特許第6632010号(P6632010)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6632010プランクトンからの3、5−ジヒドロキシ−4−メトキシベンジルアルコール(3、5−dihydroxy−4−methoxybenzyl alcohol)の生成方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6632010
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】プランクトンからの3、5−ジヒドロキシ−4−メトキシベンジルアルコール(3、5−dihydroxy−4−methoxybenzyl alcohol)の生成方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/22 20060101AFI20200106BHJP
   C12N 1/12 20060101ALI20200106BHJP
   C07C 41/44 20060101ALI20200106BHJP
   C07C 43/23 20060101ALI20200106BHJP
   C09K 15/08 20060101ALN20200106BHJP
   A23L 17/40 20160101ALN20200106BHJP
【FI】
   C12P7/22
   C12N1/12 Z
   C07C41/44
   C07C43/23 A
   !C09K15/08
   !A23L17/40 C
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-53147(P2019-53147)
(22)【出願日】2019年3月20日
【審査請求日】2019年4月10日
(31)【優先権主張番号】特願2018-148628(P2018-148628)
(32)【優先日】2018年8月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596161031
【氏名又は名称】株式会社渡辺オイスター研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100082658
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 儀一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 貢
【審査官】 藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−042825(JP,A)
【文献】 特開2012−153852(JP,A)
【文献】 特開2018−118910(JP,A)
【文献】 特開2017−132753(JP,A)
【文献】 付着生物研究 (1994) Vol.10, No.2, pp.7-25
【文献】 Food Chemistry (2012) Vol.134, pp.2086-2089
【文献】 J. Agric. Food Chem. (2012) Vol.60, No.3, pp.830-835
【文献】 Bulletin of the Japanese Society of Scientific Fisheries (1977) Vol.43, No.12, pp.1391-1396
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/00
C12N 1/00
C09K 15/00
C07C 41/00
C07C 43/00
A23L 17/00
A23L 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取したプランクトンを含む海水につき、フィルターを用いてろ過を行い、前記フィルター上に残ったプランクトンにつき細胞内容物の取り出しを行ない、その後取り出した細胞内容物を100℃の温度で1時間以上加熱し、該加熱した加熱物から3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を生成してなり、
前記プランクトンは、珪藻門、クサリケイソウ亜門、クサリケイソウ綱、クサリケイソウ亜綱、コバンケイソウ目(スリレラ(Surirellales)目)、ヨジレケイソウ科(エントモネイス(Entomoneidaceae)科)、ヨジレケイソウ属(エントモネイス(Entomoneis)属)の珪藻である、
ことを特徴とするプランクトンからの3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)の生成方法。
【請求項2】
採取したプランクトンを含む海水につき、フィルターを用いてろ過を行い、フィルター上に残ったプランクトンにつき抽出液を加えて破砕し、前記プランクトンから細胞内容物の抽出を行った後、100℃の温度で1時間以上加熱し、該加熱した加熱物から3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を生成してなり、
前記プランクトンは、珪藻門、クサリケイソウ亜門、クサリケイソウ綱、クサリケイソウ亜綱、コバンケイソウ目(スリレラ(Surirellales)目)、ヨジレケイソウ科(エントモネイス(Entomoneidaceae)科)、ヨジレケイソウ属(エントモネイス(Entomoneis)属)の珪藻である、
ことを特徴とするプランクトンからの3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)の生成方法。
【請求項3】
採取したプランクトンを含む海水につき、フィルターを用いてろ過を行い、前記フィルター上に残ったプランクトンにつき細胞内容物の取り出しを行ない、その後取り出した細胞内容物を2気圧で1時間以上加圧し、該加圧した加圧物から3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を生成してなり、
前記プランクトンは、珪藻門、クサリケイソウ亜門、クサリケイソウ綱、クサリケイソウ亜綱、コバンケイソウ目(スリレラ(Surirellales)目)、ヨジレケイソウ科(エントモネイス(Entomoneidaceae)科)、ヨジレケイソウ属(エントモネイス(Entomoneis)属)の珪藻である、
ことを特徴とするプランクトンからの3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)の生成方法。
【請求項4】
採取したプランクトンを含む海水につき、フィルターを用いてろ過を行い、フィルター上に残ったプランクトンにつき抽出液を加えて破砕し、前記プランクトンから細胞内容物の抽出を行った後、2気圧で1時間以上加圧し、該加圧した加圧物から3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を生成してなり、
前記プランクトンは、珪藻門、クサリケイソウ亜門、クサリケイソウ綱、クサリケイソウ亜綱、コバンケイソウ目(スリレラ(Surirellales)目)、ヨジレケイソウ科(エントモネイス(Entomoneidaceae)科)、ヨジレケイソウ属(エントモネイス(Entomoneis)属)の珪藻である、
ことを特徴とするプランクトンからの3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プランクトンから抗酸化物質である3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を生成する3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)の生成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本件発明者は、すでに新規の抗酸化物質である3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール:3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol(以下DHMBA(ディーバ)と称する)を加熱したカキ肉より見いだし、その合成、同定にも成功している。尚、生カキ肉からはDHMBA(ディーバ)は検出されていない。
ここで、カキの生態的特徴としては、多量の海水を吸い込み、吸い込んだ多量の海水より餌となるプランクトンを取り込むことが一般に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−42825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかして、本件発明者は、本発明において、プランクトンにDHMBA(ディーバ)が含まれるとの仮説を立てた。
そこでプランクトンを採取、濾過し、プランクトン中のDHMBA(ディーバ)を測定したところ、DHMBA(ディーバ)は検出されなかった。次にそのプランクトンを採取、濾過し、加熱したところ、DHMBA(ディーバ)が検出された。また、プランクトンを採取、濾過し、加圧したところ、DHMBA(ディーバ)が検出された。
【0005】
よって、本件発明者は、前記DHMBA(ディーバ)がプランクトン由来の有用物質であると考え、当該プランクトンからのDHMBA(ディーバ)の生成方法を創案するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
採取したプランクトンを含む海水につき、フィルターを用いてろ過を行い、前記フィルター上に残ったプランクトンにつき細胞内容物の取り出しを行ない、その後取り出した細胞内容物を100℃の温度で1時間以上加熱し、該加熱した加熱物から3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を生成してなり、
前記プランクトンは、珪藻門、クサリケイソウ亜門、クサリケイソウ綱、クサリケイソウ亜綱、コバンケイソウ目(スリレラ(Surirellales)目)、ヨジレケイソウ科(エントモネイス(Entomoneidaceae)科)、ヨジレケイソウ属(エントモネイス(Entomoneis)属)の珪藻である、
ことを特徴とし、
または、
採取したプランクトンを含む海水につき、フィルターを用いてろ過を行い、フィルター上に残ったプランクトンにつき抽出液を加えて破砕し、前記プランクトンから細胞内容物の抽出を行った後、100℃の温度で1時間以上加熱し、該加熱した加熱物から3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を生成してなり、
前記プランクトンは、珪藻門、クサリケイソウ亜門、クサリケイソウ綱、クサリケイソウ亜綱、コバンケイソウ目(スリレラ(Surirellales)目)、ヨジレケイソウ科(エントモネイス(Entomoneidaceae)科)、ヨジレケイソウ属(エントモネイス(Entomoneis)属)の珪藻である、
ことを特徴とし、
または、
採取したプランクトンを含む海水につき、フィルターを用いてろ過を行い、前記フィルター上に残ったプランクトンにつき細胞内容物の取り出しを行ない、その後取り出した細胞内容物を2気圧で1時間以上加圧し、該加圧した加圧物から3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を生成してなり、
前記プランクトンは、珪藻門、クサリケイソウ亜門、クサリケイソウ綱、クサリケイソウ亜綱、コバンケイソウ目(スリレラ(Surirellales)目)、ヨジレケイソウ科(エントモネイス(Entomoneidaceae)科)、ヨジレケイソウ属(エントモネイス(Entomoneis)属)の珪藻である、
ことを特徴とし、
または、
採取したプランクトンを含む海水につき、フィルターを用いてろ過を行い、フィルター上に残ったプランクトンにつき抽出液を加えて破砕し、前記プランクトンから細胞内容物の抽出を行った後、2気圧で1時間以上加圧し、該加圧した加圧物から3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を生成してなり、
前記プランクトンは、珪藻門、クサリケイソウ亜門、クサリケイソウ綱、クサリケイソウ亜綱、コバンケイソウ目(スリレラ(Surirellales)目)、ヨジレケイソウ科(エントモネイス(Entomoneidaceae)科)、ヨジレケイソウ属(エントモネイス(Entomoneis)属)の珪藻である、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、プランクトンを含む海水を採取し、該海水に含まれるプランクトンから抗酸化物質であるDHMBA(ディーバ)の生成方法を提供できるとの優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】採取した海水を濾過する説明図である。
図2】濾過したフィルター上に残ったプランクトンをソニケーションし、その後DHMBA(ディーバ)を加熱抽出する説明図である。
図3】濾過したフィルター上に残ったプランクトンをソニケーションし、その後DHMBA(ディーバ)を加圧抽出する説明図である。
図4】広島の所定海域で所定時期に採取した海水に存するプランクトンを加熱したときにDHMBA(ディーバ)が生成されているか否かを説明する説明図(1)である。
図5】広島の所定海域で所定時期に採取した海水に存するプランクトンを加熱したときにDHMBA(ディーバ)が生成されているか否かを説明する説明図(2)である。
図6】宮城の所定海域で所定時期に採取した海水に存するプランクトンを加熱したときにDHMBA(ディーバ)が生成されているか否かを説明する説明図である。
図7】宮城の所定海域で所定時期に採取した海水に存するプランクトンを加圧したときにDHMBA(ディーバ)が生成されているか否かを説明する説明図である。
図8】検索条件を環境由来配列を除く全体に対して検索した結果を説明する説明図(1)である。
図9】検索条件を環境由来配列を除く全体に対して検索した結果を説明する説明図(2)である。
図10】検索条件をタイプ由来配列に限定して検索した結果を説明する説明図(1)である。
図11】検索条件をタイプ由来配列に限定して検索した結果を説明する説明図(2)である。
図12】検索条件を環境由来配列を除く全体に対して検索した結果を説明する説明図(3)である。
図13】検索条件を環境由来配列を除く全体に対して検索した結果を説明する説明図(4)である。
図14】検索条件を環境由来配列を除く全体に対して検索した結果を説明する説明図(5)である。
図15】検索条件をタイプ由来配列に限定して検索した結果を説明する説明図(3)である。
図16】検索条件をタイプ由来配列に限定して検索した結果を説明する説明図(4)である。
図17】検索条件をタイプ由来配列に限定して検索した結果を説明する説明図(5)である。
図18】検索条件を環境由来配列を除く全体に対して検索した結果を説明する説明図(6)である。
図19】検索条件を環境由来配列を除く全体に対して検索した結果を説明する説明図(7)である。
図20】検索条件を環境由来配列を除く全体に対して検索した結果を説明する説明図(8)である。
図21】検索条件をタイプ由来配列に限定して検索した結果を説明する説明図(6)である。
図22】検索条件をタイプ由来配列に限定して検索した結果を説明する説明図(7)である。
図23】検索条件をタイプ由来配列に限定して検索した結果を説明する説明図(8)である。
図24】検索条件を環境由来配列を除く全体に対して検索した結果を説明する説明図(9)である。
図25】検索条件を環境由来配列を除く全体に対して検索した結果を説明する説明図(10)である。
図26】検索条件を環境由来配列を除く全体に対して検索した結果を説明する説明図(11)である。
図27】検索条件をタイプ由来配列に限定して検索した結果を説明する説明図(9)である。
図28】検索条件をタイプ由来配列に限定して検索した結果を説明する説明図(10)である。
図29】検索条件をタイプ由来配列に限定して検索した結果を説明する説明図(11)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、主にカキ養殖が行われている海域(例えば広島・宮城海域)での所定時期の海水を採取し、採取した海水につき、濾過を行い、濾過に使用したフィルター上に残ったプランクトン1を取り出し、それを加熱、あるいは加圧後、DHMBA(ディーバ)が検出されるか否かの探索・分析を行ったものである。
【0010】
まず、加熱によるDHMBA(ディーバ)の検出につき説明する。
カキ養殖の現場海域(例えば広島・宮城海域)での海水を採取した。
【0011】
(プランクトンを含む海水の採取)
カキ養殖が行われている海域(例えば、広島、宮城海域)における所定時期での海水、即ち、広島県での海域では、9月、3月のプランクトンを含む海水を、宮城県での海域では5月のプランクトンを含む海水をポンプなどで汲み上げる。
なお、本実施例では、広島や宮城での海域の海水を採取したが、広島や宮城の海水に限定されるものではない。
また、時期についても9月或いは3月の海水に限定はされない。
【0012】
(プランクトンを含む海水の濾過)
プランクトン1を含む海水を採取した後、この海水を不織布などで構成された、例えばGF/Cフィルター4にて濾過する(図1参照)。
ここで、濾過する海水の量については、何ら限定されるものではないが、今回は広島あるいは宮城の海域においておのおの約3100リットルの海水を採取し、これを濾過した。
なお、上記手法にて濾過済みのフィルターには、その上に多くのプランクトン1が付着しており、このプランクトン1が付着したフィルターは抽出作業を行うまで冷凍保存することができる。
【0013】
(超音波処理)
次に、例えばプランクトン1が付着したフィルターを冷凍保存し、その冷凍保存してあるフィルターを遠沈管等の容器5に入れ、該容器5内に例えば超純水を加えて、プランクトン1をさらに例えば超音波で1時間程度ソニケーションまたはボールミルによって、細胞壁を破壊し、DHMBA(ディーバ)などを抽出しやすくする。
【0014】
(抽出)
前記例えばソニケーション等の方法でプランクトン1の細胞を破壊した後、それを加熱して該細胞の内容物を取り出す。すなわち前記のプランクトンなどを約100℃で湯煎抽出など行う(図2参照)。
ここで、湯煎抽出による加熱であるから、前記容器5内のプランクトン1を直接加熱するものではない。すなわち、ビーカーなどに加熱した湯を貯留し、この湯の中に容器5を入れて、いわゆる間接的な加熱を行う。これにより、温度を一定にして加熱出来ることなど安定的な加熱抽出が出来る利点がある。
【0015】
(サンプリング)
そして、前記湯煎抽出については、1時間ごとに5時間のサンプリングを行った。
【0016】
(有用物質分析)
前記サンプリングしたプランクトン1のDHMBA(ディーバ)の濃度をLC-MS/MSで測定した。
【0017】
(広島海域サンプリングの抽出実験の結果)
すると、前記の2016年9月、2017年3月の広島海域サンプリングについては、9月、3月ともに、加熱前のプランクトンにはDHMBA(ディーバ)は検出されなかった。
しかし、9月の広島海域サンプルについては、加熱した後、すなわち湯煎抽出後1時間後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.303(ng/L)検出されたことが確認できた。また、湯煎抽出後2時間後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.297(ng/L)検出され、湯煎抽出後3時間後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.279(ng/L)検出されたことが確認できた。さらに、湯煎抽出後4時間後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.274(ng/L)検出され、湯煎抽出後5時間後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.217(ng/L)検出されたことが確認できた。
【0018】
また、3月の広島海域サンプルについては、加熱した後、すなわち湯煎抽出後1時間後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.906(ng/L)検出されたことが確認できた。また、湯煎抽出後2時間後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.66(ng/L)検出され、湯煎抽出後3時間後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.686(ng/L)検出されたことが確認できた。さらに、湯煎抽出後4時間後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.517(ng/L)検出され、湯煎抽出後5時間後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.794(ng/L)検出されたことが確認できた(図4図5参照)。
【0019】
(宮城海域サンプリングの抽出実験の結果)
2016年5月の宮城海域サンプリングでのDHMBA(ディーバ)の検出結果を図6に示す。
【0020】
図6には、DHMBA(ディーバ)抽出量の時間ごとの変化が示されている。加熱前のサンプルには、広島海域サンプルと同様に、加熱前のプランクトンにはDHMBA(ディーバ)は検出されなかった。しかし、加熱した後、すなわち湯煎抽出後1時間後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.108(ng/L)検出されたことが確認できた。また、湯煎抽出後2時間後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.113(ng/L)検出され、湯煎抽出後3時間後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.156(ng/L)検出されたことが確認できた。さらに、湯煎抽出後4時間後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.125(ng/L)検出され、湯煎抽出後5時間後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.134(ng/L)検出されたことが確認できた(図6参照)。
【0021】
尚、加熱時間については1時間経過後との時間に限定されない。1時間より短い加熱時間でDHMBA(ディーバ)が検出される可能性もある。
いずれにせよ、プランクトンを加熱しないときには、そのプランクトンからはDHMBA(ディーバ)は検出されないが、プランクトンを加熱したときは、速やかに加熱したプランクトンからDHMBA(ディーバ)が検出できることが明らかになった。
【0022】
次に、加圧によるDHMBA(ディーバ)の検出につき説明する。
まず、カキ養殖の現場海域(例えば宮城海域)での海水を採取した。
【0023】
(プランクトンを含む海水の採取)
カキ養殖が行われている海域(例えば、宮城海域)における所定時期での海水、即ち、宮城県での海域では2016年5月のプランクトンを含む海水をポンプなどで汲み上げる。
なお、本実施例では、宮城での海域の海水を採取したが、宮城の海水に限定されるものではない。また、時期についても5月の海水に限定はされない。
【0024】
(プランクトンを含む海水の濾過)
プランクトン1を含む海水を採取した後、この海水を不織布などで構成された、例えばGF/Cフィルター4にて濾過する(図1参照)。
ここで、濾過する海水の量については、何ら限定されるものではないが、今回は宮城の海域において約3100リットルの海水を採取し、これを濾過した。
なお、上記手法にて濾過済みのフィルターには、その上に多くのプランクトン1が付着しており、このプランクトン1が付着したフィルターは抽出作業を行うまで冷凍保存することが出来る。
【0025】
(超音波処理)
次に、例えばプランクトン1が付着したフィルターを冷凍保存し、その冷凍保存したフィルターを遠沈管等の容器5に入れ、該容器5内に例えば超純水を加えて、プランクトン1をさらに例えば超音波で1時間程度ソニケーションまたはボールミルによって、細胞壁を破壊し、DHMBA(ディーバ)などを抽出しやすくする。
【0026】
(抽出)
その後、前記例えばソニケーション等の方法でプランクトン1の細胞を破壊した後、それを加圧して該細胞の内容物を取り出す。すなわち前記のプランクトンなどを約2気圧に加圧して抽出した(図3参照)。
ここで、加圧方法については何ら限定されない。一般的な方法である加圧釜を使用して行って加圧しても構わない。また、ほかの方法で加圧しても構わない。
【0027】
(サンプリング)
そして、前記加圧抽出については、1時間ごとに5時間のサンプリングを行った。
【0028】
(有用物質分析)
前記サンプリングしたプランクトン1のDHMBA(ディーバ)の濃度をLC-MS/MSで測定した。
【0029】
(宮城海域サンプリングの抽出実験の結果)
宮城海域サンプリングでのDHMBA(ディーバ)の検出結果を図7に示す。
【0030】
図7には、DHMBA(ディーバ)抽出量の時間ごとの変化が示されている。加圧前のプランクトンにはDHMBA(ディーバ)は検出されなかった。2気圧で加圧した後、すなわち2気圧で1時間加圧後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.05(ng/L)検出されたことが確認できた。また、2気圧で2時間加圧後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.29(ng/L)検出され、2気圧で3時間加圧後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.49(ng/L)検出されたことが確認できた。さらに、2気圧で4時間加圧後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.58(ng/L)検出され、2気圧で5時間加圧後には、DHMBA(ディーバ)抽出量は、0.67(ng/L)検出されたことが確認できた(図7参照)。
【0031】
いずれにせよ、プランクトンを加圧しないときには、そのプランクトンからはDHMBA(ディーバ)は検出されないが、プランクトンを加圧したときは、速やかに加圧したプランクトンからDHMBA(ディーバ)が検出できることが明らかになった。
【0032】
(DHMBA(ディーバ)が検出できるプランクトン1の特定)
海水中のプランクトン1は多種類存在しており、いかなる種類のプランクトン1につきDHMBA(ディーバ)が検出されたのかは不明であった。そこで本件発明者は、DHMBA(ディーバ)が検出されたプランクトン1を特定することにした。
本件発明者は、前記のように海水を採取し、その中のプランクトン1を取得した。
取得した大量種類のプランクトン1から約200種類ほど選択し、その約200種類のプランクトン1をそれぞれ培養した。
そして、それぞれ培養した約200種類のプランクトンにつき、前述のDHMBA(ディーバ)抽出処理を行った。すなわち、前記した超音波処理、前記の加熱あるいは加圧による抽出処理などを行ったのである。
【0033】
その結果、DHMBA(ディーバ)が検出されたプランクトン1は、微細藻類4株であった。そして、この微細藻類4株の形態上から詳細に観察したところ、これらは、珪藻であることが特定出来た。
尚、珪藻は植物プランクトンの中で最も豊富であり、多種類存在している。
しかるに、本件発明者がDHMBA(ディーバ)が検出された前記微細藻類4株の形態を顕微鏡によって詳細に観察したところ、4株すべて珪藻であった。ここで、使用した顕微鏡の倍率は、1,000倍(接眼レンズ:10倍、対物レンズ:100倍)である。
前記微細藻類4株、すなわち、珪藻は、湾内の海水に広く分布する海産珪藻の仲間で、豊富な不飽和脂肪酸を生産する珪藻として知られている。また、超浮遊性の珪藻としても知られている。
【0034】
次に本件発明者は、前記微細藻類4株、すなわち珪藻のDNA分析を行い、さらなる珪藻の具体的特定を企図した。
DNA分析では、珪藻がいかなる分級階級に属するかについて行うものであり、前記分級階級は「門」、「亜門」、「綱」、「亜綱」、「目」、「科」、「属」、「種」と分類されている。そして「門」から「種」に近づくにつれより特定されていくものとなる。
以下にそのDNA分析の経過につき説明する。
【0035】
DHMBA(ディーバ)が検出された珪藻(H-7-09株)の同定
クサリケイソウ亜綱の珪藻であると思われる。但し、「目」以下のレベルの同定には至らなかった。
【0036】
(方法)
Genbank(NCBI, NHI)でmegablast検索を実施
検索条件(1) 環境由来配列を除く全体に対して検索(図8図9
→こちらの結果に基づいて考察する。
検索条件(2) タイプ由来配列に限定して検索(図10図11
→比較対象の配列データの情報量が不十分であったため、こちらの結果に基づく考察は行わない。
【0037】
(megablast検索結果)
・18S
Humidophila schmassmannii isolate HYU-D030株の配列と約96.2%の相同性を示した。
→相同性が96%程度と低い。
但し、2番目以降にヒットした配列も考慮すると、クサリケイソウ綱サリケイソウ亜綱の珪藻であると推定される。
・28S D2R2による配列
Pseudo-nitzschia multistriata strain HAB-132株の配列と約96.1%の相同性を示した。
→相同性が96%程度と低い。また、配列が短いうえ、スコア、カバー率とも低く、18Sの結果に比べ、同定結果への信頼度が低い。
但し、18Sの結果から推定される、クサリケイソウ亜綱の珪藻である可能性と矛盾していない。
【0038】
(同定結果)
珪藻門、クサリケイソウ亜門、サリケイソウ綱、クサリケイソウ亜綱の珪藻であると思われる。
但し、「目」以下のレベルは同定できない。
【0039】
DHMBA(ディーバ)が検出された珪藻(H-9-05株)の同定
珪藻門、クサリケイソウ亜門、クサリケイソウ綱、クサリケイソウ亜綱、コバンケイソウ目(スリレラ(Surirellales)目)、ヨジレケイソウ科(エントモネイス(Entomoneidaceae)科)、ヨジレケイソウ属(エントモネイス(Entomoneis)属)の珪藻であると思われる。
但し、「種」レベルの同定には至らなかった。
【0040】
(方法)
Genbank(NCBI, NHI)でmegablast検索を実施
検索条件(1) 環境由来配列を除く全体に対して検索(図12図13図14
→こちらの結果に基づいて考察する。
検索条件(2) タイプ由来配列に限定して検索(図15図16図17
→比較対象の配列データの情報量が不十分であったため、こちらの結果に基づく考察は行わない。
【0041】
(megablast検索結果)
・18S
Entomoneis paludosa L431株の配列と98%の相同性を示した。
→相同性が98%と低めであるが、2番目以降もヨジレケイソウ属(エントモネイス(Entomoneis)属)がヒットしていることを考慮すると、珪藻門、クサリケイソウ亜門、クサリケイソウ綱、クサリケイソウ亜綱、コバンケイソウ目(スリレラ(Surirellales)目)、ヨジレケイソウ科(エントモネイス(Entomoneidaceae)科)、ヨジレケイソウ属(エントモネイス(Entomoneis)属)の珪藻であると推定される。
・28S D2C2による配列
Entomoneis ornata 27D株の配列と92%の相同性を示した。
→相同性が92%とかなり低く、あまり参考にならない。また、配列が短いうえ、スコア、カバー率とも低く、18Sの結果に比べ、同定結果への信頼度がかなり低い。
但し、18Sの結果から推定される、ヨジレケイソウ属(エントモネイス(Entomoneis)属)の珪藻である可能性と矛盾していない。
・28S D2R2による配列
Pseudo-nitzschia multistriata HAB-132株の配列と96%の相同性を示した。
→相同性が96%と低く、あまり参考にならない。また、配列が短いうえ、スコア、カバー率がD2C2に比べても低く、同定結果への信頼度がかなり低い。
但し、18Sの結果から推定される、クサリケイソウ亜綱の珪藻である可能性と矛盾していない。
【0042】
(同定結果)
珪藻門、クサリケイソウ亜門、クサリケイソウ綱、クサリケイソウ亜綱、コバンケイソウ目(スリレラ(Surirellales)目)、ヨジレケイソウ科(エントモネイス(Entomoneidaceae)科)、ヨジレケイソウ属(エントモネイス(Entomoneis)属)の珪藻であると思われる。
但し、「種」レベルの同定には至らなかった。
【0043】
DHMBA(ディーバ)が検出された珪藻(H-9-06株)の同定
珪藻門、クサリケイソウ亜門、クサリケイソウ綱、クサリケイソウ亜綱、コバンケイソウ目(スリレラ(Surirellales)目)、ヨジレケイソウ科(エントモネイス(Entomoneidaceae)科)、ヨジレケイソウ属(エントモネイス(Entomoneis)属)の珪藻であると思われる。
但し、「種」レベルの同定には至らなかった。
【0044】
(方法)Genbank(NCBI, NHI)でmegablast検索を実施
検索条件(1) 環境由来配列を除く全体に対して検索(図18図19図20
→こちらの結果に基づいて考察する。
検索条件(2) タイプ由来配列に限定して検索(図21図22図23
→比較対象の配列データの情報量が不十分であったため、こちらの結果に基づく考察は行わない。
【0045】
(megablast検索結果)
・18S
Entomoneis paludosa L431株の配列と99%の相同性を示した。
→相同性が99%あること、また2番目以降もヨジレケイソウ属(エントモネイス(Entomoneis)属)がヒットしていることを考慮すると、珪藻門、クサリケイソウ亜門、クサリケイソウ綱、クサリケイソウ亜綱、コバンケイソウ目(スリレラ(Surirellales)目)、ヨジレケイソウ科(エントモネイス(Entomoneidaceae)科)、ヨジレケイソウ属(エントモネイス(Entomoneis)属)の珪藻であると推定される。
・28S D2C2による配列
Entomoneis ornata 27D株の配列と91%の相同性を示した。
→相同性が91%とかなり低く、あまり参考にならない。また、配列が短いうえスコアが低く、18Sの結果に比べ、同定結果への信頼度がかなり低い。
但し、18Sの結果から推定される、ヨジレケイソウ属(エントモネイス(Entomoneis)属)の珪藻である可能性と矛盾していない。
・28S D2R2による配列
Vannella septentrionalis(アメーバ)と88%の相同性を示した。
また、アーバスキュラー菌根を形成する真菌類と79%以下の相同性を示した。
→相同性が90%未満である。また、配列が短いうえ、スコア、カバー率がD2C2に比べても低く、同定結果への信頼度がかなり低い。
このため、今回の同定の考察からは除外する。
【0046】
(同定結果)
珪藻門、クサリケイソウ亜門、クサリケイソウ綱、クサリケイソウ亜綱、コバンケイソウ目(スリレラ(Surirellales)目)、ヨジレケイソウ科(エントモネイス(Entomoneidaceae)科)、ヨジレケイソウ属(エントモネイス(Entomoneis)属)の珪藻であると思われる。
【0047】
H-9-09株 同定
不明
【0048】
(方法)Genbank(NCBI, NHI)でmegablast検索を実施
検索条件(1) 環境由来配列を除く全体に対して検索(図24図25図26
→こちらの結果に基づいて考察する。
検索条件(2) タイプ由来配列に限定して検索(図27図28図29
→比較対象の配列データの情報量が不十分であったため、こちらの結果に基づく考察は行わない。
【0049】
(megablast検索結果)
・18S
Caecitellus paraparvulus HFCC320株(ビコソエカ)の配列と97%の相同性を示した。
2番目以降も、いずれも同属の珪藻と97%の相同性を示した。
→相同性が97%と低めであるが、ビコソエカ類の配列が増幅された可能性を否定できない。
但し、事前の検鏡では、検体が珪藻様の形状を示すことが確認されている。
・28S D2C2による配列
Caecitellus paraparvulus HFCC71株(ビコソエカ)の配列と88%の相同性を示した。
→相同性が90%未満である。また、配列が短いうえ、スコア、カバー率とも低く、18Sの結果に比べ、同定結果への信頼度がかなり低い。
このため、今回の同定の考察からは除外する。
但し、18Sの結果(ビコソエカであること)とは矛盾していない。
・28S D2R2による配列
Pseudo-nitzschia multistriata HAB-132株(クサリケイソウ亜綱)の配列と92%の相同性を示した。
→相同性が92%と低い。また、配列が短いうえ、スコア、カバー率とも低く、18Sの結果に比べ、同定結果への信頼度が低い。
但し、事前の形態観察(珪藻であること)とは矛盾していない。
【0050】
(同定結果)
不明
【符号の説明】
【0051】
1 プランクトン
4 GF/Cフィルター
5 容器
【要約】
【課題】本発明はプランクトンを含む海水を採取し、該海水に含まれるプランクトンから抗酸化物質であるDHMBA(ディーバ)の生成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、採取したプランクトンを含む海水につき、フィルターを用いてろ過を行い、前記フィルター上に残ったプランクトンにつき細胞内容物の取り出しを行ない、その後取り出した細胞内容物を加熱し、該加熱した加熱物から3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を生成してなり、前記プランクトンは、珪藻であるとすることを特徴とする。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
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図13
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図16
図17
図18
図19
図20
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図29