【文献】
Ken'Ichi Koseki et al.,In situ Measurement of Shrinkage Behavior of Photopolymers,Journal of Photopolymer Science and Technology,日本,フォトポリマー懇話会,2013年,Vol.26, No.4,pp.567-572
【文献】
渡辺昭彦他2名,光硬化型コンポジットレジンの重合過程の精密測定と評価,歯科材料・器械,日本,日本歯科理工学会,2006年 4月 5日,Vol.25, No.2,p.120
【文献】
平野寛他5名,樹脂硬化時における体積収縮率の連続測定の関する検討,第68回ネットワークポリマー講演討論会講演要旨集,日本,合成樹脂工業協会,2018年11月 7日,p.99
【文献】
株式会社アクロエッジ,消耗品(初回セット分),CUSTRON(樹脂硬化収縮物測定装置),日本,株式会社アクロエッジ,2018年 3月22日,平成31年5月14日検索,URL,https://web.archive.org/web/20180322085847/https://www.acroedge.co.jp/products/custron/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0022】
<<硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する方法>>
本発明の硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する方法は、収容部材に収容されかつ表面に被覆部材が配置された硬化性組成物を硬化させると共に、レーザー光源から被覆部材に連続的にレーザー光を照射し、その反射光に基づき被覆部材の位置を連続的に測定する測定工程と、測定工程で測定された位置の推移から、硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する評価工程と、を含み、被覆部材は、レーザー光に対する反射率が50%以上であり、質量が10mg以下である。
【0023】
評価する対象である硬化性組成物は、硬化する成分を含むものであれば特に限定されない。典型的には、紫外線等の光により硬化する成分を含む光硬化性組成物、熱により硬化する成分を含む熱硬化性組成物や、光硬化性組成物及び熱硬化性組成物の混合物、空気中の水分と反応して硬化する成分を含む湿気硬化性組成物、2液以上の多液の混合物からなる硬化性組成物(例えば2液型接着剤として使用される硬化性組成物)が挙げられる。以下に、例として、光硬化性組成物を評価する場合、及び、熱硬化性組成物を評価する場合について、それぞれ説明する。
【0024】
<光硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する方法>
光硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する方法について、
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は、光硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する方法で用いることができる測定装置の一例を示す模式的断面図である。
図2は、被覆部材を説明する模式図であり、
図2(a)は断面図であり、
図2(b)は上面図であり、
図2(c)は他の例を示す断面図である。
【0025】
図1に示すように、測定装置10は、硬化性組成物としての光硬化性組成物11を載置する測定台12と、測定台12に載置された光硬化性組成物11にレーザー光源Xからレーザー光13を照射し、その反射光を検知することで被覆部材20までの距離a(位置)を連続的に測定する変位計14と、測定台12に載置された光硬化性組成物11に測定台12側から光硬化性組成物11に光15を照射して光硬化性組成物11を硬化させる光照射装置16とを有する。
【0026】
図1において、測定台12は、光15を透過する材質(例えば、ガラス)からなる。また、
図1においては、光硬化性組成物11として、紫外線により硬化する成分を含む紫外線硬化性組成物を用い、光照射装置16として紫外線照射装置を用い、光15として紫外線を照射する態様を示している。なお、紫外線とは、10nm以上400nm以下の波長の光をいう。
【0027】
光硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する方法においては、このような測定装置10を用いて、まず、硬化性組成物としての光硬化性組成物11を、収容部材17に収容する(収容工程)。なお、収容工程は、本発明の方法における任意の構成要件である。
【0028】
光硬化性組成物11は、光の照射により硬化する光硬化性成分を含んでいればよい。光硬化性成分としては、例えば、(メタ)アクリレートやエポキシ化合物が挙げられ、1種類でも2種類以上でもよい。(メタ)アクリレートは光硬化によりアクリル樹脂となり、エポキシ化合物は光硬化によりエポキシ樹脂となる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」という用語は、「アクリル及び/又はメタクリル」という意味で使用される。
また、光硬化性組成物11は、通常光硬化性組成物に含まれる添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、充填剤、触媒、重合開始剤、硬化剤等が挙げられる。
【0029】
収容部材17の形状は、光硬化性組成物11が収容でき光硬化性組成物11にレーザー光13及び光15が照射可能であれば特に限定されないが、任意形態の中空状、例えば、
図2(a)及び
図2(b)に示すようにリング状の収容部材が挙げられる。また、
図2(c)に示すように、光硬化性組成物11の収容部が貫通せず底部19を有する収容部材でもよい。
【0030】
収容部材17の材質は特に限定されないが、光硬化性組成物11が接着し難い材質であることが好ましい。光硬化性組成物11が収容部材17に接着すると、光硬化性組成物11の硬化による膨張又は収縮時に、膨張又は収縮に対応した応力が発生するため、光硬化性組成物11の膨張又は収縮に影響を与えてしまうためである。光硬化性組成物11が接着し難い材質としては、テフロン(登録商標)等のフッ素樹脂が挙げられる。
【0031】
光硬化性組成物11は、レーザー光13が照射される側の表面が平滑になるように収容部材17に収容されることが好ましい。光硬化性組成物11の表面が平滑であると、その上に平坦な被覆部材20を載置することで、より正確に距離aを測定することができる。ただし、光硬化性組成物11が硬化過程を通じて保形性を維持する場合、表面形状を維持しつつ膨張または収縮が起こるため、上記表面が平滑でなくても問題は小さい。
【0032】
光硬化性組成物11を収容した収容部材17は、測定台12の所定の位置に設置され、必要に応じて、位置決め部材18で位置決めされる。
【0033】
中空(例えばリング)状の収容部材17を用いる場合は、例えば、測定台12上に収容部材17を設定載置した後に収容部材17に光硬化性組成物11を充填する、又は、光15を透過する板状部材上に収容部材17を載置した後に収容部材17に光硬化性組成物11を充填することにより、光硬化性組成物11を収容部材17に収容すればよい。
【0034】
次に、収容部材17に収容された光硬化性組成物11の表面に、被覆部材20を配置する(被覆部材配置工程)。なお、被覆部材配置工程は、本発明の方法における任意の構成要件である。
【0035】
収容部材17に収容された光硬化性組成物11の表面に配置する被覆部材20は、後段の測定工程で照射するレーザー光13に対する反射率が50%以上であり、質量が10mg以下である。
レーザー光13に対する反射率が不十分な場合は、レーザー光13を吸収が大きく、後段の測定工程において、距離aを正確に測定することができない場合がある。レーザー光に対する反射率の下限は、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、または90%以上であってよい。また、レーザー光に対する反射率の上限は、特に限定されず、100%以下、または95%以下であってよい。
また、被覆部材20の質量が過重だと、自重のため被覆部材20を載置する光硬化性組成物11の表面を押圧し、硬化過程の光硬化性組成物11の粘度次第では、被覆部材20と収容部材17との間から光硬化性組成物11が盛り上がってきてしまい、距離を正確に測定し難くなる。被覆部材の質量は、8.0mg以下が好ましく、6.0mg以下がより好ましく、3.0mg以下がさらに好ましい。被覆部材20の質量の下限は特に限定されず、例えば0.1mg以上、0.5mg以上、または1.0mg以上であってよい。
【0036】
被覆部材20は、測定工程においてそれ自体の形状が崩れない、保形性のある剛体であることが好ましい。測定工程中に被覆部材20自体が変形すると、距離aが被覆部材20自体の変形により変わる場合があるが、それ自体が変形しない剛体を用いることにより、正確な距離aを求めることができる。なお、ここでいう変形とは、外部からの力による変形(撓み等)を意図しない。
【0037】
被覆部材20の厚さは、100μm以下であることが好ましい。光硬化性組成物11が硬化することにより温度変化が生じ、該温度変化により被覆部材20の厚みが変化する場合があるため、厚みの変化の影響を小さくするために、被覆部材20は、100μm以下と薄いことが好ましい。被覆部材20の厚さは、75μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、25μm以下がさらに好ましく、15μm以下が特に好ましい。なお、ここでいう厚さは、被覆部材の厚さの平均値である。
【0038】
また、被覆部材20は、硬化性組成物と接触する面が硬化性組成物に対し化学的に安定な素材であることが好ましい。したがって、被覆部材20は、典型的には金属等の無機質材料からなることが好ましい。金属としては、アルミニウム、鉄、シリコン、銅、銀、金等が挙げられる。
【0039】
被覆部材20は、金属箔であることが好ましい。
【0040】
被覆部材20は、単一部材からなってもよいし、複数部材(基材とその他部材(例えば後述の黒体)とからなる)からなってもよい。後者の場合、被覆部材20について前述した説明は、基材のみ、および複数部材、の双方についてあてはまる。
【0041】
このような被覆部材20は、収容部材17に接触しないように配置することが好ましい。被覆部材20が収容部材17に接触すると、被覆部材20と収容部材17とに摩擦が生じ、光硬化性組成物11の膨張又は収縮に影響を与えてしまうためである。換言すれば、被覆部材20は、収容部材17の開口と同じ大きさ又はそれよりも小さい。上記接触を簡便に防止する観点では後者が好ましい一方、被覆部材20が小さくなるにつれ、光硬化性組成物11のうち、経時的な膨張又は収縮を評価可能な領域が狭くなる点で不利であり得る。このため、収容部材17の開口面積に対する被覆部材20の断面積の下限は、25%以上、35%以上、45%以上、55%以上、65%以上、75%以上、85%以上、又は90%以上であることが好ましく、上限は99%以下、98%以下、97%以下、96%以下、又は95%以下であることが好ましい。この観点で、被覆部材20の素材は、典型的には、金属(白金、鉄、真鍮、アルミニウム、金、銀、銅)が挙げられるが、有色樹脂組成物等であってもよい。
【0042】
次に、被覆部材20が配置された光硬化性組成物11に、エネルギーとしての光15を照射して光硬化性組成物11を硬化させると共に、レーザー光源Xから被覆部材20に連続的にレーザー光13を照射し、その反射光に基づき被覆部材20の位置(距離a)を連続的に測定する(測定工程)。
【0043】
光硬化性組成物11に光15が照射されると、光硬化性組成物11は、まず膨張しその後硬化が進むと収縮する。なお、反応・硬化が速い光硬化性組成物11は、光15が照射されると、すぐに収縮が始まる場合もある。
【0044】
このように、光硬化性組成物11は、光15の照射により硬化する際に膨張や収縮が生じるため、光15を照射してから硬化が完了するまでの間に体積が変化する。
図1においては、光硬化性組成物11は収容部材17に収容され、断面積が略一定のため、光硬化性組成物11は光15を照射してから硬化が完了するまでの間に厚さが変化する。そして、光硬化性組成物11の厚さの変化と同様に、光硬化性組成物11の表面に載置された被覆部材20の位置が変化するため、光硬化性組成物11の厚さの変化と同様に、被覆部材20までの距離aも変化する。すなわち、光硬化性組成物11の厚さが薄くなれば、薄くなった分だけ距離aが長くなる。なお、求められる精度によっては、収容部材17の膨張および収縮に伴う光硬化性組成物11の断面積の変化を考慮する必要があり、その場合は光硬化性組成物11の断面積も測定し、厚さに加えて断面積も考慮して光硬化性組成物11の体積変化、つまり膨張又は収縮を評価することもできる。
【0045】
したがって、測定工程において、光15を照射して光硬化性組成物11を硬化させる際に、レーザー光源Xから被覆部材20に連続的にレーザー光13を照射し、その反射光に基づき被覆部材20の位置(距離a)を連続的に測定することで、光15を照射してから硬化が完了するまでの間の光硬化性組成物11の厚さの変化情報(すなわち推移情報)を得ることができる。なお、光15を照射してから硬化が完了するまでの間の全期間に亘って距離aを測定してもよいが、測定期間は厚さの変化情報を知りたい期間に合わせて任意に選択すればよい。
【0046】
ここで、被覆部材20を用いず、変位計14から光硬化性組成物11の表面までの距離を測定しようとする場合、透明な光硬化性組成物等、光硬化性組成物のレーザー光13に対する反射率が低い場合は、正確な距離を測定し難く、光硬化性組成物の収縮や膨張状態を正確に把握できない場合があるという問題がある。
しかしながら、本発明においては、光硬化性組成物11の表面に被覆部材20を配置し、この被覆部材20は、レーザー光13に対する反射率が50%以上であるため、被覆部材20の位置(距離a)を正確に測定することができる。なお、被覆部材20を載置することにより、光15が被覆部材20により反射されて光硬化性組成物11の硬化が効率的に進み、測定感度が高くなるという効果もある。
【0047】
照射するレーザー光13は特に限定されないが、例えば500nm以上700nm以下の波長の光である。
【0048】
なお、レーザー光源Xからの被覆部材20へのレーザー光13の連続的な照射は、間欠的でも、照射し続けてもよい。
【0049】
次いで、測定工程で測定された距離aの推移から、光硬化性組成物11の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する(評価工程)。
【0050】
例えば、測定工程においてレーザー光源Xを含む変位計14と測定台12の相対位置を固定し、被覆部材20の厚さbと、変位計14と測定台12の表面との距離cと、測定工程で測定された距離aの推移情報を用いて、光硬化性組成物11の厚さTを求め、下記式(1)で硬化収縮率を求める。
A(t)=(T
0−T(t))/T
0×100(%)・・・(1)
A(t):任意の硬化条件による、時刻tにおける硬化収縮率(%)
t:硬化開始後の経過時間
T
0:t=0(硬化開始時)における初期膜厚
T(t):任意の硬化条件による、時刻tにおける膜厚
【0051】
このように任意の時刻tにおける硬化収縮率Aを求めることで、光硬化性組成物11の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価(把握)することができる。例えば、時刻t(秒)における硬化収縮率と時刻t+300(秒)における硬化収縮率の差が極めて小さくなった場合に、t+300(秒)を硬化が完了するまでに要する時間だと判断することができる。
【0052】
なお、上記式(1)では、硬化開始時を基準としたが、硬化開始時の代わりに、照射開始時を基準とし、例えば下記式(2)で硬化収縮率を求めてもよい。
A(t’)=(T
0’−T(t’))/T
0’×100(%)・・・(2)
A(t’):任意の硬化条件による、時刻t’における硬化収縮率(%)
t’:照射後の経過時間
T
0’:t’=0(照射開始時)における初期膜厚
T(t’):任意の硬化条件による、時刻t’における膜厚
【0053】
また、上記では、厚さTに基づき硬化収縮率を求めて、光硬化性組成物11の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する例を示したが、距離aは、光硬化性組成物11の厚さTと相関があるため、距離aで光硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価してもよい。
【0054】
また、上記光硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する方法において、測定工程は、被覆部材から放射される赤外線の量を非接触で連続的に測定する赤外線量測定工程を有し、評価工程は、赤外線量測定工程で測定された赤外線量の推移から、硬化性組成物の硬化による経時的な温度推移を評価する温度評価工程を含んでいてもよい。このように測定工程が赤外線量測定工程を有し、評価工程が温度評価工程を有する態様について、
図3を用いて説明する。
図3は、光硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する方法で用いることができる測定装置の他の例を示す模式的断面図である。
図3において、
図1と同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略してある。
図3に示すように、測定装置30は、
図1の測定装置10において、赤外線量測定装置31を設けた測定装置である。
【0055】
詳述すると、測定装置30は、被覆部材20から放射される赤外線32の量を測定する赤外線量測定装置31を有する。赤外線量測定装置31で、被覆部材20から放射される赤外線32の量を測定し、被覆部材20の熱放射率(既知)を考慮することで、非接触で被覆部材20の温度を求めることができる。
【0056】
そして、
図3の測定装置30を用いて、測定工程において、被覆部材20から放射される赤外線32の量を非接触で連続的に測定し(赤外線量測定工程)、評価工程において、赤外線量測定工程で測定された赤外線量の推移から、光硬化性組成物の硬化による経時的な温度推移を評価する(温度評価工程)。
【0057】
ここで、光硬化性組成物11に光15が照射されると、光硬化性組成物11が硬化する。光硬化性組成物11が硬化することにより、光硬化性組成物11の温度が変化する。そして、被覆部材20は光硬化性組成物11の表面に配置されている。すなわち、光硬化性組成物11と被覆部材20は接触している。したがって、光硬化性組成物11の熱は被覆部材20に伝導するため、光硬化性組成物11の温度変化にともない、被覆部材20の温度も変化する。
【0058】
よって、測定工程において、光15を照射して光硬化性組成物11を硬化させる際に、被覆部材20から放射される赤外線32の量を非接触で連続的に測定することで、光15を照射してから硬化が完了するまでの間の光硬化性組成物11の温度の変化情報(すなわち推移情報)を得ることができる。なお、光15を照射してから硬化が完了するまでの間の全期間に亘って赤外線32の量を測定してもよいが、測定期間は温度の変化情報を知りたい期間に合わせて任意に選択すればよい。
【0059】
光硬化性組成物11の温度は、反応過程で生じる化学エネルギー等により急変する場合があり、外部温度の監視だけでは十分にコントロールできない場合がある。そして、光硬化性組成物11の温度は、硬化性成分の揮発性(実際の製造環境に悪影響を与え得る)、触媒成分の活性(活性の大小だけでなく、失活等の劣化にも影響)等の指標であるため、その推移を把握することは重要である。
【0060】
被覆部材20は、熱伝導率が70Wm
−1K
−1以上であることが好ましい。熱伝導率が70Wm
−1K
−1以上であると、光硬化性組成物11の熱が被覆部材20に伝わりやすいため、より正確に光硬化性組成物11の温度変化情報を評価することができる。熱伝導率の下限は特に限定されず、72Wm
−1K
−1以上(例えば白金)、80Wm
−1K
−1以上(例えば鉄)、90Wm
−1K
−1以上(例えばニッケル)、100Wm
−1K
−1以上(例えば真鍮)、150Wm
−1K
−1以上(例えばシリコン)、200Wm
−1K
−1以上、又は230Wm
−1K
−1以上(例えばアルミニウム、金、銅、銀)であることが好ましい。
【0061】
また、被覆部材20は、主表面の少なくとも一部に黒体を有することが好ましい。主表面とは、赤外線32の量が測定される側の面である。黒体の熱放射率が高く、被覆部材20の温度変化に対する赤外線変化量が大きくなるため、より正確に被覆部材20の温度を測定することができる。
【0062】
黒体としては、例えば黒鉛が挙げられる。黒体を被覆部材20に設ける方法は特に限定されず、例えば黒体を塗布すればよい。
【0063】
このようにして得られた、光硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮の評価情報に基づき、光硬化性組成物の硬化条件、例えば、光硬化性組成物への光の供給条件を設計することができる。
具体的には、光硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮の評価情報を踏まえ、光の供給履歴(供給する量、タイミング、総時間)が適切だったか否かを判断することができ、所望の硬化を実現することができる。例えば、最終的な膨張又は収縮が許容を越えていた場合、光の供給する量または総時間を低下させるのが適切であり得る。また、途中での膨張又は収縮の速度が高すぎていた場合、そのタイミングでの光の供給量を減らす(つまり光の供給速度を穏やかにする)のが適切であり得る。
【0064】
また、光硬化性組成物の温度推移を評価した場合、その情報を踏まえ、光の供給履歴(供給する量、タイミング、総時間)が適切だったか否かを判断することができ、所望の硬化や硬化環境を実現することができる。例えば、途中での温度が高すぎていた場合、そのタイミングでの光の供給量を減らす(つまり光の供給速度を穏やかにする)のが適切であり得る。
【0065】
また、このようにして得られた、光硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮の評価情報に基づき、光硬化性組成物を設計することができる。
具体的には、光硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮の評価情報を踏まえ、光硬化性組成物の組成(例えば、重合開始剤の種や量、重合禁止剤の種や量、フィラーの種、粒度や量等)が適切だったか否かを判断することができ、所望の硬化を実現することができる。例えば、膨張又は収縮が許容を下回っていた場合、重合開始剤の種をより反応性に優れる種に変更したり、量を増やしたり、あるいは重合禁止剤の種をより禁止性能の低い種に変更したり、量を減らしたり、フィラーの量を減らしたりすることができる。膨張又は収縮が許容を上回っていた場合は、重合開始剤の種をより反応性の低い種に変更したり、量を減らしたり、あるいは重合禁止剤の種をより禁止性能の高い種に変更したり、量を増やしたり、フィラーの量を増やしたりすることができる。
【0066】
また、光硬化性組成物の温度推移を評価した場合、その情報を踏まえ、光硬化性組成物の組成(例えば、重合開始剤の種や量、重合禁止剤の種や量、フィラーの種、粒度や量等)が適切だったか否かを判断することができ、所望の硬化や硬化環境を実現することができる。例えば、途中での温度が高すぎていた場合、揮発温度が高いモノマーを採用したり、高温耐久性のある触媒を使ったりすることができる。
【0067】
<熱硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する方法>
熱硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する方法について、
図4を用いて説明する。
図4は、熱硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する方法で用いることができる測定装置の一例を示す模式的断面図である。
図4において、
図1と同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略してある。
図4に示すように、測定装置40は、熱硬化性組成物41を測定する装置であり、
図1の測定装置10において、光照射装置16の代わりに、加熱・冷却装置42を設け、測定台12の代わりに測定台43を用いた測定装置である。
【0068】
詳述すると、測定装置40は、収容部材17に収容された熱硬化性組成物41を加熱や冷却することで、熱硬化性組成物41を硬化する加熱・冷却装置42を有する。また、測定装置40が有する測定台43は、加熱・冷却装置42により温度が調整できる材質である。
【0069】
熱硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する方法においては、このような測定装置40を用いて、まず、硬化性組成物としての熱硬化性組成物41を、収容部材17に収容する(収容工程)。なお、収容工程は、本発明の方法における任意の構成要件である。
【0070】
熱硬化性組成物41は、熱により硬化する熱硬化性成分を含んでいればよい。熱硬化性成分としては、例えば、(メタ)アクリレートやエポキシ化合物が挙げられ、1種類でも2種類以上でもよい。なお、(メタ)アクリレートは熱硬化によりアクリル樹脂を生成し、エポキシ化合物は熱硬化によりエポキシ樹脂を生成する。
また、熱硬化性組成物41は、通常熱硬化性組成物に含まれる添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、充填剤、触媒、重合開始剤、硬化剤等が挙げられる。
【0071】
収容部材17は、熱により変形し難い材質であることが好ましいこと以外は、光硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する方法において用いるものと同様である。
【0072】
熱硬化性組成物41を収容した収容部材17は、測定台12の所定の位置に設置され、必要に応じて、位置決め部材18で位置決めされる。
【0073】
中空(例えばリング状)の収容部材17を用いる場合は、例えば、測定台12上に収容部材17を設定載置した後に収容部材17に熱硬化性組成物41を充填する、又は、板状部材上に収容部材17を載置した後に収容部材17に熱硬化性組成物41を充填することにより、熱硬化性組成物41を収容部材17に収容すればよい。
【0074】
次に、収容部材17に収容された熱硬化性組成物41の表面に、被覆部材20を配置する(被覆部材配置工程)。なお、被覆部材配置工程は、本発明の方法における任意の構成要件である。
【0075】
収容部材17に収容された熱硬化性組成物41の表面に配置する被覆部材20は、光硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する方法において用いるものと同様である。
【0076】
このような被覆部材20は、収容部材17に接触しないように配置することが好ましい。被覆部材20が収容部材17に接触すると、被覆部材20と収容部材17とに摩擦が生じ、熱硬化性組成物の膨張又は収縮に影響を与えてしまうためである。
【0077】
次に、被覆部材20が配置された熱硬化性組成物41に、エネルギーとしての熱を供給する、すなわち加熱して、熱硬化性組成物41を硬化させると共に、レーザー光源Xから被覆部材20に連続的にレーザー光13を照射し、その反射光に基づき変位計14から被覆部材20までの距離a(被覆部材20の位置)を連続的に測定する(測定工程)。
【0078】
熱硬化性組成物41が加熱されると、熱硬化性組成物41は、温度上昇中は膨張し、硬化温度に達し硬化が始まると収縮を始め、常温に戻るまで収縮が続く。
【0079】
このように、熱硬化性組成物41は、加熱により硬化する際に膨張や収縮が生じるため、加熱してから硬化が完了するまでの間に体積が変化する。
図4においては、熱硬化性組成物41は収容部材17に収容されているため、熱硬化性組成物41は加熱してから硬化が完了するまでの間に厚さが変化する。そして、熱硬化性組成物41の厚さの変化と同様に、熱硬化性組成物41の表面に載置された被覆部材20の位置が変化するため、熱硬化性組成物41の厚さの変化と同様に、被覆部材20までの距離aも変化する。すなわち、熱硬化性組成物41の厚さが薄くなれば、薄くなった分だけ距離aが長くなる。
【0080】
したがって、測定工程において、加熱して熱硬化性組成物41を硬化させる際に、レーザー光源Xから被覆部材20に連続的にレーザー光13を照射し、その反射光に基づき被覆部材20の位置(距離a)を連続的に測定することで、加熱してから硬化が完了するまでの間の熱硬化性組成物41の厚さの変化情報(すなわち推移情報)を得ることができる。なお、加熱してから硬化が完了するまでの間の全期間に亘って距離aを測定してもよいが、測定期間は厚さの変化情報を知りたい期間に合わせて任意に選択すればよい。
【0081】
ここで、被覆部材20を用いず、変位計14から熱硬化性組成物41の表面までの距離を測定しようとする場合、透明な熱硬化性組成物等、熱硬化性組成物のレーザー光13に対する反射率が低い場合は、正確な距離を測定し難く、熱硬化性組成物41の収縮や膨張状態を正確に把握できない場合があるという問題がある。
しかしながら、本発明においては、熱硬化性組成物41の表面に被覆部材20を配置し、この被覆部材20は、レーザー光13に対する反射率が50%以上であるため、被覆部材20の位置(距離a)を正確に測定することができる。なお、被覆部材20を載置することにより、熱が逃げにくくなるため熱硬化性組成物41の硬化が効率的に進み、測定感度が高くなるという効果もある。
【0082】
照射するレーザー光13は、光硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する方法において用いるものと同様である。
【0083】
なお、レーザー光源Xからの被覆部材20へのレーザー光13の連続的な照射は、間欠的でも、照射し続けてもよい。
【0084】
次いで、測定工程で測定された距離aの推移から、熱硬化性組成物41の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する(評価工程)。評価工程については、光硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する方法における評価工程と同様である。
【0085】
また、測定工程は、被覆部材から放射される赤外線の量を非接触で連続的に測定する赤外線量測定工程を有し、評価工程は、赤外線量測定工程で測定された赤外線量の推移から、硬化性組成物の硬化による経時的な温度推移を評価する温度評価工程を含んでいてもよい。このように測定工程が赤外線量測定工程を有し、評価工程が温度評価工程を有する場合は、
図4における測定装置40に、
図3における赤外線量測定装置31を設けた測定装置を用いればよい。
【0086】
そして、
図4における測定装置40に、
図3における赤外線量測定装置31を設けた測定装置を用いて、測定工程において、被覆部材20から放射される赤外線32の量を非接触で連続的に測定し(赤外線量測定工程)、評価工程において、赤外線量測定工程で測定された赤外線量の推移から、熱硬化性組成物の硬化による経時的な温度推移を評価する(温度評価工程)。
【0087】
ここで、熱硬化性組成物41が加熱されると、加熱及び硬化反応に応じて熱硬化性組成物41の温度が変化する。そして、被覆部材20は熱硬化性組成物41の表面に配置されている。すなわち、熱硬化性組成物41と被覆部材20は接触している。したがって、熱硬化性組成物41の熱は被覆部材20に伝導するため、熱硬化性組成物41の温度変化にともない、被覆部材20の温度も変化する。
【0088】
よって、測定工程において、加熱して熱硬化性組成物41を硬化させる際に、被覆部材20から放射される赤外線32の量を非接触で連続的に測定することで、被覆部材20の熱放射率から、加熱してから硬化が完了するまでの間の熱硬化性組成物41の温度の変化情報(すなわち推移情報)を得ることができる。熱硬化性組成物を評価する場合、その温度は硬化反応に対する影響力が大きいため、温度変化を評価する重要性は一層高い。なお、加熱してから硬化が完了するまでの間の全期間に亘って赤外線32の量を測定してもよいが、測定期間は温度の変化情報を知りたい期間に合わせて任意に選択すればよい。
【0089】
被覆部材20については、光硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する方法において用いるものと同様である。
【0090】
なお、評価する対象である硬化性組成物が、光硬化性組成物及び熱硬化性組成物の混合物の場合は、
図1の測定装置10にさらに
図4の加熱・冷却装置42を設けた測定装置や、
図3の測定装置30においてさらに
図4の加熱・冷却装置42を設けた測定装置を用いることにより、硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価することができる。
【0091】
以上の評価方法で得られる情報に基づく、熱硬化性組成物への熱供給条件の設計方法および熱硬化性組成物の設計方法は、光硬化性組成物のそれらと同様(光を熱に置き換えるだけ)であるため、説明を省略する。
【実施例】
【0092】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0093】
(実施例1)
図1の測定装置10を用いて、以下の条件において、光硬化性組成物11の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価した。測定条件は以下である。
<条件>
光硬化性組成物11:アクリル樹脂(商品名:U−1542J、ケミテック社製)
収容部材17:テフロン(登録商標)製、内径10.0mm、外径30mm、厚さ1.0mmのリング状部材
被覆部材20:質量2.5mg、厚さ11μmのアルミ箔
測定台(ステージ)12:ガラス製板状部材
光照射装置(紫外線照射装置)16:UV−LED
紫外線照射条件:波長365nm、照度200mW/cm
2、照射時間30秒(s)
距離aの測定間隔:1秒
距離aの測定時間:照射開始から120秒
硬化収縮率(収縮率):算出に下記式を使用した。
A(t)=(V
0−V(t))/V
0×100(%)
=(T
0−T(t))/T
0×100(%)
A(t):任意の硬化条件による,時刻tにおける硬化収縮率(%)
t:硬化開始後の経過時間
V
0:t=0における初期体積,
V
0=T
0×S
V(t):時刻tにおける体積,
V(t)=T(t)×S
S:試料断面積
T
0:t=0における初期膜厚
T(t):任意の硬化条件による,時刻tにおける膜厚
結果を
図5に示す。
【0094】
(比較例1)
光硬化性組成物11の表面に被覆部材20を載置しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を
図6に示す。
【0095】
図5に示すように、光硬化性組成物11の表面に被覆部材20を配置して被覆部材20の位置(距離a)を求めた実施例1では、硬化にともなう収縮を適切に検知できていた。
一方、
図6に示すように、光硬化性組成物11の表面に被覆部材20を配置せずに光硬化性組成物11の位置(距離)を求めた比較例1では、実際には収縮していたにも関わらず、収縮率が負の値(すなわち膨張)になり、硬化にともなう収縮を適切に検知できなかった。
【解決手段】硬化性組成物11の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する方法であって、収容部材に収容されかつ表面に被覆部材20が配置された硬化性組成物を硬化させると共に、レーザー光源Xから被覆部材に連続的にレーザー光13を照射し、その反射光に基づき被覆部材の位置を連続的に測定する測定工程と、測定工程で測定された位置の推移から、硬化性組成物の硬化による経時的な膨張又は収縮を評価する評価工程と、を含み、被覆部材は、レーザー光に対する反射率が50%以上であり、質量が10mg以下である。