特許第6631997号(P6631997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6631997経口剤、経口剤の製造方法、経口固形剤のコーティング用組成物
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  • 特許6631997-経口剤、経口剤の製造方法、経口固形剤のコーティング用組成物 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6631997
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】経口剤、経口剤の製造方法、経口固形剤のコーティング用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/26 20060101AFI20200106BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20200106BHJP
   A61K 9/36 20060101ALI20200106BHJP
【FI】
   A61K47/26
   A61K47/36
   A61K9/36
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-197178(P2016-197178)
(22)【出願日】2016年10月5日
(62)【分割の表示】特願2015-247983(P2015-247983)の分割
【原出願日】2015年12月18日
(65)【公開番号】特開2016-222735(P2016-222735A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年9月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-256902(P2014-256902)
(32)【優先日】2014年12月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398028503
【氏名又は名称】株式会社東洋新薬
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西元 琢也
(72)【発明者】
【氏名】濱砂 博紀
(72)【発明者】
【氏名】豊田 崇
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏哉
(72)【発明者】
【氏名】小関 善史
(72)【発明者】
【氏名】高垣 欣也
【審査官】 石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/046453(WO,A1)
【文献】 特開2002−275054(JP,A)
【文献】 特開2003−012560(JP,A)
【文献】 特表2011−512411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形剤の表面に、粉末状のキサンタンガム及び/又はローカストビーンガムがバインダー(プルランを除く)により固定されている、経口剤であって、
前記バインダーが、果糖、ブドウ糖、ショ糖、麦芽糖及び乳糖の中から選ばれる少なくとも1以上の糖類を含む、経口剤。
【請求項2】
固形剤の表面に、粉末状のキサンタンガム及び/又はローカストビーンガムがバインダー(プルランを除く)により固定されている、経口剤(ただし、カルボキシビニルポリマーおよびアルギン酸ナトリウムからなる群から選択される増粘剤、多価金属化合物、並びにスクラロースを含むコーティング用組成物にてコーティングした経口剤を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口剤、経口剤の製造方法、経口固形剤のコーティング用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
経口投与の製剤は、錠剤や丸剤等の固形剤(固形製剤)が主流である。このような固形剤は、嚥下機能の少ない子供や老人にとって服用が困難な場合が多い。
固形剤を嚥下しやすいものとするためには、固形剤の滑りやすさ、のどへの引っ掛かりにくさ等が求められる。固形剤を嚥下しやすくするために、固形剤のコーティングを工夫した技術がこれまでに複数報告されている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−132831号公報
【特許文献2】特表2001−521910号公報
【特許文献3】特開2002−275054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の経口剤は、のどにおける滑りやすさ、のどへの引っ掛かりにくさ等の点で十分なものではない。
本発明の課題は、固形剤と、固形剤表面を被覆するコーティングとを有する経口剤であって、のどに引っ掛かりにくく、嚥下しやすい経口剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は固形剤と、該固形剤表面を被覆するぬめり素材含有層とを有する経口剤であって、
前記ぬめり素材含有層は、ぬめり素材と、該ぬめり素材を固定するバインダー(プルランを除く)とを有しており、
前記ぬめり素材含有層は、単層で、又は複数層が積層された状態で前記固形剤表面を被覆しており、
前記ぬめり素材は、デンプン、キサンタンガム及びローカストビーンガム並びにこれらの塩及び誘導体から選ばれる少なくとも一種を含む、経口剤を提供する。
【0006】
また本発明は、前記経口剤の製造方法であって、
液状のバインダーを、固形剤表面にコーティングし、該コーティング後のバインダーにぬめり素材を付着させることによりぬめり素材含有層を形成する層形成工程を有し、該層形成工程を繰り返すことにより、ぬめり素材含有層が複数層積層した積層構造を固形剤表面に形成する、経口剤の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の経口剤によれば、水分と共に飲んだ時に、固形剤を被覆するコーティングが水分を吸収して粘性を発揮することにより、経口剤がのどに引っかからずスムーズに飲むことができる。また、本発明の経口剤の製造方法によれば、本発明の経口剤を効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の経口剤の断面の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の経口剤は固形剤と、該固形剤表面を被覆するコーティングとを有し、該コーティングが、バインダーとぬめり素材とを含むぬめり素材含有層を含む層構造を有する。具体的には、コーティングは、粉状のぬめり素材をバインダーで固定してなるぬめり素材含有層を含む層構造を有しており、該層構造は、該ぬめり素材含有層からなる単層構造又は該ぬめり素材含有層を複数層積層した積層構造である。
【0010】
ぬめり素材としては、粉状(粒子状)であって、水を含んだときに粘性を発揮する物質を用いる。本発明では、ぬめり素材として、デンプン又はその誘導体、キサンタンガム、及びローカストビーンガムから選ばれる少なくとも1種を用いることを特徴とする。これにより本発明の経口剤は、液体で飲用する際の滑り速度に優れ、飲用時のべたつきの少ないものとなる。本発明では、ぬめり素材として、デンプン又はその誘導体、キサンタンガム、及びローカストビーンガムのうち1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。経口剤の滑り速度を向上させるほか、外観の均一性や粉立ちのなさといった美粧性を高める観点から、デンプン又はその誘導体、キサンタンガム、及びローカストビーンガムのうち2種以上を組み合わせて用いることが好ましく、デンプン又はその誘導体、キサンタンガム、及びローカストビーンガムの3種を組み合わせて用いることがより一層好ましい。デンプン誘導体としては、デンプン分解物、化工デンプン、酸化デンプン、酵素処理デンプン、α化デンプン、リン酸デンプン、リン酸ジデンプン、酢酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、グリセロールジデンプン、カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、橋架デンプン、溶性デンプン、グラフト化デンプンが挙げられる。なお、本明細書中、ぬめり素材とは、コーティングに含まれる素材をいい、仮に同様の成分が被覆対象である固形剤中に含まれていても、これはぬめり素材とはみなさない。
【0011】
デンプンもしくはその誘導体、キサンタンガム又はローカストビーンガムの3種から選択されるぬめり素材は、ぬめり素材含有層が複数層積層している場合、該3種のうち1種、2種又は3種が、該複数層の中の少なくとも一層に含有されていればよく、より好ましくは、該3種のうち1種、2種又は3種がコーティングの最表層に含有されている。最も好ましくは、該3種のうち1種、2種又は3種が、コーティングを構成する各ぬめり素材含有層それぞれに含有されている。
【0012】
本発明の経口剤において、デンプン及びその誘導体、キサンタンガム、並びにローカストビーンガムの合計量は、コーティング中(又はぬめり素材含有層中)、5質量%以上であることが、経口剤の滑りやすさを向上させべたつきの防止効果を高める観点から好ましい。一方、前記の合計量は、コーティング中(又はぬめり素材含有層中)95質量%以下であることが、経口剤のサイズを適切なものとする観点や均一にコーティングを施す観点から好ましい。これらの観点から、前記の合計量は、コーティング中(又はぬめり素材含有層中)10質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上80質量%以下であることが特に好ましい。また、上記と同様の観点から、コーティング中(又はぬめり素材含有層中)のデンプン及びその誘導体、キサンタンガム、並びにローカストビーンガムの合計量は、本発明の経口剤中、1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、2質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。なお、この合計量は、経口剤がコーティング中(又はぬめり素材含有層中)にデンプン又はその誘導体、キサンタンガム、及びローカストビーンガムのうち1種を含有している場合はその1種の量であり、2種以上を含有している場合はそれらの合計量である。
【0013】
経口剤がぬめり素材含有層を複数層有する場合、本明細書中で記載するぬめり素材含有層中の好ましい量とは、それら複数のぬめり素材含有層のいずれかの層における量(又はそれぞれの層における量)であってもよく、複数のぬめり素材含有層からなる層構造全体における量であってもよい。
【0014】
また、本発明においてコーティング中(又はぬめり素材含有層中)のぬめり素材の好ましい割合は、コーティング中(又はぬめり素材含有層中)のデンプン及びその誘導体、キサンタンガム、並びにローカストビーンガムの合計量の好ましい割合として上記で挙げた割合と同様の割合が挙げられる。また経口剤中のぬめり素材の好ましい割合としては、経口剤中のデンプン及びその誘導体、キサンタンガム、並びにローカストビーンガムの合計量の好ましい割合として上記で挙げた割合と同様の割合が挙げられる。
【0015】
本発明の経口剤のぬめり素材がデンプン及び/又はその誘導体とキサンタンガム及び/又はローカストビーンガムとを含有する場合、経口剤中(又はぬめり素材含有層中)の前者:後者の比率は、デンプン及び/又はその誘導体100質量部に対し、キサンタンガム及び/又はローカストビーンガムが3質量部以上であると、滑り速度を向上させることが一層容易であり、また美粧性を高めやすいため好ましい。一方、デンプン及び/又はその誘導体100質量部に対し、キサンタンガム及び/又はローカストビーンガムは500質量部以下であると、経口剤を一層滑りやすく飲みやすくできるため好ましい。これらの観点から、デンプン及び/又はその誘導体とキサンタンガム及び/又はローカストビーンガムとを含有する場合、経口剤中(又はぬめり素材含有層中)の前者:後者の比率は、デンプン及び/又はその誘導体100質量部に対し、キサンタンガム及び/又はローカストビーンガムが30質量部以上400質量部以下であることがより一層好ましく、50質量部以上300質量部以下であることが特に好ましい。なお、ここでいうデンプン及び/又はその誘導体の質量は、デンプン及びデンプン誘導体のうち一方のみを含有する場合はその質量であり、両方を含有する場合はそれらの合計量である。これは、キサンタンガム及び/又はローカストビーンガムの質量についても同様である。
【0016】
また本発明の経口剤のぬめり素材がキサンタンガム及びローカストビーンガムを含有する場合、経口剤中(又はぬめり素材含有層中)の前者:後者の比率は、キサンタンガム100質量部に対し、ローカストビーンガムが3質量部以上200質量部以下であると、より一層滑り速度を向上させることが容易であるため好ましい。これらの観点から、ぬめり素材がキサンタンガム及びローカストビーンガムを含有する場合、経口剤中(又はぬめり素材含有層中)の前者:後者の比率は、キサンタンガム100質量部に対し、ローカストビーンガムが15質量部以上150質量部以下であることがより一層好ましく、50質量部以上100質量部以下であることが特に好ましい。
【0017】
ぬめり素材含有層は、上記デンプン又はその誘導体、キサンタンガム、及びローカストビーンガムの3種に加えて、他のぬめり素材を含んでいても良い。
そのような他のぬめり素材としては、例えば、ゼラチン等の蛋白質分解物;ポリグルタミン酸等のポリアミノ酸;マンナン、グルコマンナン、ヒアルロン酸、アルギン酸、タマリンドガム、グアーガム、カラギーナン、アカシアガム、プルラン及びジェランガム等の多糖類;並びにこれらの塩及び誘導体から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。前記の誘導体としては、ヒアルロン酸誘導体、アルギン酸誘導体及びポリグルタミン酸誘導体等が挙げられる。また、前記の塩としては、アルギン酸塩、ヒアルロン酸塩、ポリグルタミン酸塩等が挙げられる。ヒアルロン酸誘導体としてはヒアルロン酸エステル、アセチル化ヒアルロン酸等が挙げられる。アルギン酸誘導体としてはアルギン酸エステル等が挙げられる。ポリグルタミン酸誘導体としては、ポリグルタミン酸エステル等が挙げられる。アルギン酸塩としてはアルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム及びアルギン酸カルシウム等が挙げられる。ヒアルロン酸塩としてはヒアルロン酸ナトリウム及びヒアルロン酸カリウム等が挙げられる。ポリグルタミン酸塩としては、ポリグルタミン酸ナトリウム及びポリグルタミン酸カリウム等が挙げられる。これらのぬめり素材は1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
本発明の経口剤において、ぬめり素材の平均粒径は、1μm以上300μm以下が好ましく、10μm以上200μm以下がより好ましく、10μm以上100μm以下が更に好ましい。ぬめり素材の平均粒径は、レーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。
【0019】
バインダーとは、水性液等の液媒に溶解して結合力を発揮する物質である。バインダーとしては、蛋白質分解物、糖質、ポリアミノ酸、合成高分子、グリセリンやその誘導体が挙げられる。蛋白質分解物としては、ゼラチン等が挙げられる。糖質としては、果糖、ブドウ糖、ショ糖、麦芽糖又は乳糖等といった糖類(単糖類又は二糖類);デキストリン、ヒアルロン酸、タマリンドガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、グアガム、寒天、マンナン、グルコマンナン、ペクチン、キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸、デンプン、セルロース等の多糖類が挙げられる。ポリアミノ酸としてはポリグルタミン酸が挙げられる。合成高分子としてはカルボキシビニルポリマー;ポリビニルピロリドンが挙げられる。またこれらの塩及び誘導体もバインダーに含まれる。バインダーとして用いることができる前記の塩及び誘導体としては、上記のぬめり素材として用いることができる塩及び誘導体として上記で挙げたものと同様のものが挙げられるほか、セルロース誘導体が挙げられる。当該セルロース誘導体としては、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びその塩類(カルボキシメチルセルロースナトリウム等)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系の半合成高分子が挙げられる。これらのバインダーは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本発明において、バインダーと、ぬめり素材とは、同一物質であってもよく、異なる物質であってもよいが、好ましくは、異なる物質である。
【0021】
バインダーを溶解する液媒としては、水、有機溶媒及びそれらの混合物が挙げられ、当該有機溶媒としては、アルコールが好ましい。アルコールとしては、エタノール等が挙げられる。
【0022】
上記で挙げたバインダーの中でも、本発明の特定のぬめり素材と組み合わせて用いると、滑り速度の向上、べたつき防止、美粧性の向上の点で優れることから、糖類(単糖類又は二糖類)が好ましい。具体的には、バインダーは、液糖が滑り効果を高める観点から好ましい。液糖とは、単糖類及び/又は二糖類が液体状態で市販されている糖類や、単糖類及び/又は二糖類である粉糖を溶液状態にしたものをいう。液糖としては、例えば、異性化液糖や還元麦芽糖水飴、蜂蜜又は糖蜜等が挙げられる。異性化液糖としては農林水産省告示第2771号に規定するものが挙げられる。異性化液糖としては、前記の農林水産省告示に規定の「ぶどう糖果糖液糖」、「果糖ぶどう糖液糖」「高果糖液糖」「砂糖混合異性化液糖」等のいずれであってもよいが、好ましくは、特定のぬめり素材と組み合わせて用いると、滑り速度の向上、べたつき防止、美粧性の向上の点で優れる観点から、バインダー中の固形分中、ブドウ糖の含有量は10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、30質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。また同様の観点から、バインダー中の固形分中、果糖の含有量は10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、30質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
本発明に係る固形剤は、有効成分を含有して一定の形状を有する固形製剤であればよく、素錠等の未だコーティングされていないものであってもよいし、本発明に係るコーティング(ぬめり素材及びバインダーを含有するコーティング)とは別のコーティング層を有していてもよい。ここでいう有効成分は、薬剤であってもよく、薬剤以外の機能性成分や植物又は動物、微生物由来の処理物等であってもよい。製剤は、有効成分のほか、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤などを含有しうる。また本発明で用いる固形剤は経口用、つまり内服用である。固形剤の具体例としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、ペレット剤、顆粒剤、粉末剤等を挙げることができる。本発明で用いる固形剤としては例えば1錠が0.1g以上1g以下、直径が3mm以上15mm以下、厚みが2mm以上8mm以下の範囲のものを挙げることができる。
【0024】
本発明の経口剤の模式図を図1として示す。
図1に示すように、本発明の経口剤1は、バインダー2により、固形剤3の表面に、粉状のぬめり素材4を付着させた構造を有している。具体的には、経口剤1は、粉状のぬめり素材4がバインダー2により固定されてなるぬめり素材含有層5を有しており、これが固形剤3の表面を被覆するコーティングを構成している。ぬめり素材4がバインダー2により固定されているとは、例えば、経口剤1を手に持った際に、ぬめり素材4が剥離しない程度に結着している状態をいう。コーティングは、ぬめり素材含有層5を含む層構造6を有している。層構造6は、図1に示す通り、ぬめり素材含有層5を複数層積層した積層構造であってもよいが、一層のぬめり素材含有層5からなる単層構造であってもよい。図1に示す例では、コーティングは固形剤3の表面を実質的に全域被覆している。ここで、実質的に全域被覆するとは、例えば、固形剤2の表面積の90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上を被覆することを意味する。コーティング中(又はぬめり素材含有層中)、バインダー2に固定された粉状のぬめり素材4は、水を含ませた時に粘性(ぬめり性)を発揮する。このため、この経口剤1を水分と共に口腔内に入れると、ぬめり素材4が水分を含んで粘性を発揮し、これにより経口剤1の表面がのどで滑りやすく、経口剤1がのどに引っかからずに嚥下しやすいものとできる。
【0025】
本発明の効果をより確実に奏する観点から、層構造6の厚さは、0.01mm以上が好ましく、0.02mm以上がより好ましく、0.05mm以上が更に好ましく、0.1mm以上が特に好ましい。一方で、本発明の経口剤を飲みやすくし、また製造しやすいものとする観点から、層構造6の厚さは、6mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましく、2mm以下が更に好ましく、1.5m以下が更に一層好ましく、1.0mm以下がとりわけ好ましい。コーティングの厚さの好ましい数値範囲としては、層構造6の厚さの好ましい数値範囲として前記で挙げた範囲と同じ範囲を挙げることができる。層構造6の厚さは、コーティングが層構造6からなる場合、ノギスなどの測定具を用いて、例えば、コーティング錠剤と素錠の厚みの差を取ることにより測定することができる。具体的には、素錠の厚さを測定し、コーティング錠剤の厚さを測定した後に、コーティング錠剤の厚さから素錠の厚さを引いた値を2で割る(上側のコーティングの厚さと下側のコーティングの厚さとを平均する)ことにより求める。なお、ここでいうコーティング錠剤の厚さとは、コーティング錠剤を切断する際に、最も断面積が大きくなる切断面に対して垂直な方向におけるコーティング錠剤の寸法を指す。
【0026】
層構造6は、ぬめり素材含有層5を2層以上積層した構造であることが好ましく、3層以上積層した構造であることがより好ましく、5層以上積層した構造であることが特に好ましく、8層以上であってもよい。この程度に積層すると、コーティングとして、嚥下性の向上に十分な厚さとぬめり素材の量とを容易に得ることができる。ぬめり素材含有層5の層数は多い方が好ましいが、製造しやすさ等の観点から好ましい層数の上限としては、100層程度が挙げられ、より好ましくは50層、更に好ましくは30層、いっそう好ましくは10層、とりわけ好ましくは6層が上げられる。図1では便宜上ぬめり素材含有層5を2層として示している。
【0027】
層構造6における各ぬめり素材含有層5中のぬめり素材4の量は同一であってもよく、異なっていても良い。異なっている場合、例えば、固形剤3の表面に近い層(内側の層)ほど、ぬめり素材4が多いように構成してもよいし、逆に経口剤1の表面に近い層(外側の層)ほどぬめり素材4が多いように構成してもよいし、ぬめり素材が多い層と少ない層とを交互に積層しても良い。また、層構造6における各ぬめり素材含有層5それぞれにおけるぬめり素材4の種類は同じであってもよいし、異なっていてもよい。同様に層構造6における各ぬめり素材含有層5それぞれにおけるバインダー2の種類は、同じであっても異なっていても良い。また層構造6は、ぬめり素材含有層5以外に、ぬめり素材4を有しない層を有していてもよいが層構造6の最表層はぬめり素材含有層5である。
【0028】
コーティング中(又はぬめり素材含有層中)におけるバインダーの乾燥質量100質量部に対するぬめり素材4の量は、0.01質量部以上であると、ぬめり素材4による嚥下しやすさの効果が得やすいため好ましい。また、バインダー2による固定の効果をより確実に得るために、バインダー2の乾燥質量100質量部に対するぬめり素材4の量は、10000質量部以下が好ましい。これらの観点から、バインダー2の乾燥質量100質量部に対するぬめり素材4の量は、0.1質量部以上10000質量部以下がより好ましく、1質量部以上5000質量部以下が更に好ましく、10質量部以上3000質量部以下が特に好ましく、50質量部以上1000質量部以下がとりわけ好ましく、100質量部以上500質量部以下が最も好ましい。コーティング中(又はぬめり素材含有層中)におけるバインダー2の乾燥質量100質量部に対するデンプン及びその誘導体、キサンタンガム、並びにローカストビーンガムの合計量の好ましい割合も、上記で挙げた、コーティング中(又はぬめり素材含有層中)におけるバインダーの乾燥質量100質量部に対するぬめり素材4の好ましい量と同様である。
【0029】
また、コーティング中(又はぬめり素材含有層中)におけるバインダーの乾燥質量は、5質量%以上であると、バインダーの結合力とぬめり素材との相互作用による効果が得やすいため好ましい。またこのコーティング中(又はぬめり素材含有層中)におけるバインダーの乾燥質量は、50質量%以下であることが、ぬめり素材により嚥下しやすさをより高める観点から好ましい。これらの観点から、コーティング中(又はぬめり素材含有層中)におけるバインダーの乾燥質量は、10 質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上30質量%以下であることが更に好ましい。更に同様の観点から、経口剤中のバインダーの乾燥質量は0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、更に2質量%以上12.5質量%以下であることが特に好ましい。
【0030】
コーティング中(又はぬめり素材含有層中)のぬめり素材4の量は、例えば、コーティング前後での質量差からの計算値を用いて測定することができる。また、コーティング中(又はぬめり素材含有層中)のバインダー2の量は調整時の濃度と噴霧量からの計算値を用いて測定することができる。
【0031】
コーティングは、実質的にぬめり素材4及びバインダー2のみからなるものであってもよい。実質的にぬめり素材及びバインダーのみからなるとは、製造工程で不可避的に混入する不純物を含んでいても良いことを意味し、例えば、コーティングの乾燥質量中のぬめり素材及びバインダーの合計含有量が95質量%以上であることを指す。
しかしながら、コーティングは、ぬめり素材及びバインダー以外のその他の成分を含有していても良い。
【0032】
経口剤は、マンニトールを除く糖アルコールをぬめり素材含有層に含有することが好ましい。この場合、液媒を用いて経口剤を飲用するときの滑り速度が向上し、べたつきが低減されるため好ましい。コーティングにおいてぬめり素材含有層が複数層積層されている場合に、マンニトールを除く糖アルコールをぬめり素材含有層に含有する具体的な形態としては、少なくとも一の層においてこれらの成分が含有されていればよいが、特に最表層にマンニトールを除く糖アルコールが含まれていることが好ましく、最も好ましくは各層において含まれている。マンニトールを除く糖アルコールとしては、単糖のアルコール、二糖のアルコール、三糖以上のアルコールが挙げられる。単糖のアルコールとしては、例えばエリスリトール、D−スレイトール、L−スレイトール等のテトリトール、D−アラビニトール、キシリトール等のペンチトール、D−イジトール、ガラクチトール(ダルシトール)、D−グルシトール(ソルビトール)等のヘキシトール、イノシトール等のシクリトール等が挙げられる。また、二糖のアルコールとしては、例えば、還元麦芽糖(マルチトール)、ラクチトール、還元パラチノース(イソマルト)等が挙げられる。また三糖以上のアルコールとしては、マルトトリイトール、イソマルトトリイトール、パニトール等が挙げられる。糖アルコールとしては、本発明で用いる特定のぬめり素材との組み合わせにより、特に滑り速度の向上及びべたつき防止を容易に図りやすい観点から、テトリトール及びペンチトールのいずれかである単糖のアルコール並びに二糖のアルコールから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、特に、エリスリトール、キシリトール、還元麦芽糖及び還元パラチノースから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また経口剤は人工甘味料としてスクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア、カンゾウ、ソーマチン等を含有する場合も、マンニトールを除く糖アルコールを含有する場合と同様の効果が奏される。
【0033】
コーティング中(又はぬめり素材含有層中)、マンニトールを除く糖アルコールとデンプン及びその誘導体、キサンタンガム、並びにローカストビーンガムの合計量との量比は、糖アルコール100質量部に対し、デンプン及びその誘導体、キサンタンガム、並びにローカストビーンガムの合計量が10質量部以上であることが、べたつき防止の観点から好ましい。また、糖アルコール100質量部に対し、デンプン及びその誘導体、キサンタンガム、並びにローカストビーンガムの合計量が1000質量部以下であることが滑り速度の向上及びべたつき防止を容易に図りやすい観点から好ましい。この観点から、コーティング中(又はぬめり素材含有層中)糖アルコール100質量部に対し、デンプン及びその誘導体、キサンタンガム、並びにローカストビーンガムの合計量は、50質量部以上500質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上300質量部以下であることが更に好ましい。なお、コーティング中(又はぬめり素材含有層中)におけるマンニトールを除く糖アルコール100質量部に対するぬめり素材の好ましい割合としては、コーティング中(又はぬめり素材含有層中)における糖アルコール100質量部に対するデンプン及びその誘導体、キサンタンガム、並びにローカストビーンガムの合計量の好ましい割合として上記で挙げた量が挙げられる。
【0034】
糖アルコール以外のその他の成分としては、導水剤、調味料、増粘剤、着色剤や着香料、可塑剤、各種の植物エキス等を挙げることができる。これらのその他の成分は、コーティング層の最外層に含まれることで最も効果を発揮することができるが、最外層よりも内側の層に含まれていても良い。
導水剤を用いることで、ぬめり素材に効果的に水分を供給することができ、より摂取しやすくすることができる。導水剤としては、多糖類が好ましく、特にセルロースなどを用いることができる。セルロースを用いる場合、ぬめり効果の保持の観点からコーティング中(又はぬめり素材含有層中)において、デンプン及びその誘導体、キサンタンガム、並びにローカストビーンガムの合計量100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下含有されることが好ましく、5質量部以上20質量部以下含有されることがより好ましい。
【0035】
調味料を用いることで、錠剤を口腔内に含んだときに唾液の分泌を促進させ、錠剤への水分の供給を増すことができる。調味料としては、甘味料や、酸味料、香料等を用いることができる。甘味料としては、糖類、スクラロースの蔗糖誘導体、アスパルテーム、アリテーム、ネオテーム、グリチルリチン等のペプチド系甘味料、ステビア、カンゾウ等を用いることができる。特に甘味発現とぬめり効果の発現のタイミングを合わせる観点から、蔗糖誘導体又は、ペプチド系甘味料を用いることが好ましく、とりわけ、アスパルテーム及びスクラロースから選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。例えばアスパルテームは、だ液分泌促進の観点からコーティング中(又はぬめり素材含有層中)において、デンプン及びその誘導体、キサンタンガム、並びにローカストビーンガムの合計量100質量部に対して、0.001質量部以上10質量部以下含有されることが好ましく、0.01質量部以上3質量部以下含有されることがより好ましい。またスクラロースはだ液分泌促進の観点からコーティング中(又はぬめり素材含有層中)において、デンプン及びその誘導体、キサンタンガム、並びにローカストビーンガムの合計量100質量部に対して、0.001質量部以上10質量部以下含有されることが好ましく、0.01質量部以上3質量部以下含有されることがより好ましい。またコーティング中(又はぬめり素材含有層中)における甘味料全体の好ましい量も、アスパルテーム及びスクラロースの上記の好ましい量と同様である。
【0036】
また、酸味料としては、有機酸を用いることができ、その例としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等が挙げられる。特にクエン酸を用いることが、だ液分泌促進の観点から好ましい。この観点から、コーティング中(又はぬめり素材含有層中)中、酸味料は、デンプン及びその誘導体、キサンタンガム、並びにローカストビーンガムの合計量100質量部に対して、0.01質量部以上30質量部以下含有されることが好ましく、0.1質量部以上10質量部以下含有されることがより好ましい。
【0037】
香料としてはグレープフルーツフレーバー、レモンフレーバー、オレンジフレーバー等の柑橘系フレーバーの他、果実類のフレーバー等を用いることができる。香料は、香り強化の観点から、経口剤中のデンプン及びその誘導体、キサンタンガム、並びにローカストビーンガムの合計量100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下含有されることが好ましい。
【0038】
なお、上記の導水剤及び各調味剤の、ぬめり素材100質量部に対する好ましい割合としては、デンプン及びその誘導体、キサンタンガム、並びにローカストビーンガムの合計量100質量部に対する好ましい割合として上記で挙げた割合と同様の割合が挙げられる。
【0039】
増粘剤を用いることで、ぬめり素材によるぬめりの持続性を高めることができる。増粘剤としては、タマリンドガム、グアガム、カラギーナン、アカシアガム、プルラン、ジェランガム、マンナン、グルコマンナン、ヒアルロン酸、アルギン酸及びポリグルタミン酸並びにこれらの塩及び誘導体等を用いることができる。増粘剤として用いることができる当該塩及び誘導体としては、上記のぬめり素材として用いることができる塩及び誘導体として上記で挙げたものと同様のものが挙げられる。
コーティング乾燥質量中のその他の成分の割合は本発明の効果を損なわない範囲に調整される。
【0040】
次に、本発明の経口剤の好ましい製造方法について説明する。
本製造方法は、バインダーを液媒に溶解してなる溶液(以下、バインダー溶液ともいう)を、固形剤表面にコーティング(塗工)し、該コーティング後のバインダーに粉状のぬめり素材を付着させることにより、ぬめり素材含有層を形成する層形成工程を有することにより、ぬめり素材含有層を含む層構造を、固形剤表面に形成する。更に前記の層形成工程を繰り返すと、ぬめり素材含有層が複数層積層した構造を、固形剤表面に形成することができる。
【0041】
バインダー及び液媒としては、上記で上げたものを使用できる。バインダー溶液中のバインダーの量(固形分の量ともいう)は、5質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。特に、バインダーとして糖類を用いる場合は、バインダーの乾燥時間を短くすることで製造時間を短縮できる観点から、10質量%以上85質量%以下が好ましく、20質量%以上80質量%以下がより好ましい。また、バインダーが蛋白質分解物等の場合はバインダー溶液中のバインダーの量は、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0042】
上記のように調製したバインダー溶液を固形剤にコーティングし、乾燥前に、このコーティング中(又はぬめり素材含有層中)のバインダーに粉状のぬめり素材を付着させる。バインダー溶液のコーティングとぬめり素材の付着とは同一工程内で行っても良いし、別工程で行っても良い。同一工程で行う場合とは、例えば、バインダー溶液を固形剤に噴霧しながら粉状のぬめり素材を供給するパウダーコーティング法等が挙げられる。また、別工程で行う場合には、バインダー溶液による固形剤のコーティングの終了後、ぬめり素材を付着させる方法等が挙げられる。ぬめり素材の付着後に、コーティングしたバインダー溶液を乾燥させてぬめり素材含有層5を形成する。この乾燥は自然乾燥等によりおこなうことができる。以上の層形成工程により固形剤の表面に層構造が形成された本発明の経口剤が得られる。上述したように層構造を積層構造とする場合、この層形成工程を繰り返す。
【0043】
このようにして得られた本発明の経口剤は、これを水分と共に内服する際に、喉を滑りやすい。このため、固形剤の嚥下が苦手な人や老人や子供でも、本発明の経口剤をのどに引っかからせずにスムーズに飲むことができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。しかし本発明の範囲はかかる実施例に限定されない。
【0045】
〔実施例1〕
(層形成工程)
固形剤として、素錠を用いた。この素錠の重さ、直径及び厚さはそれぞれ前述した範囲内のものであった。バインダーとして粉末状ゼラチンを用い、これを水に溶解して、0.3質量%濃度のバインダー溶液を得た。ぬめり素材として、デンプンを用いた。このデンプンの平均粒径を前述した方法で測定したところ、10μm以上100μm以下であった。
前記のバインダー溶液と前記のぬめり素材とを用いて、上述した層形成工程を繰り返すことにより、ぬめり素材含有層を8層積層した層構造を、固形剤の表面に形成し、実施例1の経口剤を得た。この経口剤は、固形剤表面全域を前記の層構造であるコーティングで被覆したものである。コーティング(層構造)の厚みは200μmであった。また経口剤中のぬめり素材の量は3質量%であり、経口剤中のバインダーの乾燥質量は0.1質量%であった。
【0046】
〔比較例1〕
上記の素錠をそのまま経口剤として用いた。
【0047】
〔評価〕
被験者として、健常な成人20名を無作為に選出した。これらの被験者20名に、実施例1の経口剤と、比較例1の経口剤とを、水でそれぞれ服用させた。その後、20名に実施例1及び比較例1の経口剤のどちらが飲みやすいか否かを答えさせたところ、20名全員が実施例1の経口剤の方が飲みやすいと答えた。
【0048】
以上の結果から、粉状のぬめり素材をバインダーで固定したぬめり素材含有層を含むコーティング構造を有する本発明の経口剤は、スムーズに飲めて嚥下性が高いことが明らかである。
【0049】
〔実施例2−1〕
(層形成工程)
固形剤として、麦芽糖、セルロース、ステアリン酸カルシウム及び二酸化ケイ素からなる素錠を用いた。この素錠1錠の重さは250mg、直径8mm、厚さ5.0mmであった。バインダーとして液糖(「果糖ブドウ糖液糖」、固形分75質量%、固形分中の組成は、ブドウ糖37質量%(固形分基準)、果糖55質量%(固形分基準)、その他成分としてオリゴ糖を6質量%(固形分基準)、その他成分を2質量%(固形分基準))を用いた。またぬめり素材としてデンプンを用いた。
前記のバインダーを、パン型コーティング機を用いて素錠にコーティングした。次いで、このコーティングの乾燥前にぬめり素材を付着させた。その後コーティングを乾燥させることで単層のぬめり素材含有層を形成した。この工程を6回繰り返し、ぬめり素材含有層が6層積層した層構造を、固形剤の表面に形成した。このようにして、実施例2−1の経口剤を得た。この経口剤は、固形剤表面全域を前記の層構造であるコーティングで被覆したものである。上記の方法で測定したコーティング(層構造)の厚み、経口剤中のぬめり素材の量、経口剤中のバインダーの乾燥質量、コーティング(層構造)中のぬめり素材の量、コーティング(層構造)中のバインダーの乾燥質量、及びコーティング中のバインダーの乾燥質量100質量部に対するぬめり素材の量(質量部)を併せて表1に示す。
【0050】
〔実施例2−2及び2−3〕
ぬめり素材として、表1に記載の成分を、表1に記載の量で用いた以外は実施例2−1と同様の方法で経口剤を得た。
【0051】
〔実施例2−4〜2−13、比較例2−2〜2−4〕
ぬめり素材として、表1に記載の成分を、表1に記載の量で用いた。このぬめり素材と、表1に記載の成分及び量の糖アルコールとを、混合してなるぬめり素材含有原料を用意した。デンプンからなるぬめり素材の代わりに、このぬめり素材含有原料を乾燥前のバインダーコーティングに付着させて用いた以外は実施例2−1と同様にして、経口剤を得た。但し、実施例2−10〜2−13についてはぬめり素材含有層の積層数を表1のように変更した。また比較例2及び4については、バインダーとして液糖の代わりにプルラン3質量%水溶液を用いた。
【0052】
〔実施例2−14〜2−17〕
ぬめり素材として、表1に記載の成分を、表1に記載の量で用いた。表1に記載の成分及び量の糖アルコール及び添加剤を、ぬめり素材と混合してなるぬめり素材含有原料を用意した。デンプンからなるぬめり素材の代わりに、このぬめり素材含有原料を乾燥前のバインダーコーティングに付着させて用いた以外は実施例2−1と同様にして、経口剤を得た。添加剤としては、実施例2−14では、表1における甘味料0.0345質量部の内訳は、アスパルテーム0.3質量部(デンプン、キサンタンガム、及びローカストビーンガムの合計量100質量部に対し0.447質量部)、及びスクラロースを0.045質量部(同合計量100質量部に対し0.06705質量部)であった。また実施例2−15では、表1における酸味料1.0質量部(デンプン及びその誘導体、キサンタンガム、並びにローカストビーンガムの合計量100質量部に対し1.5質量部)としては、クエン酸を用いた。実施例2−16では、表1における香料3質量部(デンプン、キサンタンガム、及びローカストビーンガムの合計量100質量部に対し4.5質量部)としてグレープフルーツフレーバーを用いた。更に、実施例2−17では、導水剤10質量部(デンプン、キサンタンガム、及びローカストビーンガムの合計量100質量部に対し15質量部)として、セルロースを用いた。
【0053】
〔比較例2−1〕
実施例2−1で用いた素錠をそのまま比較例2−1の経口剤とした。
【0054】
【表1】
【0055】
<評価>
実施例2−1〜2−17、比較例2−1〜2−4の経口剤について、以下の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0056】
●斜面滑り速度
30°に傾斜させた断面U字状のアルミチャンネル(側面視で直線状、チャンネル長さ90cm、幅1cm)に、毎分150mlの水を供給した。この状態で、チャンネルの上端部より10cm下の位置から経口剤1粒を滑らせて流し、下端部までの80cmを滑走するのに要した時間を測定した。試験は3回行い、3回の平均値を、以下の評価基準で評価した。
2秒以内:3点
2秒超〜2.5秒以内:2点
2.5秒超〜3秒以内:1点
3秒超〜3.5秒以内:0点
3.5秒超〜4秒以内:−1点
4秒超〜4.5秒以内:−2点
4.5秒超:−3点
【0057】
●官能評価
被験者として、健常な成人3名(平均年齢32歳)を無作為に選出した。これらの被験者3名に、各実施例及び比較例の経口剤4粒を、水50mlでそれぞれ服用させた。その後、各被験者に経口剤の滑りやすさ、べたつき、サイズについて評価させた。
・滑りやすさは、飲み込んだ際に引っかかり、喉を進んでいかない程度に滑りが無く飲みにくい場合を最低評価(−3点)とし、喉への摩擦が感じられず、喉に引っかかることが無い程度に滑りやすく飲みやすい場合を最高評価(3点)とする7段階で評価させた。
・べたつきは、舌下で付着を感じる程度にべたついて飲みにくい場合を最低評価(−3点)とし、舌下で付着せず、ぬめりだけを感じる程度にべたつきが無く飲みやすい場合を最高評価(3点)とする7段階で評価させた。
・サイズは、比較例2−1と比較してぬめりはあるものの、直径や厚みにより大きくて飲みにくい場合を最低評価(−3点)とし、比較例2−1と差異が無い場合を最高評価(3点)とする7段階で評価させた。
被験者が付けた点数の平均値を評価点として表2に示す。
【0058】
斜面滑り速度の評価点と、官能評価に係る各評価点を合計し、飲みやすさの総合評価点として表2に記載した。
【0059】
●製造時間
製造時間について、コーティングなしの場合と同じ程度に短い場合を最高評価(3点)、バインダーとしてプルランの水溶液を用いた場合(比較例2−2)と同じ程度に乾燥時間を要する場合を最低評価(−3点)とする7段階評価で評価した。
【0060】
●美粧性
上記の被験者3名に、目視で経口剤の表面の均一さや粉立ちを評価させた。
ぬめり素材が固定されていない部分が見られ、袋に入れた際に、袋の表面に剥離した粉が付着する程度に表面が不均一で粉立ちがある場合を最低評価(−3点)とし、経口剤全体にぬめり素材が均一にコーティングされ、袋に入れた際に、袋の表面に剥離した粉の付着がない程度に均一で粉立ちがない場合を最高評価(3点)とする7段階評価で評価させた。被験者が付けた点数の平均値を評価点として表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2の記載から明らかなとおり、各実施例は斜面滑り速度に優れ、官能評価においても、特に滑り、べたつき等の点で飲みやすさの効果の高いものとなっている。特に実施例2−4は、コーティング中(ぬめり成分含有層中)に、ぬめり成分をデンプン100質量部に対し、キサンタンガム50質量部及びローカストビーンガム50質量部で含み、さらに還元麦芽糖100質量部含む、6層のコーティングがされており、その他の実施例よりも斜面滑り速度に優れ、官能評価においても特に滑り、べたつき等の点で飲みやすさの効果の高く、総合評価も最も高いものとなっている。また、実施例2−14〜17は、コーティング中(ぬめり成分含有層中)の実施例2−4のコーティングに甘味料、酸味料、香料又はセルロースのいずれかを含む、6層のコーティングがされており、実施例2−4よりも斜面滑り速度がやや劣るが、総合評価は実施例2−4と同様に最も高いものになっている。これに対し、特定の滑り素材を含有しない、或いは、バインダーとしてプルランを用いる比較例2〜4はべたつきが強く、滑りの点で劣り、飲みやすさに劣ることが判る。
【符号の説明】
【0063】
1 経口剤
2 バインダー
3 固形剤
4 ぬめり素材
5 ぬめり素材含有層
6 層構造
図1