特許第6633488号(P6633488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6633488導電性ペースト及び導電膜付基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6633488
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】導電性ペースト及び導電膜付基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20200109BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20200109BHJP
   C09D 11/033 20140101ALI20200109BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20200109BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20200109BHJP
   H05K 3/20 20060101ALI20200109BHJP
   C09D 11/107 20140101ALI20200109BHJP
【FI】
   H01B1/22 A
   H01B13/00 503C
   C09D11/033
   C09D11/52
   H05K1/09 A
   H05K3/20 C
   C09D11/107
【請求項の数】16
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-186227(P2016-186227)
(22)【出願日】2016年9月23日
(65)【公開番号】特開2017-69198(P2017-69198A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年12月4日
(31)【優先権主張番号】特願2015-192134(P2015-192134)
(32)【優先日】2015年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 広治
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−055827(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/050560(WO,A1)
【文献】 特開2004−227799(JP,A)
【文献】 特開2010−055807(JP,A)
【文献】 特開2015−110683(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/012264(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/119463(WO,A1)
【文献】 特開2012−052225(JP,A)
【文献】 特開2011−243544(JP,A)
【文献】 特開平11−273987(JP,A)
【文献】 特開平06−349315(JP,A)
【文献】 特開2011−057859(JP,A)
【文献】 特開2012−241134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
C09D 11/033
C09D 11/107
C09D 11/52
H01B 13/00
H05K 1/09
H05K 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面がシリコーンゴムで形成されたブランケットにスクリーン版によるパターンを転写するための導電性ペーストであって、導電性粒子と、ガラス転移温度10℃以上の固形アクリル系樹脂を含むバインダー樹脂と、第1有機溶媒及び第2有機溶媒を含む有機溶媒とを含み、前記第1有機溶媒が、120℃以上の沸点を有し、かつ前記シリコーンゴムを膨潤率60%以上で膨潤させる溶媒であり、前記第2有機溶媒が、前記シリコーンゴムを膨潤率30%以下で膨潤させる溶媒である導電性ペースト。
【請求項2】
第2有機溶媒の沸点が120℃以上である請求項1記載の導電性ペースト。
【請求項3】
第1有機溶媒と第2有機溶媒との質量比が、第1有機溶媒/第2有機溶媒=20/80〜70/30である請求項1又は2記載の導電性ペースト。
【請求項4】
B型粘度計を用いて25℃及び10rpmで測定した粘度が5〜300Pa・sである請求項1〜3のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項5】
第1有機溶媒が脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素である請求項1〜4のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項6】
第1有機溶媒がC10−14アルカン、C10−14アルケン又はC8−12シクロアルカンである請求項1〜5のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項7】
第2有機溶媒が、アルコール類、ケトン類、エステル類、セロソルブ類、カルビトール類及びピロリドン類からなる群より選択された少なくとも一種である請求項1〜6のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項8】
有機溶媒の割合が、導電性ペースト全体に対して20〜60体積%である請求項1〜7のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項9】
バインダー樹脂が、ガラス転移温度10℃未満の液状樹脂をさらに含む請求項1〜8のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項10】
液状樹脂が、液状アクリル系樹脂を含む請求項9記載の導電性ペースト。
【請求項11】
バインダー樹脂の割合が、導電性ペースト全体に対して5〜30体積%である請求項1〜10のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項12】
導電性粒子が、銅、銀及びニッケルからなる群より選択された少なくとも一種又は二種以上を含む合金で形成されている請求項1〜11のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項13】
ガラス粒子をさらに含む請求項1〜12のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項14】
導電性粒子が、活性金属粒子を含む請求項1〜13のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項15】
スクリーンオフセット印刷用ペースト又はスクリーンパッド印刷用ペーストである請求項1〜14のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の導電性ペーストを少なくとも表面がシリコーンゴムで形成されたブランケットの表面にスクリーン版を通して印刷する印刷工程と、印刷されたペースト膜を絶縁性基板に転写する転写工程と、転写されたペースト膜を焼成して導電膜を絶縁性基板の表面に形成するための焼成工程とを含む導電膜付基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーンオフセット印刷などのスクリーン版を用いる転写印刷法によって電極や回路のパターンを形成するために有用な導電性ペースト及びこのペーストを用いた導電膜付基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品の分野において、フィルムや基板の表面に配線や電極などの導電膜を形成する方法として厚膜法や薄膜法、メッキ法などがある。厚膜法は導電性ペーストをスクリーン印刷して配線電極パターンを形成した後に硬化や焼き付けを行って導電膜を形成する方法である。この厚膜法のメリットは工程が簡単であることやマスク費用が安価であることなどの理由で全体として低コストで導電膜が形成できることにある。また、他工法に比べると、例えば10μm以上の厚い導電膜も形成し易い。しかし、反面、形状の優れた導電膜を形成するのは困難であり、印刷されたペーストが垂れてしまうことで蒲鉾状の断面形状となったり、スクリーンメッシュの痕が残って表面が荒れてしまったりする。
【0003】
このような厚膜法に対して、例えば1μm以下の薄い膜を形成できる薄膜法(スパッタリング法)がある。薄膜法であれば微細パターンを精密に形成することも可能であるが、真空工程が必要であるためコストが高い上に、厚膜形成には時間がかかりすぎるために向いていない。
【0004】
微細パターンを精密に形成でき、且つ厚膜形成も可能な方法としてメッキ法がある。メッキ法であれば厚膜形成は比較的容易であるが、微細なパターニングのためにはフォトリソグラフィー工程とそれに続くエッチング工程が必要となる。このような工程を経るメッキ法には、基材にメッキ付けした導電膜表面に感光性のレジストを施し、必要部分のみを露光して硬化させ、硬化していない不要部分を現像液で除去した後、ウェットプロセスにて化学エッチングする方法、メッキシード層を設けた基材にレジストを付けた後に露光・現像を行い、開口部分にだけメッキを施した後、レジストを剥離してメッキのついていない部分のシード層をドライエッチングなどによって除去してパターン形成する方法の2種類の方法が存在する。しかし、いずれの方法でも、多くの工程を必要とし、経済性は低い。
【0005】
このように、各方法とも一長一短の特徴を有するため、実際には必要な品質やコストのレベルにあわせて使い分けられているのが現状である。
【0006】
ところで、電子部品市場は世界的に競争が激しいため低コストであることが常に求められている。また、電子機器の小型化の流れも依然として続いており、それに伴って配線電極パターンの微細化もますます進んでいく状況である。さらには、微細化によって導体回路の幅が狭くなる分、膜厚を厚くすることで電流経路の断面積を確保しようとするために導電膜が厚くなる傾向も進んでいる。それ以外にも、例えば、フリップチップ実装タイプのLED(発光ダイオード)素子では、アノード電極とカソード電極との距離が非常に狭くなっており、これに合わせて電極を実装する基板側の電極間距離も狭く(例えば50μmなど)微細パターンが必要となってきている上に、LEDの高出力化に伴い電極も厚くなる傾向がある。加えて、チップ実装には平坦な表面が必要であり、且つ前述のアノード・カソードの電極間距離はチップが実装される面、即ち電極の上面で達成されなければならない。電極下面、即ち基材との接触面における電極間距離も既に狭すぎるために余裕はなく、電極上面と電極下面のサイズはほぼ同じとなる必要があり、言い換えれば電極断面形状は矩形であることが要求される。
【0007】
このような低コスト、微細パターンで厚膜、且つ表面が平滑で矩形断面である導電膜の要求を満たしていくには、前述した既存のプロセスで対応を続けることが難しくなっており、新しいプロセスが望まれている。中でも、印刷法は低コストである点や、必要な部分に必要な分だけを印刷すればよいため、資源を有効活用できると点などの長所が期待され、前記のスクリーン印刷法の他に様々な印刷方法が検討されている。
【0008】
例えば、インクジェット印刷法は、版や金型などが不要であり、データをそのまま描画できる利点があり、ノズルから吐出させるインク量を精密にコントロールすることにより細い配線の印刷も可能であるため、微細なパターンを容易に形成できる。しかし、細かいドットで描画を行う方式であるため厚膜や大面積の印刷となればたちまちコストが増大する。
【0009】
凹版を用いたグラビアオフセット印刷も微細パターン形成の目的で検討されることが多い。しかし、凹んだ版の中に充填したインクを転写させる方式であるため、インク転写量はそれほど多くできず転写膜厚としては2〜3μm程度であり、例えば10μmの厚膜を転写させることは困難である。また、凹版のインクを充填しない部分に付着したインクはドクターブレードで掻きとって不要な部分にインクが転写されないようにするが、インクを完全に掻き取るためにはインクの粘度を、ある程度低くする必要がある。そのため、グラビアオフセット印刷では、溶媒の量を多めにしてインク中の固形分を少なくしなければならず、このことも膜厚を厚くできない理由の一つになっている。また、インクを充填しない版凸部上面に付着したインクはドクターブレードで掻き取られるが、近年の導電性インクやペーストには導電性を向上させる目的で、ナノサイズなどの微細な金属粒子が用いられることがあり、このような微細粒子がドクターブレードで掻き取りきれずに転写されてしまい、印刷された回路が絶縁不良となるケースもある。
【0010】
このような印刷法のデメリットを克服し、メリットを最大限に活かす方法としてスクリーンオフセット印刷法やスクリーンパッド印刷法などのスクリーン版を用いる転写印刷法(スクリーン版による所定のパターンを、シリコーンゴムで形成された転写部材によって転写する印刷方法)が提唱されている。
【0011】
スクリーンオフセット印刷法は、シリコーンブランケット(シリコーンゴムで形成されたブランケット)の表面にスクリーン印刷によって所定のパターンを印刷し、このパターンを本来印刷目的とする基板やフィルムに転写してパターン形成を行う方法である。この方法によると、まずスクリーン印刷をすることで厚膜形成ができる。このスクリーン印刷は、一旦シリコーンブランケット上に行われるために、シリコーンブランケットがペースト中の溶媒をある程度吸収する。そのため、スクリーン印刷において、ペーストが滲んだり垂れたりして隣接パターンと引っ付いたり、膜の断面形状が蒲鉾状となるのを抑制できる。なお、膜表面にはメッシュ痕が生じるかもしれないが、膜を対象物に転写した際に表面に位置するのはシリコーンブランケットと接触している側の面であり、シリコーンブランケットは平滑であるため、膜も平滑な面が表に現れる。従って、スクリーンオフセット印刷法では、表面が平滑であり、かつ断面形状が矩形である微細なパターンを印刷できる。また、コスト面においてもシリコーンブランケットに一旦印刷するだけなので大きなロスはなく、低コストに実行できる工法である。
【0012】
一方、スクリーンパッド印刷法は、シリコーンブランケットの表面にスクリーン印刷によって所定のパターンを印刷し、その印刷面にシリコーンパッドを押し当てることで一旦シリコーンパッドにパターンを転写した後、シリコーンパッドを本来印刷目的とする基板やフィルムに押し当てることでパターンを転写してパターン形成を行う方法である。この方法は、表面が平滑であり、かつ断面形状が矩形な厚膜パターンが得られるスクリーン印刷と転写印刷とを組み合わせた方式の利点を失うことなく、さらに印刷目的物に曲面があったり、凹凸があってもパターンを形成できる利点も有している。その理由は、この方法が柔らかいシリコーンパッドを押し当てて転写する方式であり、シリコーンパッドが曲面や凹凸に追随できるためである。スクリーンパッド印刷法のペーストに求められる特性としては、スクリーン印刷とそれに続くシリコーンブランケットを用いた転写方式とが共通していることから、前述のスクリーンオフセット印刷法と同様である。その意味でスクリーン印刷を用いないグラビアオフセット印刷用のペーストはスクリーンパッド印刷法にも適さないと言える。
【0013】
このようにスクリーン版を用いる転写印刷法を用いれば、他の印刷法に比べて、低コストで微細パターンを形成でき、厚膜であり、表面が平滑であり、かつ矩形断面である導電膜が得られる利点を有するものの、実際にスクリーン版を用いる転写印刷法で良好な印刷を行うために様々な課題があった。例えば、前述のように、スクリーンオフセット印刷法でも、ペーストはシリコーンブランケットに印刷された後に基材へと転写される仕組みであるが、この転写がされなかったり、一部が基材へと転写されてもブランケット側にもペーストが残ってしまう所謂「泣き別れ」の現象が生じ易い。また、たとえ完全に転写ができたとしてもパターン精度が低く、極端な場合には隣接パターンと引っ付いたり、糸引きが起こって隣接パターンにブリッジしたりする場合もあった。さらには、微細パターンが高い再現性で転写できた場合でも断面形状が矩形でなく蒲鉾状になる場合もあった。なお、前述のグラビアオフセット印刷法(凹版オフセット印刷の1種)も、シリコーンブランケットを用いる点では同一であるが、転写しようとする膜の厚みが異なっており、グラビアオフセットでは2〜3μm程度であるのに対して、スクリーンオフセットは少なくとも10μm程度の厚膜であるため、良好な転写を得ることが非常に困難である。
【0014】
そのためか、スクリーンオフセット印刷などのスクリーン版を用いる転写印刷法において、ペースト組成によって解決を試みた報告は見られない。他の印刷方式用のペーストとしては、例えば、凹版オフセット印刷用導電性ペーストとして、特開2007−250892号公報(特許文献1)には、導電性粉末と、ガラスフリットと、バインダ樹脂と、溶媒とを含有し、前記溶媒が、前記バインダ樹脂の良溶媒と貧溶媒との混合溶媒であり、前記貧溶媒の割合が、前記混合溶媒の全量に対して5〜40重量%である凹版オフセット印刷用導電性ペーストが開示されている。
【0015】
また、特開2010−55807号公報(特許文献2)には、少なくとも表面がシリコーンゴムからなるシリコーンブランケットを用いた凹版オフセット印刷法に用いる導電性ペーストであって、バインダ樹脂、導電性粉末及び少なくとも二種の溶剤からなる混合溶剤を含み、前記混合溶剤を構成する少なくとも一種の溶剤が、前記シリコーンブランケットを2cm角に切り出したサンプルを23±1℃で溶剤中に5時間浸漬した前後の質量変化率V(質量%)が40質量%以上である高膨潤性溶剤、他の溶剤が、前記質量変化率V(質量%)が40質量%未満である低膨潤性溶剤であり、前記高膨潤性溶剤の質量変化率V(質量%)と、前記高膨潤性溶剤の総量の、混合溶剤の総量中に占める割合R(質量%)との積V×Rが0.05以上、0.70以下である導電性ペーストが開示されている。
【0016】
しかし、これらのペーストも、いずれもグラビア(凹版)オフセット印刷用ペーストであり、スクリーンオフセット印刷については開示されていない。
【0017】
また、特許文献1の実施例で挙げられている貧溶媒としてのトルエンは揮発性が高く、乾きやすいためか、スクリーンオフセット印刷には使用できなかった。
【0018】
さらに、特許文献2においてシリコーンブランケットを膨潤させる溶媒として実施例で用いられているグリコールエーテル系溶媒やターピネオールは、実際には、特許文献2に記載されているようには、シリコーンゴムを膨潤せしめる溶媒ではなく、むしろその化学的特性(極性)からみても前記の低膨潤性溶媒に分類されるべき溶媒である。実際に、本発明者はこれらの溶媒を高膨潤性溶媒として用いてスクリーンオフセット印刷を試みたがシリコーンブランケットへの吸収が十分でなく泣き別れ現象が生じてしまい、良好な転写は得られなかった。これは前記の理由によるか、または、グラビアオフセットとスクリーンオフセットとの違いに起因すると推定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2007−250892号公報(請求項1)
【特許文献2】特開2010−55807号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
従って、本発明の目的は、スクリーンオフセット印刷などのスクリーン版を用いる転写印刷によって高い精度でパターンを転写できる導電性ペースト及び導電膜付基板の製造方法を提供することにある。
【0021】
本発明の他の目的は、スクリーン版を用いる転写印刷によって、表面が平滑であり、断面矩形形状であり、かつ微細で厚肉なパターンを高い精度で転写できるとともに、転写の際に泣き別れや糸引き現象も抑制できる導電性ペースト及び導電膜付基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、導電性粒子を含むペーストにおいて、アクリル系樹脂と、スクリーン版を用いる転写印刷のシリコーンブランケットに対する浸透力又は親和力が異なる2種類の有機溶媒を組み合わせることにより、スクリーン版を用いる転写印刷によって高い精度でパターンを転写できることを見出し、本発明を完成した。
【0023】
すなわち、本発明の導電性ペーストは、少なくとも表面がシリコーンゴムで形成されたブランケットにスクリーン版によるパターンを転写するための導電性ペーストであって、導電性粒子と、ガラス転移温度10℃以上の固形アクリル系樹脂を含むバインダー樹脂と、第1有機溶媒及び第2有機溶媒を含む有機溶媒とを含み、前記第1有機溶媒が、120℃以上の沸点を有し、かつ前記シリコーンゴムを膨潤率60%以上で膨潤させる溶媒であり、前記第2有機溶媒が、前記シリコーンゴムを膨潤率30%以下で膨潤させる溶媒である。前記第2有機溶媒の沸点は120℃以上であってもよい。前記第1有機溶媒と前記第2有機溶媒との質量比は、第1有機溶媒/第2有機溶媒=20/80〜70/30程度である。本発明の導電性ペーストは、B型粘度計を用いて25℃及び10rpmで測定した粘度が5〜300Pa・sであってもよい。前記第1有機溶媒は脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素(特にC10−14アルカン、C10−14アルケン又はC8−12シクロアルカン)であってもよい。前記第2有機溶媒は、アルコール類、ケトン類、エステル類、セロソルブ類、カルビトール類及びピロリドン類からなる群より選択された少なくとも一種であってもよい。前記有機溶媒の割合は、導電性ペースト全体に対して20〜60体積%程度である。前記バインダー樹脂は、ガラス転移温度10℃未満の液状樹脂をさらに含んでいてもよい。前記液状樹脂は、液状アクリル系樹脂を含んでいてもよい。前記バインダー樹脂の割合は、導電性ペースト全体に対して5〜30体積%程度である。前記導電性粒子は、銅、銀及びニッケルからなる群より選択された少なくとも一種又は二種以上を含む合金で形成されていてもよい。本発明の導電性ペーストは、ガラス粒子をさらに含んでいてもよい。前記導電性粒子は、活性金属粒子を含んでいてもよい。本発明の導電性ペーストは、スクリーンオフセット印刷用ペースト又はスクリーンパッド印刷用ペーストであってもよい。
【0024】
本発明には、前記導電性ペーストを少なくとも表面がシリコーンゴムで形成されたブランケットの表面にスクリーン版を通して印刷する印刷工程と、印刷されたペースト膜を絶縁性基板に転写する転写工程と、転写されたペースト膜を焼成して導電膜を絶縁性基板の表面に形成するための焼成工程とを含む導電膜付基板の製造方法も含まれる。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、導電性粒子を含むペーストにおいて、アクリル系樹脂と、スクリーンオフセット印刷のシリコーンブランケットに対する浸透力又は膨潤力が異なる2種類の有機溶媒が組み合わされているため、スクリーンオフセット印刷やスクリーンパッド印刷などのスクリーン版を用いる転写印刷によって高い精度でパターンを転写できる。特に、表面が平滑であり、断面矩形形状であり、かつ微細で厚肉なパターンを高い精度で転写できるとともに、転写の際に泣き別れや糸引き現象も抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[有機溶媒]
本発明の導電性ペーストは、スクリーンオフセット印刷やスクリーンパッド印刷などのスクリーン版を用いる転写印刷で用いられるブランケット(少なくとも表面がシリコーンゴムで形成されたブランケット)を構成するシリコーンゴムに対する浸透力が異なる2種類の溶媒(第1及び第2有機溶媒)を含んでおり、第1有機溶媒としては前記シリコーンゴムを膨潤させ易い溶媒、すなわち前記シリコーンゴム中に吸収され易い溶媒を選択し、第2有機溶媒としては前記シリコーンゴムを膨潤させ難い溶媒、すなわち前記シリコーンゴムに吸収され難い溶媒を選択する。その結果、第1有機溶媒は、導電性ペーストの印刷膜からブランケットへと速やかに吸収されるため、印刷と同時に印刷膜の粘度が上昇し、垂れなどで形状が崩れ難くなるとともに、転写に必要な膜の強度が得られる。一方、第2有機溶媒は、ブランケットには吸収され難く、印刷膜に残存するため、転写される際に転写相手材である絶縁性基板に付着できる程度の粘着性を有するとともに、ブランケットと印刷膜との界面に微量な液層を形成するため、ブランケットに対しては容易に剥離できる。
【0027】
具体的には、前記第1有機溶媒による前記シリコーンゴムの膨潤率は60%以上(例えば60〜150%)であり、好ましくは80%以上(例えば80〜130%)、さらに好ましくは100%以上(例えば100〜110%)程度である。第1有機溶媒による膨潤率が小さすぎると、第1有機溶媒のブランケットの浸透力が低下し、転写されるパターン形状の精度が低下する。
【0028】
一方、第2有機溶媒による前記シリコーンゴムの膨潤率は30%以下(例えば0〜30%)であり、好ましくは20%以下(例えば1〜20%)、さらに好ましくは10%以下(例えば5〜10%)程度である。第2有機溶媒による膨潤率が大きすぎると、第2有機溶媒のブランケットへの浸透力が上昇し、絶縁性基板への転写精度が低下する。
【0029】
本発明では、膨潤率は、有機溶媒中にシリコーンゴム試験片を25℃で72時間浸漬したときの浸漬前後の体積変化率により算出でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。シリコーンゴム試験片は、スクリーンオフセット印刷で用いられるブランケットを構成するシリコーンゴムであり、例えば、メチルシリコーンゴムであってもよい。
【0030】
第1有機溶媒の沸点は、ブランケットへのスクリーン印刷性の点から、120℃以上(例えば120〜300℃)であり、好ましくは150℃以上(例えば150〜280℃)、さらに好ましくは180℃以上(例えば180〜250℃)である。第1有機溶媒の沸点が低く、揮発性が高すぎると、ブランケットへのスクリーン印刷の段階でペーストの乾きが速すぎてスクリーンメッシュを通過しにくく印刷物がかすれるなど、スクリーン印刷性が低下する。
【0031】
第2有機溶媒の沸点は、絶縁性基板に対する転写性の点から、120℃以上(例えば120〜300℃)であってもよく、好ましくは150℃以上(例えば150〜280℃)、さらに好ましくは180℃以上(例えば180〜250℃)である。第2有機溶媒の沸点が低く、揮発性が高すぎると、転写前の段階においてペーストの印刷膜が直ちに乾燥して絶縁性基板に対する粘着性が失われ、転写が困難となる虞がある。
【0032】
第1有機溶媒は、120℃以上の沸点を有し、かつ前記膨潤性を充足すれば、特に限定されないが、具体的に、前記シリコーンゴムに対する浸透力又は膨潤力が高い第1有機溶媒として、炭化水素系溶媒などを好ましく利用できる。炭化水素系溶媒としては、直鎖状、分岐鎖状又は環状脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素のいずれも利用でき、例えば、脂肪族炭化水素[飽和脂肪族炭化水素(オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、オクタデカンなどのC8−18アルカンなど);不飽和脂肪族炭化水素(オクテン、デセン、ドデセンなどのC8−18アルケン;オクチンなどのC8−18アルキンなど)など]、脂環式炭化水素(シクロオクタン、シクロデカンなどC8−18シクロアルカンなど)、芳香族炭化水素(キシレン、エチルベンゼンなど)などが挙げられる。これらの炭化水素系溶媒は、異性体であってもよい。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0033】
これらの炭化水素系溶媒のうち、保管中や連続印刷時におけるスクリーン版上でのペーストの乾燥を抑制できる点から、分子量が大きく揮発し難い溶媒が好ましく、脂肪族炭化水素(例えば、ドデカンなどのC10−14アルカン、ドデセンなどのC10−14アルケンなど)、脂環式炭化水素(例えば、シクロデカンなどのC8−12シクロアルカンなど)が好ましく、ドデカンなどのC11−13アルカン、ドデセンなどのC11−13アルケン、シクロデカンなどのC9−11シクロアルカンが特に好ましい。
【0034】
第2有機溶媒も、前記膨潤性を充足すれば、特に限定されないが、具体的に、前記シリコーンゴムに対する浸透力又は膨潤力が低く、120℃以上の沸点を有する第2有機溶媒としては、例えば、アルコール類[脂肪族アルコール(オクタノール、デカノール、ジアセトンアルコールなど);脂肪族多価アルコール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、トリエチレングリコール、グリセリンなど);脂環式アルコール(シクロヘキサノールなどのシクロアルカノール;テルピネオール、ジヒドロテルピネオールなどのテルペンアルコール(モノテルペンアルコールなど));芳香族アルコール(ベンジルアルコールなど)など]、ケトン類(シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、イソホロンなどの脂環式ケトンなど)、エステル類(乳酸エチル、酢酸ブチルなどの脂肪族カルボン酸エステル;ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートなどの芳香族カルボン酸エステル類など)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ;エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテートなどセロソルブアセテートなど)、カルビトール類(カルビトール、メチルカルビトール、エチルカルビトールなどのカルビトール;エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテートなどのカルビトールアセテートなど)、窒素含有複素環化合物(ジメチルイミダゾール、ジメチルイミダゾリジノンなどのイミダゾール類;2−ピロリドン、3−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンなどのピロリドン類など)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0035】
これらの溶媒のうち、アルコール類(デカノールなどのC8−12アルカノール、テルピネオールなどの脂環式アルコールなど)、ケトン類(イソホロンなどの脂環式ケトンなど)、エステル類(乳酸メチルなどの脂肪族カルボン酸エステルなど)、セロソルブ類(ブチルセロソルブなどのC2−6アルキルセロソルブなど)、カルビトール類(ブチルカルビトールアセテートなどのC2−6アルキルカルビトールアセテートなど)、ピロリドン類(N−メチル−2−ピロリドンなどのN−C1−3アルキルピロリドンなど)などが汎用され、ペーストの流動性などの点から、テルピネオールなどのテルペンアルコール、ブチルカルビトールアセテートなどのC2−6アルキルカルビトールアセテート、N−メチル−2−ピロリドンなどのN−C1−3アルキルピロリドンが好ましい。
【0036】
第1有機溶媒と第2有機溶媒との質量比は、例えば、第1有機溶媒/第2有機溶媒=20/80〜70/30、好ましくは25/75〜65/35、さらに好ましくは30/70〜60/40程度である。第1有機溶媒が少なすぎると、ブランケット上の印刷膜中に多量の有機溶媒が残存するため、有機溶媒の表面張力の影響で印刷膜の断面形状が蒲鉾状となる虞がある。また、極端な場合にはブランケットと絶縁性基板との間で泣き別れの現象が生じる虞もある。反対に、第1有機溶媒が多すぎると、殆どの有機溶媒がブランケットに吸収されるため、印刷膜が乾燥し過ぎて粘着性を消失し、転写できない虞がある。
【0037】
なお、有機溶媒は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、第3の有機溶媒(前記膨潤率が30%を超えて60%未満である有機溶媒)を含んでいてもよい。有機溶媒全体に対して、第1有機溶媒及び第2有機溶媒の合計割合は50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、100質量%(第1有機溶媒及び第2有機溶媒のみ)であってもよい。
【0038】
有機溶媒の割合は、特に限定されないが、導電性ペースト全体に対して、例えば20〜60体積%、好ましくは25〜55体積%、さらに好ましくは30〜50体積%程度である。有機溶媒の割合が少なすぎると、ペーストが固くなるためにスクリーン印刷が困難となるだけでなく、ブランケット上に印刷されて吸収された際に印刷膜が乾き過ぎて粘着性を消失し、転写できなくなる虞がある。反対に有機溶媒の量が多すぎると、第1有機溶媒が吸収されても、第2有機溶媒が印刷膜中に多く残存し、粘度の上昇が抑制されて印刷膜が垂れて形状が正確に転写されない虞がある。また、極端な場合にはブランケットと絶縁性基板との間で泣き別れの現象が生じる虞もある。
【0039】
[バインダー樹脂]
バインダー樹脂はガラス転移温度10℃以上の固形アクリル系樹脂を含む。固形アクリル系樹脂を用いる理由は、固形アクリル系樹脂は可溶な有機溶媒の種類が多く、性質の大きく異なる二種類の溶媒を用い易いこともあるが、特に、ブランケットの材質であるシリコーンゴムと極性が相反する点が大きい。すなわち、シリコーンゴムは、無極性の有機溶媒を吸収し易く、極性の有機溶媒は吸収し難い性質を有しているが、これに対して固形アクリル系樹脂は可溶な溶媒が多いものの、相対的には、極性溶媒としての第2有機溶媒になじみ易く、無極性溶媒としての第1有機溶媒にはなじみ難い。そのため、シリコーンブランケットに第1有機溶媒と第2有機溶媒を含む固形アクリル系樹脂バインダーとが接触したときに、第1有機溶媒がシリコーンブランケットに移行し易い状態を調製できる。
【0040】
固形アクリル系樹脂としては、ガラス転移温度10℃以上の単独重合体を形成するアクリル系単量体、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソブチルなどのメタクリル酸C1−4アルキルエステルやアクリル酸t−ブチルなどのアクリル系単量体を構成単位として含む単独重合体及び共重合体などが挙げられる。固形アクリル系樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の共重合性単量体を構成単位として含んでいてもよい。
【0041】
他の共重合性単量体としては、例えば、アクリル系単量体[アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチルなどのアクリル酸C1−4アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸C5−12アルキルエステルなど]、オレフィン系単量体、スチレン系単量体(スチレン、ビニルトルエンなど)、ビニルエステル系単量体、(無水)マレイン酸又はそのアルキルエステルなどが挙げられる。
【0042】
これらの固形アクリル系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの固形アクリル系樹脂のうち、第2有機溶媒に対する溶解性に優れ、第1有機溶媒に対しても、ある程度の溶解性を有することにより、ペーストのゲル化を抑制できる点から、ポリメタクリル酸ブチル(例えば、ポリメタクリル酸n−ブチルなど)などのポリメタクリル酸C1−4アルキルエステルが好ましい。
【0043】
固形アクリル系樹脂のガラス転移温度は、例えば10〜120℃、好ましくは15〜110℃、さらに好ましくは20〜100℃程度である。本明細書及び特許請求の範囲では、ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定できる。
【0044】
固形アクリル系樹脂の重量平均分子量は、特に制限されず、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにおいて、ポリスチレン換算で、例えば1000〜20000、好ましくは3000〜10000、さらに好ましくは5000〜8000程度である。
【0045】
バインダー樹脂は、固形アクリル系樹脂に加えて液状樹脂をさらに含んでいてもよい。固形アクリル系樹脂と液状樹脂とを組み合わせることにより、シリコーンブランケットを用いた転写印刷に共通する課題も大きく改善される。転写印刷に共通する課題とは、多枚数のワークへの印刷を繰り返す際に連続印刷性に欠ける点であり、この課題は、シリコーンゴムにペーストやインクに含まれる溶媒の一部が吸収されることで徐々にブランケットゴムが膨潤飽和して溶媒の吸収量が低下したり吸収できなくなったりすることにより生じる。詳しくは、ブランケットに溶媒が吸収されにくくなることで転写前の膜は適度な乾きを得られなくなり、最終的には泣き別れの現象を生じて転写不可となってしまう。そのため、実際の印刷作業では連続印刷の途中で定期的に作業を止めてブランケットを交換したりブランケット中の溶媒を除去したりしなければならず生産性が上がらないという欠点があった。このような欠点に対して、液状樹脂は、以下のような理由で有効である。
【0046】
ペーストに液状樹脂を添加すれば前記課題を改善できる理由として、ブランケットに吸収されるべき溶媒(本発明で云うところの第1有機溶媒)の配合量を抑えることができる点が挙げられる。液状樹脂を用いず固形樹脂を有機溶媒に溶解させることで作製される有機ビヒクルだけを用いる場合、ペーストのスクリーン印刷に適する粘度を得るために有機溶媒を多く配合せねばならず、バインダー樹脂の量は自ずと少なくなりがちである。バインダー樹脂の量が少ないほど膜の粘りやコシが弱いものとなり膜の全体が完全転写し難く「泣き別れ」となりやすい性質を内在する。その場合でも適度な乾きと粘着性とのバランスが得られないわけではないが、連続印刷の過程において前記のようにその状態を保つことは難しい。これに対して、液状樹脂を用いればバインダー樹脂が多い構成でスクリーン印刷に適した粘度とすることができ、印刷後転写前の膜の粘りやコシを強くすることができて膜が分かれたり裂けたりし難くなる。加えて、液状樹脂自体が粘着性を有するため、転写の際に必要な乾きと粘着性のバランスを大きく粘着側にシフトすることができ、膜を乾かす(粘度を上げる)のに必要な第1有機溶媒(吸収溶媒)は液状樹脂を使わない場合に比べて少量で済む。さらには、転写のバランスが粘着側にシフトすることで第1溶媒の吸収が多少低下しても、粘着側にシフトしていない場合であれば泣き別れとなってしまうが、粘着側にシフトしているがために転写が行えて連続印刷性はさらに向上する。
【0047】
液状樹脂の種類は特に制限されないが、液状アクリル系樹脂、液状エポキシ樹脂、液状フェノール樹脂、液状シリコーン樹脂、液状テルペン樹脂などを用いることができる。これらの液状樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。中でも前記のアクリル系樹脂との相溶性や溶媒への溶解性を考慮すれば液状アクリル系樹脂が好ましい。
【0048】
液状アクリル樹脂としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチルなどのアクリル酸C1−4アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸C5−12アルキルエステルなどのアクリル系単量体を構成単位として含む単独重合体及び共重合体などが挙げられる。液状アクリル系樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の共重合性単量体を含んでいてもよい。
【0049】
他の共重合性単量体としては、例えば、アクリル系単量体(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソブチルなどのメタクリル酸C1−4アルキルエステルやアクリル酸t−ブチルなど)、オレフィン系単量体、スチレン系単量体(スチレン、ビニルトルエンなど)、ビニルエステル系単量体、(無水)マレイン酸又はそのアルキルエステルなどが挙げられる。
【0050】
液状アクリル系樹脂は、変性や官能基が側鎖に導入されていないストレートアクリル系樹脂であってもよく、シリコーン変性アクリルなどの変性アクリル系樹脂であってもよく、水酸基やカルボキシル基、エポキシ基、アルキル基、アルコキシシリル基などを側鎖に有するアクリル系樹脂であってもよい。これらの液状アクリル系樹脂はペースト中の他の構成材料との相溶性や相互作用の強さ、あるいは最終目的物の印刷膜の要求にしたがって適宜選択すればよい。これらの液状アクリル系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0051】
液状樹脂(特に液状アクリル系樹脂)のガラス転移温度は10℃未満であればよく、例えば−100℃以上10℃未満、好ましくは−90℃〜0℃、さらに好ましくは−80℃〜−10℃程度である。
【0052】
液状樹脂(特に液状アクリル系樹脂)の重量平均分子量は、特に制限されず、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにおいて、ポリスチレン換算で、例えば1000〜20000、好ましくは3000〜10000、さらに好ましくは5000〜8000程度である。
【0053】
液状樹脂の割合は特に限定されないが、固形アクリル系樹脂と液状樹脂(特に液状アクリル系樹脂)との質量比は、固形アクリル系樹脂/液状樹脂100/0〜1/99の範囲から選択でき、例えば95/5〜5/95、好ましくは90/10〜10/90、さらに好ましくは80/20〜20/80程度である。液状樹脂の割合が多すぎると、泣き別れや糸引きが発生したり、印刷膜の断面形状が蒲鉾状となる虞がある。
【0054】
なお、バインダー樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、他のバインダー樹脂(例えば、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース誘導体などの熱可塑性樹脂;熱硬化性アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂などの熱硬化性樹脂など)を含んでいてもよい。バインダー樹脂全体に対して、固形アクリル系樹脂及び液状樹脂の合計割合は50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、100質量%(固形アクリル系樹脂及び液状樹脂のみ)であってもよい。
【0055】
バインダー樹脂の割合は、特に限定されないが、導電性ペースト全体に対して、例えば5〜30体積%、好ましくは7〜25体積%、さらに好ましくは10〜20体積%程度である。バインダー樹脂の割合が少なすぎると、転写の際に印刷膜の粘度が十分であっても、膜をつなぎとめるバインダーが少ないため、膜が破れて転写できない虞がある。反対にバインダー樹脂が多すぎると、粘着性が強くなり、ブランケット上に印刷されたペーストがスクリーン版に移行する際に糸引き現象が生じて、印刷パターンにヒゲが生えたようになったり、極端な場合にはそのヒゲが隣接パターンにブリッジする虞もある。
【0056】
[導電性粒子]
導電性粒子は、良好な導電性の膜を形成できる粒子であれば、特に限定されず、通常、導電性金属粒子である。導電性金属としては、例えば、遷移金属[例えば、チタン、ジルコニウムなどの周期表第4A族金属;バナジウム、ニオブ、タンタルなどの周期表第5A族金属;モリブデン、タングステンなどの周期表第6A族金属;マンガンなどの周期表第7A族金属;鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、イリジウム、白金などの周期表第8族金属;銅、銀、金などの周期表第1B族金属など]、周期表第2B族金属(例えば、亜鉛、カドミウムなど)、周期表第3B族金属(例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウムなど)、周期表第4B族金属(例えば、ゲルマニウム、スズ、鉛など)、周期表第5B族金属(例えば、アンチモン、ビスマスなど)などが挙げられる。これらの導電性金属は、単独で又は二種以上組み合わせて使用でき、合金であってもよい。
【0057】
これらの導電性金属のうち、良導電性の導電膜が得られる点から、銅、銀、ニッケルが好ましい。銅、銀及びニッケルは、二種以上の組み合わせであってもよく、特に、二種以上を組み合わせた合金であってもよい。
【0058】
さらに、導電性粒子は、銅、銀及びニッケルからなる群より選択された少なくとも一種又は二種以上を含む合金で形成された粒子(良導電性金属粒子)に加えて、絶縁性基板との密着性を向上できる点から、さらに活性金属粒子を含んでいてもよい。
【0059】
活性金属は周期表4A族に属する金属であり、この金属を含む化合物であってもよい。前記金属としては、例えば、チタン、ジルコニウム、ハフニウムなどが挙げられる。これらの活性金属及び活性金属化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0060】
活性金属粒子の割合は、良導電性金属粒子100質量部に対して50質量部以下であってもよく、例えば0.1〜50質量部、好ましくは0.3〜30質量部、さらに好ましくは0.5〜10質量部(特に1〜5質量部)程度である。活性金属粒子の割合が多すぎると、導電膜の導電性が低下する虞がある。
【0061】
導電性粒子の形状は、特に限定されず、球状(真球状又は略球状)、楕円体(楕円球)状、多角体形状(多角錘状、立方体状や直方体状など多角方形状など)、板状(扁平、鱗片又は薄片状など)、ロッド状又は棒状、繊維状、不定形状などであってもよい。金属粒子の形状は、通常、球状、楕円体状、多角体状、不定形状などである。
【0062】
導電性粒子の粒径は、特に制限されないが、ペーストの均一性に優れる点や目詰まり無くスクリーン印刷を行える点から、小粒径の導電性粒子を使用する方が有利である。導電性粒子の中心粒径(D50)は、例えば0.05〜10μm、好ましくは0.08〜8μm、さらに好ましくは0.1〜5μm(特に0.2〜3μm)程度である。導電性粒子の粒径が小さすぎると、経済性が低下するとともに、ペースト中での分散性も低下する虞があり、大きすぎると、ペーストの印刷性及び分散性が低下する虞がある。
【0063】
特に、導電性粒子は、導電膜の導電性の点から、粒径1μm未満(例えば1nm以上1μm未満)の小粒子と粒径1μm以上(例えば1〜50μm)の大粒子とを組み合わせてもよい。小粒子の中心粒径は0.01〜0.9μm(特に0.1〜0.8μm)程度の範囲から選択できる。大粒子の中心粒径は1.5〜30μm(特に2〜10μm)程度の範囲から選択できる。小粒子と大粒子との質量比は、小粒子/大粒子=1/99〜90/10程度の範囲から選択でき、例えば5/95〜80/20、好ましくは10/90〜70/30、さらに好ましくは15/85〜50/50(特に20/80〜30/70)程度である。
【0064】
[無機バインダー]
導電性ペーストは、さらに無機バインダー(又は焼結助剤)を含んでいてもよい。無機バインダーとしては、ガラス粒子(ガラスフリット)を好ましく利用できる。ガラス粒子は、焼成温度よりも低い軟化点を有する低融点ガラス粒子が好ましく、低融点ガラス粒子の軟化点は、400〜800℃、好ましくは420〜700℃、さらに好ましくは450〜600℃程度である。
【0065】
低融点ガラス粒子としては、慣用の低融点ガラス粒子、例えば、ホウケイ酸系ガラス粒子、ホウケイ酸亜鉛系ガラス粒子、亜鉛系ガラス粒子、ビスマス系ガラス粒子、鉛系ガラス粒子などが挙げられる。これらの低融点ガラス粒子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの低融点ガラス粒子のうち、亜鉛系ガラス粒子、ビスマス系ガラス粒子などが汎用される。
【0066】
ガラス粒子の形状は、特に限定されず、球状(真球状又は略球状)、楕円体(楕円球)状、多角体形状(多角錘状、正方体状や直方体状など多角方体状など)、板状(扁平、鱗片又は薄片状など)、ロッド状又は棒状、繊維状、不定形状などであってもよい。ガラス粒子の形状は、通常、球状、楕円体状、多角体状、不定形状などである。ガラス粒子の中心粒径(D50)は、特に限定されず、例えば0.1〜20μm、好ましくは0.5〜10μm、さらに好ましくは1〜5μm(特に2〜4μm)程度である。
【0067】
無機バインダーの割合は、導電性粒子100質量部に対して50質量部以下であってもよく、例えば1〜50質量部、好ましくは2〜30質量部、さらに好ましくは3〜10質量部(特に3〜8質量部)程度である。無機バインダーの割合が多すぎると、導電膜の導電性が低下する虞がある。
【0068】
[他の成分]
導電性ペーストは、アクリル系樹脂の硬化剤(例えば、メラミン樹脂や、過酸化ベンゾイルなどの有機過酸化物など)や慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、例えば、着色剤(染顔料など)、色相改良剤、染料定着剤、光沢付与剤、金属腐食防止剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、界面活性剤又は分散剤(アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤など)、分散安定化剤、粘度調整剤又はレオロジー調整剤、保湿剤、チクソトロピー性賦与剤、レベリング剤、消泡剤、殺菌剤、充填剤などが挙げられる。これらの他の成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。他の成分の割合は、成分の種類に応じて選択でき、通常ペースト全体に対して10質量%以下(例えば0.01〜10質量%)程度である。
【0069】
[導電性ペーストの粘度]
本発明の導電性ペーストは、攪拌などの慣用の方法によって、導電性粒子及びバインダー樹脂を有機溶媒中に分散させることによって調製でき、粘度特性はブランケット表面へ良好なパターンをスクリーン印刷できる程度であればよい。具体的には、B型粘度計(ブルックフィールド社製「HBDV−2 Pro」)を用いて25℃及び10rpmで測定した粘度が5〜300Pa・s程度であってもよく、好ましくは10〜250Pa・s、さらに好ましくは20〜200Pa・s(特に30〜150Pa・s)程度である。特に、高いパターン精度と転写性とを高度に両立できる点から、前記粘度は、例えば30〜250Pa・s、好ましくは50〜200Pa・s、さらに好ましくは80〜150Pa・s(特に100〜130Pa・s)程度であってもよい。粘度が低すぎると、印刷パターンの滲みや広がりが発生してパターン崩れが発生したり、パターン精度は保てたとしても溶媒の表面張力の影響で印刷膜の断面形状が蒲鉾状となる虞がある。反対に高すぎると、スクリーンメッシュを抜けてブランケットへと接触する過程においてペーストの流動性に欠けるため、パターンエッジの隅々まで完全にペーストが印刷されずにエッジラインが直線的ではなく波打ち易くなる虞がある。
【0070】
[導電膜付基板の製造方法]
本発明の導電膜付基板の製造方法は、前記導電性ペーストをシリコーンブランケット表面にスクリーン版を通して印刷する印刷工程と、印刷されたペースト膜を絶縁性基板に転写する転写工程と、転写されたペースト膜を焼成して導電膜を絶縁性基板の表面に形成するための焼成工程とを含む。
【0071】
印刷工程において、スクリーン印刷の方法としては、慣用の方法、例えば、特開平4−364953号公報に記載の方法などを利用できる。塗布厚み(乾燥後の厚み)は3〜50μm、好ましくは5〜30μm、さらに好ましくは7〜20μm(特に8〜15μm)程度である。さらに、本発明では、細かいパターンでも印刷可能であり、例えば、パターンの幅(線径)は、例えば10〜500μm、好ましくは20〜300μm、さらに好ましくは30〜100μm程度であってもよい。スクリーン版は、例えば100〜1000メッシュ、好ましくは200〜800メッシュ、さらに好ましくは300〜600メッシュ程度であってもよい。
【0072】
ブランケットを構成するシリコーンゴムは、ポリオルガノシロキサン骨格を有していればよく、例えば、メチルシリコーンゴム、ビニルシリコーンゴム、フェニルシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴム、フェニルビニルシリコーンゴムなどが挙げられる。
【0073】
転写工程において、絶縁性基板としては、焼成可能な材料で形成されていれば特に限定されず、各種の材料、例えば、シリカやアルミナ、アルミナジルコニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素などのセラミックス、ガラス、金属などの無機材料、エンジニアリングプラスチックなどの有機材料などで形成された基板などを利用できる。これらの基板のうち、耐熱性基板やセラミックスグリーンシートなどが汎用され、導電性ペーストとの密着性に優れる点から、アルミナ基板や窒化アルミニウム基板などのセラミックス基板が好ましい。
【0074】
絶縁性基板の厚みは、用途に応じて適宜選択すればよく、例えば0.001〜10mm、好ましくは0.01〜5mm、さらに好ましくは0.05〜3mm(特に0.1〜1mm)程度であってもよい。
【0075】
印刷されペースト膜の転写方法としては、慣用のオフセット印刷やパッド印刷における転写方法を利用できる。
【0076】
転写されたペースト膜は、焼成処理の前に、自然乾燥してもよいが、加熱して乾燥してもよい。加熱温度は、有機溶媒の種類に応じて選択でき、例えば50〜200℃、好ましくは80〜180℃、さらに好ましくは100〜150℃程度である。加熱時間は、例えば1分〜3時間、好ましくは5分〜2時間、さらに好ましくは10分〜1時間程度である。
【0077】
焼成工程において、焼成温度は、導電性粒子である金属を焼結できればよく、例えば500℃以上(例えば500〜2000℃)、好ましくは550〜1500℃、さらに好ましくは600〜1200℃(特に700〜1100℃)程度である。熱処理時間(加熱時間)は、熱処理温度などに応じて、例えば、1分〜48時間、好ましくは5分〜8時間、さらに好ましくは10〜120分程度であってもよい。
【0078】
焼成雰囲気は、ペーストに含まれる導電性粒子の種類などに応じて適宜選択すればよく、例えば、導電性粒子が銀粒子である場合、大気雰囲気中で焼成すればよく、銅粒子など酸化しやすい粒子である場合、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなど)や真空中で焼成してもよい。
【実施例】
【0079】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下の例において、実施例で使用した材料及び評価用基板のパターン、各物性の測定方法、スクリーンオフセット印刷における評価方法を以下に示す。
【0080】
[使用した材料]
(導電性粒子)
Cu粒子(5μm):中心粒径5μmの銅粒子
Cu粒子(0.5μm):中心粒径0.5μmの銅粒子
Ag粒子(3μm):中心粒径3μmの銀粒子
Ag粒子(0.1μm):中心粒径0.1μmの銀粒子
Ni粒子(0.7μm):中心粒径0.7μmのニッケル粒子
CuAg粒子(5μm):中心粒径5μmの銅と銀との合金粒子、Ag/Cu=72/28(質量比)
水素化チタン粒子(7μm):中心粒径7μmの水素化チタン粒子
(バインダー)
固形アクリル樹脂:ポリn−ブチルメタクリレート
液状アクリル樹脂:水酸基含有アクリル樹脂、ガラス転移温度−47℃、重量平均分子量6000
(焼結助剤)
ガラス粒子(3μm):中心粒径3μmのガラス粒子。
【0081】
[評価用基板のパターン]
50mm×50mm×0.4mmの窒化アルミニウム基板表面に、導電膜を1mm×2mmの長方形パターンを0.05mm(50μm)の間隔をあけて2つ並べたものを1対のパターンとし、この対を0.4mm間隔で18行×18列の計324対配置したものを評価用基板とした。
【0082】
[有機溶媒に対するシリコーンブランケットの膨潤率]
表1に示す有機溶媒に、ポリオルガノシロキサン化合物からなるシリコーンブランケット((株)ミノグループ製「商品名:MB500」、材質:メチルシリコーンゴム)から約2mm×5mm×10mmの大きさに切り出した試験片を浸漬した。25℃の恒温槽中で72時間浸漬した。浸漬前後に各試験片の体積をアルキメデス法によって求め膨潤率の計算に用いた。すなわち、空中での重量(g)から水中での重量(g)を引いたものを試験片の体積(cm)とし、次式により膨潤率を求め、その結果を表1に示した。
【0083】
膨潤率(%)=(浸漬後の試験片体積−浸漬前の試験片体積)/(浸漬前の試験片体積)×100
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示す有機溶媒のうち、第1有機溶媒としてシクロデカン、ドデカン、ドデセンを、第2有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオールを選択して、実施例及び比較例において、スクリーンオフセット印刷に供する導電性ペーストを調製した。
【0086】
[導電性ペーストの粘度]
実施例及び比較例で調製した導電性ペーストについて、その粘度をB型粘度計(ブルックフィールド社製「HBDV−2 Pro、SC−14スピンドル」)を用いて、25℃、10rpmの条件で測定した。
【0087】
[導電膜の膜厚]
実施例及び比較例において、導電性ペーストを用いて作製した評価用基板について、基板表面から導電膜(幅1mm)を超えて反対側の基板裏面までの高さプロファイルを粗さ計((株)アルバック製「DEKTAK6M」)で測定した。基板の四隅と中央の5点を測定した。導電膜のスキャン方向の平均高さから基板の表面と裏面とを結んだ高さ(基板厚み)を差し引いた高さの5点の平均を導電膜の膜厚とした。
【0088】
[印刷・転写の状態]
スクリーンオフセット工程において、窒化アルミニウム基板に対する印刷・転写の状態について観察し、不具合の状態を、以下の状態に分類した。
【0089】
転写せず(非転写)…全く転写されない
膜裂け…一部は転写されたが膜が裂けて一部がブランケット側に残る
泣き別れ…全面的に基板側に移ろうとするが、膜の内部で分かれて基板とブランケットの両方にペースト膜が分かれる
糸引き…ブランケット側には全く残らず、転写が一見良好と見られるが、詳細に顕微鏡で観察するとパターンエッジにヒゲのようなペーストが糸を引いて伸びている。
【0090】
評価パターン324対に対して、これらの不具合が見られた数(割合)を測定し、各々の不具合について、以下の基準で評価した。
【0091】
◎:不具合数10個未満(約3%未満)
○:不具合数10個以上33個未満(約3〜10%)
△:不具合数33個以上100個未満(約10〜30%)
×:不具合数100個以上(約30%以上)。
【0092】
[パターン精度]
転写状態が良好であった実施例に対して、前記評価用基板において、1対の長方形パターン間の幅(設計値50μm)を測定し、以下の基準で評価した。なお、幅の測定は実態顕微鏡によって拡大した画像に基づいて測定し、基板の四隅と中央に位置する計5対を測定してその平均をパターン間の幅とした。なお、70μm以上の実施例は無かった。
【0093】
◎:設計値50μmに対して40〜60μmの範囲にある
○:設計値50μmに対して30〜40μm又は60〜70μmの範囲にある
△:設計値50μmに対して20〜30μmの範囲にある
×:設計値50μmに対して20μmよりも狭い。
【0094】
[断面形状]
転写状態が良好であった実施例に対して、前記膜厚測定における導電膜(幅1mm)のプロファイルの平坦領域の幅を、以下の基準で評価した。幅の測定も、前記膜厚の測定と同様に5点測定して、それらの平均をとった。なお、「平坦領域」は、プロファイル中の最大高さから3μm以上低くならない高さが続くプロファイル長さとした。
【0095】
◎:平坦領域の幅が0.95mm以上
○:平坦領域の幅が0.9〜0.95mmの範囲にある
△:平坦領域の幅が0.8〜0.9mmの範囲にある
×:平坦領域の幅が0.8mmよりも短い。
【0096】
[連続印刷性]
連続印刷性は、印刷した基板を順次取り替えながら、印刷を繰り返すことで評価を行った。最終的に泣き別れモードが前述の判定基準で×となるまでの回数を記録した。100回以上となった場合は充分な連続印刷性があったと判定して評価を終えた。
【0097】
実施例1
(導電性ペーストの調製)
表2に示すように、第1有機溶媒と第2有機溶媒とを50:50の質量割合になるように秤量した混合溶媒を60℃の湯浴中でプロペラ撹拌しながら固形アクリル樹脂の粉末を徐々に添加した。アクリル樹脂の全量を加えた後、20分間撹拌を続けて混合溶媒中に完全に溶解させ、有機ビヒクルを得た。この有機ビヒクルに導電性粒子としてのCu粒子と焼結助剤としてのガラス粒子を加えてミキサーで混合した後、3本ロールで均一分散させ導電性ペーストを調整した。
【0098】
(スクリーンオフセット印刷)
得られた導電性ペーストを400メッシュのステンレスメッシュスクリーンとウレタンスキージを用いて、スキージ速度50mm/secにて前述のパターンをシリコーンブランケット上にスクリーン印刷した。続けて、速やかにブランケット上の印刷膜を窒化アルミニウム基板に押し当てた後、ゆっくりと剥がし転写させたところ、きれいに転写された。印刷膜が転写された基板を120℃のオーブンで20分間乾燥させて溶媒を完全に除去した。
【0099】
(焼成)
乾燥した基板を窒素ガス置換したベルト搬送式トンネル炉を用いてピーク温度900℃を10分間保持する条件で焼成し導電膜の付いた基板を得た。スクリーンオフセット印刷を経て作製された導電膜であっても導電性や基板との密着性においては、通常のスクリーン印刷で作製した導電膜と同等であった。膜厚も狙いどおりに10μm程度の厚膜で作製できた。導電膜のパターン精度と断面形状を前記の方法で評価したところパターン精度も良好で断面形状も矩形であった。
【0100】
実施例2〜3
第1有機溶媒と第2有機溶媒との割合を変更した以外は実施例1と同様にして導電膜付基板を製造した。結果も概ね良好であった。
【0101】
実施例4
第1有機溶媒及び第2有機溶媒の割合を多くする以外は実施例1と同様にして導電膜付基板を製造した。結果も概ね良好であった。
【0102】
実施例5〜6
導電性ペースト中に占める有機溶媒の割合を変更した以外は実施例1と同様にして導電膜付基板を製造した。結果も概ね良好であった。
【0103】
実施例7〜8
導電性ペースト中に占めるバインダー樹脂の割合を変更した以外は実施例1と同様にして導電膜付基板を製造した。結果も概ね良好であった。
【0104】
実施例9〜12
表2に示すように第1有機溶媒および第2有機溶媒の種類を変更した以外は実施例1と同様にして導電膜付基板を製造した。結果も全て良好であった。
【0105】
実施例13〜14
導電性粒子をAg粒子やNi粒子に変更した以外は実施例1と同様にして導電膜付基板を製造した。その結果、実施例13の結果は全て良好であり、実施例14の結果も概ね良好であった。
【0106】
実施例15
活性金属粒子としてのチタンの化合物を配合し、CuAg粒子をロウ剤としてCu粒子の一部を置き換えて導電性ペーストを調合した。スクリーンオフセット印刷は実施例1と同様にした。焼成は真空中(1×10−4Pa)で900℃にて1時間保持して(昇温降温ふくめ4時間)行った。結果は全て良好であった。
【0107】
比較例1
第1有機溶媒を用いない以外は実施例1と同様にして導電膜付基板を製造した。その結果、スクリーンオフセット印刷での転写の際に泣き別れ現象になってしまって印刷物が得られなかった。
【0108】
実施例16〜17
第1有機溶媒の量を少なくする以外は実施例1と同様にして導電膜付基板を製造した。結果は、比較例1に比べて良好であったが、実施例1〜3に比べて低下した。
【0109】
実施例18
第2有機溶媒の量を少なくする以外は実施例1と同様にして導電膜付基板を製造した。結果は、後述の比較例2に比べて良好であったが、実施例1〜3に比べて低下した。
【0110】
比較例2
第2有機溶媒を用いない以外は実施例1と同様にして導電膜付基板を製造した。その結果、ブランケット上でペースト膜は乾き過ぎの状態になり転写がされなかった。
【0111】
実施例19
ペースト中に占める有機溶媒の割合を大幅に少なくする以外は実施例1と同様にして導電膜付基板を製造した。結果は、比較例1及び2に比べて良好であったが、実施例1に比べて低下した。
【0112】
実施例20〜21
ペースト中に占める有機溶媒の割合を大幅に多くする以外は実施例1と同様にして導電膜付基板を製造した。結果は、比較例1及び2に比べて良好であったが、実施例1に比べて低下した。
【0113】
実施例22
導電性ペースト中のバインダー樹脂の割合を大幅に少なくする以外は実施例1と同様にして導電膜付基板を製造した。結果は、比較例1及び2に比べて良好であったが、実施例1に比べて低下した。
【0114】
実施例23
導電性ペースト中のバインダー樹脂の割合を大幅に多くする以外は実施例1と同様にして導電膜付基板を製造した。結果は、比較例1及び2に比べて良好であったが、実施例1に比べて低下した。
【0115】
比較例3
第1有機溶媒として、ドデカンの代わりに特許文献1の実施例で使用されているトルエンを用い、第2有機溶媒との割合を変更する以外は実施例11と同様にして導電膜付基板を製造した。その結果、ブランケットへのスクリーン印刷の段階でペーストの乾きが顕著であってブランケット上への印刷物がかすれてしまった。
【0116】
比較例4
第1有機溶媒であるドデカンの代わりに特許文献2の実施例で高膨潤性溶媒として使用されているテルピネオールを第1有機溶媒として用い、第2有機溶媒であるブチルカルビトールアセテートとの割合を変更する以外は実施例11と同様にして導電膜付基板を製造した。その結果、ほぼ全面的に泣き別れになってしまった。
【0117】
実施例24〜26
表3に示すように、固形アクリル樹脂の一部を液状アクリル樹脂に変更し、第1有機溶媒の割合を変更した以外は実施例1と同様にして導電膜付基板を製造した。実施例24及び25の結果は全て良好であり、実施例26の結果も概ね良好であった。
【0118】
実施例及び比較例の結果をまとめて表2及び3に示す。
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
【0121】
また、実施例1及び実施例24〜26について、連続印刷性を評価した結果、実施例1が55回であったのに対して、実施例24〜26は100回以上であった。
【0122】
さらに、実施例1〜3について、スクリーンオフセット印刷の代わりに以下のスクリーンパッド印刷を行って評価した結果を表4に示す。実施例1の結果は全て良好であり、実施例2〜3の結果も概ね良好であった。
【0123】
(スクリーンパッド印刷)
得られた導電性ペーストを400メッシュのステンレスメッシュスクリーンとウレタンスキージを用いて、スキージ速度50mm/secにて前述のパターンをシリコーンブランケット上にスクリーン印刷した。続けて、シリコーンパッドを印刷膜に押し付け、さらにそれを速やかに窒化アルミニウム基板に押し当てた後、ゆっくりと剥がし転写させたところ、きれいに転写された。印刷膜が転写された基板を120℃のオーブンで20分間乾燥させて溶媒を完全に除去した。
【0124】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の導電性ペーストは、チップ抵抗、抵抗内蔵モジュール、抵抗内蔵基板、セラミックスヒーターなどの厚膜抵抗体及びこの厚膜抵抗体を備えた抵抗器(例えば、抵抗体と銅電極とを備えた抵抗器など)又は電子部品などに利用できる。