(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
LNGは沸点がマイナス160℃という低温のため、タンクに貯蔵されている間にも周囲からの入熱により不可避的に蒸発ガス(BOG)が発生する。その際、沸点の低い成分から優先的に蒸発することになるため、BOGには窒素が濃縮された状態となる。
【0003】
BOGは再液化させて燃料として用いられるが、窒素は燃料としての性質をもたないため、窒素を含有するBOGは窒素の分だけ発熱量が低下する。そこで、BOGから窒素を取り除く技術が求められ、例えば特許文献1、2にBOGから窒素成分を分離除去する技術が開示されている。
【0004】
特許文献1では、窒素を選択的に透過させる分離膜を有する膜分離装置によってBOGから窒素を粗分離し、膜分離装置によって処理されたガスを圧力スイングのもとで吸着剤によって残留窒素を吸着するというものである。
また、特許文献2は圧力スイングのもとでBOGから窒素を吸着剤によって吸着するというものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1における膜分離装置のように分離膜で分離する膜分離方式では、分離膜の上流側と下流側で圧力差をつける必要がある。
また、吸着剤による吸着を行う場合において、特許文献1及び2では、圧力差を用いて吸着と脱着を行う圧力スイング方式を取っている。
一般に、吸着剤は高圧になるほど吸着量が増大することから、高圧状態で吸着させた後、低圧状態として脱着するようにしている。したがって、圧力スイング方式においても、膜分離と同様に圧力差をつける必要がある。
【0007】
これらの膜分離方式や圧力スイング方式は、原料ガスが圧力(元圧)を有している(高圧状態となっている)場合にはそのまま分離装置に原料ガスを導入すれば良い。つまり、元圧と大気圧の圧力差を利用することが出来る。
一方、BOGの圧力はほぼ大気圧であるため、BOGを原料ガスとした場合、膜分離方式や圧力スイング方式を適用するためには、一旦、圧縮機で昇圧した後、分離装置に導入する必要がある。もしくは、分離装置に真空ポンプ(真空状態から大気圧状態まで昇圧する一種の圧縮機)を導入して、大気圧より低い圧力条件を作る必要がある。
しかしながら、気体を圧縮するためには大きな動力を要する。すなわち、大気圧状態のBOGから、膜分離方式や圧力スイング方式で窒素ガスを分離しようとすると、エネルギー消費量が大きいという問題がある。
【0008】
本発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、エネルギー消費量を大きくすることなくBOGから窒素ガスを分離するBOGからの窒素分離装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係るBOGからの窒素分離装置は、LNG貯留タンクから排出されるBOGから窒素ガスを除去する窒素分離装置であって、
窒素を選択的に吸着する吸着剤が充填され、低温下で前記吸着剤に窒素を選択的に吸着させ、高温下で吸着した窒素を脱着させる温度スイング式の吸着装置として、第1吸着装置と第2吸着装置を有し、
前記LNG貯留タンクからBOGを排出するBOG排出管が、前記第1吸着装置及び第2吸着装置にそれぞれ開閉弁を介して接続され、
前記第1吸着装置及び第2吸着装置には加熱媒体を流通させる熱媒流路が配設されて、前記加熱媒体により間接的に加熱できるようになっており、
BOG排出管からBOGを前記第1吸着装置と前記第2吸着装置に選択的に通流させて、前記第1吸着装置と前記第2吸着装置によって窒素の吸着と脱着を交互に行えるようにしたことを特徴とするものである。
【0010】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記第1吸着装置と第2吸着装置は、前記LNG貯留タンクから払い出されたLNGを流通させて、吸着装置内の吸着剤を間接的に冷却する冷媒流路が配設されており、かつ該冷媒流路に払出しLNGを供給するためのLNG供給管が接続されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るBOGからの窒素分離装置によれば、原料ガスや分離ガスを圧縮・昇圧する必要がなく、かつ、BOGが元々有している冷熱エネルギーを活用して窒素分離を行うため、従来の窒素分離技術に比べてエネルギー消費量が格段に小さいという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施の形態に係るBOGからの窒素分離装置1(以下、単に「窒素分離装置1」という場合あり)は、
図1に示すように、LNG貯留タンク3から排出されるBOGから窒素を除去する装置であって、第1吸着装置5と第2吸着装置7の2台の吸着装置を有している。
第1吸着装置5及び第2吸着装置7は同じ構造のものであり、窒素を選択的に吸着する吸着剤が充填され、低温下で前記吸着剤に窒素を選択的に吸着させ、高温下で吸着した窒素を脱着させる温度スイング式の吸着装置である。
【0014】
温度スイング式の吸着装置の構造例としては、熱交換器の一方の流路に粒状の吸着剤を充填したものが挙げられる。例えば、シェルアンドチューブ型熱交換器のシェル側に吸着剤を充填したものや、例えば特開2003-260327号公報に開示されたプレートフィン熱交換器の一方の流路に吸着剤を充填したものなどが挙げられる。
【0015】
第1吸着装置5と第2吸着装置7は、窒素の吸着と脱着を交互に行うために設けられており、そのために第1吸着装置5及び第2吸着装置7には、LNG貯留タンク3から払い出されたLNGを流通させる第1冷媒流路9及び第2冷媒流路11がそれぞれ配設されて、払出しLNGにより吸着剤を間接的に冷却できるようになっている(吸着工程)。また、第1吸着装置5及び第2吸着装置7には、加熱媒体を流通させる第1熱媒流路13及び第2熱媒流路15がそれぞれ配設されており、加熱媒体により吸着剤を間接的に加熱できるようになっている(再生工程)。
このような機能を実現するための具体的な態様として種々の配管系統や開閉弁が設けられており、以下これら配管系統と開閉弁について説明する。
【0016】
図1、
図2に示すように、LNG貯留タンク3からBOGを排出するBOG排出管17は、途中で第1BOG排出管19と第2BOG排出管21に分岐され、第1BOG排出管19には第1吸着装置5が、第2BOG排出管21には第2吸着装置7がそれぞれ接続されている。
また、第1BOG排出管19には第1開閉弁V1が、第2BOG排出管21には第2開閉弁V2がそれぞれ設けられている。なお、窒素分離装置1の動作については後述するが、白抜きの開閉弁は「開」の状態を示し、黒塗りの開閉弁は「閉」の状態を示している。
【0017】
第1吸着装置5には、窒素の吸着処理がされた吸着処理ガス又は、窒素ガスの脱着処理がなされた再生ガスを排出するための第1ガス排出管23が接続されている。
また、第2吸着装置7には、第1吸着装置5と同様に、窒素の吸着処理がされた吸着処理ガス又は、窒素ガスの脱着処理がなされた再生ガスを排出するための第2ガス排出管25が接続されている。
【0018】
第1ガス排出管23には第3開閉弁V3を介して窒素の吸着処理がされた吸着処理ガスを流すための第1吸着処理ガス排出管27が接続され、また第2ガス排出管25には第4開閉弁V4を介して窒素の吸着処理がされた吸着処理ガスを流すための第2吸着処理ガス排出管29が接続されている。
【0019】
また、第1ガス排出管23には第5開閉弁V5を介して窒素ガスの脱着処理がなされた再生ガスを排出するための第1再生ガス排出管31が接続され、また第2ガス排出管25には第6開閉弁V6を介して窒素ガスの脱着処理がなされた再生ガスを排出するための第2再生ガス排出管33が接続されている。
【0020】
LNG貯留タンク3からポンプ35によってLNGを払い出すLNG払出し管37には、第1吸着装置5に、吸着剤を冷却するための冷媒としてLNGを供給するための第1LNG供給管39が接続されている。第1LNG供給管39は、LNG払出し管37から分岐して第1吸着装置5内において吸着剤を間接的に冷却する第1冷媒流路9の入り側に接続され、第1冷媒流路9の出側に接続されて再びLNG払出し管37に接続されている。第1LNG供給管39の入り側の配管には第7開閉弁V7が設けられている。また、LNG払出し管37における第1LNG供給管39の入り側の接続部と出側の接続部の間には、第8開閉弁V8が設けられている。
【0021】
また、第2吸着装置7にも第1吸着装置5と同様に、第2吸着装置7に、吸着剤を冷却するための冷媒としてLNGを供給するための第2LNG供給管41が接続されている。第2LNG供給管41は、LNG払出し管37から分岐して第2吸着装置7内において吸着剤を間接的に冷却する第2冷媒流路11の入り側に接続され、第2冷媒流路11の出側に接続されて再びLNG払出し管37に接続されている。第2LNG供給管41の入り側の配管には第9開閉弁V9が設けられている。また、LNG払出し管37における第2LNG供給管41の入り側の接続部と出側の接続部の間には、第10開閉弁V10が設けられている。
【0022】
また、第1吸着装置5には、第1吸着装置5の第1熱媒流路13に接続されて、吸着剤を間接的に加熱するための熱媒体(例えば海水や、常温の空気など)を供給するための第1熱媒体供給管43が接続され、第1熱媒体供給管43には第11開閉弁V11が設けられている。
同様に、第2吸着装置7には、第2吸着装置7内の第2熱媒流路15に接続されて、吸着剤を間接的に加熱するための熱媒体(例えば海水や、常温の空気など)を供給するための第2熱媒体供給管45が接続され、第2熱媒体供給管45には第12開閉弁V12が設けられている。
【0023】
以上のように構成された本実施の形態の窒素分離装置1の動作を、
図1、
図2に基づいて説明する。
図1、
図2において、白抜きの開閉弁は「開」の状態を示し、黒塗りの開閉弁は「閉」の状態を示している。
図1に示す状態は、第1吸着装置5を用いてBOGから窒素の吸着処理を行い、第2吸着装置7では窒素の脱着処理を行っている状態を示しており、
図2に示す状態は、第2吸着装置7を用いてBOGから窒素の吸着処理を行い、第1吸着装置5では窒素の脱着処理を行っている状態を示している。
【0024】
図1に示すように、LNGはマイナス160℃の低温状態でLNG貯留タンク3に貯蔵されており、蒸発ガス(BOG)も低温状態でLNG貯留タンク3からBOG排出管17を介して排出され、第1吸着装置5に供給される。低温状態の蒸発ガス(BOG)を第1吸着装置5に流通させると、低温の蒸発ガスで吸着剤は冷却されつつ、蒸発ガス中の窒素ガスは吸着剤に吸着される(吸着工程)。
【0025】
一般的に、吸着剤の吸着能力は低温ほど大きくなるので、窒素は常温状態の吸着剤より多く吸着される。本実施の形態では、冷却効果を得るために、LNG貯留タンク3から払出されるLNGを、第1LNG供給管39によって第1吸着装置5に配設された第1冷媒流路9に流通させ、吸着装置(吸着剤)を冷却しているので、より吸着能力が高められている。
第1LNG供給管39によって第1吸着装置5に供給されたLNGは、例えば-160℃から-150℃に加熱されて、再びLNG払出し管37に戻される。
【0026】
第1吸着装置5で窒素の吸着処理がされた窒素除去後のBOGは、第1ガス排出管23、第3開閉弁V3を介して第1吸着処理ガス排出管27によって下流側に排出される。
なお、第1吸着処理ガス排出管27から排出される窒素除去後のBOGは、窒素ガスが除去されており、窒素除去前のBOGよりも熱量が高く燃料としての価値が高い。例えば圧縮機でBOGを圧縮してLNG払出し管37によって払い出されるLNGに混合して需要先に供給する場合、LNG貯留タンク3から発生するBOGをそのまま圧縮すると、熱量的に価値の無い窒素分も一緒に圧縮するため無駄な圧縮動力を消費することになるが、第1吸着処理ガス排出管27から排出される窒素除去後のBOGを圧縮するようにすれば、圧縮動力を削減することが可能となる。
【0027】
一方、第2吸着装置7においては、第2熱媒体供給管45により海水等の熱媒体が供給されて、窒素ガスの脱着処理が行われている。吸着剤は加熱されることで吸着能力が低下することで、脱着処理が行われる。脱着された再生ガスは、第2ガス排出管25、第6開閉弁V6及び第2再生ガス排出管33を介して排出される。
【0028】
脱着された再生ガスの窒素純度が十分に高い場合、換言すれば、再生ガス中におけるメタンなどの可燃性ガス成分濃度が十分に低い場合は、脱着された再生ガスはそのまま大気中に放散することが出来る。脱着された再生ガスの窒素純度が十分に高くない場合は、さらに窒素純度を高める、すなわち、さらに再生ガス中の可燃性ガス成分と窒素分を高純度分離する後段プロセスを経てから窒素分を大気に放散するようにする。ここで、窒素分離装置1から排出される再生ガス量は、LNG貯留タンク3から排出されるBOG量(発生BOG量)に比較すると大幅に少なくなっており、発生BOG量をそのまま高純度窒素分離する場合に比べて、後段プロセスの設備容量を大幅に軽減することができる。なお、後段プロセスで分離された可燃性ガス成分は燃料として利用でき、さらに、窒素分についても放散せずに製品窒素として回収しても良い。
第2熱媒体供給管45により第2吸着装置7に供給された例えば20℃熱媒体は、吸着剤と熱交換することによって、例えば10℃になって排出される。
【0029】
第1吸着装置5によって吸着能力限界まで窒素を吸着すると、第1吸着装置5を窒素ガスの脱着処理に、第2吸着装置7を窒素ガスの吸着処理に切り替える。
この切換は、開閉弁の開閉の切換によって行い、
図2に示す状態が、切換後の開閉弁の開閉状態を示している。
【0030】
図2に示す状態では、低温状態の蒸発ガス(BOG)を第2吸着装置7に流通させると共に、LNG貯留タンク3からの払出されるLNGを第2LNG供給管41によって第2吸着装置7に置に配設された第2冷媒流路11に流通させている。
第2吸着装置7で窒素の吸着処理がされて窒素除去後のBOGは、第2ガス排出管25、第4開閉弁V4を介して第2吸着処理ガス排出管29によって下流側に排出される。
【0031】
他方、第1吸着装置5においては、第1熱媒体供給管43により海水等の熱媒体が供給されて、窒素ガスの脱着処理が行われ、脱着された再生ガスは、第1ガス排出管23、第5開閉弁V5及び第1再生ガス排出管31を介して排出される。
【0032】
図2に示す状態において、第2吸着装置7によって吸着能力限界まで窒素を吸着すると、第2吸着装置7を窒素ガスの脱着処理に、第1吸着装置5を窒素ガスの吸着処理に切り替える。
このように、第1吸着装置5と第2吸着装置7の処理態様を切り換えることによって、継続的に窒素ガスの吸着及び脱着を行うことができる。
なお、第1吸着装置5や第2吸着装置7が吸着能力限界まで窒素を吸着したことの判断として、BOG排出管17や第1ガス排出管23、第2ガス排出管25にガス成分を計測する計測装置を配設し、窒素成分濃度の計測値によって切り替えても良い。例えば、第1吸着装置5で吸着処理を行っている状態で、第1ガス排出管23から排出される窒素除去後のBOG中の窒素成分濃度が、BOG排出管17における窒素成分濃度(窒素除去前BOG中の窒素成分濃度)に対して所定の比率以上になったら、第1吸着装置5は吸着能力限界まで窒素を吸着したと判断するようにする。一般的に、所定の比率のしきい値として1/50〜1/5程度の値をとることが多い。
【0033】
以上のように、本実施の形態によれば、原料ガスや分離ガスを圧縮・昇圧する必要がなく、かつ、LNGが元々有している冷熱エネルギーを活用して窒素分離を行うため、従来の窒素分離技術に比べてエネルギー消費量が格段に小さいという優れた効果が得られる。
【0034】
なお、上記の実施の形態では、第1吸着装置5及び第2吸着装置7において窒素の吸着処理を行う際に吸着剤を間接的に冷却するために第1吸着装置5及び第2吸着装置7にLNGを供給するようにしているが、上述したようにLNG貯留タンク3から排出されるBOGは低温であるため、常温状態のガスを流通させる場合よりも吸着効率がよい。この意味で、BOGからの窒素の吸着に温度スイング式の吸着装置を用いる意義があり、本発明は、LNGによって吸着剤を間接的に冷却する機構のない場合も含む。
【0035】
また、上記の実施の形態では、第1吸着装置5と第2吸着装置7の2台の吸着装置を有する例を示したが、吸着装置の数は2台に限定されるものではなく、複数台あればよく、3台以上であってもよい。