特許第6632407号(P6632407)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6632407
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】アブレイダブルコーティングの施工方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20200109BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20200109BHJP
   C23C 4/10 20160101ALI20200109BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20200109BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20200109BHJP
   F01D 11/12 20060101ALI20200109BHJP
   F01D 9/04 20060101ALI20200109BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20200109BHJP
   F02C 7/28 20060101ALI20200109BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20200109BHJP
【FI】
   C23C26/00 C
   C23C28/00 E
   C23C4/10
   B05D7/24 303B
   B05D3/02 Z
   B05D7/24 301E
   F01D11/12
   F01D9/04
   F02C7/00 D
   F02C7/28 A
   F02C7/28 E
   F01D25/00 L
   F01D25/00 M
   F01D25/00 X
   F02C7/00 C
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-20202(P2016-20202)
(22)【出願日】2016年2月4日
(65)【公開番号】特開2017-137539(P2017-137539A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2018年12月12日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 革新的構造材料「酸化物系軽量耐熱部材の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗村 隆之
(72)【発明者】
【氏名】松本 峰明
(72)【発明者】
【氏名】花田 忠之
(72)【発明者】
【氏名】田麥 あづさ
【審査官】 中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/130362(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/126476(WO,A1)
【文献】 特開2010−151267(JP,A)
【文献】 特開2016−006320(JP,A)
【文献】 特開2016−006321(JP,A)
【文献】 特開2013−071068(JP,A)
【文献】 特開平03−214440(JP,A)
【文献】 特開2013−064365(JP,A)
【文献】 特開2005−179779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00 − 30/00
B05D 1/00 − 7/26
F01D 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粒子と溶媒とを含むスラリーを用いて、基材の表面上にスラリーパターンを形成するパターン形成工程と、
前記基材の表面上に形成された前記スラリーパターンを焼結して、アブレイダブルコーティング層を形成する焼成工程と、を備え
前記基材は、内部に冷却流路が形成されるシュラウドであり、
前記焼成工程では、前記スラリーパターンが形成される部分のみを加熱すると共に、前記冷却流路に冷却媒体を流通させることを特徴とするアブレイダブルコーティングの施工方法。
【請求項2】
前記基材は、表面に多孔質のセラミック層が形成され、
前記パターン形成工程では、前記スラリーを用いて、前記セラミック層に前記スラリーパターンを形成することを特徴とする請求項1に記載のアブレイダブルコーティングの施工方法。
【請求項3】
前記セラミック層に含まれるセラミック材料と、前記アブレイダブルコーティング層に含まれるセラミック粒子とは、同じ種類であることを特徴とする請求項2に記載のアブレイダブルコーティングの施工方法。
【請求項4】
前記パターン形成工程では、前記スラリーを吐出するノズルから前記基材へ向けて前記スラリーを吐出させながら、前記ノズルを多軸ロボットにより移動させて、前記スラリーパターンを形成することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のアブレイダブルコーティングの施工方法。
【請求項5】
前記パターン形成工程では、前記基材の表面上に前記スラリーを塗布し、塗布した前記スラリーに型材を押し当てて、前記スラリーパターンを形成することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のアブレイダブルコーティングの施工方法。
【請求項6】
前記セラミック粒子は、粒径が大きい粗粒粒子と、前記粗粒粒子に比して粒径が小さい微粒粒子と、を含み、
前記粗粒粒子の体積をV1とし、前記微粒粒子の体積をV2とすると、
前記粗粒粒子と前記微粒粒子との体積比は、50/50≦V1/V2≦90/10の範囲であることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のアブレイダブルコーティングの施工方法。
【請求項7】
前記粗粒粒子は、平均粒径が、1μm以上10μm以下となっており、
前記微粒粒子は、平均粒径が、0.01μm以上1μm以下となっていることを特徴とする請求項に記載のアブレイダブルコーティングの施工方法。
【請求項8】
前記溶媒は、水であることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のアブレイダブルコーティングの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュラウド等の基材の表面に形成されるアブレイダブルコーティングの施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基材に形成されるコーティングとして、基材の表面に形成されるボンドコートと、ボンドコート上に形成されるセラミック層と、を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このセラミック層は、マスクを用いて、基材上にプラズマ溶射を行うことで所定のパターンが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0003172号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、所定のパターンとなるスリットが形成されたマスクを用いることから、プラズマ溶射を行うことによって、マスクのスリットが閉塞する(目詰まりする)可能性がある。この場合、マスクの取り替え頻度が高くなることから、施工効率の向上を図ることが困難である。
【0005】
そこで、本発明は、快削性の高いアブレイダブルコーティングの施工の効率化を図ることができるアブレイダブルコーティングの施工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアブレイダブルコーティングの施工方法は、セラミック粒子と溶媒とを含むスラリーを用いて、基材の表面上にスラリーパターンを形成するパターン形成工程と、前記基材の表面上に形成された前記スラリーパターンを焼結して、アブレイダブルコーティング層を形成する焼成工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、基材上にスラリーパターンを形成した後、スラリーパターンを焼結することで、基材上にアブレイダブルコーティング層を形成することができる。このため、マスク等を用いる必要がなく、簡易な工程で快削性の高いアブレイダブルコーティング層を形成できることから、アブレイダブルコーティングの施工の効率化を図ることができる。
【0008】
また、前記基材は、表面に多孔質のセラミック層が形成され、前記パターン形成工程では、前記スラリーを用いて、前記セラミック層に前記スラリーパターンを形成することが好ましい。
【0009】
この構成によれば、セラミック層とアブレイダブルコーティング層との結合を強固なものとすることができる。すなわち、セラミック層は、多孔質となっていることから、スラリーに含まれる溶媒が、セラミック層の気孔に入り込み、セラミック層との界面にセラミック粒子が凝集され、この状態で焼成されることで、セラミック層とアブレイダブルコーティング層とが強固に結合する。
【0010】
また、前記セラミック層に含まれるセラミック材料と、前記アブレイダブルコーティング層に含まれるセラミック粒子とは、同じ種類であることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、セラミック層とアブレイダブルコーティング層との熱膨張係数を同じにすることができる。このため、熱によるセラミック層とアブレイダブルコーティング層との剥離を抑制することができる。
【0012】
また、前記基材は、内部に冷却流路が形成されるシュラウドであり、前記焼成工程では、前記スラリーパターンが形成される部分のみを加熱すると共に、前記冷却流路に冷却媒体を流通させることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、スラリーパターンの焼成時において、シュラウドへの入熱を抑制することができるため、シュラウドへの熱影響を低減することができる。
【0014】
また、前記パターン形成工程では、前記スラリーを吐出するノズルから前記基材へ向けて前記スラリーを吐出させながら、前記ノズルを多軸ロボットにより移動させて、前記スラリーパターンを形成することが好ましい。
【0015】
この構成によれば、多軸ロボットにより基材上にスラリーパターンを安定的に形成することができるため、生産性の向上を図ることができる。
【0016】
また、前記パターン形成工程では、前記基材の表面上に前記スラリーを塗布し、塗布した前記スラリーに型材を押し当てて、前記スラリーパターンを形成することが好ましい。
【0017】
この構成によれば、型材により基材上にスラリーパターンを安定的に形成することができるため、生産性の向上を図ることができる。
【0018】
また、前記セラミック粒子は、粒径が大きい粗粒粒子と、前記粗粒粒子に比して粒径が小さい微粒粒子と、を含み、前記粗粒粒子の体積をV1とし、前記微粒粒子の体積をV2とすると、前記粗粒粒子と前記微粒粒子との体積比は、50/50≦V1/V2≦90/10の範囲であることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、パターン形成工程に適したスラリーとすることができ、また、焼成工程後に形成されるアブレイダブルコーティング層を適切なものとすることができる。なお、粗粒粒子と微粒粒子との体積比は、7/3程度であることがより好ましい。
【0020】
また、前記粗粒粒子は、平均粒径が、1μm以上10μm以下となっており、前記微粒粒子は、平均粒径が、0.01μm以上1μm以下となっていることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、パターン形成工程により適したスラリーとすることができ、同様に、焼成工程後に形成されるアブレイダブルコーティング層をより適切なものとすることができる。
【0022】
また、前記溶媒は、水であることが好ましい。
【0023】
この構成によれば、アルコール等の他の溶媒に比して、揮発し難い水を用いることができるため、スラリーの時間変化を抑制することができる。このため、量産を行うにあたって、スラリーパターンの形成を安定的に行うことが可能となる。また、溶媒は、消耗品であることから、溶媒として安価な水を用いることで、ランニングコストの低減を図ることができる。
【0024】
本発明のシュラウドは、動翼と対向する表面に多孔質のセラミック層が形成されるシュラウドにおいて、前記セラミック層の前記表面上に形成されるアブレイダブルコーティング層を備え、前記セラミック層に含まれるセラミック材料と、前記アブレイダブルコーティング層に含まれるセラミック材料とは、同じ種類であることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、セラミック層とアブレイダブルコーティング層との結合を強固なものにすることができる。また、セラミック層とアブレイダブルコーティング層との熱膨張係数を同じにできることから、熱によるセラミック層とアブレイダブルコーティング層との剥離を抑制することができる。このため、信頼性の高いアブレイダブルコーティング層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本実施形態に係る施工方法によりアブレイダブルコーティングが施工されるシュラウドの概略構成図である。
図2図2は、本実施形態に係るアブレイダブルコーティングの施工方法に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0028】
[実施形態]
図1は、本実施形態に係る施工方法によりアブレイダブルコーティングが施工されるシュラウドの概略構成図である。図2は、本実施形態に係るアブレイダブルコーティングの施工方法に関するフローチャートである。
【0029】
本実施形態に係るアブレイダブルコーティングの施工方法は、施工対象物として、例えば、ガスタービン発電機またはガスタービンエンジン等のガスタービンに設けられるシュラウドに適用される。先ず、アブレイダブルコーティングの施工方法に先立ち、シュラウド10について簡単に説明する。
【0030】
シュラウド10は、回転軸に対して周方向に所定の間隔を空けて設けられる複数の動翼11の径方向外側を取り囲むように設けられるケーシングである。このシュラウド10の内部には、例えば、燃焼ガス等の高温の作動流体が流通しており、この作動流体によって複数の動翼11が回転軸を中心に回転する。つまり、シュラウド10は、静止部材である一方で、複数の動翼11は、回転軸を中心に回転する回転部材となっている。そして、回転軸の径方向において、シュラウド10と各動翼11との間には、クリアランス15が形成されている。
【0031】
シュラウド10は、シュラウド本体20と、遮熱コーティング層(セラミック層)21と、アブレイダブルコーティング層22とを備えている。シュラウド本体20は、例えば、Ni基超合金等の耐熱金属材料を用いて形成されており、その内部には、冷却流路25が形成されている。冷却流路25は、シュラウド10の内部を通過する高温の作動流体によって加熱されたシュラウド本体20を冷却すべく、その内部に冷却空気等の冷却媒体が流通している。また、この冷却流路25は、後述するアブレイダブルコーティングの施工方法において利用することが可能となっている。
【0032】
遮熱コーティング層(TBC:Thermal Barrier Coating)21は、シュラウド本体20の表面、すなわち、シュラウド本体20の動翼11と対向する面に形成されている。遮熱コーティング層21は、高温の作動流体からシュラウド本体20への入熱を抑制すべく、多孔質のセラミック層となっている。
【0033】
遮熱コーティング層21は、酸化物系のセラミック材料である、ジルコニア系のセラミック材料が用いられており、本実施形態では、ZrOが用いられている。遮熱コーティング層21は、その気孔率が、例えば、5%から15%の範囲となっており、本実施形態では、10%となっている。この遮熱コーティング層21は、例えば、セラミック溶射(APS:Atmospheric Plasma Spraying)によって、均一な厚みの層として、シュラウド本体20の表面に一様に形成される。
【0034】
アブレイダブルコーティング層22は、遮熱コーティング層21の表面に形成されている。アブレイダブルコーティング層22は、シュラウド10と各動翼11との間に形成されるクリアランス15から、作動流体が漏出することを抑制するためのシール材であり、各動翼11によって快削される。アブレイダブルコーティング層22は、遮熱コーティング層21から突出するフィン形状となっており、遮熱コーティング層21上において所定のパターンが形成されている。パターンとしては、例えば、波形状となるフィンであるが、この形状に限定されず、作動流体のリークを抑制する形状であれば、いずれの形状であってもよい。
【0035】
アブレイダブルコーティング層22は、遮熱コーティング層21と同じ種類となるセラミック材料が用いられており、例えば、ジルコニア系のセラミック材料が用いられ、本実施形態では、ZrOが用いられている。アブレイダブルコーティング層22は、その気孔率が、例えば、10%から40%の範囲となっており、本実施形態では、20%となっている。このアブレイダブルコーティング層22は、後述するアブレイダブルコーティングの施工方法によって、遮熱コーティング層21の表面に形成される。
【0036】
次に、図2を参照して、アブレイダブルコーティングの施工方法について説明する。本実施形態の施工方法では、遮熱コーティング層21が施工されたシュラウド本体20を、基材として適用しており、遮熱コーティング層21の表面に、アブレイダブルコーティング層22を形成している。なお、本実施形態では、基材として、遮熱コーティング層21を施工したシュラウド本体20に適用したが、この構成に限定されず、基材として、多孔質のセラミック材を適用してもよい。
【0037】
先ず、本実施形態の施工方法では、スラリーを用いて、遮熱コーティング層21の表面上にスラリーパターンを形成する(ステップS1:パターン形成工程)。
【0038】
ここで、パターン形成工程S1において使用されるスラリーについて説明する。スラリーは、セラミック粒子と、溶媒と、バインダーと、分散剤とを含んで構成されている。
【0039】
セラミック粒子は、粗粒粒子と微粒粒子とを含んでおり、本実施形態では、いずれの粒子もジルコニア系(例えば、ZrO)のセラミック粒子が用いられている。粗粒粒子の体積をV1とし、微粒粒子の体積をV2とすると、粗粒粒子と微粒粒子との体積比は、50/50≦V1/V2≦90/10の範囲となっており、本実施形態では、V1/V2=7/3程度となっている。また、粗粒粒子は、平均粒径が、1μm以上10μm以下となっており、本実施形態では、3.4μmのものが用いられている。微粒粒子は、平均粒径が、0.01μm以上1μm以下となっており、本実施形態では、0.1μmのものが用いられている。
【0040】
溶媒は、例えば、蒸留水等の水が用いられており、スラリーにおけるセラミック粒子の体積濃度が、20〜60vol%となるように混合される。本実施形態では、溶媒として、アルコール等の他の溶媒に比して、揮発し難い水を用いることで、スラリーの粘度等の経時的な変化を抑制している。
【0041】
バインダーは、例えば、ポリビニルアルコール(PVA:Polyvinyl Alcohol)が用いられ、セラミック粒子の質量に対して、1〜10wt%となるように混合される。また、分散剤は、例えば、ボリカルボン酸アンモニウム塩が用いられ、セラミック粒子の質量に対して、0.1〜0.5wt%となるように混合される。
【0042】
上記のように構成されるスラリーは、本実施形態において、その粘度が、16.4mPa・sとなっている。なお、上記のスラリーは、一例であり、上記の構成に限定されない。例えば、より高い気孔率となるアブレイダブルコーティング層22が求められる場合には、微粒粒子に対する粗粒粒子の割合を多くすればよい。また、例えば、より高い粘度となるスラリーが求められる場合には、セラミック粉体の体積濃度を高めたり、バインダーの添加量を増やしたりすればよい。
【0043】
このようなスラリーを用いて、遮熱コーティング層21にスラリーパターンを形成する場合、スラリーを吐出するノズルと、ノズルを移動させる多軸ロボットとを用いる。つまり、パターン形成工程S1では、ノズルから遮熱コーティング層21へ向けてスラリーを吐出させながら、ノズルを多軸ロボットにより移動させることで、所定のスラリーパターンを形成する。
【0044】
ここで、スラリーは、多孔質となる遮熱コーティング層21に塗布されることから、スラリーに含まれる溶媒の一部は、遮熱コーティング層21へ向かう。このとき、溶媒の移動に随伴して、セラミック粒子の一部が、遮熱コーティング層21の気孔に入り込む。パターン形成工程S1後、続いて、乾燥工程S2を実行する。
【0045】
乾燥工程S2では、スラリーパターンに含まれる溶媒を、自然乾燥または加熱乾燥により揮発させる。乾燥工程S2後、続いて、焼成工程S3を実行する。
【0046】
焼成工程S3では、遮熱コーティング層21の表面上に形成されたスラリーパターンを焼結して、アブレイダブルコーティング層22を形成する。具体的に、焼成工程S3では、スラリーパターンが形成される部分のみを、バーナ等の火炎で直接加熱したり、レーザ照射によって直接加熱したりする。このとき、焼成工程S3では、シュラウド本体20の冷却流路25に冷却媒体を流通させて、シュラウド本体20及び遮熱コーティング層21を冷却する。これにより、焼成工程S3では、スラリーパターンを焼成温度とすることで、遮熱コーティング層21上にアブレイダブルコーティング層22を形成する。
【0047】
以上のように、本実施形態によれば、遮熱コーティング層21上にスラリーパターンを形成した後、スラリーパターンを焼結することで、遮熱コーティング層21上にアブレイダブルコーティング層22を形成することができる。このため、マスク等を用いる必要がなく、簡易な工程で快削性の高いアブレイダブルコーティング層22を形成できることから、アブレイダブルコーティングの施工の効率化を図ることができる。
【0048】
また、本実施形態によれば、多孔質の遮熱コーティング層21上に、スラリーパターンを形成することができる。このため、スラリーに含まれるセラミック粒子が、遮熱コーティング層21の気孔に入り込み、この状態で焼成されることで、遮熱コーティング層21とアブレイダブルコーティング層22との結合を強固なものとすることができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、遮熱コーティング層21とアブレイダブルコーティング層22とのセラミック材料を同じ種類とすることができるため、遮熱コーティング層21とアブレイダブルコーティング層22との熱膨張係数を同じにすることができる。このため、遮熱コーティング層21とアブレイダブルコーティング層22との熱による剥離を抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、スラリーパターンの焼成時において、シュラウド本体20の冷却流路25に冷却媒体を流通させることができるため、シュラウド10への入熱を抑制することができ、シュラウド10への熱影響を低減することができる。
【0051】
また、本実施形態によれば、パターン形成工程S1において、ノズル及び多軸ロボットを用いて、多軸ロボットにより遮熱コーティング層21上にスラリーパターンを安定的に形成することができるため、生産性の向上を図ることができる。
【0052】
また、本実施形態によれば、上記のようなスラリーを用いることで、パターン形成工程S1に適したスラリーとすることができ、また、焼成工程S3後に形成されるアブレイダブルコーティング層22を適切なものとすることができる。
【0053】
また、本実施形態によれば、溶媒として水を用いることにより、スラリーの時間変化を抑制することができるため、量産を行うにあたって、スラリーパターンの形成を安定的に行うことが可能となる。また、溶媒は、消耗品であることから、溶媒として安価な水を用いることで、ランニングコストの低減を図ることができる。
【0054】
なお、本実施形態では、遮熱コーティング層21及びアブレイダブルコーティング層22に用いられるセラミック材料として、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を用いたが、この構成に限定されず、例えば、アルミナ系のセラミック材料や希土類シリケート系のセラミック材料を用いてもよい。
【0055】
また、本実施形態では、スラリーパターンが形成される部分のみを加熱したが、シュラウド10全体を加熱炉に入れてもよく、特に限定されない。
【0056】
また、本実施形態では、パターン形成工程S1において、ノズル及び多軸ロボットを用いたが、この構成に限定されない。例えば、パターン形成工程S1において、遮熱コーティング層21の表面上にスラリーを塗布し、塗布したスラリーに型材を押し当てて、スラリーパターンを形成してもよい。この構成においても、型材により遮熱コーティング層21上にスラリーパターンを安定的に形成することができるため、生産性の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0057】
10 シュラウド
11 動翼
15 クリアランス
20 シュラウド本体
21 遮熱コーティング層
22 アブレイダブルコーティング層
25 冷却流路
図1
図2