特許第6632022号(P6632022)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6632022
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月15日
(54)【発明の名称】採光システム
(51)【国際特許分類】
   E06B 5/00 20060101AFI20200106BHJP
【FI】
   E06B5/00 D
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-193714(P2015-193714)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-66742(P2017-66742A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000148151
【氏名又は名称】株式会社川島織物セルコン
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 重喜
【審査官】 秋山 斉昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−2224(JP,A)
【文献】 特開2007−131985(JP,A)
【文献】 特開2006−299438(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0129140(US,A1)
【文献】 特開2004−162194(JP,A)
【文献】 特開平6−33671(JP,A)
【文献】 特開2010−229595(JP,A)
【文献】 特開昭59−228041(JP,A)
【文献】 特開昭61−185129(JP,A)
【文献】 特開平4−245952(JP,A)
【文献】 特開2016−108681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 5/00
E06B 9/24
D03D 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窓に設置される採光システムであって、
ブラインド、ルーバー、又は可動シャッターである採光機構と、布帛又はシート状部材である調光機構と、を備え、
前記調光機構は、前記採光機構よりも室内側に備えられており、
前記調光機構は、採光拡散値が0.04以上であり、
前記採光拡散値は、
前記布帛又はシート状部材の一方側から布帛又はシート状部材の面に対して垂直に光を照射し、布帛又はシート状部材と光軸との交点である基準点を含み、布帛又はシート状部材の面と直交する水平面内にて、光軸の延長上を0°とし、光軸と基準点からのびる直線との成す角度をθとして、θ=0°、15°、30°、60°であり、かつ、基準点から40cmの距離である4地点で、前記布帛又はシート状部材の他方側へ透過した光の照度を測定し、
前記4地点の照度値および90°地点の照度値を0として各照度値を結ぶ線を描き、0°から90°の照度値を積分した値を照度積分値とし、前記布帛又はシート状部材を設置した状態での照度積分値を、前記布帛又はシート状部材を設置しない状態での照度積分値で割った値を採光値として算出し
60°地点の照度を0°地点の照度で割った値を拡散値として算出し、
前記採光値と前記拡散値とを掛け合わせて得られる値である、
採光システム。
【請求項2】
前記調光機構がカーテン又はシェードである、請求項1に記載の採光システム。
【請求項3】
前記調光機構は、無機系酸化物の含有量が0.8重量%以下かつ撚り数が300T/m以下の糸を20%以上含み、カバーファクターが1000以上であり、前記糸が織物の面方向に並列して配向している織物からなる、カーテン又はシェードである、請求項1又は2に記載の採光システム。
【請求項4】
前記織物の表面に大きさ0.1〜7μmの凹凸が付与されている、請求項3に記載の採光システム。
【請求項5】
前記織物に含まれる前記無機系酸化物の含有量が0.8重量%以下かつ撚り数が300T/m以下の糸の断面が、扁平断面又は円形断面である、請求項3又は4に記載の採光システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅やビル等の建築物の窓に設置される採光システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、窓から室内に差し込む光量の調整のためにブラインドが多用されており、特にオフィスの窓にはブラインドが備え付けられていることが多い。ブラインドはスラットの傾きで光量を調節する仕組みであることから、多くの光を室内に取り入れたい時には遮視性が得られず、逆に光量を制限したい時には透視性が得られないものであった。また、スラットの角度によって室内の特定の部位に光が当たり、室内全体としては明るくならず、さらには、スラットの間から取り込む光には直射光も含まれることから眩しさを感じることもあった。
【0003】
特許文献1には、ブラインドと薄地カーテンとを組み合わせることで、透視性を制限しながらスラットの間からの光量を調整することが提案されている。特許文献1のブラインドは、ブラインドのスラットを前後から挟むようにカーテン生布を取り付けてなるものであって、スラットの昇降とカーテン生布の昇降を同時に行うことが可能である。しかしながら、通常の薄地カーテンとブラインドとを併用した場合には、遮視性はある程度付与されるものの、室内への入射光が制限されるため室内の明るさが不足することがあった。また、カーテンとブラインドとが一体となった構成では、カーテンのみを利用することはできず、隣り合うブラインド同士の隙間から差し込む直射光を調整することもできなかった。
【0004】
また、特許文献2は、ブラインドと他の構成とを組み合わせた採光システムであって、開口(窓)の上方部分に設けられたシート状の光制御部材と、その内側(室内側)に取り付けられるブラインドとを組み合わせるものを開示している。特許文献2の発明は、窓の上方部分に配置される光制御部材によって、入射光の進行方向を上方に変更し、防眩を図りながらも十分な採光を実施するものである。しかしながら、特許文献2の採光システムの窓下方部分においては、ブラインドのみが設けられた窓と変わりがなかった。
【0005】
また、特許文献3には、ベネシャンブラインドのスラットや透光性樹脂シートからなるスクリーンの片側表面に、ミー散乱又は幾何光学散乱する大きさの光拡散性粒子を固定すること、これによって出射する光が拡散し、眩しさがやわらげられて部屋の四方に外光が届くようになることが開示されている。光拡散性粒子の大きさとしては1μm以上が好ましく、アクリル粒子、スチレン粒子等の公知の樹脂製粒子や、二酸化ケイ素、二酸化チタン等の無機粒子を使用するのが好ましいことが開示されている。しかしながら、特許文献3のブラインドは、スラットの間隔から直接入射する入射光を拡散させることはできず、ブラインド単体で十分な機能を有するとはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−20885号公報
【特許文献2】特開2015−1083号公報
【特許文献3】特開2013−2224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、ブラインドの取り付けられた窓からの採光において、充分な明るさを確保しつつ室内の明るさの局在が少なく、部屋の奥まで光を届かせる採光システムとして十分なものは知られていなかった。この状況に鑑み本発明は、ブラインド等の採光機構を含む採光システムであって、光の透過性と拡散性に優れ、なめらかに室内の明るさを変化させることができる採光システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一般的に、同一視界面内で明暗の強弱が強すぎる場合、暗い所が極めて見えにくくなることが知られている。出願人は明るさの指標として輝度を採用し、採光システムを備えたモデル室内の特定面内での輝度の強弱比(輝度比)が10を超えると、明るさ分布が大きく不快に感じられることを見出した。
一方で、出願人は既に、織物における光の透過性と拡散性とを的確に評価する方法を確立している(特願2014−166342号)。当該方法では、織物について、採光値(織物が光を透過させる度合いを示す)と拡散値(織物を透過した光の拡散の度合いを示す)とを測定・算出し、採光値と拡散値とを掛け合わせた値を採光拡散値として評価するものである。
【0009】
出願人はさらなる検討の結果、織物の採光拡散値と、当該織物とブラインドとを組み合わせた採光システムによって得られる輝度比とが相関することを見出し、さらに、採光拡散値が特定の数値以上である織物とブラインドとを組み合わせた採光システムによれば、輝度比が10を超えないことを見出した。そして、このような採光システムによれば、室内の明るさ(輝度)の局在が少なくかつ室内深くまで明るさをもたらすことが可能で、さらに、ブラインドの角度に応じてなめらかに室内の明るさを変化させることが可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、窓に設置される採光システムであって、部材の角度及び/又は位置を変位させることによって通過する光の量を調整することが可能な採光機構と、採光拡散値が0.04以上の布帛又はシート状部材である調光機構と、を備える、採光システムに関する。
【0011】
前記採光システムは、前記調光機構が、前記採光機構よりも室内側に備えられていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の採光システムは、前記採光機構がブラインドであることがより好ましく、前記調光機構がカーテン又はシェードであることがさらに好ましい。
【0013】
また、前記調光機構は、無機系酸化物の含有量が0.8重量%以下かつ撚り数が300T/m以下の糸を20%以上含み、カバーファクターが1000以上であり、前記糸が織物の面方向に並列して配向している織物からなる、カーテン又はシェードであることがより好ましい。
【0014】
さらに、前記織物の表面に大きさ0.1〜7μmの凹凸が付与されていることが好ましい。
【0015】
また、前記織物に含まれる前記無機系酸化物の含有量が0.8重量%以下かつ撚り数が300T/m以下の糸の断面は、扁平断面又は円形断面であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の採光システムによれば、光の透過性と拡散性に優れ、なめらかに室内の明るさを変化させることができるため、室内の明るさ分布を均等化し、心地良い空間を実現することができる。また、採光機構の角度や位置を調整するだけで室内の明るさをなめらかに変化させることができ、常に室内を適切な明るさに保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】透過性及び拡散性の評価システムの概略的構成を示す。Aは側面図、Bは平面図を示す。
図2図1の透過性・拡散性評価システムに備えられた筐体の正面図である。
図3】採光値を算出する例を説明するための図である。
図4】拡散値を規定する例を説明するための図である。
図5】本発明の検討に用いたモデル室の概要を示す図である。
図6】本発明の検討に用いた照明の位置を示す図である。
図7】輝度比と官能評価値の相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(採光システム)
本発明の採光システムは建築物の窓に設置されるものであり、窓として具体的には、オフィススペースの窓(開口部)、公共スペースの窓(開口部)、一般住居等の窓等が挙げられる。窓としては、透明ガラス又は透明素材を用いた採光性の高い窓であることが好ましいが、曇りガラス等によって採光が制限された窓であってもよい。
【0019】
本発明の採光システムに用いられる採光機構は、部材の角度及び/又は位置を変位させることによって通過する光の量を調整するものであり、具体的には、ベネシャンブラインド、バーチカルブラインド、木製ブラインド等のブラインド、ルーバー、可動シャッター等が挙げられ特に制限されない。採光機構は、窓よりも外側(屋外側)に設置されていても、内側(室内側)に設置されていてもよい。
【0020】
本発明の採光システムに用いられる調光機構は、採光拡散値(後に詳述)が0.04以上の布帛又はシート状部材からなり、布帛としては織物、編物、不織布、これらの組み合わせ等が挙げられる。シート状部材としてはシート、フィルム等があり、合成樹脂シート(フィルム)、一般的に光学フィルムと称される多層薄膜を有するフィルム等が挙げられる。
【0021】
調光機構は、採光機構によって室内に取り入れられた光を拡散させる機能があるため、採光機構よりも室内側に備えられていることが好ましい。例えば、採光機構がブラインドであり、調光機構がその室内側に取り付けられるカーテン又はシェードである組み合わせや、採光機構が窓の外側に取り付けられるルーバーであり、調光機構が窓ガラスに貼付されるフィルムである組み合わせ等が挙げられる。調光機構がカーテンである場合、その種類は特に制限されず、1倍ヒダ、1.5倍ヒダ、2倍ヒダ等いずれであってもよいが、採光拡散値が0.04以上という要件を満たすため、典型的には薄地カーテン(レースカーテンやボイルカーテン)である。
【0022】
採光拡散値が0.04以上のカーテン又はシェードとしては、具体的には、カーテン又はシェードを構成する織物が、無機系酸化物の含有量が0.8重量%以下かつ撚り数が300T/m以下の糸を、織物に対して20%以上含むことが好ましい。
無機系酸化物は合成樹脂繊維において用いられる艶消し剤であり、二酸化チタン等が挙げられる。一般に、無機系酸化物の含有量が略0のものをスーパーブライト糸、0.2重量%以下である糸をブライト糸、0.2重量%超0.8重量%以下のものをセミダル糸、0.8重量%超のものをダル糸、1重量%を超えるものをフルダル糸ともいうが、本発明においては、スーパーブライト糸、ブライト糸又はセミダル糸であることが好ましい。無機系酸化物の含有量でいえば、0.8重量%以下が好ましく、0.5重量%以下がより好ましく、0.2重量%以下がさらに好ましく、0.05重量%以下から略0であることが最も好ましい。
【0023】
また前記の糸は、いわゆる甘撚糸や無撚糸であり、撚り数が300T/m以下であるものを用いるが、撚り数は200T/m以下であればより好ましく、100T/m以下や無撚糸であればさらに好ましい。撚り数が300T/m以下の糸は、織物においてばらけた状態になりやすく、つまり織物において互いに絡み合わずに並行して配向しやすいため、光の透過性が高いと考えられている。一方、撚り数が300T/mを超える糸を用いた場合、糸を構成する個々の繊維がばらけ難く、糸を透過して拡散される光の量は小さくなり、一方で糸と糸の隙間が大きくなるため、拡散されずに直接透過する光の量が大きくなり、結果として透過光の拡散性が小さくなり好ましくない。
【0024】
前記の糸はPETであるが、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、アクリル等、いずれの繊維を用いることもでき特に限定されるものではない。
【0025】
本発明に用いられるカーテン又はシェードを構成する織物は、上記の糸を、織物全体の重量に対して20%以上含むことが好ましい。20%以上であれば特に制限されないが、30%以上含むとより好ましく、40%以上であればさらに好ましい。上記の糸は経糸として用いられても緯糸として用いられてもよいが、これらの糸を、なるべく交叉させず並列して配向するように製織するためには、緯糸として用いることが好ましい。
【0026】
織物に含まれる、上記以外の糸としては、ポリエステル、アクリル系、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン(ポリアミド繊維)、綿、麻、レーヨン、絹、羊毛等、公知の繊維を適宜選択して用いることができ、特に制限されないが、防炎性やウォッシャブル性の観点からPETがより好ましい。また、本発明の織物は、採光性の観点から、糸の色相は好ましくは淡色系の色相であり、更に好ましくは未染色での生成りや白色である。
【0027】
さらに、前記の織物は、カバーファクターが1000以上である。カバーファクターは次式により算出される値である。
[式1]
【0028】
カバーファクターが1000以上であれば、拡散性が向上するため好ましい。一般にカバーファクターの低い織物は光の透過性に優れるが、カバーファクターが1000未満になると、透過性には優れるものの拡散性が低くなり、所望の採光拡散性を得ることができない。
【0029】
また前記の織物は、好ましくは、織物の表面に大きさ0.1〜7μmの凹凸が付与されている。凹凸は、0.2〜1μmであればより好ましい。大きさ0.1〜7μmの凹凸としては、この大きさの多数の凹凸が織物の表面及び/又は裏面の略全面にわたって分散して存在するように形成されていれば、具体的な構成は特に制限されない。例えば、直径0.1〜7μmの粒子であってもよく、直径0.1〜7μmの突起でもよく、糸の表面に設けられた幅及び深さが0.1〜7μmのヒダであってもよい。
【0030】
0.1〜7μmの粒子である場合、有機物粒子であっても無機物粒子であってもよく、透過性の有無も制限されないが、透過性を有するほうが好ましい。例えば、金属、金属酸化物、シリカ、セラミック、ガラス、無機塩、有機塩、樹脂微粒子等が挙げられる。これらの粒子は、織物を作成した後に後加工にて付与することもでき、予め表面に粒子を付与した糸を製織に供することもできる。粒子を織物表面に付与する場合、粒子の付与量は例えば、0.01〜0.5g/mとすることができ、例えば、0.37μmのシリカ微粒子を0.06〜0.14g/mで付与することによって、良好な結果が得られている。
【0031】
凹凸が0.1〜7μmの突起である場合、突起は例えば、織物の表面に加工された凹部と凸部からなる突起であればよく、突起形成の手段は問わないが、例えばエンボス、エッチングやサンドブラストにより形成することができる。すなわちこの突起は、球状、柱体状又は錐体状の突起だけでなく、一定形状或いは不定形状に形成された突出部をも含む。
【0032】
凹凸が幅又は深さが0.1〜7μmのヒダである場合、ヒダは例えば、織物を構成する繊維のフィラメントの1本1本に設けられたフィラメント長さ方向の溝又は隆起部であってもよい。すなわち、織物を構成する繊維として、溝や隆起部のある断面を有する異形断面繊維を用いてもよいし、エンボス、シャーリング、起毛、減量加工等によって溝を形成してもよい。
【0033】
表面に大きさ0.1〜7μmの凹凸が付与されている織物として、具体的には例えば、緯糸として艶消し剤無添加、無撚りの扁平断面マルチフィラメント糸スーパーブライト(繊度84dtex)を100%用い、経糸として円形断面マルチフィラメント糸セミダル(繊度84dtex、撚り数1000T/m)を用いたポリエステル100%生地(カバーファクター2000)に、平均粒径0.37μmのアモルファスシリカを付与し、アモルファスシリカの固着量を0.067g/mとした織物が挙げられる。この織物の採光拡散値は0.056であり、本発明の採光システムに好適に用いることができる。また、同様の織物であって、アモルファスシリカの固着量を0.133g/mとした織物は、採光拡散値が0.055であり、本発明の採光システムに好適に用いることができる。
【0034】
織物を構成する糸は、フィラメント糸であってもスパン糸であってもよいが、フィラメント糸であることが好ましい。フィラメント糸である場合、マルチフィラメント糸であってもモノフィラメント糸であってもかまわない。また、断面形状は問わず、扁平断面であっても円形断面であってもよいが、扁平断面の方が好ましい。例えば、扁平断面のマルチフィラメント糸、円形断面のモノフィラメント糸を好ましく使用できる。
【0035】
断面形状が扁平である糸とは、フィラメントの断面が楕円形、略楕円形、くびれのある楕円形等、断面において長さの異なる長辺と短辺とが存在する形状である糸をいう。具体的には例えば、ウェーブロン(帝人ファイバー社製、登録商標)、ベルスクェア(KBセーレン社製、登録商標)などが挙げられる。フィラメントの総繊度は特に制限されないが、好ましくは10〜350dtex、より好ましくは20〜200dtexである。
【0036】
断面形状が扁平である糸は、織物において、糸の断面の扁平面が織物の面方向に配向していることが好ましい。糸の扁平面が織物表面に配向することによって、透過性が向上し、かつ、織物を構成する繊維と繊維の間に生じる微細な隙間が少なくなるため、拡散性の向上にも寄与するものと考えられている。
【0037】
上記の糸は、織物において、面方向に並列して配向していることが好ましい。面方向に並列して配向しているとは、経糸または緯糸に使用される前記糸が、互いに絡み合わずに一列に引き揃えられて並んだ状態で織り込まれていることを意味する。一列に引き揃えられた糸は、織物の厚み方向に一層に配列されていてもよいし、多層に重なった状態で互いに並行して配列されていてもよい。例えば、断面形状が円形状のモノフィラメント糸を用いる場合、2〜4層程度に重なりながら、絡み合わずに引き揃えられていることが好ましい。
【0038】
前記の糸がマルチフィラメント糸の場合は、その撚り数を300T/m以下に制限することで、マルチフィラメント糸を構成する単繊維が互いに重なり合わずに一列に引き揃えられて並んだ状態で織り込むことが可能となる。また、糸がモノフィラメント糸の場合は、そのモノフィラメントを1本1本織り込んでも良いし、同口に1本ずつ数回に分けて織り込んでも良いし、同口に引き揃えて複数本を一度に織り込んでも良い。
【0039】
前記の織物は、上記の構成と効果を有する限り、様々な機能加工(例えば、抗菌加工、防汚加工、防炎加工等)をされていても、機能性糸(例えば消臭糸、難燃糸等)が織り込まれていてもよく、特に制限されない。
【0040】
(採光拡散値の評価)
本発明で言及される採光拡散値(採光値及び拡散値)の測定及び算出、評価には次のシステムを用いる。
図1A図1Bを参照して、評価システムは、筐体1と、筐体1に収容された光源2とを備えている。筐体1は直方体形状を有しており、その1つの側面10の中央には矩形状の開口11が形成されている(図2参照)。筐体1の内壁全体は黒色であり、光源2から照射される光が筐体1内で反射することが極力抑えられている。これは、例えば、筐体1の内壁に艶消しの黒色塗料が塗布される、または黒色紙が貼られるなどによって行われる。
【0041】
光源2は可視光を照射する。光源2は、例えばLED、蛍光灯、白熱灯、HIDなどである。光源2の形状、消費電力、波長、指向性の有無、単色光か白色光かなどについては問われない。光源2は典型的には、その放射光軸20が側面10と直交し、かつ開口11の中心を通るように筐体1内に配置され、開口11全体に向けて光を照射する。
【0042】
評価システムは、開口11が、被検物である織物3で覆われるように織物3を筐体1の側面10に保持する保持部4を備えている。保持部4は、図2の通り、側面10の開口11より上方の位置と下方の位置とにそれぞれ配置されている。保持部4は、織物3の上下の端を把持することで織物3を鉛直に保持する。保持部4は、例えば、マグネット、クリップなどである。織物3が保持部4によって保持されると、光源2から照射された光は、織物3の一方側から開口11の大きさで織物3に照射され、織物3の他方側へ透過する。
このような構成によって、光が窓に差し込み、カーテン、スクリーンなどに照射され、これを透過するような状況が作り出される。
【0043】
評価システムでは、織物3が保持される領域に基準点Pが規定されている。本実施形態では、基準点Pは光源2の放射光軸20上に規定されている。この保持された織物3上の基準点Pを含み織物3の面と直交する直交平面(例えば水平平面)が規定されている。さらに、この直交平面において基準点Pから織物3の面に対して垂直に織物の他方側(透過側)へのびる基準線Lが規定されている。
【0044】
図1Bの通り、評価システムは、直交平面上において上記基準線Lと基準点Pからのびる直線との成す角度をθとして、直交平面上で−90°≦θ≦90°の範囲で基準点Pから等距離にある複数の地点で織物3を透過した光の照度を測定する照度測定部5を、筐体1の外部に備える。
【0045】
照度測定部5は、直交平面上で−90°≦θ≦90°の範囲で基準点Pから距離dだけ離れた位置において互いに角度間隔をあけて配置された、光を受光して電気信号に変換する複数の受光部50と、受光部50からの電気信号に基づいて光の照度を算出する照度演算部51とからなる。照度測定部5は、この構成によって、直交平面上の基準点Pから等しい距離dにある複数の地点で、透過光の照度を測定することができる。
【0046】
なお、図1Bに示された評価システムは、対称性の観点から、複数の受光部50は0°≦θ≦90°の範囲に渡ってだけ設けられているが、基準線Lが放射光軸20上にないように光源2が配置される場合もあり、このような場合には、複数の受光部50が−90°≦θ≦90°の範囲に渡って設けられることが好ましい。
【0047】
さらに、評価システムは、照度測定部5により測定された複数の地点の照度に基づいて、織物3の光の透過性および拡散性を評価するための指標となる値を算出する指標値演算部6を備えている。なお、算出する際に用いる各地点の照度は、その地点で一回だけ測定した値でも、その地点で複数回測定した値の平均のどちらでもよい。
【0048】
指標値演算部6は、織物3の光の透過性を評価する指標として採光値を算出する。
採光値は、複数の地点で測定した照度を角度θで積分した値を照度積分値として、織物3がある状態での照度に基づく照度積分値を、織物3がないブランクの状態での照度に基づく照度積分値で割った値と規定される。
【0049】
従って、指標値演算部6は、織物3がある状態で照度測定部5によって測定された各地点の照度を用いて、織物3がある状態での照度積分値を算出し、ブランクの状態で照度測定部5によって測定された各地点の照度を用いて、ブランク状態での積分照度値を算出する。そして、指標値演算部6は、算出した2つの照度積分値を用いて採光値を算出する。
【0050】
一例として、図3の通り、横軸を角度(θ)とし縦軸を照度(lx)としたグラフ上で、測定した複数の照度をプロットし、これらを結ぶ線を描き、この描いた線と横軸間の面積を算出することで積分照度値を求める。即ち、織物3が有る場合の面積とブランクの場合の面積とをそれぞれ算出して、算出した2つの面積から採光値を算出する。
【0051】
指標値演算部6はまた、織物3の光の拡散性を評価する指標として拡散値を算出する。
拡散値は、上述の形態のように放射光軸20上に基準線Lがある場合、15°≦|θ|≦75°の範囲の一つの地点の照度か、15°≦|θ|≦75°の範囲の複数の地点の照度を統計的に処理した値かのいずれか一方を、0°≦|θ|≦5°の範囲の一つの地点の照度か、0°≦|θ|≦5°の範囲の複数の地点の照度を統計的に処理した値かのいずれかのいずれか一方で割った値として規定される。なお、「複数の地点の照度を統計的に処理した値」とは、各地点の照度の和、各地点の照度の平均などである。これは、以下でも同じである。
【0052】
指標値演算部6は、照度測定部5によって測定された15°≦|θ|≦75°の範囲及び0°≦|θ|≦5°の範囲の各地点の照度を用いて、規定された通りに拡散値を算出する。典型的には、拡散値は、15°≦|θ|≦75°(好ましくは35°≦|θ|≦65°)の範囲の一つの地点の照度を、θ=0°の地点の照度で割った値として定義、算出される。
【0053】
例えば、図4に示されるように、織物3を透過した光は、透過し拡散しなかった光および透過し拡散した光の双方が達する範囲T1と、透過し拡散した光だけが達する範囲T2との2つの範囲に分けることができる。そこで、拡散値を、範囲T2の一つの地点の照度か、範囲T2の複数の地点の照度を統計的に処理した値かのいずれか一方を、範囲T1の一つの地点の照度か、範囲T1の複数の地点の照度を統計的に処理した値かのいずれか一方で割った値、と規定する。
【0054】
指標値演算部6はまた、透過性と拡散性とを同時に評価する指標として採光拡散値を算出する。採光拡散値は、採光値と拡散値とを掛け合わせた値として規定される。従って、指標値演算部6は、算出した採光値と拡散値とを用いて採光拡散値を算出する。透過性と拡散性とは基本的にはトレードオフの関係にあることが見出されている。即ち、採光値と拡散値との積である採光拡散値は、透過性と拡散性の両立性を示す指標となる。
【0055】
本発明の採光システムに用いられる布帛やシート状部材は、採光拡散値が0.04以上であることが好ましい。より好ましくは0.046以上でありさらに好ましくは0.05以上である。採光拡散値は、採光値と拡散値との積であり、採光拡散値が0.04以上であれば、十分な採光性と拡散性を両立することができる。採光拡散値が0.04以上の織物を調光機構として用いることで、充分な明るさを保ちつつ明るさの局在が少なく、快適な環境を得ることができる。
【0056】
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は具体的な実施例に制限されるものではない。
<採光拡散値の測定・算出方法>
測定装置として、図1Aに示した構成の装置を用いた。測定装置筐体の9cm×9cmの窓面から15cmの位置に光源を設置し、窓面に向かって光を照射した。実際の使用環境により近い条件とするため、筐体の窓面の内側(光源と試料との間)に3mm厚フロートガラスを設置して測定を行った。光源には25W昼白色LED電球(東芝製LEL−SL2N−E17S)を用いた。窓面から40cmの距離(光源と反対側)にて照度を測定した。測定は、試料面に対して垂直に照射された光軸の延長上を0°とし、試料面と直交する水平面内にて、15°、30°、60°の計4地点にて行った。測定には照度計(ミノルタ社製T−10)を用いた。下記のとおり採光値、拡散値、採光拡散値を算出した。
【0057】
(1)採光値
0°から60°までの照度値と、90°地点の照度を0lxと置いた0°から90°の照度を積分した値を照度積分値とし、試料を設置した状態での照度積分値を、試料を設置しない状態での照度積分値で割った値を採光値とした。
(2)拡散値
60°地点の照度を0°地点の照度で割った値を拡散値とした。
(3)採光拡散値
採光値と拡散値とを掛け合わせた値を採光拡散値とした。
【0058】
<モデル室>
図5図6にモデル室の概要及び照明位置を示す。
幅(W)1720mm、奥行(D)1770mm、高さ(H)1820mm、(いずれも内寸)、側壁面のうちの一面に縦700mm×横700mmの窓60が設けられたモデル室を用いた。窓位置は、窓下辺が壁面下部より690mm、窓端辺が壁面左端部より300mmであった。また、壁下辺より高さ1300mm、壁右端辺より内側に200mmの位置に、室内向きにカメラ61を設置した。室内の側壁面及び天井には、ベージュ色織物を可能な限り弛みのないように貼り付けた。室内床には、濃色グレーのタイルカーペットを敷き詰めた。モデル室の外部、窓に相対し、壁面より300mm、高さ1800mmの位置に照明62を設置し、室内への入射角度が30°となるように照射した。モデル照明は、YAZAWA社製LDR5N―N―E11(照射角14°、4.5W昼白色LED)を4灯用いた。
窓の略全面を覆うように、採光機構としてベネシャンブラインド63(トーソー株式会社製、ニューセラミーI―11102)を装着した。また、ブラインドの内側に、調光機構として所定の布帛を設置することによって採光システムを構築した。
【0059】
<輝度の測定>
モデル室内の床面及び正面壁面について、岩崎電気社製光環境評価システムQUAPIXを用いて輝度を測定した。カメラは上述のとおり、窓のある側壁面において、高さ1300mm、端部より200mmの位置に設置された。
【0060】
<官能評価>
被験者(3名)がモデル室内に入り、室内の環境について、明るさ分布が一様で心地よいものを5級、明るさ分布が激しく不快であるものを1級として、5段階評価にて評価した。
【0061】
<室内の輝度比と官能評価の相関>
採光機構をブラインド、調光機構を各種布帛とした各種採光システムを設置した時の室内床面の輝度を前記の輝度測定システムで測定した。輝度測定の範囲は円形マスクで視野角50°を目安とした同一面内で切り出し、当該範囲内での輝度(cd/m)の最大値を、当該範囲内での輝度(cd/m)の最小値で除して得られた数値を輝度比とした。輝度比が大きいことは特定の範囲内において明るさの強弱が強いことを表し、輝度比が小さいことは特定の範囲内において明るさが均一であることを表す。
また、同条件の照明条件及び採光システムを用いた場合の官能評価を行った。被験者は3名とし、3名の評価の平均値を官能評価値とした。結果を下表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1の結果から相関式を導出し、相関式より輝度比が12.6以下の場合に官能評価が3級以上となるとの結果を得た。この結果から、輝度比が10未満であるとき、心地良い空間が得られるものと判断された。表1の結果を図7にグラフで示す。
【0064】
[実施例1]
採光機構としてブラインド(トーソー株式会社製、ニューセラミーI―11102)、調光機構として下記のポリエステル布帛カーテン(1倍ヒダ)を組み合わせた採光システムとした。
布帛は、経糸が無撚ポリエステルモノフィラメント糸セミダル(22dtex)からなり、緯糸が無撚り扁平断面ポリエステルマルチフィラメント糸スーパーブライト(84dtex)、ポリエステルマルチフィラメント糸フルダル(84dtex)及びポリエステルマルチフィラメント糸セミダル(84dtex)からなる織物を用いた。当該織物において、無撚りセミダル糸及び無撚りスーパーブライト糸の含有割合(重量比)は47.5%であった。当該布帛の採光拡散値は0.041、カバーファクターは2296であった。
この採光システムにおいて、スラット角度(図6のθ)を30°、60°、90°、120°と変化させて、それぞれの角度における室内床面及び正面壁の輝度を測定し、輝度比を算出した。
【0065】
[実施例2]
調光機構として下記のポリエステル布帛を用いた他は実施例1と同様にして、室内床面及び正面壁の輝度を測定し、輝度比を算出した。
布帛は、経糸がポリエステルマルチフィラメント糸セミダル(84dtex、1000T/m)からなり、緯糸が無撚り扁平断面ポリエステルマルチフィラメント糸スーパーブライト(84dtex)、ポリエステルマルチフィラメント糸ブライト(66dtex、400T/m)及びポリエステルマルチフィラメント糸ブライト(165dtex)からなる織物を用いた。当該織物において、無撚りスーパーブライト糸の含有割合(重量比)は26.9%であった。当該布帛の採光拡散値は0.057、カバーファクターは1440であった。
【0066】
[実施例3]
調光機構として下記のポリエステル布帛を用いた他は実施例1と同様にして室内床面及び正面壁の輝度を測定し、輝度比を算出した。
布帛は、経糸がポリエステルマルチフィラメント糸セミダル(84dtex、1000T/m)からなり、緯糸が無撚り扁平断面ポリエステルマルチフィラメント糸セミダル(84dtex)からなる織物を用いた。当該織物において、無撚りセミダル糸の含有割合(重量比)は54.9%であった。当該布帛の採光拡散値は0.084、カバーファクターは1956であった。
【0067】
[実施例4]
調光機構として下記のポリエステル布帛を用いた他は実施例1と同様にして室内床面及び正面壁の輝度を測定し、輝度比を算出した。
布帛は、経糸がポリエステルマルチフィラメント糸セミダル(84dtex、1000T/m)からなり、緯糸が無撚り扁平断面ポリエステルマルチフィラメント糸スーパーブライト(66dtex)及び無撚りポリエステルマルチフィラメント糸スーパーブライト(84dtex)からなる織物を用いた。当該織物において、無撚りスーパーブライト糸の含有割合(重量比)は54.7%であった。当該布帛の採光拡散値は0.07、カバーファクターは1437であった。
【0068】
[実施例5]
調光機構であるポリエステル布帛カーテンを1.5倍ヒダとした他は、実施例3と同様にして室内床面及び正面壁の輝度を測定し、輝度比を算出した。
【0069】
[実施例6]
調光機構であるポリエステル布帛カーテンを1.5倍ヒダとした他は、実施例4と同様にして室内床面及び正面壁の輝度を測定し、輝度比を算出した。
【0070】
[比較例1]
調光機構を用いず、採光機構としてブラインドを用いた他は実施例1と同様にして室内床面及び正面壁の輝度を測定し、輝度比を算出した。
【0071】
[比較例2]
調光機構として下記のポリエステル布帛を用いた他は実施例1と同様にして室内床面及び正面壁の輝度を測定し、輝度比を算出した。
布帛は、経糸がポリエステルマルチフィラメント糸セミダル(193dtex)からなり、緯糸がポリエステルスパン糸ブライト(24番手糸、713T/m)及び80切フィルムからなる織物を用いた。当該布帛の採光拡散値は0.03、カバーファクターは1033であった。
【0072】
実施例1〜6及び比較例1,2の結果を表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示されるとおり、実施例1〜6の採光システムは、床面においても正面壁面においても、また、スラット角度30°〜120°のいずれの場合も輝度比が10を超えなかった。一方、調光機構を用いない比較例1、調光機構として採光拡散値が0.03である布帛を用いた比較例2は、スラット角度によって輝度比が10以上となり、同一面内での明るさの強弱がみられた。
また、実施例1〜6は輝度比の分散が小さく、スラット角度を変更することによる輝度比の変化が少ない、すなわちなめらかに調光可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0075】
1 筐体
10 側面
11 側面に形成された開口
2 光源
20 光源の放射光軸
3 織物
4 保持部
5 照度測定部
50 受光部
51 照度演算部
6 指標値演算部
60 窓
61 カメラ
62 照明
63 ブラインド
P 基準点
L 基準線
θ 基準線との成す角度
d 基準点からの距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7