【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
ビーカー中で、FeCl
3・6H
2O(27.30g、101mmol)とZn(NO
3)
2・6H
2O(1.25g、4.20mmol)とをイオン交換水(500ml)に溶解し、Feイオン濃度が0.2mol/Lの金属イオン含有原料水溶液(原料溶液A)を調製した。また、ビーカー中で、イオン交換水で1/2に希釈したエチレンジアミン溶液(11ml)をイオン交換水(500ml)に溶解し、中和剤含有原料水溶液(原料溶液B)を調製した。原料溶液AとBとをビーカー中で、室温(25℃)下、撹拌子を用いたマグネティックスターラー(回転速度:400rpm)で混合しながら30分間撹拌し、鉄化合物のコロイド溶液を作製した。pHメーターを用いて、得られたコロイド溶液のpHを測定したところ、2.2であった。
【0044】
(実施例2)
Zn(NO
3)
2・6H
2Oの代わりにCo(NO
3)
2・6H
2O(1.22g、4.19mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。得られたコロイド溶液のpHは2.2であった。
【0045】
(実施例3)
Zn(NO
3)
2・6H
2Oの代わりにNi(NO
3)
2・6H
2O(1.21g、4.16mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。得られたコロイド溶液のpHは2.2であった。
【0046】
(実施例4)
Zn(NO
3)
2・6H
2Oの代わりにMn(NO
3)
2・6H
2O(1.21g、4.22mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。得られたコロイド溶液のpHは2.4であった。
【0047】
(実施例5)
Zn(NO
3)
2・6H
2Oの代わりにCrCl
3・6H
2O(1.21g、4.54mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。得られたコロイド溶液のpHは2.5であった。
【0048】
(実施例6)
Zn(NO
3)
2・6H
2Oの代わりにAl(NO
3)
2・9H
2O(1.56g、4.16mmol)を用いた以外は、実施例1と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。得られたコロイド溶液のpHは2.4であった。
【0049】
(比較例1)
Zn(NO
3)
2・6H
2Oを用いなかった以外は、実施例1と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。得られたコロイド溶液のpHは2.4であった。
【0050】
(比較例2)
Hyperfine Interact、2014年、第224巻、第239〜250頁に記載の方法に従って、Coドープβ−FeOOH粉末を調製した。すなわち、精製水(100ml)中に、FeCl
3・6H
2O(2.69g、9.95mmol)、CoCl
2・6H
2O(0.298g、1.25mmol)及び尿素(2.40g、40.0mmol)を添加し、室温(25℃)下、撹拌子を用いたマグネティックスターラー(回転速度:400rpm)で10分間撹拌して溶解させた。pH試験紙を用いて、得られた溶液のpHを測定したところ、約1であった。この溶液をテフロン(登録商標)製の容器に移し、密閉後、70℃の温度下に48時間放置した。生成した沈殿物をろ過により回収し、精製水を用いてろ過洗浄を何度も繰り返した。得られた固体成分を40℃で48時間乾燥させた後、乳鉢で粉砕して鉄化合物粉末を得た。
【0051】
(比較例3)
ビーカー中で、Ni(NO
3)
2・6H
2O(1.25g、4.20mmol)をイオン交換水(500ml)に溶解し、Niイオン含有原料水溶液(原料溶液A、Feイオン濃度:0mol/L)を調製した。また、原料溶液Bとして、0.01mol/Lの塩酸(500ml)を調製した。原料溶液AとBとをビーカー中で、室温(25℃)下、撹拌子を用いたマグネティックスターラー(回転速度:400rpm)で混合しながら30分間撹拌した。pHメーターを用いて、得られた溶液のpHを測定したところ、2.3であった。
【0052】
(比較例4)
ビーカー中で、FeCl
3・6H
2O(27.30g、101mmol)とNi(NO
3)
2・6H
2O(1.25g、4.20mmol)とをイオン交換水(500ml)に溶解し、Feイオン濃度が0.2mol/Lの金属イオン含有原料水溶液を調製した。この金属イオン含有原料水溶液を、室温(25℃)下、撹拌子を用いたマグネティックスターラー(回転速度:400rpm)で30分間撹拌し、鉄化合物のコロイド溶液を作製した。得られたコロイド溶液のpHは1.7であった。
【0053】
(比較例5)
ビーカー中で、イオン交換水で1/2に希釈したエチレンジアミン溶液(11ml)をイオン交換水(500ml)に溶解し、エチレンジアミン水溶液を調製した。このエチレンジアミン水溶液を、室温(25℃)下、撹拌子を用いたマグネティックスターラー(回転速度:400rpm)で30分間撹拌した。
【0054】
<鉄化合物粒子の特性評価>
(i)平均粒子径測定
実施例及び比較例で得られた溶液について、微粒子粒度分布測定装置(日機装(株)製「ナノトラックUPA250EX」、レーザー波長:780nm、測定範囲:0.8〜6000nm)を用いて動的光散乱法により粒度分布を測定し、算出した体積平均径(MV)を鉄化合物粒子の平均粒子径とした。その結果を表1に示す。なお、比較例2で得られた鉄化合物粉末は溶液中で沈降したため、粒度分布の測定は困難であった。また、比較例3で得られた溶液では、上記の測定範囲において粒度分布が得られなかった。
【0055】
(ii)X線回折測定
カーボンペーパー上に、実施例及び比較例で得られた溶液を滴下して自然乾燥させた後、水及び0.1MのKOH水溶液を用いて洗浄して測定用試料を作製した。なお、比較例2で得られた鉄化合物粉末はそのまま測定用試料として使用した。これらの測定用試料について、粉末X線回折装置((株)リガク製「Ultima IV」)を用いて、管電圧:40kV、管電流:40mA、X線:CuKα線(波長λ=1.5418Å)の条件でX線回折(XRD)測定を行なった。
図1には、実施例3、比較例1及び比較例3で得られた溶液を用いて作製した測定用試料のX線回折パターンを示す。また、得られたX線回折パターンにおいて、β−FeOOH結晶相に由来するピークの有無を確認するとともに、結晶相に由来するピーク比から、結晶性鉄化合物中のβ−FeOOH結晶相の割合を算出した。さらに、結晶相に由来するピークの半値幅からシェラーの式を用いて結晶子径を求めた。それらの結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
図1に示した結果から、Feイオンを用いて調製したコロイド溶液(実施例3及び比較例1)は、Niドープの有無にかかわらず、β−FeOOH結晶相を有する鉄化合物粒子を含有するものであることがわかった。また、これら鉄化合物粒子には、その他の鉄化合物(α−FeOOH、γ−FeOOH、Fe
2O
3等)の結晶相に由来するピークは見られなかった。一方、Niイオンのみを用いて調製した溶液(比較例3)では、結晶相の存在を示すピークが見られなかった。
【0058】
表1に示した結果から、Feイオンを用い、pH2.2〜2.5の範囲内で調製したコロイド溶液(実施例1〜6及び比較例1)は、ドーパントの有無にかかわらず、11〜19nmの平均粒子径を有する鉄化合物粒子を含有するものであることがわかった。また、これらの鉄化合物粒子においては、結晶相のすべてがβ−FeOOH結晶相であり、結晶子径は6〜10nmであることがわかった。
【0059】
一方、比較例2で得られた鉄化合物粉末は、溶液中で完全に沈降するほど粒子径が大きいものであった。また、この鉄化合物粉末の結晶相はすべてβ−FeOOH結晶相であったが、実施例1〜6で得られた鉄化合物粒子の6倍以上の結晶子径(64nm)を有するものであった。また、Niイオンのみを用いて調製した溶液(比較例3)では、粒度分布が得られず、さらに、X線回折パターンにおいて結晶相の存在を示すピークが見られなかったことから、ニッケル化合物粒子は生成せず、Niイオンがそのまま存在していると推察される。また、中和剤を用いずにpH1.7で調製したコロイド溶液(比較例4)は、実施例1〜6で得られた鉄化合物粒子とほぼ同等の平均粒子径(11nm)を有する鉄化合物粒子を含有するものであった。さらに、この鉄化合物粒子においては、X線回折パターンにおいて結晶性の鉄化合物の存在を示すピークが見られなかった。なお、エチレンジアミン水溶液(比較例5)においては、コロイド粒子及び結晶性化合物が存在しないことを併せて確認した。
【0060】
(iii)電子顕微鏡観察
実施例及び比較例で得られたコロイド溶液中の鉄化合物粒子を、透過電子顕微鏡(日本電子(株)製「JEM−2100F」)を用いてSTEM観察を行なった。
図2及び
図3には、それぞれ実施例1及び比較例1で得られた鉄化合物粒子のSTEM像を示す。
図2及び
図3に示した結果から、Feイオンを用い、pH2.2〜2.5の範囲内で調製した鉄化合物粒子(実施例1及び比較例1)は、ドーパントの有無にかかわらず、細長い形状を有するものであることがわかった。
【0061】
(iv)エネルギー分散型X線分析
カーボンペーパー上に、実施例で得られたコロイド溶液を滴下して自然乾燥させた後、水及び0.1MのKOH水溶液を用いて洗浄して測定用試料を作製した。この測定用試料について、走査電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ社製「SU3500型」)を用いてSEM観察及びEDXマッピングを行なった。
図4には、実施例3で得られたコロイド溶液を用いて作製した測定用試料のSEM像及びEDXマッピング結果を示す。ニッケルのEDXマッピング結果から、Niは局在化しておらず、鉄化合物内に均一に分布していることがわかった。なお、SEM像中の繊維状のものは、炭素のEDXマッピング結果から、カーボンペーパーのカーボン繊維であることが確認された。
【0062】
(v)酸化触媒活性評価
カーボンペーパー上に、実施例及び比較例で得られたコロイド溶液を滴下して自然乾燥させた後、水及び0.1MのKOH水溶液を用いて洗浄して測定用試料を作製した。この測定用試料を作用極として
図5に示す酸化触媒活性評価装置に装着した(
図5中のS)。対極Cとして白金線、参照極RとしてAg/AgCl、溶液として0.1MのKOH水溶液(pH12.8)を用いて電流電位曲線を求めた。このとき、電流値が安定するまで、掃引を複数回繰り返した。
【0063】
図6には、実施例1〜3、6及び比較例1で得られたコロイド溶液を用いて作製した測定用試料の電流電位曲線を示す。
図6に示した結果から、水の酸化反応に起因するアノード電流の立ち上がり電位は、添加した金属元素の種類によって異なることがわかった。また、得られた電流電位曲線に基づいて、電流密度が0.5mA/cm
2、2mA/cm
2、5mA/cm
2の場合の電位(E、単位:V vs.RHE)を求めた。その結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示した結果から、Fe以外の金属元素がドープされた平均粒子径及び結晶子径が小さい鉄化合物粒子(実施例1〜6)は、金属元素がドープされていない鉄化合物粒子(比較例1)や平均粒子径及び結晶子径が大きいCo元素ドープ鉄化合物粉末(比較例2)に比べて、低い電圧で電流が流れることがわかった。特に、Co元素(実施例2)、Ni元素(実施例3)、又はAl元素(実施例6)がドープされた鉄化合物粒子は、より低い電圧で電流が流れることがわかった。また、Ni元素がドープされた鉄化合物粒子(実施例3)は、0.5〜5.0mA/cm
2の広範囲にわたって、金属元素がドープされていない鉄化合物粒子(比較例1)に比べて過電圧が100〜110mV低下しており、優れた電気化学触媒であることがわかった。さらに、Al元素がドープされた鉄化合物粒子(実施例6)は、電流の立ち上がりの傾きが大きく、酸化触媒として優れていることがわかった。
【0066】
(実施例7)
Ni(NO
3)
2・6H
2Oの量を0.59g(2.03mmol)に変更した以外は、実施例3と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。得られたコロイド溶液のpHは2.2であった。
【0067】
(実施例8)
Ni(NO
3)
2・6H
2Oの代わりにNiCl
2・8H
2O(0.99g、4.20mmol)を用いた以外は、実施例3と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。得られたコロイド溶液のpHは2.2であった。
【0068】
(実施例9)
Ni(NO
3)
2・6H
2Oの量を2.53g(8.70mmol)に変更した以外は、実施例3と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。得られたコロイド溶液のpHは2.3であった。
【0069】
(実施例10)
Ni(NO
3)
2・6H
2Oの量を5.54g(19.1mmol)に変更した以外は、実施例3と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。得られたコロイド溶液のpHは2.4であった。
【0070】
<鉄化合物粒子の特性評価>
得られたコロイド溶液を用いて、前述した方法に従って、鉄化合物粒子の平均粒子径測定、X線回折測定、酸化触媒活性評価を行い、また、下記の方法に従って、ICP発光分光分析を行なった。それらの結果を表3に示す。
【0071】
(vi)ICP発光分光分析
カーボンペーパー上に、実施例及び比較例で得られたコロイド溶液を滴下してコロイド粒子を担持させた測定用試料について、ICP発光分光分析装置((株)リガク製「CIROS−120 EOP」)を用いてICP発光分光分析を行い、Fe以外の金属元素とFe元素との原子比(Fe以外の金属元素/Fe元素)を求めた。
【0072】
【表3】
【0073】
表3に示した結果から、Niの添加量を変化させた場合でも、12〜37nmの平均粒子径を有する鉄化合物粒子が得られることがわかった。また、Niの添加量が4mol%以下では、Ni添加量が増加するにつれて、より低い電圧で電流が流れ、酸化触媒活性が向上することがわかったが、Ni添加量が約4mol%を超え、約19mol%の範囲では、それ以上の過電圧の低下はほとんど見られなかった。
【0074】
また、得られた鉄化合物粒子におけるNi/Fe原子比は、0.012(実施例3)、0.003(実施例7)、0.016(実施例8)、0.020(実施例9)、0.029(実施例10)であった。Ni
2+の水酸化物の析出pHが6.2以上であり、Fe
3+の水酸化物の析出pHが2.5〜2.1であることを考慮すると、添加したNiイオンの29at%(実施例3)、15at%(実施例7)、38at%(実施例8)、23at%(実施例9)、15at%(実施例10)がβ−FeOOH結晶相生成時に取り込まれたと推察される。
【0075】
(実施例11)
コロイド溶液のpHが2.6となるようにエチレンジアミンの量を変更した以外は、実施例3と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。
【0076】
(実施例12)
コロイド溶液のpHが2.8となるようにエチレンジアミンの量を変更した以外は、実施例3と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。
【0077】
(比較例6)
コロイド溶液のpHが1.6となるようにエチレンジアミンの量を変更した以外は、実施例3と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。
【0078】
(比較例7)
コロイド溶液のpHが6.8となるようにエチレンジアミンの量を変更した以外は、実施例3と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。
【0079】
(比較例8)
コロイド溶液のpHが8.1となるようにエチレンジアミンの量を変更した以外は、実施例3と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。
【0080】
<鉄化合物粒子の特性評価>
得られたコロイド溶液を用いて、前述した方法に従って、鉄化合物粒子の平均粒子径測定、X線回折測定、酸化触媒活性評価を行なった。その結果を表4に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
表4に示した結果から、鉄化合物粒子の平均粒子径、結晶相の種類、結晶子径は、コロイド溶液のpHに依存することがわかった。すなわち、コロイド溶液のpHが2.2〜2.8の場合(実施例3、11〜12)には、平均粒子径が13〜230nm、結晶子径が5〜6nmであり、結晶相のすべてがβ−FeOOH結晶相である鉄化合物粒子が得られた。一方、コロイド溶液のpHが1.6の場合(比較例6)には、平均粒子径が11nmの鉄化合物粒子が得られるものの、この鉄化合物粒子には結晶相が存在しなかった。また、コロイド溶液のpHが6.8の場合(比較例7)には、平均粒子径が770nm、結晶子径が26nmであり、結晶相のすべてがα−FeOOH結晶相である鉄化合物粒子が得られ、β−FeOOH結晶相を含有する鉄化合物粒子は得られなかった。さらに、コロイド溶液のpHが8.1の場合(比較例8)には、平均粒子径が1200nm、結晶子径が24nmであり、結晶相がα−FeOOH結晶相及びα−Fe
2O
3である鉄化合物粒子が得られ、β−FeOOH結晶相を含有する鉄化合物粒子は得られなかった。
【0083】
また、コロイド溶液のpHが2.2〜2.8の範囲で調製した鉄化合物粒子(実施例3、11〜12)は、コロイド溶液のpHが1.8未満又は5.0を超える範囲で調製した鉄化合物粒子(比較例6〜8)に比べて、低い電圧で電流が流れ、酸化触媒活性に優れていることがわかった。
【0084】
(実施例13)
エチレンジアミンの代わりにアンモニアを用いた以外は、実施例3と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。得られたコロイド溶液のpHは2.1であった。
【0085】
(実施例14)
エチレンジアミンの代わりに水酸化ナトリウムを用いた以外は、実施例3と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。得られたコロイド溶液のpHは2.1であった。
【0086】
(実施例15)
エチレンジアミンの代わりにモノエタノールアミンを用いた以外は、実施例3と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。得られたコロイド溶液のpHは2.2であった。
【0087】
<鉄化合物粒子の特性評価>
得られたコロイド溶液を用いて、前述した方法に従って、鉄化合物粒子の平均粒子径測定、X線回折測定、ICP発光分光分析、酸化触媒活性評価を行なった。その結果を表5に示す。
【0088】
【表5】
【0089】
表5に示した結果から、中和剤の種類を変更した場合(実施例3、13〜15)でも、13〜17nmの平均粒子径を有する鉄化合物粒子が得られることがわかった。さらに、中和剤の種類によって、2.0mA/cm
2における電位が異なり、酸化触媒活性は中和剤の種類に依存するが、いずれの中和剤を用いた場合(実施例3、13〜15)でも、Niをドープすることによって、金属元素がドープされていない鉄化合物粒子(比較例1)に比べて、低い電圧で電流が流れ、酸化触媒活性が向上することがわかった。また、エチレンジアミン単独をカーボンペーパーに担持した場合(比較例5)には、2.0mA/cm
2における電位が極めて高く、中和剤は酸化触媒活性をほとんど示さない。したがって、実施例で得られた鉄化合物粒子においては、金属元素がドープされたβ−FeOOH結晶相が酸化触媒活性に寄与していると推察される。
【0090】
また、得られた鉄化合物粒子におけるNi/Fe原子比は、0.021(実施例13)、0.038(実施例14)、0.030(実施例15)であった。これらの値は、添加したNiイオンの51at%(実施例13)、92at%(実施例14)、73at%(実施例15)がβ−FeOOH結晶相にドープされたことを示している。Ni
2+の水酸化物の析出pHが6.2以上であり、Fe
3+の水酸化物の析出pHが2.5〜2.1であることを考慮すると、添加したNiイオンの51at%(実施例13)、92at%(実施例14)、73at%(実施例15)がβ−FeOOH結晶相生成時に取り込まれたと推察される。
【0091】
(vii)水分解活性評価
カーボンペーパー上に、実施例及び比較例で得られたコロイド溶液を滴下して自然乾燥させた後、水及び0.1MのKOH水溶液を用いて洗浄して測定用試料を作製した。この測定用試料を作用極として用い、密閉型セル中、アルゴン雰囲気下で水の分解反応を行なった。対極Cとして白金線、参照極RとしてAg/AgCl、溶液として0.1MのKOH水溶液(pH12.8)を用いた。+0.6V(vs.Ag/AgCl、RHE換算で1.58V相当)の電圧を印加し、生成物をガスクロマトグラフにより定量した。その結果を
図7及び
図8に示す。
【0092】
図7に示したように、Ni元素がドープされた鉄化合物粒子(実施例3)においては、水素と酸素とがほぼ化学量論比で経時的に生成し、電流効率はほぼ100%に達した。このことから、鉄化合物粒子による水の酸化反応により鉄化合物粒子上では酸素が生成し、同時に生成した電子が対極のPt上でプロトンと反応して水素を生成することによって、水の分解反応が進行していることがわかった。一方、
図8に示したように、金属元素がドープされていない鉄化合物粒子(比較例1)においては、水の分解反応はわずかに進行するものの、反応開始3時間後の酸素の生成量は、Ni元素がドープされた鉄化合物粒子(実施例3)の約1/15であり、触媒活性は極めて低いことがわかった。
【0093】
また、
図9には、前記水の分解反応中の電流密度の経時変化を示す。
図9に示したように、Ni元素がドープされた鉄化合物粒子(実施例3)においては、4時間の電圧印加の間に電流密度が安定で若干上昇する傾向にあるのに対して、金属元素がドープされていない鉄化合物粒子(比較例1)においては、3時間の電圧印加の間に電流密度が徐々に低下した。この結果から、金属元素がドープされた鉄化合物粒子は触媒活性の安定性にも優れていることがわかった。
【0094】
(実施例16)
Ni(NO
3)
2・6H
2Oの量を7.28g(25.0mmol)に変更した以外は、実施例3と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。得られたコロイド溶液のpHは2.1であった。
【0095】
(実施例17)
Ni(NO
3)
2・6H
2Oの量を14.55g(50.0mmol)に変更した以外は、実施例3と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。得られたコロイド溶液のpHは2.1であった。
【0096】
(実施例18)
Ni(NO
3)
2・6H
2Oの量を21.83g(75.1mmol)に変更した以外は、実施例3と同様にして鉄化合物のコロイド溶液を作製した。得られたコロイド溶液のpHは2.2であった。
【0097】
<鉄化合物粒子の特性評価>
得られたコロイド溶液を用いて、前述した方法に従って、鉄化合物粒子の平均粒子径測定、X線回折測定、ICP発光分光分析を行なった。それらの結果を表6に示す。また、得られたコロイド溶液を用いて、前述した方法に従って、鉄化合物粒子の酸化触媒活性評価を行なった。
図10には、実施例16〜18で得られたコロイド溶液を用いて作製した測定用試料の電流電位曲線を示す。得られた電流電位曲線に基づいて、電流密度が2mA/cm
2の場合の電位(E、単位:V vs.RHE)を求めた。その結果を表6に示す。さらに、得られたコロイド溶液を用いて、前述した方法に従って、鉄化合物粒子の水分解活性評価を行なった。その結果を
図11に示す。
【0098】
【表6】
【0099】
表6に示した結果から、Niの添加量を20mol%以上に増加させた場合(実施例16〜18)でも、9〜11nmの平均粒子径を有する鉄化合物粒子が得られることがわかった。また、これらの鉄化合物粒子においては、結晶相のすべてがβ−FeOOH結晶相であり、結晶子径は4〜5nmであり、Ni/Fe原子比は0.11〜0.38であることがわかった。さらに、これらの鉄化合物粒子は、金属元素がドープされていない鉄化合物粒子(比較例1)に比べて、低い電圧で電流が流れ、過電圧が160〜210mV低下しており、優れた電気化学触媒であることがわかった。
【0100】
また、
図11に示したように、Ni元素がドープされた鉄化合物粒子(実施例17)においては、水素と酸素とがほぼ化学量論比で経時的に生成した。このことから、Ni/Fe原子比が増加した鉄化合物粒子においても、水の酸化反応により鉄化合物粒子上で酸素が生成し、同時に生成した電子が対極のPt上でプロトンと反応して水素を生成することによって、水の分解反応が進行していることがわかった。特に、Ni/Fe原子比が0.29である鉄化合物粒子(実施例17)は、酸素生成量がNi/Fe原子比が0.012である鉄化合物粒子(実施例3)の約10倍であり、極めて高い水分解活性を有することがわかった。
【0101】
(viii)形状観察及びサイズ測定
実施例で得られたコロイド溶液中の鉄化合物粒子を、透過電子顕微鏡(日本電子(株)製「JEM−2100F」)を用いて観察した。得られたDF−STEM像において、無作為に抽出した50個以上の鉄化合物一次粒子の形状を観察した。また、これら50個以上の鉄化合物一次粒子の長軸及び短軸の長さを測定して、長軸の平均長さを求め、さらに、長軸と短軸の長さの比(長軸/短軸)を算出して、その平均値(平均軸比)を求めた。それらの結果を表7に示す。
【0102】
【表7】
【0103】
表7に示したように、Fe
3+を用いて作製した本発明の鉄化合物粒子(実施例1、2、16、17)は、一次粒子の形状がナノロッド状であり、その長軸の平均長さが14〜17nmであり、平均軸比(長軸/短軸)が4.5〜5.0であることが確認された。