特許第6633306号(P6633306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6633306
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】粘着テープ
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/24 20180101AFI20200109BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20200109BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20200109BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20200109BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20200109BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20200109BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20200109BHJP
【FI】
   C09J7/24
   C09J201/00
   C08L27/06
   C08K5/098
   C08L67/00
   C08K5/10
   C08L101/00
【請求項の数】6
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-133295(P2015-133295)
(22)【出願日】2015年7月2日
(65)【公開番号】特開2016-194033(P2016-194033A)
(43)【公開日】2016年11月17日
【審査請求日】2018年5月24日
(31)【優先権主張番号】特願2015-75201(P2015-75201)
(32)【優先日】2015年4月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512088659
【氏名又は名称】台灣日東電工股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】原田 智仁
(72)【発明者】
【氏名】陳 柏鈞
【審査官】 澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−201911(JP,A)
【文献】 特開2011−084615(JP,A)
【文献】 特開2003−138206(JP,A)
【文献】 特開2000−303049(JP,A)
【文献】 特開2002−105268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑剤を含有するポリ塩化ビニルフィルムと、
該フィルムの少なくとも一方の表面に配置された粘着剤層と
を含み、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、前記可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルとを含み、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、さらに脂肪酸金属塩を含み、
加熱減量が4%未満であり、かつ
保持力が50分以上である、粘着テープ。
【請求項2】
前記脂肪酸金属塩は、周期表の1族、2族、12族、13族および14族(ただしPbを除く。)のいずれかに属する少なくとも1種の金属元素を含む、請求項に記載の粘着テープ。
【請求項3】
前記脂肪酸金属塩は、Li、Na、Ca、Mg、Zn、BaおよびSnからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含む、請求項2に記載の粘着テープ。
【請求項4】
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、該フィルムに含まれる前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤の重量(WPLH)と、該フィルムに含まれる前記分子量1000未満のカルボン酸エステルの重量(WPLL)との関係が、以下の式:
1≦(WPLH/WPLL)≦50;
を満たす、請求項1から3のいずれか一項に記載の粘着テープ。
【請求項5】
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、酸化防止剤を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の粘着テープ。
【請求項6】
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、エラストマーを含む、請求項1からのいずれか一項に記載の粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルムを備えた粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
PVCフィルムの少なくとも一方の表面に粘着剤層が配置された粘着テープ(以下「PVC粘着テープ」ともいう。)は、その作業性の良さから、電気絶縁用、包装用、保護用等の各種用途に広く用いられている。PVC粘着テープに関する従来技術文献として特許文献1および2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−259909号公報
【特許文献2】特開2009−249510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、耐熱劣化性に優れ、長期間安定な粘着力を示すPVC粘着テープを得るために、特定の粘度範囲を有するポリエステル系可塑剤をPVCフィルムに配合し、かつ粘着剤層にフェノール系酸化防止剤を添加したゴム系粘着剤を使用することが提案されている(第0007段落等)。しかし、PVC粘着テープの用途によっては耐熱劣化性の要求レベルが高く、特許文献1に記載の技術では要求を満たせない場合がある。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、耐熱劣化性が改善されたPVC粘着テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明により提供される粘着テープは、可塑剤を含有するポリ塩化ビニルフィルム(PVCフィルム)と、該PVCフィルムの少なくとも一方の表面に配置された粘着剤層とを含む。上記粘着テープは、加熱減量が4%未満である。また、上記粘着テープは、好ましくは保持力が50分以上である。このように加熱減量の少ないPVC粘着テープは、耐熱劣化性に優れる。また、上記保持力を有するPVC粘着テープは、適度な凝集性を有するので製造時や使用時における取扱い性がよく好ましい。
【0007】
上記PVC粘着テープを構成するPVCフィルムは、脂肪酸金属塩を含むことが好ましい。このような構成の粘着テープは、加熱減量を抑制しやすく、良好な耐熱劣化性が得られやすい。上記脂肪酸金属塩としては、周期表の1族、2族、12族、13族および14族のいずれかに属する少なくとも1種の金属元素(ただしPbを除く。)を含むものを好ましく採用し得る。なかでも、Li、Na、Ca、Mg、Zn、BaおよびSnからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含む脂肪酸金属塩が好ましい。
【0008】
好ましい一態様に係る粘着テープを構成するPVCフィルムは、前記可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルとを含む。このような構成のPVC粘着テープは、耐熱劣化性と他の特性(例えば初期粘着力や低温特性)とを高レベルで両立しやすい。
【0009】
上記PVCフィルムは、該PVCフィルムに含まれる前記分子量1000以上のポリエステル系可塑剤の重量(WPLH)と、該PVCフィルムに含まれる前記分子量1000未満のカルボン酸エステルの重量(WPLL)との関係が、以下の式:
1≦(WPLH/WPLL)≦50;
を満たすことが好ましい。このようなPVCフィルムを有する粘着テープは、耐熱劣化性と他の特性(例えば初期粘着力や低温特性)とをより高レベルで両立しやすい。
【0010】
ここに開示される粘着テープを構成するPVCフィルムは、酸化防止剤を含むことが好ましい。このような構成の粘着テープは、加熱減量を抑制しやすく、良好な耐熱劣化性が得られやすい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る粘着テープの構成を模式的に示す断面図である。
図2】他の実施形態に係る粘着テープの構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、本明細書に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて当業者に理解され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0013】
ここに開示される粘着テープは、可塑剤を含有するPVCフィルムと、該PVCフィルムの一方の表面または両方の表面に配置された粘着剤層とを備える。
【0014】
<PVCフィルム>
上記PVCフィルムは、典型的には、所定の成分を含むPVC組成物を公知の方法でフィルム化することにより得られる。ここでPVC組成物とは、樹脂成分のなかの主成分、すなわち50重量%を超えて含まれる成分がPVCである組成物をいう。かかるPVC組成物によると、粘着テープの基材として好適な物性を示すPVCフィルム(典型的には、軟質PVC樹脂からなるフィルム)が形成され得る。上記PVC組成物に含まれる樹脂成分に占めるPVCの割合は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは凡そ90重量%以上である。樹脂成分の実質的に全量がPVCであってもよい。
【0015】
(PVC)
上記PVC組成物を構成するPVCは、塩化ビニルを主モノマー(モノマー成分のうちの主成分、すなわち50重量%超を占めるモノマー)とする種々のポリマーであり得る。すなわち、ここでいうPVCの概念には、塩化ビニルの単独重合体のほか、塩化ビニルと種々のコモノマーとの共重合体が包含される。上記コモノマーとしては、塩化ビニリデン;エチレン、プロピレン等のオレフィン(好ましくは炭素数2〜4のオレフィン);アクリル酸、メタクリル酸(以下、アクリルおよびメタクリルを「(メタ)アクリル」と総称する。)、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有モノマーまたはその酸無水物(無水マレイン酸等);(メタ)アクリル酸エステル、例えば(メタ)アクリル酸と炭素数1〜10程度のアルコールアルキルまたはシクロアルキルアルコールとのエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;スチレン、置換スチレン(α−メチルスチレン等)、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー;アクリロニトリル;等が例示される。上記共重合体としては、塩化ビニルの共重合割合が70重量%以上(より好ましくは90重量%以上)であるものが好ましい。このようなモノマーを適当な方法(典型的には懸濁重合法)で重合させることによりPVCが得られる。
【0016】
特に限定するものではないが、PVC組成物に含まれるPVCの平均重合度は、例えば凡そ800〜1800程度であり得る。加工性(成形性)と強度との兼ね合い等を考慮して、上記平均重合度が凡そ1000〜1600(例えば凡そ1200〜1500)程度の範囲にあるPVC組成物が好ましい。
【0017】
(可塑剤)
可塑剤としては、PVCの可塑化効果を示すことが知られている種々の材料を特に限定なく使用することができる。上記可塑剤の例としては、安息香酸エステル(安息香酸グリコールエステル等)、フタル酸エステル、テレフタル酸エステル(テレフタル酸ジ−2−エチルヘキシル等)、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステル等の芳香族カルボン酸エステル;アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、マレイン酸エステル、クエン酸エステル(アセチルクエン酸トリブチル等)等の脂肪族カルボン酸エステル;多価カルボン酸と多価アルコールとのポリエステル:その他、ポリエーテル系ポリエステル、エポキシ系ポリエステル(エポキシ化大豆油やエポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化植物油、エポキシ化脂肪酸アルキルエステル等)、リン酸エステル(リン酸トリクレシル等)等が挙げられるが、これらに限定されない。可塑剤は、1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0018】
上記フタル酸エステル(フタル酸エステル系可塑剤)としては、例えば、フタル酸と炭素数4〜16(好ましくは6〜14、典型的には8〜13)のアルキルアルコールとのジエステルを用いることができ、好適例としてフタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル等が挙げられる。
【0019】
上記トリメリット酸エステル(トリメリット酸エステル系可塑剤)としては、例えば、トリメリット酸と炭素数6〜14(典型的には8〜12)のアルキルアルコールとのトリエステルを用いることができ、好適例としてトリメリット酸トリn−オクチル、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリイソノニル、トリメリット酸トリ−n−デシル、トリメリット酸トリイソデシル等が挙げられる。
【0020】
上記ピロメリット酸エステル(ピロメリット酸エステル系可塑剤)としては、例えば、ピロメリット酸と炭素数6〜14(典型的には8〜12)のアルキルアルコールとのテトラエステルを用いることができ、好適例としてピロメリット酸テトラ−n−オクチル、ピロメリット酸テトラ−2−エチルヘキシル、ピロメリット酸トリ−n−デシル等が挙げられる。
【0021】
上記アジピン酸エステル(アジピン酸エステル系可塑剤)としては、例えば、アジピン酸と炭素数4〜16(好ましくは6〜14、典型的には8〜13)のアルキルアルコールとのジエステルを用いることができ、好適例としてアジピン酸ジ−n−オクチル、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル等が挙げられる。
【0022】
上記ポリエステル(ポリエステル系可塑剤)としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、クエン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸等の多価カルボン酸と、(ポリ)エチレングリコール(ここで「(ポリ)エチレングリコール」とは、エチレングリコールおよびポリエチレングリコールを包括的に指す意味である。以下同じ。)、(ポリ)プロピレングリコール、(ポリ)ブチレングリコール、(ポリ)ヘキサンジオール、(ポリ)ネオペンチルグリコール、ポリビニルアルコール等の多価アルコールとから得られるポリエステル化合物を用いることができる。上記多価カルボン酸としては、炭素数4〜12(典型的には6〜10)の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、好適例としてアジピン酸およびセバチン酸が挙げられる。特に、汎用性や価格の点でアジピン酸が望ましい。上記多価アルコールとしては、炭素数2〜10の脂肪族ジオールが好ましく、好適例としてエチレングリコール、ブチレングリコール(例えば1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール)等が挙げられる。
【0023】
PVCフィルムにおける可塑剤の配合量は、特に限定されない。可塑剤の配合量は、例えば、所望の可塑化効果が得られ、かつ加熱減量が十分に抑制されるように、適宜設定することができる。通常は、PVC100重量部に対する可塑剤の配合量を10〜75重量部とすることが適当である。耐熱劣化性と他の特性とを高レベルで両立する観点から、PVC100重量部に対する可塑剤の配合量は、20〜60重量部とすることが好ましく、30〜50重量部とすることがより好ましい。
【0024】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記PVCフィルムが、可塑剤として、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤と、分子量1000未満のカルボン酸エステルとを組み合わせて含む。このような態様によると、耐熱劣化性と他の特性とをより高レベルで両立する粘着テープが得られやすい。
【0025】
一般に、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤は、揮発しにくく、PVC粘着テープが高温下に長時間保持された後においても可塑化効果を維持しやすい。その反面、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤は、低温では可塑剤自体の粘稠性のために可塑化効果が低下する。このため、PVC粘着テープに求められる柔軟性が不足しがちである。一方、分子量1000未満のカルボン酸エステルは、低温でも柔軟性を発現させる効果に優れるが、高温では揮発してPVCフィルムから失われやすく、粘着テープの耐熱劣化を招きやすい。
【0026】
本発明者らは、分子量1000以上のポリエステル系可塑剤(PLH)と、分子量1000未満のカルボン酸エステル(PLL)とを組み合わせて用いることにより、PLLの高温下での揮発が抑制されることで耐熱劣化性が向上し、高温から低温まで幅広い温度域で好適な柔軟性を維持するPVC粘着テープが実現されることを見出した。ここに開示される技術を実施するにあたり、上記効果が得られる理由を明らかにする必要はないが、おそらくは、PLLとPLHとの分子間相互作用によりPLLの揮発性が低下したと考えられる。また、本発明者らは、可塑剤としてPLLを単独で含むPVCフィルムを用いた場合に比べて、PLLとPLHとを組み合わせて含むPVCフィルムを用いた粘着テープでは、粘着力の経時変化(典型的には粘着力の低下)が抑制されることを見出した。これは、上記粘着力の経時変化の一因はPLLの粘着剤層への移行にあると考えられるところ、PLLと組み合わせてPLHを用いることにより、おそらくは、PLLとPLHとの分子間相互作用およびPLHとPVCとの相互作用によってPLLの粘着剤層への移行が抑えられて粘着力の経時変化が抑制されたものと考えられる。このように、PLHとPLLとを組み合わせて用いることにより、PLHまたはPLLを単独で使用する構成に比べて、耐熱劣化性と他の特性とをより高レベルで両立させることができる。
【0027】
なお、この明細書中において、可塑剤について「分子量」とは、後述する「(2-2)GPCによる分子量分析」に基づいて把握される重量平均分子量をいう。
【0028】
分子量1000未満のカルボン酸エステル(PLL)としては、上述のような芳香族カルボン酸エステル、脂肪族カルボン酸エステルおよびポリエステルのうち分子量が1000未満のものを、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、フタル酸エステル(フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシルなど)、アジピン酸エステル(アジピン酸ジ−n−オクチル、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニルなど)、トリメリット酸エステル(トリメリット酸トリ−n−オクチル、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシルなど)、ピロメリット酸エステル(ピロメリット酸テトラ−n−オクチル、ピロメリット酸テトラ−2−エチルヘキシル、ピロメリット酸トリ−n−デシルなど)、クエン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、マレイン酸エステル、安息香酸エステル等を用いることができる。
【0029】
PLLとしては、芳香族カルボン酸エステルを好ましく用いることができる。なかでも3官能以上(典型的には3官能または4官能)の芳香族カルボン酸に由来するエステル化合物が好ましく、具体例としてはトリメリット酸エステルおよびピロメリット酸エステルが挙げられる。このようなPLLは、上述の分子間相互作用による効果を発揮しやすく、PVCとの相溶性もよい。また、1官能または2官能の芳香族カルボン酸に由来するエステル化合物に比べて揮発性が低い傾向にある点でも好ましい。
【0030】
PLLの分子量は、典型的には250以上であり、揮発を抑制して所望の加熱減量を実現しやすくする観点から400以上が好ましく、500以上がより好ましい。ここに開示される技術は、分子量600以上(より好ましくは650以上、例えば700以上)のPLLを用いる態様で好ましく実施され得る。PLLの分子量の上限は、1000未満であれば特に限定されない。ハンドリング性等の観点から、通常は分子量950以下(例えば900以下)のPLLを好ましく使用し得る。
【0031】
PLLにおけるエステル残基の炭素数は、6以上が好ましく、8以上がより好ましい。このようなPLLは、上述の分子間相互作用による効果を発揮しやすい。また、分子量の増大により揮発性が低下する傾向にある点でも好ましい。さらに、分子鎖が長くなることにより、屈曲性が増して室温で液状の形態となりやすくなり、ハンドリング性が向上する。上記エステル残基の炭素数の上限は特に限定されないが、ハンドリング性やPVCとの相溶性等の観点から、通常は16以下、好ましくは14以下、より好ましくは12以下(例えば10以下)である。
【0032】
特に限定するものではないが、PVC100重量部に対するPLLの配合量(2種以上を使用する場合にはそれらの合計量)は、通常は75重量部未満、好ましくは60重量部未満、より好ましくは50重量部未満である。加熱減量を低減しやすくする観点から、PVC100重量部に対するPLLの配合量は、30重量部以下とすることが有利であり、20重量部以下とすることが好ましく、15重量部以下とすることがより好ましい。ここに開示される技術は、PVC100重量部に対するPLLの配合量が10重量部以下である態様でも好ましく実施され得る。PLLの配合量の下限は、所望の柔軟性が得られるように設定することができるが、通常は、PVC100重量部に対して1重量部以上(好ましくは3重量部以上、例えば5重量部以上)とすることが適当である。
【0033】
分子量1000以上のポリエステル系可塑剤(PLH)としては、上述のようなポリエステル系可塑剤のうち分子量が1000以上のものを、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。可塑化効果や低温における柔軟性の観点から、炭素数4〜12(典型的には6〜10)の脂肪族ジカルボン酸と多価アルコールとのポリエステルが好ましい。なかでも、アジピン酸を主成分とするジカルボン酸と、ネオペンチルグリコール、プロピレングリコール、エチレングリコール等の脂肪族ジオールとから得られたアジピン酸系ポリエステル可塑剤が好ましい。このようなアジピン酸系ポリエステル可塑剤は、PLLやPVCとの分子間相互作用に富み、これによりPLLの揮発を抑制する効果を発揮するとともに、PLH自体の揮発性もさらに抑制されるからである。
【0034】
ここに開示される技術におけるPLHとして使用し得る市販品として、具体的には、DIC株式会社の商品名「W−230H」、「W−1020EL」、「W−1410EL」、「W−2050」、「W−2300」、「W−2310」、「W−2360」、「W−360ELS」、「W−4010」等;株式会社ADEKAの商品名「P−300」、「PN−250」、「PN−400」、「PN−650」、「PN−1030」、「PN−1430」等;花王株式会社の商品名「HA−5」等が挙げられる。
【0035】
PLHの分子量は、1000以上であれば特に限定されない。所望の加熱減量を実現しやすくする観点から、通常は、分子量2000以上(例えば3000以上)のPLHの使用が有利である。ここに開示される技術は、分子量4000以上(例えば5000以上)のPLHを用いる態様で好ましく実施され得る。PLHの分子量の上限は特に限定されないが、通常は100000未満とすることが適当である。PVCの可塑化効果をよりよく発揮してPVC粘着テープに求められる柔軟性を実現しやすくする観点から、PLHの分子量は、50000未満が好ましく、より好ましくは25000未満、さらに好ましくは10000未満である。
【0036】
特に限定するものではないが、PVC100重量部に対するPLHの配合量(2種以上を使用する場合にはそれらの合計量)は、通常は75重量部未満とすることが適当であり、好ましくは60重量部未満、より好ましくは50重量部未満である。加熱減量を低減しやすくする観点から、PVC100重量部に対するPLHの配合量は、40重量部以下とすることが好ましく、30重量部以下とすることがより好ましい。PLHの配合量の下限は、所望の柔軟性が得られるように設定することができるが、通常は、PVC100重量部に対して5重量部以上(好ましくは8重量部以上、例えば10重量部以上)とすることが適当である。ここに開示される技術は、PVC100重量部に対するPLHの配合量が15重量部以上、さらには20重量部以上である態様でも好ましく実施され得る。
【0037】
PLLの配合量に対するPLHの配合量の比は特に限定されない。例えば、PVCフィルムに含まれるPLLの重量(WPLL)に対するPLHの重量(WPLH)の比(WPLH/WPLL)を0.1〜500程度とすることができる。加熱減量低減の観点から、通常は、WPLH/WPLLを0.5〜100とすることが有利であり、1〜50とすることが好ましい。耐加熱劣化性と他の特性(粘着力の経時変化抑制、幅広い温度域での柔軟性など)とをより高レベルで両立する観点から、好ましい一態様において、WPLH/WPLLを1〜25とすることができ、1〜15(例えば1〜10)とすることがより好ましく、1〜7(典型的には1以上5未満、例えば1〜4.5)とすることがさらに好ましい。
【0038】
(脂肪酸金属塩)
ここに開示される技術におけるPVCフィルムは、PVCおよび可塑剤に加えて、脂肪酸金属塩を含有することが好ましい。PVCフィルムは、該PVCフィルムまたはPVC粘着テープの加工時や該粘着テープの使用環境において、上記PVCフィルムに含まれるPVCが、熱、紫外線または剪断力等のような物理的エネルギー等を受け、これを起因とする化学反応等によって変色し、あるいは物理的、機械的または電気的特性を損なうことがある。PVCフィルムに脂肪酸金属塩を含有させることにより、該脂肪酸金属塩が上記化学反応を防止または抑制する安定剤として機能し得る。また、上記化学反応(典型的には、塩化水素の脱離)を防止または抑制することは、加熱減量の抑制に寄与し、ひいてはPVC粘着テープの耐熱劣化性向上に有利に貢献し得る。
【0039】
脂肪酸金属塩としては、PVCフィルムの安定剤として機能し得る化合物を、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、脂肪酸金族塩を構成する脂肪酸は、ラウリン酸、リシノール酸、ステアリン酸等の、炭素数10〜20(典型的には12〜18)程度の飽和または不飽和の脂肪酸(ヒドロキシ脂肪酸であり得る。)から好ましく選択され得る。PVCフィルムの成形性や加工性等の観点から、ステアリン酸金属塩を好ましく使用し得る。また、PVCフィルムまたはPVC粘着テープの経時変化抑制や低温における柔軟性等の観点から、ラウリン酸金属塩を好ましく使用し得る。好ましい一態様において、ステアリン酸金属塩とラウリン酸金属塩とを組み合わせて用いることができる。この場合において、ステアリン酸金属塩の使用量に対するラウリン酸金属塩の使用量の比は特に限定されないが、例えば、重量基準で0.1〜10とすることができ、通常は0.2〜5(例えば0.5〜2)とすることが適当である。
【0040】
脂肪酸金属塩を構成する金属としては、近年の環境衛生に対する意識の高まりを考慮して、鉛以外の金属(非鉛金属)が好ましく用いられる。ここに開示される技術によると、このように鉛を含む安定剤を使用しない態様においても、良好な耐熱劣化性を示すPVC粘着テープが実現され得る。上記金属としては、例えば、周期表の1族、2族、12族、13族および14族(ただしPbを除く。)のいずれかに属する金属元素を選択することができ、好適例としてLi、Na、Ca、Mg、Zn、BaおよびSnが挙げられる。上記脂肪酸金属塩としては、コストや入手容易性等の観点から、Ca塩やBa塩を好ましく採用し得る。また、PVCフィルムの成形性や加工性等の観点から、Zn塩を好ましく採用し得る。好ましい一態様において、Ca塩とZn塩とを組み合わせて用いることができる。この場合において、Ca塩の使用量に対するZn塩の使用量の比は特に限定されないが、例えば、重量基準で0.1〜10とすることができ、通常は0.2〜5(例えば0.5〜2)とすることが適当である。ここに開示される技術は、例えば、ステアリン酸Caとラウリン酸Znとを上記の重量比で含む態様や、ステアリン酸Znとラウリン酸Caとを上記の重量比で含む態様で好ましく実施され得る。なお、脂肪酸Pb塩の使用が許容される用途においては、PVCフィルムに脂肪酸Pb塩を含有させることも可能である。
【0041】
脂肪酸金属塩の使用量は特に限定されない。脂肪酸金属塩の使用量(2種以上を使用する場合にはそれらの合計量)は、例えば、PVC100重量部に対して0.01重量部以上とすることができ、より高い効果を得る観点から0.05重量部以上とすることが好ましく、0.1重量部以上とすることがより好ましい。脂肪酸金属塩の使用量の上限は特に制限されないが、通常はPVC100重量部に対して5重量部以下とすることが適当であり、低温における柔軟性等の観点から3重量部以下とすることが好ましく、1重量部以下(例えば0.5重量部以下)とすることがより好ましい。
【0042】
(酸化防止剤)
ここに開示される技術におけるPVCフィルムには、PVCおよび可塑剤に加えて、酸化防止剤を含有させることができる。PVCフィルムに酸化防止剤を含有させることにより、加熱減量が抑制される傾向にある。したがって、より耐熱劣化性に優れたPVC粘着テープが実現され得る。また、酸化防止剤による加熱減量抑制効果を利用することで、PVCフィルムの組成(可塑剤の種類や量)の設計自由度を高めることができ、これにより耐熱劣化性と他の性能とをより高レベルで両立する粘着テープが実現され得る。
【0043】
酸化防止剤としては、酸化防止機能を発揮し得る公知の材料を特に限定なく用いることができる。酸化防止剤の例としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
酸化防止剤の好適例として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等のフェノール系酸化防止剤が挙げられる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリトール・テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名「Irganox1010」、チバ・ジャパン社製)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(商品名「Irganox1076」、チバ・ジャパン社製)、4,6−ビス(ドデシルチオメチル)−o−クレゾール(商品名「Irganox1726」、チバ・ジャパン社製)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名「Irganox245」、チバ・ジャパン社製)、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート(商品名「TINUVIN770」、チバ・ジャパン社製)、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重縮合物(コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物)(商品名「TINUVIN622」、チバ・ジャパン社製)等が挙げられる。なかでもペンタエリスリトール・テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名「Irganox1010」、チバ・ジャパン社製)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名「Irganox245」、チバ・ジャパン社製)等が好ましい。
【0045】
酸化防止剤の使用量(2種以上を使用する場合にはそれらの合計量)は特に限定されず、例えば、PVC100重量部に対して0.001重量部以上とすることができる。より高い効果を得る観点から、通常は、PVC100重量部に対する酸化防止剤の使用量を0.01重量部以上とすることが適当であり、0.05重量部以上とすることが好ましく、0.1重量部以上とすることがより好ましい。好ましい一態様において、PVC100重量部に対する酸化防止剤の使用量を0.5重量部以上とすることができ、1重量部以上としてもよく、さらには2重量部以上(例えば3重量部以上)としてもよい。酸化防止剤の使用量の上限は特に制限されないが、通常は、PVC100重量部に対して10重量部以下とすることが適当である。
【0046】
(エラストマー)
ここに開示される技術におけるPVCフィルムは、PVCおよび可塑剤に加えて、エラストマーを含有してもよい。PVCフィルムにエラストマーを含有させることにより、PVC粘着テープの低温特性(例えば、低温における柔軟性)の向上、PVCフィルムの機械的強度の向上(例えば、PVCフィルムをより薄くしても所望の機械的強度が得られること)等の効果が実現され得る。また、PVCフィルムにエラストマーを含有させることにより、PVC粘着テープの加熱減量を低減し得る。エラストマーとしては、公知の各種ポリマー材料を利用することができる。エラストマーの非限定的な例としては、塩素化ポリエチレン(CPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−ブタジエン−スチレン共重合体(例えば、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、熱可塑性ポリウレタン、その他の合成ゴム(イソプレンゴム、ブタジエンゴム等)、これらの複合物や変性物、等が挙げられる。エラストマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
エラストマーの含有量は特に限定されない。PVC100重量部に対するエラストマーの含有量は、例えば、0.5重量部以上とすることができ、通常は1重量部以上が適当であり、より高い効果を得る観点から2重量部以上が好ましい。また、エラストマーの使用による効果と他の特性とのバランスをとりやすくする観点から、PVC100重量部に対するエラストマーの含有量は、通常、40重量部以下とすることが適当であり、30重量部以下が好ましい。好ましい一態様において、PVC100重量部に対するエラストマーの含有量を3〜20重量部(例えば5〜15重量部)することができる。
【0048】
ここに開示される技術におけるPVCフィルムには、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、PVCフィルム(特に、PVC粘着テープ用PVCフィルム)に用いられ得る公知の添加剤を必要に応じてさらに含有させることができる。そのような添加剤の例として、顔料や染料等の着色剤、脂肪酸金属塩以外の安定剤(例えば、ジオクチルスズラウレート等の有機スズ化合物)、安定化助剤(例えば、トリアルキルホスファイト等のホスファイト、ハイドロタルサイトやゼオライト等の無機化合物)、光安定剤、紫外線吸収剤、改質剤、難燃剤、帯電防止剤、防黴剤、滑剤等が挙げられる。
【0049】
このような組成のPVCフィルムは、典型的には、対応する組成を有するPVC組成物を、熱可塑性樹脂フィルムの分野において公知の方法でフィルム形状に成形することにより得られる。そのような公知の成形方法として、例えば、溶融押出し成形法(インフレーション法、Tダイ法など)、溶融流涎法、カレンダー法などを利用することができる。
【0050】
一例として、カレンダー法を用いる場合における典型的なフィルム作成手順の概要を以下に示す。
(1)計量:PVC、可塑剤および必要に応じて使用される他の材料を、目標とする組成に応じて計量する。
(2)混合:計量された各材料を撹拌混合して、均一な混合物(典型的には粉末状の混合物、すなわち混合粉末)を調製する。
(3)混練:上記(2)で調製された混合物を加熱して溶融化し、2本ないし3本以上の混練ロール(典型的には金属製のロール)で混錬する。混練ロールの温度は、例えば100℃〜250℃(好ましくは150℃〜200℃)に設定することが適当である。
(4)カレンダー成形:上記(3)で得られた混練物をカレンダー成形機に投入して、任意の厚みを有するPVCフィルムを成形する。
【0051】
ここに開示される粘着テープにおいて、上記PVCフィルムは、該PVCフィルムからなる単層または多層の支持基材を構成していてもよく、該PVCフィルムに加えて他の層を含む支持基材を構成していてもよい。好ましい一態様において、上記他の層は、PVCフィルムの表面に設けられた印刷層、剥離処理層、プライマー層等の補助的な層であり得る。あるいは、上記PVCフィルムは、該PVCフィルムがPVCフィルム以外の樹脂フィルムと積層された構成の支持基材を構成していてもよい。好ましい一態様として、単層のPVCフィルムからなる支持基材の片面に粘着剤層が配置された構成が挙げられる。
【0052】
支持基材の厚さは特に限定されない。支持基材(例えば、単層のPVCフィルムからなる支持基材)の厚さは、典型的には500μm以下、通常は300μm以下であり、PVC粘着テープのハンドリング性等の観点から200μm以下が好ましく、150μm以下(例えば120μm以下)がより好ましい。また、支持基材の厚さは、典型的には10μm以上、通常は25μm以上であり、強度やハンドリング性の観点から50μm以上が好ましく、75μm以上がより好ましい。上記支持基材の厚さは、例えば、電線、配管等の保護や結束、電線等の周りを囲んで保護するコルゲートチューブの被覆、電気絶縁、等に用いられる粘着テープに好ましく適用され得る。
【0053】
支持基材のうち粘着剤層が配置される表面には、必要に応じて、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、酸処理、アルカリ処理、下塗り剤(プライマー)の塗布、帯電防止処理等の、従来公知の表面処理が施されていてもよい。このような表面処理は、基材と粘着剤層との密着性、言い換えると粘着剤層の基材への投錨性を向上させるための処理であり得る。プライマーの組成は特に限定されず、公知のものから適宜選択することができる。下塗り層の厚さは特に制限されないが、通常、好ましくは0.01μm以上1μm以下、より好ましくは0.1μm以上1μm以下である。
【0054】
支持基材の一方の表面にのみ粘着剤層が配置される構成のPVC粘着テープにおいて、粘着剤層が配置されない側の表面(背面)には、必要に応じて、剥離処理や帯電防止処理等の、従来公知の表面処理が施されていてもよい。例えば基材の背面に長鎖アルキル系、シリコーン系等の剥離処理層を設けることで、ロール状に巻回された形態のPVC粘着テープの巻戻し力を軽くすることができる。また、印字性の向上、光反射性の低減、重ね貼り性向上等の目的で、上記背面にコロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、酸処理、アルカリ処理等の処理が施されていてもよい。
【0055】
<粘着剤層>
ここに開示される技術における粘着剤層は、典型的には、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する材料(粘着剤)から構成された層である。ここでいう粘着剤は、「C. A. Dahlquist, “Adhesion : Fundamental and Practice”, McLaren & Sons, (1966) P. 143」に定義されているとおり、一般的に、複素引張弾性率E(1Hz)<10dyne/cmを満たす性質を有する材料(典型的には、25℃において上記性質を有する材料)である。
【0056】
ここに開示される技術における粘着剤層は、水分散型粘着剤組成物、水溶性粘着剤組成物、溶剤型粘着剤組成物、ホットメルト型粘着剤組成物、活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物等の、各種の形態の粘着剤組成物から形成された粘着剤層であり得る。ここで「活性エネルギー線」とは、重合反応、架橋反応、開始剤の分解等の化学反応を引き起こし得るエネルギーをもったエネルギー線を指し、紫外線、可視光線、赤外線のような光や、α線、β線、γ線、電子線、中性子線、X線のような放射線等を包含する概念である。PVCフィルム中の可塑剤の粘着剤層への移行を抑えて粘着力の経時変化を抑制しやすいこと等から、水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層が好ましい。
【0057】
上記粘着剤層を構成する粘着剤の種類は特に限定されない。上記粘着剤は、粘着剤の分野において公知のゴム系ポリマー、アクリル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、フッ素系ポリマー等の各種ゴム状ポリマーの1種または2種以上をベースポリマー(ポリマー成分のなかの主成分)として含むものであり得る。ここで、ゴム系粘着剤とは、ゴム系ポリマーをベースポリマーとして含む粘着剤をいう。アクリル系粘着剤その他の粘着剤についても同様である。また、アクリル系ポリマーとは、1分子中に少なくとも一つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマー(アクリル系モノマー)に由来するモノマー単位をポリマー構造中に含む重合物をいい、典型的にはアクリル系モノマーに由来するモノマー単位を50重量%を超える割合で含む重合物をいう。なお、上記(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基およびメタクリロイル基を包括的に指す意味である。
【0058】
ここに開示されるPVC粘着テープの粘着剤層としては、ゴム系粘着剤を主成分とする粘着剤層(ゴム系粘着剤層)を好ましく採用し得る。上記ゴム系粘着剤は、天然ゴムおよび合成ゴムから選択される1種または2種以上のゴム系ポリマーを含むものであり得る。なお、本明細書において「主成分」とは、特記しない場合、50重量%を超えて含まれる成分をいう。ゴム系ポリマーとしては、天然ゴムおよび合成ゴムのいずれも使用可能である。天然ゴムとしては、粘着剤組成物に使用され得る公知の材料を特に制限なく使用することができる。ここでいう天然ゴムとは、未変性の天然ゴムに限定されず、例えばアクリル酸エステル等により変性された変性天然ゴムを包含する概念である。未変性天然ゴムと変性天然ゴムとを併用してもよい。合成ゴムとしては、粘着剤組成物に使用され得る公知の材料を特に制限なく使用することができる。好適例として、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレンゴム、クロロプレンゴム等が挙げられる。これらの合成ゴムは、未変性であってもよく、変性(例えばカルボキシ変性)されていてもよい。ゴム系ポリマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
好ましい一態様に係るPVC粘着テープは、ゴム系ラテックスに粘着付与樹脂その他の添加剤を必要に応じて配合してなる水分散型ゴム系粘着剤組成物から形成されたゴム系粘着剤層を有する。上記ゴム系ラテックスは、公知の各種ゴム系ポリマーが水に分散したものであり得る。天然ゴムラテックスおよび合成ゴムラテックスのいずれも使用可能である。天然ゴムラテックスとしては、粘着剤組成物に使用され得る公知の材料を特に制限なく使用することができる。ここでいう天然ゴムラテックスとは、未変性の天然ゴムラテックスに限定されず、例えばアクリル酸エステル等により変性された変性天然ゴムラテックスを包含する概念である。未変性天然ゴムラテックスと変性天然ゴムラテックスとを併用してもよい。合成ゴムラテックスとしては、粘着剤組成物に使用され得る公知の材料を特に制限なく使用することができる。好適例として、スチレン−ブタジエンゴムラテックス(SBRラテックス)、スチレン−イソプレンゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス等が挙げられる。これらの合成ゴムラテックスに含まれる合成ゴムは、未変性であってもよく、変性(例えばカルボキシ変性)されていてもよい。ゴム系ラテックスは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
好ましい一態様に係るゴム系粘着剤組成物(例えば、水分散型ゴム系粘着剤組成物)は、ゴム系ポリマーとして、天然ゴムおよび合成ゴムの両方を含有する。このような粘着剤組成物によると、良好な粘着特性を示すPVC粘着テープが形成され得る。例えば、電線、配管等の保護や結束、上記のようなコルゲートチューブの被覆、電気絶縁、等の用途に適した粘着特性を示すPVC粘着テープが形成され得る。天然ゴムと合成ゴムとの重量比(天然ゴム:合成ゴム)としては、凡そ10:90〜90:10の範囲が好ましく、凡そ20:80〜80:20の範囲がより好ましく、凡そ30:70〜70:30の範囲がさらに好ましい。上記合成ゴムとしてはSBRを好ましく採用し得る。
【0061】
ここに開示される技術における粘着剤層(典型的にはゴム系粘着剤層)は、上述のようなベースポリマーに加えて粘着付与樹脂を含有し得る。粘着付与樹脂としては、公知の各種粘着付与樹脂から適当なものを選択して用いることができる。例えば、ロジン系樹脂、石油樹脂、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、クマロンインデン系樹脂、ケトン樹脂等の各種粘着付与樹脂から選択される1種または2種以上を用いることができる。
【0062】
ロジン系樹脂の例としては、不均化ロジン、水添ロジン、重合ロジン、マレイン化ロジン、フマル化ロジン等のロジン誘導体や、フェノール変性ロジン、ロジンエステル等が挙げられる。フェノール変性ロジンとしては、例えば、天然ロジンやロジン誘導体にフェノール類を付加反応させて得られたものや、レゾール型フェノール樹脂と天然ロジンやロジン誘導体とを反応させて得られるフェノール変性ロジン等が挙げられる。ロジンエステルとしては、例えば、上記ロジン系樹脂と多価アルコールとを反応させたエステル化物等が挙げられる。なお、ロジンフェノール樹脂をエステル化物とすることもできる。
【0063】
テルペン系樹脂の例としては、テルペン樹脂(α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、リモネン樹脂等)、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、水素化テルペン樹脂等が挙げられる。
【0064】
石油系樹脂の例としては、脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合系(C5/C9系)石油樹脂、これらの水素添加物(例えば、芳香族系石油樹脂に水素添加して得られる脂環族系石油樹脂)、これらの各種変性物(例えば、無水マレイン酸変性物)等が挙げられる。
【0065】
フェノール系樹脂の例としては、フェノール、m−クレゾール、3,5−キシレノール、p−アルキルフェノール、レゾルシンなどの各種フェノール類とホルムアルデヒドとの縮合物が挙げられる。フェノール系樹脂の他の例として、上記フェノール類とホルムアルデヒドとをアルカリ触媒下で付加反応させて得られるレゾールや、上記フェノール類とホルムアルデヒドとを酸触媒下で縮合反応させて得られるノボラック等が挙げられる。
【0066】
クマロンインデン系樹脂の例としては、クマロンインデン樹脂、水添クマロンインデン樹脂、フェノール変性クマロンインデン樹脂、エポキシ変性クマロンインデン樹脂等が挙げられる。
【0067】
ケトン樹脂の例としては、ケトン類(例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン等の脂肪族ケトンや、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等の脂環式ケトン等)とホルムアルデヒドとの縮合によるケトン樹脂が挙げられる。
【0068】
使用する粘着付与樹脂の軟化温度は特に限定されない。例えば、軟化点が60〜160℃の粘着付与樹脂を用いることができる。また、常温で液状の粘着付与樹脂を使用してもよい。凝集力と低温特性(例えば、低温下における巻戻し性や粘着力)とをバランスよく両立する観点から、軟化点が60〜140℃(より好ましくは80〜120℃)の粘着付与樹脂を好ましく用いることができる。例えば、軟化点が上記範囲にある石油系樹脂の使用が好ましい。なお、粘着付与樹脂の軟化点は、JIS K2207に規定する軟化点試験方法(環球法)に基づいて測定することができる。
【0069】
粘着剤層に含まれるポリマー成分と粘着付与樹脂との割合は特に限定されず、用途に応じて適宜決定することができる。ポリマー成分100重量部に対する粘着付与樹脂の含有量は、不揮発分基準で、例えば20重量部以上とすることができ、通常は50重量部以上とすることが適当である。より高い使用効果を得る観点から、ポリマー成分100重量部に対する粘着付与樹脂の使用量は、80重量部以上とすることができ、100重量部以上としてもよい。一方、低温特性等の観点から、通常、ポリマー成分100重量部に対する粘着付与樹脂の使用量は、200重量部以下とすることが適当であり、150重量部以下とすることが好ましい。
【0070】
その他、上記粘着剤層は、粘度調整剤(増粘剤等)、レベリング剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、顔料や染料等の着色剤、光安定化剤、老化防止剤、酸化防止剤、耐水化剤、帯電防止剤、発泡剤、消泡剤、界面活性剤、防腐剤、架橋剤等の、粘着剤の分野において一般的な各種の添加剤を必要に応じて含有してもよい。
【0071】
粘着剤層の形成は、従来公知の種々の方法を適宜採用して行うことができる。例えば、上述のような基材(典型的にはPVCフィルム)に粘着剤組成物を直接付与(典型的には塗布)して乾燥させることにより粘着剤層を形成する方法(直接法)を採用することができる。また、剥離性を有する表面(剥離面)に粘着剤組成物を付与して乾燥させることにより該表面上に粘着剤層を形成し、その粘着剤層を基材に転写する方法(転写法)を採用してもよい。これらの方法を組み合わせてもよい。上記剥離面としては、剥離ライナーの表面や、剥離処理された支持基材背面等を利用し得る。
【0072】
粘着剤組成物の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の、公知ないし慣用のコーターを用いて行うことができる。粘着剤層は、典型的には連続的に形成されるが、目的および用途によっては点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成されてもよい。
【0073】
特に限定するものではないが、粘着剤層の厚さは、典型的には2〜150μmであり、通常は5〜100μmが適当であり、好ましくは10〜80μm、より好ましくは10〜50μm(例えば15〜40μm)である。上記粘着剤層の厚さの範囲は、例えば、電線、配管等の保護や結束、上記のようなコルゲートチューブの被覆、電気絶縁、等に用いられるPVC粘着テープに好ましく適用され得る。
【0074】
<粘着テープ>
ここに開示される粘着テープの一構成例を図1に示す。図1に示すPVC粘着テープ1は、第一面11Aおよび第二面11Bを有する支持基材(例えば、単層のPVCフィルム)11と、その第一面11A上に配置された粘着剤層21とを備える片面粘着テープとして構成されている。好ましい一態様において、使用前(すなわち、被着体への貼付け前)の粘着テープ1は、例えば図1に示すように、長手方向に巻回されることにより支持基材の第二面11Bに粘着剤層21が当接してその表面(粘着面)21Aが保護された粘着テープロールの形態であり得る。あるいは、粘着剤層21の表面21Aが、少なくとも粘着剤層21に対向する側が剥離面となっている剥離ライナーによって保護された形態であってもよい。剥離ライナーとしては、公知ないし慣用のものを特に限定なく使用することができる。例えば、プラスチックフィルムや紙等の基材の表面に剥離処理層を有する剥離ライナーや、フッ素系ポリマー(ポリテトラフルオロエチレン等)やポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)の低接着性材料からなる剥離ライナー等を用いることができる。
【0075】
ここに開示される粘着テープの他の構成例を図2に示す。図2に示す粘着テープ2は、支持基材(例えば、単層のPVCフィルム)11の第一面11Aおよび第二面11Bに第一粘着剤層21および第二粘着剤層22がそれぞれ配置された両面粘着テープとして構成されている。ここに開示される技術は、このような両面粘着テープの形態でも好ましく実施され得る。
【0076】
ここに開示される粘着テープは、下記の方法で測定される加熱減量が4%未満であることが好ましい。上記加熱減量が少ない粘着テープは、揮発により失われる可塑剤の量が少なく、かつPVCの分解に伴う塩化水素の発生が少ないため、耐熱劣化性に優れる。かかる観点から、粘着テープの加熱減量は、好ましくは3%未満、より好ましくは2%未満、さらに好ましくは1.5%未満、特に好ましくは1%未満である。耐熱劣化性の観点からは、加熱減量は0に近いほど有利である。一方、耐熱劣化性と他の特性とを高レベルで両立する観点から、ここに開示される粘着テープは、加熱減量が0.3%以上(例えば0.3%以上1.5%未満、より好ましくは0.3%以上1.0%未満)、あるいは0.5%以上(例えば0.5%以上1%未満)である態様でも好ましく実施され得る。
【0077】
(加熱減量測定方法)
測定対象の粘着テープを幅19mm、長さ25mmのサイズにカットしてサンプル片とする。上記サンプル片の重量を計量器(メトラートレド社、型式「XP504DRV」)で計量し、その値をAとする。次に、上記サンプル片をアルミシャーレ(ガステックサービス社、No.107)に載せ、150℃に設定した乾燥オーブン(エスペック社、PHH−20)に投入して240時間保持する。加熱後の粘着テープを乾燥オーブンから取り出し、上記計量器(メトラートレド社、XP504DRV)で重量を計量する。この値をBとする。これらの値A,Bから、次式:(A−B)/A×100;により加熱減量(%)を算出する。
【0078】
ここに開示される粘着テープは、下記の方法で測定される保持力が50分以上であることが好ましい。上記保持力を有する粘着テープは、適度な凝集性を有するので製造時や使用時における取扱い性がよい。かかる観点から、粘着テープの保持力は、90分以上であることがより好ましく、120分以上であることがさらに好ましい。
【0079】
(保持力測定方法)
JIS Z0237:2009に記載の方法に準じて測定する。詳しくは、粘着テープを室温(23℃±2℃)で1時間静置した後、幅10mm、長さ100mmのサイズにカットする。後述する荷重を付与することによる支持基材の伸びを抑制するために、当該粘着テープの背面に、上記と同サイズの市販の片面粘着テープを貼り付けて裏打ちし、測定サンプルを作製する。上記市販の片面粘着テープとしては、荷重に対する支持基材の伸びを抑制する目的に適うものを選択することができ、例えば日東電工社製の商品名「No.31B」(厚さ25μmのポリエステルフィルムを支持基材とする片面粘着テープ)を好適に用いることができる。上記測定サンプルの短辺側の一端を、被着体としてのベークライト板(厚さ5mm、幅25mm、長さ100mm)に、幅10mm、長さ20mmの接着面積となるように、2kgローラを一往復させて圧着する。上記測定サンプルの短辺側の他端に300gの重りをつなぎ、測定サンプルを水平に保持して40℃の環境下に30分間保持する。その後、同じく40℃の環境下で、上記重りを下側にして鉛直方向になるように上記ベークライト板を保持することにより、該ベークライト板に貼り付けられた測定サンプルに300gの荷重を付与する。この状態で放置し、測定サンプルがベークライト板から剥れ落ちるまでの時間(分)を計測する。この計測値を保持力とする。
【0080】
<分析>
ここに開示される技術におけるPVC粘着テープや該粘着テープを構成するPVCフィルムの組成は、一般に化学分析に用いられる分析手法全般を用いて分析することができる。具体的には、分析化学に関する文献に記載の分析機器や手法を適宜組み合わせて用いることにより、各化学種の同定、混合量や混合比の特定、分子量の測定等を行うことができる。以下、ここに開示されるPVC粘着テープおよびPVCフィルムの分析手法の好適例をより詳細に説明するが、本発明の範囲を限定する意図ではない。
【0081】
(1)分析手法
(1-1)分析に用いる試料の調製
分析に使用する試料としては、PVC粘着テープ、該粘着テープの製造に用いられる前のPVCフィルム、上記粘着テープを支持基材(典型的にはPVCフィルム)と粘着剤に分離した各固形試料、あるいはこれらに適切な処理を施して調製された試料等を、分析方法や分析目的に応じて用意する。なお、PVC粘着テープを支持基材と粘着剤に分離する方法の好適例については後述する。
【0082】
分析にあたり、溶液試料が必要な場合は、例えば適切な溶媒を試料に加え、必要に応じて撹拌や加熱を行って分析対象の成分を上記溶媒に溶解させる(典型的には、試料から抽出する)ことにより、上記溶液試料を用意することができる。溶媒としては、極性等を考慮して、クロロホルム(CHCl)、塩化メチレン(CHCl)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール、エタノール、トルエンおよび水等から選択されるいずれか1種の溶媒または2種以上を任意の比率で含む混合溶媒を用いることができる。
【0083】
溶液試料としては、典型的には、試料(固形分)0.2g程度に溶媒30mL程度を加え、室温から上記溶媒の沸点程度までの温度域で30分〜12時間程度撹拌した後、上記試料中の成分が上記溶媒に溶出した溶液を分取したものを用いることができる。必要に応じて、例えば分析対象成分の抽出効率が低い場合等には、上記溶液を分取した後の試料に、分取した溶液と概ね同量の溶媒を新たに加えて撹拌し、その溶液を分取する操作を1回または複数回繰り返して溶液試料を調製することも可能である。
【0084】
このようにして得られた溶液試料に含まれる分析対象成分の濃度を調整することが必要な場合や、抽出に用いた溶媒とは異なる組成の溶媒に分析対象成分が溶解した溶液試料が必要な場合には、上記溶液試料に含まれる溶媒の一部または全部を蒸発させた後、目的に応じた組成および量の溶媒を加えることにより、所望の濃度や溶媒組成の溶液試料を調製することができる。
また、溶液試料から不溶分を除去する必要がある場合には、濾紙やメンブレンフィルタで濾過することにより、上記不溶分が除去された溶液試料を得ることができる。
複数の成分を含む溶液試料から一部の種類(典型的には、特定の1種または2〜5種程度の成分)のみを含む溶液試料を得る必要がある場合には、下記参照文献等に記載のカラムクロマトグラフによる精製または単離のほか、後述する高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて目的とする溶液試料を得ることが可能である。
【0085】
(参照文献)
以下、すべて日本化学会編、丸善出版社、第5版実験化学講座
8巻 NMR・ESR(平成18年発行)
9巻 物質の構造I(平成17年発行)
10巻 物質の構造II(平成17年発行)
20−1巻 分析化学(平成19年発行)
20−2巻 環境化学(平成19年発行)
26巻 高分子化学(平成17年発行)
【0086】
(1-2)PVC粘着テープを支持基材と粘着剤に分離する方法
PVC粘着テープを支持基材と粘着剤に分離する方法は、特に限定されない。簡易かつ便利な方法として、PVC粘着テープを粘着剤層が内側となるように折り曲げて該粘着剤層同士を貼り合わせ、次いで引き剥がすことにより、折り曲げられた一方の側にあった粘着剤層を他方の側の粘着剤層上に転写する方法を採用することができる。上記一方の側にあった粘着剤層を他方の側の粘着剤層上に転写することにより、該一方の側において支持基材から粘着剤層を取り除くことができる。他方の側において2層に重なった粘着剤層は、同様の折り曲げと引き剥がしを必要に応じて繰り返すことにより、さらに積み重ねることもできる。この方法によると、粘着剤の自着性を利用して、有機溶媒の使用や加熱処理等を行うことなく支持基材と粘着剤とを分離することができる。したがって、粘着テープの組成を精度よく分析することができる。なお、粘着剤層同士を貼り合わせてから引き剥がすまでの時間や引き剥がしの速度、剥離角度等の条件は、当業者であれば、粘着剤層の転写が生じやすいように適宜設定することができる。また、1枚のPVC粘着テープを折り曲げる代わりに、2枚のPVC粘着テープの粘着剤層同士を貼り合わせ、次いで引き剥がすことにより、一方の粘着テープの粘着剤層を他方の粘着テープの粘着剤層上に転写してもよい。
【0087】
(1-3)フーリエ変換赤外分光分析(FT−IR)
上述の固形試料や、上述の溶液試料から溶媒を除去して得られた固形試料のフーリエ変換赤外分光分析は、ATR法により、以下の装置および条件で行うことができる。本分析方法単独または他の分析方法との組合せにより、PVC粘着テープやその粘着剤層に含まれる成分の組成の同定および組成比の算出が可能となる。
(装置および条件)
装置:Thermo Fisher Scientific社、Nicolet 6700
条件:1回反射ATR法 (Smart iTR, Ge45°)
分解能:4 cm-1
検出器:DTGS
積算回数:64回
【0088】
(1-4)フーリエ変換核磁気共鳴分光分析(FT−NMR)
上述の固形試料や、上述の溶液試料から溶媒を除去して得られた固形試料は、任意の重水素化溶媒(CDCl、CDCl、THF−d8、アセトン−d6、DMSO−d6、DMF−d7、メタノール−d4、エタノール−d6、DO等)に溶解して、以下の装置および条件でフーリエ変換核磁気共鳴分光分析(H−NMRおよび/または13C−NMR)に供することができる。分析には、固形試料0.1gに対して重水素化溶媒が0.06〜6mLとなるように濃度調整した試料を用いるとよい。本分析方法単独または他の分析方法との組合せにより、PVC粘着テープやその粘着剤層に含まれる成分の組成の同定および組成比の算出が可能となる。
(装置および条件)
装置:Bruker Biospin社、AVANCE III-600 with Cryo Probe
観測周波数:600 MHz(1H)、150 MHz(13C)
測定温度:300 K
【0089】
(1-5)ガスクロマトグラフィー/重量分析(GC/MS)
上述した溶液試料のガスクロマトグラフィー/重量分析は、以下の装置および条件で行うことができる。上記溶液試料は、固形試料0.1gに対して溶媒が0.6〜60mLとなるように適宜濃度を調整し、これを分析用試料として用いるとよい。本分析方法単独または他の分析方法との組合せにより、PVC粘着テープやその粘着剤層に含まれる成分の組成の同定および組成比の算出が可能となる。なお、クロマトグラムに現われるピークのうち、組成が同定されたピークについては、同定物もしくは同定物と類似の分子構造を有する化合物を標品に用いて検量線を作成することにより、同定された組成の試料中における含有量を算出することができる。
(装置および条件)
装置:Thermo Finnigan社、Trace GC ultra(GC)、PolarisQ(MS)
GC条件
・カラム:Ultra ALLOY-5 (0.25μm、0.25 mmφ×30 m)
・キャリアガス:He (1.0mL/min)
・注入口:スプリット (スプリット比; 50:1)
・注入口温度:250℃
・カラム温度:40℃ (3 min)−(+20℃/min)→300℃(24 min)
MS条件
・イオン化法:EI、FIもしくはCIを適宜選択
・電子エネルギー:70 eV
・イオンソース温度:210℃
・インターフェイス温度:300℃
・重量範囲:m/z=20〜800
【0090】
(1-6)ガスクロマトグラフィー(GC)
上述した溶液試料のガスクロマトグラフィーは、以下の装置および条件で行うことができる。上記溶液試料は、固形試料0.1gに対して溶媒が0.6〜60mLとなるように適宜濃度を調整し、これを分析用試料として用いるとよい。本分析方法単独または他の分析方法との組合せにより、PVC粘着テープやその粘着剤層に含まれる成分の組成の同定および組成比の算出が可能となる。なお、クロマトグラムに現われるピークのうち、組成が同定された成分に係るピークについては、同定物または同定物と類似の分子構造を有する化合物を標品に用いて検量線を作成することにより、上記同定された成分の試料中における含有量を算出することができる。
(装置および条件)
装置:Aglient Technologies社 6890Plus
カラム:HP-1、30 m×0.250 mm id×1.0μm film thickness
カラム温度:100℃→(+20℃/min)→300℃(Hold)
カラム圧力:101.7 kPa(定流モード)
キャリアガス:He(1.0 mL/min)
注入口:スプリット(スプリット比;20:1)
注入口温度:250℃
検出器:FID
検出器温度:250℃
注入量:1μL
【0091】
(1-7)液体クロマトグラフィー/フーリエ変換重量分析(LC/FT−MS)
上述した溶液試料の液体クロマトグラフィー/フーリエ変換重量分析は、以下の装置および条件で行うことができる。上記溶液試料は、固形試料0.1gに対して溶媒が0.6〜60mLとなるように適宜濃度を調整し、これを分析用試料として用いるとよい。本分析方法単独または他の分析方法との組合せにより、PVC粘着テープやその粘着剤層に含まれる成分の組成の同定および組成比の算出が可能となる。なお、クロマトグラムに現われるピークのうち、組成が同定された成分に係るピークについては、同定物または同定物と類似の分子構造を有する化合物を標品に用いて検量線を作成することにより、上記同定された成分の試料中における含有量を算出することができる。
(装置および条件)
装置:ThermoFisher Scientific社 UltiMate 3000(LC)、LTQ orbitrap XL(FT-MS)
LC条件
・カラム:Agilent Technologies Zorbax Eclipse PlusC8(3.0 mmφ×100 mm,1.8μm)
・溶離液組成:ACN(アセトニトリル)/酢酸アンモニウム水溶液系グラジエント
・流量:0.5 mL/min
・カラム温度:40℃
・注入量:5μL
FT-MS条件
・イオン化法:ESI (Negative,Positive)
・イオンスプレー電圧:3 kV
【0092】
(1-8)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
上述した溶液試料の高速液体クロマトグラフィーは、以下の装置および条件で行うことができる。上記溶液試料は、固形試料0.1gに対して溶媒が0.6〜60mLとなるように適宜濃度を調整し、これを分析用試料として用いるとよい。本分析方法単独または他の分析方法との組合せにより、PVC粘着テープやその粘着剤層に含まれる成分の組成の同定および組成比の算出が可能となる。なお、クロマトグラムに現われるピークのうち、組成が同定された成分に係るピークについては、同定物もしくは同定物と類似の分子構造を有する化合物を標品に用いて検量線を作成することにより、上記同定された成分の試料中における含有量を算出することができる。また、クロマトグラムに現われたピークに対応する溶出物を分取することにより、粘着テープに含まれる成分を、単体またはより組成が単純化された混合物として分離することが可能であり、その分離物を分析用試料として他の分析方法にも用いることもできる。
(装置および条件)
装置:Agilent Technologies社 1100
カラム:Inertsil C8-4 (4.6 mmφ×150 mm, 5μm)
溶離液組成:蒸留水/アセトニトリルのグラジエント条件
流量:1.0 mL/min
検出器:DAD (190〜400 nm, 230 nm抽出)
カラム温度:40℃
注入量:10μL
【0093】
(1-9)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)
上述した溶液試料のゲルパーミエーションクロマトグラフィーは、以下の装置および条件で行うことができる。上記溶液試料は、固形試料1mgに対して溶媒が0.1〜10mLとなるように適宜濃度を調整し、これを分析用試料として用いるとよい。分析用試料は、適切なフィルタ(例えば、平均孔径0.45μm程度のメンブレンフィルタ)で濾過して装置に注入する。この分析により、クロマトグラムに現われたピークの分子量を、下記の標準ポリスチレン換算の値として算出することが可能である。また、クロマトグラムに現われたピークに対応する溶出物を分取することにより、粘着テープに含まれる成分を、単体またはより組成が単純化された混合物として分離することが可能であり、その分離物を分析用試料として他の分析方法にも用いることもできる。
(装置および条件)
装置:東ソー(株) HLC-8120GPC
ポンプ:益翔科技有限公司(Enshine Scientific Corporation) CO-150
ポンプ流量:1 mL/min
カラム:東ソー(株) HXL Guard Column, TSKgel G4000HXL, TSKgel G5000HXL, TSKgel GMHXL mixed-bedを連結して使用。
カラムオーブン温度:40℃
検出器:島津製作所社製 示差屈折率検出器 RID-10A
展開溶媒:THF
注入量:100μL
標準ポリスチレン:東ソー(株) Tsk gel標準ポリスチレンF-288、同F-40、同F-4、同A-5000、同A-500
【0094】
(2)可塑剤の分析
(2-1)H−NMRによる定量分析
PVC粘着テープから上記(1-2)の方法で粘着剤を取り除いて得た支持基材(典型的にはPVCフィルム)0.2gをクロロホルム30mLに浸漬し、室温で30分間撹拌した後、溶液を分取する。その支持基材を新しいクロロホルム30mLに浸漬し、室温で30分間撹拌した後、溶液を分取する操作を2回繰り返す。このようにして、支持基材中の可塑剤を抽出したクロロホルム溶液90mLを回収する。この溶液からクロロホルムを蒸発させて得られた固形分に、上記(1-4)に記載の濃度となるようにCDClを加えて分析用試料とする。
上記(1-4)に記載の装置および条件によりH−NMR測定を行う。得られたスペクトルおよび他の分析手法で得られた結果を参照して可塑剤に由来するピークを求め、それらのピークの積分比から可塑剤の含有量を求める。分析用試料中に2種以上の可塑剤が含まれる場合には、各可塑剤について、同様にして含有量を求める。なお、ある可塑剤に由来するピークが他の成分(他の可塑剤または可塑剤以外の成分)に由来するピークと重なる場合には、上記他の成分の寄与分を除外した積分比から該可塑剤の含有量を求める。
【0095】
(2-2)GPCによる分子量分析
上記(2-1)と同様の操作により、支持基材中の可塑剤を抽出したクロロホルム溶液90mLを回収する。上記(2-1)で回収したクロロホルム溶液を本分析にも利用することができる。この溶液からクロロホルムを蒸発させて得られた固形分に、上記(1-9)に記載の濃度となるようにTHFを加えて分析用試料とする。
この分析用試料について、上記(1-9)に記載の装置および条件で分析を行い、クロマトグラムを得る。得られたクロマトグラムおよび他の分析手法で得られた結果を参照して、上記クロマトグラムから可塑剤に由来するピークを特定する。このピークの両裾(ピークが立ち上がり始める付近と収束する付近)を結ぶ線をベースラインとして、可塑剤の分子量を求める。分析用試料中に2種以上の可塑剤が含まれる場合には、各可塑剤について、同様にして分子量を求める。
【0096】
(2-3)PLHおよびPLLの配合量および配合比
PLHおよびPLLの配合量(WPLH,WPLL)および重量基準の配合比(WPLH/WPLL)は、以下のようにして求める。
(i)上記(2-1)に記載の方法により支持基材から可塑剤(PLL、PLH)を抽出する。このとき、溶媒不溶物の重量および溶媒可溶物(すなわち、該溶媒による抽出物)の重量を別途計量する。
(ii)上記抽出物について、上記(1-4)のH−NMRおよび13C−NMRや、上記(1-3)、(1-5)、(1-7)に記載の分析手法を適宜採用して、該抽出物に含まれる成分の化学構造を特定し、式量(分子量)を求める。化学構造の特定にあたっては、必要に応じて公知のスペクトルデータ集等を利用することができる。
(iii)上記(1-4)のH−NMRのスペクトルにおいて、上記抽出物に含まれるPLH、PLLその他の成分それぞれに由来するプロトン数(積分比)から各成分のモル比を求める。その結果に上記(ii)で求めた式量を適用することにより、各成分の重量比を算出することができる。この重量比から配合比(WPLH/WPLL)を求める。
(iv)上記(i)および(iii)の重量比から、支持基材の全体重量に対するPLHおよびPLLの重量比を求める。
場合によっては、別法として、上記(ii)のH−NMRのスペクトルにおける積分比から求めた各成分のモル比に、上記(2-2)のGPCから把握される各成分の分子量を適用することによって配合比(WPLH/WPLL)を求めてもよい。
さらに別法として、上記(ii)中の(1-7)の分析においてPLHおよびPLLを精度よく分取可能である場合(これらの成分に係るピークの分離がよい場合)には、上記(1-8)に記載の手法でPLHおよびPLLそれぞれを分取し、それらの乾燥重量から配合比(WPLH/WPLL)を求めてもよい。
【0097】
なお、PVCフィルムの作製に使用する可塑剤(使用前の可塑剤、すなわち可塑剤原料)の分子量は、支持基材中の可塑剤を抽出して調製される上記(2-2)の分析用試料の代わりに、例えば、上記可塑剤原料を直接THFに溶解して調製される分析用試料を用いて求めることができる。より詳しくは、上記可塑剤原料をTHF中に上記(1-9)に記載の濃度(例えば、可塑剤原料10mgに対してTHF10mLの濃度)で溶解させた分析用試料を調製し、これを上記(1-9)に記載の装置および条件で分析して得られたクロマトグラムから、上記(2-2)と同様にして求めることができる。特に限定するものではないが、ここに開示される好ましい配合比(WPLH/WPLL)を満たすPVCフィルムは、例えば、上記の手法で把握される分子量に基づいてPLHに分類される可塑剤とPLLに分類される可塑剤とを選択し、これらを所望のWPLH/WPLLに応じて配合することにより得ることができる。ただし、本段落の記載は単なる一例にすぎず、ここに開示される発明の範囲を限定するものではない。
【0098】
(3)酸化防止剤の分析
(3-1)組成分析
上記(2-1)と同様の操作により、支持基材中の酸化防止剤を抽出したクロロホルム溶液90mLを回収する。上記(2-1)または(2-2)で回収したクロロホルム溶液を本分析にも利用することができる。このクロロホルム溶液を用いて、上述したHPLC、FT−IR、H−NMR、13C−NMRおよびLC/FT−MSから適切な分析手法の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて適用することにより、酸化防止剤を同定して組成分析を行う。
(3-2)定量分析
PVC粘着テープから粘着剤を取り除いて得た支持基材(典型的にはPVCフィルム)0.2gをTHF30mLに浸漬して室温で30分間撹拌した後、溶液を分取する。その支持基材を新しいTHF30mLに浸漬して室温で30分間撹拌した後、溶液を分取する操作を2回繰り返す。このようにして、支持基材中の酸化防止剤を抽出したTHF溶液90mLを回収する。このTHF溶液の100倍量(体積基準)のメタノールに該THF溶液を加える手法で再沈殿操作を行い、得られた上澄み液をメンブレンフィルタで濾過し、次いでHPLCで分析することでクロマトグラムを得る。クロマトグラム中に現われる酸化防止剤由来のピークを用い、上記組成分析により特定した酸化防止剤を標品として検量線を作成して、酸化防止剤の定量を行う。
【0099】
(4)脂肪酸金属塩の分析
以下の装置および条件で行われる蛍光X線分析(XRF)により、脂肪酸金属塩を構成する金属種を定性分析することができる。具体的には、PVC粘着テープの粘着面(粘着剤層の表面)を直径20mmの濾紙に貼り付け、支持基材側からX線を照射する。
(装置および条件)
装置:Rigaku社 ZSX100e
X線源:縦型Rh管
分析元素:B〜U
分析面積:20 mmφ
X線出力および分光結晶:表1に示すとおり。
【0100】
【表1】
【0101】
<用途>
ここに開示される粘着テープは、耐熱劣化性に優れることから、耐熱性が求められる各種の分野に用いられ得る。例えば、電線、配管等の保護や結束、電線等の周りを囲んで保護するコルゲートチューブの被覆、電気絶縁等の用途に好適である。なかでも好ましい用途として、ワイヤーハーネス(例えば、自動車その他の車両のワイヤーハーネス、特に内燃機関を備えた車両のワイヤーハーネス等)の結束や固定、ワイヤーハーネス用コルゲートチューブの被覆や結束、固定等が挙げられる。また、ここに開示される粘着テープは、上記の用途に限定されず、従来からPVC粘着テープが用いられている各種の分野、例えば、電気部品(トランス、コイル等)、電子部品等の層間や外面の絶縁、固定、表示、識別等の分野においても好適に使用され得る。
【実施例】
【0102】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明中の「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0103】
<使用材料>
以下の実施例において使用した材料とその略号は次のとおりである。
【0104】
(ポリ塩化ビニル(PVC))
A:信越化学株式会社製品、重合度1300、商品名「TK−1300」
B:信越化学株式会社製品、重合度1400、商品名「TK−1400」
【0105】
(酸化防止剤)
A:BASF社製品、フェノール系酸化防止剤、商品名「イルガノックス1010」
【0106】
(脂肪酸金属塩)
A:ステアリン酸カルシウム(キシダ化学株式会社製品)
B:ラウリン酸亜鉛(三津和化学薬品株式会社製品)
【0107】
(可塑剤)
H1:DIC株式会社製品、アジピン酸系ポリエステル系可塑剤、商品名「W−360ELS」、分子量2800(上述した方法に基づく測定値)
H2:DIC株式会社製品、アジピン酸系ポリエステル系可塑剤、商品名「W−2300」、分子量3200(上述した方法に基づく測定値)
H3:DIC株式会社製品、アジピン酸系ポリエステル系可塑剤、商品名「W−4010」、分子量5800(上述した方法に基づく測定値)
L1:株式会社ジェイ・プラス製品、フタル酸ジイソノニル、商品名「DINP」、分子量504(上述した方法に基づく測定値)
L2:DIC株式会社製品、トリメリット酸トリ−n−オクチル、商品名「W−755」、分子量750(上述した方法に基づく測定値)
L3:DIC株式会社製品、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、商品名「W−705」、分子量750(上述した方法に基づく測定値)
L4:花王株式会社製品、トリメリット酸トリイソデシル、商品名「トリメックスT−10」、分子量810(上述した方法に基づく測定値)
L5:株式会社ADEKA製品、ピロメリット酸テトラ−2−エチルヘキシル、商品名「UL−80」、分子量834(上述した方法に基づく測定値)
【0108】
(エラストマー)
A:昭和電工株式会社製品、塩素化ポリエチレン、商品名「エラスレン301A」
B:日本合成化学工業株式会社製品、エチレン−酢酸ビニル共重合体、商品名「ソアブレンBH」
【0109】
<粘着テープの作製>
(実施例1)
固形分基準で、SBRラテックス(日本ゼオン株式会社製品、商品名「Nipol LX426」)60部、天然ゴムラテックス(GOLDEN HOPE社製品、商品名「HYTEX HA」)40部および石油樹脂エマルション120部を混合して、水分散型ゴム系粘着剤組成物を調製した。上記石油樹脂エマルションとしては、石油樹脂(エクソン社製品、脂肪族系炭化水素樹脂、商品名「エスコレッツ1202」、軟化点100℃)75部をトルエン25部に溶解し、これに界面活性剤(花王株式会社製品、商品名「エマルゲン920」)3.5部および水46.5部を加えてホモミキサーにて攪拌乳化したものを使用した。以下、上記粘着剤組成物を「粘着剤組成物A」と表記する。
【0110】
表2に示す各原料を同表に示す組成(すなわち、酸化防止剤Aを0.05重量%、脂肪酸金属塩Aを0.10重量%、可塑剤H3を26重量%、可塑剤L2を6重量%の割合で含み、残部がポリ塩化ビニルAからなる組成)となるように計量して混合し、混練した後、カレンダー成形機により成形温度150℃で厚さ100μmの長尺なフィルム形状に成形した。このようにして例1に係るPVCフィルムを得た。
【0111】
上記PVCフィルムの一方の表面に、コンマダイレクトコーターを用いて上記粘着剤組成物Aを塗布し、乾燥させ、後述する巻付け試験を行うために十分な長さで巻き取った。粘着剤組成物Aの塗布量は、乾燥後に形成される粘着剤層の厚さが20μmとなるように調整した。これを19mmの幅に切断(スリット)して、PVCフィルムの一方の表面に粘着剤層を有する例1に係る粘着テープを得た。
【0112】
(実施例2〜11および比較例1〜2)
PVCフィルムの組成、PVCフィルムの厚さおよび粘着剤層の厚さをそれぞれ表2に示すとおりとした他は実施例1と同様にして、実施例2〜11および比較例1〜2に係る粘着テープをそれぞれ作製した。
【0113】
<測定および評価>
(加熱減量)
上述した加熱減量測定方法に従って、各例に係る粘着テープの加熱減量を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0114】
(保持力)
上述した保持力測定方法に従って、各例に係る粘着テープの保持力を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0115】
(初期粘着力)
各例に係る粘着テープ(幅19mm)を適当な長さにカットし、23℃、50%RHの環境下にて、被着体としてのステンレス鋼板(SUS板)に、2kgのローラを1往復させて圧着した。これを23℃、50%RHの環境下に30分間放置した後、JIS Z0237:2009に準じて、引張試験機を使用して引張速度300mm/分の条件で180度剥離強度(N/19mm)を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0116】
(巻付け試験)
車両ハーネス電線保護用コルゲートチューブ(矢崎総業株式会社製、HCOT−FR、φ10mm)の長さ600mmの範囲に、各例に係る粘着テープ(幅19mm)をハーフラップにて巻き付けて、評価用のサンプルを作製した。ここでハーフラップとは、粘着テープを巻き付ける際に、該粘着テープの幅の半分が既に巻き付けられた粘着テープの幅の半分に重なり合うようにする巻付け態様をいう。上記サンプルを105℃に設定したギアーオーブン(東洋精機社、ACR60)に投入して3000時間保持した。その後、上記サンプルをギアーオーブンから取り出して室温(25±3℃)に放置し、サンプルの温度が室温と等しくなってから、100mm径の鋼棒の外周に沿うように巻き付けた。この状態を維持し、鋼棒外周への巻付けから30分後に目視によってサンプルの外観を観察した。具体的には、クラック(コルゲートチューブに巻き付けられた粘着テープに亀裂が入った状態)の有無と、粘着テープの巻始めおよび巻終わりの端部におけるコルゲートチューブからの剥がれの有無とを観察した。
観察結果を以下の3水準で表2に示した。
◎:クラックおよび端部剥がれのいずれも認められない(優)。
○:軽微なクラックが認められるがコルゲートチューブの外表面が見えることはなく、端部剥がれは認められない(良)。
×:コルゲートチューブの外表面が見えるレベルのクラックが認められ、端部の剥がれも認められる(不可)。
【0117】
【表2】
【0118】
表2に示される巻付け試験の結果から、加熱減量が4%未満に抑制されている実施例1〜11の粘着テープは、加熱減量が4%以上である比較例1〜2の粘着テープに比べて、明らかに良好な耐熱劣化性を有することがわかる。PLHとPLLとをWPLH/WPLLが0.5〜100となる重量比で含む実施例1〜7,10,11の粘着テープは、特に良好な耐熱劣化性を示した。なお、実施例8の粘着テープは、耐熱劣化性の点では実施例1〜7,10,11と同等以上の性能を示したが、低温における柔軟性が不足気味であることがわかった。
【0119】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0120】
1,2 PVC粘着テープ
11 支持基材
11A 第一面
11B 第二面
21,22 粘着剤層
21A 表面(粘着面)
図1
図2