【文献】
笠井 茂,重粒子線がん治療装置への取組み,東芝レビュー 2013年1月号,日本,株式会社東芝,2013年 1月 1日,第68巻,第1号,第20−23頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
割り当てた患者の実際の治療室占有時間とその推定値との間に乖離があった場合、前記スケジュール学習部(104)は、前記一治療日の第1の時点において、前記第1の時点における患者の受付状況及び治療時間枠の情報を主キーとして順に患者を前記治療室のいずれかに割り当てる際に、前記治療室それぞれについて、割り当てる患者の治療室占有時間の推定値又は実績値の合計を算出し、最大の合計値と最小の合計値との差が最も小さくなるように、前記患者それぞれを前記治療室のいずれかに割り当てることで、治療スケジュールを再生成する、請求項1に記載のスケジュール管理装置。
前記スケジュール学習部(104)が治療スケジュールを生成又は再生成する際に、前記治療室の利用可能時間も考慮される、請求項1又は2に記載のスケジュール管理装置。
割り当てた患者の実際の治療室占有時間とその推定値との間に乖離があった場合、前記一治療日の第1の時点において、前記第1の時点における患者の受付状況及び治療時間枠の情報を主キーとして順に患者を前記治療室のいずれかに割り当てる際に、前記治療室それぞれについて、割り当てる患者の治療室占有時間の推定値又は実績値の合計を算出し、最大の合計値と最小の合計値との差が最も小さくなるように、前記患者それぞれを前記治療室のいずれかに割り当てることで、治療スケジュールを再生成するステップをさらに含む請求項7に記載のスケジュール管理方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の技術は、1人の患者に対する医学的処置のスケジュールを、過去に同様の医学的処置を実施した患者の履歴データを使って予測するものであるが、放射線の治療日における複数の患者の治療スケジュールを立案するものではない。特許文献2の技術は、長期(数ヶ月)の間に治療する一人の患者に対する治療枠を立案するシステムを示しており、同じ治療日の複数の患者の治療スケジュールを調整するものではない。
【0011】
現在、一般的に、医療スタッフ(医師、看護師、放射線技師、又は施設事務員など)が患者の治療室の占有時間等を予測して、放射線治療の治療スケジュールを作成している。作成された治療スケジュールは、医療スタッフによってばらつきがあり、また患者スループットを必ずしも向上させるものではない。
【0012】
このような事情に鑑み、本発明は、放射線治療施設における放射線治療のスケジュールを管理し、患者スループットを向上させる放射線治療スケジュールの管理装置及び管理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明には以下の態様が含まれる。
〔1〕
放射線治療が行われる治療室を複数備えた放射線治療施設における放射線治療のスケジュール管理装置(100)であって、
一治療日に放射線治療を受ける複数の患者それぞれについて、前記治療室を患者が占有する時間(「治療室占有時間」という)の推定値を算出する治療室占有時間学習部(102)と、
前記一治療日の放射線治療の治療スケジュールを生成するスケジュール学習部(104)と
を備え、
前記治療室占有時間学習部(102)は、前記治療室において過去に放射線治療を受けた患者の患者情報に関連づけられた治療室占有時間の実績値を教師データとして用いた教師あり機械学習により判明した患者情報と治療室占有時間との相関関係に従い、前記一治療日における前記患者それぞれの患者情報に基づき、前記患者それぞれの治療室占有時間の推定値を算出し、ここで、前記患者情報には、患者の放射線治療を行う部位、前記部位の体積、及び放射線の照射条件が含まれ、
前記スケジュール学習部(104)は、前記一治療日における患者の受付状況及び治療時間枠の情報を主キーとして順に患者を前記治療室のいずれかに割り当てる際に、前記治療室それぞれについて、割り当てる患者の治療室占有時間の推定値の合計を算出し、最大の合計値と最小の合計値との差が最も小さくなるように、前記患者それぞれを前記治療室のいずれかに割り当てることで、治療スケジュールを生成する、前記スケジュール管理装置。
〔2〕
割り当てた患者の実際の治療室占有時間とその推定値との間に乖離があった場合、前記スケジュール学習部(104)は、前記一治療日の第1の時点において、前記第1の時点における患者の受付状況及び治療時間枠の情報を主キーとして順に患者を前記治療室のいずれかに割り当てる際に、前記治療室それぞれについて、割り当てる患者の治療室占有時間の推定値又は実績値の合計を算出し、最大の合計値と最小の合計値との差が最も小さくなるように、前記患者それぞれを前記治療室のいずれかに割り当てることで、治療スケジュールを再生成する、〔1〕に記載のスケジュール管理装置。
〔3〕
前記スケジュール学習部(104)が治療スケジュールを生成又は再生成する際に、前記治療室の利用可能時間も考慮される、〔1〕又は〔2〕に記載のスケジュール管理装置。
〔4〕
患者が前記放射線治療施設で受け付け後に前記治療室へ入室するまでの時間(「治療室外時間」という)の推定値を算出する治療室外時間学習部(103)をさらに備え、
前記治療室外時間学習部(103)は、前記放射線治療施設で過去に放射線治療を受けた患者の患者情報に関連づけられた治療室外時間の実績値を教師データとして用いた教師あり機械学習により判明した患者情報と治療室占有時間との相関関係に従い、前記一治療日における前記患者それぞれの患者情報に基づき、前記患者それぞれの治療室外時間の推定値を算出し、
前記スケジュール学習部(104)が治療スケジュールを生成又は再生成する際に、前記治療室外時間の推定値も考慮される、〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載のスケジュール管理装置。
〔5〕
前記放射線治療は粒子線治療であり、前記放射線は粒子線であり、前記放射線治療施設は粒子線治療施設であり、
前記治療室占有時間には、患者に粒子線を照射する時間(「粒子線照射時間」)の情報が含まれ、
前記スケジュール学習部(104)は、前記治療室に患者を割り当てる際に、前記粒子線照射時間の時間帯が重ならないように、前記治療スケジュールを生成又は再生成する、〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載のスケジュール管理装置。
〔6〕
前記放射線治療施設では、粒子線の照射位置の位置決め用の患者搬送台車を用いて、前記治療室とは異なる準備室にて患者位置設定が行われ、
前記治療室占有時間には、患者位置設定のための時間が含まれない、〔5〕に記載のスケジュール管理装置。
〔7〕
前記治療室占有時間学習部(102)は、前記放射線治療施設の放射線照射装置のQA(Quality Assurance)情報に基づき、QAを行うための治療室占有時間の推定値を算出し、
前記スケジュール学習部(104)が治療スケジュールを生成又は再生成する際に、前記QAを行うための治療室占有時間も考慮される、〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載のスケジュール管理装置。
〔8〕
コンピュータにより実行される、放射線治療が行われる治療室を複数備えた放射線治療施設における放射線治療のスケジュール管理方法であって、
一治療日に放射線治療を受ける複数の患者それぞれについて、前記治療室を患者が占有する時間(「治療室占有時間」という)の推定値を算出するステップと、
前記一治療日の放射線治療の治療スケジュールを生成するステップと
を備え、
前記算出するステップは、前記治療室において過去に放射線治療を受けた患者の患者情報に関連づけられた治療室占有時間の実績値を教師データとして用いた教師あり機械学習により判明した患者情報と治療室占有時間との相関関係に従い、前記一治療日における前記患者それぞれの患者情報に基づき、前記患者それぞれの治療室占有時間の推定値を算出するステップであって、前記患者情報には、患者の放射線治療を行う部位、前記部位の体積、及び放射線の照射条件が含まれる、ステップと、
前記生成するステップは、前記一治療日における患者の受付状況及び治療時間枠の情報を主キーとして順に患者を前記治療室のいずれかに割り当てる際に、前記治療室それぞれについて、割り当てる患者の治療室占有時間の推定値の合計を算出し、最大の合計値と最小の合計値との差が最も小さくなるように、前記患者それぞれを前記治療室のいずれかに割り当てることで、治療スケジュールを生成するステップを含む、前記スケジュール管理方法。
〔9〕
割り当てた患者の実際の治療室占有時間とその推定値との間に乖離があった場合、前記一治療日の第1の時点において、前記第1の時点における患者の受付状況及び治療時間枠の情報を主キーとして順に患者を前記治療室のいずれかに割り当てる際に、前記治療室それぞれについて、割り当てる患者の治療室占有時間の推定値又は実績値の合計を算出し、最大の合計値と最小の合計値との差が最も小さくなるように、前記患者それぞれを前記治療室のいずれかに割り当てることで、治療スケジュールを再生成するステップをさらに含む〔8〕に記載のスケジュール管理方法。
〔10〕
患者が前記放射線治療施設で受け付け後に前記治療室へ入室するまでの時間(「治療室外時間」という)の推定値を算出するステップと、
前記放射線治療施設で過去に放射線治療を受けた患者の患者情報に関連づけられた治療室外時間の実績値を教師データとして用いた教師あり機械学習により判明した患者情報と治療室占有時間との相関関係に従い、前記一治療日における前記患者それぞれの患者情報に基づき、前記患者それぞれの治療室外時間の推定値を算出するステップと
をさらに含み、
前記治療スケジュールを生成又は再生成する際に、前記治療室外時間の推定値も考慮される、〔8〕又は〔9〕に記載のスケジュール管理方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態について図面とともに説明する。
図1は、放射線治療施設1に設置された放射線治療に用いる装置等の模式図である。放射線治療施設1には、放射線源2、放射線照射装置3、複数の治療室4及び5、1つ又は複数の準備室6及び7、及び受付・待合室8が含まれる。なお、本実施形態では、説明を分かりやすくするために、治療室及び準備室の数をそれぞれ2つとしているが、これに限定されるものではない。
【0016】
放射線は、光子線又は粒子線である。光子線はX線又はγ線であり、粒子線は、陽子線、中性子線、又は重粒子線である。
【0017】
放射線源2は、放射線を生成する装置である。光子線治療の場合、放射線源2は、例えばX線発生装置又はγ線発生装置である。粒子線治療の場合、放射線源2は、例えばシンクロトロン、サイクロトロン、又は線形加速器などの加速器である。
【0018】
放射線照射装置3は放射線源2で発生した放射線を制御して患者の患部へ照射する装置である。光子線治療の場合、放射線照射装置3は、放射線源2で発生した光子線の線量、照射位置等を制御し、光子線を治療室4及び5内の患者の患部へ照射する。光子線源2及び光子線照射装置3は、粒子線装置に比べて小型化できるため、治療室4及び5にそれぞれ備え付けられた構成としてよい。
【0019】
粒子線治療の場合、放射線照射装置3は、内部を粒子線が通る真空ダクトと、粒子線をガイドし各種調整を行う複数の電磁石装置と、各治療室4及び5に設置された照射ノズルとを備える(
図1)。放射線照射装置3は、放射線源2(加速器)で生成された粒子線を、治療室4及び5に設けた照射ノズル(不図示)を通じて、治療台に固定された患者の患部へ照射する。
【0020】
放射線照射装置3の電磁石装置は、特許第6364141号や特許第6387476号に記載の四極電磁石装置、ステアリング電磁石装置、振分電磁石装置、及び/又は収束電磁石を含むものであってもよい。また、放射線照射装置3の電磁石装置は、粒子線の形状及び/又は線量を調整するビームスリット装置、及び/又は粒子線のビーム位置を微調整するためのステアリング電磁石装置を含むものであってもよい。治療室4及び5に設けられた照射ノズルは、特許第6387476号や特願2019−65824号に記載の照射ノズルであってもよい。なお、特許第6364141号、特許第6387476号、及び特願2019−65824号に記載の内容は、参照により組み込まれる。
【0021】
粒子線治療の場合、粒子線の放射線源2及び放射線照射装置3は、一般的に高価であるため、放射線治療施設1に1セット設置されることが多いが、複数セット設置してもよい。
【0022】
患者に放射線を照射して放射線治療を行うための治療室4及び5には、とくに粒子線治療の場合には、放射線照射装置3の照射ノズルや、患者を固定する治療台が設置されている。治療台の代わりに特願2019−65824号に記載の患者搬送台車を用いることもでき、この場合、治療室4及び5に治療台は不要となる。準備室6及び7は、放射線治療施設1に、治療室4及び5の数と同じだけ設けておいてもよいし、治療室4及び5の数より多く(又は少なく)設けておいてもよい。受付・待合室8は1つ又は複数設けられていてもよい。
【0023】
図2は、本実施形態に係る放射線治療のスケジュール管理装置100を含むシステム概要図である。
【0024】
放射線源2及び放射線照射装置3は、放射線照射制御装置20により制御され、放射線照射制御装置20は、放射線の線量、形状、照射時間、及び照射位置などを制御する。放射線照射制御装置20は、放射線治療を統括する治療制御システム10により制御される。
【0025】
治療制御システム10は、LAN又はインターネットなどのネットワーク40を介して、医療スタッフにより入力された患者情報や放射線治療に関する情報などをデータ入出力端末30から取得する。治療制御システム10は、これらの情報に基づき、放射線照射制御装置20を制御し、患者ごとに適切に放射線照射を行わせる。
【0026】
治療制御システム10は、とくに粒子線治療の場合、照射ノズルから照射される放射線の位置と放射線を照射すべき部位との位置合わせ(患者位置設定)を行う装置(不図示)を制御し、放射線の照射位置が患部に対して精度よく決定される。また、治療室に設けた治療台に代えて上記患者搬送台車を用いる場合には、治療制御システム10は、当該患者搬送台車を制御し、患部の位置が調整される。
【0027】
データ入出力端末30は、パーソナルコンピュータ、タブレットPC、又はスマートフォンなどの各種入出力手段を備えた端末であり、医療スタッフが入力した患者情報や放射線治療に関する情報等を、ネットワーク40を介して治療制御システム10及び放射線治療のスケジュール管理装置100へ送る。また、データ入出力端末30は、患者情報や放射線治療に関する情報等を表示したり、スケジュール管理装置100により生成された放射線治療の治療スケジュールを受信し表示する。なお、データ入出力端末30は、放射線治療施設1に複数設けてもよいし、データ入出力端末30の機能を治療制御システム10及び/又はスケジュール管理装置100に組み込むようにしてもよい。
【0028】
スケジュール管理装置100は、ネットワーク40を介して、治療制御システム10及び/又はデータ入出力端末30から患者情報及び放射線治療に関する情報を取得し、記憶部105に記憶する。スケジュール管理装置100は、詳細には後述するが、取得した情報に基づき、治療日の放射線治療の治療スケジュールを生成する。
【0029】
なお、放射線治療施設1内に、治療制御システム10、放射線照射制御装置20、データ入出力端末30、及びスケジュール管理装置100の全てが設置されていてもよいし、治療制御システム10、データ入出力端末30、及びスケジュール管理装置100の1つ以上が放射線治療施設1とは別の施設(例えば放射線治療施設1とは異なる研究施設など)に設置されていてもよい。また、スケジュール管理装置100の機能をクラウドサービスとして提供するようにしてもよい。
【0030】
図3Aは、放射線治療のスケジュール管理装置100の機能ブロック図である。スケジュール管理装置100は、CPU、RAM及びROMなどの記憶装置、並びに入出力インターフェース等を備えたコンピュータ(又はサーバー)である。スケジュール管理装置100は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することにより実現される機能部として、入出力部101、治療室占有時間学習部102、治療室外時間学習部103、スケジュール学習部104、及び記憶部105を備える。
【0031】
入出力部101は、ネットワーク40を介して、治療制御システム10及びデータ入出力端末30と各種情報を送受信するインターフェースである。なお、スケジュール管理装置100自体が、入出力部101を介して、医療スタッフから直接各種情報の入力を受け付ける構成であってもよい。
【0032】
スケジュール管理装置100が治療制御システム10及びデータ入出力端末30から取得する情報や記憶部105にデータベースとして記憶される情報には、以下の情報が含まれる。ただし、これに限定されるものではない。
〔患者情報〕
放射線治療を行う患者のID、性別、年齢、国籍、身長体重、照射経験(照射回数)、再発の有無、現在の状態(痛み強いため待てない、頻尿、ガス抜き要、難聴、呼吸の乱れ傾向、緊張しやすい、横隔膜の位置がばらつく等)など
放射線治療を行う疾患部位(大まかな部位。例えば肺、前立腺、頭頸部、骨軟部、小児、膵臓、下腹部、心臓、など)
放射線の照射部位(膵頭部癌、肝細胞癌、左上眼瞼悪性黒色腫、前立腺癌、頭蓋底胞巣状軟部肉腫など)
放射線の照射部位の体積
放射線の照射条件(例えば放射線の線量、ビームエネルギー、照射角度など)
放射線治療前の処置の種類(例えば排尿、投薬、飲食制限など)
担当医療スタッフのID
〔治療日の患者リスト情報〕
放射線治療の日の治療を受ける患者のID
患者の治療時間枠(予約時間)
〔治療室占有時間の実績値〕
過去の放射線治療を受けた患者の患者情報と関連付けられた、実際にかかった治療室の占有時間の実績値(患者位置設定の時間、放射線の照射時間、及びその合計等)
〔治療室外時間の実績値〕
過去の放射線治療を受けた患者の患者情報と関連付けられた、実際にかかった治療室外時間の実績値(患者位置設定の時間、投薬処置時間、排尿処置時間等)
〔治療日当日の各種情報〕
患者の受け付け時間
患者の治療の順番
割り当てられた治療室
治療室のIDと入退室時間及び治療室占有時間の実績値
治療室での放射線照射の開始及び終了時刻並びに放射線照射時間の実績値
治療スケジュールを手動で調整した場合のその記録
担当医療スタッフのID
治療室の利用可能時間(開始時刻、終了時刻、途中利用不可能時間帯等)
患者の最後の飲食からの経過時間
患者の薬剤投与からの経過時間
患者の排尿後経過時間
準備室のIDと入退室時間及び治療室外時間の実績値
実施日の情報
〔QA情報〕
放射線照射装置のQA(Quality Assurance)の項目
過去のQAの実績値
QAの作業者ID
【0033】
治療室占有時間は、患者が治療室に入室してから退室するまでの時間である。治療室占有時間の実際の値(実績値)は、患者が治療室に入室した時刻と退室した時刻との差から計算される。
【0034】
治療室外時間には、患者が放射線治療施設1にて受け付けを済ませた後、治療室に入室するまで準備室で各種処置(患者位置設定、投薬、排尿など)のための時間、治療室と準備室間で移動する時間、及びこれらの合計時間(受け付けから治療室へ入室するまでの時間)が含まれる。なお、治療室外時間に、準備室に入室するまでの待機している時間が含まれていてもよい。
【0035】
治療室占有時間学習部102は、患者情報に関連付けられた過去の治療室占有時間の実績値を、記憶部105から読み出し、教師ありの機械学習処理を行う。治療室占有時間学習部102による学習結果(特徴量、目的変数)は、機械学習処理に用いたデータと関連づけて記憶部105に記憶される。
【0036】
教師ありの機械学習処理として、公知のアルゴリズム、例えば線形回帰(+正則化)、サポートベクトルマシン(+カーネル法)、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク、又はkNN(k近傍法)を用いることができる。
【0037】
治療室占有時間学習部102は、患者(「治療対象患者」という)の患者情報(検証データ)を入力したときに、その患者が治療室を占有するであろう時間(治療室占有時間の推定値)を算出する(回帰)。治療室占有時間の推定値は、治療対象患者の患者情報と関連付けられ、記憶部105に記憶される。
【0038】
治療室占有時間学習部102は、治療日以前又は治療日当日の治療が始まる前に、その日に治療を受ける全ての患者について、治療室占有時間の推定値を算出し、患者情報と関連づけて記憶部105に記憶させておく。
【0039】
ここで、治療室占有時間学習部102の機械学習による相関関係の例について説明するが、これに限定されるものではない。
(a)過去のデータから教師あり機械学習により、放射線の照射条件(線量、ビームエネルギー、照射角度等)及び照射部位の体積が治療室占有時間と相関関係にあることが判明した場合、治療室占有時間学習部102は、治療対象患者の放射線の照射条件(線量、ビームエネルギー、照射角度等)及び照射部位の体積の情報から、治療室占有時間を推定する。
(b)過去のデータから教師あり機械学習により、担当した医療スタッフ(放射線技師)と治療室における患者位置設定の時間とに相関関係があることが判明した場合、治療室占有時間学習部102は、治療対象患者を担当する医療スタッフの情報から、治療室占有時間(特に治療室内での患者位置設定の時間)を推定する。
(c)過去のデータから教師あり機械学習により、治療部位の種類(例えば、肺、前立腺、皮膚等)が治療室占有時間と相関関係にあることが判明した場合、治療室占有時間学習部102は、治療対象患者の治療部位の情報から、治療室占有時間を推定する。
(d)過去のデータから教師あり機械学習により、放射線の呼吸同期照射(例えば肺や肝臓の病巣は呼吸によって動くため、呼吸のタイミング(例えば、息を吐いた時等)に合わせて照射を行うこと)の有無および患者の呼吸波形の形状が照射時間と相関関係にあることが判明した場合、治療室占有時間学習部102は、呼吸同期照射の有無および呼吸波形の形状から治療室占有時間(特に放射線照射時間)を推定する。
(e)過去のデータから教師あり機械学習により、患者の健康状態(例えば痛みの強さ、難聴、緊張しやすい)と患者位置設定の時間とに相関関係があることが判明した場合、治療室占有時間学習部102は、治療対象患者の健康状態の情報から、治療室占有時間(特に患者位置設定の時間)を推定する。
【0040】
治療室外時間学習部103は、記憶部105から過去の治療室外時間の実績値を読み出し、教師ありの機械学習処理を行う。治療室外時間学習部103による学習結果(特徴量、目的変数)は、機械学習処理に用いたデータと関連づけて記憶部105に記憶される。
【0041】
治療室外時間学習部103は、治療室外時間の種類(準備室に入室するまでの待機時間、準備室での処置時間、及び/又はこれらの合計時間)ごとに、機械学習処理を行い、これらの推定値を算出するようにしてもよいし、準備室での処置時間又は合計時間のみについて機械学習処理を行うようにしてもよい。教師ありの機械学習処理としては、上記の公知のアルゴリズムを用いることができる。
【0042】
そして、治療室外時間学習部103は、治療対象患者の患者情報(検証データ)を入力したときにその患者が治療室外で要するであろう時間(治療室外時間の推定値)を算出する(回帰)。治療室外時間の推定値は、患者情報と関連付けられ、記憶部105に記憶される。
【0043】
治療室外時間学習部103は、治療日以前又は治療日当日の治療が始まる前に、その日に治療を受ける全ての患者について、治療室外時間の推定値を算出し、患者情報と関連づけて記憶部105に記憶させておく。
【0044】
ここで、治療室外時間学習部103の機械学習による相関関係の例について説明するが、これに限定されるものではない。
(a)過去のデータから教師あり機械学習により、患者の治療部位(例えば前立腺)及び年齢と準備室での処置時間(例えば排尿とその後の経過時間)に相関関係があることが判明した場合、治療室外時間学習部103は、治療対象患者の治療部位及び年齢の情報から、治療室外時間を推定する。
(b)過去のデータから教師あり機械学習により、飲食禁止の経過時間及び薬剤投与の有無と治療室外時間とに相関関係があることが判明した場合、治療室外時間学習部103は、治療対象患者の飲食禁止の経過時間及び薬剤投与の有無の情報から、治療室外時間を推定する。
(c)過去のデータから教師あり機械学習により、患者の健康状態(例えば痛みの強さ、難聴、緊張しやすい)と治療室外時間とに相関関係があることが判明した場合、治療室外時間学習部103は、治療対象患者の健康状態の情報から、治療室外時間を推定する。
【0045】
スケジュール学習部104は、記憶部105に記憶された患者情報、治療室占有時間学習部102で算出された治療室占有時間の推定値、及び治療日当日の各種情報に基づき、治療日における放射線治療施設1における患者スループットが最大となるように、治療日の治療スケジュールを生成する。詳細には、スケジュール学習部104は、治療日における各患者の受付状況及び治療時間枠(治療予約時間)の情報を主キーとして順に患者を各治療室に割り当てる際に、治療室占有時間学習部102により算出された治療室占有時間の推定値を考慮し、治療室それぞれに割り当てた患者の治療室占有時間の推定値の合計が小さくなるように、複数の患者それぞれを複数の治療室のいずれかに割り当てていくことで治療スケジュールを生成する。
【0046】
言い換えると、スケジュール学習部104は、患者スループットが最大となるために、一治療日における複数の患者の受付状況及び治療時間枠の情報を主キーとして順に患者を複数の治療室のいずれかに割り当てる際に、複数の治療室それぞれについて、割り当てる患者の治療室占有時間の推定値(又は実績値)の合計を算出し、最大の合計値と最小の合計値との差が最も小さくなるように、複数の患者それぞれを複数の治療室のいずれかに割り当てることで、治療スケジュールを生成する。
【0047】
また、スケジュール学習部104は、治療室外時間学習部103で算出された推定値をさらに考慮して、患者スループットが最大となるように、当日の治療スケジュールを生成する。この場合も同様に、スケジュール学習部104は、放射線治療施設1の治療室それぞれについて、割り当てた患者の治療室占有時間の推定値及び治療室外時間の推定値の合計を算出し、最大の合計値と最小の合計値との差が最も小さくなるように、複数の患者を複数の治療室に割り当てる。
【0048】
さらに、スケジュール学習部104は、当日のスケジュールの変更に対応して、治療スケジュールを再生成する(リスケジューリング)。リスケジューリング時の治療スケジュールの生成も上記と同様に、患者スループットが最大となるように行われる。また、スケジュール学習部104は、過去の又は当日の治療スケジュールを教師なし機械学習処理により学習し、治療スケジュールの生成に役立てる。
【0049】
図3Bは、スケジュール管理装置100による治療スケジュール生成のフローチャートである。
【0050】
まず、スケジュール管理装置100は、一治療日に治療を受ける全ての患者の患者情報等を取得する(ステップS1)。
【0051】
治療室占有時間学習部102は、治療室で放射線治療を受けた患者の過去のデータを教師データとして用いた教師あり機械学習により判明した患者情報等と治療室占有時間との相関関係に従い、各患者の患者情報等に基づき、一治療日における各患者の治療室占有時間の推定値を算出する(ステップS2)。なお、治療室外時間も考慮して治療スケジュールを生成する場合は、治療室外時間学習部103も、同様に、過去のデータから教師あり機械学習により判明した患者情報等と治療室外時間との相関関係に従い、各患者の患者情報等に基づき、一治療日における各患者の治療室外時間の推定値を算出する。
【0052】
スケジュール学習部104は、一治療日における各患者の受付状況及び治療時間枠(治療予約時間)の早さを優先して(主キー)、各患者を治療室のいずれかに割り当て、各治療室の治療室占有時間の合計の最大値と最小値との差が最も小さくなる場合を見つけ、それを一治療日における治療スケジュールとして生成する(ステップS3)。なお、治療室外時間も考慮する場合は、治療室外時間学習部103により算出された治療室外時間の推定値が当該合計値に組み込まれる。
【0053】
ステップS1〜S2は、一治療日の当日に行うものであってもよいし、前日までに行うものであってもよい。また、ステップS3は基本的に一治療日当日に行うものであるが、前日までに治療スケジュールを生成する場合は、ステップS3において患者の受付状況は考慮されずに、治療時間枠の早さを優先して(主キー)、患者の治療室への割り当てを行う。
【0054】
一治療日当時において、治療スケジュールの最初の患者から放射線治療が行われる(ステップS5)。一人の患者の放射線治療が完了すると(ステップS5)、スケジュール学習部104は、その完了した患者の治療室占有時間の実際の値(実績値)(及び治療室外時間(実績値))を考慮して、当日の治療スケジュールを再生成する(リスケジューリング)(ステップS6)。
【0055】
リスケジューリングにおいては、スケジュール管理装置100は、現在の治療進行状況の情報を治療制御システム10やデータ入出力端末30から取得し、スケジュール学習部104は、各治療室占有時間の現在の合計値を算出する(ステップS61)。スケジュール学習部104は、控えている(まだ治療を受けていない)患者の患者情報(治療室占有時間の推定値、治療室外時間の推定値又は実績値、受付状況及び治療時間枠の情報など)等を取得し(ステップS62)、これらの情報を基に、ステップS3と同様に、一治療日当日の治療スケジュールを再生成する(ステップS63)。
【0056】
スケジュール管理装置100は、一治療日当日の全ての患者の放射線治療が完了したか判定する(ステップS7)。完了したらその日の放射線治療は終了となり(ステップS8)、完了していないならステップS5〜S7が繰り返される。
【0057】
以下では、スケジュール管理装置100による治療スケジュールの生成例1〜8について説明するが、これに限定されるものではない。なお、下記生成例1〜5及び8は、光子線治療及び粒子線治療のいずれの場合であっても適用できる例であり、生成例6及び7は粒子線治療の場合に適用される例である。
【0058】
〔
治療スケジュールの生成例1〕
スケジュール管理装置100の治療室占有時間学習部102は、上記のとおり、患者情報等に基づき、治療日当日の治療室占有時間を推定する。スケジュール管理装置100は、治療室占有時間の推定値を用いて、放射線治療施設1において治療日当日の放射線治療のトータル時間が最短になるように、患者の治療順と、治療室の割り当てを行い治療スケジュールを生成する。
【0059】
まず、例として
図4Aに示すように、放射線治療日(例えば2019年6月1日)における治療室占有時間学習部102により推定された患者A〜Gの治療室占有時間の推定値が、それぞれ12分、20分、10分、18分、30分、22分、及び37分であったとする。これらの推定値は、治療日以前に又は当日に、治療室占有時間学習部102が、患者A〜Gの患者情報等を用いて予め算出しておき、患者情報に関連づけて記憶部105に記憶させておいたものである。そして、治療日当日の例えば9時の段階で、患者A及びDはすでに受付を済ませているが、患者B、C、E〜Gは受付が未だ済んでいないとする。受付の状況は、治療日当日の各種情報として、患者情報に関連づけて記憶部105に記憶される。
【0060】
スケジュール学習部104は、治療日当日の患者の受付状況(受付の有無)及び治療時間枠の情報(治療の予約時間)を主キー(優先キー)として、治療室占有時間の推定値に基づき、患者A〜Gの治療順及び患者A〜Gの各治療室への割り当てを行う。
【0061】
図4Aに示す例では、まず、受付が済んでおり且つ治療時間枠が9時である患者A及びDがそれぞれ、治療室R1及びR2に最初に割り当てられる。そして、受付を済ませた患者はいないので、治療時間枠が早い順(9時、10時、11時、…)に患者を治療室R1及びR2のいずれかに割り当てていく。
【0062】
最も早い治療時間枠(9時)の患者は患者Gであるが、患者Gの治療室占有時間の推定値は37分と多い。そこで、スケジュール学習部104は、患者A及びDの治療室占有時間の推定値(12分及び18分)を互いに比較し、小さい値の方、即ち患者Aが割り当てられた治療室R1へ、患者Gを患者Aに続いて割り当てる。
【0063】
次に治療時間枠(10時)が早い患者は患者B及びCであるが、治療室R1は、治療室占有時間の推定値の大きい(37分)患者Gがすでに割り当てられているため、患者B及びCを治療室R1に割り当てるのは効率的ではない。そこで、スケジュール学習部104は、患者B及びCを患者Dに続いて治療室R2に割り当てる。なお、患者Bを患者Cよりも先に割り当ててもよいし、治療室外時間の推定値を考慮して患者B及びCのいずれを先に割り当てるかを決定してもよい。
【0064】
その次に治療時間枠(11時)が早い患者は患者E及びFであるが、患者Eの治療室占有時間の推定値(30分)は、患者Fの推定値(22分)よりも大きい。また、治療室R1に割り当てられた患者A及びGの推定値の合計(49分)は、治療室R2に割り当てられた患者D、B、及びCの推定値の合計(48分)よりも大きい。したがって、スケジュール学習部104は、推定値(22分)の小さい患者Fを治療室R1に割り当て、推定値(30分)の大きい患者Eを治療室R2に割り当てる。
【0065】
このようにして、スケジュール学習部104は、治療日当日の9時において、患者スループットを最大化するように、即ち治療室R1に割り当てられた患者の治療室占有時間の推定値の合計と治療室R2に割り当てられた患者の治療室占有時間の推定値の合計との差が最も小さくなるように、患者A〜Gの各々を治療室R1又はR2へ割り当てて、治療スケジュールが生成される。
【0066】
生成された治療スケジュールは、医療スタッフが確認できるように、入出力部101を通じて所定のディスプレイに表示させたり、ネットワーク40を介して、データ入出力端末30及び/又は治療制御システム10に送られる。この点は以下の生成例についても同様であり、説明は省略する。
【0067】
その後、
図4Bに示すように、治療日当日の例えば9時30分において、患者B及びCは受付を済ませたが、患者E〜Gはまた受付を済ませていないとする。
【0068】
この場合、患者Gは治療時間枠を9時で予約しておいたが、9時30分の時点で来るかどうかわからないため、スケジュール学習部104は、すでに受付を済ませた患者B及びCを優先的に治療室R1及びR2へ割り当てる。この際、治療室占有時間の推定値(20分)の大きい患者Bは治療室占有時間の推定値(12分)の小さい患者Aの方の治療室R1に割り当てられ、治療室占有時間の推定値(18分)の小さい患者Cは、治療室占有時間の推定値(18分)の大きい患者Dの方の治療室R2に割り当てられる。
【0069】
次に治療時間枠(9時)が早い患者Gは、治療室占有時間の推定値の合計が小さい治療室R2に患者Cに続いて割り当てられる。そして、治療室占有時間の推定値(30分)の大きい患者Eは、治療室占有時間の推定値の合計が小さい治療室R1に患者Bに続いて割り当てられる。さらに、患者Fは、治療室占有時間の推定値の合計が小さい治療室R1に患者Eに続いて割り当てられる。
【0070】
このようにして、スケジュール学習部104は、治療日の9時30分において、患者スループットを最大化するように、即ち治療室R1に割り当てられた患者の治療室占有時間の推定値(又は実績値)の合計と治療室R2に割り当てられた患者の治療室占有時間の推定値(又は実績値)の合計との差が最も小さくなるように、患者A〜Gの各々を治療室R1又はR2へ割り当てて、治療スケジュールを再生成する(リスケジューリング)。
【0071】
スケジュール学習部104による治療スケジュールの生成頻度は、所定の時間ごと(例えば10分ごと)に生成するものであってもよいし、治療日当日の受付状況の変化が生じたごとに、治療スケジュールを再生成するようにしてもよい。
【0072】
〔
治療スケジュールの生成例2〕
実際の治療現場では事前に作成しておいた治療スケジュールには反映しづらい不測の事態が往々にして発生する。例えば、装置トラブルにより治療の進行が遅れることや、予定の時間に患者が来ない場合などがある。これらは患者スループット低下の原因となることがある。すなわち、実際の治療では、患者の状態や装置トラブルなどによって、実際の治療室占有時間(実績値)がその推定値と乖離することがある。
【0073】
そこで、スケジュール管理装置100は、当日の各種情報として、治療制御システム10により記録された又はデータ入出力端末30で入力された患者の治療室への入室時刻及び退室時刻を取得し、実際の治療室占有時間を算出する。スケジュール管理装置100は、実際の治療室占有時間がその推定値と乖離している場合、実際の治療室占有時間に基づき、治療スケジュールを再生成する。
【0074】
ここで、実際の治療室占有時間がその推定値とどの程度異なる場合に乖離していると判断するかについては、限定されないが、実際の治療室占有時間がその推定値よりも少しでも大きい若しくは小さい場合、又は、実際の治療室占有時間がその推定値よりも±5%、±10%、±15%、±20%、±25%、±30%、±35%、±40%、±45%、±50%、±60%、±70%、±80%、±90%、若しくは±100%異なる場合に、スケジュール管理装置100は、実際の治療室占有時間がその推定値と乖離していると判断する。
【0075】
図5に示す例では、元々(9時の時点で)は
図4Aに示す治療スケジュールであったが、患者Aの実際の治療室占有時間がその推定値(12分)よりも延長してしまい、他方、治療室R2の患者Dは治療室占有時間の推定値どおりに治療が終了したとする。スケジュール管理装置100は、患者Dの実際の治療室占有時間を算出し、その時点(例えば9時18分)で、患者Aは未だ治療を終えていないことから、治療スケジュールの再生成を行う(リスケジューリング)。
【0076】
スケジュール管理装置100が患者Dの実際の治療室占有時間を算出し、患者Aの治療が延びていると判断すると、スケジュール学習部104は、すでに治療中の患者A及びDのスケジュールはそのままで、受付が済んでおり且つ治療時間枠が早い患者G及びCを治療室R1又はR2に割り当てる。このとき、患者Dの実際の治療室占有時間が治療中の患者Aの延長中の実際の治療室占有時間よりも小さいので、大きい治療室占有時間の推定値(37分)の患者Gが治療室R2に患者Dに続いて割り当てられ、小さい治療室占有時間の推定値(10分)の患者Cが治療室R1に患者Aに続いて割り当てられる。
【0077】
次に、受付は未だであるが治療時間枠(10時)が早い患者は患者Bであり、治療室R1の患者Aの現在の占有時間(18分程度)と患者Cの治療室占有時間の推定値(10分)との合計が、治療室R2の患者Dの実際の治療室占有時間(18分程度)と患者Gの治療室占有時間の推定値(37分)との合計よりも小さいので、患者Bは、患者Cに続いて治療室R1に割り当てられる。
【0078】
そして、残りの患者E及びFについては、治療室R1の患者Aの現在の治療室占有時間(18分程度)と患者Cの治療室占有時間の推定値(10分)と患者Bの治療室占有時間の推定値(20分)との合計が、治療室R2の患者Dの実際の治療室占有時間(18分程度)と患者Gの治療室占有時間の推定値(37分)との合計よりも小さいので、患者Eは患者Bに続いて治療室R1に割り当てられ、患者Fは患者Gに続いて治療室R2に割り当てられる。
【0079】
このようにして、スケジュール学習部104は、患者スループットを最大化するように、即ち治療室R1に割り当てられた患者の治療室占有時間の推定値(又は実績値)の合計と治療室R2に割り当てられた患者の治療室占有時間の推定値(又は実績値)の合計との差が最も小さくなるように、患者B、C、E〜Gそれぞれを治療室R1又はR2へ割り当てて、治療スケジュールを再生成する。
【0080】
なお、リスケジューリングのタイミングとしては、各患者の実際の治療室占有時間の値を算出する度に(つまり各患者の放射線治療の完了後に)、その時点における患者情報や当日の各種情報等に基づき、治療スケジュールを再生成するようにしてもよい。
【0081】
〔
治療スケジュールの生成例3〕
放射線治療施設の都合により、特定の治療室について、利用可能な時間を指定したい場合がある。この場合、医療スタッフが、治療室ごとに利用可能時間を予め設定しておく。スケジュール管理装置100は、各治療室の利用可能時間を考慮して、治療スケジュールを生成する。治療室の利用可能時間は、始まりから終わりまでの時間に限らず、途中休憩などを考慮したものであってもよい。
【0082】
スケジュール学習部104は、受付の有無及び治療時間枠を優先させつつ、患者A〜Zの治療順と治療室を割り当てていく。
図6の例では、治療室R1に割り当てた患者Aの治療室占有時間の推定値(12分)によると、患者Aの治療が終わったとしても治療室R2はまだ使用することができない状態にある。そこで、治療室R1に患者Aに続いて受付済みの患者Dを割り当てる。
【0083】
次に、治療室R1の患者Aの治療室占有時間の推定値(12分)と患者Dの治療室占有時間の推定値(18分)との合計よりも、治療室R2の利用開始時間が早いため、受付が未だであるが早い治療時間枠(9時)の患者Gは、治療室R2に割り当てられる。他の患者B〜Zについては上記例と同様であり、説明を省略する。
【0084】
ただし、治療室R1及びR2への患者の割り当ては、治療室R1の患者の治療室占有時間の推定値の合計が治療室R1の利用可能時間(利用開始時間から利用終了時間まで)を超えないように、かつ、治療室R2の患者の治療室占有時間の推定値の合計が治療室R2の利用可能時間を超えないように行われる。
【0085】
このように、スケジュール学習部104は、患者スループットを最大化するように、治療室の利用可能時間を考慮して、治療室R1に割り当てられた患者の治療室占有時間の推定値(又は実績値)の合計を規格化(例えば、治療室R1の利用可能時間で治療室R2の利用可能時間を割った値を係数として掛ける)のした値と治療室R2に割り当てられた患者の治療室占有時間の推定値(又は実績値)の合計とを規格化(例えば、治療室R2の利用可能時間で治療室R1の利用可能時間を割った値を係数として掛ける)した値との差が最も小さくなるように、患者A〜Zの各々を治療室R1又はR2へ割り当て、治療スケジュールを生成する。
【0086】
〔
治療スケジュールの生成例4〕
実際の治療において、受付け後すぐに患者に放射線治療を施すことができるわけではなく、治療前の準備や処置のための時間を要することがある。治療開始前の準備時間は、患者の治療部位や性別、年齢などの情報を基に推定可能である。例えば、前立腺がんの患者の場合、治療前に排尿処置が必要であり、排尿して一定時間後に放射線治療が開始される。この場合、放射線治療の開始前に必要な準備時間は基本的にコントロールできるが、高齢の患者は時間が長くかかる傾向があったり、特定の患者について極端に長くなったりといったことがある。また、治療部位によっては、患者への薬剤投与や飲食禁止といった事前準備が必要になり、これらの処置時間と患者情報との相関が予想される。
【0087】
本例においては、治療室占有時間の推定値に加えて、スケジュール管理装置100の治療室外時間学習部103が算出する治療室外時間の推定値も考慮して、治療スケジュールが生成される。
【0088】
図7に示すように、治療日当日(例えば2019年6月1日)における治療室外時間学習部103により算出された患者Aの治療室外時間の推定値が、例えば、15分であり、他の患者B〜Gについては推定値が0分であったとする。治療室外時間の推定値は、治療日以前又は当日に、治療室外時間学習部103が、各患者A〜Gの患者情報等を用いて、予め算出し、記憶部105に記憶させておいたものである。
【0089】
治療日当日の例えば9時において、患者A、D、及びGはすでに受付を済ませているが、患者B、C、E、Fは受付が済んでいないとする。
【0090】
スケジュール学習部104は、受付の有無及び治療時間枠を優先させつつ、患者A〜Gの治療順と治療室を割り当てていく。
図7の例では、患者Aは治療室に入室する前に準備に15分要すると推定されている。そのため、患者Aを治療室R1又はR2の一番最初に割り当ててしまうと、患者スループットが悪くなる。そこで、スケジュール学習部104は、患者Aを除くすでに受付を済ませた患者D及びGをそれぞれ治療室R2及びR1の先頭に割り当てる。即ち、スケジュール学習部104は、各治療室R1及びR2の利用可能時刻から治療室外時間の推定値の分以降の割り当てとなるように順番付けされる。
【0091】
そして、患者Aの治療室外時間の推定値(15分)後に患者Gよりも患者Dの方が早く治療室から退室することが推定されているので、患者Aは、患者Dに続いて治療室R2に割り当てられる。他の患者B、C、E、Fの割り当てについては上記例と同様であり説明を省略する。
【0092】
このようにして、スケジュール学習部104は、患者スループットを最大化するように、治療室の利用可能時間と治療室外時間の推定値を考慮して、治療室R1に割り当てられた患者の治療室占有時間の推定値(又は実績値)の合計と治療室R2に割り当てられた患者の治療室占有時間の推定値(又は実績値)の合計との差が最も小さくなるように、患者A〜Gの各々を治療室R1又はR2へ割り当て、治療スケジュールを生成する。
【0093】
〔
治療スケジュールの生成例5〕
生成例4の状況において、
図7に示す治療スケジュールをスケジュール学習部104が提案したとする。しかし、治療を始める前に、患者Gについては照射前の位置合わせ(患者位置設定)が技術的に難しいことを現場の放射線技師が理解しており、現場の判断で、治療室R1担当の技師αよりも、経験豊富な技師βが担当する治療室R2へ割り当てを変更したとする。それにともない患者D及びA等も治療室R1へ割り当てを変更したとする。そして技師βが担当することで、実際に治療室占有時間が短縮されるとする。
【0094】
このような場合、治療室占有時間学習部102は、担当した技師βによって、推定値(37分)から実際の治療室占有時間が短縮されたことから、技師βと時間短縮との相関を学習することができる。
【0095】
また、スケジュール学習部104は、患者Gの治療が終了した時点で、推定値(37分)に比べて実際の治療室占有時間が短縮しており、それを考慮して治療スケジュールを再生成する(リスケジューリング)。
図8の例では、治療室R2の患者Cの治療が早まり、患者Eが治療室R2に割り当てられ、患者Fが治療室R1へ割り当てられる。
【0096】
このように、治療室占有時間学習部102は、実際の治療室占有時間の削減の結果を学習できる。また、スケジュール学習部104は、削減された実際の治療室占有時間を考慮して、リスケジューリングを行う。
【0097】
〔
治療スケジュールの生成例6〕
一般的に、粒子線治療施設においては高価な加速器(放射線源2)が1台設けられ、その加速器からの粒子線を複数の治療室で用いることが行われている。この場合、同じ時間に複数の治療室へ粒子線を供給することはできない。言い換えると、一つの治療室へ粒子線が供給されている間は、他の治療室において粒子線治療を行うことはできない。
【0098】
そこで、本例では、治療室占有時間学習部102は、治療室内において粒子線を照射する時間とそれ以外の時間(通常は患者位置設定の時間)とを区別できる形で、治療室占有時間を推定する。すなわち、治療室占有時間学習部102は、治療室占有時間のうち、患者位置設定等を行っている時間と、粒子線を照射する時間をそれぞれ推定する。そして、スケジュール学習部104は、各患者の推定した治療室占有時間のうち、複数の治療室間で粒子線を照射する時間が重ならないように、且つ患者スループットを最大化するように、治療スケジュールを生成する。
【0099】
図9の例では、
図4Aの例と同様に、受け付け及び治療時間枠を考慮して、患者A〜Gが治療室R1又はR2に割り当てられることになる。しかし、
図4Aの例のように治療スケジュールを生成すると、治療室R1に割り当てられた患者Gへの粒子線の照射時間と、治療室R2に割り当てられた患者Cへの粒子線の照射時間とが一部重なることとなる。そこで、スケジュール学習部104は、患者Cの治療室への入室時間を遅らせて、患者Cへの粒子線の照射時間が患者Gへの粒子線の照射時間と重ならないようにする。なお、治療室R2においては、患者Bと患者Cとの間で誰にも使用されない時間(ブランク)が生じるが、これは許容される。
【0100】
〔
治療スケジュールの生成例7〕
治療室占有時間は、患者位置設定の時間と粒子線の照射時間が多くを占める。一般的に患者位置設定の時間の方が粒子線の照射時間より長い。治療室の占有時間を短縮化する目的で、患者を移動可能な患者搬送台車に乗せ、患者位置設定を治療室外の準備室で実施する場合がある。このような技術は、参照により組み込まれる特願2019−65824号に詳細に記載されているので、説明は省略する。患者搬送台車では、準備室にて患者位置設定を完了後に、患者は台車に乗ったまま治療室へ搬送され、患者搬送台車が治療室内で固定された後、患者への粒子線照射が行われる。照射完了後は、患者は患者搬送台車に乗ったまま治療室から退室する。
【0101】
本例では、粒子線治療施設において2つの治療室R1及びR2に対して、4つの準備室P1〜P4が設けられた状況を考慮する。また、4つの準備室P1〜P4それぞれに対して患者搬送台車が1台ずつ用意されている。
【0102】
治療室外時間学習部103は、患者情報等に基づき、各患者の治療室外時間を推定する。治療室外時間には、準備室における患者位置設定の時間、及び準備室から治療室への患者搬送台車の移動時間が含まれる。治療室占有時間学習部102は、治療室における各患者の占有時間を推定する。本例では、治療室占有時間には、粒子線の照射時間と、治療室内における各種処置時間(患者搬送台車を治療室に固定したり、照射位置の微調整を行うなど)が含まれる。
【0103】
スケジュール学習部104は、治療室占有時間学習部102及び治療室外時間学習部103により推定された時間に基づき、治療スケジュールを生成する。このとき、上記生成例6のように、治療室R1及びR2に割り当てた患者の粒子線照射時間が重ならないようにを治療スケジュールが生成される。
【0104】
生成される治療スケジュールは、必ずしも治療室を空き時間なく利用するものではないが、患者位置設定を治療室外(即ち準備室)で行う患者搬送台車を用いる態様において、患者スループットを最大化させることができる。
【0105】
〔
治療スケジュールの生成例8〕
放射線治療においては、治療以外の目的で放射線を使用したり、治療室を占有したりする時間がある。例えば、放射線治療装置のQA(Quality Assurance)、定期的な装置の点検、治療前の患者の線量分布検証(患者QA)、及び治療のリハーサルなどの目的で治療室を使用することがある。しかし、治療外目的で治療室を使用する時間が長くなると、治療室を治療目的で使用できる時間が短くなり、患者スループットの低下に繋がる。
【0106】
治療室占有時間学習部102は、各患者の治療室占有時間を推定するとともに、QA情報等に基づき、QAの各項目a〜dを行うための治療室占有時間を推定する。そして、スケジュール学習部104は、上記生成例のように、受け付けの有無や治療時間枠を考慮しつつ、各患者の治療室占有時間の推定値とQAによる治療室占有時間の推定値に基づき、QA予定が含まれる治療スケジュールを生成する。
【0107】
本発明は、具体的に記載された上記実施形態及び生成例に限定されるものではなく、当業者であれば、上記生成例の任意の組み合わせが可能であることは理解できる。
本発明の一実施形態は、放射線治療が行われる治療室を複数備えた放射線治療施設における放射線治療のスケジュール管理装置であって、一治療日に放射線治療を受ける複数の患者それぞれについて、前記治療室を患者が占有する時間(「治療室占有時間」という)の推定値を算出する治療室占有時間学習部と、前記一治療日の放射線治療のスケジュールを生成するスケジュール学習部とを備えるスケジュール管理装置を提供する。