(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記網目構造を形成する粒子が、平均粒子径5〜50nmのシリカ微粒子が複数結合した平均粒子径50〜500nmの非球状粒子を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の多孔質シリカ粒子。
前記分散液調製工程において、非球状粒子は、平均粒子径5〜50nmのシリカ微粒子が複数結合した平均粒子径50〜500nmの鎖状粒子であり、前記鎖状粒子の平均粒子径(d2)と前記シリカ微粒子の平均粒子径(d1)の比(d2/d1)が1.6〜100であることを特徴する請求項8または9に記載の多孔質シリカの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の多孔質シリカ粒子は網目構造であり、平均粒子径が0.5〜50μm、細孔容積が0.5〜5.0cm
3/g、細孔径の最頻値が2〜50nm、平均形状係数が0.8〜1.0、平均圧縮強度が0.1〜1.0kgf/mm
2未満、ナトリウム含有量が10ppm以下である。そのため、多孔質シリカ粒子は製造工程で崩壊することなく、使用中に高い崩壊性を発揮する。
【0011】
ここで、多孔質シリカ粒子の平均粒子径が50μmを超えると、粒子製造時に真球度の高い粒子が得られにくい。一方、0.5μm未満だと、粉体の流動性が低くなり、作業性が悪くなる。平均粒子径は1〜20μmが好ましく、2〜15μmがより好ましい。このような粒子は、研磨剤や化粧品用材料として使用する場合に特に適している。
【0012】
また、細孔容積が0.5cm
3/g未満では、粒子が硬くなり所望の崩壊性が得られない。一方、5.0cm
3/gを超えると、製造時に粒子が崩壊し、所望の真球度が得られない。細孔容積は1.0〜4.0cm
3/gが好ましく、1.2〜3.0cm
3/gがより好ましい。
【0013】
また、細孔径の最頻値が2nm未満では、粒子が硬くなり所望の崩壊性が得られない。一方、50nmを超えると、製造時に粒子が崩壊し、所望の真球度が得られない。細孔径の最頻値は5〜45nmが好ましく、10〜45nmがより好ましい。
細孔径が最頻値の±25%以内にある細孔の合計細孔容積(V
±25%)と細孔容積(V)から、細孔容積率(%)[=V
±25%/V×100]を算出する。この細孔容積率は、40%以上が好ましい。細孔容積率がこの範囲にあれば、細孔径分布がシャープとなり、粒子が崩壊する際に塊になりにくく、微細に崩壊するものと考えられる。細孔容積率は40〜75%がより好ましい。
【0014】
また、平均形状係数が0.8未満では、流動性が悪く実用的でない。さらに、荷重方向の強度にばらつきが生じるため、安定した強度が得られない。平均形状係数は0.85〜1.0が好ましく、0.87〜1.0がより好ましい。
【0015】
また、平均圧縮強度が0.1kgf/mm
2未満では、製造時に崩壊しやすく、所望の粒子形状(形状係数等)が得られない。1.0kgf/mm
2以上では、所望の崩壊性が得られない。平均圧縮強度は0.1〜0.7kgf/mm
2が好ましく、0.1〜0.4kgf/mm
2がより好ましい。
【0016】
また、ナトリウム含有量は10ppm以下である。ナトリウムは粒子を融着させる要因となるため、多孔質シリカ粒子に含まれないことが望ましい。多孔質シリカ粒子を構成する粒子同士が融着すると、多孔質シリカ粒子が崩壊しにくくなり、平均圧縮強度が高くなる。ナトリウム含有量は、5ppm以下が好ましい。
【0017】
さらに、多孔質シリカ粒子の比表面積は、30〜400m
2/gが好ましい。比表面積がこの範囲にあれば、易崩壊性と真球度を併せ持った粒子が得られやすい。50〜300m
2/gがより好ましく、70〜200m
2/gがさらに好ましい。
【0018】
さらに、多孔質シリカ粒子の空隙率は、50〜92%が好ましい。空隙率がこの範囲にあれば、良好な崩壊性が得られる。空隙率は55〜90%がより好ましく、60〜88%がさらに好ましい。
上述した各特性値の測定法については、実施例で説明する。
【0019】
本発明の多孔質シリカ粒子は、一次粒子(シリカ微粒子)が複数結合した非球状粒子の集合体であることが好ましい。すなわち、多孔質粒子の網目構造を形成している粒子が非球状粒子を含んでおり、この非球状粒子は球状の一次粒子が複数結合した粒子である。非球状粒子の平均粒子径(平均二次粒子径d
2)は、50〜500nmが好ましい。平均粒子径がこの範囲にあると、非球状粒子が密に充填しないため、所望の細孔容積が得られやすい。平均二次粒子径は50〜300nmがより好ましい。ここで、平均二次粒子径は、走査型電子顕微鏡で粒子を観察し、任意の100個の粒子を選択する。それぞれの粒子について、最長となる径を測定し、その平均値を平均二次粒子径とする。
【0020】
非球状粒子を構成する一次粒子の平均粒子径(平均一次粒子径d
1)は5〜50nmが好ましい。平均粒子径がこの範囲にあれば、多孔質シリカ粒子は、微細な細孔が多く形成されると共に、良好な崩壊性が得られる。平均一次粒子径は、5〜40nmがより好ましい。なお、平均一次粒子径d
1は、等価球換算式「d=6000/(2.2×SA)」で求められる。ここで、SAは、窒素吸着によるBET法により求めた非球状粒子の比表面積[m
2/g]、6000は換算係数であり、シリカの密度を2.2g/cm
3とした。
【0021】
平均二次粒子径d
2と平均一次粒子径d
1の比(d
2/d
1)は1.6〜100が好ましい。この範囲にあると、適度な3次元の網目構造が形成されるため、良好な崩壊性が得られやすい。この比は3〜70がより好ましく、4〜40がさらに好ましい。
【0022】
非球状粒子としては、一次粒子が複数連結した鎖状粒子、繊維状粒子、非球状の異形粒子等が挙げられる。一次粒子は、球状(真球、楕円体)でも異形状でもよい。非球状粒子は鎖状粒子を含むことが好ましい。鎖状粒子が絡み合って、3次元の網目構造の多孔質シリカ粒子が得られやすい。ここで、鎖状粒子には、一次粒子が特定の方向に伸びるように連結した直鎖状粒子と、複数の方向(2次元、3次元を問わない)に伸びて連結した非直鎖状粒子がある。直鎖状粒子の場合、粒子のアスペクト比(長径/短径)は、1.2以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、1.8〜10がさらに好ましい。電子顕微鏡写真を用い、任意の100個についてアスペクト比を測定し、その平均値を平均アスペクト比とした。
【0023】
一方、非直鎖状粒子は分岐構造や屈曲構造を持つ粒子である。このような分岐を持つ鎖状粒子(分岐状粒子)や屈曲した鎖状粒子(屈曲状粒子)が存在することが好ましい。実際には、分岐構造と屈曲構造を併せ持つ粒子も存在する。このような粒子の一例の電子顕微鏡写真を
図1に示す。ここでは、このような粒子も分岐状粒子として扱う。非球状粒子が分岐状粒子や屈曲状粒子を含むことにより、多孔質シリカ粒子を構成する非球状粒子同士の空隙が大きくなる。そのため、多孔質シリカ粒子は、より崩壊しやすくなる。多孔質シリカ粒子に含まれる分岐状粒子と屈曲状粒子の合計の含有量は、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
【0024】
また、多孔質シリカ粒子はバインダー成分を含まないことが好ましい。これにより、より崩壊しやすい粒子が得られる。
さらに、多孔質シリカ粒子には、融着要因(高強度の要因)となるナトリウム、カリウム等のアルカリ金属や、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の不純物が含まれないことが好ましい。それぞれの元素の含有量は、10ppm以下が好ましく、5ppm以下がより好ましい。また、多孔質シリカ粒子には、α線放射性物質であるウランやトリウムが含まれないことが好ましい。ウラン含有量及びトリウム含有量はそれぞれ0.5ppb以下が好ましく、0.3ppb以下がより好ましい。
【0025】
上述したような多孔質シリカ粒子は、例えば、工業製品等を研磨するための研磨剤や、化粧料のスクラブ材として用いることができる。研磨剤として用いる場合、多孔質シリカ粒子は特定の負荷がかかると崩壊するため、基板(研磨対象)に傷がつきにくい。また、崩壊後の非球状粒子の平均粒子径や一次粒子の平均粒子径が小さいため、基板表面の微細な凹凸を磨くことができる。特に、仕上げの乾式研磨に好適であるが、湿式研磨にも用いることができる。具体的には、半導体基板、ディスプレイ用基板、金属板、ガラス板等の研磨に好適に用いることができる。実際の研磨では、他の成分と一緒に成型し、砥石として用いたり、粉末のまま、あるいは液体に分散させたスラリーの状態で、布やパッドと共に用いたりする。
【0026】
化粧料に用いる場合、多孔質シリカ粒子は高い多孔性を有しているため、高い吸収性能を発揮する。そのため、ファンデーションの吸油剤や有効成分の担体として使用することができる。崩壊しやすい粒子であるため、むしろスクラブ材に好適である。
【0027】
次に、多孔質シリカ粒子の製造方法について説明する。
まず、非球状のシリカ粒子を水に分散させて、非球状粒子の分散液を調製する(分散液調製工程)。この分散液に連続的又は断続的にせん断力を加えながら8〜100mPa・sの粘度を維持して噴霧乾燥機に投入する(乾燥工程)。つまり、噴霧乾燥機に投入される分散液の粘度はこの範囲内にある。このとき、この分散液を乾燥させて得られた固形分に含まれるナトリウムは10ppm以下である。そして、噴霧乾燥機によって分散液中の非球状粒子から多孔性のシリカ粒子が球状に造粒される。このようにして、乾燥した球状のシリカ粒子が得られる。そして、この球状のシリカ粒子を焼成して多孔質シリカ粒子を得る(焼成工程)。
【0028】
ここで、上述の工程以外の工程を備えていてもよい。例えば、乾燥工程と焼成工程との間に分級工程を設けてもよい。
このような製造方法により、本発明の多孔質シリカ粒子を得ることができる。
【0029】
以下、各工程について詳細に説明する。
[分散液調製工程]
本工程では、原料として非球状のシリカ粒子を用いて、水分散液を調製する。非球状のシリカ粒子は、例えば、球状のシリカ微粒子を結合して得ることができる。この分散液には、シリカ粒子が5〜30wt%含まれることが好ましい。これにより、造粒と乾燥をより効率的に行うことができる。濃度が低すぎると、乾燥工程で造粒が進みにくく粒子径が小さくなる傾向にある。濃度が高すぎると、粒子径が大きくなり乾燥が不十分となるおそれがある。また、粒子径が大きいと、十分に粒子が締まらないうちに乾燥するため機械的強度が低くなりすぎて、製造時に粒子が破損するおそれがある。特に、本発明の多孔質シリカ粒子は崩壊しやいすので、分散液のシリカ濃度が重要となる。
この濃度は、10〜20wt%がより好ましく、10〜15wt%がさらに好ましい。この濃度範囲によれば、低ずり速度では高粘度となり、高ずり速度では低粘度となる。つまり、非ニュートン性の特性を持つ分散液とすることができる。この非ニュートン性の分散液を高ずり速度で粘度を下げた状態のまま噴霧乾燥する。分散液は流動性よくノズルから噴霧(スプレー)される。噴霧された液滴は、低ずり速度となり高粘度化する(凝集構造をとる)ため、きれいな球状の多孔質シリカ粒子が得られる。
【0030】
また、多孔質シリカ粒子に含まれるナトリウムなどの元素の含有量をそれぞれ10ppm以下にするために、非球状粒子の分散液はこれらの元素を不純物として含有しないことが好ましい。そのため、分散液を乾燥させた固形分における各元素の含有量が、それぞれ10ppm以下になることが好ましい。
【0031】
非球状粒子の分散液には、メタノール、エタノール等のアルコールが含まれてもよい。アルコールを含有することにより、乾燥時の収縮を防ぐことができ、多孔度の高い粒子が得られる。
非球状粒子には、湿式法で調製される鎖状シリカゾルや、乾式法で調製されるフュームドシリカを用いることができる。具体的に、アエロジル−90、アエロジル−130、アエロジル−200(以上、日本アエロジル株式会社)、特開2003−133267号公報、特開2013−032276号公報等に記載の製法により製造されたシリカ粒子を例示することができる。
【0032】
なお、本工程では分散液に、無機酸化物のゲル(例えば、特許文献2に記載の無機酸化物)を添加しないことが好ましい。また、バインダーとして機能し得る小さい(例えば、3nm以下の)モノマーや、融着の原因となるナトリウム等の元素を、次の乾燥工程の前まで(すなわち、造粒前)に分散液から除去することが好ましい。除去手段としては、イオン交換樹脂を用いた処理、イオン交換膜を用いた処理、限外膜を用いた濾過、遠心機を用いた分離、デカンテーション等が例示できる。なお、乾燥前の除去処理だけでなく、乾燥工程後にも除去処理してもよい。あるいは、乾燥前の除去処理を行わず、乾燥工程後に除去処理を行ってもよい。乾燥工程後の除去方法には、乾燥粒子を水に懸濁して乾燥前と同様の処理をする方法、フィルターに温水を掛けて洗浄する方法が挙げられる。
【0033】
[乾燥工程]
乾燥工程では、非球状粒子の分散液を噴霧乾燥機に投入して、造粒・乾燥させる。(本工程により得られる粒子を、ここでは乾燥シリカ粒子と称す。)このとき、噴霧乾燥機に投入される分散液の粘度を一定範囲(8〜100mPa・s)に保持する必要がある。できる限り低くすることが好ましい。ここが製造方法の重要なポイントとなる。分散液の粘度は10〜90mPa・sがより好ましく、10〜80mPa・sがさらに好ましい。
【0034】
非球状粒子の分散液は、通常チキソトロピー性を有する。そのため、分散液に連続的又は断続的にせん断力を加えて、粘度をこの範囲に制御する。さらに、分散液の粘度の変化を小さくすることが好ましい。具体的には、分散液を噴霧乾燥機へ投入開始する時点から投入終了する時点までの粘度の変化を±30mPa・s以内に制御することが好ましい。例えば、噴霧乾燥機へ投入開始する時点の分散液の粘度が50mPa・sの場合、分散液の粘度を20〜80mPa・sに維持して噴霧乾燥機に投入する。噴霧乾燥機へ投入開始する時点の分散液の粘度が80mPa・sの場合は、分散液の粘度が100mPa・sを越えないように50〜100mPa・sに維持して噴霧乾燥機に投入する。すなわち、噴霧乾燥機の投入直前には、粘度が上述の範囲になるように、連続的又は断続的にせん断力を加える。粘度変化の範囲は±25mPa・s以内がより好ましく、±20mPa・s以内がさらに好ましい。
ちなみに、特許文献3では、連続粉砕によりスラリーの粘度を調製して噴霧乾燥を行っている。連続的又は断続的にせん断力を加えているわけではないので、当初は粘度が上述の範囲にあったとしても、経時的にこの範囲からはずれてしまい、結果として、本発明のような多孔質シリカ粒子を得ることはできない。
【0035】
なお、粘度の一定化は、液滴サイズの一定化につながり、結果として、シャープな粒子径分布を得ることができる。また、粘度の変化を上記範囲に調整することによって、粒子径分布の再現性が良くなる。そのため、同等な粒子径分布を持つ多孔質シリカ粒子を安定して製造することができる。また、分散液の粘度を一定範囲に保持して噴霧乾燥機に投入することによって、分散液を噴霧乾燥機まで供給する配管や、噴霧乾燥機のノズル等に分散液が詰まることを防ぐことができ、生産効率が向上する。
【0036】
分散液にせん断力を加える際に、非球状粒子が一次粒子まで粉砕されないことが好ましい。一次粒子まで粉砕されると一次粒子が密に充填されて、造粒により得られる乾燥シリカ粒子の細孔容積が小さくなり、多孔質シリカ粒子の平均圧縮強度が1.0kgf/mm
2を超える場合がある。また、一次粒子まで粉砕されると分散液中に含まれる粒子の比表面積が増え、それにより粒子表面の水酸基も増える。そのため、一次粒子同士の結合が強まり、多孔質シリカ粒子の平均圧縮強度が1.0kgf/mm
2を超える場合がある。
【0037】
分散液にせん断力を加える装置は、例えば、ディスパーミル、ボールミル、ホモジナイザー、振動ミル、アトライター等がある。これらの装置を用いて、分散液の粘度を特定の範囲に維持し、非球状粒子が一次粒子まで粉砕されないように、必要に応じてせん断力を加える条件(回転速度、粉砕メディア等)を設定すればよい。ここで、せん断力を加える装置に由来するナトリウムが分散液に混入することは好ましくない。例えば、硝子製の粉砕メディアを持った装置でせん断力を加えると、粉砕メディアの破片が分散液に混入したり、粉砕メディアに含まれるナトリウムが溶出したりして、分散液のナトリウム含有量が上昇してしまう。その結果、多孔質シリカ粒子を構成する非球状粒子同士が融着しやすくなり、平均圧縮強度が1.0kgf/mm
2を超える場合がある。従って、せん断力を加えた分散液を乾燥させた固形分に含まれるナトリウムは10ppm以下が好ましく、5ppm以下がより好ましい。
【0038】
また、噴霧乾燥機に投入する際の分散液の温度は、10〜30℃が好ましく、15〜25℃がより好ましい。すなわち、液温は粘度にも影響するため、上記範囲内に常に保持することが好ましい。
【0039】
乾燥工程では、乾燥シリカ粒子の含水率を1〜10wt%まで乾燥させることが好ましい。これにより、急激な乾燥による乾燥工程での粒子の崩壊や、真球状でない粒子の発生を防ぐことができる。また、焼成工程での粒子同士の融着をより有効に防止することができる。このように、乾燥工程において、噴霧乾燥を行なえば、乾燥シリカ粒子をより真球に近い形状にすることができる。
【0040】
噴霧乾燥の方法としては、回転ディスク法、加圧ノズル法、2流体ノズル法等、公知の方法を採用でき、特に、2流体ノズル法が好ましい。乾燥工程における乾燥温度は、出口熱風温度で30〜150℃が好ましく、40〜100℃がより好ましい。この範囲で乾燥することにより、十分な乾燥が得られると共に、焼成工程での粒子同士の合着や融着を低減することができる。
【0041】
[焼成工程]
焼成は、通常空気雰囲気下で行う。焼成温度は、250〜800℃が好ましく、300〜600℃がより好ましく、310〜410℃がさらに好ましい。この範囲で焼成することにより、多孔質シリカ粒子の水分の残存が少なくなる。そのため、品質の安定性が向上する。また、多孔質シリカ粒子を形成する非球状粒子同士の熱による融着を防ぐことができる。すなわち、強度が高くなることを防げる。
【0042】
[分級工程]
乾燥工程と焼成工程との間に分級工程を設けてもよい。上述の分散液調製工程と乾燥工程を経て製造されたシリカ粒子は、分級工程で崩壊することがない。
分級工程では、粗大粒子が除去される。具体的には、平均粒子径の4倍以上の粒径をもつ粗大粒子を除去する。平均粒子径の4倍以上の粒径をもつ粗大粒子の割合を5wt%以下とすることが好ましく、2wt%以下とすることがより好ましい。ここで、分級装置として、ドナルドソン社製のドレセレック、セイシン企業社製のスピンエアシーブ、日清エンジニアリング社製のエアロファインクラシファイア、パウダーシステムズ社製のハイプレック分級機、ホソカワミクロン社製のツインターボプレックス等が使用できる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
[実施例1]
内容積150Lのタンクに水60Lを入れ、アエロジル−90G(日本アエロジル株式会社)8.6kgを撹拌しながら徐々に加えて、良く混合した。これにより、非球状粒子の分散液(シリカ粒子濃度12.5wt%)を得た。このとき分散液の粘度は136mPa・sであった。分散液をディスパーミル(ホソカワミクロン社製)に通し、噴霧乾燥機の対向式2流体ノズルに供給した。処理量60L/Hr、空気/液比=2,100、空気流速マッハ1.1、乾燥雰囲気温度120℃、湿度7.2vol%の条件の下で噴霧乾燥し、乾燥シリカ粒子(水分含量2wt%)を製造した。なお、噴霧乾燥機に投入開始した時点での分散液の粘度は72mPa・sであり、噴霧乾燥機に投入終了した時点に残っている分散液の粘度は67mPa・sであった。また、この残っている分散液を50g採取し、110℃で5時間乾燥させて固形分を得た。この固形分に含まれていたナトリウムは5ppm以下であった。乾燥シリカ粒子から粗粒を取り除いた後、400℃で3時間静置することにより焼成した。これにより多孔質シリカ粒子が得られた。なお、原料として用いたアエロジル−90Gは、分岐状粒子や屈曲状粒子等を含む平均二次粒子径200nmの鎖状粒子であり、平均一次粒子径は30nmであった。
【0044】
得られた多孔質シリカ粒子の平均粒子径、細孔容積、細孔径の最頻値、平均形状係数、平均圧縮強度、ナトリウム含有量、ウラン含有量、トリウム含有量、比表面積、細孔容積率、及び空隙率を測定した。結果を表1に示す。各特性値の測定方法は以下のとおりである。
【0045】
(1)平均粒子径(D)
ベックマン・コールター社製の粒度分布測定装置(Multisizer 3)を用いて、粒度分布を測定した。測定結果である個数統計値から平均粒子径(D)を算出した。
(2)細孔容積(V) 及び細孔径の最頻値
細孔容積及び細孔径の最頻値は、QUANTACHROME社製PM−33P−GTを用いて水銀圧入法にて測定した。水銀圧入法は、水銀を細孔内へ圧入し、その時加えた圧力と、孔内に侵入した水銀容積の関係を測定する方法で、圧力(P)と細孔径(D
P)の関係は、以下のWashburnの式により導かれる。
D
P=−4γcosθ/P
(D
P;細孔直径、γ;水銀の表面張力、θ;水銀と細孔壁面の接触角、P;圧力)
圧力と細孔径の関係と、侵入した水銀の容積に基づいて、細孔分布が得られる。
まず、5nm〜10μmの細孔径分布を確認した。100nmよりも大きい細孔径は、主に多孔質シリカ粒子間の空隙の容積に対応するものと考え、100nm以下の細孔径が多孔質シリカ粒子の内部の細孔と見なして細孔容積(V)を算出した。同様に、細孔径の最頻値も100nm以下の細孔径に対する細孔容積の積分値を微分し、メインピークとなった細孔径である。
【0046】
(3)平均形状係数
多孔質シリカ粒子の粉末試料を単一粒子が重ならないように分散させて走査型電子顕微鏡にて2000倍に拡大した電子顕微鏡写真を撮り、これを島津製作所製のイメージアナライザーで画像解析し、単一粒子1個1個の投影面の面積と円周を測定した。この面積が真円のものと仮定して算出された相当直径をHDとし、この円周が真円のものと仮定して算出された相当直径をHdとし、これらの比(HD/Hd)を求め形状係数とした。100個の粒子について形状係数を求め、その平均値を平均形状係数とした。
【0047】
(4)平均圧縮強度
島津製作所製の微小圧縮試験機(MCT−W500)を用いて、圧縮強度を測定した。試料とする粒子を圧縮して負荷(荷重)を与え、試料が破壊した際の荷重を測定し、これを圧縮強度とした。5個の試料を測定し、平均値を平均圧縮強度とした。
(5)ナトリウム含有量、ウラン含有量、及びトリウム含有量
分散液を乾燥させた固形分または多孔質シリカ粒子に硫酸と弗化水素酸を加え、硫酸白煙が発生するまで加熱する。硝酸と水を加えて加温溶解し、一定量に希釈後、ICP質量分析装置を使用して、分散液を乾燥させた固形分のSiO
2換算の含有量(質量)に対するナトリウム含有量と、多孔質シリカ粒子のSiO
2換算の含有量(質量)に対するナトリウム含有量、ウラン含有量、及びトリウム含有量をそれぞれ求めた。
【0048】
(6)比表面積
比表面積は、窒素吸着によるBET法により求めた。
(7)細孔容積率
細孔容積率は、上記細孔径の最頻値の±25%以内にある細孔の合計細孔容積(V
±25%)と、多孔質シリカ粒子の細孔容積(V)とから、次式により求めた。
細孔容積率(%)=V
±25%/V×100
(8)空隙率
空隙率は、シリカの密度を2.2g/cm
3(=0.4545cm
3/g)として、水銀圧入法で求めた細孔容積(V)から次式により求めた。
空隙率(%)=V/(V+0.4545)×100
【0049】
次に、本実施例で製造した多孔質シリカ粒子を砥粒とする研磨用砥石を作製した。すなわち、この多孔質シリカ粒子100重量部と、マトリックスとしてゴム粒子(NBR硬化ゴム、平均粒子径120μm)100重量部とを均一に混合し、100kgf/cm
2の圧力でリング状に圧縮成型した。その後、150℃で10分間圧縮加熱して、外径300mm、内径100mm、厚さ10mmの形状として研磨用砥石を得た。この研磨用砥石を用いて以下のスクラッチ評価を行った。結果を表1に示す。
【0050】
(9)スクラッチ評価
研磨用砥石と台板を接着して、研磨用砥石の平面部をガラス基板に接触させて、ガラス基板を下記の研磨条件で研磨した。そして、ガラス基板の研磨された表面を超微細欠陥可視化マクロ装置(Vision Psytech社製MICROMAX)を用いて観察し、下記の評価基準でスクラッチの評価を行った。
研磨条件
砥石回転数:30m/sec(周縁部)
砥石加圧 :150g/cm
2
研磨液 :水
ワーク :ガラス基板(ホウ珪酸ガラス)
研磨時間 :2分30秒
スクラッチの評価基準
表面は平滑で傷は殆ど認められない : ○
表面は平滑であるが傷が僅かに認められる : △
表面は平滑に欠け傷が認められる : ×
【0051】
[実施例2]
アエロジル−90Gの代わりに、アエロジル−130を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、多孔質シリカ粒子を製造した。ディスパーミルを通す前の分散液の粘度は383mPa・sであり、ディスパーミルを通し、噴霧乾燥機へ投入を開始した時点の分散液の粘度は54mPa・sであり、噴霧乾燥機へ投入終了した時点で残った分散液の粘度は37mPa・sだった。また、この残った分散液を乾燥させた固形分に含まれているナトリウムは5ppm以下であった。得られた多孔質シリカ粒子を、実施例1と同様に測定した。また、本実施例の多孔質シリカ粒子を用いて、実施例1と同様に研磨用砥石を作製し、スクラッチ評価を行った。結果を表1に示す。また、得られた多孔質シリカ粒子の電子顕微鏡写真を
図2に示す。なお、原料として用いたアエロジル−130は、分岐状粒子や屈曲状粒子等を含む平均二次粒子径180nmの鎖状粒子であり、平均一次粒子径は21nmであった。
【0052】
[実施例3]
アエロジル−90Gの代わりに、アエロジル−380を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、多孔質シリカ粒子を製造した。ディスパーミルを通す前の分散液の粘度は200mPa・sであり、ディスパーミルを通し、噴霧乾燥機へ投入開始した時点の分散液の粘度は30mPa・sであり、噴霧乾燥機へ投入終了した時点に残っている分散液の粘度は15mPa・sであった。また、この残っている分散液を乾燥させた固形分に含まれているナトリウムは5ppm以下であった。得られた多孔質シリカ粒子を実施例1と同様に測定した。また、本実施例の多孔質シリカ粒子を用いて、実施例1と同様に研磨用砥石を作製し、スクラッチ評価を行った。結果を表1に示す。なお、原料として用いたアエロジル−380は、分岐状粒子や屈曲状粒子等を含む平均二次粒子径150nmの鎖状粒子であり、平均一次粒子径は7nmであった。
【0053】
[比較例1]
内容積150Lのタンクに水60Lを加え、撹拌しながらアエロジル−200(日本アエロジル株式会社)40kgを徐々に加えて、良く混合し、スラリー(シリカ粒子濃度40wt%)を得た。得られたスラリーをディスパーミルに通さないこと以外は、実施例1と同様に、乾燥シリカ粒子を製造した。なお、噴霧乾燥機へ投入開始した時点のスラリーの粘度は1200mPa・sであり、噴霧乾燥機へ投入終了した時点に残っていたスラリーの粘度は2600mPa・sであった。また、この残っている分散液を乾燥させた固形分に含まれているナトリウムは5ppm以下であった。この乾燥シリカ粒子を600℃で3時間静置焼成し、焼成シリカ粒子を得た。なお、原料として用いたアエロジル−200は、分岐状粒子や屈曲状粒子等を含む平均二次粒子径170nmの鎖状粒子であり、平均一次粒子径は14nmであった。
【0054】
得られた焼成シリカ粒子を実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。なお、この焼成シリカ粒子は非常に崩壊しやすく、水銀圧入法による細孔容積等の測定が正確に行えなかった。そのため、細孔容積、細孔径の最頻値、細孔容積率、及び空隙率を求めることができなかった。また、研磨用砥石を作製することもできなかった。
【0055】
[比較例2]
非球状粒子の分散液をディスパーミルに通さないこと以外は、実施例3と同様に、焼成シリカ粒子を製造した。なお、噴霧乾燥機へ投入開始した時点の分散液の粘度は200mPa・sであり、噴霧乾燥機へ投入終了した時点に残っている分散液の粘度は350mPa・sであった。また、この残っている分散液を乾燥させた固形分に含まれているナトリウムは5ppm以下であった。得られた焼成シリカ粒子を実施例1と同様に測定した。また、この焼成シリカ粒子を用いて、実施例1と同様に研磨用砥石を作製し、スクラッチ評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
[比較例3]
せん断を加える装置として、ディスパーミルの代わりに硝子製の粉砕メディアを持つサンドミルを用いた。これ以外は実施例3と同様に、焼成シリカ粒子を製造した。なお、噴霧乾燥機へ投入開始した時点の分散液の粘度は35mPa・sであり、噴霧乾燥機へ投入終了した時点に残っている分散液の粘度は30mPa・sであった。また、この残っている分散液を乾燥させた固形分に含まれているナトリウムは20ppmであった。得られた焼成シリカ粒子を実施例1と同様に測定した。また、この焼成シリカ粒子を用いて、実施例1と同様に研磨用砥石を作製し、スクラッチ評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】