特許第6632622号(P6632622)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6632622
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】表面変性ポリオレフィン繊維
(51)【国際特許分類】
   C04B 16/06 20060101AFI20200109BHJP
   D06M 10/02 20060101ALI20200109BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20200109BHJP
   D06M 14/28 20060101ALI20200109BHJP
   D06M 101/20 20060101ALN20200109BHJP
【FI】
   C04B16/06 A
   C04B16/06 C
   C04B16/06 E
   C04B16/06 D
   D06M10/02 C
   D06M15/643
   D06M14/28
   D06M101:20
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-528567(P2017-528567)
(86)(22)【出願日】2015年8月10日
(65)【公表番号】特表2017-537241(P2017-537241A)
(43)【公表日】2017年12月14日
(86)【国際出願番号】EP2015068357
(87)【国際公開番号】WO2016082949
(87)【国際公開日】20160602
【審査請求日】2018年8月10日
(31)【優先権主張番号】14195064.2
(32)【優先日】2014年11月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503343336
【氏名又は名称】コンストラクション リサーチ アンド テクノロジー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Construction Research & Technology GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ロベルタ マガロット
(72)【発明者】
【氏名】フランチェスカ モラッティ
(72)【発明者】
【氏名】サンドロ モーロ
(72)【発明者】
【氏名】マリーノ コラスオッノ
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドロ パテッリ
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン エリック バラガン
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特表平06−509142(JP,A)
【文献】 特開2001−058858(JP,A)
【文献】 特開2006−096565(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/129323(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0069790(US,A1)
【文献】 特表2004−510571(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0305038(US,A1)
【文献】 特開平05−132345(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/039744(WO,A1)
【文献】 米国特許第5788760(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 16/06
C23C 16/00 − 16/56
D06M 10/00 − 16/00
D06M 19/00 − 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
a)プラズマ反応器内での電気的に励起可能なガスを用いたプラズマ処理によりポリオレフィン繊維を前処理して、表面上に極性基を有するポリオレフィン繊維を得るステップと、
b)前記ポリオレフィン繊維を、プラズマ反応器内でガス状のシロキサンまたはシラザン化合物の存在下で電気的に励起可能なガスを用いてプラズマ処理するステップと、
を含む方法により得ることができる、表面変性ポリオレフィン繊維を含む、無機結合材組成物の製造方法
【請求項2】
前記ポリオレフィン繊維が、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、もしくはそれらのコポリマーからの繊維、またはそれらのブレンドから選択される、請求項1記載の無機結合材組成物の製造方法
【請求項3】
ガス状のシロキサンまたはシラザン化合物と電気的に励起可能なガスとの比が、1/1〜1/20(シロキサンまたはシラザン化合物/電気的に励起可能なガス)である、請求項1または2記載の無機結合材組成物の製造方法
【請求項4】
前記電気的に励起可能なガスが、アルゴン、酸素、窒素、空気、アンモニア、二酸化炭素、水またはそれらの2つ以上の混合物から選択される、請求項1から3までのいずれか1項記載の無機結合材組成物の製造方法
【請求項5】
前記ポリオレフィン繊維の表面上の極性基が、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミド基、イミド基および/またはニトリル基から選択される、請求項1から4までのいずれか1項記載の無機結合材組成物の製造方法
【請求項6】
前記ガス状のシロキサンまたはシラザン化合物が、直鎖状もしくは環状のモノアルキル化もしくはポリアルキル化シロキサン、もしくは直鎖状もしくは環状のモノアルキル化もしくはポリアルキル化シラザン、またはそれらの混合物から選択される、請求項1から5までのいずれか1項記載の無機結合材組成物の製造方法
【請求項7】
前記ガス状のシロキサンまたはシラザン化合物が、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシラザン、デカメチルシクロペンタシロキサンまたはそれらの混合物から選択される、請求項6記載の無機結合材組成物の製造方法
【請求項8】
ガス状のシロキサンまたはシラザン化合物の存在下での前記ポリオレフィン繊維のプラズマ処理が、前記ポリオレフィンの表面上にシリカを堆積させるのに適したエネルギーレベルで行われる、請求項1から7までのいずれか1項記載の無機結合材組成物の製造方法
【請求項9】
前記プラズマ処理におけるイオンおよびラジカルが、0.1eV〜100eVのエネルギーレベルを有する、請求項8記載の無機結合材組成物の製造方法
【請求項10】
ステップ(a)による前処理の前に、前記ポリオレフィン繊維が機械的に成形される、請求項1から9までのいずれか1項記載の無機結合材組成物の製造方法
【請求項11】
前記機械的成形が、エンボス加工、捲縮、撚糸および/または延伸を含む、請求項10記載の無機結合材組成物の製造方法
【請求項12】
前記表面変性ポリオレフィン繊維が、10mm〜60mmの長さ、0.5mm〜3mmの幅および0.2mm〜1mmの厚さを有する、請求項1から11までのいずれか1項記載の無機結合材組成物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面変性ポリオレフィン繊維、水硬性結合材組成物における該繊維の使用、該繊維を含む水硬性結合材組成物、および水硬性結合材組成物の補強方法に関する。
【0002】
特定のニーズに応じて物理的特性を調節するために複合繊維が使用される例として、水硬性や非水硬性の結合材をベースとする建築材料が挙げられる。コンクリートやモルタルは比較的脆い材料であり、引張強度は一般にこうした材料の圧縮強度に比べてはるかに低い。したがって通常の状況下では、コンクリートを通常は鉄筋で補強する必要がある。近年の建築産業のニーズを満たすべく、さらにコンクリートやモルタルに様々な種類の短繊維をランダムに分配させて補強することがますます一般的になってきている。主な目的は、靭性(ひび割れ抵抗性)を高めることに加えて、建築材料の引張強度(ひび割れ強度)および延性を向上させることである。
【0003】
モルタルが細骨材と水硬性セメントとの混合物であるのに対して、コンクリートにはさらに粗骨材も含まれている。セメント成分は、こうした骨材が埋め込まれる母材を構成する合成無機材料として使用される。コンクリートやモルタルの混合物にはさらに、ポゾランや従来の特別な用途に通常利用される他の混合物が含まれることができ、それによって、未硬化の無機結合材組成物の物理的特性も、硬化済みの無機結合材組成物の物理的特性も変化する。セメントは典型的に、無水結晶質ケイ酸カルシウム(CSおよびCS)、石灰およびアルミナを含む。水の存在下で、このケイ酸塩が反応して水和物が形成されるとともに水酸化カルシウムが形成される。セメントの硬化構造は、新たに形成される結晶の立体性と錯体配置とに左右され、これは本質的に、成分の量、硬化時間およびコンクリート骨材の組成に依存する。硬化プロセスの過程で塑性収縮や化学的収縮や脱水収縮によって空隙が生じることがあり、この空隙によって欠陥や収縮ひび割れが生じる。さらに、コンクリートやモルタルにおける硫酸塩の攻撃によって内部圧力が生じることが多く、これによって材料内にひび割れが生じ、結果としてこうした材料でできた構造物が不安定になる。
【0004】
潜在的な欠陥に対抗するプロセスにおいては、無機結合材組成物に繊維を導入することで、最終的な母材の補強が行われている。界面結合強度によって、例えば複合体全体の強度、延性、エネルギー吸収特性等といった多くの重要な複合体特性が決まる。例えばコンクリート混合物でできた得られる構造部材の安定性を高めるべく、無機結合材組成物において様々な天然および合成の繊維が使用されている。こうした繊維の例としては、天然材料、例えばセルロース系繊維、例えば木綿、ビスコース、麻、ジュート、サイザル朝、マニラ麻、竹、セルロース、再生セルロース(例えばLyocell(登録商標))、合成材料、例えばポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、アラミド、ポリオレフィン、さらには無機鉱物材料または金属系材料、例えば炭素、ガラス、ミネラルウール、玄武岩、酸化物セラミックおよび鋼が挙げられる。
【0005】
こうした材料から製造される様々な形状やサイズの繊維が安定化材や補強要素として使用されるが、大半の用途に一般的に使用されるのは鋼繊維である。しかし、鋼によってセメント質組成物に腐食の問題が生じる。一般的に使用される合成繊維の例はポリプロピレン、ポリエチレンおよびポリビニルアルコールであるが、これらはいずれも、例えば高コストである(例えばポリビニルアルコール)、靱性が低いあるいは界面結合性が低い(例えばポリプロピレン)といった1つ以上の問題点を抱えている。
【0006】
大半の繊維が補強材として使用される上で制限を有することの要因の一つとして、濡れ性が乏しいゆえに、また母材やセメント質材料に対する付着性が低い(界面結合性が低い)ゆえに、引抜き強度が低いという点が挙げられる。繊維補強コンクリートの破損は、主に繊維の引抜けや結合の切断によって生じる。それゆえ、繊維補強コンクリートがひび割れの開始後に突然破損する、ということは起こらない。繊維と母材との結合は主として機械的結合であるため、繊維と母材材料との良好な付着性を得るためには、通常は化学的または物理的な前処理を行うことが必要であることが文献に示されている。繊維と無機結合材組成物との界面結合性を高めるための様々な機序が、知られており、文献に記載されており、そして用いられている(Li V.C.ら、Advanced Cement Based Materials, 1997, Vol.6, 1−20)。繊維と母材との間の相互作用が生じる面積を増加させる方法の1つとして、例えば繊維表面積を増加させることが挙げられる。こうした表面積の増加によって母材との機械的結合性が高まり、またこうした表面積の増加を例えばフィブリル化手法によって達成することができる。さらに、例えば撚糸、エンボス加工、捲縮、さらには繊維へのフックの導入といった繊維の表面変性が利用されており、これによって母材と繊維との相互作用や機械的結合性が向上する。
【0007】
他の表面変性手段によっても繊維と母材との付着性が高まる。ポリプロピレン繊維を例えばSiClによりプラズマ処理して表面に極性基を導入することで、繊維の反応性や濡れ性が高められる(米国特許第5,705,233号明細書(US 5,705,233))。これによりセメント質の母材との相容性や結合性が向上し、結果として各繊維の引抜き強度が高まる。しかし、プラズマ処理後の残留塩素イオンによって、鋼を含むセメント質母材において鋼の腐食が生じる可能性が高い。
【0008】
国際公開第97/32825号(WO 97/32825)には、補強繊維を含むセメント母材の結合強度を高める方法が開示されている。補強繊維は、励起可能なガスを用いたプラズマ処理によって製造される。しかしプラズマ処理された繊維には、時間の経過とともにプラズマ処理の補強効果が消失するという問題点がある。
【0009】
母材への機械的結合性を高めて有利な複合体特性を確実に得られるようにするため、特別な技術が開発されている。繊維の幾何学的形状が、繊維と母材構造体との間の結合に影響を及ぼす。例えば、立体的形状の繊維によって結合特性が向上することが実証されている(Naaman A.E., Mcgarry F.J., Sultan, J.N. − Developments in fiber−reinforcements for concrete, Technical Report, R 72−28, School of Engineering, MIT, May 1972 p.67)。
【0010】
合成繊維は、コンクリート中の補強材として数多くの利点を示す。合成繊維は、弾性率が高く、安価である。欧州特許出願公開第0225036号明細書(EP 0225036)には、ポリプロピレン繊維に帯電防止性を付与して親水性を高めることで、母材への繊維の埋め込みと均一な分配とを改善する方法が開示されている。さらに、ポリプロピレン繊維の捲縮、粗面化または異形押出成形により該繊維の埋め込み特性を向上させる方法が開示されている。
【0011】
Sarmadi,A.およびYing,T.(”Hexamethyldisiloxane (HMDSO) Plasma Surface Modification and Grafting of Polypropylene Fabrics”, 11th International Symposium on Plasma Chemistry, Loughborough, UK,August 1993)は、ポリプロピレン繊維の処理におけるヘキサメチルジシロキサンプラズマの使用について記載している。プラズマ処理された繊維が示す吸水性は、未処理の繊維が示す吸水性よりも低いことが示されている。つまり、HMDSOプラズマ処理が施された繊維は、ポリプロピレン繊維よりも高い疎水性を示す。さらにR.Mahlbergら(Int. J. Adhes. Adhes. 1998,18,283−297)は、ヘキサメチルジシロキサンプラズマによるリグノセルロースの処理によって、処理済みの材料の疎水性が増大すると記載している。しかし、セメント質組成物中での繊維の使用に関して、繊維の疎水性の増大は望ましくない。
【0012】
米国特許出願公開第2009/0305038号明細書(US 2009/0305038)および特開平05−132345号公報(JP H05 132345)には、無機結合材組成物の補強に有用な表面官能化有機繊維が開示されている。この繊維の官能化は、繊維を延伸し、これを例えばプラズマ等の制御されたガス環境中で処理し、次いで、これをサイジング剤を含む溶液と接触させる(米国特許出願公開第2009/0305038号明細書(US 2009/0305038))かあるいはこれを電子線照射により処理する(特開平05−132345号公報(JP H05 132345))ことによって行われる。
【0013】
こうした繊維と母材との結合性を高めるための手段が用いられてはいるものの、技術が高度でかつ要求の厳しい用途に対して個々の種類の繊維のそれぞれの引抜き強度はなおも低く、高性能コンクリート材料のニーズを満たすには不十分であることから、個々の種類の繊維の利用は依然として限定的である。さらに、利用可能な個々の技術は、例えば鉱物系繊維やポリマー系繊維といった特定の繊維材料のみに限定されている。主な問題点の1つとしては、例えば多くの繊維が疎水性であって、セメント母材に対する濡れ性がそれぞれ低く、ひいてはセメント母材に対する付着性が低いことが挙げられる。こうしたことが、例えばポリプロピレンのような安価なポリマー材料の広範かつ大規模な使用を妨げている。
【0014】
本発明の課題は、例えば水硬性結合材組成物のような建築用化学組成物に対する結合特性の向上を示すポリオレフィン繊維を提供することである。本発明のさらなる課題は、水硬性結合材組成物において引抜き強度の向上を示すポリオレフィン繊維、および残留引張強度の向上を示すポリオレフィン繊維を含む水硬性結合材組成物、および補強された水硬性結合材組成物の製造方法を提供することである。
【0015】
前述の課題は、以下:a)プラズマ反応器内でポリオレフィン繊維を電気的に励起可能なガスと接触させることによって該ポリオレフィン繊維を前処理して、表面上に極性基を有するポリオレフィン繊維を得るステップ(エッチングプロセス)と、b)該ポリオレフィン繊維をガス状のシロキサンまたはシラザン化合物の存在下でプラズマ処理するステップ(堆積プロセス)と、を含む方法により得ることができる、表面変性ポリオレフィン繊維;該表面変性ポリオレフィン繊維を含む水硬性結合材組成物;およびその製造方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、未処理のポリプロピレン繊維の単繊維引抜き試験の結果と、表面変性ポリプロピレン繊維の単繊維引抜き試験の結果との比較を示す(E=エッチングプロセス、D=堆積プロセス、E+D=エッチングプロセス+堆積プロセス)。
図2図2は、未処理のポリプロピレン繊維とコンクリート混合物1とを含む水硬性結合材組成物の引張強度の推移と、表面変性ポリプロピレン繊維とコンクリート混合物1とを含む水硬性結合材組成物の引張強度の推移との比較を示す(E+D=エッチングプロセス+堆積プロセス)。
図3図3は、未処理のポリプロピレン繊維とコンクリート混合物2とを含む水硬性結合材組成物の引張強度の推移と、表面変性ポリプロピレン繊維とコンクリート混合物2とを含む水硬性結合材組成物の引張強度の推移との比較を示す(E+D=エッチングプロセス+堆積プロセス)。
図4図4は、未処理のポリプロピレン繊維を含む水硬性結合材組成物の連続的なたわみ下での平均曲げ靭性の推移と、表面変性ポリプロピレン繊維を含む水硬性結合材組成物の連続的なたわみ下での平均曲げ靭性の推移とを示す。
図5A図5Aは、エンボスパターンを有する繊維であって、該エンボスパターンが該繊維の長手軸に対して傾斜しており、底面エンボスパターンが上面エンボスパターンに対して平行である繊維の実施形態の平面図である。
図5B図5Bは、図5Aの繊維の一断面図であり、該繊維の上面および底面に存在する矩形波プロファイルを示す。
図5C図5Cは、図5Aの繊維の一断面図であり、該繊維の凸部の高さ(pe)および公称断面積(s)を示す。
図6A図6Aは、エンボスパターンを有する繊維であって、該エンボスパターンが該繊維の長手軸に対して傾斜しており、底面エンボスパターンが上面エンボスパターンに対して垂直である繊維の実施形態の平面図である。
図6B図6Bは、図6Aの繊維の一断面図であり、該繊維の上面および底面に存在する矩形波プロファイルを示す。
図6C図6Cは、図6Aの繊維の一断面図であり、該繊維の凸部の高さ(pe)および公称断面積(s)を示す。
図7A図7Aは、エンボス加工機の実施形態の破断図であり、2つのエンボスロールの間を通過する可塑性フィラメントの機械的再成形のプロセスを示す。
図7B図7Bは、図7Aに示す範囲の拡大図であり、上述の2つのエンボスロールの側面図を示す。
図7C図7Cは、1つのエンボスロールの平面図である。
図8図8は、丸みのある端部を有する矩形の繊維の断面図である。
【0017】
実施形態
本発明は、以下の実施形態を有する表面変性ポリオレフィン繊維を提供する:
1.以下:
a)プラズマ反応器内での電気的に励起可能なガスを用いたプラズマ処理によりポリオレフィン繊維を前処理して、前記繊維の表面上に極性基を有するポリオレフィン繊維を得るステップと、
b)前記ポリオレフィン繊維を、プラズマ反応器内でガス状のシロキサンまたはシラザン化合物の存在下で電気的に励起可能なガスを用いてプラズマ処理するステップと、
を含む方法により得ることができる(または得られた)、表面変性ポリオレフィン繊維。
【0018】
2.前記ポリオレフィン繊維が、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、もしくはそれらのコポリマーからの繊維、またはそれらのブレンドから選択される、実施形態1記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0019】
3.ステップb)において、前記ガス状のシロキサンまたはシラザン化合物に、電気的に励起可能なガスが混合される、実施形態1または2記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0020】
4.ガス状のシロキサンまたはシラザン化合物と電気的に励起可能なガスとの比が、1/1〜1/20(シロキサンまたはシラザン化合物/電気的に励起可能なガス)である、実施形態3記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0021】
5.ガス状のシロキサンまたはシラザン化合物と電気的に励起可能なガスとの比が、1/5〜1/10(シロキサンまたはシラザン化合物/電気的に励起可能なガス)である、実施形態3記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0022】
6.ガス状のシロキサンまたはシラザン化合物と電気的に励起可能なガスとの比が、約1/10(シロキサンまたはシラザン化合物/電気的に励起可能なガス)である、実施形態3記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0023】
7.ステップa)による前記プラズマ処理の継続時間が、1秒間〜10分間であり、好ましくは1秒間〜1分間である、先行する実施形態のいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0024】
8.ステップb)の継続時間が1秒間〜30分間である、先行する実施形態のいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0025】
9.電気的に励起可能なガスのある流量が前記プラズマ反応器に導入される、先行する実施形態のいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0026】
10.ステップa)による前記プラズマ処理において前記プラズマ反応器に導入される電気的に励起可能なガスの流量が、10sccm(標準立方センチメートル/分)〜10000sccmであり、好ましくは10sccm〜5000sccmである、先行する実施形態のいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0027】
11.ステップb)において前記プラズマ反応器に導入される電気的に励起可能なガスの流量が、10sccm〜10000sccmであり、好ましくは10sccm〜5000sccmである、先行する実施形態のいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0028】
12.ステップb)において前記プラズマ反応器に導入されるガス状のシロキサンまたはシラザン化合物の流量が、1sccm〜2000sccmであり、好ましくは1sccm〜500sccmである、先行する実施形態のいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0029】
13.ステップ(a)において導入される前記電気的に励起可能なガスの流量が、ステップ(b)において導入される前記電気的に励起可能なガスの流量と異なる、実施形態9から12までのいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0030】
14.ステップ(a)において導入される前記電気的に励起可能なガスの流量が、ステップ(b)において導入される前記電気的に励起可能なガスの流量よりも低い、実施形態13記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0031】
15.ステップa)による前記プラズマ処理において印加される電力が、10W〜30kWであり、好ましくは10W〜15kWである、先行する実施形態のいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0032】
16.ステップb)において印加される電力が、10W〜30kWであり、好ましくは10W〜15kWである、先行する実施形態のいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0033】
17.前記電気的に励起可能なガスが、アルゴン、酸素、窒素、空気、アンモニア、二酸化炭素、水またはそれらの2つ以上の混合物から選択される、先行する実施形態のいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0034】
18.前記電気的に励起可能なガスが酸素である、先行する実施形態のいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0035】
19.前記ポリオレフィン繊維の表面上の極性基が、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミド基、イミド基および/またはニトリル基から選択される、先行する実施形態のいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0036】
20.ステップ(a)の前記ポリオレフィン繊維の表面上の極性基がヒドロキシル基である、実施形態19記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0037】
21.前記ガス状のシロキサンまたはシラザン化合物が、直鎖状もしくは環状のモノアルキル化もしくはポリアルキル化シロキサン、もしくは直鎖状もしくは環状のモノアルキル化もしくはポリアルキル化シラザン、またはそれらの混合物から選択される、先行する実施形態のいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0038】
22.前記ガス状のシロキサンまたはシラザン化合物が、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、ドデカメチルペンタシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、テトラエトキシシラン、テトラメチルジシロキサン、ジメチルジメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、トリエトキシフェニルシロキサンおよびそれらの混合物を含む群から選択される、実施形態21記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0039】
23.前記ガス状のシロキサンまたはシラザン化合物が、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシラザン、デカメチルシクロペンタシロキサンまたはそれらの混合物から選択される、実施形態22記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0040】
24.ガス状のシロキサンまたはシラザン化合物の存在下での前記ポリオレフィン繊維のプラズマ処理が、前記ポリオレフィン繊維の表面上に酸化シロキサン生成物または酸化シラザン生成物を堆積させるのに適したエネルギーレベルで行われる、先行する実施形態のいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0041】
25.前記プラズマ処理におけるイオンおよびラジカルが、0.1eV〜100eVのエネルギーレベルを有する、先行する実施形態のいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0042】
26.ステップ(a)による前処理の前または後に、好ましくはステップ(a)による前処理の前に、前記ポリオレフィン繊維が機械的に成形される、先行する実施形態のいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0043】
27.前記機械的成形が、エンボス加工、捲縮、撚糸および/または延伸を含む、実施形態26記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0044】
28.前記機械的成形が延伸を含む、実施形態27記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0045】
29.前記延伸が1〜18の範囲の延伸比で行われる、実施形態28記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0046】
30.前記延伸が2段階で行われる、実施形態28または29記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0047】
31.前記第1のステップにおける延伸が、前記第2のステップにおける延伸比よりも大きい延伸比で行われる、実施形態30記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0048】
32.前記第1のステップにおける延伸が5〜12の延伸比で行われる、実施形態30または31記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0049】
33.前記第2のステップにおける延伸が0.5〜5の延伸比で行われる、実施形態30から32までのいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0050】
34.矩形の断面、10mm〜60mmの長さ、0.5mm〜3mmの幅(Dmax)および0.2mm〜1mmの厚さ(Dmin)を有する、先行する実施形態のいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0051】
35.矩形の断面、40mm〜55mmの長さ、0.8mm〜1.5mmの幅および0.4mm〜0.8mmの厚さを有する、先行する実施形態のいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0052】
36.ステップ(a)の前に機械的に成形された、実施形態34または35記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0053】
37.エンボス加工によって機械的に成形された、実施形態36記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0054】
38.前記エンボスの高さ(he)が0.4mm〜2.3mmの範囲にある、実施形態37記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0055】
39.前記エンボス単位の長さ(h)が0.8mm〜3mmの範囲にある、実施形態37または38記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0056】
40.前記エンボスの深さ(pe)が0.03mm〜0.12mmの範囲にある、実施形態37から39までのいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0057】
41.前記エンボスのずれ(se)が0〜(h)の値の範囲にある、実施形態37から40までのいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0058】
42.前記エンボスと前記繊維の長手軸との間の角度(α)が0°〜60°の範囲にある、実施形態37から41までのいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0059】
43.前記エンボスと前記繊維の2つの対向面との間の角度(β)が0〜2αの範囲にある、実施形態37から42までのいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維。
【0060】
44.無機結合材組成物における、先行する実施形態のいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維の使用。
【0061】
45.実施形態1から43までのいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維を含む、無機結合材組成物。
【0062】
46.前記表面変性ポリオレフィン繊維を前記水硬性結合材組成物の全体積の0.1%〜10%の量で含む、実施形態45記載の無機結合材組成物。
【0063】
47.前記表面変性ポリオレフィン繊維を前記水硬性結合材組成物の全体積の0.1%〜5%の量で含む、実施形態45記載の無機結合材組成物。
【0064】
48.前記表面変性ポリオレフィン繊維を前記水硬性結合材組成物の全体積の約0.5%の量で含む、実施形態45記載の無機結合材組成物。
【0065】
49.無機結合材組成物の補強方法であって、
a)実施形態1から43までのいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維を無機結合材組成物に組み込むステップと、b)前記無機結合材組成物を硬化させるステップと、を含む、前記方法。
【0066】
50.実施形態1から43までのいずれかに記載の表面変性ポリオレフィン繊維の製造方法であって、
a)プラズマ反応器内でポリオレフィン繊維を電気的に励起可能なガスと接触させることによって前記ポリオレフィン繊維を前処理して、前記繊維の表面上に極性基を有するポリオレフィン繊維を得るステップと、
b)前記ポリオレフィン繊維をプラズマ反応器内でガス状のシロキサンまたはシラザン化合物の存在下で電気的に励起可能なガスを用いてプラズマ処理するステップと、
を含む、前記方法。
【0067】
本発明のポリオレフィン繊維
本発明のポリオレフィン繊維は、例えばポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィン、それらのコポリマーおよびこうした繊維のブレンドから構成される。本発明のポリオレフィン繊維が、例えばフィラー、ガラス繊維、相容化剤、変性剤等の一般的な添加剤を含みうることは、当業者にとって自明である。
【0068】
ポリプロピレン繊維、もしくはポリエチレン繊維、もしくはそれらのコポリマーからの繊維、またはこのような繊維のブレンドが好ましい。コポリマーは、例えばランダムコポリマー、交互コポリマーまたはブロックコポリマーであることができる。市場において最も一般的な種類であるのはポリプロピレン系繊維であり、これは通常は80質量%超のポリプロピレン含分を示す。延伸プロセスによって引張強度の高い繊維を得るにはメルトフローインデックス(MFI、ISO 1133により測定)が小さいポリプロピレンが好ましい原料であることは、従来技術において周知である。総じて、20g/10分未満のMFIの値が好ましく、3g/10分未満の値がより好ましい。
【0069】
上述の繊維は、任意の断面を有することができる。好ましくは、断面は、矩形(場合により角が丸いもの)、円形(円状)または長円形である。矩形の断面、または角の丸い矩形の断面が好ましい。矩形の断面は、幅を定める長軸Dmaxと、この長軸に対して垂直であって繊維の厚さを定める短軸Dminとを有し、これらの軸はどちらも繊維の長手方向の中心軸を通り、DmaxはDminより大きい。Dmaxは、楕円形あるいは長円形の断面を有する繊維の主軸(2つの直径のうち大きい方)をも指し、一方でDminは、長円形の断面を有する繊維の短軸(2つの直径のうちの小さい方)をも指す。円状の断面を有する繊維は、0.2mm〜4mmの範囲の直径を有する。
【0070】
前処理
本発明の表面変性ポリオレフィン繊維は、実施形態1記載の方法によって得られる。一実施形態において、ステップa)は、電気的に励起可能なガスを用いたプラズマ処理のみを含み、機械的処理を含まない。好ましい一実施形態において、ステップa)は、機械的処理と、電気的に励起可能なガスの存在下でのプラズマ処理と、の双方を含む。前処理のこれら2つの選択可能な処理の順序は可変である。しかし、プラズマ処理前に機械的処理を行うことが好ましい。
【0071】
総じて、ステップb)の前にステップa)を行う。さらに、を添加せずにステップa)を行う。
【0072】
前処理の前に、ポリオレフィン繊維を、所望であれば有機溶媒中で、例えばイソプロピルアルコールのようなアルコール中で、洗浄する。このために、繊維を例えば超音波浴中で室温で適切な時間にわたって、例えば10分間〜60分間洗浄し、次いで、不活性ガス流中で、例えば窒素流中で、室温で、またはステップa)の前に温度を上昇させて、乾燥させる。
【0073】
機械的成形
ポリオレフィン繊維の機械的成形は任意であり、好ましくはステップa)の前に行う。機械的成形にはポリオレフィンフィラメントを使用し、この機械的成形のプロセス後にこのポリオレフィンフィラメントを所望の長さに切断する。機械的成形には、好ましくはエンボス加工、捲縮および/または延伸といった技術が含まれ、その際、延伸が好ましい。こうした技術を組み合わせて適用することもできる。特に、繊維を最初に延伸させ、次いでエンボス加工を施しかつ/または捲縮させることができる。エンボス加工、捲縮または延伸の方法は従来のものであり、例えば米国特許第3956450号明細書(US 3956450)、国際公開第2007/036058号(WO 2007/036058 A1)または独国特許出願公開第2927238号明細書(DE 2927238 A1)に開示されている。
【0074】
ポリオレフィン繊維のエンボス加工および/または捲縮により、この繊維の構造化表面が得られる。必要に応じてポリオレフィン繊維を延伸させた後に行われるこの繊維の表面の構造化は、押し出された繊維を、長手軸の周囲に必要に応じて高温で機械的な力を加えて捲縮させることによって行うことができる。捲縮に適した装置は、Techno Plastic Srlにより製造される。
【0075】
この、必要に応じて繊維を延伸させた後に行われる表面の構造化を、繊維の機械的なエンボス加工によって行うことが好ましい。ポリオレフィン繊維のエンボス加工に適した装置は、例えばテクスチャロールを備えたカレンダーまたは歯車式捲縮装置である。
【0076】
矩形の断面を有する繊維を、広い方の面において、すなわちその幅がDmaxによって定められる面において、構造化することが好ましい。前述の繊維の表面を、前述の面の双方において構造化することもできるし、前述の面の一方において構造化することもできる。繊維を、その全長にわたって構造化することもできるし、その一部にわたって構造化することもできる。
【0077】
エンボス加工による繊維の機械的成形およびこの処理により生成された構造体の特性を、繊維の長さ(fl)、エンボスの高さ(he)、エンボス単位の長さ(h)、エンボスの深さ(pe)、2つの対向面の間でのエンボスのずれ(se)、エンボスと繊維の長手軸との間の角度(α)、繊維の2つの対向面におけるエンボス間の角度(β)といったパラメータによって表すことができる(図5A−5B−5Cおよび図6A−6B−6C参照)。図5Cおよび図6C(灰色部分)に示すように、繊維の公称断面積(s)は、長手軸に対して垂直なコア繊維部分の面積として定義される。エンボス比(ER)は、hに対するheの比率として定義される。図5Aは、長手軸に対する垂線に対して角度αだけ傾斜したエンボスを有する繊維の実施形態の平面図を示す。この繊維の底面において、エンボスは上面におけるエンボスに対して平行である。図6Aは、底面におけるエンボスが上面におけるエンボスに対して角度βだけ傾斜している繊維の実施形態の平面図である。
【0078】
本発明の繊維において、flの値は総じて10mm〜60mmの範囲にあり、好ましくは40mm〜55mmの範囲にある。好ましくは、矩形の繊維(場合により角が丸いもの)のDmaxの値は0.5mm〜3mmの範囲にあり、より好ましくは0.8mm〜1.5mmの範囲にある。総じて、矩形の繊維(場合により角が丸いもの)のDminの値は0.2mm〜1mmの範囲にあり、好ましくは0.4mm〜0.8mmの範囲にある。好ましくは、長円形あるいは楕円形の繊維のDmaxの値は0.5mm〜3mmの範囲にあり、より好ましくは0.8mm〜1.5mmの範囲にある。総じて、長円形あるいは楕円形の繊維のDminの値は0.2mm〜1mmの範囲にあり、好ましくは0.4mm〜0.8mmの範囲にある。好ましくは、円形の繊維のDmaxの値およびDminの値はそれぞれ0.2mm〜1mmの範囲にあり、より好ましくは0.4mm〜0.8mmの範囲にある。好ましくは、heの値は0.4mm〜2.3mmの範囲にあり、より好ましくは0.8mm〜1.5mmの範囲にある。総じて、hの値は0.8mm〜3mmの範囲にあり、好ましくは1.6mm〜2mmの範囲にある。好ましくは、peの値は0.03mm〜0.12mmの範囲にあり、より好ましくは0.04mm〜0.1mmの範囲にある。総じて、seの値は0mm〜hの値(エンボス単位の特性を表す値)の範囲にある。好ましくは、αの値は0°〜60°の範囲にあり、より好ましくは40°〜50°の範囲にある。βの値は、0°から2αの範囲にある。総じて、ERの値は0.4〜0.85の範囲にあり、好ましくは0.5〜0.8の範囲にある。
【0079】
機械的成形を、パターン形成された2つのロールを使用してフィラメントをカレンダー加工することにより行うことができる。図7Aは、カレンダー加工プロセスおよび該プロセスを行うための装置の例示的な概略図である。このタイプの装置は一般に、包装用のプラスチックストラップバンドの製造に用いられている(適切な装置は、例えばTechno Plastic Srlより市販されている)。エンボス未加工の連続フィラメント(a)がエンボス加工機(c)を通過し、そこで2つのロール(d、e)によって成形フィラメント(b)が生成される。これらのロール間の間隔を、マイクロメータねじ(f、g)によって正確に設定する。室温よりも高い温度でフィラメントにエンボス加工を施すためには、例えば電気オーブンや赤外線灯といった加熱装置をエンボス加工機の前に設置して、フィラメントがエンボス加工機に入る前にこうした加熱装置を通過させる。図7Bは、ロール(c、d)を若干詳細に示したものである。これらのロール(c、d)は、同一の角速度(ω)で回転してフィラメント(a、b)上にエンボスを生成させる。これらのロールの表面上には、山部(e)と谷部(f)とから構成されるパターンが存在する。これらのロールおよび表面上のパターンは、例えば、外径(R1)、凸部の高さ(h)、2つの山部の間の角距離(α)、山部の長さ(g)、ロールの回転軸の間の距離(D)および位相のずれ(φ)といったパラメータによって規定される。図7Cは、回転軸に対して角度βだけ傾斜した山部(b)と谷部(c)との配列から構成されるパターン化表面を有するロール(a)の平面図である。
【0080】
プラズマ処理
ポリオレフィン繊維と電気的に励起可能なガスとの接触(ステップa)と、ガス状のシロキサンまたはシラザン化合物の存在下での該ポリオレフィン繊維のプラズマ処理とを、プラズマ反応に適した従来の装置内で、例えばプラズマ反応器内で行う。
【0081】
総じて、エネルギーを、電気エネルギーとして、特にDC電圧もしくは異なる周波数のAC電圧による電気エネルギーとして、放射線エネルギーとして、特にマイクロ波もしくは電波により導入される放射線エネルギーとして、電磁エネルギーとして、または熱エネルギーとして、プラズマ反応器に導入することができる。プラズマの生成に十分なエネルギーは、プラズマ反応器の特性や使用される励起可能なガスに依存し、当業者はこれを容易に決定することができる。マイクロ波、電波またはAC電圧もしくはDC電圧によりプラズマ反応器にエネルギーを導入することが好ましい。
【0082】
プラズマ処理には、大気圧下で生成されたプラズマを使用することもできるし、減圧下で生成された真空プラズマを使用することもできる。真空プラズマの使用が好ましい。ポリオレフィン繊維の真空プラズマ処理に適した圧力は、0.05Paよりも高く、例えば0.1Pa〜100Paであり、例えば約1Paである。
【0083】
電気的に励起可能なガスを用いたステップa)によるポリオレフィン繊維のプラズマ処理に適した条件は、次の通りである:好ましくは、電気的に励起可能なガスは、アルゴン、酸素、窒素、空気、アンモニア、二酸化炭素、水またはそれらの混合物から選択される。酸素または空気の使用が特に好ましい。電気的に励起可能なガスは、例えば10sccm〜10000sccm、好ましくは20sccm〜1000sccm、特に50sccm〜200sccmのガス流量でプラズマ反応器に導入される。印加される電力は、10W〜30kWで可変であり、好ましくは50W〜500Wで可変である。電源としては、例えば13.56MHzの周波数を生じる高周波発生器が好ましい。ステップa)の時間範囲としては、1秒間〜1分間が好ましく、特に1秒間〜10秒間が好ましく、例えば約5秒間が特に好ましい。
【0084】
使用される励起可能なガスに応じて、ポリオレフィン繊維の表面に様々な極性基を導入することができ、好ましくは、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミド基、イミド基および/またはニトリル基を導入することができる。特に、電気的に励起可能なガスとして酸素、水または空気を使用してヒドロキシル基を生成させることが好ましい。
【0085】
ステップb)によるプラズマ処理に適した条件は、次の通りである:ガス状のシロキサンまたはシラザン化合物をプラズマ反応器に導入し、ステップa)の後に得られたポリオレフィン繊維とプラズマ条件下で接触させる。このために、電気的に励起可能なガスとガス状のシロキサンまたはシラザン化合物とを、反応器への導入前に混合してもよいし、これらを独立して反応器に導入してもよい。好ましくは、これらの双方のガス流を、独立して、同時にまたは前後して導入する。電気的に励起可能なガスを、例えば10sccm〜10000sccm、好ましくは20sccm〜1000sccm、特に50sccm〜200sccmのガス流量でプラズマ反応器に導入する。ガス状のシロキサンまたはシラザン化合物を、例えば1sccm〜500sccm、好ましくは1sccm〜100sccm、特に1sccm〜10sccmのガス流量でプラズマ反応器に導入する。反応器に導入されるこれら双方のガスの比は、1/1〜1/20(シロキサンまたはシラザン化合物/電気的に励起可能なガス)で可変であり、好ましくは1/5〜1/15で可変であり、特にこの比は約1/10である。ステップb)の時間範囲としては、1秒間〜30分間が好ましく、特に1秒間〜1分間が好ましく、例えば約30秒間が特に好ましい。印加される電力は、電源に応じて10W〜30kWで可変であり、好ましくは50W〜500Wで可変である。
【0086】
総じて、ステップb)の際のガス流量は、ステップa)によるプラズマ処理の際のガス流量よりも多く、例えば1.1倍〜5倍である。さらに、プラズマ処理の際に印加される電力についても、ステップb)による処理はステップa)によるプラズマ処理よりも高く、例えば1.1倍〜5倍である。
【0087】
ガス状のシロキサンまたはシラザン化合物は、直鎖状もしくは環状のモノアルキル化もしくはポリアルキル化シロキサン、もしくは直鎖状もしくは環状のモノアルキル化もしくはポリアルキル化シラザン、またはそれらの混合物から選択されることができる。好ましくは、ガス状のシロキサンまたはシラザン化合物は、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、ドデカメチルペンタシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、テトラエトキシシラン、テトラメチルジシロキサン、ジメチルジメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、トリエトキシフェニルシロキサンまたはそれらの混合物からなる群から選択される。特に、ステップ(b)ではヘキサメチルジシロキサンが使用される。
【0088】
ステップb)によるポリオレフィン繊維の処理によって、好ましくはポリオレフィン表面上にシリカが堆積する。特に、適切なシロキサンまたはシラザン化合物がプラズマ条件下(これには特に、励起可能な酸素含有ガス、例えば酸素、水または空気が含まれる)で転化され、その際に特にアルキル基またはメチレン基が酸化され(例えばCOおよび水が生成し)、そしてステップa)によるプラズマ処理によって導入された極性基との反応によって、このポリオレフィン繊維の表面上にシロキサンまたはシラザンの酸化生成物が残る。(この仮説に拘束されることを望むものではないが)この結果、このポリオレフィン繊維表面とシリカコーティングとの間の共有結合によってこのポリオレフィン繊維のシリカコーティングが生じるものと想定される。
【0089】
無機結合材組成物
本発明はさらに、特に水硬性の無機結合材組成物における補強材としての表面変性ポリオレフィン繊維の使用に関し、これによって、極めて強度が高いにもかかわらず軽量である材料が提供される。本発明により、例えばポリプロピレンのような高分子繊維質材料を使用した場合に認められる結合性の制限が克服される。結合特性が向上した結果、本発明の表面変性ポリオレフィン繊維を含む結合材組成物によって、総じて、同等の未処理のポリオレフィン繊維を用いて製造された組成物よりも30%〜40%高い残留引張強度が生じる。
【0090】
前述の結合材組成物は、セメント、セッコウ、硬セッコウ、スラグ、好ましくは高炉水砕スラグ、フライアッシュ、シリカ微粉末、メタカオリン、天然ポゾラン、焼成オイルシェール、スルホアルミン酸カルシウムセメントおよび/またはアルミン酸カルシウムセメントを含むことができる。セメント、硬セッコウ、スラグ、好ましくは高炉水砕スラグ、フライアッシュ、シリカ微粉末、天然ポゾラン、スルホアルミン酸カルシウムセメントおよび/またはアルミン酸カルシウムセメントを含む結合材組成物が好ましい。
【0091】
水硬性結合材組成物としてさらに好ましいのは、セメントを含むセメント質組成物である。
【0092】
セメントは無機水硬性結合材であり、例えば欧州規格EN 197や主に米国で用いられているASTM C150といった様々な国際規格や分類体系によって規定される。いずれの種類のセメントを使用することもできる。
【0093】
本明細書においては、非水硬性結合材としてのセッコウには、考えられるあらゆる硫酸カルシウム担体が様々な量の結晶水分子と共に含まれ、これには例えば、硫酸カルシウムの半水和物、二水和物、一水和物または無水物(それらのあらゆる含水物相または無水物相および多形体を含む)も含まれる。
【0094】
結合材組成物、好ましくはセメントベースの懸濁液は、建設材料の分野で典型的に使用されるあらゆる配合成分、消泡剤、空気連行剤、凝結遅延剤、収縮低減剤、再分散性粉末、硬化促進剤、凍結防止剤、可塑剤、超可塑剤、腐食防止剤および/または抗風解剤またはそれらの混合物をも含むことができる。
【0095】
表面変性ポリオレフィン繊維は、結合材組成物中に、好ましくは該結合材組成物の全体積の0.1%〜10%の量で、より好ましくは0.1%〜5%の量で、特に約0.5%の量で含まれる。水硬性結合材組成物における使用に適した繊維の長さは、総じて100mm未満であり、好ましい長さは10mm〜60mmの範囲にあり、特に約40mmである。
【0096】
上述の表面変性ポリオレフィン繊維を含む構造補強がなされた無機結合材組成物は本発明の利点の一つであり、この繊維によって、機械的安定性の増大と、柔軟性および延性の改善および増大と、を併せ持つことが可能となる。本発明の繊維を利用することで、水硬性結合材組成物の凝結後に得られる緻密な構造体の柔軟性および延性を改善あるいは増大させることができるだけでなく、さらに、例えば発泡セッコウボードにおける多孔質の構造または粒子に改善された機械的特性を付与することもできる。本発明のポリオレフィン繊維を含む組成物、材料または構造体は、「繊維補強」組成物、「繊維補強」材料または「繊維補強」構造体であるとも理解されることができる。
【0097】
本発明の他の態様は、表面変性ポリオレフィン繊維を水硬性結合材組成物に組み込むステップと、該水硬性結合材組成物を硬化させるステップと、を含む、無機結合材組成物の補強方法である。
【0098】
無機結合材組成物への表面変性ポリオレフィン繊維の組み込みとは、該繊維と、前述の結合材組成物の他のすべての成分とを、適切な容器内で混合することを意味する。これらの成分を、任意の順序で混合することができる。
【0099】
以下の例は本発明の説明を目的としたものであって、本発明を限定するものではない。
【0100】
ポリオレフィン繊維の表面変性
以下の例で使用するポリオレフィン繊維の製造を、溶融押出、配向、機械的成形および切断によって行った。Isplen PP 020 G3Eなる名称のポリプロピレンホモポリマー(Repsol社製)を、240℃の温度に設定した単軸押出機内で溶融させ、次いで矩形のダイを通じて押し出した。この押出物を冷却し、15℃の一定温度に保持した水浴中に浸漬させて固化させ、次いで異なる速度で回転するロールを用いて延伸させて所望の延伸比とすることで、最終的な引張強度を高めた。この延伸プロセスを、2つの異なる延伸段階により行った。第1の延伸段階では、150℃の温度に設定した電気オーブンを通過させたフィラメントを、延伸比9で延伸させた。第2の延伸段階では、230℃の温度に設定した電気オーブンを通過させたフィラメントを、延伸比1.7で延伸させた。したがって、これら2つの延伸プロセスの全延伸比は15.3であった。これらの延伸段階の後に、このフィラメントを2つの回転ロールを備えたエンボス加工機に案内し、このエンボス加工機においてこのフィラメントの表面を室温で成形した。これらの2つのロールは、以下のパラメータにより規定されるものであった:外径(図7B−R1)は66.6mmであり、凸部の高さ(図7B−h)は0.2mmであり、2つの山部の間の角距離(図7B−α)は3°であり、山部の長さ(図7B−g)は0.90mmであり、これらのロールの回転軸の間の間隔(図7B−D)は133.7mmであり、位相のずれ(図7B−φ)は0.5°であり、軸パターンは回転軸に対して45°の角度(図7C−β)だけ傾斜していた。これらのロールによって、図6A図6Bおよび図6Cに示したようなエンボスパターンを生成した。このエンボス加工後にこのフィラメントを切断機に案内し、この切断機においてこのフィラメントを切断して長さ52mmの繊維とした。得られた繊維は、EN 14889−2規格により測定した場合に約500MPaの引張強度を有していた。この繊維の幾何学的形状を規定するパラメータの値を、EN 14889−2規格により光学顕微鏡で測定した。繊維の幅(図6A−Dmax)は1.22mmであり、繊維の厚さ(図6B−Dmin)は0.55mmであり、エンボスの高さ(図6B−he)は0.90mmであり、エンボス単位の長さ(図6B−h)は1.74mmであり、エンボスの深さ(図6C−pe)は0.04mmであり、ずれ(図6B−se)は0.30mmであり、角度(図6A−α)は45°であり、角度(図6A−β)は90°であった。エンボス比(ER)の値は0.52であった。
【0101】
例1
上記のようにして得られたポリプロピレン繊維を、室温で超音波浴中のイソプロピルアルコール中で15分間洗浄した。その後、この繊維を室温で窒素気流中で60分間乾燥させた。この洗浄して乾燥させたポリプロピレン繊維(50g)をプラズマ反応器(Thin Films srl社製バレルコーター)に充填し、このプラズマ反応器を真空引きして5×10−3ミリバールの圧力とした。第1のステップで、このポリプロピレン繊維を以下の条件下で酸素流で処理した:
酸素流量:20sccm
RF電力:50W
処理時間:30分間
回転速度:20rpm
周波数:13.56MHz。
【0102】
第2の処理ステップで、RF電力を100Wに上げ、酸素流量が35sccmとなるように調整し、そしてこのポリプロピレン繊維の入ったプラズマ反応器に付加的な流量(3.5sccm)のヘキサメチルジシロキサンを導入した。この第2の処理ステップのさらなるプロセスパラメータは、以下の通りであった:
処理時間:30分間
回転速度:20rpm
周波数:13.56MHz。
【0103】
例2(比較例)
上記の通りに得られたポリプロピレン繊維を、例1に記載した通りに洗浄し、乾燥させた。この洗浄して乾燥させたポリプロピレン繊維(50g)を、例1で使用したプラズマ反応器に充填し、次いで真空引きして5×10−3ミリバールの圧力とした。このポリプロピレン繊維を以下の条件下で酸素流で処理した:
酸素流量:20sccm
RF電力:50W
処理時間:30分間
回転速度:20rpm
周波数:13.56MHz。
【0104】
例3(比較例)
上記のようにして得られたポリプロピレン繊維を、例1に記載した通りに洗浄し、乾燥させた。この洗浄して乾燥させたポリプロピレン繊維(50g)を、例1で使用したプラズマ反応器に充填し、そして真空引きして5×10−3ミリバールの圧力とした。このポリプロピレン繊維を以下の条件下で処理した:
酸素流量:35sccm
ヘキサメチルジシロキサン流量:3.5sccm
RF電力:50W
処理時間:30分間
回転速度:20rpm
周波数:13.56MHz。
【0105】
単繊維引抜き試験
例1〜3の3つのプラズマ処理済みポリプロピレン繊維と、未処理のポリプロピレン繊維とを、単繊維引抜き試験で試験した。この目的のために、以下の成分を各当量で含むモルタル組成物を混合により調製した:
CEM I 52.5 R Cementerie Monselice 1.0当量
CEN− Normsand DIN 196 3.0当量
Cremaschi石灰石フィラー 0.2当量
Master Glenium(登録商標)SKY 623 (セメント質量に対して)1.2%
MasterMATRIX(登録商標)150 (セメント質量に対して)0.9%
水 0.5当量。
【0106】
前述のモルタル組成物をプラスチックキューブ(7cm)内に充填し、例1〜3または未処理のポリプロピレン繊維試料の各々の単繊維を15mmの長さで埋め込んだ。この手法により、各繊維試料(例1、2、3、未処理)の10個の供試体を空調室(温度=21±1℃、相対湿度95%超)内で打ち込んで28日間硬化させた。これらの供試体の各々を電気機械式Instron 3344試験機に固定し、一定の変位速度で引抜き試験を行った。クロスヘッド変位と印加荷重とのデータを収集し、図1にまとめた。
【0107】
例2および例3の繊維は未処理繊維と同様の挙動を示し、何の改善も検出されなかった。それとは対照的に、例1の繊維の最大荷重は、未処理の最大荷重および例2の最大荷重および例3の最大荷重よりも約40%高かった。
【0108】
残留引張強度評価
例1〜3の表面変性ポリプロピレン繊維または未処理のポリプロピレン繊維のうちの1つを含む異なるコンクリート組成物の残留引張強度を比較した。この測定に用いたコンクリート組成物のベースは、表1に記載のモルタル混合物であった:
表1:モルタル混合物1および2
【表1】
【0109】
例1〜3の表面変性ポリプロピレン繊維または未処理のポリプロピレン繊維を、得られる組成物の全体積に対してそれぞれ0.5%の量で、表1の混合物に導入した。
【0110】
これらの原料を最大負荷量50リットルのプラネタリーミキサー内で混合することにより、コンクリート組成物を調製した。乾燥材料(繊維を含む)を30秒間混合し、水の全量の50%を導入した。次いで、セメントと、水の残分と、超可塑剤MasterGlenium(登録商標)SKY 623とを一緒に添加し、得られた組成物を1分間混合した。
【0111】
それぞれのコンクリート組成物から、寸法15cm×15cm×60cmの9つの角柱体を作製した。これらの供試体を24時間後に脱型し、空調室(T=21±1℃、相対湿度95%超)内で28日間硬化させた。これらの供試体を準備し、三点曲げ試験(EN 14651)により試験した。これらの角柱体に鋸で部分的に切り込みを入れてこれらの供試体の中央に12.5mmのノッチを付けることで、ひび割れが確実に局所的に生じるようにした。変位トランスデューサを設置してひび割れ肩口開口変位を制御し、印加荷重をモニタリングした。
【0112】
異なるモルタル組成物の特性決定にとって重要となるパラメータは、初ひび割れの発生に基づく比例限界強度(LOP)と、fRnと称される4つの異なる残留引張強度指数である。これらの値は、異なるひび割れ肩口開口変位(CMOD)で測定された応力を指す:
− fR1は、CMOD 0.5mmでの荷重であり、
− fR2は、CMOD 1.5mmでの荷重であり、
− fR3は、CMOD 2.5mmでの荷重であり、
− fR4は、CMOD 3.5mmでの荷重である。
【0113】
表2および3に、異なる方法で処理したポリオレフィン繊維または未処理のポリオレフィン繊維を含む2種類のモルタル混合物の結果をまとめた:
表2:コンクリート混合物1における残留引張強度の改善
【表2】
【0114】
表3:コンクリート混合物2における残留引張強度の改善
【表3】
【0115】
例1の繊維を含む場合に、混合物1および2のいずれも、より高い引張強度の値を示す。例2の繊維も、例3の繊維も、未処理のポリオレフィン繊維も、残留引張強度の改善を全く示さない。
【0116】
さらに明確にするために、図2および図3を参照されたい。これらの図は、未処理の繊維を含む混合物1の連続的なひび割れ開口下での残留引張強度の推移と、例1の繊維を含む混合物1の連続的なひび割れ開口下での残留引張強度の推移とを示し(図2)、さらに、未処理の繊維を含む混合物2の連続的なひび割れ開口下での残留引張強度の推移と、例1の繊維を含む混合物2の連続的なひび割れ開口下での残留引張強度の推移とを示す(図3)。
【0117】
モルタル混合物1および2に繊維を添加してもフレッシュコンクリートの特性に影響が生じないことを示すために、(EN 12350−2による)スランプ試験および(EN 12350−7による)空気量の測定を行った。比較のために、以下の表4および表5を参照されたい。
【0118】
表4:混合物1についてのスランプ試験および空気量測定の結果
【表4】
【0119】
表5:混合物2についてのスランプ試験および空気量測定の結果
【表5】
【0120】
曲げ靭性の測定
コンクリート組成物の曲げ靭性をASTM C 1550により測定するため、表6の成分を含むコンクリート混合物3を用いた:
表6:混合物3の成分
【表6】
【0121】
混合物3の原料を最大負荷量150リットルのミキサー内で混合することにより、コンクリート組成物を調製した。乾燥材料および繊維(未処理のポリオレフィン繊維または例1の繊維)をこのコンクリート組成物の全体積に対して0.55%の量で60秒間混合し、水の全量の50%を導入した。次いで、セメントと、水の残分と、超可塑剤MasterGlenium(登録商標)7500とを一緒に添加し、得られた組成物を1分間混合した。
【0122】
これらのコンクリート組成物の(ASTM C 134による)スランプ試験および(ASTM C 231による)空気量の測定においても、a)未処理の繊維を含む混合物3も、b)例1の繊維を含む混合物3も、フレッシュコンクリート組成物の特性が損なわれないことが示された。
【0123】
これら双方のコンクリート組成物を打ち込んで、直径800mmおよび70mmの4枚の円形パネルを作製した。これらの供試体を24時間後に脱型し、空調室(T=21±1℃、相対湿度95%超)内で28日間硬化させた。これらの供試体を準備し、ASTM C 1550による円形パネル試験により試験した。この試験方法には繊維補強コンクリート組成物の曲げ靭性の測定が含まれ、これはひび割れ後の範囲におけるエネルギー吸収として表される。したがって、対称的に配置された3つのピボット上に支持させて中心点に荷重をかけた円形パネルを使用した。この方法により試験した供試体の性能を、負荷開始から中央でのたわみの選択値に達するまでの間に吸収されたエネルギーに関して定量化した。
【0124】
図4は、コンクリート組成物a)およびb)の連続的なたわみ下での平均曲げ靭性の推移を示す。
【0125】
組成物b)の曲線下面積は、組成物a)について得られた曲線下面積よりも大きい。特に、コンクリート組成物b)のエネルギー吸収は、コンクリート組成物a)と比較して約13%改善されている。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8