(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ヤング・ラプラス式および静水圧の式から、水平な液面に対して垂直かつ無限に広い板に形成される液体の液面形状を水平方向xおよび鉛直方向yに求める液面形状計算工程と、
仮光源から暗視野パターンを照射して前記液面形状を有する仮鏡面で反射させた受光パターンを得る光学シミュレーション工程と、
前記受光パターンの画像精度がセンサ精度要求を満たすか判定し、前記液体を封入する筒状の容器の形状を調整する容器調整工程と、
を備え、
前記液面形状計算工程では、前記容器の一方の壁面とこれと対向する他方の壁面の二方向から前記液面形状を表す第1の曲線f1を求め、前記第1の曲線f1を基に前記容器の中心から水平方向の距離をX,液面の高さをYとした容器内の液面形状を示す第2の曲線f2を求め、
前記容器調整工程では、前記容器に入射される光源光の光束径を固定し、前記容器の前記X方向の長さを仮定して前記光学シミュレーション工程を行い、前記受光パターンの画像精度が前記センサ精度要求を満たすときは前記容器の前記X方向の長さを狭め、満たさないときは前記容器の前記X方向の長さを広げ、これを繰り返し、前記センサ精度要求を満たす時の前記X方向の長さのより小さい値を最適として前記容器の直径を決定する
ことを特徴とする液面反射式傾斜センサの容器の設計方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の自由液面は、筒状の蓋付き容器に適度の粘性を有する液体を封入することで形成されている。この容器のサイズは、容器の壁面付近における液面の形状変化(メニスカス)を許容できる程の大きさを備えなければならない。一方で、近年センサの小型化の要求を受け、容器のサイズをより小さくすることが求められている。しかし、従来の容器形状の設計方法では、実際に容器を作成し、これに液体を封入し、これに光源光を照射して実際の受光パターンを得て、この結果を再度設計にフィードバックするという方法が採られていた。また、液面形状は封入する液体の特性や温度条件によっても変化するため、センサに要求される仕様(センサが使用される温度範囲)に応じて上記の方法を様々な条件で繰り返す必要があった。このため、容器形状の最適化のために時間とコストがかかるという問題があった。
【0005】
本発明は、前記問題を解決するためになされたもので、液面反射式傾斜センサにおいて、迅速かつ低コストでセンサ仕様に応じた容器形状を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の液面反射式傾斜センサの容器の設計方法は、ヤング・ラプラス式および静水圧の式から、水平な液面に対して垂直かつ無限に広い板に形成される液体の液面形状を水平方向xおよび鉛直方向yに求める液面形状計算工程と、仮光源から暗視野パターンを照射して前記液面形状を有する仮鏡面で反射させた受光パターンを得る光学シミュレーション工程と、前記受光パターンの画像精度がセンサ精度要求を満たすか判定し、前記液体を封入する筒状の容器の形状を調整する容器調整工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
上記態様において、前記液面形状計算工程では、前記容器に対する前記液体の実際の接触角θ1を求め、前記液面形状を表す第1の曲線f1とそのy軸との角度が前記接触角θ1となる位置まで前記y軸をx軸方向にオフセットさせる第2の工程を含むのも好ましい。
【0008】
上記態様において、前記液面形状計算工程では、前記容器の一方の壁面とこれと対向する他方の壁面の二方向から前記第1の曲線f1を求め、前記容器の中心から水平方向の距離をX,液面の高さをYとした容器内の液面形状を示す第2の曲線f2を求める第3の工程を含むのも好ましい。
【0009】
上記態様において、前記液面形状計算工程では、前記第2の曲線f2のX=0付近の形状を多項式で補完する第4の工程を含むのも好ましい。
【0010】
上記態様において、前記容器調整工程では、前記容器に入射される光源光の光束径を固定し、前記容器の前記X方向の長さを仮定して前記光学シミュレーション工程を行い、前記受光パターンの画像精度が前記センサ精度要求を満たすときは前記容器の前記X方向の長さを狭め、満たさないときは前記容器の前記X方向の長さを広げるのも好ましい。
【0011】
上記態様において、前記容器調整工程では、前記容器の前記X方向の長さを固定し、前記容器に入射される光源光の光束径を仮定して前記光学シミュレーション工程を行い、前記受光パターンの画像精度が前記センサ精度要求を満たすときは前記光束径を
広げ、満たさないときは前記光束径を
狭めるのも好ましい。
【0012】
上記態様において、前記第2の曲線f2のY値の最高値Ymaxを求め、前記容器の高さhを、前記液体の水平液面の高さh´に前記最高値Ymaxを加えた値以上に設計する容器高さ設計工程を含むのも好ましい。
【0013】
また、本発明のある態様の液面反射式傾斜センサは、光源と、前記光源からの光束を平行にするコリメートレンズと、前記コリメートレンズからの光が入射され、コントラストが画像解析で認識可能な暗視野パターンと、前記暗視野パターンを通過した光を自由液面に向けるビームスプリッタと、前記ビームスプリッタからの光を集光するフォーカスレンズと、前記自由液面を形成する液体と、前記液体が封入され、ヤング・ラプラス式および静水圧の式から、水平な液面に対して垂直かつ無限に広い板に形成される前記液体の液面形状で作成された仮鏡面に前記暗視野パターンを照射して得た受光パターンの画像精度がセンサ精度要求を満たすとして最小に設計された水平方向の長さで筒状に形成された容器と、前記自由液面からの反射光を受光する受光素子と、前記受光素子の受光像を解析する演算処理装置と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明のある態様の液面反射式傾斜センサの生産方法は、ヤング・ラプラス式および静水圧の式から水平な液面に対して垂直かつ無限に広い板に形成される液体の液面形状を水平方向xおよび鉛直方向yに求める液面形状計算工程と、 仮光源から暗視野パターンを照射して前記液面形状を有する仮鏡面で反射させた受光パターンを得る光学シミュレーション工程と、前記受光パターンの画像精度がセンサ精度要求を満たすか判定し、前記液体を封入する筒状の容器の形状を調整する容器調整工程と、を行って、最小に設計された水平方向の長さで筒状に形成された容器を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
液面反射式傾斜センサにおいて、迅速かつ低コストで、センサ仕様に応じた容器形状を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、実施の形態に係る液面反射式傾斜センサ(以下、単に傾斜センサと称する)1の光学系の構成図である。傾斜センサ1は、光源2、コリメートレンズ3、暗視野パターン4、偏光板5、ビームスプリッタ6、フォーカスレンズ7、λ/4板8、液体9、容器10、受光素子11、および演算処理装置12を有する。
【0019】
光源2は、LEDが用いられるが、他の光源であってもよい。コリメートレンズ3は、光源2からの光束を平行にして出射する。暗視野パターン4は、その詳細は上記した特許文献2に記載されているが、
図2に示すように、黒マスク部4aに多数のスリット4bが整列配置された二次元パターンを有する。偏光板5は、暗視野パターン4を通過した光束をビームスプリッタ6に対してs偏光に偏光する。ビームスプリッタ6は、半透過面6aを有し、偏光板5を通過した光束を上方に反射する。フォーカスレンズ7は、ビームスプリッタ6による反射光を集光する。λ/4板8は、フォーカスレンズ7を通過した光束に位相差を与える。λ/4板8を通過した光束は、筒状の容器10内に封入された液体9に入射して、液体9の表面(自由液面9a)で反射される。液体9には、表面張力が小さく、比重が大きく、温度変化による影響が小さいものが好ましく、例えばシリコンオイル、フッ素系液体等が選択される。自由液面9aは、測量機(傾斜センサ1)の傾きに対して水平液面を維持する。
図1の符号h´は測量機が水平時の容器10の底面から上記水平液面までの高さを示す。符号hは容器10の高さ、符号Dは容器10の容器中心を通るある水平方向の長さを示す。自由液面9aで反射された光束は、再びλ/4板8、フォーカスレンズ7、およびビームスプリッタ6を透過し、受光素子11で受光される。受光素子11には、イメージセンサや二次元エリアセンサ等が用いられる。受光素子11で得られた受光像(受光パターン)は、演算処理装置12により画像解析される。演算処理装置12は、受光した暗視野パターン4の変位量を検出する。演算処理装置12には、CPUなどが使用される。
【0020】
上記において、λ/4板8,偏光板5は、望まない方向に反射した光束を除外するために設けられているが、任意の構成要素である。また、上記の光学要素を他の光学要素で構成することや、他の光学要素の追加は許容される。上記の暗視野パターン4は一例であり、ドット等、コントラストが画像解析で認識可能なパターンであれば他のものも許容される。また、暗視野パターン4を一次元バーコードとし、受光素子11をラインセンサとしてもよい。上記の光学系の配置は一例であり、上記では光束が液体9の下方から入射するが、光束が液体9の上方から入射する構成であってもよい。また、上記構成では光束が自由液面9aの水平液面(水平部分)に対し直交する方向から入射するが、光束が自由液面9aの水平液面に対し傾斜した方向から入射する構成であってもよい。
【0021】
本発明の要旨は、上記の傾斜センサ1における容器10を実際に作成することなくサイズ調整すること、及び最小のサイズで容器10を作成することに関する。なお、以下に記載する設計方法は、パーソナルコンピュータ等、少なくともCPU,RAM,ROM,キーボード,表示部をハードウェア要素として有するものにより実現される。ROMには本形態の各工程を実行する各種プログラムが格納され、CPUはこのプログラムを実行する。キーボードからは各種条件等が入力でき、表示部には液面形状のグラフやシミュレーション結果,算出した値等が出力される。
【0022】
図3は、実施の形態に係る傾斜センサ1の容器10の設計方法に係るフローチャートである。各工程の詳細は後に説明する。
【0023】
まず、設計を開始すると、ステップS1に移行し、ある形状の容器10に液体9を封入した場合の液面形状を計算する(液面形状計算工程)。
【0024】
次に、ステップS2に移行し、ステップS1で計算した液面形状を元に、受光素子11で得られるであろう受光像を光学シミュレーションする(光学シミュレーション工程)。
【0025】
次に、ステップS3に移行し、光学シミュレーションの結果を参照して、容器10の形状がセンサ仕様に照らして許容範囲か判定する。許容範囲内であれば(YES)、その形状に決定し設計を終了してよい。許容範囲外である場合は(NO)、ステップS4に移行し、容器10の形状を変更し、ステップS1に戻る(容器調整工程)。ステップS5の「容器高さ決定工程」については後述する。
【0026】
(液面形状計算工程)
液面形状計算工程では、第1の工程として、
図4に示す様な、水平な液面に対して垂直且つ無限に広い板に形成される液体の液面形状(メニスカス)を求める。この液面形状は、ヤング・ラプラスの式と静水圧の式から導かれ、次のようになる(宮崎誠、水谷正海、竹本正、松縄朗著「円柱周囲に形成されるメニスカス形状の解析」溶接学会論文集 第15巻 第4号、1997年、p674〜680)。垂直板に垂直な方向の距離をx、垂直板方向の液の高さをy、水平面と曲面のなす角をφとすると、x,yは[数1],[数2]になる。ここで、γは液体の表面張力、ρは液体の密度である。θは、垂直板と曲面がなす接触角を示している。φを変化させる事により、垂直無限壁面からの液面形状を、水平方向xと鉛直方向yの二次元直交座標上に求める事ができる。以降、垂直無限壁面に形成される液面形状を表す曲線を第1の曲線f1と称する。
【0029】
次に、第1の工程の第1の曲線f1は、無限垂直板と液体が完全に濡れている状態(接触角θ=0度)での形状であるが、実際には接触角θ≠0度である場合がある。この場合は補正するのが好ましい。第2の工程では、容器壁面と封入液体の実際の接触角θ1を求め、第1の曲線f1とそのy軸との角度が接触角θ1となる位置まで、y軸をx軸方向にオフセットする(
図4の一点鎖線で示すy軸を参照)。実際の接触角θ1は、実際に容器10を形成する予定の材料板に対し封入予定の液体9を垂らし、実測して得ればよい(例えば、自動接触角計 DMs-601、Phoenix 150、ハイトゲージHD−AXを使用)。
【0030】
次に、実際の容器10は筒状で、両側壁面を有するのに対し、上記工程までで得られるのは片側壁面の液面形状である。よって、第3の工程でこれを補正する。
図5は、その結果であり、両側壁面に形成される液面形状の計算結果を示す図である。
図5を例にして説明する。第1〜第2の工程を経て、片側壁面に対する第1の曲線f1が得られている(
図5は液体表面張力γ=20.9[mN/m],液体密度ρ=965[kg/m^3],実際の接触角θ1=0度として作成した)。第3の工程では、容器10の水平方向の長さを24mmと仮定し、第1の曲線f1のうちx=0からx=12(即ち仮定した水平方向の長さ÷2)までの曲線を、x=12を中心に左右対称に展開させ、x=12を容器の中心(X=0)として新たにX軸(
図5横軸)を設定し、第1の曲線f1のy軸を容器10内の液面高さを示すY軸(
図5縦軸)として設定する。これにより、
図5に示すような、両側壁面での液面形状を示す第2の曲線f2を得ることができる。
【0031】
次に、液面反射式傾斜センサでは、容器中心付近(X=0付近)の形状が重要である。第3の工程の液面形状(
図5)は、左右から曲線を交差させて作成されたため、容器中心付近の連続性を欠いている。そのため、第4の工程では、第2の曲線f2を二次関数で補間する。二次関数補間の手法は公知である。なお、二次に限らず、三次,四次,五次・・・の多項式で補間してもよいが、ハードウェア資源の負担を軽くするには二次関数補間が好適であり、二次関数補間で十分な結果が得られることを確認した。
図5を二次関数補間した結果を
図6に示す。
図6は
図5の容器中心付近を拡大したものであり、横軸Xは容器中心からの距離[mm]、縦軸Yは液面高さ[μm]である。実線が第3の工程で得られた液面形状、破線が第4の工程により補間された液面形状を示している。以上のように、「液面形状計算工程」では、第1の工程を基本とし、第2〜第4の工程を必要に応じて行うことで、より実際の液面形状に近い曲線を得ることができる。
【0032】
図7は、上記の「液面形状計算工程」により得られた計算結果で、各温度条件(摂氏−40℃、20℃、70℃)で容器壁面から形成される液面形状を示す図である。
図7の横軸は容器中心からの距離[mm]、縦軸は液面高さ[mm]を示す。
図7では、液体9にフッ素系液体を想定し、実際の接触角θ1を0度、液体表面張力γは−40℃で21.00[mN/m]、20℃で16.40[mN/m]、70℃で12.75[mN/m],液体密度ρは−40℃で2000[kg/m^3]、20℃で1869[kg/m^3]、70℃で1760[kg/m^3]とし、容器10の水平方向の長さは15mmと仮定した。
図7から、温度条件を変更しても、各温度条件の液面形状を予測できることが確認された。
【0033】
(光学シミュレーション工程)
「液面形状計算工程」により、容器10内の二次元的な液面形状を第2の曲線f2で予測することができる。光学シミュレーション工程では、第2の曲線f2の三次元モデルZ=f(X,Y)で仮鏡面9a´を作成し、該仮鏡面9a´の反射光の受光像をシミュレーションする。
【0034】
図8は、「光学シミュレーション工程」で仮定する仮想光学系である。光源2´からの光は、コリメートレンズ3´で平行光とされ、暗視野パターン4´を通過し、半透過面6a´で仮鏡面9a´に向けて転向される。仮鏡面9a´は、直径φD(
図8参照)の正円円筒形の容器10に液体を封入した時に形成される自由液面を模したものである。仮鏡面9a´で反射された受光パターンが受光素子11´で取得される。仮鏡面9a´に入射される光源光の光束中心は仮鏡面9a´の中心O(容器中心X=0)を通る。光源光の光束径φd(
図8参照)は、液面の有効範囲(受光像の解析に使用される範囲)であり、受光素子11の性能に応じて設定される。上記した光学シミュレーションは、例えばZEMAX(ZEMAX Development Corporation製)により行うことができる。但し、このソフトウェアに限定されるものでなく、他の市販の光学ソフトウェアが用られてもよい。
【0035】
図9は「光学シミュレーション工程」で得られた受光像と実際の受光像を対比した図である。
図9の右列は、実際に、正円円筒形の容器10を直径15mmで作成し、これにフッ素系液体を封入して実測した受光像である。なお、本明細書においてフッ素系液体とは、構成元素にフッ素を含む溶剤(有機溶剤等)を指す。
図9の左列は、
図7に示す液面形状で
図8に示した仮鏡面9a´を作成して光学シミュレーションを行った受光像である。上段は摂氏20℃、中段は−40℃、下段は70℃のものである。
図9から、各温度条件で、シミュレーション結果(左列)が実際(右列)と酷似しているのがわかる。
【0036】
また、
図9の左列から、20℃でピントが合っていた像が、−40℃、70℃においてはフォーカスがずれてしまっている事がわかる。この場合、容器10の直径φDを広げる事により、温度変化による液面形状の変化を小さくすることができる。
図10は液面形状の容器径による違いを示す図であり、(a)は容器直径15mmの液面形状を示す図、(b)は容器直径20mmの液面形状を示す図である。
図10は「液面形状計算工程」で得られたものであり、横軸は容器中心からの距離[mm]、縦軸は容器内の液面高さ[μm]である。(a)は、即ち
図7の拡大図)であり、容器の直径φD=15mmとした場合の容器中心付近の液面形状を示す図である。(b)は、容器の直径のみをφD=20mmに変更した場合の容器中心付近の液面形状を示す図ある。容器の直径φDを広げることで、温度変化による液面形状の変化が小さくなることが確認できる。このことから、所望の受光像が得られように「液面形状計算工程」と「光学シミュレーション工程」を行うことにより容器10のサイズを調整することができ、さらに、上記を繰り返すことにより容器10の最小のサイズを予測することができる。以下その方法を説明する。
【0037】
(容器調整工程)
容器調整工程では、「光学シミュレーション工程」の結果から、容器10の形状がセンサ仕様に照らして許容範囲であったか判定する。この判定は、受光パターンの画像精度を示す数値がセンサに求められる精度を満たす数値条件として許容される範囲内か否かで行う。画像精度を示す数値には、光学ソフトウェアで得られる受光パターンの、コントラスト値,エッジの立ち上がりを示す数値等のいずれか又はその組み合わせが使用される。センサ精度を満たす数値条件の具体的な数値は当業者であれば選択する値が用いられてよい。
【0038】
図3に示す通り、画像精度を示す数値が許容範囲内であれば(YES)、その容器10のサイズに決定し設計を終了してもよい。許容範囲でない場合(NO)は、ステップS4に移行し、センサ仕様を満足するように容器10のサイズを変更し調整することができるが、
図11のフローを実行することで、そのセンサ仕様における最小の容器サイズを求めることができる。
【0039】
図11は
図3のステップS4「容器形状変更」工程を詳細にしたフローチャートである。
図11では、ステップS1〜S2は
図3で説明した通りであるが、光束径φd(
図8参照)の値は固定した上で、容器10の直径φD(
図8参照)を仮設定し、ステップS1〜S2を行う。次に、ステップS3に移行して、画像精度を示す数値がセンサ仕様に照らして許容範囲か判定する。数値が許容範囲でない場合(NO)は、ステップS41に移行し、容器直径φDを広げ、ステップS1に戻る。許容範囲である場合(YES)は、ステップS42に移行し、容器直径φDを狭め、ステップS1に戻る。これを繰り返すことで、容器10の最小直径φDminを決定することができる。容器直径φDは、光学シミュレーションの画像精度を示す数値が同等であれば、より小さい値が最適として決定される。
【0040】
または、
図11のステップS41,S42に括弧書きで示した設計を行うことも可能である。測量機内の空間仕様制限により、傾斜センサ1のためのスペースが制限される場合がある。即ち、容器直径φDが制限されるときは、容器直径φDの値を固定する。その上で、光束径φdを仮設定し、ステップS1〜S2を行う。次に、ステップS3で画像精度を示す数値が許容範囲でない場合(NO)は、ステップS4で光束径φdを狭め、ステップS1に戻る。ステップS3で許容範囲である場合(YES)は、光束径φdを広げ、ステップS1に戻る。これを繰り返すことで、容器直径φDが制限されるときの最適な光束径φdを決定することができる。光束径φdは、画像精度を示す数値が同等であれば、より大きいほうが受光素子11の精度が緩和されるため好ましい。
【0041】
以上のように、本形態によれば、傾斜センサ1の容器10を実際に作成しなくても受光像を予測する事が可能であり、かつシミュレーション結果を元に設計のフィードバックが行える。また、容器10に封入する液体9の種類や温度条件を変更してもその液面形状を予測することができるので、容器サイズの調整が容易に行える。また、フィードバックを繰り返すことにより、最小の容器サイズを求めることができるので、容器10の形状の最適化のための時間とコストを大幅に低減することができる。
【0042】
さらに、容器直径φD(容器の水平方向の長さ)が決定されると、容器10の最適な高さh(
図1参照)も決定することができる。
【0043】
図12は容器高さの違いによる受光像への影響を示す図である。
図12は、実際に作成した容器直径φD=15mmの正円円筒形の容器10に、フッ素系液体を封入して、温度条件摂氏20℃と−30℃で実測した受光像である。右列は容器高さh=4.6mmとしたもの、左列が容器高さh=3.6mmとしたものである。高さ3.6mmの容器では、低温のとき、液体9が容器天井(蓋体)と接してしまい、液面形状が変化し、受光像がぼけている。即ち、容器直径φDがセンサ仕様を満たしていても、容器高さhが液面高さh´(
図1参照)よりも低いと、シミュレーション通りの結果が得られなくなることがわかる。これを回避する為、容器10にはある程度の高さが必要である。
【0044】
容器高さhは、「液面形状計算工程」で得られた各温度における液面高さの最高値から、必要最低限の値を求める事ができる。例えば、
図7の様な特性を持つ液体を使用する場合、第2の曲線f2のY値の最高値Ymaxは1.43mmであるから、容器高さhは、容器10に封入した液体9の水平液面の高さh´に1.43mmを加えた値以上にしておかなければならない。このように、容器10の直径φDが決定されると、液面形状に影響を与えない最小の容器高さhminを、hmin=h´+Ymaxで決定することができる。
【0045】
この「容器高さ設計工程」は、
図3のステップS5として、最適な容器直径φD(又は光束径φd)が決定されたのちに、最終段階で行えばよい。これにより、容器形状として、高さ方向においても最小の容器10を設計する事ができる。
【0046】
(実施例)
以下に実施例を示す。
図13は実施例の液面形状計算工程の計算結果を示す図である。実施例では、液体9にフッ素系液体を使用した。この液体特性は、液体表面張力γが−40℃で21.00[mN/m]、20℃で16.40[mN/m]、70℃で12.75[mN/m],液体密度ρが−40℃で2000[kg/m^3]、20℃で1869[kg/m^3]、70℃で1760[kg/m^3],毛管定数が−40℃で0.014、20℃で0.013、70℃で0.012,実際の接触角θ1が0度であった。なお、暗視野パターン4のパターンピッチを80μm、パターン幅を40μmとし、光束径φdは2.5mmで行った。この条件で本形態の設計方法を実行した結果、本実施例での容器10の最小形状は、
図13に示すように、最小直径φDmin=18mmであり、Y値の最高値Ymaxが−40℃で1.46mm,20℃で1.33mm,70℃で1.21mmであったため、最小の容器高さhmin=h´+1.46mmと分かった。即ち、容器直径φDを18mm以下とすると、容器中心(X=0)付近の水平部分が無くなり、傾斜センサ1の精度が悪くなる。容器直径φDを18mm以上とすると、傾斜センサ1が大型化する。高さについても、容器10の高さhを液面の高さh´+1.46mm以下とすると、容器天井と液体9が接触して傾斜センサ1の精度が悪くなると分かった。
【0047】
上記の実施例の結果を受けて作成された傾斜センサ1の容器10の形態例を
図14に示す。
図14は容器10の縦断面図であって、(a)は形態例1、(b)は形態例2を示す図である。容器10は、液体9を収容する有底の正円円筒状のオイルバス101と、正円円筒状の蓋体102により液体9を密封する。(a)は、オイルバス101の内周面と蓋体102の外周面を接着し液体9を封入した形態であり、(b)は、オイルバス101の外周面と蓋体102の内周面を接着し液体9を封入した形態である。水平液面の高さh´は測量機(傾斜センサ1)を最大に傾けた状態で0以上となればよく、例えばh´=2mmとすると、容器10は、(a)の形態では、蓋体102の内径が18mm、蓋体102の内周部の高さが3.46mmとなるように作成され、(b)の形態では、オイルバス101の内径が18mm、オイルバス101の内周部の高さが3.46mmとなるように作成される。
【0048】
なお、最小の容器高さhminは、容器10が傾く事に備えて、Ymaxの値を+(容器半径×tan(傾斜角))にして作成するのも好ましい。また、最小直径φDminは、光学部品の精度,表面精度,または部品の許容差を考慮して、最小直径φDminの値を+20%まで余裕を持たせて作成するのも好ましい。このような理由から、本形態で最小と設計された値より大きく作成された容器10であっても、本発明の方法を使用していれば本発明の範囲に含まれる。
【0049】
さらに、本形態の好適な変形例を述べる。
【0050】
(変形例1)
上記では、容器直径φDの正円円筒形の容器10の設計方法及び作成方法を例示したが、本形態の方法は他の容器形状にも応用することができる。例えば、正四角柱形の容器10を作成したい場合は、容器10の対角方向と、容器10の対向する二辺と直交する方向においてそれぞれ第2の曲線f2を作成し、これらを合成した三次元モデルで光学シミュレーションを行えばよい。楕円円筒形の容器10を作成したい場合は、短軸方向と長軸方向においてそれぞれ第2の曲線f2を作成し、これらを合成した三次元モデルで光学シミュレーションを行えばよい。このように、容器10のある水平方向に第2の曲線f2を複数箇所求めれば、多角形や非正円形の容器であっても液面形状を予測することができるので、その液面形状に基づいて最小のサイズで容器10を作成することができる。
【0051】
(変形例2)
図12の様に、容器高さhが低く液面が蓋体102の天井に触れてしまう場合でも、容器壁面から形成される液面形状(第2の曲線f2)と天井壁面から形成される液面形状(第1の曲線f1)を合成することにより、液面形状を予測することができる。すなわち、測量機内の空間仕様制限により容器高さhを高くできない場合でも、この液面形状を用いて
図3のフローを実行することにより容器直径φDを調整することができる。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施の形態および変形例を述べたが、各形態および各変形例を当業者の知識に基づいて組み合わせることも可能であり、そのような形態は本発明の範囲に含まれる。