特許第6633024号(P6633024)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6633024モータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6633024
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】モータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/21 20160101AFI20200109BHJP
   H02P 6/182 20160101ALI20200109BHJP
【FI】
   H02P6/21
   H02P6/182
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-102496(P2017-102496)
(22)【出願日】2017年5月24日
(65)【公開番号】特開2018-198497(P2018-198497A)
(43)【公開日】2018年12月13日
【審査請求日】2018年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100110788
【弁理士】
【氏名又は名称】椿 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100124589
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 竜郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166811
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 剛
(72)【発明者】
【氏名】海津 浩之
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 陽平
(72)【発明者】
【氏名】張替 峻介
(72)【発明者】
【氏名】周 霄
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−238571(JP,A)
【文献】 特開2013−013223(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0227519(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/21
H02P 6/182
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの複数相のコイルに選択的に通電するモータ駆動部と、
前記モータの起動時又は再起動時に、前記複数相のコイルのすべてにロック電流が流れるように前記モータ駆動部を制御するロック通電動作を行うことにより前記モータのロータを前記ロック電流が流れるコイルに対応する位置に保持するロック通電制御部と
を備え、
前記ロック通電制御部は、前記ロック通電動作を行う場合において、
前記コイルに前記ロック電流を流すロック通電パターンを、前回前記ロック通電動作を行ったときのロック通電パターンから切り替え、
前記切り替えたロック通電パターンに従って前記コイルに前記ロック電流が流れるように制御し、
前記複数相のコイルのうちの1つのコイルに流れるロック電流は、残りのコイルに流れるロック電流より大きい、
モータ駆動制御装置。
【請求項2】
前記ロック通電制御部は、所定の切替パターンに従って前記ロック通電パターンの切り替えを行う、請求項1に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項3】
前記ロック通電制御部は、前記ロック通電動作を行う場合において、所定の切替条件が満たされたとき、前記ロック通電パターンの切り替えを行う、請求項1又は2に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項4】
前記所定の切替条件は、同一のロック通電パターンで前記ロック通電動作が所定回数n(nは1以上の整数)以上行われたか否かを含む、請求項3に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項5】
前記ロック通電パターンは、前記複数相のコイルのうち前記ロック電流が流される相の組せを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項6】
前記ロック通電パターンは、前記ロック電流が流入する相と流出する相との組せを含む、請求項5に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項7】
前記モータは、3相のコイルを有し、
前記ロック通電パターンは、前記ロック電流が流入する2つの相と前記ロック電流が流出する1つの相との組み合わせを含む、請求項1から6のいずれか1項に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項8】
前記モータは、3相のコイルを有し、
前記ロック通電パターンは、前記ロック電流が流入する1つの相と前記ロック電流が流出する2つの相との組み合わせを含む、請求項1から6のいずれか1項に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項9】
前記ロック通電制御部により前記ロック通電動作が行われた後で、通電パターンが所定の順番で切り替わるように前記モータ駆動部を制御する強制転流動作を行って前記ロータを回転させる強制転流制御部をさらに備え、
前記強制転流制御部は、前記強制転流動作を行うとき、前記ロック通電動作が行われたときの前記ロック通電パターンに応じた通電パターンを当初の通電パターンとする、請求項6から8のいずれか1項に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項10】
前記強制転流制御部は、前記強制転流動作を行うとき、前記ロック通電動作が行われたときの前記ロック通電パターンに応じて、前記所定の順番において進んでいる通電パターンを当初の通電パターンとする、請求項9に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項11】
モータの複数相のコイルに選択的に通電するモータ駆動部を制御して前記モータを駆動するモータの駆動制御方法であって、
前記モータの起動時又は再起動時に、前記複数相のコイルのすべてにロック電流が流れるように前記モータ駆動部を制御するロック通電動作を行うことにより前記モータのロータを前記ロック電流が流れるコイルに対応する位置に保持するロック通電制御ステップと、
前記ロック通電動作が行われてから前記モータを駆動させる駆動ステップとを備え、
前記ロック通電制御ステップは、前記ロック通電動作を行う場合において、
前記コイルに前記ロック電流を流すロック通電パターンを、前回前記ロック通電動作を行ったときのロック通電パターンから切り替え、
前記切り替えたロック通電パターンに従って前記コイルに前記ロック電流が流れるように制御し、
前記複数相のコイルのうちの1つのコイルに流れるロック電流は、残りのコイルに流れるロック電流より大きい、
モータの駆動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法に関し、特に、モータの起動時にロータの位置決めを行うモータ駆動制御装置及びモータの駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ駆動制御装置においては、モータの起動時にロータの位置決めを行うものがある。位置決めは、例えば、モータの複数相のコイルに選択的に通電するモータ駆動部に設けられている所定の相の上下のスイッチング素子を一定時間オンすることで、ロータを所定の位置にロックするロック通電方法が知られている。
【0003】
下記特許文献1には、異物等の干渉によりモータの回転が妨げられて、回路の素子及びモータのコイルに熱が蓄積される場合に、回路の素子及びモータのコイルの損傷を防止することを課題としたモータ制御装置が開示されている。この制御装置では、電源とモータとの間の電流値が、温度変化に対して抵抗値が変化する温度特性を有する温度可変抵抗素子の抵抗値の変化に応じた閾値以上の場合に、モータの回転を所定の時間停止させる制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−82780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のようなロック通電方法でモータの駆動開始時にロック通電を行う場合に、ロック通電を行っている時間が長いと、コイル等の部品が発熱する。特に、例えばゴミが挟まることなどの要因によりモータをスムーズに起動できない状態が発生すると、再起動動作を行う毎にロック通電が繰り返される。従来、同一の態様でロック通電のロック電流がコイルに流されるため、このように繰り返しロック通電が行われると、特定のコイルに大きな電流が流れ、そのコイルが十分に冷却されないまま発熱を繰り返し、コイルの温度が上昇することがある。コイルの温度が上昇し過ぎると、コイルが焼損したり、コイルの周辺のインシュレータなどの部品が破損したりしてしまう可能性がある。
【0006】
例えば、U相、V相、W相の3相のコイルを有するモータにおいてロック通電を行う場合、ハイサイド側ではU相とW相とのスイッチング素子がオンとなり、ローサイド側はV相のスイッチング素子がオンになるように制御される場合がある。ロック通電が常にこのようにして行われるとすると、V相のコイルに多くのロック電流が流れ、V相のコイルの発熱が特に大きくなることがあるという問題がある。
【0007】
このような起動時のロック通電動作が行われる場合の問題に対して有効な解決策は、引用文献1には開示されていない。
【0008】
この発明はそのような問題点を解決するためになされたものであり、コイルの温度上昇を防止しつつロック通電動作を行うことができるモータ駆動制御装置およびモータの駆動制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためこの発明のある局面に従うと、モータ駆動制御装置は、モータの複数相のコイルに選択的に通電するモータ駆動部と、モータの起動時又は再起動時に、コイルにロック電流が流れるようにモータ駆動部を制御するロック通電動作を行うことによりモータのロータをロック電流が流れるコイルに対応する位置に保持するロック通電制御部とを備え、ロック通電制御部は、ロック通電動作を行う場合において、コイルにロック電流を流すロック通電パターンを、前回ロック通電動作を行ったときのロック通電パターンから切り替え、切り替えたロック通電パターンに従ってコイルにロック電流が流れるように制御する。
【0010】
好ましくは、ロック通電制御部は、所定の切替パターンに従ってロック通電パターンの切り替えを行う。
【0011】
好ましくは、ロック通電制御部は、ロック通電動作を行う場合において、所定の切替条件が満たされたとき、ロック通電パターンの切り替えを行う。
【0012】
好ましくは、所定の切替条件は、同一のロック通電パターンでロック通電動作が所定回数n(nは1以上の整数)以上行われたか否かを含む。
【0013】
好ましくは、ロック通電パターンは、複数相のコイルのうちロック電流が流される相の組合せを含む。
【0014】
好ましくは、ロック通電パターンは、ロック電流が流入する相と流出する相との組合せを含む。
【0015】
好ましくは、モータは、3相のコイルを有し、ロック通電パターンは、ロック電流が流入する2つの相とロック電流が流出する1つの相との組み合わせを含む。
【0016】
好ましくは、モータは、3相のコイルを有し、ロック通電パターンは、ロック電流が流入する1つの相とロック電流が流出する2つの相との組み合わせを含む。
【0017】
好ましくは、モータ駆動制御装置は、ロック通電制御部によりロック通電動作が行われた後で、通電パターンが所定の順番で切り替わるようにモータ駆動部を制御する強制転流動作を行ってロータを回転させる強制転流制御部をさらに備え、強制転流制御部は、強制転流動作を行うとき、ロック通電動作が行われたときのロック通電パターンに応じた通電パターンを当初の通電パターンとする。
【0018】
好ましくは、強制転流制御部は、強制転流動作を行うとき、ロック通電動作が行われたときのロック通電パターンに応じて、所定の順番において進んでいる通電パターンを当初の通電パターンとする。
【0019】
この発明の他の局面に従うと、モータの複数相のコイルに選択的に通電するモータ駆動部を制御してモータを駆動するモータの駆動制御方法は、モータの起動時又は再起動時に、コイルにロック電流が流れるようにモータ駆動部を制御するロック通電動作を行うことによりモータのロータをロック電流が流れるコイルに対応する位置に保持するロック通電制御ステップと、ロック通電動作が行われてからモータを駆動させる駆動ステップとを備え、ロック通電制御ステップは、ロック通電動作を行う場合において、所定の切替条件に応じて、コイルにロック電流を流すロック通電パターンを、前回ロック通電動作を行ったときのロック通電パターンから切り替え、切り替えたロック通電パターンに従ってコイルにロック電流が流れるように制御する。
【発明の効果】
【0020】
これらの発明に従うと、コイルの温度上昇を防止しつつロック通電動作を行うことができるモータ駆動制御装置およびモータの駆動制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態の1つにおけるモータ駆動制御装置の構成を示す図である。
図2】モータ駆動制御装置の基本動作を示すフローチャートである。
図3】強制転流工程における通電パターンの推移を示す図である。
図4】第1のロック通電パターンを説明する図である。
図5】第2のロック通電パターンを説明する図である。
図6】第3のロック通電パターンを説明する図である。
図7】ロック通電工程の制御の一例を示すフローチャートである。
図8】第1のロック通電パターンでロック通電動作が行われた後に行われる強制転流動作について説明する図である。
図9】第2のロック通電パターンでロック通電動作が行われた後に行われる強制転流動作について説明する図である。
図10】第3のロック通電パターンでロック通電動作が行われた後に行われる強制転流動作について説明する図である。
図11】本実施の形態の一変形例に係る第4のロック通電パターンについて説明する図である。
図12】第4のロック通電パターンでロック通電動作が行われた後に行われる強制転流動作について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態におけるモータ駆動制御装置について説明する。
【0023】
[実施の形態]
【0024】
図1は、本発明の実施の形態の1つにおけるモータ駆動制御装置1の構成を示す図である。
【0025】
図1に示されるように、モータ駆動制御装置1は、インバータ回路2と、制御回路部3と、誘起電圧検出回路8とを備える。モータ駆動制御装置1は、同期モータ10に駆動電力を供給し、同期モータ10を駆動させる。なお、本実施の形態における同期モータ10は、U相、V相、W相の駆動コイル(コイルの一例)Lu,Lv,Lwを有する3相モータである。同期モータ10は、ロータの位置を検出するためのセンサを持たないセンサレス同期モータである。すなわち、モータ駆動制御装置1は、ロータの位置を検出するためのセンサを用いない、位置センサレス方式のモータ駆動制御装置である。
【0026】
誘起電圧検出回路8は、インバータ回路2から同期モータ10のU相、V相、W相の駆動コイルLu,Lv,Lwのそれぞれへの電流供給ラインに接続されており、各相の駆動コイルについての誘起電圧を検出する。検出結果は制御回路部3に出力される。
【0027】
インバータ回路2は、制御回路部3のプリドライブ回路4とともに、同期モータ10の各相に電流を流すモータ駆動部9を構成する。モータ駆動部9は、同期モータ10の複数相のコイルに選択的に通電する。すなわち、インバータ回路2は、プリドライブ回路4から出力される駆動信号R1から駆動信号R6に基づいて同期モータ10の各相の駆動コイルを選択的に通電し、同期モータ10の回転を制御する。インバータ回路2は、制御回路部3による制御に基づいて、3相の駆動コイルLu,Lv,Lwに発生する逆起電圧に応じて各相の駆動コイルを選択的に通電する。
【0028】
本実施の形態において、インバータ回路2は、同期モータ10の駆動コイルLu,Lv,Lwのそれぞれに駆動電流を供給するための6個のスイッチング素子Q1〜スイッチング素子Q6を備えている。スイッチング素子Q1,Q3,Q5は、直流電源Vccの正極側に配置されたPチャンネルのMOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field Effect Transistor)からなるハイサイドスイッチング素子である。スイッチング素子Q2,Q4,Q6は、直流電源Vccの負極側に配置されたNチャンネルのMOSFETからなるローサイドスイッチング素子である。スイッチング素子Q1,Q2の組み合わせ、スイッチング素子Q3,Q4の組み合わせ、及びスイッチング素子Q5,Q6の組み合わせのそれぞれにおいて、2つのスイッチング素子が直列に接続されている。そして、これらの3組の直列回路が並列に接続されて、ブリッジ回路が構成されている。スイッチング素子Q1,Q2の接続点がU相の駆動コイルLuに接続され、スイッチング素子Q3,Q4の接続点がV相の駆動コイルLvに接続され、スイッチング素子Q5,Q6の接続点がW相の駆動コイルLwに接続されている。
【0029】
制御回路部3は、プリドライブ回路4と、ロック通電制御回路(ロック通電制御部の一例)5と、モータ駆動制御回路(強制転流制御部の一例)6と、回転位置推定部7とを有している。制御回路部3は、例えば、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、マイクロコンピュータなどのプログラマブルデバイスを用いて構成することができる。
【0030】
プリドライブ回路4は、インバータ回路2の6個のスイッチング素子Q1〜Q6のそれぞれのゲート端子に接続される複数の出力端子を備えている。各出力端子から駆動信号R1〜R6を出力して、スイッチング素子Q1〜Q6のオン/オフ動作を制御する。センサレス駆動時において、プリドライブ回路4は、モータ駆動制御回路6の制御に基づいて、各相の駆動コイルLu,Lv,Lwに発生する逆起電圧に応じて駆動信号R1〜R6を出力する。すなわち、インバータ回路2は、同期モータ10の各相の駆動コイルLu,Lv,Lwに発生する逆起電圧に基づいて各駆動コイルを選択的に通電する。
【0031】
回転位置推定部7は、誘起電圧検出回路8の検出結果に基づいて、同期モータ10のロータの回転位置を推定する。モータ駆動制御回路6は、回転位置推定部7により推定されたロータの回転位置に応じて、プリドライブ回路4の動作を制御する。モータ駆動制御回路6は、ロック通電後の強制転流からセンサレス駆動までの動作を制御する。
【0032】
ロック通電制御回路5は、同期モータ10の始動開始時にロータを所定の位置にロックするロック通電の動作を制御する。ロック通電制御回路5は、同期モータ10の起動時又は再起動時に、駆動コイルLu,Lv,Lwにロック電流が流れるようにモータ駆動部9を制御するロック通電動作を行う。これにより、ロック通電制御回路5は、同期モータ10のロータをロック電流が流れる駆動コイルLu,Lv,Lwに対応する位置に保持する。本実施形態において、ロック通電制御回路5は、同期モータ10の回転開始前のロック通電期間において、ロータを所定のロック位置に保持するためのロック電流を、モータ駆動部9から駆動コイルLu,Lv,Lwに流すように、モータ駆動部9を制御する。
【0033】
ここで、モータ駆動制御装置1の基本動作について簡単に説明する。
【0034】
図2は、モータ駆動制御装置1の基本動作を示すフローチャートである。
【0035】
図2に示されるように、モータ駆動制御装置1は、大まかに、起動工程(ステップS1からステップS4)と、センサレス駆動工程(ステップS5からステップS6)との2つの動作を行う。
【0036】
モータ駆動制御装置1は、モータドライブ初期設定工程において、起動を開始するにあたり、同期モータ10の駆動条件に適合するように、マイクロコンピュータ等により構成される制御回路部3の各種仕様(ポート,タイマーなど)を設定する(ステップS1)。
【0037】
次に、ロック通電工程に移る。ロック通電制御回路5は、ロック通電動作を行い、ロック通電制御信号をプリドライブ回路4に出力する。プリドライブ回路4は、ロック通電制御信号に従って、インバータ回路2のスイッチング素子Q1〜Q6のオン/オフ動作を行う。これにより、同期モータ10の各相(U相,V相,W相)の駆動コイルLu,Lv,Lwにロック電流が流れ、同期モータ10のロータが所定の位置にロックされる(ステップS2)。このロック通電工程の動作の詳細は後述する。
【0038】
次に、強制転流工程に移る。モータ駆動制御回路6は、ロック通電制御回路5によりロック通電動作が行われた後で、通電パターンが所定の順番で切り替わるようにモータ駆動部9を制御する強制転流動作を行って、ロータを回転させる。例えば、モータ駆動制御回路6から駆動制御信号がプリドライブ回路4に出力される。プリドライブ回路4は、駆動制御信号に従って、インバータ回路2のスイッチング素子Q1〜Q6のオン/オフ動作を行う。これにより同期モータ10の各相(U相,V相,W相)の駆動コイルLu,Lv,Lwに順次駆動電流が流れ、ロータの回転速度が徐々に速くなる(ステップS3)。
【0039】
図3は、強制転流工程における通電パターンの推移を示す図である。
【0040】
図3に示されるように、本実施の形態においては、U相,V相,W相の駆動コイルLu,Lv,Lwについて、電流が流入する上側の相と電流が流出する下側の相との組み合わせからなる通電パターンが6つある(通電セクタ1から6)。通電セクタ1では、U相(上側)からV相(下側)に電流が流れる。通電セクタ2では、U相からW相に電流が流れる。通電セクタ3では、V相からW相に電流が流れる。通電セクタ4では、V相からU相に電流が流れる。通電セクタ5では、W相からU相に電流が流れる。通電セクタ6では、W相からV相に電流が流れる。強制転流工程において、所定の方向にロータを回転させるとき、所定の順番で、すなわち通電セクタ1、通電セクタ2、通電セクタ3、通電セクタ4、通電セクタ5,及び通電セクタ6、及び通電セクタ1、…の順に、通電パターンが切り替えられる。各通電パターンの通電時間を徐々に短縮しながら通電セクタ1から6まで、所定の順番で順次通電パターンが切り替えられることが繰り返されることにより、ロータの回転速度が次第に速くなる。
【0041】
図2に戻って、モータ駆動制御回路6は、強制転流が成功したか否かを判断する(ステップS4)。例えば、モータ駆動制御回路6は、強制転流動作を開始してから所定の時間が経過した時点で、ロータの回転速度が所定の回転速度に達しているか否かを判断する。そして、ロータの回転速度が所定の回転速度に達していれば、強制転流が成功したと判断を行う。ロータの回転速度が所定の回転速度に達していなければ、強制転流が成功しなかったと判断する。強制転流が成功しなかったと判断されたとき(NOのとき)、再起動動作が行われる。再起動動作では、ステップS2からの処理が再度行われる。
【0042】
強制転流が成功したと判断されたとき(YESのとき)、すなわちロータの回転速度が所定の回転速度に達していると判断されたとき、センサレス駆動工程に進む。センサレス駆動工程では、モータ駆動制御装置1は、通電タイミング推定工程において、定常のセンサレス駆動を開始する。制御回路部3の回転位置推定部7は、各相の誘起電圧の変化からゼロクロス点を検出し、通電タイミングを推定する(ステップS5)。
【0043】
そして、通電切り替え工程に移る。モータ駆動制御回路6は、回転位置推定部7が推定した通電タイミングで各相への通電を切り替え、同期モータ10の定速回転を続ける(ステップS6)。
【0044】
上記のように、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1は、図2の動作ステップを経て定常回転動作を行う。すなわち、本実施の形態に係るモータの駆動制御方法として、モータの起動時又は再起動時に、駆動コイルLu,Lv,Lwにロック電流が流れるようにモータ駆動部を制御するロック通電動作を行うことにより同期モータ10のロータをロック電流が流れる駆動コイルLu,Lv,Lwに対応する位置に保持するロック通電制御ステップ(ステップS2)と、ロック通電動作が行われてからモータを駆動させる駆動ステップ(ステップS3〜ステップS6)とを備る。
【0045】
次に、ロック通電工程の具体的な動作方法について説明する。以下に記述するように、本実施の形態に係るモータの駆動制御方法においては、ロック通電制御ステップ(ステップS2)は、ロック通電動作を行う場合において、駆動コイルLu,Lv,Lwにロック電流を流すロック通電パターンを、ロック通電動作を行ったときのロック通電パターンから切り替え、切り替えたロック通電パターンに従って駆動コイルLu,Lv,Lwにロック電流が流れるように制御する。
【0046】
ロック通電制御回路5は、ロック通電動作を行う場合において、駆動コイルLu,Lv,Lwにロック電流を流すロック通電パターンを、前回ロック通電動作を行ったときのロック通電パターンから切り替える。そして、切り替えたロック通電パターンに従って駆動コイルLu,Lv,Lwにロック電流が流れるように制御する。換言すると、ロック通電制御回路5は、ロック通電動作を行う場合において、駆動コイルLu,Lv,Lwにロック電流を流すロック通電パターンとして、前回ロック通電動作を行ったときのロック通電パターンとは異なるロック通電パターンを選択する。そして、選択したロック通電パターンに従って駆動コイルLu,Lv,Lwにロック電流が流れるように制御する。
【0047】
本実施の形態においては、ロック通電制御回路5は、所定の切替パターンに従ってロック通電パターンの切り替えを行う。また、ロック通電制御回路5は、ロック通電動作を行う場合において、所定の切替条件が満たされたとき、ロック通電パターンの切り替えを行う。なお、所定の切替条件は、同一のロック通電パターンでロック通電動作が所定回数n(nは1以上の整数)以上行われたか否かを含み、ロック通電パターンの切り替えは、同一のロック通電パターンでロック通電動作が所定回数n以上行われた場合に行われる。具体的には、所定の切替条件は、同一のロック通電パターンでロック通電動作が1回以上行われたか否かを含む。すなわち、本実施の形態において、ロック通電動作が行われる度に、所定の切り替えパターンに従って、ロック通電パターンが前回のロック通電を行った時のロック通電パターンから別のロック通電パターンに切り替わる。なお、所定の切替条件は、本実施の形態に限定されるものではない(他の例は、後述する)。
【0048】
ロック通電パターンは、例えば3つが用意されている。すなわち、第1のロック通電パターンA、第2のロック通電パターンB、及び第3のロック通電パターンC(以下、これらをまとめてロック通電パターンA,B,Cということがある)のいずれかのロック通電パターンに応じて、ロック通電動作が行われる。ロック通電動作が行われる度に、第1のロック通電パターンA、第2のロック通電パターンB、第3のロック通電パターンC、第1のロック通電パターンA、…の順(所定の切替パターンの一例)にロック通電パターンが切り替えられる。
【0049】
各ロック通電パターンA,B,Cは、3相の駆動コイルLu,Lv,Lwのうち、ロック電流が流される相の組み合わせを含む。また、各ロック通電パターンA,B,Cは、ロック電流が流入する相と流出する相との組合せを含む。すなわち、各ロック通電パターンA,B,Cは、通電方向を含む。より具体的には、ロック通電パターンは、ロック電流が流入する2つの相の組合せを含む。すなわち、本実施の形態において、ロック通電は、駆動コイルLu,Lv,Lwのうち、2つの相からロック電流が流入し、他の1つの相からロック電流が流出するようにして行われる。ロック通電パターンA,B,Cにおいては、3つの相のうちのいずれかの2つの相からロック電流が流入し、他の1つの相からロック電流が流出するように、各相に対応する、スイッチング素子Q1,Q2の組み合わせ、スイッチング素子Q3,Q4の組み合わせ、及びスイッチング素子Q5,Q6の組み合わせの、いずれをオンとし、いずれをオフにするかが定められている。
【0050】
図4は、第1のロック通電パターンAを説明する図である。
【0051】
図4において、矢印は、ロック電流の流れる向きを示す。第1のロック通電パターンAは、ロック電流がU相とW相とから流入しV相から流出するものである。すなわち、U相の上側(スイッチング素子Q1)がオン,下側(スイッチング素子Q2)がオフとされ、V相の上側(スイッチング素子Q3)がオフ,下側(スイッチング素子Q4)がオンとされ、W相の上側(スイッチング素子Q5)がオン,下側(スイッチング素子Q6)がオフとされる。第1のロック通電パターンAは、V相の駆動コイルLvに大きな電流が流れ、V相の駆動コイルLvが比較的発熱しやすい通電パターンである。
【0052】
図5は、第2のロック通電パターンBを説明する図である。
【0053】
図5において、矢印は、ロック電流の流れる向きを示す。第2のロック通電パターンBは、ロック電流がU相とV相とから流入しW相から流出するものである。すなわち、U相の上側がオン,下側がオフとされ、V相の上側がオン,下側がオフとされ、W相の上側がオフ,下側がオンとされる。第2のロック通電パターンBは、W相の駆動コイルLwに大きな電流が流れ、W相の駆動コイルLwが比較的発熱しやすい通電パターンである。
【0054】
図6は、第3のロック通電パターンCを説明する図である。
【0055】
図6において、矢印は、ロック電流の流れる向きを示す。第3のロック通電パターンCは、ロック電流がV相とW相とから流入しU相から流出するものである。すなわち、U相の上側がオフ,下側がオンとされ、V相の上側がオン,下側がオフとされ、W相の上側がオン,下側がオフとされる。第2のロック通電パターンBは、U相の駆動コイルLuに大きな電流が流れ、U相の駆動コイルLuが比較的発熱しやすい通電パターンである。
【0056】
図7は、ロック通電工程の制御の一例を示すフローチャートである。
【0057】
図7に示されるように、ロック通電工程では、以下のようにしてロック通電パターンが切り替えられ、ロック通電動作が行われる。すなわち、ステップS11において、ロック通電制御回路5は、変数Nの値がいずれであるか判断する。ここで、変数Nは、1以上の整数である。変数Nの初期値は、例えば1である。
【0058】
変数Nの値が1であれば、ステップS12の処理が行われる。ロック通電制御回路5は、ロック通電パターンを、第1のロック通電パターンAに切り替える。また、ロック通電制御回路5は、変数Nに1を加算する。これにより、変数Nの値は2となる。
【0059】
変数Nの値が2であれば、ステップS13の処理が行われる。ロック通電制御回路5は、ロック通電パターンを、第2のロック通電パターンBに切り替える。また、ロック通電制御回路5は、変数Nに1を加算する。これにより、変数Nの値は3となる。
【0060】
変数Nの値が3であれば、ステップS14の処理が行われる。ロック通電制御回路5は、ロック通電パターンを、第3のロック通電パターンCに切り替える。また、ロック通電制御回路5は、変数Nに1を代入する。これにより、変数Nの値は1となる。
【0061】
ステップS12からステップS14の処理が行われると、ステップS15に移る。すなわち、ロック通電制御回路5は、切り替え後のロック通電パターンでロック電流の通電が行われるように、モータ駆動部9を制御する。これにより、ロック通電工程が終了する。
【0062】
このように、本実施の形態では、ロック通電動作が行われる度に、ロック通電パターンが切り替えられ、前回ロック通電動作が行われたときとは異なるロック通電パターンでロック電流が流れる。すなわち、ロック通電動作が行われる度に、比較的大きな電流が流れる駆動コイルLu,Lv,Lwが変更される。そのため、常に同じロック通電パターンでロック通電動作が行われていずれか1つの駆動コイルに大きな電流が繰り返し流される場合と比較して、駆動コイルLu,Lv,Lwの温度が上昇しにくくなる。したがって、駆動コイルの発熱を抑えつつロック通電動作を行うことができるようになる。
【0063】
ここで、本実施の形態においては、上記のようにロック通電パターンの切り替えが行われるため、切り替えられたロック通電パターンに応じて、強制転流工程で通電が開始される通電パターンに切り替えられる(当初の通電パターンが切り替えられる)。すなわち、モータ駆動制御回路6は、強制転流動作を行うとき、ロック通電動作が行われたときのロック通電パターンに応じた通電パターンを当初の通電パターンとする。具体的には、モータ駆動制御回路6は、強制転流動作を行うとき、ロック通電動作が行われたときのロック通電パターンに応じて、所定の順番において進んでいる通電パターンを当初の通電パターンとする。
【0064】
本実施の形態では、上述のように3つのロック通電パターンA,B,Cのうちいずれかでロック通電が行われる。それぞれのロック通電パターンで、ロック通電が行われている状態は、通電セクタ1から6のうち上記の所定の順番において連続する2つの通電セクタで電流が流れている状態であるといえる。各ロック通電パターンについて、このような2つの通電セクタのうち上記の所定の順番において進んでいる通電パターンが、強制転流動作の開始時の通電パターンとなる。
【0065】
図8は、第1のロック通電パターンAでロック通電動作が行われた後に行われる強制転流動作について説明する図である。
【0066】
図8に示されるように、第1のロック通電パターンAでロック通電動作が行われるとき、U相の駆動コイルLuとW相の駆動コイルLwとから、V相の駆動コイルLvにロック電流が流れる。すなわち、図8に黒丸印を付して示すように、通電セクタ6と通電セクタ1とで電流が流れている状態になる。
【0067】
このようにロック通電動作が行われた後で、強制転流動作が行われるときには、通電セクタ6と通電セクタ1とのうち、所定の順番において進んでいる通電セクタ1の通電パターンで、強制転流動作が開始される。すなわち、図8において星印で示される通電セクタ1を開始通電パターンとして、(1)通電セクタ1、(2)通電セクタ2、(3)通電セクタ3、(4)通電セクタ4、(5)通電セクタ5、(6)通電セクタ6、(7)通電セクタ1、…という順で通電パターンが切り替えられ、強制転流が行われる。
【0068】
図9は、第2のロック通電パターンBでロック通電動作が行われた後に行われる強制転流動作について説明する図である。
【0069】
図9に示されるように、第2のロック通電パターンBでロック通電動作が行われるとき、U相の駆動コイルLuとV相の駆動コイルLvとから、W相の駆動コイルLwにロック電流が流れる。すなわち、図9に黒丸印を付して示すように、通電セクタ2と通電セクタ3とで電流が流れている状態になる。
【0070】
このようにロック通電動作が行われた後で、強制転流動作が行われるときには、通電セクタ2と通電セクタ3とのうち、所定の順番において進んでいる通電セクタ3の通電パターンで、強制転流動作が開始される。すなわち、図9において星印で示される通電セクタ3を開始通電パターンとして、(1)通電セクタ3、(2)通電セクタ4、(3)通電セクタ5、(4)通電セクタ6、(5)通電セクタ1、(6)通電セクタ2、(7)通電セクタ3、…という順で通電パターンが切り替えられ、強制転流が行われる。
【0071】
図10は、第3のロック通電パターンCでロック通電動作が行われた後に行われる強制転流動作について説明する図である。
【0072】
図10に示されるように、第3のロック通電パターンCでロック通電動作が行われるとき、V相の駆動コイルLvとW相の駆動コイルLwとから、U相の駆動コイルLuにロック電流が流れる。すなわち、図10に黒丸印を付して示すように、通電セクタ4と通電セクタ5とで電流が流れている状態になる。
【0073】
このようにロック通電動作が行われた後で、強制転流動作が行われるときには、通電セクタ4と通電セクタ5とのうち、所定の順番において進んでいる通電セクタ5の通電パターンで、強制転流動作が開始される。すなわち、図10において星印で示される通電セクタ5を開始通電パターンとして、(1)通電セクタ5、(2)通電セクタ6、(3)通電セクタ1、(4)通電セクタ2、(5)通電セクタ3、(6)通電セクタ4、(7)通電セクタ5、…という順で通電パターンが切り替えられ、強制転流が行われる。
【0074】
このようにしてロック通電パターンに応じた通電パターンから強制転流動作が開始されるので、ロック通電により電流が流れる駆動コイルに対応する位置に保持されたロータを、強制転流により効率良くスムーズに回転させることができる。
【0075】
以上説明したように、本実施の形態では、ロック通電動作が高頻度で行われた場合であっても、ロック通電パターンが切り替えられるので、特定の駆動コイルの発熱が繰り返されることがなく、特定の駆動コイルの過熱を防止することができる。したがって、駆動コイルやその周囲の部品が熱により破損することを防止することができる。過熱を防止するために同期モータ10の動作を停止させる必要がなくなる。
【0076】
[変形例の説明]
【0077】
ロック通電パターンは、上述のものに限られない。ロック通電パターンは、ロック電流が流入する1つの相とロック電流が流出する2つの相との組合せを含むものであってもよい。すなわち、ロック通電は、駆動コイルLu,Lv,Lwのうち、3つの相のうちのいずれかの1つの相からロック電流が流入し、他の2つの相からロック電流が流出するようにして行われるようにしてもよい。
【0078】
図11は、本実施の形態の一変形例に係る第4のロック通電パターンについて説明する図である。
【0079】
図11において、矢印は、ロック電流の流れる向きを示す。図11においては、1つの相からロック電流が流入し、他の2つの相からロック電流が流出するロック通電パターンの一例(第4のロック通電パターンD)が示されている。すなわち、第4のロック通電パターンDは、ロック電流がU相から流入し、V相とW相とから流出するものである。すなわち、U相の上側がオン,下側がオフとされ、V相の上側がオフ,下側がオンとされ、W相の上側がオフ,下側がオンとされる。
【0080】
第4のロック通電パターンDは、U相の駆動コイルLuに大きな電流が流れ、U相の駆動コイルLuが比較的発熱しやすい通電パターンである。このほか、例えばV相の駆動コイルLvからロック電流が流入する第5のロック通電パターンEや、W相の駆動コイルLwからロック電流が流入する第6のロック通電パターンFなどを用意し、所定の切替条件に応じてロック通電パターンD,E,Fを切り替えてロック通電動作を行うことにより、特定の駆動コイルのみが発熱することを防止することができる。
【0081】
なお、このように1つの相からロック電流が流入するロック通電パターンでロック通電動作が行われる場合においても、その後に強制転流動作が開始されるとき、ロック通電動作が行われたときのロック通電パターンに応じて所定の順番において進んでいる通電パターンを当初の通電パターンとすればよい。
【0082】
図12は、第4のロック通電パターンDでロック通電動作が行われた後に行われる強制転流動作について説明する図である。
【0083】
図12に示されるように、第4のロック通電パターンAでロック通電動作が行われるとき、U相の駆動コイルLuから、W相の駆動コイルLwとV相の駆動コイルLvにロック電流が流れる。すなわち、図12に黒丸印を付して示すように、通電セクタ1と通電セクタ2とで電流が流れている状態になる。
【0084】
このようにロック通電動作が行われた後で、強制転流動作が行われるときには、通電セクタ1と通電セクタ2とのうち、所定の順番において進んでいる通電セクタ2の通電パターンで、強制転流動作が開始される。すなわち、図12において星印で示される通電セクタ2を開始通電パターンとして、(1)通電セクタ2、(2)通電セクタ3、(3)通電セクタ4、(4)通電セクタ5、(5)通電セクタ6、(6)通電セクタ1、(7)通電セクタ2、…という順で通電パターンが切り替えられ、強制転流が行われる。
【0085】
このようにしてロック通電パターンに応じた通電パターンから強制転流動作を開始させることにより、上述と同様に、ロータを、強制転流により効率良くスムーズに回転させることができる。
【0086】
[その他]
【0087】
モータ駆動制御装置は、上述の実施の形態やその変形例に示されるような回路構成に限定されない。本発明の目的に適合するように構成された、様々な回路構成が適用できる。
【0088】
ロック通電パターンの切り替えを行う所定の切替条件としては、種々の条件を用いることができる。
【0089】
例えば、同一のロック通電パターンでロック通電動作が連続して所定回数n(nは1以上の整数)だけ行われたか否かを条件としてもよい。この場合、n=1であるとき、上述の実施の形態と同様に、ロック通電動作が行われる度にロック通電パターンが切り替えられることになる。nが2以上であるとき、連続して1つのロック通電パターンでn回ロック通電動作が行われると、次にロック通電動作が行われるときには、前回までとは異なるロック通電パターンでロック通電動作が行われることになる。
【0090】
また、例えば、同一のロック通電パターンでロック通電動作が連続して回数R(Rは、所定の数以下のランダムに定まる整数、又は所定の方法により変動する整数)だけ行われたことを条件としてもよい。また、モータ駆動制御装置が計時機能を有しており、同一のロック通電パターンでロック通電動作が所定の期間行われたか否か(同一のロック通電パターンでロック通電動作が所定の期間行われたときにロック通電パターンの切り替えが行われる)や、所定の時期が到来したか否か(所定の時期が到来したときにロック通電パターンの切り替えが行われる)を所定の切替条件としてもよい。さらに、切替条件として、モータの温度(例えば、駆動コイルあるいは駆動コイル付近の部品の温度)を監視し、当該温度が所定の閾値を超えたか否か(当該温度が所定の閾値を超えたときにロック通電パターンの切り替えが行われる)を含むようにしてもよい。
【0091】
また、ロック通電パターンの切り替えは、例えば、外部機器から制御回路部等に所定の指示が行われた場合など、任意のタイミングで行われるようにしてもよいし、不規則的なタイミングで行われるようにしてもよい。
【0092】
ロック通電パターンの切替パターンは、上述のものに限られない。例えば、上述の実施の形態において、ロック通電動作が行われる度に、第1のロック通電パターンA、第3のロック通電パターンC、第2のロック通電パターンBの順にロック通電パターンが切り替えられてもよい。
【0093】
また、ロック通電パターンの切替えが行われるときには、ロック通電制御回路5により、ランダムに選択されたロック通電パターン、又は所定の方法により適宜選択されたロック通電パターンに切り替えが行われるようにしてもよい。すなわち、ロック通電パターンの切り替えが行われるとき、前記ロック通電動作を行った時のロック通電パターンとは異なるロック通電パターンに切り替えられるようにすればよい。用意されている3以上のロック通電パターンのうち、特定のロック通電パターンには切り替えられず、他の2以上のロック通電パターンのうちで使用されるものが切り替えられるようにしてもよい。例えば、先述の第1のロック通電パターンA〜第6のロック通電パターンFを組み合わせた所定の切替パターンを予め設定し、それに基づき、ロック通電パターンを切り替えるようにしてもよい。
【0094】
以上のようにしてロック通電パターンが切り替えられることにより、ロック電流が常に特定の駆動コイルに流れるのを防止することができる。したがって、上述の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0095】
強制転流動作は、上述のようにロック通電パターンに応じた通電パターンから開始されなくてもよい。例えば、常に同じ通電パターンで強制転流が開始されるようにしてもよい。
【0096】
ロック通電パターンとしては、複数相のすべての駆動コイルを使用せず、電流が流れない駆動コイルが存在するものが用いられるようにしてもよい。
【0097】
上記実施形態では、インバータ回路2を構成するスイッチング素子はMOSFETとして説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、バイポーラトランジスタなどであってもよい。
【0098】
本実施の形態のモータ駆動制御装置により駆動されるモータは、3相のブラシレスモータに限定されない。モータは、3相以上の複数相の駆動コイルを備えるものであればよい。モータの種類もブラシレスモータに限定されない。
【0099】
また、ロータの位置を検出する方式については、本実施の形態のようなセンサレス方式に限定されず、例えばFGセンサ等によりモータの回転数を検出する方式や、ロータの位置を検出するためのセンサを有する方式についても、本実施の形態のモータ駆動制御装置の駆動制御対象とすることができる。
【0100】
上述のフローチャートなどは、動作を説明するための一例を示すものであって、これに限定されない。フローチャートの各図に示したステップは具体例であって、このフローに限定されるものではなく、例えば、各ステップの順番が変更されたり各ステップ間に他の処理が挿入されたりしてもよいし、処理を並列化してもよい。
【0101】
上述の実施の形態における処理の一部又は全部が、ソフトウエアによって行われるようにしても、ハードウエア回路を用いて行われるようにしてもよい。例えば、制御部は、マイコンに限定されない。制御部の内部の構成は、少なくとも一部がソフトウエアで処理されるようにしてもよい。
【0102】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0103】
1 モータ駆動制御装置
2 インバータ回路
3 制御回路部
4 プリドライブ回路
5 ロック通電制御回路(ロック通電制御部の一例)
6 モータ駆動制御回路(強制転流制御部の一例)
9 モータ駆動部
10 モータ
Q1,Q3,Q5 ハイサイドスイッチング素子(MOSFET)
Q2,Q4,Q6 ローサイドスイッチング素子(MOSFET)
Lu U相の駆動コイル(コイルの一例)
Lv V相の駆動コイル(コイルの一例)
Lw W相の駆動コイル(コイルの一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12