【文献】
YAMAOKA, Hiroki et al.,Significantly Improved Performance of a Conducting-bridge Random Access Memory (CB-RAM) Device Using Copper-containing Glyme Salt,Chem. Lett.,2017年10月14日,Vol. 46,pp. 1832-1835,<doi:10.1246/cl.170854>
【文献】
KINOSHITA, Kentaro et al.,Improvement of switching endurance of conducting-bridge random access memory by addition of metal-ion-containing ionic liquid,Japanese Journal of Applied Physics,2017年 3月27日,Vol. 56,pp. 04CE13-1−04CE13-4,<http://doi.org/10.7567/JJAP.56.04CE13>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記混合イオン液体に、前記第1金属層の金属よりも酸化されにくい金属の金属塩又は金属イオンが混入されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性ブリッジ型のメモリ装置。
前記金属塩の金属又は前記金属イオンが、銀イオンや金イオン、パラジウムイオン、ロジウムイオン、ルテニウムイオン、及び白金イオンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項6に記載の導電性ブリッジ型のメモリ装置。
前記絶縁体層が、アルミナ、ハフニア、酸化シリコンを含む金属酸化物或いは半導体酸化物の多結晶又はアモルファス、及び金属有機構造体を含む自己集積化現象により形成される多孔質体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性ブリッジ型のメモリ装置。
【背景技術】
【0002】
CB−RAM(Conducting Bridge Random Access Memory)或いは原子スイッチは、HfO
2、SiO
2、Al
2O
3、GeSe、Ag
2Sなどのナノサイズ細孔を有する固体金属酸化物材料を電気化学的に活性な金属(例えばAg、Cuなど)で構成される電極Aと不活性な金属(例えばPt)で構成される電極Bで挟んだ、電極A/固体電解質(メモリ層)/電極Bなる単純構造をとる。電極Aに(電極Bに対して)正電圧を印加することで、電極Aを構成する原子がイオン化して固体電解質内のナノ細孔中に侵入し、電極Bに向かって移動する。電極Bに到達した金属イオンは電子を受け取って金属として析出する。この結果、固体電解質内部に電極Aの構成金属より成るフィラメント状の導電パスが形成され、電極Aと電極Bが接続されることによって、低抵抗状態が実現される。一方、電極Aに(電極Bに対して)負電圧を印加することで、フィラメントを構成する電極Aの構成原子がイオン化される。電界の向きは前記フィラメント形成時と逆向きのため、フィラメント構成原子は電極Aに回収され、高抵抗状態が復活する。すなわち、抵抗値変化を「1」、「0」というシグナルに置き換えることが可能となり、メモリとして機能するCB−RAMは高速、高集積、低消費電力などの優れた特徴を有することから、この素子が近い将来微細化限界に直面するフラッシュメモリの代替として、さらには、高速性と不揮発性を兼ね備えたユニバーサルメモリとして期待されている。CB−RAMの高抵抗状態は電流が流れにくいことから「オフ」状態、低抵抗状態は電流が流れやすいことから「オン」状態とみなすことができる。このため、メモリ素子のみならずスイッチとして用いることも可能であり、導電パスが金属で構成されることから電流輸送特性に優れ、原子トランジスタへの可能性が期待され、FPGA(Field Programmable Gate Array)用の回路切り替えスイッチへの応用にも期待されている。
【0003】
図1はCu/金属酸化物/Pt構造の断面とスイッチングプロセスを示した模式図である。ここでは、金属酸化物はHfO
2(ハフニア)とした。ここで、
図1に示したように、Pt電極を接地し、Cu電極に電圧を印加している。Cu電極に正バイアスを印加することでセット(set)(高抵抗から低抵抗への抵抗スイッチング)、負バイアスを印加することでリセット(reset)(低抵抗から高抵抗への抵抗スイッチング)が生じるバイポーラ動作が確認された。なお、CB−RAMがセット−リセットの抵抗スイッチングを繰り返す機能は、フォーミング(forming)と呼ばれるフィラメント形成過程を経て発現する。フォーミングの電流−電圧特性はセットの電流−電圧特性と類似しているが、フォーミングが生じる電圧であるフォーミング電圧(V
form)はセットが生じる電圧(V
set)に比べて一般的に高い。
【0004】
近年、常温で液体の溶融塩である様々なイオン液体が知られるようになった。イオン液体は溶融塩であるために導電性を示し、成分イオンがクーロン力でお互いに強固に結びついているため、不揮発性、難燃性を示す。また、その構成イオンのデザインで様々な無機及び有機の化合物を溶解する機能を持つ液体として利用できる(非特許文献1参照)。
【0005】
本発明者らは金属酸化物層にイオン液体を浸み込ませることにより、安定で高性能なCB−RAMの設計が可能となることを明らかにした(特許文献1、非特許文献1、2、3、4、5参照)。イオン液体をCu/HfO
2/Pt型セルのHfO
2(ハフニア)層に浸み込ませた場合、スイッチング動作におけるハフニア層の安定化が格段に向上し、水分を5000ppm含むイオン液体を加えた場合、10V以上の電圧を印加してもハフニア素子の破壊が全く起こらないという顕著な安定化がもたらされた(非特許文献1、2参照)。ついで、加えるイオン液体のデザインを検討し、イオン導電性が大きく、プロトン受容能が低いアニオンを持つイオン液体がセット電圧(V
set)、リセット電圧(V
reset)を低下させうることを明らかにした(非特許文献3参照)。ただし、イオン液体のみをCu/HfO
2/Ptセルのハフニア層に加えた場合、V
set、V
form、V
resetは低下したがスイッチング耐性は向上が認められなかった。
【0006】
CB−RAMの抵抗値変化は金属酸化物層内に形成される金属フィラメントによってもたらされる。従ってCu箔とPt基板で金属酸化物層をサンドイッチしたCB−RAMにおいては、金属酸化物層内の電析で生じた銅フィラメントが抵抗値変化をもたらす主因となる。そこで、イオン液体に予めCu
2+イオンを含有させた1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチル)スルホニルアミド([Bmim][TFSA])の銅(II)ビス(トリフルオロメチル)スルホニル(Cu(TFSA)
2)溶液をハフニア層に加えたところ、スイッチング耐性が飛躍的に向上することを発見した(非特許文献2、3、4参照)。ただし、V
set、V
resetが僅かに上昇することがわかった。この問題を解決するため、2,5,8,11−tetraoxadodecane(G3)からなる溶媒和イオン液体([Cu−G3−(TFSA)
2])(非特許文献5参照)をハフニア層に浸み込ませたところ、[Cu−G3−(TFSA)
2]は極めて高粘性にもかかわらずV
set、V
resetが低下し、しかもスイッチング耐性が大きく向上することを発見した(非特許文献5参照)。
【0007】
なお、「TFSA」は[Tf
2N]とも略され、試薬カタログや文献でしばしば“bis(trifluoromethylsulfonyl)imide“([TFSI])とも表記される。しかし、“imide”はIUPAC法では“an amido compound which connected with two carbonyl group”と規定されており、[Tf
2N]はIUPAC法に従って命名すると“bis(trifluoromethylsulfonyl)amide”とするのが正しい。ただし、“(trifluoromethylsulfonyl)imide”であればIUPACルールに従った命名と言える。本明細書ではIUPAC法に従い[TFSA]とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6195155号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Harada, A.; Yamaoka, H.; Ogata, R.; Watanabe, K.; Kinoshita, K.; Kishida, S.; Nokami, T.; Itoh, T. J. Mater. Chem. C, 2015, 3, 6966-6969.
【非特許文献2】Harada, A.; Yamaoka, H.; Watanabe, K.; Kinoshita, K.; Kishida, S.; Fukaya, Y.; Nokami, T.; Itoh, T.Chem. Lett., 2015, 44, 1578-1580.
【非特許文献3】Harada, A.; Yamaoka, H.; Tojo, S.; Watanabe, K.; Sakaguchi, A.; Kinoshita, K.; Kishida, S.; Fukaya,Y.; Matsumoto, K.; Hagiwara, R.; Sakaguchi, H.; Nokami, T.; Itoh, T. J. Mater. Chem. C, 2016, 4, 7215-7222.
【非特許文献4】Kinoshita, K.; Sakaguchi, A.; Harada, A.; Yamaoka, H.; Kishida, S.; Fukaya, Y.; Nokami, T.; Itoh, T. Jpn. J. Appl. Phy. 2017, 56, 04CE13.
【非特許文献5】Yamaoka, H.; Yamashita, T.; Harada, A.; Sakaguchi, A.; Kinoshita, K.; Kishida, S.; Hayase, S.; Nokami, T.; Itoh, T. Chem. Lett. 2017, 46, 1832-1835.
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態による導電性ブリッジ型のメモリ装置について
図2を参照しながら説明する。本実施形態の導電性ブリッジ型のメモリ装置のメモリセル10は、
図2にその一例の構造が示されるように、電気化学的に活性でイオン化しやすい金属からなる第1金属層1(電極A)と、電気化学的に安定な金属からなる第2金属層2(電極B)と、第1金属層1及び第2金属層2の間に挟持されており、第1金属層1と接する第1面3bから第2金属層2と接する第2面3cとの間を連通する細孔を有する絶縁体層3と、絶縁体層3の細孔3a内に浸み込ませた電解質層4とを備えている。そして、電解質層4が溶媒和イオン液体、及びその溶媒和イオン液体の粘性係数よりも小さい粘性係数のイオン液体である低粘度のイオン液体が混合された混合イオン液体を含んでいる。なお、
図2では、説明を分かりやすくするため、絶縁体層3として、細孔3aが柱状になりやすいハフニア(HfO
2)の多孔質体で細孔3a部分と絶縁体層3とを区分した例で示されている。しかし、後述されるように、複雑な形状で細孔3aが連結するアルミナなどの多孔質体からなる絶縁体層3でも同様の動作をする。絶縁体層3の細孔3aは、第1金属層1と接する第1面3bから第2金属層2と接する第2面3cとの間を連通していればよい。なお、本明細書において「連通」とは、細孔の形状に関わらず、少なくとも液体が流通し得る程度に連結していることを意味する。すなわち、第1面3bと第2面3cとの間で液体が流通し得るように細孔が連続していることである。
【0018】
ここに「溶媒和」とは、溶液の中で、溶質の分子又はイオンの周りを溶媒の分子が取り囲んで1つの分子群を作る状態をいう。溶媒和イオン液体とは、このような溶媒和を有するイオン液体を意味する。また、「低粘度のイオン液体」とは、本明細書で便宜的に呼称する名称であり、溶媒和イオン液体よりも粘度(粘性係数)の小さいイオン液体を意味し、いわゆる通常のイオン液体を意味する。さらに、「混合イオン液体」という用語も、本明細書で便宜的に呼称する名称であり、溶媒和イオン液体と上述の低粘度のイオン液体とが混合されたイオン液体を意味する。
【0019】
前述のように、本発明者らは、導電性ブリッジ型のメモリ装置(CBRAM)の性能向上を求めて、鋭意検討を重ねて調べた。その結果、多孔質体からなる絶縁体層3の細孔3aに浸み込ませる電解質層4として、イオン液体を浸み込ませることによって、高速でオン・オフの切り替えをすることができるようになった。しかし、セット電圧(V
set)などの動作電圧が高くなるという問題があり、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、その原因が第2金属層2の表面をCu
2+イオンが覆ってしまい、次のCu
2+イオンが第2金属層2に達し難く、印加電圧を高くする必要があることを見出した。そして、その対策として、電解質をCu
2+イオンを溶媒で取り囲む溶媒和イオン液体にすることで、セット電圧(V
set)などの動作電圧を大幅に下げ得ることを見出した。しかし、そのような溶媒和イオン液体を用いても、絶縁体層3としてアルミナ(Al
2O
3)のような安価な酸化物層を用いると、スイッチング速度が遅くなると共に、スイッチング耐性が低下するという問題が発生した。そこで、本発明者らは、さらに鋭意検討を重ねてこの問題を解決した。
【0020】
すなわち、溶媒和イオン液体を電解質層4として用いると、溶媒和イオン液体の粘度が大きく、アルミナのように複雑な形状に形成された細孔3a内では、クーロン力の引き付けによるCu
2+イオンの速度が遅くなることに原因があることを見出した。そして、溶媒和イオン液体に、その溶媒和イオン液体よりも粘度の小さい、いわゆる通常のイオン液体である、低粘度のイオン液体を混ぜ合せた混合イオン液体として絶縁体層3の細孔3aに浸み込ませることによって、低い動作電圧で、かつ、スイッチング耐性の優れた導電性ブリッジ型のメモリ装置を得ることができた。
【0021】
本実施形態で電解質層4として用いられる溶媒和イオン液体の溶媒としては、
【化1】
及び
【化2】
(ただし、nはエチレンオキシ基の数であって1又は2であり、mはメチレン基の数であって1〜3のいずれかの整数であり、R
1、R
2は、それぞれ同じでも違っていてもよく、R
1は炭素数が1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアル
キニル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、又はt−ブチルジメチルシリル基を表し、R
2は,炭素数1〜16のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、又はt−ブチルジメチルシリル基を表し、アルキル基の中にはエーテル官能基、チオエーテル官能基が含まれていても構わない)
からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒が用いられる。
【0022】
なお、溶媒和イオン液体を構成する溶質である金属イオンはフィラメント成分となりうる銅イオンが望ましいが、フィラメント構成成分金属(第1金属層1の金属)にこだわる必要は無い。例えば、銀イオンや金イオン、パラジウムイオン、ロジウムイオン、ルテニウムイオン、白金イオンなどの貴金属イオン種、コバルト、ニッケルなどの金属イオン、ユーロピウム(Eu)などのランタノイド金属イオンなどが利用できる。また、これら金属イオンを複数混合してもよい。すなわち、第1金属層1の材料として銅を用い、フィラメントが銅で形成される場合でも、溶媒和イオン液体の溶質として、上記種々の金属イオンが用いられてもよく、銅イオンとこれらの金属イオンが混合されてもよい。なお、溶媒和イオン液体の金属イオンの、フィラメントを構成する金属全体に対する割合は非常に小さい。
【0023】
溶媒和イオン液体を構成する対アニオンは、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド(N(SO
2CF
3)
2-:TFSA)、ビス(フルオロスルホニル)アミド(N(SO
2F)
2-:FSA)が望ましいが、溶媒和した場合に液体になるアニオン種であればよく、この他にも、AlCl
4-、BF
4-、PF
6-、SbF
6-、MeSO
3-、CF
3SO
3-、NO
3-、CF
3COO
-、RCOO
-、RSO
4-、RCH(NH
2)COO
-、SO
42-、ClO
4-、(HF)
2.3F
-(ここでRはH、アルキル基、アルキルオキシ基を示す)が挙げられる。
【0024】
また、低粘度のイオン液体としては、例えば
【化3】
(ただし、R
1は上記各化学式において、同じでも違っていてもよく、炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数2〜6のアルケニル基を表し、R
2は上記各化学式において、同じでも違っていてもよく、水素原子、炭素数1〜16のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、又はアルコキシ基を表す。アルキル基の中にはエーテル官能基、チオエーテル官能基が含まれていても構わない。R
3は上記各化学式において、同じでも違っていてもよく、水素原子、フェニル基、メチル基、又はイソプロピル基を示す。化学式(5)のnはメチレン数を示し、n=1又は2である。化学式(8)においてR
1とR
2は炭素鎖が連結していてもよく、この場合はトリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、又はヘプタメチレン基である。イオン液体のアニオン(X)は、上記各化学式において、同じでも違っていてもよく、AlCl
4-、BF
4-、PF
6-、SbF
6-、N(SO
2CF
3)
2-、N(SO
2F)
2-、N(CN)
2-、MeSO
3-、MeSO
4-、CF
3SO
3-、NO
3-、CF
3COO
-、RCOO
-、RSO
4-、RCH(NH
2)COO
-、SO
42-、ClO
4-、Me
2PO
4-、(HF)
2.
3F
-(ここでRはH、アルキル基、アルキルオキシ基を示す)である。)
からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0025】
この低粘度のイオン液体を構成するカチオン及びアニオンのさらなる具体例としては、
【化4】
を用いることができる。
【0026】
これらの溶媒和イオン液体又は低粘度のイオン液体は、上述の例の1種に限らず、複数種の混合でもよい。また、溶媒和イオン液体と低粘度のイオン液体の混合比(モル比)は、使用する絶縁体層(金属酸化物層)3の細孔3aの種類などに応じて、適宜調整されるが、好ましい範囲としては、例えば(溶媒和イオン液体):(低粘度のイオン液体)の割合は、1:(1〜3)である。
【0027】
また、本発明者らが、さらに鋭意検討を重ねた結果、この溶媒和イオン液体、もしくは低粘度のイオン液体、又はこれらを混合した混合イオン液体に溶解する金属塩を含有させることによって、さらにCB−RAM機能を向上させ得ることを見出した。
【0028】
このCB−RAM機能を向上させる、混合イオン液体に溶解する金属塩のカチオンとしてはフィラメント構成金属、すなわち第1金属層1の金属にこだわる必要は無く、低粘度のイオン液体又は溶媒和イオン液体に溶解できる金属塩であればよい。この場合、第1金属層1の金属よりもイオン化傾向の小さい金属が望ましい。すなわち、第1金属層1として銅が用いられる場合には、例えば、銀塩、金塩、パラジウム塩、ロジウム塩、ルテニウム塩、白金塩などが考えられる。特に銀塩が添加されることによって、CB−RAM機能を大幅に向上させることができた。また、この金属塩は、単塩のみならず、複塩でもよい。
【0029】
CB−RAM機能を向上させる、混合イオン液体に溶解する金属塩のアニオンとしては、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド(N(SO
2CF
3)
2-:TFSA)、ビス(フルオロスルホニル)アミド(N(SO
2F)
2-:FSA)が望ましいが、金属イオンと溶媒和した場合に液体になるアニオン種であればよく、この他にも、AlCl
4-、BF
4-、PF
6-、SbF
6-、MeSO
3-、CF
3SO
3-、NO
3-、CF
3COO
-、RCOO
-、RSO
4-、RCH(NH
2)COO
-、SO
42-、ClO
4-、(HF)
2.3F
-(ここでRはH、アルキル基、アルキルオキシ基を示す)が挙げられる。また、これらのアニオンを複数混合してもよい。
【0030】
CB−RAM機能を向上させる金属塩、又は金属イオンを含む低粘度のイオン液体又は溶媒和イオン液体は、それぞれ単一もしくは複数の混合イオン液体、あるいは異種の金属イオンからなる溶媒和イオン液体であっても良く、使用する金属酸化物層に応じて混合比を調整して最適化する必要がある。
【0031】
この溶媒和イオン液体と低粘度のイオン液体との混合の種類及びその混合の割合の例に関しては、具体例で後述される。
【0032】
本実施形態のCB−RAMの構造は、前述したように、第1金属層1と第2金属層2との間に第1面3bと第2面3cとの間を連通する細孔3aを有する絶縁体層3が挟持された構造になっている。第1金属層1としては、電気化学的に活性でイオン化しやすい金属が用いられる。具体的には、Cu、Ag、Ti、Zn、Vなどの金属又はこれらの金属の合金が挙げられる。また、第2金属層2の金属としては、電気化学的に安定な金属が用いられる。具体的には、Pt、Au、Ir、Ru、Rhなどの金属又はこれらの金属の合金が挙げられる。
【0033】
細孔3aを有する絶縁体層3は、アルミナ、ハフニア、酸化シリコン、GeSe、Ag
2Sなどのナノサイズの細孔を有する固体金属酸化物或いは半導体酸化物の多結晶又はアモルファス、及び金属有機構造体などの自己集積化現象により形成される多孔質体が挙げられる。
図2に示される例は、前述したように、ハフニア(HfO
2)の例で、細孔3aが柱状に形成された例である。この多孔質体がアルミナ(Al
2O
3)の場合は、細孔3aが柱状にはならないが、第1面3bと第2面3cとの間で細孔3aが連結し、第1及び第2の金属層1、2間にフィラメントが連続する細孔3aが形成されればよい。すなわち、細孔3aが第1面3bと第2面3cとの間で連通していればよく、多孔質体でなくてもよい。従って、アルミナの方が安価で容易に入手しやすいので好ましく、連結する細孔3aを有していればよい。例えば、アモルファス絶縁体でも構わない。
図2に示される例で、細孔3aの径dは2〜5nm程度であり、多孔質体の厚さtは、2nm〜50nm程度である。アルミナ(Al
2O
3)の場合でも、細孔3aは柱状にはならないが、その大きさはハフニアの場合と同程度の大きさになる。
【0034】
多孔質体の細孔3aの大きさは、0.1nm以上、30nm以下で、その気孔率は、は、10%以上、80%以下であることが好ましい。この絶縁体層3の細孔3a内に前述の液体の電解質材料が浸み込んでいる。この電解質材料を絶縁体層3の細孔3a内に浸み込ませる方法としては、例えば細孔3aを有する絶縁体層3の表面に電解質材料を塗布して毛細管現象を利用して浸み込ませたり、絶縁体層3の表面に電解質材料を滴下して、裏面側から真空吸引したり、電解質材料の液体内に細孔3aを有する絶縁体層3を浸漬しておくことで浸み込ませたりすることができる。
【0035】
前述したように、絶縁体層3(金属酸化物層)内に電解質材料を加えることでフォーミング電圧(V
form)、セット電圧(V
set)、リセット電圧(V
reset)、スイッチング耐性などのCB−RAM機能を向上させることができ、その電解質材料として、金属塩含有イオン液体を選択し得る。従来の特許文献1、及び研究(非特許文献1〜5)においては単一のイオン液体(低粘度のイオン液体又は溶媒和イオン液体のいずれか)に金属塩を溶解してCB−RAM機能の向上を実現したが、溶媒和イオン液体と低粘度のイオン液体の複数のイオン液体を混合し、その混合比を最適化する手法で、CB−RAM機能を向上させる金属塩含有イオン液体を作製する事で、本発明を完成した。次に具体的な実施例でさらに詳細に説明される。
【0036】
[素子作製]
溶媒和イオン液体としてCu(TFSA)
2、及びTriglyme(G3)と、低粘度のイオン液体としての[Bmim][TFSA]とを混合した混合イオン液体(以下、Cu(TFSA)
2−Triglyme(G3)−[Bmim][TFSA]と記す)を20nm厚のAl
2O
3膜(多孔質体)の細孔3aに浸み込ませることで、CB−RAM素子を作製した。具体的には、Pt薄膜(第2の金属層2)の上にAl
2O
3膜をスパッタリングで成膜し、溶媒和イオン液体と低粘度のイオン液体をそれぞれ1μl(マイクロリットル)ずつ滴下し、
図2の第1金属層1の代りに、このイオン液体層を通してCu−プローブをAl
2O
3薄膜に接触させてCu/Al
2O
3/Ptセルを形成した。この素子を用いて、フォーミング電圧(V
form)、セット電圧(V
set)、リセット電圧(V
reset)、スイッチング耐性を測定した。この実験においては、大気中の水の影響を取り除くために、測定容器内に測定の15分前から乾燥N
2ガスを供給し、乾燥N
2ガス雰囲気で電圧印加時の抵抗変化を調べた。一つのセルについて20点以上を測定した。
【0037】
[混合イオン液体の粘度、導電率]
Cu(TFSA)
2:G3:[Bmim][TFSA]=1:1:0.5、1:1:1、1:1:2、1:1:3(モル比)のサンプルで測定を行ったところ、
図3に示されるように、混合イオン液体中の[Bmim][TFSA]の量が増えるにつれ粘度が低下し、粘度低下に伴って導電率が向上した。溶媒和イオン液体と低粘度のイオン液体[Bmim][TFSA]の混合で粘性が低下し、導電率が上がることがわかり(表1参照)、溶媒和イオン液体とイミダゾリウム塩イオン液体の混合で粘性と導電率を制御できることがわかった。
【0039】
[混合イオン液体の熱安定性測定]
溶媒和イオン液体に低粘度のイオン液体(イミダゾリウム塩イオン液体)を混合した混合イオン液体のTG測定結果とCu(TFSA)
2−G3溶媒和イオン液体との比較を
図4に示す。混合イオン液体では230〜240℃付近で大きな重量減少が起こっているが、いずれもG3単体とCu(TFSA)
2単体よりも熱的安定性が向上したことがわかった。
【0040】
[Cu/Al
2O
3/Pt素子への混合イオン液体の添加時のスイッチング耐性試験結果]
スイッチング耐性を
図5に示す。いずれもblankやCu(TFSA)
2:G3=1:1より向上した。混合イオン液体の種類で比較するとCu(TFSA)
2:G3:[Bmim][TFSA]=1:1:2が最も動作した。このスイッチング耐性の差はサンプル中のCu濃度、サンプルの粘度が影響していると考えられる。まずCu濃度については、ハフニア素子でのCuイオン溶解イオン液体やCu(TFSA)
2−G3溶媒和イオン液体の場合でも見られたように、フィラメントの偏析を抑制するために十分なCu濃度を確保することがフィラメントの断裂−形成を安定させる要素になっていると考えられる。ただし、ハフニア素子ではCu濃度の増加に伴ってスイッチング耐性が向上したが(非特許文献3、4、5参照)、アルミナ素子ではわずかな向上に留まった。アルミナとハフニアを比較した際、アルミナの方が成膜時にアモルファスになりやすく、結晶粒界ができ難いことがよく知られている。最も動作した1:1:2よりもCu濃度が高い1:1:0.5、1:1:1では、粘度が高くアルミナ中に形成されたナノ細孔に入りにくいためにフィラメントの形成−断裂が不安定になったと考えられる。一方、1:1:3では粘度が低下したためにアルミナ中の細孔に侵入しやすいが、肝腎のCu濃度が低いためフィラメントの形成−断裂プロセス安定化に及ぼす効果が限定されたと考えられる。
【0041】
[Cu/Al
2O
3/Pt素子への混合イオン液体の添加時のV
form測定実験]
混合イオン液体添加時のフォーミング電圧を
図6に、セット電圧を
図7に示す。フォーミング電圧、セット電圧共に大幅に改善した。フォーミング電圧では1:1:1と1:1:3が特に良好な結果を示した。この結果には溶液抵抗(Rsol)と電荷移動抵抗(Rct)が影響していると考えられる。混合イオン液体中の[Bmim][TFSA]の量が増えるに連れRsolが低下し、Rctが増加する傾向がある。混合比1:1:3ではRsolが非常に低いためRctの増加を補ってフォーミング電圧が低減し、混合比1:1:1ではRsolとRctの値がフォーミング電圧低下に適合したと考えられる。また、イオン液体未添加(Blank)で見られた過剰Set電圧が混合イオン液体添加で激減した。このように、混合イオン液体を用いることでAl
2O
3素子の動作電圧を大幅に改善できることが分かった。
【0042】
[溶媒和イオン液体の種類]
溶媒和イオン液体の作製のためのエーテル化合物としては、従来G3(化1におけるn=2)が使用されてきたが(非特許文献5、6、7参照)、G3以外にもCuイオンと錯形成できる様々なエーテルが利用できると考えられる。例えば、化1におけるn=1で示される(Diglyme:G2)、化2におけるn=1で示されるジメトキシエタン(DME)も利用できると期待される。そこで、その実証実験を行った。
【0043】
[DME、G2を使用した溶媒和イオン液体の粘度測定]
DME、G2を使用した溶媒和イオン液体の粘度測定結果を
図8に、粘度・導電率の比較を表2に示す。G3よりも側鎖の短いDMEやG2を用いることで粘度が低下し、それに伴って導電率が向上した。
【0045】
[Cu含有DME、G2型溶媒和イオン液体の熱安定性測定実験]
図9にCu含有DME、G2型溶媒和イオン液体のTG測定結果を示す。Cu(TFSA)
2−DME、Cu(TFSA)
2−G2のいずれも熱的安定性がCu(TFSA)
2単体やG3単体より向上した。
【0046】
[Cu含有DME、G2型溶媒和イオン液体添加時のCu/Al
2O
3/Pt型CB−RAMのForming・Set電圧]
Cu含有DME、G2型溶媒和イオン液体添加時のCu/Al
2O
3/Pt型セルのフォーミング電圧の分布を
図10、セット電圧の分布を
図11に示す。いずれも溶媒和イオン液体をアルミナ層に加えると低減した。フォーミング電圧に関しては、Cu(TFSA)
2:DME=1:2が特に良好であった。これは用いた溶媒和イオン液体の中で最も導電率が高いことに起因していると考えられる。セット電圧については
図11に示すように、溶媒和イオン液体を用いることで全体的に低電圧側へシフトした。これらの結果から、G2、DME溶媒和イオン液体を用いることで動作電圧が低減できることがわかった。
【0047】
[Cu含有DME、G2溶媒和イオン液体を添加したCu/Al
2O
3/Pt素子のスイッチング耐性]
スイッチング耐性を
図12に示した。Cu(TFSA)
2−DME溶媒和イオン液体が特に向上した。Cu(TFSA)
2−G3溶媒和イオン液体中で比較すると、より低粘性・高導電性のCu(TFSA)
2:G3=1:2が最も動作し、Cu(TFSA)
2−DME溶媒和イオン液体中で比較しても同様にCu(TFSA)
2:DME=1:2の方が動作した。綺麗な結晶粒界ができにくいAl
2O
3素子では銅イオンの移動の容易さがCB−RAMスイッチング耐性により大きく効くことを示している。Cu(TFSA)
2−DME溶媒和イオン液体はCu(TFSA)
2−G3溶媒和イオン液体よりイオン対のサイズが小さい。従って、Cu(TFSA)
2−DME溶媒和イオン液体がスイッチング耐性において良好な結果を示した理由としては、粘度の他に溶媒和イオン液体の大きさが関係している可能性もある。Al
2O
3素子のような入り組んだ結晶粒界ではイオン対サイズの小さな溶媒和イオン液体の移動が有利になり、フィラメントの断裂−形成が安定化をもたらしたと考えられる。
【0048】
[Ag[TFSA]を含有した[Bmim][TFSA]をCu/Al
2O
3/Ptセルに加えた場合のセット電圧(V
set)]
CB−RAM機能を向上させる金属塩含有イオン液体に溶解する金属塩としてはフィラメント構成金属にこだわる必要は無く、イオン液体や溶媒和イオン液体に溶解できる金属塩であれば良く、銅よりも貴な金属塩、例えば、銀塩、金塩、パラジウム塩、ロジウム塩、ルテニウム塩、白金塩などが考えられる。これを実証するために銀塩(Ag(TFSA))を含有する低粘度のイオン液体[Bmim][TFSA]をCu/Al
2O
3/Pt素子に加えたところ(
図13)、セット電圧(V
set)が低くなり、異常電圧も観測されなかった。これはモデル実験であり、混合イオン液体系は未測定であるが、混合イオン液体にAg(TFSA)を加えることで同様の結果が得られると考えられる。
【0049】
[Ag[TFSA]を含有した[Bmim][TFSA]をCu/Al
2O
3/Pt素子
に加えた場合のスイッチング耐性]
銀塩(Ag(TFSA))を含有する低粘度のイオン液体[Bmim][TFSA]をCu/Al
2O
3/Pt素子に加えてスイッチング耐性を調べた結果が
図14である。この図で示されるように、Cu/Al
2O
3/Pt素子のスイッチング耐性が大きく向上した。これはモデル実験であり、混合イオン液体系は未測定であるが、混合イオン液体にAg(TFSA)を加えることで同様の結果が得られると考えられる。
【0050】
[メモリ装置の構成]
以上のように形成された
図2に示されるメモリセル(CB−RAM素子)10がマトリクス状に配列されて、
図15になど価回路図で示されるように、それぞれのセルに選択トランジスタ11が接続され、その選択トランジスタ11のゲートGにワード線WL、ドレインDにビット線BL、ソースSにメモリセル10を介してソース線SL(信号線)がそれぞれ接続されることによって、通常のメモリ装置が構成されている。そして、マトリクス状の各メモリセル10が所望のデータに従って選択されることで、所望の画像の表示、又は所定の場所の記憶などが可能になる。なお、
図15において、12は、ビット線選択用のトランジスタである。
【0051】
ここで、本実施形態のCB−RAM素子10は電気的ストレス、例えば、直流又はパルス電圧の印加により、可逆的な電気抵抗の変化を示し、電源を切ってもその抵抗が保持されることより、その抵抗に対応させて情報の記憶が可能な不揮発性の記憶素子で、例えば、CB−RAM素子としては、活性電極(電極A)と不活性電極(電極B)の間にゾルゲル、スパッタ、MOCVD法などで成膜されたAl
2O
3、SiO
2、NiO
y(y〜1)、TiO
z、HfO
z(z〜2)などを挟み込んだ構造を作製する。
【0052】
前述のメモリセルアレイの構成は特許第4684297号公報、特許第4662990号公報、特許第6108559号公報に示された構成と同様の回路構成にできるが、本実施形態のメモリ装置(メモリセルアレイ)ではCB−RAM素子のメモリ層に、メゾ細孔或いはナノ細孔を有する酸化物層或いは酸化物以外の多孔質体からなる絶縁体層をメモリ層に用い、その細孔内に混合イオン液体などを浸み込ませ、金属イオンの電気化学的作用や移動に影響し得る溶媒を吸収、保持させる点が従来構造と異なっている。実施形態では混合イオン液体を吸収、保持させる点が従来のものと異なる。この混合イオン液体には、他の金属塩又は金属イオンを含有することが好ましい。
【0053】
[メモリ装置の製造方法]
図16に、本実施形態の不揮発性メモリ装置の製造工程図を示す。本実施形態のメモリ装置の製造方法は、まず、
図16(a)に示されるように、通常の半導体のプロセスを用いて、半導体基板21の表面にソースS、ドレインD及びゲートGを有するトランジスタ11が形成される。そして、その上に層間絶縁膜24を形成し、コンタクトプラグ25を形成すると共に、ソースSと接続されたコンタクトプラグ25の上にソース線SL、ドレインDと接続されたコンタクトプラグ25の上に第2金属層(電極B)2がそれぞれ形成される。この第2金属層2は、例えば室温で、全圧が0.7Pa、雰囲気ガスがAr:O
2が1:0の条件で、Ptを100nmの厚さに形成した。なお、図
16(a)において、22はゲート絶縁膜を示す。
【0054】
次に、
図16(b)に示されるように、ソース線SL及び第2金属層2の間に、例えばSiO
2(Si熱酸化膜)などからなる層間絶縁膜26が形成される。その後、
図16(c)に示されるように、例えばメゾ細孔又はナノ細孔を有するハフニア又はアルミナなどの多孔質体からなる絶縁体層3が形成される。具体的には、基板温度を300℃程度にして、全圧5.3Paで、Ar:O
2を3.8:1.5の割合にして、反応性RFマグネトロンスパッタリング法により電極B(例えばPt)上にHfO
2を例えば、20nm形成する。このとき、HfO
2薄膜が多結晶成長し、薄膜中に結晶粒界が導入されることが重要である。
【0055】
その後、
図16(d)に示されるように、前述した混合イオン液体4が滴下されることによって、多孔質体からなる絶縁体層3上に塗布される。具体的には、例えば、低粘度のイオン液体である[Bmim]、[TFSA]及び溶媒和イオン液体であるCu(TFSA)
2とTriglyme(G3)を、前述の多孔質体からなる絶縁体層3の上にスピンコーティング法によって均一に塗布し、大気中或いは低圧力下にて、メゾ細孔又はナノ細孔として機能する多孔質体のHfO
2薄膜粒界晶粒に吸収させる。特に、低圧力下では、結晶粒界に毛細管凝縮している水分と混合イオン液体との置換が効率的に行われる。
【0056】
そして、
図16(e)に示されるように、銅などによって第1金属層(電極A)1が形成され、パターニングされることによって各メモリセル10が形成される。この第1金属層の形成は、具体的には、室温で、全圧が0.7Pa、Ar:O
2が1:0の条件で、100nmの厚さにCu膜が形成される。次いで、
図16(f)に示されるように、各セル10の周囲が被覆されるようにSiO
2などからなる層間絶縁膜27が形成される。そして、第1金属層1と接続したコンタクトプラグ28が層間絶縁膜27内に形成され、その表面に各コンタクトプラグ28を接続するようにビット線BLが形成されることで、本実施形態のメモリ装置が完成する。
【0057】
以上のように、SiO
2からなる層間絶縁膜26上にPt(電極B)、続いてHfO
2薄膜(多孔質体)、Cu(電極A)を成膜することで作製されたCu/HfO
2/Pt構造の断面図は
図2に示されている。HfO
2が柱状成長し、柱状結晶間にナノサイズの間隙(粒界)が存在することが分かる。
【0058】
なお、
図16には図示されていないが、各セルのゲートGを接続するゲート線GL(
図15参照)及び各セルのソースSを接続するソース線SL(
図15参照)がこの紙面と垂直方向に延びて形成され、
図15に示されるように接続されている。
【0059】
[記憶装置の動作]
次に、
図15を使用して、本実施形態のメモリセルアレイ(記憶装置)のセット時の動作について説明する。前述のように、セットは高抵抗から低抵抗への書き換え行程である。まず、
図15に破線で囲んで示した選択メモリセル10aに接続されたビット線BL1に接続された選択トランジスタ12をオンにする。続いて(或いはこれと同時に)、CB−RAM素子10aに接続されたセル選択トランジスタ11aのゲートGに接続されているワード線WL1に電圧を印加し、セル選択トランジスタ11aをオンにする。選択ビット線BL1に印加するバイアス電圧はソース線SL1に対して正の値となるよう設定し(上部電極が電極Bの場合には負となるよう設定)、その絶対値はセットに要する電圧の絶対値と同じかやや大きい程度とする。
【0060】
選択メモリセル10aに接続されたソース線SL1を基準電位、例えば接地電位0Vにすることで、ビット線BL1のバイアス電圧からビット線選択トランジスタ12、セル選択トランジスタ11、及びCB−RAM素子10aを経由する接地電位への電流経路ができ、バイアス電圧はCB−RAM素子10aの高抵抗状態における抵抗Rとセル選択トランジスタ11のチャネル抵抗r、ビット線選択トランジスタ12のチャネル抵抗の比に応じて、CB−RAM素子10とビット線選択トランジスタ12のチャネル抵抗r’に配分される。rとr’の和は、Rに比べて小さく、CB−RAM素子10aの低抵抗状態における抵抗R’に比べて大きくなるようrとr’を設定する。即ち、R’<r+r’<Rが満たされるようにする。セットの瞬間にCB−RAM素子10aの抵抗はRからR’に減少することから、セットの直後にCB−RAM素子10aを流れる電流はr+r’によって制御される。その後、バイアス電圧を0Vに戻せば、セットが完了する。
【0061】
一方、低抵抗から高抵抗への切り換え過程であるリセットも、前記セット過程と同様の手順で行なうが、注意すべき点は、選択ビット線BL1に印加する(ソース線
SL1に対する)バイアス電圧はセットの場合と正負が逆になる。即ち、上部電極が電極Aの場合、選択ビット線BL1に印加するバイアス電圧はソース線SL1に対して負の値となるよう設定する。例えば、選択ビット線BL1を接地電位0V、ソース線SL1を正の値となるよう設定する。その後、バイアス電圧を0Vに戻せばリセットが完了する。
【0062】
読み出しには、セル選択トランジスタ11a、及びビット線選択トランジスタ12のチャネル抵抗が、両方ともCB−RAM素子10aの低抵抗の値
R’より十分小さくなるよう、ゲート電圧を調整し、既定の電圧を印加した際に流れる電流を検出することでCB−RAM素子10aの抵抗を判別する。
【0063】
[変形実施形態]
本発明は上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0064】
例えば、上記実施形態に記載した酸化物膜の材料、成膜条件、用いられる溶媒などは、一例を示したものにすぎず、当業者の技術常識などに応じて適宜修正や変更が可能である。
【0065】
また、上記第1実施形態では、CB−RAM、即ちメモリデバイスとして応用した例を示したが、本発明は電極A構成原子の絶縁体層内における拡散を制御する一般的手法を提供するものであり、その応用はメモリに限定されるものではなく、種々のデバイスに適用することが可能である。
【0066】
[スイッチ素子の構成]
例えば上述のメモリセル10の構成で、スイッチ素子として使用し得る。すなわち、スイッチ素子は、電気化学的に活性でイオン化しやすい金属からなる第1金属層と、電気化学的に安定な金属からなる第2金属層と、第1金属層及び第2金属層の間に挟持され、第1金属層と接する第1面から第2金属層と接する第2面と連通させる細孔を有する絶縁体層と、絶縁体層の細孔内に浸み込ませた電解質層であって、溶媒和イオン液体、及び前記溶媒和イオン液体の粘性係数よりも小さい粘性係数のイオン液体である低粘度のイオン液体が混合された混合イオン液体を含む電解質層と、を備えている。すなわち、構成的には、前述した
図2に示されるメモリセル10と同じ構成である。この第1金属層1及び第2金属層2の間に印加される電圧の極性によって第1金属層1及び第2金属層2の間の導通・非導通が制御され、スイッチ素子として機能する。
絶縁体層にアルミナを使用しても、動作電圧が低く、スイッチング耐性の大きい高性能なCB−RAMを提供する。導電性ブリッジ型のメモリ装置において、絶縁体層3の細孔3a内に浸み込ませた電解質層4を、溶媒和イオン液体、及びその溶媒和イオン液体の粘性係数よりも小さい粘性係数のイオン液体である低粘度のイオン液体を混合した混合イオン液体にする。