(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記オニウム塩は、分子中のリン原子に結合している置換基の全てが炭素数3以上のアルキル基である有機硫酸ホスホニウム塩、及び分子中のリン原子に結合している置換基の全てが炭素数3以上のアルキル基である有機スルホン酸ホスホニウム塩から選ばれる少なくとも一つを含む請求項2に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明の炭素繊維前駆体用処理剤(以下、単に処理剤という)を具体化した第1実施形態を説明する。
【0013】
本実施形態の処理剤は、(A)平滑剤と、(B)特定のオニウム塩と、(C)非イオン界面活性剤とを含有する。以下、本実施形態の処理剤に含有される各成分の詳細について記載する。
【0014】
(A)平滑剤
本実施形態の処理剤に含有される平滑剤としては、例えば、シリコーン、エステル等が挙げられる。
【0015】
平滑剤として使用されるシリコーンとしては、特に制限はなく、例えば、ジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン等が挙げられる。
【0016】
平滑剤として使用されるエステルとしては、特に制限はなく、例えば、(1)オクチルパルミテート、オレイルラウレート、オレイルオレート、イソテトラコシルオレート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)1,6−ヘキサンジオールジデカネート、グリセリントリオレート、トリメチロールプロパントリラウレート、ペンタエリスリトールテトラオクタネート等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(3)ジオレイルアゼレート、チオジプロピオン酸ジオレイル、チオジプロピオン酸ジイソセチル、チオジプロピオン酸ジイソステアリル等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル化合物、(4)ベンジルオレート、ベンジルラウレート等の、芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(5)ビスフェノールAジラウレート、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のジラウレート等の、芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、(6)ビス2−エチルヘキシルフタレート、ジイソステアリルイソフタレート、トリオクチルトリメリテート等の、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸との完全エステル化合物、(7)ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油及び牛脂等の天然油脂等が挙げられる。その他、合成繊維用処理剤に採用されている公知の平滑剤等を使用してもよい。
【0017】
平滑剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
なお、平滑剤は、アミノ変性シリコーンを含む
。アミノ変性シリコーンのアミノ当量は、例えば、500〜10000g/molであることが好ましい。平滑剤がアミノ変性シリコーンを含む場合には、処理剤が付与された炭素繊維前駆体から得られた炭素繊維の強度が向上する。また、平滑剤は、アミノ変性シリコーン及びポリエーテル変性シリコーンを含むことがより好ましい。この場合には、後述する紡糸工程における集束性が向上するとともに、後述する耐炎化処理工程における集束性が更に向上する。
【0018】
平滑剤の動粘度は、例えば、25℃において10mm
2/s〜100000mm
2/sであることが好ましい。
(B)特定のオニウム塩
本実施形態の処理剤に含有される特定のオニウム塩は、有機硫酸ホスホニウム塩、有機スルホン酸ホスホニウム塩、分子中に炭素数が3以上のアルキル基を有する有機硫酸の4級アンモニウム塩、分子中に炭素数が3以上のアルキル基を有する有機スルホン酸の4級アンモニウム塩から選ばれる少なくとも一つである。
【0019】
上記アルキル基の炭素数は、4以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。また、上記アルキル基の炭素数は、20以下であることが好ましい。上記アルキル基は、直鎖状及び分岐鎖状のいずれであってもよいが、直鎖状であることが好ましい。
【0020】
有機硫酸ホスホニウム塩を構成する有機硫酸としては、例えば、(1)エチル硫酸、オクチル硫酸、ラウリル硫酸、テトラデシル硫酸、ヘキサデシル硫酸、オクタデシル硫酸等のアルキル硫酸エステル、(2)ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸(ポリオキシアルキレンの平均付加モル数は、例えば、1〜25)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸等のポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸(ポリオキシアルキレンの平均付加モル数は、例えば、1〜25)が挙げられる。
【0021】
分子中に炭素数が3以上のアルキル基を有する有機硫酸の4級アンモニウム塩を構成する有機硫酸としては、例えば、(1)オクチル硫酸、ラウリル硫酸、テトラデシル硫酸、ヘキサデシル硫酸、オクタデシル硫酸、イソオクタデシル硫酸等のアルキル硫酸エステル、(2)ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンイソオクタデシルエーテル硫酸等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸(ポリオキシアルキレンの平均付加モル数は、例えば、1〜25)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸等のポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸(ポリオキシアルキレンの平均付加モル数は、例えば、1〜25)が挙げられる。
【0022】
有機スルホン酸ホスホニウム塩を構成する有機スルホン酸としては、例えば、(1)メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ヘキシルスルホン酸、ヘプチルスルホン酸、2−エチルヘキシルスルホン酸、オクチルスルホン酸、ノニルスルホン酸、デシルスルホン酸、ウンデシルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、トリデシルスルホン酸等のアルキルスルホン酸、(2)p−トルエンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ウンデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トリデシルベンゼンスルホン酸、テトラデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸、ヘキサデシルベンゼンスルホン酸、ジブチルナフタレンスルホン酸等のアルキルアリールスルホン酸、(3)ヘキサデシルジフェニルエーテルジスルホン酸等のジフェニルエーテルスルホン酸、(4)ジオクチルスルホコハク酸エステル、ジブチルスルホコハク酸エステル、ドデシルスルホ酢酸エステル、ノニルフェノキシポリエチレングリコールスルホ酢酸エステル等のエステルスルホン酸等が挙げられる。
【0023】
分子中に炭素数が3以上のアルキル基を有する有機スルホン酸の4級アンモニウム塩を構成する有機スルホン酸としては、例えば、(1)ヘキシルスルホン酸、ヘプチルスルホン酸、2−エチルヘキシルスルホン酸、オクチルスルホン酸、ノニルスルホン酸、デシルスルホン酸、ウンデシルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、トリデシルスルホン酸等のアルキルスルホン酸、(2)デシルベンゼンスルホン酸、ウンデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トリデシルベンゼンスルホン酸、テトラデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸、ヘキサデシルベンゼンスルホン酸、ジブチルナフタレンスルホン酸等のアルキルアリールスルホン酸、(3)ヘキサデシルジフェニルエーテルジスルホン酸等のジフェニルエーテルスルホン酸、(4)ジオクチルスルホコハク酸エステル、ジブチルスルホコハク酸エステル、ドデシルスルホ酢酸エステル、ノニルフェノキシポリエチレングリコールスルホ酢酸エステル等のエステルスルホン酸等が挙げられる。
【0024】
有機硫酸ホスホニウム塩及び有機スルホン酸ホスホニウム塩を構成するホスホニウムとしては、例えば、テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラオクチルホスホニウム、ジブチルジヘキシルホスホニウム、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム、トリエチルオクチルホスホニウム、トリフェニルメチルホスホニウム等の4級ホスホニウムが挙げられる。
【0025】
分子中に炭素数が3以上のアルキル基を有する有機硫酸の4級アンモニウム塩及び分子中に炭素数が3以上のアルキル基を有する有機スルホン酸の4級アンモニウム塩を構成する4級アンモニウムとしては、例えば、テトラブチルアンモニウム、トリヘキシルテトラデシルアンモニウムが挙げられる。
【0026】
特定のオニウム塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
なお、特定のオニウム塩は、有機硫酸ホスホニウム塩及び有機スルホン酸ホスホニウム塩から選ばれる少なくとも一つを含むことが好ましい。また、特定のオニウム塩は、分子中のリン原子に結合している置換基の全てが炭素数3以上のアルキル基である硫酸ホスホニウム塩、及び分子中のリン原子に結合している置換基の全てが炭素数3以上のアルキル基である有機スルホン酸ホスホニウム塩から選ばれる少なくとも一つを含むことがより好ましい。この場合には、処理剤を付着させた炭素繊維前駆体に制電性を付与できる。
【0027】
(C)非イオン界面活性剤
本実施形態の処理剤に含有される非イオン界面活性剤としては、特に制限はなく、例えば、アルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させたものが挙げられる。
【0028】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2−エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0029】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば、(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2−エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸等が挙げられる。
【0030】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。
非イオン界面活性剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
なお、非イオン界面活性剤は、直鎖アルキルアルコール等の炭素数4〜20の脂肪族飽和アルコール1モルに対し、エチレンオキサイドを1〜20モルの割合で付加させたものを含むことが好ましい。この場合には、処理剤の安定性が向上する。
【0032】
(D)その他成分
本実施形態の処理剤は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、通常処理剤に用いられるその他成分をさらに含有してもよい。その他成分としては、例えば、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の処理剤の品質保持のための安定化剤や制電剤が挙げられる。その他成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
次に、本実施形態の処理剤における各成分の含有割合について記載する。本実施形態の処理剤における各成分の含有割合は、特に制限されるものではないが、以下の含有割合であることが好ましい。
【0034】
(A)平滑剤の含有割合は、(A)平滑剤、(B)特定のオニウム塩、及び(C)非イオン界面活性剤の含有割合の合計(以下、主成分合計という。)を100質量部とすると、29.9〜95質量部であることが好ましく、60〜90質量部であることがより好ましい。
【0035】
(B)特定のオニウム塩の含有割合は、主成分合計を100質量部とすると、0.1〜30質量部であることが好ましく、0.5〜25質量部であることがより好ましい。また、(B)特定のオニウム塩の含有割合は、平滑剤及び特定のオニウム塩の含有割合の合計を100質量部とすると、0.01〜20質量部であることが好ましい。この場合には、制電性を付与する効果、及び炭素繊維の強度を向上させる効果が得られやすい。
【0036】
(C)非イオン界面活性剤は、主成分合計を100質量部とすると、1〜70質量部であることが好ましく、5〜30質量部であることがより好ましい。
また、本実施形態の処理剤における不揮発成分の含有割合を100質量部とすると、(A)平滑剤、(B)特定のオニウム塩、及び(C)非イオン界面活性剤の含有割合の合計は、50質量部以上であることが好ましく、75質量部以上であることがより好ましい。
【0037】
(第2実施形態)
次に、本発明の炭素繊維前駆体(以下、前駆体という)を具体化した第2実施形態について説明する。
【0038】
本実施形態の前駆体は、原料繊維を紡糸してなる繊維部分と、繊維部分に付着する第1実施形態の処理剤とを備える。本実施形態の前駆体に対して、200〜300℃、好ましくは230〜270℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程、及び耐炎化繊維をさらに300〜2000℃、好ましくは300〜1300℃の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程を行うことにより炭素繊維が製造される。
【0039】
原料繊維としては、例えば、アクリル繊維等が挙げられる。アクリル繊維は、少なくとも90モル%以上のアクリロニトリルと、10モル%以下の耐炎化促進成分とを共重合させて得られるポリアクリロニトリルを主成分とする繊維から構成されることが好ましい。耐炎化促進成分としては、例えば、アクリロニトリルに対して共重合性を有するビニル基含有化合物が好適に使用できる。
【0040】
炭素繊維前駆体における第1実施形態の処理剤の付着量は、特に制限されないが、炭素繊維前駆体に対し、0.1〜2質量%となるように付着させることが好ましく、0.3〜1.2質量%となるように付着させることがより好ましい。なお、上記濃度は、溶媒を含まない固形分濃度である。
【0041】
炭素繊維前駆体の単繊維繊度は、特に制限されないが、性能及び製造コストのバランスの観点から、好ましくは0.1〜2.0dTexである。また、炭素繊維前駆体の繊維束を構成する単繊維の本数は、特に制限されないが、性能及び製造コストのバランスの観点から、好ましくは1,000〜96,000本である。
【0042】
炭素繊維前駆体は、原料繊維を紡糸及び延伸する製糸工程により製造できる。製糸工程においては、例えば、原料繊維を紡糸する紡糸工程、紡糸された繊維に第1実施形態の処理剤を付着させる付着処理工程、及び紡糸された繊維を延伸する延伸工程が順に行われる。なお、原料繊維は紡糸直後から延伸されるが、付着処理工程後の高倍率延伸を特に「延伸工程」と呼ぶ。
【0043】
付着処理工程は、原料繊維を紡糸した後、第1実施形態の処理剤を付着させる工程である。つまり、付着処理工程で原料繊維に第1実施形態の処理剤を付着させる。
付着処理工程における第1実施形態の処理剤の付着方法は公知の方法を適用できる。公知の付着方法としては、例えば、スプレー給油法、浸漬給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法等が挙げられる。第1実施形態の処理剤を繊維に付着させる際の形態としては、例えば、有機溶媒溶液、水性液等が挙げられる。
【0044】
延伸工程における延伸方法は公知の方法を適用できる。公知の延伸方法としては、例えば、高温水蒸気を用いた湿熱延伸法、熱ローラーを用いた乾熱延伸法等が挙げられる。
製糸工程において、第1実施形態の処理剤を付着させるタイミング及び第1実施形態の処理剤を付着させる回数は特に制限されるものではない。例えば、紡糸工程前の原料繊維に付着させてもよいし、延伸工程後に付着させてもよい。延伸工程後に付着させるタイミングとしては、例えば、延伸工程の直後、延伸工程後の巻取り段階、耐炎化処理工程の直前が挙げられる。なお、第1実施形態の処理剤は、延伸工程前に一度付着させておくことが好ましく、延伸工程前に一度付着させておき、延伸工程直後に再度付着させることがより好ましい。
【0045】
第1実施形態及び第2実施形態の効果について説明する。
(1)第1実施形態の処理剤は、(A)平滑剤と、(B)特定のオニウム塩と、(C)非イオン界面活性剤とを含有する。第2実施形態の炭素繊維前駆体は、第1実施形態の処理剤が付着されている。
【0046】
上記構成によれば、処理剤を付着させた炭素繊維前駆体から炭素繊維を製造する際の耐炎化処理工程における耐炎化繊維の集束性が向上する。更に、上記構成によれば、処理剤を付着させた炭素繊維前駆体に制電性を付与すること、処理剤を付着させた炭素繊維前駆体から得られた炭素繊維の強度を向上させること、及び炭素繊維前駆体を製造する際の紡糸工程における集束性を向上させることができる。
【0047】
(2)(B)特定のオニウム塩は、有機硫酸ホスホニウム塩及び有機スルホン酸ホスホニウム塩から選ばれる少なくとも一つを含む。
上記構成によれば、上記(1)の効果がより顕著に得られる。
【0048】
(3)(B)特定のオニウム塩は、分子中のリン原子に結合している置換基の全てが炭素数3以上のアルキル基である硫酸ホスホニウム塩、及び分子中のリン原子に結合している置換基の全てが炭素数3以上のアルキル基である有機スルホン酸ホスホニウム塩から選ばれる少なくとも一つを含む。
【0049】
上記構成によれば、処理剤を付着させた炭素繊維前駆体に制電性を付与する効果が向上する。これにより、炭素繊維前駆体を走行させる際や巻き取る際に発生する電気が少なくなり、炭素繊維前駆体が扱いやすくなる。
【0050】
(4)(A)平滑剤は、アミノ変性シリコーンを含む。
上記構成によれば、処理剤を付着させた炭素繊維前駆体から得られた炭素繊維の強度が向上する。
【0051】
(5)(A)平滑剤は、アミノ変性シリコーン及びポリエーテル変性シリコーンを含む。
上記構成によれば、上記(4)の効果に加えて、炭素繊維前駆体を製造する際の紡糸工程における集束性が向上するとともに、耐炎化処理工程における耐炎化繊維の集束性が更に向上する。
【0052】
(6)(A)平滑剤及び(B)特定のオニウム塩の含有割合の合計を100質量部とすると、(B)特定のオニウム塩を0.01〜20質量部の割合で含有する。
上記構成によれば、上記(3)の効果及び上記(4)の効果が得られやすい。
【0053】
(7)(C)非イオン界面活性剤は、炭素数4〜20の脂肪族飽和アルコール1モルに対し、エチレンオキサイドを1〜20モルの割合で付加させたものを含む。
上記構成によれば、処理剤の安定性が向上する。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。なお、以下の実施例
、参考例、及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0055】
試験区分1(炭素繊維前駆体用処理剤の調製)
(実施例1)
表1に示される各成分を使用し、平滑剤(A−1)を120g、平滑剤(A−4)を40g、特定のオニウム塩(B−1)を10g、非イオン界面活性剤(C−1)を20g、非イオン界面活性剤(C−2)を10g、ビーカーに加えて撹拌してよく混合した。撹拌を続けながら固形分濃度が25%となるようにイオン交換水を徐々に添加することで実施例1の炭素繊維前駆体用処理剤の25%水性液を調製した。
【0056】
(実施例2〜
5、実施例9〜13
、参考例1〜3、及び比較例1〜6)
実施例2〜
5、実施例9〜13
、参考例1〜3、及び比較例1〜5の各炭素繊維前駆体用処理剤は、表1に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。
【0057】
【表1】
表1の記号欄に記載するA−1〜A−6、B1〜B8、rb1〜rb5、及びC−1〜C−5の各成分の詳細は以下のとおりである。
【0058】
(平滑剤)
A−1:25℃における動粘度が650mm
2/s、アミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン
A−2:25℃における動粘度が90mm
2/s、アミノ当量が5000g/molであるアミノ変性シリコーン
A−3:25℃における動粘度が1400mm
2/s、アミノ当量が2000g/molであるアミノ変性シリコーン
A−4:25℃における動粘度が1700mm
2/s、シリコーン主鎖/ポリエーテル側鎖=20/80(質量比)、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=50/50(モル比)のポリエーテル変性シリコーン
A−5:25℃における動粘度が17000mm
2/s、エポキシ当量:3800g/molであるエポキシ変性シリコーン
A−6:チオジプロピオン酸ジ(n−ドデシル)エステル
(特定のオニウム塩)
B−1:ドデシルベンゼンスルホン酸のテトラブチルホスホニウム塩
B−2:エチレンオキサイド5モル付加のラウリルエーテル硫酸のテトラオクチルホスホニウム塩
B−3:エタンスルホン酸のジブチルジヘキシルホスホニウム塩
B−4:オクタデシル硫酸のトリヘキシルテトラデシルホスホニウム塩
B−5:ドデシルスルホン酸のトリエチルオクチルホスホニウム塩
B−6:ヘキシルスルホン酸のトリフェニルメチルホスホニウム塩
B−7:ドデシルベンゼンスルホン酸のテトラブチルアンモニウム塩
B−8:オクチル硫酸のトリヘキシルテトラデシルアンモニウム塩
(その他のイオン性成分)
rb−1:ドデシルベンゼンスルホン酸
rb−2:エチル硫酸のテトラエチルアンモニウム塩
rb−3:2−エチルヘキシルリン酸エステル
rb−4:硫酸ナトリウム
rb−5:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
(非イオン界面活性剤)
C−1:イソドデシルアルコールのエチレンオキサイド10モル付加物
C−2:イソオクタデシルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物
C−3:ヘキシルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物
C−4:テトラデシルアルコールのエチレンオキサイド18モル付加物
C−5:ノニルフェノールのエチレンオキサイド7モル付加物
試験区分2(炭素繊維前駆体及び炭素繊維の製造)
試験区分1で調製した炭素繊維前駆体用処理剤を用いて、炭素繊維前駆体及び炭素繊維を製造した。
【0059】
アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル3.5質量%、メタクリル酸1.5質量%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解してポリマー濃度が21.0質量%、60℃における粘度が500ポイズの紡糸原液を作成した。紡糸原液は、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70質量%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。
【0060】
凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランド(原料繊維)を作成した。このアクリル繊維ストランドに対して、固形分付着量が1質量%(溶媒を含まない)となるように、試験区分1で調製した炭素繊維前駆体用処理剤を給油した。炭素繊維前駆体用処理剤の給油は、炭素繊維前駆体用処理剤の4%イオン交換水溶液を用いた浸漬法により実施した。
【0061】
その後、アクリル繊維ストランドに対して、130℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、更に170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に糸管に巻き取ることで炭素繊維前駆体を得た。
【0062】
巻き取られた炭素繊維前駆体から糸を解舒し、230〜270℃の温度勾配を有する耐炎化炉で空気雰囲気下1時間、耐炎化処理した後に糸管に巻き取ることで耐炎化糸(耐炎化繊維)を得た。更に、巻き取られた耐炎化糸から糸を解舒し、窒素雰囲気下で300〜1,300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換後、糸管に巻き取ることで炭素繊維を得た。
【0063】
試験区分3(評価)
・耐炎化集束性の評価
試験区分2の炭素繊維の製造過程において、耐炎化処理後の巻取り前の耐炎化糸の集束状態を目視で観察し、以下の基準で耐炎化集束性を評価した。結果を表1にまとめて示した。
【0064】
◎:集束しており、トウ幅が一定である。
○:集束しているが、トウ幅が一定ではない。
×:繊維束中に空間があり、集束していない。
【0065】
・電気抵抗の評価
試験区分2で得た炭素繊維前駆体を20×65%RHの雰囲気下に24時間放置し、同条件下で評価資料10gを電気抵抗測定用ボックス(40ml容量)に入れ、東亜電波工業社製の商品名SM−5E型絶縁計を用いて電気抵抗値(logΩ)を測定し、以下の基準で電気抵抗を評価した。結果を表1にまとめて示した。
【0066】
◎:9未満
○:9以上10未満
×:10以上
・炭素繊維強度の評価
JIS R 7606に準じて、試験区分2で得た炭素繊維の強度を測定し、以下の基準で評価した。結果を表1にまとめて示した。
【0067】
◎:4.0GPa以上
○:3.5GPa以上4.0GPa未満
×:3.5GPa未満
・紡糸集束性の評価
試験区分2の炭素繊維前駆体の製造過程において、糸管に巻き取る直前の最終ローラー上での炭素繊維前駆体の集束状態を目視で観察し、以下の基準で紡糸集束性の評価を行った。結果を表1にまとめて示した。
【0068】
◎:集束しており、トウ幅が一定である。
○:集束しているが、トウ幅が一定ではない。
×:繊維束中に空間があり、集束していない。
【0069】
表1に示すように、(B)特定のオニウム塩を含有しない比較例1〜6の処理剤を用いた場合と比較して、(A)平滑剤と、(B)特定のオニウム塩と、(C)非イオン界面活性剤とを含有する実施例1〜
5、実施例9〜13
、参考例1〜3の処理剤を用いた場合には、耐炎化集束性の評価が向上した。また、実施例1〜
5、実施例9〜13
、参考例1〜3の処理剤を用いた場合には、耐炎化集束性の評価に加えて、電気抵抗の評価、炭素繊維強度の評価、及び紡糸集束性の評価についても優れた結果が得られた。
【0070】
(B)特定のオニウム塩として、分子中のリン原子に結合している置換基の全てが炭素数3以上のアルキル基である有機硫酸ホスホニウム塩又は有機硫酸ホスホニウム塩が含まれる実施例1〜
5、参考例1〜3の処理剤を用いた場合には、(B)特定のオニウム塩がその他の特定のオニウム塩である実施例9〜10,12〜13の処理剤を用いた場合と比較して、電気抵抗の評価が大きく向上した。
【0071】
(A)平滑剤として、アミノ変性シリコーンを含む実施例1〜5の処理剤を用いた場合には、アミノ変性シリコーンを含まない
参考例1〜3の処理剤を用いた場合と比較して、炭素繊維強度の評価が大きく向上した。特に、(A)平滑剤として、アミノ変性シリコーン及びポリエーテル変性シリコーンを含む実施例1〜3の処理剤を用いた場合には、炭素繊維強度の評価に加えて、耐炎化集束性の評価及び紡糸集束性の評価も大きく向上した。
【0072】
(A)平滑剤と、(B)特定のオニウム塩と、(C)非イオン界面活性剤の各成分が共通し、(A)平滑剤及び(B)特定のオニウム塩の含有割合が異なる実施例5及び実施例11の処理剤を用いた場合の結果の比較から、(A)平滑剤に対する(B)特定のオニウム塩の含有割合の質量比率を低くすることにより、電気抵抗の評価及び炭素繊維強度の評価が向上しやすい傾向が確認できた。
【解決手段】炭素繊維前駆体用処理剤は、(A)平滑剤と、(B)有機硫酸ホスホニウム塩、有機スルホン酸ホスホニウム塩、分子中に炭素数が3以上のアルキル基を有する有機硫酸の4級アンモニウム塩、分子中に炭素数が3以上のアルキル基を有する有機スルホン酸の4級アンモニウム塩から選ばれる少なくとも一つのオニウム塩と、(C)非イオン界面活性剤とを含有する。