(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6632906
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】誘引紐
(51)【国際特許分類】
A01G 9/12 20060101AFI20200109BHJP
【FI】
A01G9/12 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-26446(P2016-26446)
(22)【出願日】2016年2月16日
(65)【公開番号】特開2017-143757(P2017-143757A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2018年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 晃宏
(72)【発明者】
【氏名】大田 剛志
【審査官】
竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−213305(JP,A)
【文献】
特開2008−211996(JP,A)
【文献】
特開2011−078402(JP,A)
【文献】
特開2005−211056(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0036005(US,A1)
【文献】
特開2014−090699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/12
A01G 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
つる植物の育成に用いられる誘引紐であって、芯材としての高強力繊維を用い、前記芯材の周りを合成繊維で被覆してなり、
前記芯材に、吸水性繊維が含まれており、
前記合成繊維が、吸水性を有する
誘引紐。
【請求項2】
前記高強力繊維が炭素繊維を含むことを特徴とする請求項1に記載の誘引紐。
【請求項3】
前記合成繊維を組紐状にすることで前記芯材を前記合成繊維で被覆している請求項1または2に記載の誘引紐。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、つる植物に用いられる誘引紐に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キュウリ、エンドウマメ、ゴーヤ等の野菜類やアサガオなどの花類、蔦などの観葉植物などのつる植物を誘引するための誘引紐として、麻縄やステンレス製などの紐が知られている。
特に、近年、都市のヒートアイランド現象や地球の温暖化などの要因により、住宅やビルなどにおいて、つる性植物を用いた緑のカーテンを設置するところが増えてきている。
この場合、麻などの天然繊維や合成樹脂テープを用いた紐を用いているが、ビルなどの大型施設などでは、誘引紐の長さが長いため、誘引紐の自重や植物の質量さらに風による張力などに対する引張強度が必要となり、ステンレスなどの鋼材を用いた誘引紐が用いられるようになってきている。
また、鋼線と炭素繊維などの親水性を有する繊維とを組み合わせることにより、より植物の育成に適した誘引紐も知られている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−90699
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、鋼材や黒色の炭素繊維を用いた誘引紐は、日中、太陽光にさらされると、誘引紐が加熱され、高温となり、植物が弱ってしまい、つる植物が十分に育成しないといった問題を有していた。
そこで、本発明は、十分な強度を有していながら、日中、太陽光にさらされても誘引紐の温度上昇を抑制し、つる植物の育成に適した誘引紐を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、本発明をするに至った。
すなわち、本発明は、以下の構成[1]〜[5]を有している。
[1] 本発明の誘引紐は、つる植物の育成に用いられる誘引紐であって、芯材としての高強力繊維を用い、前記芯材の周りを合成繊維で被覆してなる。
本実施の形態の構成することにより、高強力繊維を芯材に用いているため、誘引紐の強度を向上させ、特に長い誘引紐が必要とされる、例えば、ビルなどのグリーンカーテン用の誘引紐として用いることができ、建物の壁面緑化材に用いることができる。
また、合成繊維で高強力繊維を被覆することにより、任意の色に着色することができ、建物など誘引紐を用いる場所に応じ着色し、意匠性を高めることができる。
また、誘引紐として、炭素繊維を用いた場合には、炭素繊維は一般に黒色であり、太陽光や路面からの熱エネルギーを吸収し炭素繊維の温度が上昇し、つる植物が炭素繊維の熱により弱るおそれがあるが、合成繊維で被覆していることにより、炭素繊維の温度を上昇を抑制することができる。
【0006】
[2]前記合成繊維が吸水性を有することを特徴とする前記[1]に記載の誘引紐。
合成繊維が吸水性を有していることにより、合成繊維に含まれる水の気化により、誘引紐の表面温度の上昇を抑制し、つる植物の育成の観点より好ましい。また、さらに、合成繊維に含まれる水分を植物が吸収することができ、つる植物の育成の観点より好ましい。
【0007】
[3]前記芯材に吸水性繊維が含まれていることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の誘引紐。
芯材として、吸水性繊維を含むことにより、誘引紐中に含まれる水の量が増加するため、長期にわたり、誘引紐の温度上昇を抑制することができる。また、長期にわたりつる植物に水分を供給することができる。
誘引紐の表面を構成する合成繊維を吸水性を有するものとした場合には、芯材に含まれる吸水性繊維が保有する水分を、誘引紐の表面を構成する合成繊維に供給し、誘引紐の表面温度の上昇の抑制でき、また、つる植物に水分を供給することができるため好ましい。
【0008】
また、誘引紐の表面を構成する合成繊維を疎水性とした場合には、芯材に含まれる吸水性繊維の水分が誘引紐の表面を構成する合成繊維に移行することを抑制し、芯材中の水の減少を抑制することができる。したがって、つる植物が表層を形成する合成繊維の隙間を通り芯材まで根を伸長させ、長期に亘り、芯材の吸水性繊維から水の供給をうけることができ好ましい。また、誘引紐の表面を構成する合成繊維を吸水性を有するものとしたものに比べ温度上昇抑制の効果はやや低下することがあるが、より長期に亘り誘引紐の温度上昇を抑制することができる。
【0009】
[4] 前記高強力繊維が炭素繊維を含むことを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の誘引紐。
高強力繊維が炭素繊維を含むことにより、引張強度に優れ、さびや腐食などを防ぐとともに、炭素繊維は熱伝導性に優れているため、炭素繊維を覆った合成繊維及び/又は吸水性繊維などの他の芯材の熱を素早く吸収し、拡散させ、誘引紐の温度上昇を抑制することができ、植物の育成に好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の誘引紐は、上記の構成を有していることにより、強度に優れ、かつ、誘引紐の温度上昇を抑制し、つる植物の育成に優れている。本発明の誘引紐を用いれば、つる植物による緑のカーテンをえることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る誘引紐の形状を模式的に示す側面図である。
【
図2】本発明の他の実施の形態に係る誘引紐の形状を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの態様のみに限定されるものではなく、本発明の精神と実施の範囲において多くの変形が可能であることを理解されたい。なお、本発明において繊維とは繊維を束ねた糸状物などの繊維束も含むものである。
【0013】
本発明の誘引紐は、つる植物の育成に用いられる誘引紐であって、芯材としての高強力繊維を用い、前記芯材の周りを合成繊維で被覆してなるものである。
【0014】
(芯材)
本実施の形態の芯材は、高強力繊維を含むものである。高強力繊維としては、炭素繊維、バサルト繊維、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド戦に、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維、ポリイミド繊維、フッ素繊維、ポリビニルアルコール(PVA)繊維、ポリアセタール繊維などが使用される。これの高強力繊維を用いることにより、引張強度に優れ、また、鉄等に比べ軽量でありかつ耐錆性に優れ、麻などの天然繊維に比べ腐食性に優れる。
誘引紐の温度の上昇を抑制するとの観点からは、熱伝導性に優れる炭素繊維が好ましい。
【0015】
また、芯材には吸水性繊維が含まれていると好ましい。芯材に吸水性繊維が含まれていることにより、誘引紐の保水量が増加し、長期にわたり、誘引紐の温度上昇を抑制することができる。また、長期にわたりつる植物に水分を供給することができる。
より具体的には、後に説明を行う誘引紐の表面を構成する合成繊維を吸水性を有するものとした場合には、芯材に含まれる吸水性繊維が保有する水分を、誘引紐の表面を構成する合成繊維に供給し、誘引紐の表面温度の上昇を長期に抑制をでき、また、つる植物に水分を供給することができるため好ましい。
また、誘引紐の表面を構成する合成繊維を疎水性とした場合には、芯材に含まれる吸水性繊維の水分が誘引紐の表面を構成する合成繊維に移行することを抑制し、芯材中の水の減少を抑制することができる。したがって、つる植物が表層を形成する合成繊維の隙間を通り芯材まで根を伸長させ、長期に亘り、芯材の吸水性繊維から水の供給をうけることができ好ましい。また、誘引紐の表面を構成する合成繊維を吸水性を有するものとしたものに比べ、太陽光、路面などからの熱線に対する温度上昇抑制の効果はやや低下することがあるが、誘導紐の芯部から温度上昇を抑制し、より長期に亘り誘引紐の温度上昇を抑制することができる。
【0016】
吸水性繊維としては、綿、麻などの天然繊維、レーヨンなどの再生繊維をはじめ、吸水性を有する合成繊維であってもよく、例えば、ポリエステル繊維に吸水性ポリエスエル樹脂等の吸水性樹脂を付与したもの、また、親水性のモノマーを繊維表面で重合させたもの、親水性ポリエステル樹脂を紡糸したものなども挙げることができる。また、ポリエステル繊維を中空化し、毛細管現象で吸水性を付与したものであってもよい。
また、芯材には、本発明の所期の目的を逸脱しない範囲で、水分の移行性や保水性の向上の観点より、他の疎水性の繊維なども併用してもよい。
【0017】
高強力繊維と吸水性繊維など他の繊維材料を併用する場合には、高強力繊維の繊維軸方向と吸水性繊維の軸方向に平行な状態でランダムに複合してもよいし、高強力繊維の周りを吸水性繊維などで覆うように配置してもよい。また、高強力繊維の周りを吸水性繊維などでスパイラル上に巻き付け覆ってもよいし、高強力繊維の周りに吸水性繊維などを組んで、吸水性繊維などからなる組紐の内部に高強力繊維を配置するようにしてもよい。
【0018】
(合成繊維)
本実施の形態の芯材の周りの被覆に用いられる合成繊維は、誘引紐の表面を構成するものである。本実施の形態の合成繊維としては、ポリエステル、ナイロン、ポリアクリル、ポリプロピレン、塩化ビニル、アラミド、ポリアミド、ポリアセタール等の合成繊維などが挙げられる。
合成繊維であれば、金属製の誘引紐に比べ誘引紐の表面が高温に成り難く、天然繊維に比べ耐候性に優れる。また、吸水性や難燃性など任意の性能を容易に付与することができるため好ましく、特にポリエステル繊維が好ましい。また、合成繊維であれば、着色も容易であり、誘引紐を用いる建物の壁面や周囲の環境を考慮し、任意の色に着色でき、意匠性に優れる。着色の耐光性の観点からもポリエステル繊維が好ましい。
【0019】
また、合成繊維は、吸水性を有するものであっても、疎水性を有するものであってもよいが、吸水性を有する合成繊維が好ましい。吸水性を有する合成繊維であれば、太陽光などの熱線により誘引紐が加熱された場合、合成繊維に含まれる水の潜熱により、誘引紐の温度上昇、特に表面の温度上昇を抑制し、つる植物の熱によるダメージを抑制するとの観点から好ましい。また、つる植物に誘引紐の表面から水分を供給することができる。
また、雨などが降った場合、その雨を吸収し、芯材、特に芯材の吸水性繊維に水を供給することができるとの観点からも好ましい。
【0020】
吸水性を有する合成繊維は、合成繊維に吸水性ポリエスエル等の吸水性樹脂を付与したもの、また、親水性のモノマーを繊維表面で重合させたものなども挙げることができる。また、親水性樹脂を紡糸したものも挙げることができる。また、合成繊維を中空化し、毛細管現象により吸水性を付与したものであってもよい。
【0021】
また、本実施の形態の誘引紐は、白色または淡色であると好ましい。白または淡色であると太陽光などの熱線を反射し、誘引紐の温度上昇を抑制することができる。淡色の色は特に限定されるものではなく、ピンク、水色、緑色、グレーなど任意の色の淡色であればよい。
また、用いるつる植物の葉や茎や花の色に合わせた緑色、黄色、赤色等に着色しても意匠性の観点より好ましく、特に、緑色に着色したものが好ましい。
【0022】
次に、図を用いて本発明をさらに詳細に説明を行う。
図1は、本発明の一実施の形態に係る誘引紐の形状を模式的に示す側面図である。
本実施の形態の誘引紐1は、芯材の高強力繊維として炭素繊維を用い、合成繊維2として緑色の吸水性を有するポリエステル繊維を用い芯材の周りを被覆し、誘引紐の表面を形成している。
また、芯材(図示せず)として、炭素繊維に吸水性繊維を併用しており、前記吸水性繊維として綿(綿糸)を用いたものである。綿は、炭素繊維の繊維軸方向と平行に配置されている。
【0023】
前記芯線を芯とし、その周りに、吸水性を有するポリエステル繊維を丸打し組紐にすることで、綿及び炭素繊維からなる芯材を被覆している。
なお、ポリエステル繊維2による芯材の被覆の形状は組紐に限定されるものではなく、
図2に示すように、芯材の周りにポリエステル繊維2をらせん状に巻き回すことにより被覆してもよく特に限定されるものではない。
誘引紐の保管や設置作業中に、被覆された炭素繊維や綿繊維が飛び出したり、むき出しになったりすることを防ぐとの観点からは、ポリエステル繊維2を組紐状にすることで、芯材を被覆すると好ましい。
【0024】
また、炭素繊維の周りに、綿を炭素繊維束の繊維軸方向と平行に配置したが、綿を炭素繊維の周りに組んで組紐の形状とし被覆したり、巻き回してらせん状に被覆したり、これらを組み合わせたりしてもよく、特に限定されるものではない。
また、炭素繊維の繊維軸方向と綿の軸方向を平行な状態でランダムに配合したり、撚り合わせて用いてもよく、とくに限定されるものではない。
【0025】
また、本実施の形態では、芯材の周りを合成繊維で覆い、当該合成繊維が誘引紐の最表層を形成するものとしたが、芯材の周りを覆う合成繊維からなる表層の周りを樹脂皮膜などで覆い、着色や防性などを付与してもよい。この場合の樹脂皮膜は、親水性や透水性有していても、いなくても良いが、透水性を有しているとつる植物育成の観点、誘引紐の温度上昇抑制の観点から好ましい。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明を行う。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、本実施例における誘引紐の温度測定は下記の方法で測定した。
長さ20cmの試料を準備し、試料の中央部分(試料端部から10cmの位置)に熱電対を取り付け、熱電対はアルミニウム箔で覆い、ビームランプの光が直接当たらないようにした。断熱性を有する試料台の上に、試料を置き、試料の中央部(熱電対の取り付け位置)から25cmの距離にビームランプ(東芝ライテック(株)製。BRF110V。120W。)を設置し、試料台に置かれた試料の上部からビームランプ照射し、60分後の試料の温度を測定した。
また、試験時の室温は25℃であった。
【0027】
(実施例1)
高強力繊維として24Kの炭素繊維の束(PAN系炭素繊維。東レ株式会社製。T700SC)を用い、当該炭素繊維の束を芯材として用いた。また、吸水性ポリエステル樹脂で処理した白色の吸水性ポリエステル繊維製の糸(500デシテックス。マルチフィラメント糸。)を用いて石目打ちにて芯材の周りの全面を組紐状にポリエステル繊維で被覆し、直径約3mm(スチール製のスケールで測定)のつる植物用の誘引紐を得た。
【0028】
得られた誘引紐に対し、水を含ませていない物(乾いた物)及び誘引紐を吊り下げ上部より水を誘引紐に供給し、水の供給をやめた後、誘引紐の下部から水の滴下がなくなった物(水を含む物)を試料として用い、温度測定をおこなった。
その結果、乾いた物は32℃、水を含む物は26℃であった。また、直径3mmのステンレス棒(乾いた物)に対し、同様の方法で温度測定をおこなったところ34℃であった。
この結果より、本実施例の誘引紐は、乾いた物で2℃、水を含む物で8℃、同等の太さのステンレス棒に比べ、温度が低く、温度上昇抑制効果に優れ、植物の育成上、好ましい誘引紐であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の誘引紐は、芯材として高強力繊維を用いていることから、引張強度に優れ、一般住宅での家庭菜園、花壇の誘引紐から、農場用の誘引紐、また、ビルなどの大型の建築物の緑化壁用の誘引紐としても用いることができる。
また、芯材の周りを合成繊維で覆っていることから、任意の色に着色でき、意匠性に優れる。
また、太陽光などからの熱線による誘引紐の温度上昇を抑制し、つる植物の育成に対し好ましい。したがって、菜園用からビル用壁面緑化用の誘引紐として幅広く用いることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 誘引紐
2 合成繊維