(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6631788
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】真贋判別方法および真贋判別装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20200106BHJP
B42D 25/382 20140101ALI20200106BHJP
B41M 3/14 20060101ALI20200106BHJP
G07D 7/12 20160101ALI20200106BHJP
C09D 11/02 20140101ALN20200106BHJP
【FI】
G01N21/27 B
B42D25/382
B41M3/14
G07D7/12
!C09D11/02
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-15170(P2016-15170)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2017-133988(P2017-133988A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115613
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寧司
(72)【発明者】
【氏名】澤田 隆司
(72)【発明者】
【氏名】森田 孝介
【審査官】
嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−179947(JP,A)
【文献】
特開2014−172309(JP,A)
【文献】
特開2006−268469(JP,A)
【文献】
特開2011−178009(JP,A)
【文献】
特開2010−198543(JP,A)
【文献】
特開2004−009694(JP,A)
【文献】
米国特許第06621916(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/74
B41M 3/14
B41M 5/00− 5/52
B42D 15/00−15/08
B42D 25/00−25/485
G07D 7/00− 7/207
C09D 11/00−11/54
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光線波長領域と赤外線波長領域の境界である750nm以上に分光反射率曲線または分光吸収率曲線の変曲点となるピークを有する所望のステルスインキを含有させた印刷インキを印刷してなる対象印刷物の真贋判別方法であって、
前記750nm以上の波長域で前記ステルスインキが反射または吸収特性を有する波長域の中から、反射率または吸収率が70%以上であって前記ピーク以外の波長と、その波長から50nm以上離れた波長(ピーク波長を除く)の2波長のみを選択し、その2波長における対象印刷物の反射率または吸収率と、前記ステルスインキを印刷してなるステルスインキ印刷物の反射率または吸収率とを比較して、選択した何れの波長においてもその反射率差または吸収率差が10%以内である場合に対象印刷物を真正印刷物と判別する真贋判別方法。
【請求項2】
選択する波長の一つを、前記反射率または吸収率が70%以上の波長よりも可視光線波長域から長波長側に遠ざかる側の波長とする請求項1記載の真贋判別方法。
【請求項3】
前記ステルスインキが、前記ピークを2以上有するステルスインキである請求項1記載の真贋判別方法。
【請求項4】
前記ステルスインキが、前記ピークと変曲点にはならずに前記曲線に波形に肩(膨らみ)となる第2ピークを有するステルスインキである請求項1記載の真贋判別方法。
【請求項5】
前記50nm以上離れた波長における前記所望のステルスインキ印刷物の反射率差または吸収率差が50%以上となる波長を選択する請求項1〜請求項4何れか1項記載の真贋判別方法。
【請求項6】
前記ステルスインキは、近赤外波長域に反射または吸収特性を有する赤外線ステルスインキである請求項1〜請求項5何れか1項記載の真贋判別方法。
【請求項7】
可視光線波長領域と赤外線波長領域の境界である750nm以上に分光反射率曲線または分光吸収率曲線の変曲点となるピークを有する所望のステルスインキを含有させた印刷インキを印刷してなる真正印刷物を、そのステルスインキを含有しない印刷インキを印刷してなる偽物印刷物と区別する真贋判別装置であって、
前記750nm以上の波長域で前記ステルスインキが反射または吸収特性を有する波長域の光線を照射可能な光源と、分光フィルタまたはバンドパスフィルタの何れかと、受光部と、演算処理部と、を有し、
演算処理部が、前記ステルスインキの反射または吸収特性を有する波長域の中から、
反射率または吸収率が70%以上であって前記ピーク以外の波長と、その波長から50nm以上離れた波長(ピーク波長を除く)の2波長のみを選択し、その2波長における対象印刷物の反射率または吸収率と、前記ステルスインキを印刷してなるステルスインキ印刷物のその波長における反射率または吸収率を登録したデータ値とを比較するものであり、選択した何れの波長においてもその反射率差または吸収率差が所定割合以内であるかどうかを出力するものである真贋判別装置。
【請求項8】
選択した波長と、前記ステルスインキを印刷してなるステルスインキ印刷物のその波長における反射率または吸収率とを入力する入力部と、データを記憶する記憶部と、を有する請求項7記載の真贋判別装置。
【請求項9】
前記2以上の波長と、その波長に対する所望のステルスインキの反射率または吸収率とを請求項7または請求項8の真贋判別装置に記憶させ、その記憶させた真贋判別装置で、所望のステルスインキを含有させた印刷インキを印刷してなる真正印刷物か、この所望のステルスインキを含有しない印刷インキを印刷してなる偽物印刷物かを区別する真贋判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望のステルスインキを含む印刷インキで印刷した真正印刷物をそのステルスインキを含まない印刷インキで印刷した偽物印刷物と区別するための真贋判別方法と真贋判別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高価な印刷物であるお札や金券、有価証券等では、その価値を損なわないために偽物と区別し得る偽造防止手段が施されている。良く知られている偽造防止手段としては、用紙にすかしを入れたり、線幅のとても小さな細線を施したり、磁気に反応させたり、紫外線蛍光インキを印刷することで紫外線によって絵柄を可視化させたり、赤外線を反射または吸収するインキを印刷することで赤外線による反射または吸収の程度の相違を判断したりする方法がある。そして、特に高価な印刷物については、一つの偽造防止手段だけではなく、複数の偽造防止手段が採用されている場合が多い。
【0003】
こうした高価な印刷物に限らずとも自己の印刷物を、他者が模倣した印刷物や複写物と区別する方法が求められており、簡単な手段で比較的安価に真贋判別を行うことができれば便利である。真贋判別手段の中では、特殊インキを用いる方法は汎用性が高く、中でもステルスインキを用いる方法が、肉眼による真偽の区別がつかないことから印刷物の価値を損なわずに広い用途で使うことができて大変優れている。
【0004】
ステルスインキとは、肉眼で判別可能な可視光線波長域以外の波長域に反射または吸収特性を有するインキであり、赤外線波長域に反射または吸収特性を有する赤外線ステルスインキや、紫外線波長域に反射または吸収特性を有する紫外線ステルスインキなどがあり、例えば赤外線ステルスインキに関係する技術としては、特開平7−70496号公報(特許文献1)に、赤外線領域に高い吸収性を有する一方で可視光領域では吸収性が低減するインキ組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−70496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ステルスインキを用いる方法は、可視光線波長域以外に反射や吸収があるか否かで真偽を判別し、その反射または吸収を示す波長を区別していないため、異なる種類のステルスインキが用いられている場合には、偽物でも真正印刷物として認識される可能性があった。
【0007】
一方、所望のステルスインキを用いて印刷した真正印刷物と、このステルスインキを用いないで印刷した偽物印刷物の分光反射率(または分光吸収率)を求めて、波長と光線反射率(または光線吸収率)との関係による分光反射率曲線(または分光吸収率曲線)を求めれば、得られた波形が異なるため真贋判別を行うことができる。しかしながら、可視光線波長域における反射率を全て測定することはできず、また、全てではないにしてもその中の広い領域を測定するには手間や時間がかかることや、得られた波形を機械的に分析する方法が確定されておらず、簡単にステルスインキを含む印刷物の有無を判別する方法がなかった。
【0008】
さらに、ステルスインキそれ自体についてもその技術は進歩しており、将来的にはより所望の目的にかなうステルスインキが見出される可能性があるため、特定のステルスインキに限定された真贋判別方法では意味がない。
【0009】
そこで本発明はこうした課題に鑑みなされたものであり、ある種のステルスインキを選択したならそのステルスインキを含む印刷物を真正印刷物とし、このステルスインキの含まれていない印刷物を偽物印刷物と簡単に判別できる真贋判別方法と真贋判別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は次の構成を有するものである。
[1]所望のステルスインキを含有させた印刷インキを印刷してなる対象印刷物の真贋判別方法であって、可視光線波長域以外の波長域で前記ステルスインキが反射または吸収特性を有する波長域の中から、50nm以上離れた少なくとも2以上の波長を選択し、その波長における対象印刷物の反射率または吸収率と、前記ステルスインキを印刷してなるステルスインキ印刷物の反射率または吸収率とを比較して、選択した何れの波長においてもその反射率差が10%以内である場合に対象印刷物を真正印刷物と判別する真贋判別方法である。
[2]選択する波長の一つを、前記所望のステルスインキ印刷物のピーク波長とする真贋判別方法である。
[3]選択する波長の一つを、前記所望のステルスインキ印刷物のピーク波長よりも可視光線波長域から遠ざかる側の波長とする真贋判別方法である。
[4]所望のステルスインキを含有させた印刷インキを印刷してなる対象印刷物の真贋判別方法であって、可視光線波長域以外の波長域で前記ステルスインキが反射または吸収の変曲点となるピークを2以上有するステルスインキであり、そのピークとなる波長から少なくとも2以上の波長を選択し、その波長における対象印刷物の反射率または吸収率と、前記ステルスインキを印刷してなるステルスインキ印刷物の反射率または吸収率とを比較して、選択した何れの波長においてもその反射率差または吸収率差が10%以内である場合に対象印刷物を真正印刷物と判別する真贋判別方法である。
【0011】
[5]選択する波長の一つを、前記所望のステルスインキ印刷物の反射率または吸収率が70%を超えるときの波長とする真贋判別方法である。
[6]2波長における前記所望のステルスインキ印刷物の反射率差または吸収率差が50%以上となるその2波長を選択する真贋判別方法である。
[7]選択する波長を少なくとも3以上とし、そのうちの一を前記所望のステルスインキ印刷物のピーク波長とし、他の二つをこのピーク波長よりも長波長側の波長と、短波長側の波長とする真贋判別方法である。
[8]前記ステルスインキは、近赤外波長域に反射または吸収特性を有する赤外線ステルスインキである真贋判別方法である。
【0012】
[9]所望のステルスインキを含有させた印刷インキを印刷してなる真正印刷物を、そのステルスインキを含有しない印刷インキを印刷してなる偽物印刷物と区別する真贋判別装置であって、可視光線波長域以外の波長域で前記ステルスインキが反射または吸収特性を有する波長域の光線を照射可能な光源と、分光フィルタまたはバンドパスフィルタの何れかと、受光部と、演算処理部と、を有し、演算処理部が、前記ステルスインキの反射または吸収特性を有する波長域から選択した少なくとも2以上の波長における対象印刷物の反射率または吸収率と、前記ステルスインキを印刷してなるステルスインキ印刷物のその波長における反射率または吸収率を登録したデータ値とを比較するものであり、選択した何れの波長においてもその反射率差または吸収率差が所定割合以内であるかどうかを出力するものである真贋判別装置である。
[10]選択した波長と、前記ステルスインキを印刷してなるステルスインキ印刷物のその波長における反射率または吸収率とを入力する入力部と、データを記憶する記憶部と、を有する真贋判別装置である。
[11]前記2以上の波長と、その波長に対する所望のステルスインキの反射率または吸収率とを前記真贋判別装置に記憶させ、その記憶させた真贋判別装置で、所望のステルスインキを含有させた印刷インキを印刷してなる真正印刷物か、この所望のステルスインキを含有しない印刷インキを印刷してなる偽物印刷物かを区別する真贋判別方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の真贋判別方法および真贋判別装置によれば、所望のステルスインキが含まれる印刷インキで印刷された印刷物を真正印刷物と判別し、それ以外の印刷物と簡単に区別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ステルスインキAの分光反射率曲線を表すグラフ図である。
【
図3】ステルスインキBの分光反射率曲線を表すグラフ図である。
【
図4】ステルスインキCの分光反射率曲線を表すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の真贋判別方法および真贋判別装置について、種々の実施形態を以下に挙げて詳細に説明する。なお、各実施形態において同一の操作方法や種々の条件、材質、作用、効果等について、重複する部分はその説明を省略する。
【0016】
<第1実施形態[
図1]>:
本実施形態での真贋判別方法は、例えば、
図1で示すような分光反射率曲線で表れる反射特性を備えたステルスインキAを用い、このステルスインキAを含む印刷インキで印刷した印刷物を真正印刷物、このステルスインキAを含まない印刷物を偽物印刷物と判別する方法である。
なお、反射特性とはある波長域の光線をそれ以外のベースとなる波長域の光線に比べて反射する性質をいい、吸収特性とはある波長域の光線をそれ以外のベースとなる波長域の光線に比べて吸収する性質をいう。
【0017】
ステルスインキAの分光反射率曲線で示される波形は、赤外領域である800nm付近に反射率のピークを有し、可視領域では450nm以上で反射率が10%程度と低く、650nm付近から前記ピークに向かって反射率カーブが立ち上がる性質を備えたものである。波形の近赤外領域に着目するとピークにおける反射率が約90%である。また、一般に可視光線領域と赤外線領域の境界といわれる750nmでの反射率が約70%であり、900nmでは約30%に反射率は低下する。
なおここでは、ステルスインキAを単独で透明樹脂フィルム上に印刷した際の分光反射率曲線を示す。
【0018】
イエロー、シアン、マゼンタからなる通常のプロセスインキとスミインキ、必要により特色インキを用い所望のカラー印刷物を得ることができる印刷インキにおいて、このステルスインキAはこれらのうちの一色または複数色のインキに混合して使用されたり、ステルスインキA単独で使用されたりする。そのため、真正印刷物は、これらのプロセスインキ等とステルスインキAが混じった分光反射率波形を有することとなる。そのため、反射率を測定する測定点におけるこれらのインキの混ざり具合によって、分光反射率波形は種々に変化することになる。
【0019】
しかしながら、ステルスインキA以外のプロセスインキ等は一般に近赤外領域などの可視光線波長域以外の波長域に特徴的なピークを有しないため、近赤外領域ではプロセスインキ等の影響を受け難い。したがって、対象印刷物が真正印刷物であれば、近赤外領域における反射率はステルスインキAの反射率に近似した値となる。
【0020】
一方、偽物印刷物の場合は、通常のプロセスインキ等だけで印刷される場合と、これらにステルスインキA以外のステルスインキが含まれる場合がある。
まず、何のステルスインキも含まない場合であれば、近赤外領域のピークは表れず、ステルスインキAに起因する反射率は得られないため、近赤外領域での波形の相違で真贋判別を行うことができる。次に、ステルスインキA以外のステルスインキが含まれる場合は、近赤外領域に何らかのピークを有する可能性がある。しかしながら、ステルスインキAの有するピークとは異なるため、やはり近赤外領域における波形は真正印刷物とは異なるものとなる。
【0021】
したがって、ステルスインキAでは、近赤外領域における波形の相違をみれば真正印刷物と偽物印刷物の区別ができることとなる。しかしながら、近赤外領域全体の波長に対する反射率を測定してその関係を描くことは効率的ではない。そこで本発明では近赤外領域から何らかの波長を選択し、その波長における反射率の相違により真贋判別を行うことを試みた。そして、ステルスインキAが反射特性を有する近赤外波長域の中から少なくとも2波長を選択してその反射率の相違をみれば、紫外線波長域や可視光線波長域、赤外線波長域を含む広い範囲の波長域の反射率を比較しなくても真正印刷物と偽物印刷物との区別が可能であることを見出した。
【0022】
但し、2波長間の間隔が狭いと両波長の間での数値の相違が小さく誤差が生じ易いことから2波長間は少なくとも50nm以上離れている波長を選択する。また、それぞれの波長において、真正印刷物と偽物印刷物の反射率の差(以下「反射率差」)は10%以下であるものとする。
プロセスインキ等に対するステルスインキの割合や、プロセスインキ等の種類、他のステルスインキとの混合等によりステルスインキAだけの場合に比べて反射率が変化するため、10%程度の反射率差を許容しないと真正印刷物を偽物印刷物と判別してしなう場合が生じるからである。また、10%よりも大きければ偽物印刷物を真正印刷物と明らかに区別し得るからである。
【0023】
本実施形態では、800nmと900nmでの印刷物の反射率を測定することとする。800nmと900nmの2波長を選択したのは、まず800nmがピークを示す波長であり、ピークではそのステルスインキAで最も反射率が高いため、他のステルスインキの反射率と同じになる可能性は低くなり、判別の精度が高まるからである。そして900nmを選択したのは、ピークに対して長波長側の波長は短波長側に比べて可視光線波長域から遠ざかるため、プロセスインキ等による反射率の干渉の影響が少なく、プロセスインキ等の混合による反射率変化が生じにくいからである。また、900nmでの反射率が約30%であり、ピークの約90%に比べて60%も低下しているため、2波長間の反射率差を大きくすることができ、ステルスインキAの反射率変化の特徴を捉えた2点となるからである。
【0024】
図2は、印刷物の真贋判別を行う真贋判別装置の概略構成図である。真贋判別装置11は、照射部12と、分光フィルタ13aまたはバンドパスフィルタ13bと、受光部14と、演算処理部15と、入力部16と、記憶部17とを有する。照射部12は、可視光線波長域以外の波長域で前記ステルスインキが反射または吸収特性を有する波長域の光線を少なくとも照射可能なLEDやレーザー等からなる光源である。分光フィルタ13は、照射部12からの光を分光し所望の波長の光を印刷物に照射できるようにするものである。即ち、予め所望の波長の光のみを選択して照射する場合に役立つ。またバンドパスフィルタ13bは照射部12から波長を絞らずに印刷物に光を照射し、その反射光または透過光から光を透過させて所望の波長の光を得るフィルタである。
【0025】
受光部14は、印刷物からの光を受光する部位である。入力部16は、所望の測定波長と、その波長におけるステルスインキAを印刷してなるステルスインキ印刷物の反射率を人手によって入力するための部位である。記憶部17は、その入力された波長や反射率データを記憶したり、測定データや演算処理部15で処理するデータを記憶したりする部位である。
演算処理部15は、演算処理装置等からなり、所望のステルスインキ(本実施形態ではステルスインキA)の反射または吸収特性を有する波長域から選択した少なくとも2以上の波長での印刷物の反射率を計測し、この反射率と、所望のステルスインキを印刷してなるステルスインキ印刷物のその波長における反射率を登録したデータ値とを比較して、選択した波長においてその反射率差が所定割合以内であるか否かを出力するものである。そして、対比する波長において反射率差が10%以内である場合にはその印刷物を真正印刷物と判別する。
【0026】
この真贋判別方法および真贋判別装置11によれば、ステルスインキの中から任意のステルスインキAを選択すれば、そのステルスインキAの反射特性を真贋判別装置11に記憶することで、ステルスインキAを含む印刷インキで印刷した印刷物を真正印刷物とし、ステルスインキAを含まない印刷インキで印刷した印刷物を偽物印刷物と容易に判別することができる。
【0027】
例えば本実施形態の例では、真贋判別装置11により対象印刷物の800nmおよび900nmにおける反射率を測定し、800nmでの反射率が82%、900nmでの反射率が25%であるとする。この場合、ステルスインキA印刷物の800nmでの反射率が90%、900nmでの反射率が30であることから、800nmでの反射率差が9%であり、900nmの反射率差が5%となる。よって、800nmと900nmの2波長での反射率差がともに10%以下となるので、この対象印刷物は真正印刷物と判別できる。
一方、これとは別の対象印刷物の800nmでの反射率が75%、900nmでの反射率が30%であるとする。この場合、800nmでの反射率差は15%、900nmでの反射率差は0%となる。よって、800nmでの反射率差が10%を超えるため、この対象印刷物は偽物印刷物と判別できる。
【0028】
<変形例1−1[
図3]>:
真贋判別に用いる特殊インキとしてステルスインキAの代わりに例えば、
図3で示すような反射特性を有するステルスインキBを用いた場合について説明する。
ステルスインキBの分光反射率波形は、赤外領域である820nm付近と可視光領域との境界である750nm付近の2つに反射率が同程度の二つのピークを有し、可視領域では450nm以上で反射率が10%程度と低く、590nm付近から前記ピークに向かって反射率カーブが立ち上がる性質を備えたものである。2つのピークにおける反射率はともに約90%である。また、900nmでは約30%に反射率は低下する。
【0029】
本変形例では、2つのピークの820nm付近と750nm付近での印刷物の反射率を測定することとする。ピークではそのステルスインキBで最も反射率が高いため、他のステルスインキの反射率と同じになる可能性は低くなり、そうしたピークとなる2つの波長を選択したので判別の精度が高まるからである。
【0030】
ステルスインキBのように2以上のピークがあり、またその2以上のピークでの波長を選択した場合は、その2波長の間隔は50nm未満とすることが可能である。ピークを2以上有することはそれ自体が特徴的であり、そのピークとなる波長の間隔が50nm未満であっても別のステルスインキの存在と区別し得るからである。
印刷物が真正印刷物であれば、反射率を測定する820nmと750nmでの反射率差が10%以内となり、この数値外になれば偽物印刷物と判断できる。
【0031】
図3で示すステルスインキBは近赤外領域に変曲点となるきれいな2つのピークのみを有するステルスインキであるが、ピークを複数個有するステルスインキの場合には、反射率が最大となるピーク波長から順に選択することが好ましい。ピーク高さが高いものほどそのステルスインキの特徴を示しているからである。
【0032】
<変形例1−2[
図4]>:
真贋判別に用いる特殊インキとしてステルスインキAの代わりに例えば、
図4で示すような反射特性を有するステルスインキCを用いた場合について説明する。
ステルスインキCの分光反射率波形は、赤外領域である820nm付近に最も反射率の大きな第1ピークを有し、可視光領域との境界である750nm付近に変曲点にはならないまでも波形に
肩(膨らみ)となる第2ピークを有する。可視領域では450nm以上で反射率が10%程度と低く、600nm付近から前記第2ピークに向かって反射率カーブが立ち上がる性質を備えたものである。波形の片における反射率が約78%であり、第1ピークにおける反射率は約90%である。また、900nmでは約30%に反射率は低下する。
【0033】
本変形例では、片となる750nmと近赤外領域での最も高いピークとなる820nmでの印刷物の反射率を測定することとする。波形の片の部分では変曲点にならなくてもそのステルスインキCで反射率が高い部分であり、他のステルスインキの反射率と同じになる可能性は低く判別の精度が高いからである。
印刷物が真正印刷物であれば、ピークとなる820nmや片となる750nmでの反射率差は10%以内に収まり、この数値外になる場合は偽物印刷物と判断できる。
【0034】
<変形例1−3>:
上記各例では、ステルスインキが示す分光反射率曲線の波形においてピークとなる波長を選択したが、こうしたピークとなる波長を選択する場合でもしない場合でも、少なくとも一の選択する波長は、その波長における反射率が70%以上となる波長を選択することが好ましい。
【0035】
例えば、
図1におけるステルスインキAを用いた場合において、選択する一の波長を780nmとし、選択するもう一つの波長を880nmとする。波長780nmを選択すれば、その波長での反射率は80%を超えるからである。
反射率が70%以上となる波長を少なくとも一つ選択することとしたのは、その波長では反射率が70%以上と高いため、ピークに近く、他のステルスインキの反射率と同じになる可能性は低くなり、判別の精度が高まるからである。
【0036】
<変形例1−4>:
上記各例では、真贋判別に用いるステルスインキの有する波形の特徴に基づいて2波長を選択したが、2波長の選択の仕方は上記例に限定されるものではない。ステルスインキA〜Cの何れにおいても、あるいは他のステルスインキにおいても、赤外領域から波長間の間隔が50nm以上である任意の2波長を選択してその2波長における反射率を測定することで真贋を判別することができる。
【0037】
ここでは選択した2波長が、用いるステルスインキの波形の状態によらないため、偽物印刷物に用いられるステルスインキの種類によっては真贋判別の精度が若干悪化するが、2波長を自由に選択できるため、例えばステルスインキDを含む印刷物を真正印刷物と判断した次に、ステルスインキEを含む印刷物を真正印刷物と判断したいような場合に、真贋判別装置11の設定波長の選択を変更しないで済ませることができるというメリットも有する。
【0038】
<第2実施形態[
図1]>:
第1実施形態では、真贋判別のために2波長での反射率を測定したが、本実施形態では可視光線波長域以外の波長域で所望のステルスインキが反射または吸収特性を有する波長域の中から選択した3波長での反射率を測定するものであり、
図1で示した反射特性を有するステルスインキAを含む印刷インキを用いて説明する。
ステルスインキAの分光反射率波形は既に説明したとおりであり、800nm付近で反射率が約90%となるピークを有し、750nmでの反射率が約70%であり、900nmでの反射率は約30%である。
【0039】
そこで、このうちのピークをとる800nmと、可視光線との干渉が少なくステルスインキの反射率が反映されやすい900nmと、可視光線領域と赤外線領域の境界となる750nmとの3波長の反射率を測定することで真贋の判定を行う。
本実施形態では、ピークとなる波長を挟んでその両側の波長を含む3波長での反射率を測定することとしたため、反射率のピーク形状を特定し易い。そのため、より比較の程度が高まり精度の高い真贋判別を行うことができる。
【0040】
選択する3波長のうちの少なくとも一の2波長間の間隔は50nm以上離れていることが好ましい。2波長間の間隔が狭いと両波長の間での数値の相違が小さく誤差が生じ易いからである。
3波長のうちの任意の2波長での反射率差が10%以内であれば真正印刷物と判別でき、この数値外になる場合は偽物印刷物と判断できる。また、3波長とも反射率差が10%以内であれば真正印刷物である可能性はより高くなる。
【0041】
<変形例2−1>:
ステルスインキB、Cおよびそれ以外のステルスインキであっても、何れか一のピークをとる波長と、それ以外の2波長との3波長を選択し、その3波長での反射率を測定することができる。
この場合も、3波長のうちの任意の2波長での反射率差が10%以内であれば真正印刷物と判別でき、この数値外になる場合は偽物印刷物と判断できる。また、3波長とも反射率差が10%以内であれば真正印刷物である可能性はより高くなる。
【0042】
<変形例2−2>:
上記例で示した3波長の選択方法以外の選択方法としては、ステルスインキのピークの有無にかかわらず、またそのピークがあったとしてもそのピーク波長以外の3波長を選択することができる。即ち、ステルスインキA〜Cの何れにおいても、あるいは他のステルスインキにおいても、赤外領域からピークを含まない任意の3波長を選択してその3波長における反射率を測定することで真贋を判別する。
【0043】
この場合も、3波長のうちの任意の2波長での反射率差が10%以内であれば真正印刷物と判別でき、この数値外になる場合は偽物印刷物と判断できる。また、3波長とも反射率差が10%以内であれば真正印刷物である可能性はより高くなる。
【0044】
上記実施形態は本発明の一例であり、こうした形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に反しない限度において、種々の変更や置換を行い得るものである。
例えば、上記実施形態で例示したステルスインキは何れも赤外線域に反射特性を有する赤外線ステルスインキであったが、これ以外のステルスインキを所望のステルスインキとして用いることができる。例えば、紫外線域に反射または吸収特性を有する紫外線ステルスインキでも良く、この場合は紫外線域から2以上の波長を選択することになる。
【0045】
また、上記実施形態での例示は赤外線ステルスインキの反射特性から説明したが、特定波長の光線に対する吸収特性(あるいは透過特性)から、反射特性と同様に説明することができる。即ち、所望のステルスインキの吸収特性のある波長域から2以上の波長を選択することができる。
【符号の説明】
【0046】
11 真贋判別装置
12 照射部
13a 分光フィルタ
13b バンドパスフィルタ
14 受光部
15 演算処理部
16 入力部
17 記憶部