50×15mm)を3点載荷方式で、スパン225mm、テストスピード2mm/minの条件で行った。
【0079】
実施例1〜13はタッピングフロー値が167mm以上であり、十分な流動性を有していた。一方、比較例1,2は、タッピングフロー値が165mm以下であり、流動性が低かった。また、実施例1〜13は、曲げ強度が149MPa以上であり、十分な曲げ強度を有していた。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【符号の説明】
【0083】
10…ガラスロービング
11…ガラスストランド
図1