特許第6631717号(P6631717)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6631717パーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物を含む組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6631717
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】パーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物を含む組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20200106BHJP
   C07F 7/18 20060101ALI20200106BHJP
   C07C 69/63 20060101ALI20200106BHJP
【FI】
   C09K3/18 104
   C07F7/18 N
   C07C69/63
【請求項の数】22
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2018-538370(P2018-538370)
(86)(22)【出願日】2017年8月30日
(86)【国際出願番号】JP2017031086
(87)【国際公開番号】WO2018047686
(87)【国際公開日】20180315
【審査請求日】2018年8月17日
(31)【優先権主張番号】特願2016-175842(P2016-175842)
(32)【優先日】2016年9月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】三橋 尚志
(72)【発明者】
【氏名】野村 孝史
(72)【発明者】
【氏名】能勢 雅聡
(72)【発明者】
【氏名】内藤 真人
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−199558(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101497749(CN,A)
【文献】 特開2014−144935(JP,A)
【文献】 特開平11−084103(JP,A)
【文献】 特開2013−136833(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/006584(WO,A1)
【文献】 ロシア国登録特許第2151151(RU 2151151 C1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
C09D 1/00−201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の下記式(1)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物:
【化1】
[式中:
Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
PFPEは、それぞれ独立して、−(OC12−(OC10−(OC−(OC−(OC−(OCF−を表し、ここに、a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、c、d、eおよびfの和は少なくとも1であり、a、b、c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり;
は、単結合または−(CRk1−(O)k2−(NRk3−、
(式中:
は、それぞれ独立して、水素原子またはフッ素原子であり;
は、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基を表し;
k1は、1〜20の整数であり;
k2は、0〜10の整数であり;
k3は、0〜10の整数であり;
ここに、k1、k2またはk3を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)
で表される基を表し;
は、それぞれ独立して、−X−SiRa1l1b1m1c1n1を表し;
は、−(CR10k4−(O)k5−(NR11k6−、
(式中:
10は、それぞれ独立して、水素原子またはフッ素原子であり;
11は、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基を表し;
k4は、1〜20の整数であり;
k5は、0〜10の整数であり;
k6は、0〜10の整数であり;
ここに、k4、k5またはk6を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)
で表される基を表し;
a1は、各出現においてそれぞれ独立して、−Z−SiRa2l2b2m2c2n2を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または1−6アルキレン基、−(CH−O−(CH−(式中、gは、1〜6の整数であり、hは、1〜6の整数である)または、−フェニレン−(CH−(式中、iは、0〜6の整数である)を表し;
a2は、各出現においてそれぞれ独立して、Ra1’を表し;
a1’は、Ra1と同意義であり;
a1中、Z基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個であり;
b2は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
c2は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を表し;
l2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
m2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
n2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
b1は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
c1は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を表し;
l1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
m1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
n1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
は、それぞれ独立して、水素原子、1−6アルキル基またはフェニル基を表し;
pは、1または2である、
ただし、式中、少なくとも1つのRb1またはRb2が存在する。]
および
少なくとも1種の下記式(2)で表されるカルボン酸エステル化合物:
【化2】
[式中:
は、炭化水素基を表し;
は、Rf−PFPE−Xを表し;
Rfは、それぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
PFPEは、それぞれ独立して、−(OC12−(OC10−(OC−(OC−(OC−(OCF−を表し、ここに、a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、c、d、eおよびfの和は少なくとも1であり、a、b、c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり;
は、単結合または−(CR15k7−(O)k8−(NR16k9−、
(式中:
15は、それぞれ独立して、水素原子またはフッ素原子であり;
16は、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基を表し;
k7は、1〜20の整数であり;
k8は、0〜10の整数であり;
k9は、0〜10の整数であり;
ここに、k7、k8またはk9を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)
で表される基を表す。]
を含み、式(1)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物と式(2)で表されるカルボン酸エステル化合物の総含有量に対する、式(2)で表されるカルボン酸エステル化合物の含有量が、4.1mol%以上35mol%以下である、表面処理剤。
【請求項2】
Rfが、炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基である、請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
PFPEが下記式(a)、(b)または(c):
−(OC− (a)
[式中、dは1以上200以下の整数である。]
−(OC−(OC−(OC−(OCF− (b)
[式中、cおよびdは、それぞれ独立して、0以上30以下の整数であり;
eおよびfは、それぞれ独立して、1以上200以下の整数であり;
c、d、eおよびfの和は、10以上200以下の整数であり;
添字c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。]
−(R−R− (c)
[式中、Rは、OCFまたはOCであり;
は、OC、OC、OC10およびOC12から選択される基であるか、あるいは、これらの基から選択される2または3つの基の組み合わせであり;
qは、2〜100の整数である。]
である、請求項1または2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
が、−(CFk1’−または−(CFk1’−(O)k2’
[式中:
k1’は、1〜6の整数であり;
k2’は、1〜3の整数であり;
ここに、k1’またはk2’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。]
であり、
が、−(CHk4’−または−(CHk4’−Ok5’
[式中:
k4’は、1〜6の整数であり;
k5’は、1〜3の整数であり;
ここに、k4’またはk5’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。]
である、請求項1〜のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項5】
が、炭素数1〜3個のアルキル基またはフェニル基である、請求項1〜のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項6】
b1およびRb2が、OCHまたはOCである、請求項1〜のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項7】
pが1である、請求項1〜のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項8】
Rfが、炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項9】
PFPEが下記式(a)、(b)または(c):
−(OC− (a)
[式中、dは1以上200以下の整数である。]
−(OC−(OC−(OC−(OCF− (b)
[式中、cおよびdは、それぞれ独立して、0以上30以下の整数であり;
eおよびfは、それぞれ独立して、1以上200以下の整数であり;
c、d、eおよびfの和は、10以上200以下の整数であり;
添字c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。]
−(R−R− (c)
[式中、Rは、OCFまたはOCであり;
は、OC、OC、OC10およびOC12から選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせであり;
qは、2〜100の整数である。]
である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項10】
が、−(CFk7’−または−(CFk7’−(O)k8’
[式中:
k7’は、1〜6の整数であり;
k8’は、1〜3の整数であり;
ここに、k7’またはk8’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。]
である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項11】
が、炭素数1〜3のアルキル基である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項12】
式(1)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物と式(2)で表されるカルボン酸エステル化合物の総含有量に対する、式(2)で表されるカルボン酸エステル化合物の含有量が、4.5mol%以上35mol%以下である、請求項1〜11のいずれか1項に表面処理剤。
【請求項13】
含フッ素オイル、シリコーンオイル、および触媒から選択される1種またはそれ以上の他の成分をさらに含有する、請求項1〜12のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項14】
含フッ素オイルが、式(3):
Rf−(OCa’−(OCb’−(OCc’−(OCFd’−Rf ・・・(3)
[式中:
Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基、フッ素原子または水素原子を表し;
a’、b’、c’およびd’は、ポリマーの主骨格を構成するパーフルオロ(ポリ)エーテルの4種の繰り返し単位数をそれぞれ表し、互いに独立して0以上300以下の整数であって、a’、b’、c’およびd’の和は少なくとも1であり、添字a’、b’、c’またはd’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。]
で表される1種またはそれ以上の化合物である、請求項13に記載の表面処理剤。
【請求項15】
さらに溶媒を含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項16】
防汚性コーティング剤または防水性コーティング剤として使用される、請求項1〜15のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の表面処理剤を含有するペレット。
【請求項18】
基材と、該基材の表面に、請求項1〜16のいずれか1項に記載の表面処理剤より形成された層とを含む物品。
【請求項19】
基材がガラスまたはサファイアガラスである、請求項18に記載の物品。
【請求項20】
基材が、ソーダライムガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、クリスタルガラスおよび石英ガラスから成る群から選択されるガラスである、請求項18に記載の物品。
【請求項21】
光学部材である、請求項18〜20のいずれか1項に記載の物品。
【請求項22】
ディスプレイである、請求項18〜21のいずれか1項に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物およびカルボン酸エステル化合物を含んで成る表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の含フッ素シラン化合物は、基材の表面処理に用いると、優れた撥水性、撥油性、防汚性などを提供し得ることが知られている。含フッ素シラン化合物を含む表面処理剤から得られる層(以下、「表面処理層」とも言う)は、いわゆる機能性薄膜として、例えばガラス、プラスチック、繊維、建築資材など種々多様な基材に施されている。
【0003】
そのような含フッ素シラン化合物として、パーフルオロ(ポリ)エーテル基を分子主鎖に有し、アミド結合を含む有機基を介して、含フッ素シラン化合物の末端または末端部に加水分解可能な基を有するSi原子に結合した、パーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物が知られている(特許文献1〜3を参照のこと)。このパーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物を含む表面処理剤を基材に適用すると、Si原子に結合した加水分解可能な基が基材との間および化合物間で反応することにより結合して、表面処理層を形成し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−29585号公報
【特許文献2】特開2000−14399号公報
【特許文献3】特開2000−327772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物を含む表面処理剤から得られる層は、撥水性、撥油性、防汚性などの機能を薄膜でも発揮し得ることから、光透過性および透明性が求められるメガネやタッチパネルなどの光学部材に好適に利用されている。とりわけ、これら用途においては、繰り返し摩擦を受けてもかかる機能を維持し得るように摩擦耐久性が求められる。
【0006】
本発明は、撥水性、撥油性、防汚性、防水性を有し、かつ、高い摩擦耐久性を有する層を形成することのできるパーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物を含んで成る組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、パーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物およびカルボン酸エステル化合物を含んで成る組成物を用いることにより、高い摩擦耐久性を有する表面処理層を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の第1の要旨によれば、少なくとも1種の下記式(1)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物:
【化1】
[式中:
Rfは、それぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
PFPEは、それぞれ独立して、−(OC12−(OC10−(OC−(OC−(OC−(OCF−を表し、ここに、a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、c、d、eおよびfの和は少なくとも1であり、a、b、c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり;
は、単結合または2価の有機基を表し;
は、−X−SiRa1l1b1m1c1n1を表し;
は、2価の有機基を表し;
a1は、各出現においてそれぞれ独立して、−Z−SiRa2l2b2m2c2n2を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し;
a2は、各出現においてそれぞれ独立して、Ra1’を表し;
a1’は、Ra1と同意義であり;
a1中、Z基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個であり;
b2は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
c2は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
l2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
m2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
n2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
b1は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
c1は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
l1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
m1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
n1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
は、水素原子、低級アルキル基またはフェニル基を表し;
pは、1または2である、
ただし、式中、少なくとも1つのRb1またはRb2が存在する。]
および
少なくとも1種の下記式(2)で表されるカルボン酸エステル化合物:
【化2】
[式中:
は、炭化水素基を表し;
は、有機基を表す。]
を含み、式(1)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物と式(2)で表されるカルボン酸エステル化合物の総含有量に対する、式(2)で表されるカルボン酸エステル化合物の含有量が、4.1mol%以上35mol%以下である、表面処理剤が提供される。
【0009】
本発明の第2の要旨によれば、基材と、該基材の表面に、上記本発明の表面処理剤より形成された層とを含む物品が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のパーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物と、カルボン酸エステル化合物とを含む組成物を用いることにより、高い摩擦耐久性を有する表面処理層を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の表面処理剤について説明する。
【0012】
本明細書において用いられる場合、「1価の有機基」または「2価の有機基」とは、それぞれ炭素を含有する1価または2価の基を意味する。かかる1価の有機基としては、特に限定されるものではないが、炭化水素基が挙げられる。2価の有機基としては、特に限定されるものではないが、炭化水素基からさらに1個の水素原子を脱離させた2価の基が挙げられる。
【0013】
本明細書において用いられる場合、「炭化水素基」とは、炭素および水素を含む基であって、炭化水素から1個の水素原子を脱離させた基を意味する。かかる炭化水素基としては、特に限定されるものではないが、1つまたはそれ以上の置換基により置換されていてもよい、炭素数1〜20の炭化水素基、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。上記「脂肪族炭化水素基」は、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよく、飽和または不飽和のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、1つまたはそれ以上の環構造を含んでいてもよい。尚、かかる炭化水素基は、その末端または分子鎖中に、1つまたはそれ以上のN、O、S、Si、アミド、スルホニル、シロキサン、カルボニル、カルボニルオキシ等を有していてもよい。
【0014】
本明細書において用いられる場合、「炭化水素基」の置換基としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子;1個またはそれ以上のハロゲン原子により置換されていてもよい、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−10シクロアルキル基、C3−10不飽和シクロアルキル基、5〜10員のヘテロシクリル基、5〜10員の不飽和ヘテロシクリル基、C6−10アリール基および5〜10員のヘテロアリール基から選択される1個またはそれ以上の基が挙げられる。
【0015】
本明細書において、アルキル基およびフェニル基は、特記しない限り、非置換であっても、置換されていてもよい。かかる基の置換基としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基およびC2−6アルキニル基から選択される1個またはそれ以上の基が挙げられる。
【0016】
本発明は、下記式(1)で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物:
性アミドシラン化合物:
【化3】
および
下記式(2)で表される少なくとも1種のアミン化合物:
【化4】
を含んでなる、表面処理剤を提供する(以下、「本発明の表面処理剤」ともいう)。
【0017】
以下、式(1)で表される化合物について説明する。
【化5】
【0018】
上記式(1)中、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1−16のアルキル基を表す。
【0019】
上記1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1−16のアルキル基における「C1−16のアルキル基」は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖または分枝鎖のC1−6のアルキル基、特にC1−3のアルキル基であり、より好ましくは直鎖のC1−3のアルキル基である。
【0020】
上記Rfは、好ましくは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されているC1−16のアルキル基であり、より好ましくはCFH−C1−15フルオロアルキレン基であり、さらに好ましくはC1−16のパーフルオロアルキル基である。
【0021】
上記C1−16のパーフルオロアルキル基は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖または分枝鎖のC1−6のパーフルオロアルキル基、特にC1−3のパーフルオロアルキル基であり、より好ましくは直鎖のC1−3のパーフルオロアルキル基、具体的には−CF、−CFCF、または−CFCFCFである。
【0022】
上記式(1)中、PFPEは、
−(OC12−(OC10−(OC−(OC−(OC−(OCF
で表される基である。式中、a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、c、d、eおよびfの和は少なくとも1である。好ましくは、a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立して、0以上100以下の整数である。好ましくは、a、b、c、d、eおよびfの和は5以上であり、より好ましくは10以上、例えば10以上100以下である。また、a、b、c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。
【0023】
これら繰り返し単位は、直鎖状であっても、分枝鎖状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。例えば、−(OC12)−は、−(OCFCFCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCFCFCF)−、−(OCFCF(CF)CFCFCF)−、−(OCFCFCF(CF)CFCF)−、−(OCFCFCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCFCFCF(CF))−等であってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCFCFCF)−である。−(OC10)−は、−(OCFCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCFCF)−、−(OCFCF(CF)CFCF)−、−(OCFCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCFCF(CF))−等であってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCF)−、−(OCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCF(CF))−、−(OC(CFCF)−、−(OCFC(CF)−、−(OCF(CF)CF(CF))−、−(OCF(C)CF)−および−(OCFCF(C))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCFCF)−、−(OCF(CF)CF)−および−(OCFCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCF)−である。また、−(OC)−は、−(OCFCF)−および−(OCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCF)−である。
【0024】
一の態様において、上記PFPEは、−(OC−(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)である。好ましくは、PFPEは、−(OCFCFCF−(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)または−(OCF(CF)CF−(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)である。より好ましくは、PFPEは、−(OCFCFCF−(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)である。
【0025】
別の態様において、PFPEは、−(OC−(OC−(OC−(OCF−(式中、cおよびdは、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、eおよびfは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数であり、添字c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)である。好ましくは、PFPEは、−(OCFCFCFCF−(OCFCFCF−(OCFCF−(OCF−である。一の態様において、PFPEは、−(OC−(OCF−(式中、eおよびfは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数であり、添字eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)であってもよい。
【0026】
さらに別の態様において、PFPEは、−(R−R−で表される基である。式中、Rは、OCFまたはOCであり、好ましくはOCである。式中、Rは、OC、OC、OC、OC10およびOC12から選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせである。好ましくは、Rは、OC、OCおよびOCから選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせである。OC、OCおよびOCから独立して選択される2または3つの基の組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、および−OCOCOC−等が挙げられる。上記qは、2〜100の整数、好ましくは2〜50の整数である。上記式中、OC、OC、OC、OC10およびOC12は、直鎖または分枝鎖のいずれであってもよく、好ましくは直鎖である。この態様において、PFPEは、好ましくは、−(OC−OC−または−(OC−OC−である。
【0027】
PFPEにおいて、fに対するeの比(以下、「e/f比」または「EM比」という)は、0.1以上10以下であり、好ましくは0.2以上5以下であり、より好ましくは0.2以上2以下であり、さらに好ましくは0.2以上1.5以下であり、さらにより好ましくは0.2以上0.85以下である。e/f比を10以下にすることにより、この化合物から得られる表面処理層の滑り性、摩擦耐久性および耐ケミカル性(例えば、人工汗に対する耐久性)がより向上する。e/f比がより小さいほど、表面処理層の滑り性および摩擦耐久性はより向上する。一方、e/f比を0.1以上にすることにより、化合物の安定性をより高めることができる。e/f比がより大きいほど、化合物の安定性はより向上する。
【0028】
上記式(1)中、Xは、単結合または2価の有機基を表す。
【0029】
上記Xにおける2価の有機基の例としては、特に限定するものではないが、
−(CRk1−(O)k2−(NRk3−、
[式中:
は、それぞれ独立して、水素原子またはフッ素原子であり;
は、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基を表し;
k1は、1〜20の整数であり;
k2は、0〜10の整数であり;
k3は、0〜10の整数であり;
ここに、k1、k2またはk3を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。]
で表される基が挙げられる。
【0030】
好ましい態様において、Xは、
−(CFk1’−または−(CFk1’−(O)k2’
[式中:
k1’は、1〜6の整数であり;
k2’は、1〜3の整数であり;
ここに、k1’またはk2’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。]
である。
【0031】
上記式(1)中、Rは、それぞれ独立して、−X−SiRa1l1b1m1c1n1を表す。
【0032】
上記Xは、2価の有機基を表す。
【0033】
上記Xの2価の有機基の例としては、特に限定するものではないが、
−(CR10k4−(O)k5−(NR11k6−、
[式中:
10は、それぞれ独立して、水素原子またはフッ素原子であり;
11は、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基を表し;
k4は、1〜20の整数であり;
k5は、0〜10の整数であり;
k6は、0〜10の整数であり;
ここに、k4、k5またはk6を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。]
で表される基が挙げられる。
【0034】
好ましい態様において、Xは、
−(CHk4’−または−(CHk4’−Ok5’
[式中:
k4’は、1〜6の整数であり;
k5’は、1〜3の整数であり;
ここに、k4’またはk5’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。]
である。
【0035】
一の態様において、Xは、
−(CFk1’−または−(CFk1’−(O)k2’
[式中:
k1’は、1〜6の整数であり;
k2’は、1〜3の整数であり;
ここに、k1’またはk2’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。]
であり、
は、
−(CHk4’−または−(CHk4’−Ok5’
[式中:
k4’は、1〜6の整数であり;
k5’は、1〜3の整数であり;
ここに、k4’またはk5’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。]
である。
【0036】
上記Ra1は、各出現においてそれぞれ独立して、−Z−SiRa2l2b2m2c2n2を表す。
【0037】
式中、Zは、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表す。
【0038】
上記Zは、好ましくは、2価の有機基である。一の態様において、式(1)中Ra1が結合しているSi原子とシロキサン結合を形成するものを含まない。
【0039】
上記Zは、好ましくは、C1−6アルキレン基、−(CH−O−(CH−(式中、gは、1〜6の整数であり、hは、1〜6の整数である)または、−フェニレン−(CH−(式中、iは、0〜6の整数である)であり、より好ましくはC1−3アルキレン基である。これらの基は、例えば、フッ素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、およびC2−6アルキニル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0040】
式中、Ra2は、各出現においてそれぞれ独立して、Ra1’を表す。Ra1’は、Ra1と同意義である。
【0041】
a1中、Z基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個である。即ち、上記Ra1において、Ra2が少なくとも1つ存在する場合、Ra1中にZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子が2個以上存在するが、かかるZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数は最大で5個である。なお、「Ra1中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数」とは、Ra1中において直鎖状に連結される−Z−Si−の繰り返し数と等しくなる。
【0042】
例えば、下記にRa1中においてZ基(下記では単に「Z」と示す)を介してSi原子が連結された一例を示す。
【化6】
【0043】
上記式において、*は、主鎖のSiに結合する部位を意味し、…は、ZSi以外の所定の基が結合していること、即ち、Si原子の3本の結合手がすべて…である場合、ZSiの繰り返しの終了箇所を意味する。また、Siの右肩の数字は、*から数えたZ基を介して直鎖状に連結されたSiの出現数を意味する。即ち、SiでZSi繰り返しが終了している鎖は「Ra1中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数」が2個であり、同様に、Si、SiおよびSiでZSi繰り返しが終了している鎖は、それぞれ、「Ra1中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数」が3、4および5個である。なお、上記の式から明らかなように、R中には、ZSi鎖が複数存在するが、これらはすべて同じ長さである必要はなく、それぞれ任意の長さであってもよい。
【0044】
好ましい態様において、下記に示すように、「Ra1中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数」は、すべての鎖において、1個(左式)または2個(右式)である。
【化7】
【0045】
一の態様において、Ra1中のZ基を介して直鎖状に連結されるSi原子の数は1個または2個、好ましくは1個である。
【0046】
上記Rb2は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表す。
【0047】
上記「加水分解可能な基」とは、本明細書において用いられる場合、加水分解反応を受け得る基を意味する。加水分解可能な基の例としては、−OR、−OCOR、−O−N=C(R)、−N(R)、−NHR、ハロゲン(これら式中、Rは、置換または非置換の炭素数1〜4のアルキル基を示す)などが挙げられ、好ましくは−OR(アルコキシ基)である。Rの例には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基などの非置換アルキル基;クロロメチル基などの置換アルキル基が含まれる。それらの中でも、アルキル基、特に非置換アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってよい。
【0048】
好ましくは、Rb2は、−OR(式中、Rは、置換または非置換のC1−3アルキル基、より好ましくはエチル基またはメチル基、さらに好ましくはメチル基を表す)である。
【0049】
式中、Rc2は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。該低級アルキル基は、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、さらに好ましくはメチル基である。
【0050】
式中、l2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;m2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;n2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数である。ただし、l2、m2およびn2の和は3である。
【0051】
好ましい態様において、Ra1中の末端のRa1’(Ra1’が存在しない場合、Ra1)において、上記m2は、好ましくは2以上、例えば2または3であり、より好ましくは3である。
【0052】
好ましい態様において、Ra1の末端部の少なくとも1つは、−Si(−Z−SiRb2m2c2n2または−Si(−Z−SiRb2m2c2n2、好ましくは−Si(−Z−SiRb2m2c2n2であり得る。式中、(−Z−SiRb2m2c2n2)の単位は、好ましくは(−Z−SiRb2)である。さらに好ましい態様において、Rの末端部は、すべて−Si(−Z−SiRb2m2c2n2、好ましくは−Si(−Z−SiRb2であり得る。
【0053】
一の態様において、上記式(1)において、少なくとも1つのRb2が存在する。
【0054】
上記式中、Rb1は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表す。
【0055】
上記Rb1は、好ましくは、水酸基、−OR、−OCOR、−O−N=C(R)、−N(R)、−NHR、ハロゲン(これら式中、Rは、置換または非置換の炭素数1〜4のアルキル基を示す)であり、好ましくは−ORである。Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基などの非置換アルキル基;クロロメチル基などの置換アルキル基が含まれる。それらの中でも、アルキル基、特に非置換アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってよい。より好ましくは、Rb1は、−OR(式中、Rは、置換または非置換のC1−3アルキル基、より好ましくはエチル基またはメチル基、さらに好ましくはメチル基を表す)である。
【0056】
上記式中、Rc1は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表す。該低級アルキル基は、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、さらに好ましくはメチル基である。
【0057】
式中、l1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;m1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;n1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数である。ただし、l1、m1およびn1の和は、3である。
【0058】
一の態様において、l1は0である。別の態様において、l1は3である。
【0059】
上記式(1)中、Rは、水素原子、低級アルキル基またはフェニル基を表す。低級アルキル基は、好ましくはC1−6アルキル基を表す。Rは、好ましくは水素原子またはC1−6アルキル基であり、より好ましくは水素原子またはメチル基である。
【0060】
一の態様において、Rは、水素原子である。
【0061】
別の態様において、Rは、低級アルキル基またはフェニル基である。好ましい態様において、Rは、C1−6アルキル基またはフェニル基、好ましくはC1−3アルキル基またはフェニル基、さらに好ましくはエチル基またはメチル基、さらにより好ましくはメチル基であり得る。
【0062】
上記式(1)中、pは、1または2である。一の態様において、pは1である。
【0063】
上記式(1)中、少なくとも1つのRb1またはRb2が存在する。
【0064】
上記式で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物において、Rf−PFPE部分の平均分子量は、特に限定されるものではないが、500〜30,000、好ましくは1,000〜20,000、より好ましくは2,000〜15,000である。
【0065】
上記式で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物は、特に限定されるものではないが、5×10〜1×10の平均分子量を有し得る。かかる範囲のなかでも、500〜30,000、好ましくは1,500〜20,000、より好ましくは2,500〜15,000の平均分子量を有することが、摩擦耐久性の観点から好ましい。なお、本発明において「平均分子量」は数平均分子量を言い、「平均分子量」は、19F−NMRにより測定される値とする。
【0066】
上記式(1)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物は、パーフルオロカルボン酸誘導体と加水分解性基を有するアミノシランとの縮合反応によって製造することができる(特許文献1および2参照)。
【0067】
以下、式(2)で表される化合物について説明する。
【化8】
【0068】
上記式(2)中、Rは、炭化水素基を表す。
【0069】
は、好ましくは、低級アルキル基またはフェニル基である。低級アルキル基は、好ましくはC1−6アルキル基、より好ましくはC1−3アルキル基、さらに好ましくはエチル基またはメチル基であり、さらにより好ましくはメチル基である。
【0070】
上記式(2)中、Rは、1価の有機基を表す。
【0071】
は、好ましくは、Rf−PFPE−X−であり得る。
【0072】
上記式(2)中、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1−16のアルキル基を表す。
【0073】
上記1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1−16のアルキル基における「C1−16のアルキル基」は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖または分枝鎖のC1−6のアルキル基、特にC1−3のアルキル基であり、より好ましくは直鎖のC1−3のアルキル基である。
【0074】
上記Rfは、好ましくは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されているC1−16のアルキル基であり、より好ましくはCFH−C1−15フルオロアルキレン基であり、さらに好ましくはC1−16のパーフルオロアルキル基である。
【0075】
上記C1−16のパーフルオロアルキル基は、直鎖であっても、分枝鎖であってもよく、好ましくは、直鎖または分枝鎖のC1−6のパーフルオロアルキル基、特にC1−3のパーフルオロアルキル基であり、より好ましくは直鎖のC1−3のパーフルオロアルキル基、具体的には−CF、−CFCF、または−CFCFCFである。
【0076】
上記式(2)中、PFPEは、
−(OC12−(OC10−(OC−(OC−(OC−(OCF
で表される基である。式中、a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、c、d、eおよびfの和は少なくとも1である。好ましくは、a、b、c、d、eおよびfは、それぞれ独立して、0以上100以下の整数である。好ましくは、a、b、c、d、eおよびfの和は5以上であり、より好ましくは10以上、例えば10以上100以下である。また、a、b、c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。
【0077】
これら繰り返し単位は、直鎖状であっても、分枝鎖状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。例えば、−(OC12)−は、−(OCFCFCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCFCFCF)−、−(OCFCF(CF)CFCFCF)−、−(OCFCFCF(CF)CFCF)−、−(OCFCFCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCFCFCF(CF))−等であってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCFCFCF)−である。−(OC10)−は、−(OCFCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCFCF)−、−(OCFCF(CF)CFCF)−、−(OCFCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCFCF(CF))−等であってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCF)−、−(OCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCF(CF))−、−(OC(CFCF)−、−(OCFC(CF)−、−(OCF(CF)CF(CF))−、−(OCF(C)CF)−および−(OCFCF(C))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCFCF)−、−(OCF(CF)CF)−および−(OCFCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCF)−である。また、−(OC)−は、−(OCFCF)−および−(OCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCF)−である。
【0078】
一の態様において、上記PFPEは、−(OC−(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)である。好ましくは、PFPEは、−(OCFCFCF−(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)または−(OCF(CF)CF−(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)である。より好ましくは、PFPEは、−(OCFCFCF−(式中、dは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)である。
【0079】
別の態様において、PFPEは、−(OC−(OC−(OC−(OCF−(式中、cおよびdは、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、eおよびfは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数であり、添字c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)である。好ましくは、PFPEは、−(OCFCFCFCF−(OCFCFCF−(OCFCF−(OCF−である。一の態様において、PFPEは、−(OC−(OCF−(式中、eおよびfは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数であり、添字eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)であってもよい。
【0080】
さらに別の態様において、PFPEは、−(R−R−で表される基である。式中、Rは、OCFまたはOCであり、好ましくはOCである。式中、Rは、OC、OC、OC、OC10およびOC12から選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせである。好ましくは、Rは、OC、OCおよびOCから選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせである。OC、OCおよびOCから独立して選択される2または3つの基の組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、および−OCOCOC−等が挙げられる。上記qは、2〜100の整数、好ましくは2〜50の整数である。上記式中、OC、OC、OC、OC10およびOC12は、直鎖または分枝鎖のいずれであってもよく、好ましくは直鎖である。この態様において、PFPEは、好ましくは、−(OC−OC−または−(OC−OC−である。
【0081】
上記式(2)中、Xは、単結合または2価の有機基を表す。
【0082】
上記Xにおける2価の有機基の例としては、特に限定するものではないが、
−(CRk1−(O)k2−(NRk3−、
[式中:
は、それぞれ独立して、水素原子またはフッ素原子であり;
は、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基またはC1−6アルキル基を表し;
k1は、1〜20の整数であり;
k2は、0〜10の整数であり;
k3は、0〜10の整数であり;
ここに、k1、k2またはk3を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。]
で表される基が挙げられる。
【0083】
好ましい態様において、Xは、
−(CFk1’−または−(CFk1’−(O)k2’
[式中:
k1’は、1〜6の整数であり;
k2’は、1〜3の整数であり;
ここに、k1’またはk2’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。]
である。
【0084】
上記したRとしてのRf−PFPE−X−は、式(1)におけるRf−PFPE−X−と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0085】
一の態様において、Rf−PFPE−X−とRf−PFPE−X−は、同じである。別の態様において、Rf−PFPE−X−とRf−PFPE−X−は、異なっている。
【0086】
上記式(2)で表されるカルボン酸エステル化合物において、Rf−PFPE部分の平均分子量は、特に限定されるものではないが、500〜30,000、好ましくは1,000〜20,000、より好ましくは2,000〜15,000である。
【0087】
上記式(2)で表されるカルボン酸エステル化合物は、特に限定されるものではないが、5×10〜1×10の平均分子量を有し得る。かかる範囲のなかでも、500〜30,000、好ましくは1,500〜20,000、より好ましくは2,500〜15,000の平均分子量を有することが、摩擦耐久性の観点から好ましい。
【0088】
上記式(2)のカルボン酸エステル化合物は、上記式(1)で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物を合成する際の原料化合物由来の化合物であってもよいし、別途添加したカルボン酸エステル化合物であってもよい。別途添加するカルボン酸エステル化合物は、合成に用いたカルボン酸エステル化合物と同じ化合物であってもよいし、異なる化合物であってもよい。
【0089】
一の態様において、本発明の表面処理剤中、式(2)で表されるカルボン酸エステル化合物の含有量は、式(1)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物と式(2)で表されるカルボン酸エステル化合物の総含有量に対して、4.1mol%以上35mol%以下、好ましくは4.5〜35mol%、より好ましくは4.5〜30mol%、さらに好ましくは5.0〜25mol%であり、例えば6.0mol%以上、8.0mol%以上または10.0mol%以上であり、20mol%以下、18mol%以下または15mol%であり得る。このような範囲とすることで、本発明の表面処理剤は高い安定性を有し、また、本発明の表面処理剤から得られる表面処理層の摩擦耐久性が向上する。
【0090】
本発明の表面処理剤は、溶媒で希釈されていてもよい。このような溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば:
パーフルオロヘキサン、CFCFCHCl、CFCHCFCH、CFCHFCHFC、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタン、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン((ゼオローラH(商品名)等)、COCH、COC、CFCHOCFCHF、C13CH=CH、キシレンヘキサフルオリド、パーフルオロベンゼン、メチルペンタデカフルオロヘプチルケトン、トリフルオロエタノール、ペンタフルオロプロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、HCFCFCHOH、メチルトリフルオロメタンスルホネート、トリフルオロ酢酸およびCFO(CFCFO)(CFO)CFCF[式中、mおよびnは、それぞれ独立して0以上1000以下の整数であり、mまたはnを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり、但しmおよびnの和は1以上である。]、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、1,2−ジクロロ−1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、1,1−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、1,1,2−トリクロロ―3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテンからなる群から選択されるフッ素原子含有溶媒等が挙げられる。
【0091】
本発明の表面処理剤は、パーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物(1)およびカルボン酸エステル化合物(2)に加え、他の成分を含んでいてもよい。かかる他の成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、他の表面処理化合物、含フッ素オイルとして理解され得る(非反応性の)フルオロポリエーテル化合物、好ましくはパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物(以下、「含フッ素オイル」と言う)、シリコーンオイルとして理解され得る(非反応性の)シリコーン化合物(以下、「シリコーンオイル」と言う)、触媒などが挙げられる。
【0092】
他の表面処理化合物としては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)、(D1)および(D2):
【化9】
[式中:
PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
−(OC12a1−(OC10b1−(OCc1−(OCd1−(OCe1−(OCFf1
(式中、a1、b1、c1、d1、e1およびf1は、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a1、b1、c1、d1、e1およびf1の和は少なくとも1であり、a1、b1、c1、d1、e1またはf1を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)
で表される基であり;
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基を表し;
23は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
24は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基を表し;
21は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表し;
22は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
n3は、(−SiR23n3243−n3)単位毎に独立して、0〜3の整数であり;
ただし、式(A1)、(A2)、(B1)および(B2)において、少なくとも1つのn3が、1〜3の整数であり;
は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基を表し;
tは、各出現においてそれぞれ独立して、1〜10の整数であり;
α1は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
α1’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
β1は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
β1’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
γ1は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
γ1’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
a3は、各出現においてそれぞれ独立して、−Z−SiR71p172q173r1を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し;
71は、各出現においてそれぞれ独立して、Ra3’を表し;
a3’は、Ra3と同意義であり;
a3中、Z基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個であり;
72は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
73は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
p1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
q1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
r1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、式(C1)および(C2)において、少なくとも1つのq1が1〜3の整数であり;
b3は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
c3は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
k1は、各出現においてそれぞれ独立して、1〜3の整数であり;
l1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜2の整数であり;
m1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜2の整数であり;
は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し;
δ1は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
δ1’は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり;
d3は、各出現においてそれぞれ独立して、−Z−CR81p282q283r2を表し;
は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し;
81は、各出現においてそれぞれ独立して、Rd3’を表し;
d3’は、Rd3と同意義であり;
d3中、Z基を介して直鎖状に連結されるCは最大で5個であり;
82は、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85n2863−n2を表し;
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し;
85は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し;
86は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
n2は、(−Y−SiR85n2863−n2)単位毎に独立して、1〜3の整数を表し;
ただし、式(D1)および(D2)において、少なくとも1つのn2は1〜3の整数であり;
83は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
p2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
q2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
r2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
e3は、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85n2863−n2を表し;
f3は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し;
k2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
l2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
m2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり;
ただし、式(D1)および(D2)において、少なくとも1つのq2は2または3であるか、あるいは、少なくとも1つのl2は2または3である。]
のいずれかで表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物が挙げられる。
【0093】
上記含フッ素オイルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の一般式(3)で表される化合物(パーフルオロ(ポリ)エーテル化合物)が挙げられる。
Rf−(OCa’−(OCb’−(OCc’−(OCFd’−Rf ・・・(3)
式中、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16アルキル基(好ましくは、C1―16のパーフルオロアルキル基)を表し、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16アルキル基(好ましくは、C1−16パーフルオロアルキル基)、フッ素原子または水素原子を表し、RfおよびRfは、より好ましくは、それぞれ独立して、C1−3パーフルオロアルキル基である。
a’、b’、c’およびd’は、ポリマーの主骨格を構成するパーフルオロ(ポリ)エーテルの4種の繰り返し単位数をそれぞれ表し、互いに独立して0以上300以下の整数であって、a’、b’、c’およびd’の和は少なくとも1、好ましくは1〜300、より好ましくは20〜300である。添字a’、b’、c’またはd’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。これら繰り返し単位のうち、−(OC)−は、−(OCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCF)−、−(OCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCF(CF))−、−(OC(CFCF)−、−(OCFC(CF)−、−(OCF(CF)CF(CF))−、−(OCF(C)CF)−および−(OCFCF(C))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCFCF)−、−(OCF(CF)CF)−および−(OCFCF(CF))−のいずれであってもよく、好ましくは−(OCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCF)−および−(OCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCF)−である。
【0094】
上記一般式(3)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物の例として、以下の一般式(3a)および(3b)のいずれかで示される化合物(1種または2種以上の混合物であってよい)が挙げられる。
Rf−(OCFCFCFb’’−Rf ・・・(3a)
Rf−(OCFCFCFCFa’’−(OCFCFCFb’’−(OCFCFc’’−(OCFd’’−Rf ・・・(3b)
これら式中、RfおよびRfは上記の通りであり;式(3a)において、b’’は1以上100以下の整数であり;式(3b)において、a’’およびb’’は、それぞれ独立して1以上30以下の整数であり、c’’およびd’’はそれぞれ独立して1以上300以下の整数である。添字a’’、b’’、c’’、d’’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。
【0095】
上記含フッ素オイルは、1,000〜30,000の平均分子量を有していてよい。これにより、高い表面滑り性を得ることができる。
【0096】
本発明の表面処理剤中、含フッ素オイルは、上記パーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物および上記カルボン酸エステル化合物の合計100質量部(それぞれ、2種以上の場合にはこれらの合計、以下も同様)に対して、例えば0〜500質量部、好ましくは0〜400質量部、より好ましくは5〜300質量部で含まれ得る。
【0097】
一般式(3a)で示される化合物および一般式(3b)で示される化合物は、それぞれ単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。一般式(3a)で示される化合物よりも、一般式(3b)で示される化合物を用いるほうが、より高い表面滑り性が得られるので好ましい。これらを組み合わせて用いる場合、一般式(3a)で表される化合物と、一般式(3b)で表される化合物との質量比は、1:1〜1:30が好ましく、1:1〜1:10がより好ましい。かかる質量比によれば、表面滑り性と摩擦耐久性のバランスに優れた表面処理層を得ることができる。
【0098】
一の態様において、含フッ素オイルは、一般式(3b)で表される1種またはそれ以上の化合物を含む。かかる態様において、表面処理剤中の上記パーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物および上記カルボン酸エステル化合物の合計と、式(3b)で表される化合物との質量比は、4:1〜1:4であることが好ましい。
【0099】
好ましい態様において、真空蒸着法により表面処理層を形成する場合には、上記パーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物および上記カルボン酸エステル化合物の平均分子量よりも、含フッ素オイルの平均分子量を大きくしてもよい。このような平均分子量とすることにより、より優れた摩擦耐久性と表面滑り性を得ることができる。
【0100】
また、別の観点から、含フッ素オイルは、一般式Rf’−F(式中、Rf’はC5−16パーフルオロアルキル基である。)で表される化合物であってよい。また、クロロトリフルオロエチレンオリゴマーであってもよい。Rf’−Fで表される化合物およびクロロトリフルオロエチレンオリゴマーは、RfがC1−16パーフルオロアルキル基である上記上記パーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物と高い親和性が得られる点で好ましい。
【0101】
含フッ素オイルは、表面処理層の表面滑り性を向上させるのに寄与する。
【0102】
上記シリコーンオイルとしては、例えばシロキサン結合が2,000以下の直鎖状または環状のシリコーンオイルを用い得る。直鎖状のシリコーンオイルは、いわゆるストレートシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルであってよい。ストレートシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルが挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、ストレートシリコーンオイルを、アルキル、アラルキル、ポリエーテル、高級脂肪酸エステル、フルオロアルキル、アミノ、エポキシ、カルボキシル、アルコールなどにより変性したものが挙げられる。環状のシリコーンオイルは、例えば環状ジメチルシロキサンオイルなどが挙げられる。
【0103】
本発明の表面処理剤中、かかるシリコーンオイルは、上記パーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物および上記カルボン酸エステル化合物の合計100質量部(2種以上の場合にはこれらの合計、以下も同様)に対して、例えば0〜300質量部、好ましくは0〜200質量部で含まれ得る。
【0104】
シリコーンオイルは、表面処理層の表面滑り性を向上させるのに寄与する。
【0105】
上記触媒としては、酸(例えば酢酸、トリフルオロ酢酸等)、塩基(例えばアンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン等)、遷移金属(例えばTi、Ni、Sn等)等が挙げられる。
【0106】
触媒は、上記パーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物の加水分解および脱水縮合を促進し、表面処理層の形成を促進する。
【0107】
本発明の表面処理剤は、1つの溶液(または懸濁液もしくは分散液)の形態であってもよく、あるいは、別個の上記パーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物の溶液と、上記カルボン酸エステル化合物の溶液とを使用直前に混合する形態であってもよい。
【0108】
本発明の表面処理剤は、多孔質物質、例えば多孔質のセラミック材料、金属繊維、例えばスチールウールを綿状に固めたものに含浸させて、ペレットとすることができる。当該ペレットは、例えば、真空蒸着に用いることができる。
【0109】
本発明の表面処理剤は、撥水性、撥油性、防汚性、防水性および高い摩擦耐久性を基材に対して付与することができることから、表面処理剤として好適に使用される。具体的には、本発明の表面処理剤は、特に限定されるものではないが、防汚性コーティング剤または防水性コーティング剤として好適に使用され得る。
【0110】
次に、本発明の物品について説明する。
【0111】
本発明の物品は、基材と、該基材の表面に本発明の表面処理剤より形成された層(表面処理層)とを含む。この物品は、例えば以下のようにして製造できる。
【0112】
まず、基材を準備する。本発明に使用可能な基材は、例えばガラス、サファイアガラス、樹脂(天然または合成樹脂、例えば一般的なプラスチック材料であってよく、板状、フィルム、その他の形態であってよい)、金属(アルミニウム、銅、鉄等の金属単体または合金等の複合体であってよい)、セラミックス、半導体(シリコン、ゲルマニウム等)、繊維(織物、不織布等)、毛皮、皮革、木材、陶磁器、石材等、建築部材等、任意の適切な材料で構成され得る。
【0113】
上記ガラスとしては、ソーダライムガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、クリスタルガラス、石英ガラスが好ましく、化学強化したソーダライムガラス、化学強化したアルカリアルミノケイ酸塩ガラス、および化学結合したホウ珪酸ガラスが特に好ましい。
樹脂としては、アクリル樹脂、ポリカーボネートが好ましい。
【0114】
例えば、製造すべき物品が光学部材である場合、基材の表面を構成する材料は、光学部材用材料、例えばガラスまたは透明プラスチックなどであってよい。また、製造すべき物品が光学部材である場合、基材の表面(最外層)に何らかの層(または膜)、例えばハードコート層や反射防止層などが形成されていてもよい。反射防止層には、単層反射防止層および多層反射防止層のいずれを使用してもよい。反射防止層に使用可能な無機物の例としては、SiO、SiO、ZrO、TiO、TiO、Ti、Ti、Al、Ta、CeO、MgO、Y、SnO、MgF、WOなどが挙げられる。これらの無機物は、単独で、またはこれらの2種以上を組み合わせて(例えば混合物として)使用してもよい。多層反射防止層とする場合、その最外層にはSiOおよび/またはSiOを用いることが好ましい。製造すべき物品が、タッチパネル用の光学ガラス部品である場合、透明電極、例えば酸化インジウムスズ(ITO)や酸化インジウム亜鉛などを用いた薄膜を、基材(ガラス)の表面の一部に有していてもよい。また、基材は、その具体的仕様等に応じて、絶縁層、粘着層、保護層、装飾枠層(I−CON)、霧化膜層、ハードコーティング膜層、偏光フィルム、相位差フィルム、および液晶表示モジュールなどを有していてもよい。
【0115】
基材の形状は特に限定されない。また、表面処理層を形成すべき基材の表面領域は、基材表面の少なくとも一部であればよく、製造すべき物品の用途および具体的仕様等に応じて適宜決定され得る。
【0116】
かかる基材としては、少なくともその表面部分が、水酸基を元々有する材料から成るものであってよい。かかる材料としては、ガラスが挙げられ、また、表面に自然酸化膜または熱酸化膜が形成される金属(特に卑金属)、セラミックス、半導体等が挙げられる。あるいは、樹脂等のように、水酸基を有していても十分でない場合や、水酸基を元々有していない場合には、基材に何らかの前処理を施すことにより、基材の表面に水酸基を導入したり、増加させたりすることができる。かかる前処理の例としては、プラズマ処理(例えばコロナ放電)や、イオンビーム照射が挙げられる。プラズマ処理は、基材表面に水酸基を導入または増加させ得ると共に、基材表面を清浄化する(異物等を除去する)ためにも好適に利用され得る。また、かかる前処理の別の例としては、炭素−炭素不飽和結合基を有する界面吸着剤をLB法(ラングミュア−ブロジェット法)や化学吸着法等によって、基材表面に予め単分子膜の形態で形成し、その後、酸素や窒素等を含む雰囲気下にて不飽和結合を開裂する方法が挙げられる。
【0117】
またあるいは、かかる基材としては、少なくともその表面部分が、別の反応性基、例えばSi−H基を1つ以上有するシリコーン化合物や、アルコキシシランを含む材料から成るものであってもよい。
【0118】
次に、かかる基材の表面に、上記の本発明の表面処理剤の膜を形成し、この膜を必要に応じて後処理し、これにより、本発明の表面処理剤から表面処理層を形成する。
【0119】
本発明の表面処理剤の膜形成は、本発明の表面処理剤を基材の表面に対して、該表面を被覆するように適用することによって実施できる。被覆方法は、特に限定されない。例えば、湿潤被覆法および乾燥被覆法を使用できる。
【0120】
湿潤被覆法の例としては、浸漬コーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティングおよび類似の方法が挙げられる。
【0121】
乾燥被覆法の例としては、蒸着(通常、真空蒸着)、スパッタリング、CVDおよび類似の方法が挙げられる。蒸着法(通常、真空蒸着法)の具体例としては、抵抗加熱、電子ビーム、マイクロ波等を用いた高周波加熱、イオンビームおよび類似の方法が挙げられる。CVD方法の具体例としては、プラズマ−CVD、光学CVD、熱CVDおよび類似の方法が挙げられる。
【0122】
更に、常圧プラズマ法による被覆も可能である。
【0123】
湿潤被覆法を使用する場合、本発明の表面処理剤は、溶媒で希釈されてから基材表面に適用され得る。本発明の表面処理剤の安定性および溶媒の揮発性の観点から、次の溶媒が好ましく使用される:C5−12のパーフルオロ脂肪族炭化水素(例えば、パーフルオロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサンおよびパーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン);ポリフルオロ芳香族炭化水素(例えば、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン);ポリフルオロ脂肪族炭化水素(例えば、C13CHCH(例えば、旭硝子株式会社製のアサヒクリン(登録商標)AC−6000)、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン(例えば、日本ゼオン株式会社製のゼオローラ(登録商標)H);ハイドロフルオロカーボン(HFC)(例えば、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc));ハイドロクロロフルオロカーボン(例えば、HCFC−225(アサヒクリン(登録商標)AK225));ヒドロフルオロエーテル(HFE)(例えば、パーフルオロプロピルメチルエーテル(COCH)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7000)、パーフルオロブチルメチルエーテル(COCH)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7100)、パーフルオロブチルエチルエーテル(COC)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7200)、パーフルオロヘキシルメチルエーテル(CCF(OCH)C)(例えば、住友スリーエム株式会社製のNovec(商標名)7300)などのアルキルパーフルオロアルキルエーテル(パーフルオロアルキル基およびアルキル基は直鎖または分枝状であってよい)、あるいはCFCHOCFCHF(例えば、旭硝子株式会社製のアサヒクリン(登録商標)AE−3000))、1,2−ジクロロ−1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製のバートレル(登録商標)サイオン)など。これらの溶媒は、単独で、または、2種以上を組み合わせて混合物として用いることができる。さらに、例えば、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物およびパーフルオロポリエーテル変性化合物の溶解性を調整する等のために、別の溶媒と混合することもできる。
【0124】
乾燥被覆法を使用する場合、本発明の表面処理剤は、そのまま乾燥被覆法に付してもよく、または、上記した溶媒で希釈してから乾燥被覆法に付してもよい。
【0125】
膜形成は、膜中で本発明の表面処理剤が、加水分解および脱水縮合のための触媒と共に存在するように実施することが好ましい。簡便には、湿潤被覆法による場合、本発明の表面処理剤を溶媒で希釈した後、基材表面に適用する直前に、本発明の表面処理剤の希釈液に触媒を添加してよい。乾燥被覆法による場合には、触媒添加した本発明の表面処理剤をそのまま蒸着(通常、真空蒸着)処理するか、あるいは鉄や銅などの金属多孔体に、触媒添加した本発明の表面処理剤を含浸させたペレット状物質を用いて蒸着(通常、真空蒸着)処理をしてもよい。
【0126】
触媒には、任意の適切な酸または塩基を使用できる。酸触媒としては、例えば、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸などを使用できる。また、塩基触媒としては、例えばアンモニア、有機アミン類などを使用できる。
【0127】
次に、必要に応じて、膜を後処理する。この後処理は、特に限定されないが、例えば、水分供給および乾燥加熱を逐次的に実施するものであってよく、より詳細には、以下のようにして実施してよい。
【0128】
上記のようにして基材表面に本発明の表面処理剤を膜形成した後、この膜(以下、「前駆体膜」とも言う)に水分を供給する。水分の供給方法は、特に限定されず、例えば、前駆体膜(および基材)と周囲雰囲気との温度差による結露や、水蒸気(スチーム)の吹付けなどの方法を使用してよい。
【0129】
水分の供給は、例えば0〜250℃、好ましくは60℃以上、さらに好ましくは100℃以上とし、好ましくは180℃以下、さらに好ましくは150℃以下の雰囲気下にて実施し得る。このような温度範囲において水分を供給することにより、加水分解を進行させることが可能である。このときの圧力は特に限定されないが、簡便には常圧とし得る。
【0130】
次に、該前駆体膜を該基材の表面で、60℃を超える乾燥雰囲気下にて加熱する。乾燥加熱方法は、特に限定されず、前駆体膜を基材と共に、60℃を超え、好ましくは100℃を超える温度であって、例えば250℃以下、好ましくは180℃以下の温度で、かつ不飽和水蒸気圧の雰囲気下に配置すればよい。このときの圧力は特に限定されないが、簡便には常圧とし得る。
【0131】
このような雰囲気下では、本発明のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物間では、加水分解後のSiに結合した基同士が速やかに脱水縮合する。また、かかる化合物と基材との間では、当該化合物の加水分解後のSiに結合した基と、基材表面に存在する反応性基との間で速やかに反応し、基材表面に存在する反応性基が水酸基である場合には脱水縮合する。その結果、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物と基材との間で結合が形成される。
【0132】
上記の水分供給および乾燥加熱は、過熱水蒸気を用いることにより連続的に実施してもよい。
【0133】
以上のようにして後処理が実施され得る。かかる後処理は、摩擦耐久性を一層向上させるために実施され得るが、本発明の物品を製造するのに必須でないことに留意されたい。例えば、本発明の表面処理剤を基材表面に適用した後、そのまま静置しておくだけでもよい。
【0134】
上記のようにして、基材の表面に、本発明の表面処理剤の膜に由来する表面処理層が形成され、本発明の物品が製造される。これにより得られる表面処理層は、高い摩擦耐久性を有する。また、この表面処理層は、高い摩擦耐久性に加えて、使用する組成物の組成にもよるが、撥水性、撥油性、防汚性(例えば指紋等の汚れの付着を防止する)、表面滑り性(または潤滑性、例えば指紋等の汚れの拭き取り性や、指に対する優れた触感)などを有し得、機能性薄膜として好適に利用され得る。
【0135】
すなわち本発明はさらに、前記硬化物を最外層に有する光学材料にも関する。
【0136】
光学材料としては、後記に例示するようなディスプレイ等に関する光学材料のほか、多種多様な光学材料が好ましく挙げられる:例えば、陰極線管(CRT;例、TV、パソコンモニター)、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機薄膜ELドットマトリクスディスプレイ、背面投写型ディスプレイ、蛍光表示管(VFD)、電界放出ディスプレイ(FED;Field Emission Display)などのディスプレイまたはそれらのディスプレイの保護板、またはそれらの表面に反射防止膜処理を施したもの。
【0137】
本発明によって得られる表面処理層を有する物品は、特に限定されるものではないが、光学部材であり得る。光学部材の例には、次のものが挙げられる:眼鏡などのレンズ;PDP、LCDなどのディスプレイの前面保護板、反射防止板、偏光板、アンチグレア板;携帯電話、携帯情報端末などの機器のタッチパネルシート;ブルーレイ(Blu−ray(登録商標))ディスク、DVDディスク、CD−R、MOなどの光ディスクのディスク面;光ファイバーなど。
【0138】
また、本発明によって得られる表面処理層を有する物品は、医療機器または医療材料であってもよい。
【0139】
表面処理層の厚さは、特に限定されない。光学部材の場合、表面処理層の厚さは、1〜30nm、好ましくは1〜15nmの範囲であることが、光学性能、表面滑り性、摩擦耐久性および防汚性の点から好ましい。
【0140】
以上、本発明の表面処理剤を使用して得られる物品について詳述した。なお、本発明の表面処理剤の用途、使用方法ないし物品の製造方法などは、上記で例示したものに限定されない。
【実施例】
【0141】
本発明の表面処理剤について、以下の実施例を通じてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、パーフルオロポリエーテルを構成する繰り返し単位(CFCFCFO)の存在順序は任意である。
【0142】
・パーフルオロポリエーテル変性メチルエステル化合物の合成
合成例1
反応器に、メタノール240gおよびトリエチルアミン19.6gを仕込み、窒素気流下、5℃で平均組成CFCFCFO(CFCFCFO)32CFCFCOFで表されるパーフルオロポリエーテル変性酸フルオライド化合物500gを滴下し、その後、室温まで昇温させて、撹拌した。続いて、パーフルオロヘキサン300gを加えて撹拌した後、分液ロートに移送し静置後、パーフルオロヘキサン層を分取した。続いて、3規定塩酸水溶液による洗浄操作を行った。次に、パーフルオロヘキサン層に無水硫酸マグネシウム30gを加えて、撹拌した後、不溶物を濾別した。続いて、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にメチルエステル基を有する下記のパーフルオロポリエーテル基含有エステル体(A)476gを得た。
・パーフルオロポリエーテル基含有メチルエステル化合物(A):
CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)32CF2CF2CO2CH3
【0143】
合成例2
・パーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物の合成
反応器に、合成例1にて合成した末端にメチルエステルを有するパーフルオロポリエーテル基含有メチルエステル化合物(A)450gを仕込み、窒素気流下、室温でアミノプロピルトリメキシシラン(NHCHCHCHSi(OCH)15.38gを滴下した後、65℃まで昇温させ撹拌した。続いて、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にトリメチルシリル基を有する下記のパーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物B)470gを得た。
・パーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物(B):
CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)32CF2CF2CONHCH2CH2CH2Si(OCH3)3
【0144】
実施例1
上記合成例2で得たパーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物(B)および上記合成例1で得たパーフルオロポリエーテル基含有メチルエステル化合物(A)を、モル比95.5:4.5で混合し、ノベック7200(スリーエム社製)に溶解させて、濃度20wt%になるように、表面処理剤1を調製した。
【0145】
上記で調製した表面処理剤1を化学強化ガラス(コーニング社製、「ゴリラ」ガラス、厚さ0.7mm)上に真空蒸着した。真空蒸着の処理条件は、圧力3.0×10−3Paとし、まず、電子線蒸着方式により二酸化ケイ素を7nmの厚さで、この化学強化ガラスの表面に蒸着させて二酸化ケイ素膜を形成し、続いて、化学強化ガラス1枚(55mm×100mm)あたり、表面処理剤2mgを蒸着させた。その後、蒸着膜付き化学強化ガラスを、温度20℃および湿度65%の雰囲気下で24時間静置した。これにより、蒸着膜が硬化して、表面処理層が形成された。
【0146】
(実施例2〜4)
化合物(B)と化合物(A)の混合比(モル比)を下記表に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、表面処理剤を調製し、表面処理層を形成した。
【0147】
【表1】
【0148】
比較例1〜3
化合物(B)と化合物(A)の混合比(モル比)を下記表に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、表面処理剤を調製し、表面処理層を形成した。
【0149】
【表2】
【0150】
比較例4
上記合成例2で得たパーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物(B)を単独で用いること以外は、実施例1と同様にして、表面処理剤を調製し、表面処理層を形成した。
【0151】
上記の実施例1〜4および比較例1〜4にて基材表面に形成された表面処理層について、消しゴム摩擦耐久試験により、摩擦耐久性を評価した。具体的には、表面処理層を形成したサンプル物品を水平配置し、消しゴム(コクヨ株式会社製、KESHI−70、平面寸法1cm×1.6cm)を表面処理層の表面に接触させ、その上に500gfの荷重を付与し、その後、荷重を加えた状態で消しゴムを20mm/秒の速度で往復させた。往復回数500回毎に水の静的接触角(度)を測定した。接触角の測定値が100度未満となった時点で評価を中止した。最後に接触角が100度を超えた時の往復回数を、表3に示す。
【0152】
【表3】
【0153】
上記の結果から、実施例1〜4では、パーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物(B)単独の比較例4よりも、高い消しゴム耐久性を有しており、パーフルオロポリエーテル基含有メチルエステル化合物(A)を加えることによる摩擦耐久性の向上効果が確認された。また、比較例1〜3では、パーフルオロポリエーテル基含有メチルエステル化合物(A)を加えてはいるが、その含有量が少ない場合は効果が得られず、過剰である場合は消しゴム耐久性が劣化することが確認された。
【0154】
本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、これは、パーフルオロポリエーテル基含有メチルエステル化合物(A)が、表面処理層作成時に、水分で加水分解されてカルボン酸へと変換され、酸性の触媒として作用し、パーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物と基材表面との反応性を向上させ、その結果、優れた消しゴム耐久性が得られたと考えられる。また、パーフルオロポリエーテル基含有メチルエステル化合物(A)が過剰な場合は、パーフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物と基材表面との反応を阻害するため、消しゴム耐久性が劣化すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明は、種々多様な基材、特に透過性が求められる光学部材の表面に、表面処理層を形成するために好適に利用され得る。