(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アナログ演算回路中の所要のアナログ演算回路は、オペアンプ或いはNMOSトランジスタにより構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のテント写像演算回路。
前記アナログ演算回路中の所要のアナログ演算回路は、オペアンプ或いはPMOSトランジスタにより構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のテント写像演算回路。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下添付図面を参照して、本発明の実施形態に係るテント写像演算回路及びA/D変換回路の実施形態を説明する。各図において、同一の構成要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0029】
本実施形態では、一例として、一次元の反復写像として知られるテント写像の演算をオペアンプにて行い、アナログ電圧値をデジタル値として変換するA/D(アナログ→デジタル)変換回路を提案する。
【0030】
テント写像はカオス的性質を持つものとして、一般的に知られている。例えば、傾き2のテント写像において、ある初期値からテント写像演算を行い、写像が0.5以上の値を採ったときにビット"1"を取得し、0.5未満ではビット"0"を取得するものとする。このような取り決めの下で、取りうる初期値の範囲を均等に等分し、初期値を上記等分された各範囲内から始めてビット値を取得すると、各範囲に応じたグレイコードを出力することが知られている(例えば、「奥富秀俊、“テント写像から得られた疑似ランダムビット列に対する初期値推定法の性質について”、2012年1月30日発行、2012年暗号と情報セキュリティシンポジウム(SCIS2012)、予稿集CD-ROM[2F3-6]」)。
【0031】
本実施形態では、テント写像の初期値をサンプリングするアナログ電圧値とし、テント写像の演算をオペアンプによるアナログ演算で行い、コンパレータによるビット抽出を行ってグレイコードを取得する。更に、取得したグレイコードに対してバイナリ変換を行い、アナログ電圧値に相当するA/D変換値を得るものである。
【0032】
本実施形態のテント写像によるA/D変換回路では、回路規模を大きくすることなく並列型(フラッシュ型)のような一括変換を実現でき、アナログ演算と同時にエンコードを行う構成となるため、エンコード回路は不要となる。また、本実施形態のテント写像によるA/D変換回路は、逐次比較型A/D変換回路のようにサンプリングした電圧値を保持しておく必要がなく、D/A変換回路も不要であるなどの様々な優位性を備えている。更に、本実施形態のA/D変換回路の回路規模はテント写像の反復演算を行う構成で主に決定され、より理想的な計算精度をもつアナログ演算回路を採用すれば、高い分解能を持つことができる。即ち、本実施形態によって小規模で高速なA/D変換回路を得ることができる。
【0033】
まず、実施形態の原理を説明する。
[I]テント写像について
テント写像は以下の式(1)で定義される。
【0035】
テント写像のリターンマップを
図2に示し、更に、式(1)のrを横軸とし、X
r+1 を縦軸とした時系列を
図3に示す。
図2はテント写像の幾何学的イメージであり、X
rが0.5未満の場合 2X
r の演算を実行し、0.5以上の場合 2(1-X
r) の演算を実行し、値域となる区間[0,1]を反復して写像を行うことによって得られる。
図2は、初期値X
0=0.123とした場合であり、X
4=0.032 までの例を載せている。
【0036】
本実施形態では、式(1)の演算を実行するアナログ演算回路を用い、A/D変換回路を構成する。A/D変換のデジタル値は
図3に示すように、0.5未満の場合にはビット"0"を、0.5以上の場合にはビット"1"を抽出する処理を継続する。
【0037】
[II]グレイコードの生成について
グレイコードは2進数において、前後に隣接する符合のハミング距離が常に1となる特徴をもつ、デジタル回路用の数値符号として知られている。
グレイコードは以下の式(2)により変換する。ここで"b"は2進数ビット列になる。
【0039】
式(2)よる4ビットのグレイコードを
図4に示す。
【0040】
次に、テント写像によるグレイコードの生成について説明する。
テント写像において採り得る初期値の領域を均等に分割し、各領域内の値であれば、どれでもよく初期値を決め、テント写像演算を行い、写像が0.5以上の値を採ったときにビット"1"を取得し、0.5未満の値を採ったときにビット"0"を取得し、取得されたビット値を連続してビット列を取得すると、各範囲に対応するグレイコードが出力される。
【0041】
ここで例として、初期値 X
0 の領域を16分割し、各領域内より初期値X
0を選択し、上記のルールにてテント写像からビット列を4ビット分取り出す場合のテントマップイメージが、
図5になる。
図5に対応する、各初期値X
0の範囲の値を
図6に示す。
図6に示すように、各初期値X
0の範囲からテント写像の最上位ビットを連続して取った場合、式(2)によるグレイコードと同じコードが出力される。
【0042】
初期値X
0は、
図6で示した範囲内ならばどの値をとってもよく、各範囲に応じたグレイコードをテント写像の反復を行うことで出力できる。グレイコードをバイナリ変換することによって、元のバイナリのビット列を得ることができる。グレイコードをバイナリ変換する回路を
図7に示す。グレイコードとバイナリ変換のビット列の関係は
図4になる。
【0043】
ここで、テント写像の演算により得られたビット列がグレイコードと一致しているかを、式を追跡して確かめることにする。
グレイコードに変換する前の任意のnビット分のビット列
【0045】
を与える。iは各ビット桁とする。
グレイコードのビット列をG
iとすると式(2)より、グレイコードの各ビット桁は
【0047】
で表現される。
テント写像X
rのビット列を、写像の回数(ラウンド)を r 、ビット桁を i としてT
r,iとする。
テント写像から得られる写像毎の最上位ビット桁T
r,n の値は、以下のようにグレイコードと等価に
【0049】
となるはずであるが、写像毎の最上位ビット桁T
r,nと、グレイコードの各ビット桁G
iが等しくなっているかを確かめる。
【0050】
初期値X
0は、
図6に示した各範囲の中間の値から取得した場合を考えて(例えば "n = 4" において、テント写像では
図5の第1番目の区間の場合、中間の値は "0.03125(0.00001)
2" となる)、初期値X
0とすると、任意の初期値X
0小数点以下のビット列は
【0052】
初期値X0 (r=0)
初期値X
0の最上位ビットは
【0054】
となり、グレイコードの最上位ビットG
nと一致する。
【0055】
1回の写像X1 (r=1)
写像X
r が0.5以上の場合の計算結果を考慮すると、最上位ビットb
nが"1"の場合は1−X
rの操作を行う必要がある。その場合は1の補数(ビット反転)に1を加える操作を行う。
反転を考慮したビット列をα
1,iとすると、
【0057】
となる。
最後に、2 X
r 或いは 2 (1−X
r )の演算はβ
1,iを1ビット右シフトするため、1回目のテント写像を行ったXのビットの並びT
1,iは
【0059】
となり、式(5)が成り立ち、1回のテント写像の最上位ビットはグレイコードの最上位から2つ目のビットと等しくなることがわかる。
【0060】
2回の写像X2 (r = 2)
T
1,i(最上位ビット)が1の場合、反転を考慮したビット列をα
2,iとすると
【0063】
となり、ラウンドごとに下位ビットは左1ビットずつシフトしてゆく構造となる。
これらからテント写像より出力された最上位ビットの列は、グレイコード変換したビット列と同じであることが確かめられ、以下の関係にあることが導かれる。
【0065】
任意の値X
0(b
0,i)から、テント写像の最上位ビット" T
r,n "を順番に出力したものと、グレイコードによって変換された値は一致する。
【0066】
以上はデジタル演算で確かめたが、本実施形態では、デジタルサンプリングするアナログ電圧値をテント写像の初期値X
0とし、アナログ演算回路によりテント写像の計算を行い、コンパレータでグレイコードを取り出して
図7に示す回路によりバイナリ変換を行うことで、デジタル値を取得する。
【0067】
[III]テント写像の演算を行うアナログ演算回路
テント写像の演算は、オペアンプを使用したアナログ演算で行う。
写像 X
r を電圧値として、0.5[V]未満の場合には、
図8に示したオペアンプ30による非反転増幅回路のアナログ演算にて、X
r+1 = 2 X
rの演算を行い、X
r が0.5[V]以上の場合には
図9のオペアンプ31による反転増幅回路で、1 - X
r の計算を実行した後、
図8の非反転増幅回路にてX
r+1 = 2(1 - X
r) の演算を行う。ここで
図9のオペアンプ31による反転増幅回路は抵抗の比が1対1(増幅率は1)となっており、レファレンス電圧は0.5[V]のため、0.5[V]を境に折り返すようにして、1 - X
r の演算を行う。注意点として、反転増幅回路は負帰還型であり、前の回路に電流が生じることで影響を及ぼすため、抵抗素子の抵抗値(Ω)を高抵抗にすることが望ましい。
【0068】
図10、に式(1)のテント写像の1回分の演算を行う回路図を示す。
図10に示すように、始めに X
r の電圧値が、0.5[V]未満か或いは0.5[V]以上かによってコンパレータ24が Low あるいはHighレベルを出力し、クロック信号がHigh状態となったとき、どちらも入力がHigh状態となるAND回路の出力がHighになり、アナログスイッチSW1かSW2が選択され、どちらかの導通を行う。この
図10の回路については、後に詳細に説明する。
【0069】
スイッチSW1が選択された場合、X
r+1 = 2 X
r の演算が行われ、電圧レベルX
r+1を出力する。スイッチSW2が選択された場合は、1 - X
r の演算を反転増幅回路(
図9)によって行い、その後、非反転増幅回路(
図8)にてX
r+1 = 2(1 - X
r) の演算を行い、電圧レベルX
r+1を出力する。出力された電位レベルが、テント写像1回の演算結果となり、この演算結果の電位レベルを再び入力値として、テント写像の反復演算(
図10)を継続する。
【0070】
図1に本発明の第1の実施形態に係るA/D変換回路の構成図を示す。このA/D変換回路は、サンプルホールド手段11、演算手段12、変換手段13を備える。サンプルホールド手段11は、A/D変換の対象信号(アナログ信号)をサンプルホールドするものである。演算手段12は、サンプルホールドされた信号に対しテント写像のアナログ演算を行うと共に初期値及び演算結果をグレイコードのビット数に応じた閾値と比較する比較器を備えグレイコードを出力するものである。既に説明した通り、アナログ信号の初期値に対しテント写像のアナログ演算を行い、演算結果が採り得る値(上記例では、「1」)の1/2である「0.5」を閾値として比較器により比較を行うことでグレイコードが得られる。変換手段13は、演算手段により得られるグレイコードをバイナリコードに変換するものである。この第1の実施形態によって、アナログ信号を適切にデジタル信号に変換することができる。
【0071】
図11に、第2の実施形態に係るA/D変換回路の構成図を示す。この第2の実施形態は、一括型と称することができ、クロック信号のHighエッジをトリガとしてHighエッジを受けるたびに、一括でA/D変換(標本化・量子化・符号化)を行う回路構成となっている。このA/D変換回路は、4ビットの分解能を有するために、テント写像のアナログ演算を1回分行う1回分演算部であるテント写像演算回路1(1−1〜1−3)を3回路カスケード接続して構成される。1回分演算部であるテント写像演算回路1の数は、分解能に応じて変更される。最終段のテント写像演算回路1−3の出力は比較器CMPに与えられる。
【0072】
テント写像演算回路1−1〜1−3のグレイコード端子Gからの出力と比較器CMPの出力は、バイナリ変換回路3へ与えられて、バイナリ変換回路3ではグレイコードをバイナリコードへ変換する処理が行われる。バイナリ変換回路3の出力は出力バッファ4に保持されて、ここから出力される。
【0073】
1回分演算部であるテント写像演算回路1は、
図10に示すように構成される。即ち、テント写像演算回路1は、制御部21、第1の演算回路であるアナログ演算回路22、第2の演算回路であるアナログ演算回路23、スイッチ群である(アナログ)スイッチSW1、SW2を備えている。スイッチ群であるスイッチSW1、SW2は、上記1回分演算部へ入力された信号を、上記第1の演算回路へ直接導くか、または、上記第2の演算回路を介して上記第1の演算回路へ導くか、経路を切り換えるスイッチ群である。
【0074】
制御部21は、上記1回分演算部へ入力された信号の大きさに基づき上記スイッチ群のオンオフを制御するものである。制御部21には、入力信号をグレイコード(1ビット)に変換するコンパレータ(比較器)24と、コンパレータ24の出力に基づきスイッチSW1、SW2を制御する制御信号を作成する論理回路25により構成される。ここでは、論理回路25は、インバータ25a、ANDゲート25b、25c、ORゲート25dにより構成されている。スイッチSW1、SW2の切り替えタイミングはコンパレータ24の出力がHighかLowに確定した後に行うため、入力クロック信号に遅延回路を設けることで切り替えの同期を取ることができる。
【0075】
本実施形態では、テント写像関数が一次式に定数を掛ける形式の関数であるため、アナログ演算回路22を、上記定数を掛ける演算を行う第1の演算回路として構成し、アナログ演算回路23を、上記一次式の演算を行う第2の演算回路として構成している。
【0076】
アナログ演算回路(第1の演算回路)22は、
図8に示したオペアンプ30による非反転増幅回路のアナログ演算にて入力信号X
rまたは1 - X
rに定数2を掛ける演算を行う。
【0077】
アナログ演算回路(第2の演算回路)23は、反転増幅回路であり、抵抗の比が1対1(増幅率は1)となっており、入力信号X
rを1 - X
rとする一次式の計算を行う。
【0078】
以上の通りに構成された第2の実施形態に係るA/D変換回路は、次の通りに動作する。変換対象のアナログ信号は、スイッチSW1を介してサンプルホールドアンプ2へ与えられる。また、サンプルホールドアンプ2の出力は、スイッチSW2を介してテント写像演算回路1−1へ与えられている。クロック信号がLow状態にあるとき、スイッチSW1が導通状態、スイッチSW2が非導通状態にあり、サンプルホールドの出力の電圧レベルは入力のアナログ信号と常に同期している。次にクロック信号がHigh状態になることで、スイッチSW1が非導通状態に遷移され、その時の電圧レベルがサンプリングされ保持される。
【0079】
サンプルホールドアンプ2によりサンプリングされた電圧レベルは、スイッチSW2が導通状態になると、テント写像の初期値X
0として、テント写像演算回路1−1に与えられ、演算結果X
1が出力される。演算結果X
1は入力値として、次のテント写像演算回路1−2に与えられる。一方、テント写像演算回路1−1のコンパレータ24によって、0.5以上かまたは0.5未満かの判別により得られた信号が論理回路25へ出力され、ORゲート25dの出力クロック信号のHigh状態がテント写像演算回路1−2へ送られる。このような繰り返しの動作が分解能のビット分のテント写像演算回路1−1〜1−3において行われ、テント写像の演算が行われて行く。
【0080】
テント写像演算回路1−1〜1−3による演算結果の各X
r+1は、それぞれが内蔵する0.5以上か0.5未満の判別を行うコンパレータ24によって1か0かに分別されることで、グレイコードが生成される最終段のテント写像演算回路1−3の出力は比較器CMPに与えられ、閾値0.5[V]と比較されてグレイコードとされる。グレイコードはバイナリ変換回路3を介してバイナリコードとされ、最終的に出力バッファ4からデジタル値を得ることができる。
【0081】
バイナリ変換回路3は、
図7に示すように3つの排他的論理和回路により構成される。最上位側の排他的論理和回路は、MSBと第2桁目の排他的演算を行い、2番目の排他的論理和回路は、最上位側の排他的論理和回路の出力と第3桁目の排他的演算を行い、3番目の排他的論理和回路は、2番目の排他的論理和回路の出力と第3桁目の排他的演算を行う。
【0082】
図12は、
図11に示した第2の実施形態に係るA/D変換回路の動作時における各部の信号波形の遷移を示すタイミングチャートである。クロック信号のHighエッジを受けるたびに、その時点のアナログ信号の電圧値をテント写像の初期値X
0として、サンプルホールドアンプ2により取り込まれ、テント写像演算回路1−1〜1−3においてテント写像の演算が一括で行われる。演算の結果、テント写像演算回路1−1〜1−3のVoutからアナログ電圧値として出力された各電圧レベルをX
1,X
2,X
3として示している。
【0083】
各アナログ電圧値X
0,X
1,X
2,X
3は、テント写像演算回路1−1〜1−3内のコンパレータ24と
図11に示すコンパレータCMPにより0.5[V]以上か0.5[V]未満かにより1と0とに峻別されたグレイコードとして出力され、バイナリ変換回路3によるバイナリ変換を経て、最終的に
図11と
図12にOUT0,OUT1,OUT2,OUT3として示したデジタル値とされて出力される。
【0084】
図12では、1回目のクロック信号のHighエッジによる一連のA/D変換が、テント写像の初期値X
0=0.15[V]によって実行された例を示している。テント写像演算回路1−1〜1−3によるテント写像の結果として、X
0=0.15[V],X
1=0.30[V],X
2=0.60[V],X
3=0.80[V]の電圧レベルが出力されている。この電圧レベルを受けて、テント写像演算回路1−1〜1−3内のコンパレータ24と
図11に示すコンパレータCMPによりグレイコード(0 0 1 1)が出力され、
図7のバイナリ変換回路3により、最終的にデジタル出力(0 0 1 0)が出力されている。
【0085】
2回目のクロック信号のHighエッジによる一連のA/D変換においては、テント写像の初期値X
0=0.48[V]が取り込まれ、3回目のクロック信号のHighエッジによる一連のA/D変換においては、テント写像の初期値X
0=0.79[V]が取り込まれ、2回目のクロック信号のHighエッジによる一連のA/D変換においては、テント写像の初期値X
0=0.63[V]が取り込まれ、それぞれの回において前述の通りの動作によりグレイコードが得られ、更にバイナリコードが得られることが
図12により示されている。
【0086】
図12中に示されている"遅延"は、
図10のサンプリングするクロックが遅延回路により遅延された時間に該当している。クロック信号がLowになった場合は、全てのスイッチSW1、SW2が非導通状態とされるため、各電圧レベルX
r+1(
図11と
図12に示したX
0,X
1,X
2,X
3) は、リセットされた状態になる。
【0087】
なお、ここでは基準電圧を1[V]としているが、例えば基準電圧を10[V]とした場合、コンパレータの閾値は5[V]となり、5[V]以上か未満で判定がされることになる。このように、基準電圧やコンパレータの閾値は、実装環境によって基準電圧を任意に設定してよい。
【0088】
この一括型の第2の実施形態に係るA/D変換回路は、1回のクロックでA/D変換を終了させるといった点で、従来のA/D変換回路として並列型(フラッシュ型)、またはパイプライン型に相当する。従来の並列型(フラッシュ型)では分解能が256階調の8ビットの場合、コンパレータ(オペアンプ)を255(=2
8-1)個必要とする。これに対して、第2の実施形態に係るA/D変換回路では、
図11に示す4ビットで段数に応じてテント写像演算回路1が3個であるので、8ビットではテント写像演算回路1が7個で済むことが分かる。1つのテント写像演算回路1にはオペアンプが3個含まれており、8ビット分の回路設計には、3 x 7 = 21個のオペアンプに、サンプルホールドと最後のコンパレータの2個を追加すると実質23個となることが分かる。
【0089】
更に分解能16ビットの回路を考えると、従来の並列型(フラッシュ型)は必要とするコンパレータ(オペアンプ)が65535(=2
16-1)個になるのに対し、本実施形態による構成では15段となるため、3 x 15 + 2 = 47個程度で一括変換が構成可能であることが分かる。また、並列型(フラッシュ型)A/D変換回路(
図24)では、各抵抗による分圧が閾値電圧として入力され、アナログ入力の電圧レベルとの区分けによるコンパレータ群による量子化後に、符号化のためのエンコード回路が必要であるが、テント写像による方式では、0.5以上か、0.5未満かでコンパレータによる1/0ビット抽出を行い、アナログ演算と同時にエンコードを行える性質のため、エンコード回路は不要となる。
【0090】
図13に、第3の実施形態に係るA/D変換回路の構成図を示す。この第3の実施形態は、反復型と称することができ、クロック信号のHighエッジを受け、1回のテント写像の演算を行い、Lowエッジにより演算結果の電圧レベルをサンプルホールドアンプ38で保持し、次のクロック信号のHighエッジを受けて2回目のテント写像の演算を行う。以下同様にクロック信号のHighエッジを受けてテント写像の演算を行うもので、1クロックに1ビットずつ繰り返し連続してグレイコードを抽出するタイプである。
【0091】
第3の実施形態に係るA/D変換回路は、サンプルホールドアンプ38、テント写像演算回路1、レジスタ32、スイッチSW0、SW1、SW2、制御部5を備えている。スイッチSW0は、A/D変換対象のアナログ入力信号をサンプルホールドアンプ38の入力端子に導く経路に設けられ、スイッチSW1は、サンプルホールドアンプ38の出力をテント写像演算回路1の入力端子に導く経路に設けられ、スイッチSW2は、テント写像演算回路1の出力信号をサンプルホールドアンプ38の入力端子に導く経路に設けられる。
【0092】
制御部5は、スイッチSW0、SW1、SW2の開閉制御を行う制御部である。制御部5は、第3の実施形態に係るA/D変換回路の分解能をNビットとした場合、最初のアナログ信号のサンプリングは、クロック信号のLowエッジを受けてスイッチSW0を導通状態とし、アナログ信号をサンプルホールドアンプ38へ取り込む。次に制御部5は、クロック信号のHighエッジでスイッチSW0を非導通状態とし、スイッチSW1を導通状態として、サンプルホールドされた電圧レベルを、テント写像演算回路1へ転送する。クロック信号における2回目からは、そのLowエッジでスイッチSW2を導通状態(スイッチSW1は非導通状態)とし、HighエッジでスイッチSW1を導通状態(スイッチSW2は非導通状態)とする制御を行い、テント写像演算回路1によるテント写像の演算結果の電圧レベルをサンプルホールドアンプ38に送り、以降”N−1“回繰り返しテント写像演算回路1においてテント写像の演算を行う。また、テント写像演算回路1内のコンパレータ24によって抽出されグレイコード端子Gから出力されたグレイコードは1ビットずつレジスタ32に蓄積されて、Nビット分蓄えられた時点で、バイナリ変換回路3へと転送されて変換がなされ、出力バッファ4を介し、最終的にデジタル値を得るように制御が行われる。このような動作を1セットとして繰り返し動作が行われ、Nビットずつの取得が可能である。
【0093】
この第3の実施形態に係るA/D変換回路は、第2の実施形態に係るA/D変換回路(一括型)に比べて時間を要するが、1回分のテント写像回路(テント写像演算回路1)が1つで済むため、オペアンプの個数としては4個となり、面積削減になる。回数の点では逐次比較型に近くなる。
【0094】
従来の逐次比較型ではD/A変換回路を搭載するため、分解能を大きくするほど回路規模も大きくなる、といった問題があった。逐次比較型との違いとして、この第3の実施形態に係るA/D変換回路は、一連のデジタル変換が終了するまで、初期電圧値をサンプルホールドアンプ38で保つ必要がなく、D/A変換回路がいらない(コンパレータのレファレンス電圧が0.5[V]のみでよい)ことが利点である。
【0095】
次に、第4の実施形態に係るA/D変換回路の説明を行う。この実施形態に係るA/D変換回路は、1回の写像につき、複数ビット出力する。1回の写像演算につき、2ビット分の出力を行う場合、以下の式(7)を使用する。
【0097】
式(7)のテント写像マップの幾何学的イメージは
図14に示すように、2つの山を持つようなテント写像になる。
X
r の範囲が、
【0099】
というように、式(7)の演算1回につき、ビット列を2ビット分出力して、分解能ビット数分を連続して、グレイコード(デジタル値)を取得する構成を備えている。
【0100】
例えば、4ビットの分解能を有する構成とする場合には、
図6に対応した初期値X
0の16種の範囲から、はじめに初期値 X
0 から2ビット分を出力し、次に初期値 X
0を用いて式(7)の演算を実行して得られたX
1 から2ビット分を得て、合わせて4ビット分のグレイコード(デジタル値)が得られるため、写像の演算は1回分を行うことで済む構成となっている。
【0101】
図15に、第4の実施形態に係るA/D変換回路の構成図を示す。このA/D変換回路は、制御部41、アナログ演算回路42、43、44及びスイッチSW1〜SW6を備えている。制御部41は、スイッチSW1〜SW6のオンオフを制御する制御信号を作成すると共に、入力端子40から到来する初期値及び演算結果をグレイコードのビット数に応じた閾値と比較する比較器を備えグレイコードを出力するものである。
【0102】
スイッチSW1は、入力端子40とアナログ演算回路42との間の経路に設けられ、スイッチSW2はアナログ演算回路43の出力端子とアナログ演算回路42の入力端子の間に設けられている。更に、スイッチSW3は、アナログ演算回路42の出力端子と出力端子49との間の経路に設けられ、スイッチSW4はアナログ演算回路42の出力端子とアナログ演算回路44の入力端子の間に設けられている。また、スイッチSW5は、アナログ演算回路43へレファレンス電圧0.75[V]を与えるためのスイッチであり、スイッチSW6は、アナログ演算回路43へレファレンス電圧0.25[V]を与えるためのスイッチである。
【0103】
アナログ演算回路42は、入力された信号を4倍する回路であり、アナログ演算回路43は入力信号X
r(Vin)を0.5 - X
r or 1.5 - X
rとする一次式の計算を行う回路であり、アナログ演算回路44は2を引く引き算を行う回路である。アナログ演算回路44は、ダイオード接続したNMOSトランジスタ44aのドレインにNMOSトランジスタ44bのドレインを接続し、この接続点を出力端子とした回路である。また、NMOSトランジスタ44aのソースとゲートの接続点にスイッチSW4が接続されて入力信号を取込可能とされている。NMOSトランジスタ44bのゲートには0.0[V]が与えられ、NMOSトランジスタ44bのソースには−2.0[V]が与えられている。
【0104】
制御部41には、コンパレータCMP51〜53が備えられている。コンパレータCMP51は、入力信号と閾値0.25[V]とを比較するもので、その出力をインバータ41aにより反転させて“-025A”を作成する。コンパレータCMP52は、入力信号と閾値0. 5[V]とを比較するもので、その出力“High05”を作成する。“High05”はスイッチSW4に対する制御信号であり、“High05”がHレベルのときSW4が閉成される。“High05”をインバータ41bにより反転させて“Low05”を作成する。“Low05”はスイッチSW3に対する制御信号であり、“Low05”がHレベルのときSW3が閉成される。
【0105】
コンパレータCMP53は、入力信号と閾値0.75[V]とを比較するもので、その出力“075-D”を作成する。“075-D”はスイッチSW5に対する制御信号であり、“075-D”がHレベルのときSW5が閉成される。“Low05”とコンパレータCMP51の出力をANDゲートにより論理積演算して“025-05B”を作成する。“025-05B”はスイッチSW6に対する制御信号であり、“025-05BがHレベルのときSW6が閉成される。
【0106】
コンパレータCMP53の出力“075-D”とANDゲート41cの出力信号“025-05B”はORゲート41eにより論理和演算され、この論理和信号はANDゲート41fによりクロック信号と論理積演算されスイッチSW2の制御信号が作成される。スイッチSW2の制御信号がHレベルのときにスイッチSW2が閉成される。
【0107】
また、ANDゲート41dにより作成された信号“05-075C”とインバータ41aの出力は、ORゲート41gにより論理和演算され、この論理和信号はANDゲート41hによりクロック信号と論理積演算されスイッチSW1の制御信号が作成される。スイッチSW1の制御信号がHレベルのときにスイッチSW1が閉成される。
【0108】
また制御部41には、それぞれの一方の入力端子が接続されたORゲート41i、41jが備えられている。ORゲート41iに信号“075-D”と信号“05-075C”とを与えてグレイコードの1ビット目の信号G1を得ると共に、ORゲート41jに信号“025-05B”と信号“05-075C”とを与えてグレイコードの2ビット目の信号G2を得るように構成されている。
【0109】
以上の通りに構成された第4の実施形態に係るA/D変換回路においては、入力端子40へ入力される入力信号X
r(V
in)が、X
r<0.25のとき、スイッチSW1、SW3が閉成されてX
r+1=4X
rの写像演算が実行される。また、入力端子40へ入力される入力信号X
r(V
in)が、0.25≦X
r<0.5のとき、スイッチSW2、SW3、SW6が閉成されてX
r+1=2−4X
rの写像演算が実行される。
【0110】
更に、入力端子40へ入力される入力信号X
r(V
in)が、0.5≦X
r<0.75のとき、スイッチSW1、SW4が閉成されてX
r+1=4X
r−2の写像演算が実行される。また、入力端子40へ入力される入力信号X
r(V
in)が、0.75≦X
rのとき、スイッチSW2、SW4、SW5が閉成されてX
r+1=4−4X
rの写像演算が実行される。
【0111】
第3の実施形態では写像の反復毎に1ビットずつ出力しているが、式(7)を使用する本第4の実施形態に係るA/D変換回路によれば、反復毎に2ビットずつ出力できるため、分解能のビット数が4とした場合、必要なクロック数は2でよい。第3の実施形態にあってはA/D変換に必要なクロック数が4であるのに対し、少ないクロックで済むことが分かる。
【0112】
本第4の実施形態に係るA/D変換回路は、従来例に係るA/D変換回路が用いていたD/A変換を使用せず、従来のパイプライン型A/D変換回路が採用していた残差アンプや1ビット出力毎のサンプルホールドアンプを使用しない特徴を有している。更に本第4の実施形態に係るA/D変換回路は、テント写像によるA/D変換において1回の写像で数ビットを出力できる写像関数を用意するので、フラッシュ型とパイプライン型を合わせたサブレンジ型のような、変換速度と回路面積、分解能精度のトレードオフ的な構成をとることが可能である。
【0113】
また、本第4の実施形態に係るA/D変換回路を用いて、例えば、分解能8ビットのA/D変換を行う装置を、
図11に示した第2の実施形態のような構成によって実現することができる。即ち、
図11に示すテント写像演算回路1−1〜1−3のそれぞれを
図15に記載の本実施形態に係るA/D変換回路によって置換し、
図11のコンパレータCMPを
図15に示す制御部41によって置換することになる。すると、本実施形態に係るA/D変換回路は、1つのA/D変換回路のコンパレータ(オペアンプ)を5個含むから、テント写像演算回路1−1〜1−3の3回路で、合計5×3=15個である。また、制御部41には、3個のコンパレータ(オペアンプ)が含まれるから15+3=18個となり、サンプルホールド1個を含めると合計19個である。これに対し並列型(フラッシュ型)で同様の分解能が8ビット回路を作成する場合にはコンパレータを255個必要とすることから、本実施形態が遥かに少ない部品点数で同じ分解能の回路を実現することが可能である。
【0114】
次に、第5の実施形態に係るA/D変換回路に適用される1回分演算部の説明を行う。式(1)の写像を1回分行う1回分演算部であるテント写像演算回路1を、既に
図10に示した。この
図10に示す反転増幅回路は負帰還型であり、“1 - X
r”を実行するが、応答時間(レイテンシ)が遅くなるという懸念と、複数段のカスケード接続を行う場合に、前段の回路に電流が生じることで演算精度に影響を及ぼす懸念を有している。そのため、上記反転増幅回路を例えばNMOSトランジスタを用いて構成することで、応答時間(レイテンシ)向上や演算精度向上、更に回路面積削減といった効果を上げることが期待できる。そこで、本実施形態のA/D変換回路では、テント写像式として、以下の式(8)を使用することができる。
【0116】
図16に、上記式(8)のテント写像マップの幾何学的イメージを示す。このテント写像マップはV字型のテント写像になり、値域[1,2]を反復する。X
r の範囲が、
X
r < 1.5 の時 ビット列 " 1 "
1.5 ≦ X
r の時 ビット列 " 0 "
を取得する。
【0117】
式(8)を実現する場合、
図17に示す各初期値X
0の範囲から写像を行い、グレイコードを生成し、バイナリ変換を行うことで、最終的なデジタル値を取得する。ところが、式(8)により上記のルールによってビット列を取得すると、
図17に示すように、バイナリ変換した値が降順(初期値X
0の昇順と逆)に生成されてしまう。このため、最後にバイナリ変換した値を反転することで、最終的に適正なデジタル値(昇順)を得ることができる。
【0118】
図10に示した反転増幅回路を、NMOSトランジスタに置き換えて構成したテント写像演算回路50を
図18に示す。この
図18に示すテント写像演算回路50は、式(8)を実現する1回分演算部である。即ち、テント写像演算回路50は、制御部51、第1の演算回路であるアナログ演算回路52、第2の演算回路であるアナログ演算回路53、第3の演算回路であるアナログ演算回路54、スイッチ群である(アナログ)スイッチSW1、SW2を備えている。
【0119】
スイッチ群であるスイッチSW1、SW2は、上記1回分演算部へ入力された信号を、上記第1の演算回路へ直接導くか、または、上記第2の演算回路を介して上記第1の演算回路へ導くか、経路を切り換えるスイッチ群である。
【0120】
制御部51は、上記1回分演算部へ入力された信号の大きさに基づき上記スイッチ群のオンオフを制御するものである。制御部51には、入力信号をグレイコード(1ビット)に変換するコンパレータ(比較器)56及びインバータ51aと、コンパレータ56の出力に基づきスイッチSW1、SW2を制御する制御信号を作成する論理回路55により構成される。ここでは、論理回路55は、ANDゲート55b、55c、ORゲート55dにより構成されている。論理回路55の出力は、
図11に示したカスケード接続を利用する場合の次段へ送るクロック信号となる。
【0121】
本実施形態では、テント写像関数が一次式に第1の定数を掛け、更に第2の定数を引く形式の関数であるため、アナログ演算回路52を、上記第1の定数を掛ける演算を行う第1の演算回路として構成し、アナログ演算回路53を、上記一次式の演算を行う第2の演算回路として構成し、更にアナログ演算回路54を、上記第2の定数を引く演算を行う第3の演算回路として構成している。
【0122】
アナログ演算回路(第1の演算回路)52は、
図8に示したオペアンプ30による非反転増幅回路のアナログ演算にて入力信号X
rまたは3 - X
rに定数2を掛ける演算を行う。
【0123】
アナログ演算回路(第2の演算回路)53は、X
r<1.5の場合に、
図16に示す"1.5"を折り返すようにして、"3 − X
r"の演算を、NMOSトランジスタ53a、53bで構成した引き算回路で行うものである。ここでアナログ演算回路(第2の演算回路)53は、
図19に示すように、ダイオード接続したNMOSトランジスタ53aのドレインに別のNMOSトランジスタ53bを接続して構成される。ダイオード接続したNMOSトランジスタ53aのゲートとソースの接続点に電圧値Vgsが与えられている。上記別のNMOSトランジスタ53bではゲートがVinに接続され、ソースがVsに接続されている。2つのNMOSトランジスタ53a、53bの接続点は出力端子であり、出力Voutの電圧レベルは、"Vout = Vgs - Vin + Vs (但しVin ≦ Vgs/2) "の関係にある。
【0124】
図20に、
図19に示したNMOSトランジスタ53a、53bによる回路のDC解析を行った結果を示す。この
図20では、Vinを 0.0[V]〜3.0[V]まで変化させた場合のVoutの電圧レベルを示している。"Vin≦Vgs/2(=1.5[V])"の範囲では、 Vout は 1.5[V]を境に Vin の電圧レベルに対して、Vgs=3.0[V]からの引き算を行った値が
図20にリニアに現れている。なお、DC解析の電圧条件については、Vgs=3.0[V]、Vs=0.0[V]である。
【0125】
アナログ演算回路(第3の演算回路)54は、アナログ演算回路(第2の演算回路)53と構成は同じである。アナログ演算回路(第3の演算回路)54では、アナログ演算回路(第1の演算回路)52の出力信号を、ダイオード接続したNMOSトランジスタのゲートとソースの接続点に入力している。この構成により、アナログ演算回路(第3の演算回路)54は入力から2を引く回路として機能する。
【0126】
図18において電圧レベル入力Vinに相当する"X
r"が、X
r<1.5のとき制御部51によりスイッチSW2が閉成され、1.5 ≦ X
r のとき、スイッチSW1が閉成される。以上の構成により、1.5 ≦ X
rのとき制御部51によりスイッチSW1が閉成(SW2は開放)され、アナログ演算回路52とアナログ演算回路54とが接続されて、X
r+1 ="2X
r - 2 "の演算を行う回路が構成され、X
r+1 が得られる。一方、X
r<1.5のとき制御部51によりスイッチSW2が閉成(SW1は開放)され、アナログ演算回路53とアナログ演算回路52とアナログ演算回路54が接続されて、X
r+1 =" 2(3 - X
r) - 2 (=4 - 2 X
r) "の演算を行う回路が構成され、X
r+1 が得られる。
【0127】
図18に示した、第5の実施形態に係るA/D変換回路に適用される1回分演算部は、
図10に示した1回分演算部と比較して、
図10の反転増幅回路により構成されるアナログ演算回路23をNMOSトランジスタにより構成されるアナログ演算回路53へ置き換えることで、応答時間(レイテンシ)向上、演算精度向上、また回路面積削減、といった効果が期待される。
【0128】
次に、第6の実施形態に係るA/D変換回路に適用される1回分演算部の説明を行う。
図21に、第6の実施形態に係るA/D変換回路に適用される1回分演算部であるテント写像演算回路であるテント写像演算回路20の回路図を示す。この1回分演算部であるテント写像演算回路20は、
図10に示した1回分演算部に対して、
図10の反転増幅回路により構成されるアナログ演算回路23をPMOSトランジスタ63a、63bによる構成で置き換えたものである。この1回分演算部であるテント写像演算回路20は、式(1)の写像演算を行うものである。
【0129】
図10のアナログ演算回路23を、PMOSトランジスタ63a、63bによる構成で置き換えたアナログ演算回路63は、" 1 - X
r "を実行する引き算回路であり、
図22に示すように2個のPMOSトランジスタで構成される。図の下側に示されるPMOSトランジスタ63bはソースとゲートがVs=0.0[V]に接続されている。このPMOSトランジスタ63bのドレインには別のPMOSトランジスタ63aのドレインが接続されている。上記別のPMOSトランジスタ63aのソースから電源がVdd=1.0[V]が供給され、そのPMOSトランジスタ63aのゲートに演算対象である入力電位レベルVinがX
r として供給されている。ソースとゲートがVs=0.0[V]に接続されたPMOSトランジスタ63bのドレインからの出力電圧 Voutは、" Vout = Vdd - Vin (但しVdd/2≦Vin) "の関係である。
【0130】
図23に、
図22のPMOSトランジスタ63a、63bにより構成される回路のDC解析を行った結果を示す。
図23には、入力電位レベルVinを 0.0[V]〜1.0[V]まで変化させた場合における、出力電圧レベルVoutの変化が示されている。"Vdd/2(=0.5[V]) ≦ Vin"の範囲では、 Vout は 0.5[V]を境に Vin の電圧レベルに対して、Vdd=1.0[V]からの引き算を行った値が、
図23にリニアに現れている。
【0131】
この第6の実施形態によれば、
図18に示した、第5の実施形態に係るA/D変換回路に適用される1回分演算部同様に、
図10に示した1回分演算部に対して、
図10の反転増幅回路により構成されるアナログ演算回路23をPMOSトランジスタ63a、63bによる構成で置き換え構成することで、応答時間(レイテンシ)向上や演算精度向上、また回路面積削減といった効果を上げることができる。
【0132】
本願発明の利用分野などを説明する。本発明は、アナログ電圧値をデジタル値に変換するA/D変換に使用可能である。特に、並列型(フラッシュ型)のように高速変換が必要とされるビデオ用途などに利用すると好適である。また、未知な高い周波数成分を含む、自然な波の科学技術解析や、センサによる信号のサンプリングの用途にも好適である。