(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「〜」はその端点を含む。すなわち「X〜Y」はXおよびYの値を含む。また、「XまたはY」はX、Yのいずれか一つ、あるいは双方を意味する。
【0011】
1.印刷用塗工紙
印刷用塗工紙とは原紙の上に設けられた顔料塗工層を備える印刷用の紙である。顔料塗工層とは白色顔料を主成分とする層である。本発明の印刷用塗工紙は、用紙表面にオフセット印刷、グラビア印刷、オンデマンド印刷(レーザー方式、インクジェット方式、電子写真方式)、などの商業印刷を施すことができ、用途しては書籍、雑誌、ポスター、封筒、カレンダーなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
(1)顔料塗工層
1)顔料
顔料塗工層は1層であってもよく、2層以上であってもよい。本発明においては公知の顔料を用いることができる。その例としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーテッドクレー、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどの無機顔料および密実型、中空型、またはコアーシェル型などの有機顔料が挙げられる。
【0013】
最外顔料塗工層は平均粒子径(D50)が0.80μm以下の炭酸カルシウム(以下、「第1の炭酸カルシウム」ともいう)を含むことが好ましい。D50は体積50%平均粒子径である。沈降法による顔料の粒度分布およびD50は、Malvern社製、マスターサイザー3000等により測定可能である。炭酸カルシウムのD50の上限は0.75μm以下であることが好ましく、0.70μm以下であることが好ましい。下限は0.50μm以上であることが好ましい。
【0014】
最外顔料塗工層が原紙の両面に存在する場合は、少なくとも一方の面の最外顔料塗工層が第1の炭酸カルシウムを含むことが好ましい。
【0015】
最外顔料塗工層における第1の炭酸カルシウムの配合量の下限は、当該顔料塗工層中の顔料100重量部中、40重量部以上であることが好ましく、45重量部以上であることが好ましい。しかしながら最外顔料塗工層の第1の炭酸カルシウムの配合量が多すぎると白紙光沢度が過度に上昇してマット調が損なわれるのでその上限は当該顔料塗工層中の顔料100重量部中、70重量部以下であることが好ましく、60重量部以下であることがより好ましく、55重量部以下であることがさらに好ましい。第1の炭酸カルシウムは、重質炭酸カルシウムまたはパルプ製造工程の苛性化工程で製造された軽質炭酸カルシウム(苛性化軽質炭酸カルシウム、特許5274077号公報参照)であることが好ましい。
【0016】
最外顔料塗工層中の第1の炭酸カルシウム以外の白色顔料として、前述のとおりの当該分野で通常使用されている顔料を用いることができる。第1の炭酸カルシウム以外の白色顔料として、D50が0.80μmを超える重質炭酸カルシウムまたは軽質炭酸カルシウム(以下、「第2の炭酸カルシウム」ともいう)を用いることが好ましい。炭酸カルシウムは接着剤(バインダー)との結着性に優れかつ白色度を向上するので、インキ乾燥性を向上し、さらに高い白色度および印刷適性を達成できる。最外顔料塗工層中の顔料100重量部中、第1および第2の炭酸カルシウムの合計量は90重量部以上が好ましく、100重量部がより好ましい。それ以外の顔料塗工層中の第1および第2の炭酸カルシウムの合計量は限定されないが前記範囲であることが好ましい。第2の炭酸カルシウムは、重質炭酸カルシウムまたは苛性化軽質炭酸カルシウムであることが好ましい。
【0017】
最外塗工層以外の顔料塗工層は任意の顔料を含んでいてよいが、炭酸カルシウムであることが好ましい。コスト等を勘案すると、最外層以外の炭酸カルシウムは第2の炭酸カルシウムであることが好ましい。
【0018】
2)接着剤
顔料塗工層はマトリックスとして接着剤(バインダー)を含む。接着剤は限定されず、公知の接着剤を使用できる。その例としては、スチレン・ブタジエン系共重合体、スチレン・アクリル系共重合体、エチレン・酢酸ビニル系共重合体、ブタジエン・メチルメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル・ブチルアクリレート系共重合体、無水マレイン酸共重合体、アクリル酸・メチルメタクリレート系共重合体等のラテックス;完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類;カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白質類;酸化澱粉、陽性澱粉、尿素燐酸エステル化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉などのエーテル化澱粉、デキストリン等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体等が挙げられる。これらの複数種を組合せて使用できる。
【0019】
接着剤の量は、印刷適性、塗工適性の点から、全顔料塗工層中の顔料100重量部に対して5〜30重量部であることが好ましく、8〜25重量部であることがより好ましい。接着剤の総量が25重量部を越える場合、顔料塗工液の粘度が高くなり塗工時に操業トラブルが生じ易い。さらに、インキの乾燥性が低下する傾向が見られる。一方、接着剤の総量が5重量部未満であると十分な表面強度を得にくくなる。
【0020】
本発明の印刷用塗工紙は、全接着剤中10〜80重量%の、エマルションの形態のスチレン・ブタジエン系共重合体ラテックスを含むことが好ましく、15〜70重量%のラテックスを含むことが好ましい。本発明の印刷用塗工紙は2層以上顔料塗工層を備えるが、原紙に最も近い層は全接着剤中10〜80重量%のラテックスを含むことが好ましく、原紙に遠い層は30〜60重量%のラテックスを含むことが好ましい。他の接着剤としては澱粉類を用いることが特に好ましく、その量は原紙に最も近い層では全接着剤中30〜90重量%であることが好ましく、原紙に遠い層では40〜70重量%であることが好ましい。ラテックスと比較して澱粉類は顔料塗工液の保水性を高めるため、原紙への塗工液の沈み込みが生じにくく、顔料塗工層で原紙を効果的に被覆することができる。言い換えれば、澱粉類を使用すると、顔料塗工層による原紙の被覆性が良好となる。その結果、印刷品質、特に印刷光沢度の向上と、インキ乾燥性の向上が期待できる。本発明においては、ラテックスと澱粉類の割合が、3:5〜5:7であることが好ましい。
【0021】
3)他の添加剤
顔料塗工層は、必要に応じて、分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、染料、着色用顔料等、通常の塗工紙用顔料に配合される各種助剤を含んでいてもよい。本発明においては、前述の白色顔料より大きな粒子径を有する有機物粒子を用いることが好ましい。当該有機物粒子を原紙から最も遠い最外塗工層に含有することで、印刷後の紙同士の擦れによる紙面汚れが低減し、印刷適性を向上させることができる。有機物粒子としては蒸煮をしていない澱粉粒が好ましく、前述の顔料に対し0.5〜10重量%含有させることで、上記効果を得ることができる。有機物粒子の粒子径は、レーザー回析式粒度分布測定機で測定した平均粒子径(D50)が8〜25μmであることが好ましい。
【0022】
4)塗工量
顔料塗工層の塗工量は、片面あたり固形分で2g/m
2以上が好ましく、5g/m
2以上がより好ましく、10g/m
2以上がさらに好ましい。塗工量が5g/m
2未満では、紙基材表面の凹凸を十分に覆うことができないため、印刷インキの受理性が低下することがある。一方、顔料塗工層の塗工量は、50g/m
2以下が好ましく、40g/m
2以下がより好ましく、35g/m
2以下がさらに好ましい。当該塗工量は片面あたりの全顔料塗工層の合計の値であるが、最内顔料塗工層(原紙に隣接する顔料塗工層)の塗工量は2〜15g/m
2が好ましく、より好ましくは5〜12g/m
2である。また、最外顔料塗工層の塗工量は6〜20g/m
2が好ましく、より好ましくは8〜15g/m
2である。インキ乾燥性および手触りを含めた質感には、最外塗工層の影響が大きいため、最外塗工層の塗工量は最内顔料塗工層の塗工量よりも多いことが好ましい。
【0023】
(2)原紙
1)パルプ
原紙には公知のパルプを使用できる。公知のパルプとしては、化学パルプ、砕木パルプ(GP)、リファイナー砕木パルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケモサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)、古紙パルプなどが挙げられる。本発明においては、化学パルプを使用することが好ましい。化学パルプには、クラフトパルプ法により製造したものと、亜硫酸パルプ法により製造されたものがあり、本発明においてはその両方を使用することができるが、クラフト法により製造した化学パルプが生産コストの面から好適である。原料パルプに占める化学パルプの含有量は、白色度等の観点から、全パルプ中60重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、95重量%以上が特に好ましい。
【0024】
2)填料
原紙には公知の填料を用いてよい。公知の填料としては、重質炭酸カルシム、軽質炭酸カルシウム、クレー、シリカ、軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物、カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン、ホワイトカーボン、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化チタン、ケイ酸ナトリウムの鉱酸による中和で製造される非晶質シリカ等の無機填料や、尿素−ホルマリン樹脂、メラミン系樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂などの有機填料が挙げられる。この中でも、中性抄紙やアルカリ抄紙における代表的な填料である重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウムが不透明度向上のためにも好ましく使用される。填料として使用する炭酸カルシウムは前述の第1の炭酸カルシウムであってもよいし第2の炭酸カルシウムであってもよいが、軽質炭酸カルシウムが好ましい。紙中填料率は特に制限されないが、1〜40重量%が好ましく、10〜35重量%がさらに好ましい。原紙の強度等を考慮すると、より好ましくは10〜20重量%である。
【0025】
3)その他
公知の製紙用添加剤も使用できる。例えば、硫酸バンドや各種のアニオン性、カチオン性、ノニオン性あるいは、両性の歩留まり向上剤、濾水性向上剤、各種紙力増強剤や内添サイズ剤等の抄紙用内添助剤を必要に応じて使用することができる。乾燥紙力向上剤としてはポリアクリルアミド、カチオン化澱粉などが挙げられ、湿潤紙力向上剤としてはポリアミドアミンエピクロロヒドリンなどが挙げられる。これらの薬品は地合や操業性などの影響の無い範囲で添加される。内添サイズ剤としてはアルキルケテンダイマーやアルケニル無水コハク酸、ロジンサイズ剤などが挙げられる。更に、染料、顔料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等も必要に応じて添加することができる。
【0026】
4)原紙の坪量
本発明の印刷用塗工紙の原紙の坪量は40〜160g/m
2が好ましく、45〜150g/m
2がより好ましく、50〜140g/m
2がさらに好ましい。
【0027】
5)クリア塗工層
本発明の印刷用塗工紙は、上述した原紙の片面または両面にクリア(透明)塗工層を有していてもよい。原紙上にクリア塗工を施すことにより、原紙の表面強度や平滑性を向上させることができ、また、顔料塗工をする際の塗工適性を向上させることができる。クリア塗工の量は、片面あたり固形分で0.1〜3.0g/m
2が好ましく、0.2〜2.0g/m
2がより好ましく、さらに好ましくは0.5〜2.0g/m
2である。
【0028】
本発明においてクリア塗工とは、例えば、2ロールポンドサイズプレス、ゲートロールコーター、プレメタリングサイズプレス、カーテンコーター、スプレーコーターなどのコータ(塗工機)を使用して、澱粉、酸化澱粉、各種変性澱粉(自家変性、カチオン変性等)などの澱粉類、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子を主成分とする塗布塗工液(表面処理液)を、原紙上に塗布塗工(サイズプレス)することをいう。クリア塗工液にサイズ剤を含有させて塗工することもできる。本発明においては澱粉を塗工することが好ましい。
【0029】
2.製造方法
本発明の印刷用塗工紙は公知の方法で製造できるが、原紙上に、顔料と接着剤を含む顔料塗工液を塗工することにより製造することが好ましい。
(1)原紙の調製
本発明で用いられる原紙に使用される原料についてはすでに述べたとおりである。原紙は公知の抄紙方法で製造される。例えば、トップワイヤー等を含む長網抄紙機、オントップフォーマー、ギャップフォーマ、丸網抄紙機、長網抄紙機と丸網抄紙機を併用した板紙抄紙機、ヤンキードライヤーマシン等を用いて行うことができる。抄紙時のpHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれでもよいが、中性またはアルカリ性が好ましい。抄紙速度も特に限定されない。本発明で用いられる原紙は、単層でも多層でもよいが、単層の原紙が好適に使用される。
【0030】
(2)原紙の平滑化処理
得られた原紙に顔料塗工液を塗工する前に、各種カレンダー装置により原紙に平滑化処理を施すことが好ましい。かかるカレンダー装置としては、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー等の一般に使用されているカレンダー装置が適宜使用できる。カレンダー仕上げ条件としては、剛性ロールの温度、カレンダー圧力、ニップ数、ロール速度、カレンダー前の紙水分等が、要求される品質に応じて適宜選択される。本発明においては、マット調の風合いを維持したまま平滑性を付与するために原紙にカレンダー処理を施すことが好ましい。原紙にカレンダー処理を施すことで、原紙の平滑性が向上し、顔料塗工適性が向上する。
【0031】
(3)顔料塗工液の調製
顔料塗工液は顔料、接着剤、および必要に応じて添加剤を水に分散または溶解することで調製できる。前述顔料塗工層を形成できるように各成分の配合は調整される。ブレード塗工を行う場合は、顔料塗工液の固形分濃度は40〜70重量%が好ましく、より好ましくは60〜70重量%である。顔料塗工液の粘度は室温にて60rpmで測定したB型粘度が500〜5000mPa・sの範囲であることが好ましい。また、ロールコーターで塗工を行う場合は、顔料塗工液の固形分は50〜70重量%が好ましく、より好ましくは60〜70重量%である。固形分重量が低すぎるとバックフロー等が起きてしまい、高すぎるとブレード負荷が大きくなりブレードの摩耗が進むなど、操業性に影響が出る。
【0032】
(4)塗工方法
塗工方法は限定されず、ロールコーター、ブレードコーター等の公知の塗工方法を用いることができる。塗工速度も特に限定されないが、ブレードコーターの場合は400〜1800m/分、ロールコーターの場合は400〜2000m/分が好ましい。本発明においては、顔料塗工層を1層ブレードコーターで塗工してもよく、ロールコーターで塗工した後にブレードコーターで塗工してもよいし、ブレードコーターで塗工した後にブレードコーターで塗工してもよいが、表面の平滑性を向上させることができるため、最外塗工層の塗工にブレードコーターを用いることが好ましい。
【0033】
本発明の印刷用塗工紙は印刷光沢度を上げるため2層以上の顔料塗工層を設けることが好ましい。顔料塗工層を2層以上とすることで繊維被覆性が向上し、平滑度も高くなる。3層以上とすると塗工量を増やすことができるため塗工紙の品質は向上するが、コストや操業性の点から層数は2層であることが好ましい。前述のとおり原紙の上にクリア塗工層を設け、その上に2層以上の顔料塗工層を設けてもよい。
【0034】
(5)その他の工程
湿潤状態の塗工層を乾燥させる方法は限定されず、例えば蒸気加熱シリンダ、加熱熱風エアドライヤ、ガスヒータードライヤ、電気ヒータードライヤ、赤外線ヒータードライヤ等を用いることができる。
【0035】
本発明印刷用塗工紙は、以上のように製造した塗工紙を必要に応じて表面処理してもよいが、本発明のマット調の風合が得にくくなるため、カレンダー処理を行わないことが望ましい。カレンダー処理を行う場合には、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー等の一般に使用されているカレンダー装置が適宜使用できる。カレンダー仕上げ条件としては、剛性ロールの温度、カレンダー圧力、ニップ数、ロール速度、カレンダー前の紙水分等が、要求される品質に応じて適宜選択されるが、本発明の印刷用塗工紙においては、マット調の風合いを出すために、低圧でのカレンダー処理が好ましい。
【0036】
3.紙質
(1)白紙光沢度
白紙光沢度は白紙での光沢度合いを示す指標であり、本発明においてはJIS−P8142に従い測定される。本発明の印刷用塗工紙は、前述の通り白紙光沢と印刷光沢の差異が大きなマット調の印刷用塗工紙であるため、白紙光沢度は20〜40%である。その上限は35%以下が好ましく、30%未満がより好ましい。
【0037】
(2)動摩擦係数
動摩擦係数はJIS P8147に準じて測定される。JIS P8147では、同一サンプルを用いて動的摩擦係数を3回ずつ測定するが、本発明においては3回目の値を動的摩擦係数とする。動摩擦係数は0.25〜0.45である。動摩擦係数がこの範囲にあるとしっとりとした質感が得られる。この観点から動摩擦係数の下限は0.3以上が好ましく、上限は4.0以下が好ましい。静摩擦係数も同様にJIS P8147に準じて測定され、本発明においては1回目の値を採用する。静的摩擦係数は0.3〜0.7であることが好ましい。
【0038】
(3)インキ乾燥性
本発明の印刷用塗工紙は、印刷光沢度が高いにもかかわらずインキ乾燥性に優れる。印刷用塗工紙のインキ乾燥性の優劣は、一般的に印刷後の印字物を重ねた際にインキが他方に転移する裏移りや印刷面の擦れ汚れなどを確認することで識別される。
【0039】
(3−1)細孔容積等による評価
本発明においては、低圧条件下で測定できる窒素吸着法を用いて顔料塗工層の細孔構造を定評的に評価することで、印刷用塗工紙のインキ乾燥性を評価できる。顔料塗工層と溶剤吸収性との関係については、顔料塗工層中に存在する多数の微細な孔を毛細管の集合体として捉えた(1)式に示すLucas−Washburnの式が広く用いられている。ここで、Lは溶剤の浸透深さ、rは毛細管の平均半径、tは時間、γは溶剤の表面張力、θは毛細管壁と溶剤の接触角、ηは溶剤の粘度である。そして、顔料塗工層の細孔構造を平均半径rの円筒菅がn個並んだものと仮定すると、顔料塗工層へのインキ溶剤浸透量νは式(2)で表されるから、式(1)は式(3)のように変形できる。dは顔料塗工層の厚さ、Vは顔料塗工層の細孔容積、kはインキの粘度である。つまり、顔料塗工層中の細孔直径、細孔容積が大きいほど、また顔料塗工層厚さが小さいほど一定時間あたりの溶剤浸透量は多くなり、インキ乾燥性は向上すると考えられる。本発明においては、トライスター3000によって得られた細孔容積を、顔料塗工層の細孔容積とみなし、平均細孔直径を、顔料塗工層の平均細孔直径とみなす。
【0041】
本発明の印刷用塗工紙の細孔容積Vは、0.04〜0.09cm
3/gである。細孔容積Vがこの範囲にあるとインキ乾燥性に優れる。この観点から、細孔容積Vの下限は0.05cm
3/g以上であることが好ましい。上限は0.085cm
3/g以下であることが好ましく、0.08cm
3/g以下であることがより好ましい。
【0042】
本発明の印刷用塗工紙の全細孔容積(cm
3/m
2)は、細孔容積V(cm
3/g)×塗工量c(g/m
2)により定義され、その値は0.55cm
3/m
2以上が好ましく、0.60cm
3/m
2以上がより好ましく、0.80cm
3/m
2以上がさらに好ましい。全細孔容積の上限は、1.00cm
3/m
2以下が好ましく、0.95cm
3/m
2以下がより好ましい。
【0043】
本発明の印刷用塗工紙の平均細孔直径mは20〜80nmであることが好ましい。平均細孔直径mの上限は60nm以下であることが好ましく、下限は30nm以上であることが好ましい。具体的に本発明において平均細孔直径は、窒素吸着法によって得られた脱着等温線より求められる。本願では、トライスター3000によって得られた平均細孔直径を、顔料塗工層の平均細孔直径とみなす。
【0044】
(4)印刷光沢度(光沢度差)
印刷光沢度は、印刷後の印刷物の光沢度合を示す指標であり、本発明においては後述の方法で測定される。印刷光沢度(CM)は45以上が好ましく、50%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。印刷光沢度の上限は限定されないが、75%未満が好ましい。また、本発明においては、印刷光沢度から白紙光沢度を差し引いた光沢度差は、15以上であれば印刷部と白紙部の光沢の差異が十分に得られており、より鮮明な印刷物であるといえる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するがこれらによって本発明は限定されない。重量部および重量%は固形分換算の値である。
【0046】
<評価方法>
(1)坪量:JIS P 8124に準じて測定した。
(2)紙厚:JIS P 8118に準じて測定した。
(3)密度:JIS P 8118に準じて坪量と紙厚から求めた。
(4)白紙光沢度
JIS−P8142に基づいて測定した。
【0047】
(5)インキ乾燥性
ローランド社製オフセット枚葉印刷機(4色)にてオフセット枚葉用インキ(東洋インキ製NEX−M)を用い、印刷速度8000枚/hrでベタ部のインキ着肉濃度が墨2.00となるように印刷したあと、墨ベタ印刷部を印刷直後から10分ごとに指先で触り、インキ乾燥の速さの程度を以下の基準で官能評価した。
A:良好
B:不良
【0048】
(6)印刷光沢度(光沢度差)
ローランド社製オフセット枚葉印刷機(4色)にてオフセット枚葉用インキ(東洋インキ(株)製NEX−M)を用い、印刷速度8000枚/hrでベタ部のインキ着肉濃度が藍1.60、紅1.50となる様に藍紅(CM)の順に印刷した。得られた印刷物の藍紅(CM)ベタ印刷部の光沢度を、JIS P−8142に基づいて測定した。印刷光沢度から白紙光沢度を差し引いた値を光沢度差とし、光沢度差が15ポイント以上であれば印刷部と白紙部の光沢の差異が十分に得られており、見栄えのよい印刷物といえる。
光沢度差=印刷光沢度(%)−白紙光沢度(%)
【0049】
(7)細孔容積等
(i)サンプル調製と測定
窒素吸着法により、塗工紙の細孔容積、全細孔容積、平均細孔直径を求めた。
(サンプルの調製)
縦40cm×横15cmの紙サンプルを厚さ方向に均等になるよう2層に分割し、顔料塗工層と原紙層を含む積層体を得た。両面塗工紙の場合は当該積層体が2つ、片面塗工紙の場合は当該積層体が1つと主として原紙層からなる層が1つ得られる。顔料塗工層と原紙層を含む積層体をサンプルシートとして測定に使用した。両面塗工紙の場合はいずれか一方をサンプルシートとして測定に使用した。サンプルシートの坪量t(g/m
2)を測定した。1枚のサンプルシート中の任意の4点を選択し、短冊状に断裁した後、測定サンプルが絶乾重量1〜2g程度となるように測定セルに入れた。この時の絶乾重量をw(g)とした。真空状態、処理温度120℃で一晩前処理を行った。
【0050】
(測定)
前記装置を用いて前記測定サンプルの顔料塗工層側から細孔容積および平均細孔直径を測定した。具体的には、脱着等温線よりBJH法を用いて前記測定サンプルの細孔容積および平均細孔直径を求め、4サンプルの平均値を取り、測定サンプルの細孔容積V’および平均細孔直径m’とした。細孔容積V’については単位塗工量当たりの値に換算して本発明の顔料塗工層の細孔容積Vとした。得られた平均細孔直径m’については、そのまま本発明の顔料塗工層の平均細孔直径mとした。測定サンプルの顔料塗工層重量は、顔料塗工層重量(g)=測定サンプルの絶乾重量w(g)×塗工量c(g/m
2)÷サンプルシートの坪量t(g/m
2)から算出した。塗工量c(g/m
2)は後述する測定方法により求めた。測定および解析には、株式会社島津製作所製トライスター3000を使用した。
【0051】
(塗工量)
特許第5827187号に記載の方法に準じて、塗工量を測定した。具体的には以下の手順により測定した。
1)測定サンプル(紙)を5cm×5cmの大きさに切断し、温度23℃、相対湿度50%で調湿後重量xを測定した。
2)スチレンポリマー板上に顔料塗工層が接するように当該サンプルを置き、時計皿で挟みクリップで固定した。
3)120〜150℃の乾燥機に入れ、スチレンポリマーを溶融させ顔料塗工層と密着させ、放冷した後、温度23℃、相対湿度50%で約半日調湿して重量yを測定した。
4)前工程で得た測定サンプルを銅エチレンジアミン溶液に約3〜4時間浸漬した後、刷毛を用いて原紙層と顔料塗工層を慎重に剥離した。顔料塗工層に付着したパルプ繊維がなくなるまで、この工程を繰り返した。
5)顔料塗工層を水洗いし乾燥させ、温度23℃、相対湿度50%で約半日調湿後、重量zを測定した。
6)以下の式によって、塗工量を算出した。
塗工量c(g/m
2)=(x−A)×400
A=y−z
【0052】
(8)摩擦係数
JIS P8147に準じて測定した。ただし、3回の繰返し測定において、静的摩擦係数は1回目の測定値を採用し、動的摩擦係数は3回目の測定値を採用した。
【0053】
(9)シルク調
シルク調の風合いを以下の基準で官能評価した。
A:良好
B:不良
【0054】
(10)網点ムラ
ローランド社製オフセット枚葉印刷機(4色)にてオフセット枚葉用インキ(東洋インキ(株)製NEX−M)を用い、印刷速度8000枚/hrでベタ部のインキ着肉濃度が藍1.60、紅1.50となる様に藍紅(CM)の順に印刷した。得られた印刷物の藍紅(CM)ハーフトーン(50%)印刷部の着肉ムラを目視で評価した。評価が4、3であれば実用上問題はない。
4:きわめて良好
3:良好
2:若干劣る
1:劣る
【0055】
[実施例1]
化学パルプ100重量%を用い、紙中灰分が13.5重量%となるように軽質炭酸カルシウムを添加し、坪量97.9g/m
2の原紙を準備した。
顔料として重質炭酸カルシウム(株式会社ファイマテック製、商品名:NP、D50=0.6μm)45重量部および重質炭酸カルシウム(株式会社ファイマテック製、商品名:FMT97、D50=0.88μm)55重量部を用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン系共重合ラテックスを4重量部、酸化澱粉を6重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の顔料塗工液を得た。
前記原紙上に、顔料塗工液をブレードコーターで両面塗工し乾燥し印刷用塗工紙を得た。片面あたりの乾燥塗工量は15.0g/m
2であった。当該印刷用塗工紙について、前述の方法にて評価した。
【0056】
[実施例2]
最外層の片面塗工量を15.3g/m
2に変更した以外は、実施例1と同様に印刷用塗工紙を製造し、評価した。
【0057】
[実施例3]
顔料として重質炭酸カルシウム(株式会社ファイマテック製、商品名:FMT97、D50=0.88μm)100重量部を用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン系共重合ラテックスを7重量部、酸化澱粉を3重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の下塗り顔料塗工液を得た。
顔料として重質炭酸カルシウム(株式会社ファイマテック製、商品名:FMT100、D50=0.66μm)44.5重量部および重質炭酸カルシウム(株式会社ファイマテック製、商品名:FMT97、D50=0.88μm)55重量部を用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン系共重合ラテックスを4重量部、酸化澱粉を6重量部、蒸煮をしていない澱粉粒(日本コーンスターチ社製、商品名:Y−3P)を0.5重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の上塗り顔料塗工液を得た。
前記原紙上に、下塗り顔料塗工液をブレードコーターで片面あたりの乾燥塗工量が10.0g/m
2となるように両面塗工し乾燥した。さらに、その上に上塗り顔料塗工液をブレードコーターで片面あたりの乾燥塗工量が8.0g/m
2となるように両面塗工し、印刷用塗工紙を得た。当該印刷用塗工紙について、前述の方法にて評価した。
【0058】
[実施例4]
顔料として自製軽質炭酸カルシウム(D50=1.02μm)を3重量部および自製軽質炭酸カルシウム(D50=1.38μm)を97重量部用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン系共重合ラテックスを2.5重量部、酸化澱粉を21重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度50重量%の下塗り顔料塗工液を得た。
顔料として自製軽質炭酸カルシウム(D50=1.02μm)55重量部および自製軽質炭酸カルシウム(D50=0.64μm)44.5重量部を用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン系共重合ラテックスを4重量部、酸化澱粉を6重量部、蒸煮をしていない澱粉粒(日本コーンスターチ社製、商品名:Y−3P)を0.5重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の上塗り顔料塗工液を得た。
前記原紙上に、下塗り顔料塗工液をゲートロールコーターで片面あたりの乾燥塗工量が4.5g/m
2となるように両面塗工し乾燥した。さらに、その上に上塗り顔料塗工液をブレードコーターで片面あたりの乾燥塗工量が10.5g/m
2となるように両面塗工し、印刷用塗工紙を得た。当該印刷用塗工紙について、実施例1と同様に評価した。
【0059】
[比較例1]
顔料として重質炭酸カルシウム(株式会社ファイマテック製、商品名:FMT97、D50=0.88μm)を100重量部、接着剤としてスチレン・ブタジエン系共重合ラテックスを8重量部、酸化澱粉を6重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の顔料塗工液を得た。当該塗工液を用いて実施例1と同様にして1層の顔料塗工層を有する印刷用塗工紙を製造し、評価した。
【0060】
[比較例2]
顔料として自製軽質炭酸カルシウム(D50=1.02μm)を20重量部および自製軽質炭酸カルシウム(D50=1.38μm)を80重量部用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン系共重合ラテックスを2.5重量部、酸化澱粉を21重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度50重量%の下塗り顔料塗工液を得た。
顔料として自製軽質炭酸カルシウム(D50=1.02μm)95重量部および微粒クレー(イメリス製、商品名:アストラグレース、D50=0.23μm)5重量部を用い、これに接着剤としてスチレン・ブタジエン系ラテックスを5.8重量部、酸化澱粉を5.3重量部配合して、さらに水を加えて固形分濃度66重量%の上塗り顔料塗工液を得た。
前記原紙上に、下塗り顔料塗工液をゲートロールコーターで片面あたりの乾燥塗工量が4.5g/m
2となるように両面塗工し乾燥した。さらに、その上に上塗り顔料塗工液をブレードコーターで片面あたりの乾燥塗工量が10.5g/m
2となるように両面塗工し、印刷用塗工紙を得た。当該印刷用塗工紙について、実施例2と同様に評価した。
【0061】
[比較例3〜5]
下塗り顔料塗工液、および上塗り顔料塗工液を表1に示すものに変更し、下塗り顔料塗工液をブレードコーターで片面あたりの乾燥塗工量が10.5g/m
2、上塗り顔料塗工液をブレードコーターで片面あたりの乾燥塗工量が8.5g/m
2となるようにそれぞれ両面塗工した以外は、実施例3と同様にして印刷用塗工紙を製造し、評価した。
【0062】
[比較例6、7]
上塗り顔料塗工液を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工紙を製造し、評価した。
【0063】
【表1】
【0064】
本発明の印刷用塗工紙は、マット調およびシルク調の風合いを有し、かつインキ乾燥性に優れることが明らかである。