特許第6633719号(P6633719)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6633719
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】インバータ電源装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/24 20060101AFI20200109BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20200109BHJP
【FI】
   B23K11/24 392
   B23K11/24 335
   H02M7/48 M
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-210024(P2018-210024)
(22)【出願日】2018年11月7日
【審査請求日】2018年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151070
【氏名又は名称】電元社トーア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】落合 吉彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 進一
(72)【発明者】
【氏名】渕脇 本章
【審査官】 奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−21652(JP,A)
【文献】 特開2007−220944(JP,A)
【文献】 特開平10−232249(JP,A)
【文献】 特開2013−158825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00−11/36
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
徐々に上昇する逆電圧を整流素子に印加する電源と、
前記逆電圧を印加しているときに前記整流素子に流れている電流の電流値を検出する電流検出部と、
検出した電流値が前記整流素子の劣化を判定するための判定電流値よりも大きければ前記整流素子は劣化していると判断し、小さければ前記整流素子は劣化していないと判断する制御部と、を有し、
前記整流素子は、抵抗溶接機が備えるインバータトランスに設けたダイオードスタックのダイオードであり、
さらに、前記抵抗溶接機に溶接電流を供給する通常モードと前記整流素子の劣化を判定するための測定モードとを切り換える切換部を有し、
前記切換部が、前記通常モードに切り換えられているときには、前記電源および前記電流検出部は機能を停止させ、前記測定モードに切り換えられているときには、前記電源および前記電流検出部は機能を作動させ
さらに、前記ダイオードスタックには、前記ダイオードを冷却させるための冷却水路が形成され、前記切換部が、前記通常モードに切り換えられているときには、前記冷却水路内に冷却水を流通させ、前記測定モードに切り換えられているときには、前記冷却水路から冷却水が除去される、インバータ電源装置。
【請求項2】
前記電源は、前記整流素子に印加する前記逆電圧を段階的に上昇させる、請求項1に記載のインバータ電源装置。
【請求項3】
前記逆電圧の段階的な上昇は、次の段階に上昇させるときに、現段階の電圧から次の段階の電圧まで一定の時間をかけて上昇させる、請求項2に記載のインバータ電源装置。
【請求項4】
前記整流素子に印加する前記逆電圧の最大電圧は、劣化が進んでいる前記整流素子に印加しても、前記整流素子が破損しないように、前記整流素子の逆耐圧の20〜60%の間の電圧とする、請求項1から3のいずれかに記載のインバータ電源装置。
【請求項5】
前記電流検出部は、前記整流素子に直列に接続した抵抗器を含み、前記抵抗器に流れる電流によって生じる前記抵抗器の端子間電圧を用いて、前記整流素子に流れている電流の電流値を検出する、請求項1から4のいずれかに記載のインバータ電源装置。
【請求項6】
前記整流素子の劣化を判定するための判定電流値は、破損する前の前記整流素子の電気的特性から設定する、請求項1から5のいずれかに記載のインバータ電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオードなどの整流素子の劣化を測定する測定機能を備えたインバータ電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のボディーには、強度の確保と軽量化の実現に向けて、従来の鋼板よりも引張強度を向上させた高張力鋼板が用いられている。高張力鋼板同士をスポット溶接する場合、従来の鋼板をスポット溶接するときよりも大きな溶接電流を長い時間通電させる必要がある。このため、高張力鋼板同士のスポット溶接には、広範囲な溶接条件が設定できて高品質の溶接をすることができる、特許文献1〜3に開示されているようなインバータ式の抵抗溶接機が用いられつつある。インバータ方式の抵抗溶接機はインバータ電源装置とインバータトランスとを備え、インバータトランスは溶接電流を整流するダイオードスタック(2個以上のダイオードを組み合わせたユニット)を有している。インバータトランスに設けたダイオードスタックはスポット溶接時に大きな溶接電流を通電させるので劣化しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017−087280号公報
【特許文献2】特開2000−42751号公報
【特許文献3】実用新案登録第3008433号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ダイオードスタックの劣化の進行は、個別のパフォーマンス、使用環境、使用頻度、溶接条件などによって異なる。工場の製造ラインに配置されている抵抗溶接機において、そのダイオードスタックが予期せぬ劣化により故障を起こしてしまうと、その交換には時間がかかるため、製造ラインの停止が余儀なくされる。そのため、ダイオードスタックの劣化の進行度合いを定期的に確認できるようにすることは、製造ラインの停止を防止する上で重要である。
【0005】
また、近年では、抵抗溶接機は溶接ロボットとして実現されているため、ダイオードスタックの劣化の進行度合いを定期的に確認するためには、作業者が溶接ロボットの可動域内に立ち入らなければならない。そのため、作業者はその確認作業中は少なからず危険にさらされる。
【0006】
本発明は、これらの問題を解消するためになされたものであり、ダイオードなどの整流素子の劣化を測定する測定機能を備えたインバータ電源装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係るインバータ電源装置は、徐々に上昇する逆電圧を整流素子に印加する電源と、逆電圧を印加しているときに整流素子に流れている電流の電流値を検出する電流検出部と、検出した電流値が整流素子の劣化を判定するための判定電流値よりも大きければ整流素子は劣化していると判断し、小さければ整流素子は劣化していないと判断する制御部と、を有し、前記整流素子は、抵抗溶接機が備えるインバータトランスに設けたダイオードスタックのダイオードであり、さらに、前記抵抗溶接機に溶接電流を供給する通常モードと前記整流素子の劣化を判定するための測定モードとを切り換える切換部を有し、前記切換部が、前記通常モードに切り換えられているときには、前記電源および前記電流検出部は機能を停止させ、前記測定モードに切り換えられているときには、前記電源および前記電流検出部は機能を作動させ、さらに、前記ダイオードスタックには、前記ダイオードを冷却させるための冷却水路が形成され、前記切換部が、前記通常モードに切り換えられているときには、前記冷却水路内に冷却水を流通させ、前記測定モードに切り換えられているときには、前記冷却水路から冷却水が除去される
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るインバータ電源装置によれば、逆電圧を整流素子に印加したときに流れる電流の電流値により整流素子の劣化を判断するので、整流素子の劣化の進行度合いの測定が容易である。この測定を定期的にすることによって、整流素子の劣化の進行度合いを知ることができ、整流素子の予防保全が可能となり、計画的な保守が可能となる。また、整流素子の劣化を測定する測定機能はインバータ電源装置自体が持つので、整流素子に電源からの電圧を印加する回路を自動的に形成できるようにしておけば、製造ラインの稼働中に自動的に定期的な測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態のインバータ電源装置を備えた溶接ロボットの概略構成図である。
図2図1に示したダイオードスタックの構成図である。
図3】本実施形態のインバータ電源装置の通常モード時の説明図である。
図4】本実施形態のインバータ電源装置の通常モード時の動作フローチャートである。
図5】本実施形態のインバータ電源装置の測定モード時の説明図である。
図6】本実施形態のインバータ電源装置の測定モード時の動作フローチャートである。
図7図6の動作フローチャートの動作説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係るインバータ電源装置の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
<インバータ電源装置の構成>
図1は、本実施形態のインバータ電源装置を備えた溶接ロボットの概略構成図である。インバータ電源装置100は、抵抗溶接機として機能する溶接ロボット(図では溶接ガン210)が備えるインバータトランス160のダイオードスタック170のダイオード172、174の劣化の進行度合いを測定する機能を有する。
【0012】
インバータ電源装置100は、整流部105、スイッチング部110、A接点リレー115を備える。A接点リレー115はインバータトランス160の一次側巻線164に接続される。さらに、インバータ電源装置100は、降圧安定部120、絶縁アンプ130、制御部として機能するインバータ制御部140、A接点リレー145、切換部150、A接点リレー145に連動するB接点リレー155を備える。なお、B接点リレー155は、電極220間の電圧を測定する場合に用いる、電極間電圧モニター用のリレーである。一方、インバータトランス160はダイオードスタック170を有する。ダイオードスタック170は、2つのダイオード172、174を備える。ダイオード172、174は、インバータトランス160の二次側巻線162に接続される。インバータトランス160は、溶接ロボットの溶接ガン210に組み込まれ、溶接ガン210の電極220間に溶接電流を供給する。インバータトランス160は交流の溶接電流を生成し、ダイオードスタック170のダイオード172、174によって、交流の溶接電流を直流の溶接電流に変換する。直流の溶接電流は、電極220間で加圧されている鋼板(図示せず)に供給され、電極220によって鋼板がスポット溶接される。
【0013】
整流部105は、3相の商用電源に接続され、たとえば3相50Hzの交流を直流に変換し、インバータ電源装置100の全ての構成要素に電力を供給する。スイッチング部110は、インバータ制御部140から出力されるスイッチング信号によってスイッチングされ、溶接条件に応じた溶接電流を出力する。切換部150は、溶接ガン210に溶接電流を供給する通常モードとダイオードスタック170のダイオード172、174の劣化を判定するための測定モードとを切り換える。通常モードと測定モードの切り換えは、インバータ制御部140によって行われる。また、A接点リレー115のオンオフも切換部150によって行われる。切換部150が通常モードに切り換えられているときには、インバータ制御部140はスイッチング部110をスイッチングさせ、また切換部150はA接点リレー115をオンしてスイッチング部110とインバータトランス160の一次側巻線164とを接続させ、一次側巻線164に溶接電流を供給する。一方、切換部150が測定モードに切り換えられているときには、切換部150はA接点リレー115をオフしてスイッチング部110とインバータトランス160の一次側巻線164とを切り離す。また、切換部150は、A接点リレー145をオンするとともに連動するB接点リレーをオフし、整流部105の直流を降圧安定部120に供給し、絶縁アンプ130を機能させる。すなわち、切換部150が、通常モードに切り換えられているときには、降圧安定部120および電流検出部として機能する絶縁アンプ130は機能を停止させ、一方、測定モードに切り換えられているときには、降圧安定部120および絶縁アンプ130は機能を作動させる。
【0014】
降圧安定部120は、整流部105から供給される電圧を用い、一定電圧または徐々に上昇する逆電圧Vaを整流素子であるダイオード172、174に印加する電源である。なお、この場合、図示されていないが、降圧安定部120と溶接ガン210の電極220とは電気的に接続される必要がある。降圧安定部120は、ダイオード172、174に印加する逆電圧を一定電圧または段階的に上昇させるように、また、その逆電圧の段階的な上昇は、次の段階に上昇させるときに、現段階の電圧から次の段階の電圧まで一定の時間をかけて上昇させるようにプログラムされている。
【0015】
降圧安定部120がダイオード172、174に印加する逆電圧の最大電圧は、劣化が進んでいるダイオード172、174に印加しても、ダイオード172、174が破損しないように、ダイオード172、174の逆耐圧の20〜60%の間の電圧としている。たとえば、ダイオード172、174の逆耐圧が600Vであるとすると、降圧安定部120はダイオード172、174に120V〜360V以上の逆電圧は印加しないようにプログラムしてある。なお、ダイオード172、174に印加する逆電圧は、ダイオード172、174の逆耐圧の20〜60%が最も好ましいが、2〜90%の間であっても良い。
【0016】
絶縁アンプ130は、降圧安定部120がダイオード172、174に印加する逆電圧により、ダイオード172、174に流れる電流(漏れ電流:IRDとも言う)を電圧に変換する。絶縁アンプ130内には、ダイオード172、174に流れる電流を電圧に変換するための抵抗器(図示せず)が内蔵されている。この抵抗器には、ダイオード172の電流の電流値とダイオード174の電流の電流値を加算した電流値の電流が流れる。したがって、抵抗器の端子間電圧Vbは、抵抗器の抵抗値(R)にダイオード172の電流の電流値(i172)とダイオード174の電流の電流値(i174)を加算した電流値を掛けわせた電圧値(V)となる。すなわち、抵抗器の端子間電圧は、Vb=R×(i172+i174)という式で表される。
【0017】
絶縁アンプ130は、入力側(電源側)と出力側(制御部側)とを絶縁しているアンプであり、インバータ制御部140に、降圧安定部120がダイオード172、174に印加している逆電圧Vaと抵抗器の端子間電圧Vbとを出力する。
【0018】
上記のように、絶縁アンプ130は、降圧安定部120がダイオード172、174に逆電圧を印加しているときにダイオード172、174に流れている電流の電流値を検出する電流検出部として機能する。絶縁アンプ130は、ダイオード172、174に直列に接続した抵抗器を含み、抵抗器に流れる電流によって生じる、抵抗器の端子間電圧Vbを用いて、ダイオード172、174に流れている電流の電流値を検出する。絶縁アンプ130は、内蔵する抵抗器の端子間電圧を検出する電圧計であっても良い。また、絶縁アンプ130を省略し、直接電流計によって測定するようにしても良い。このときには、電圧計や電流計の数値により、現場の作業者がダイオード172、174の劣化の進行度合いを判断するようにしても良い。
【0019】
インバータ制御部140は、ダイオード172、174の劣化を判定するための判定電流値を記憶している。判定電流値は、破損する直前のダイオード172、174の電気的特性により設定する。たとえば、破損する直前のダイオード172、174の逆方向の抵抗値を多数測定しその抵抗値を累積しておき、その累積した抵抗値を参考に判定電流値を算出し、その算出した判定電流値をインバータ制御部140に記憶させる。ダイオード172、174のような整流素子は、劣化が進むにつれて、逆電圧印加時の電流が大きくなることが知られている。たとえば、ダイオード172、174が劣化することにより、1mA以下の電流値が100mAを超える電流値になることもある。このように、100mAを超える電流値になったダイオード172、174は数日以内に破損してしまう。判定電流値の設定は、ダイオード172、174の劣化の進行度合いを判断する上で重要であることから、次のようにして求めている。破損する直前のダイオードに逆電圧VinvをかけたときにIinvの電流が流れたとすれば、破損する直前のダイオードの抵抗値Rinvは、Rinv=Vinv/Iinvとして求めることができる。判定電流値は、降圧安定部120が印加する逆電圧の最大電圧をダイオードの抵抗値Rinvで割ることによって求めることができる。判定電流値は、ダイオード172、174の劣化の進行度合いの判断の信頼性を高めるため、このようにして求めた値よりも若干小さな値に設定する。
【0020】
また、インバータ制御部140は、ダイオード172、174に流れている電流の電流値と、記憶されている判定電流値とを比較するためのプログラムを備えている。インバータ制御部140は、ダイオード172、174に流れている電流の電流値が判定電流値よりも大きければ、ダイオード172、174は劣化していると判断する。また、ダイオード172、174に流れている電流の電流値が判定電流値よりも小さければ、ダイオード172、174は劣化していないと判断する。
【0021】
図2は、図1に示したダイオードスタックの構成図である。ダイオードスタック170は導電性および熱伝導性の良好なたとえば銅などの金属体で形成され、その金属体によってダイオード172、174が挟まれている。ダイオード172、174は、図1に示したインバータトランス160の二次側巻線162に接続される。ダイオード172、174は、溶接ガン210の電極220に大きな電流値の溶接電流を供給するため、発熱して熱くなる。ダイオード172、174は、高温になると破損してしまうので、ダイオードスタック170には冷却水を流通させる冷却水路176が図示するように配置されている。マニホールド178を介し冷却水路176に冷却水を流通させることによって、ダイオードスタック170およびダイオード172、174の温度を動作に適した温度となるようにしている。
【0022】
マニホールド178には、図示しない給水弁を設けており、切換部150が、通常モードに切り換えられているときには、給水弁がオンして冷却水路176に冷却水を流通させる。一方、切換部150が、測定モードに切り換えられているときには、給水弁がオフして空気が供給され冷却水路176から冷却水が除去される。なお、給水弁のオン、オフはインバータ制御部140が制御する。
【0023】
<インバータ電源装置の動作>
[通常モード]
図3は、本実施形態のインバータ電源装置の通常モード時の説明図である。また、図4は、本実施形態のインバータ電源装置の通常モード時の動作フローチャートである。
【0024】
切換部150によって通常モードに切り換えられると、切換部150は、A接点リレー115をオンさせるとともにA接点リレー145をオフさせる。したがって、スイッチング部110とインバータトランス160の一次側巻線164とが接続され、一方、降圧安定部120と絶縁アンプ130はその機能が停止される。
【0025】
通常モード時は、まず、溶接ロボットは、溶接ガン210の電極220でワークを把持する(S100)。次に、インバータ制御部140は、定められた溶接電流を電極220間に通電させる(S101)。インバータ制御部140は、スイッチング部110をスイッチングさせて整流部105から定められた交流電流を作り出し、インバータトランス160の一次側巻線164に供給する。インバータトランス160は、一次側巻線164の一次電圧を二次側巻線162によって降圧させ、降圧した二次電圧をダイオードスタック170のダイオード172、174に供給する。ダイオード172、174は、整流後の溶接電流を、溶接ガン210の電極220間に供給して、ワークである鋼板の溶接をする。このとき、ダイオードスタック170には、冷却水路176に冷却水が流れているので、ダイオード172、174の発熱が抑えられている。
【0026】
インバータ制御部140は、定められた全溶接点の溶接が終了したか否かを判断する(S102)。全溶接点の溶接が終了していなければ(S102:NO)、S100のステップに戻り、次の打点の溶接を行なう。全溶接点の溶接が終了したら(S102:YES)、溶接作業を終了する。
【0027】
[測定モード]
図5は、本実施形態のインバータ電源装置の測定モード時の説明図である。また、図6は、本実施形態のインバータ電源装置の測定モード時の動作フローチャートである。図7は、図6の動作フローチャートの動作説明に供する図である。
【0028】
図5に示すように、切換部150によって測定モードに切り換えられると、切換部150は、A接点リレー115をオフさせるとともにA接点リレー145をオンさせる。したがって、スイッチング部110とインバータトランス160の一次側巻線164とが切り離され、降圧安定部120と出力端子180とが接続される。また、インバータ制御部140は、ダイオードスタック170の冷却水路176に流れている冷却水を止め、空気を供給して冷却水路176から冷却水を除去する。冷却水を除去すると、ダイオードスタック170のダイオード172、174の劣化の進行度合いが冷却水の影響を受けずにより正確に測定できるからである。測定モードに切り換えたときには、降圧安定部120の電圧が溶接ガン210の2つの電極220に印加されるようにするために、インバータ電源装置100の出力端子180と電極220とを測定線230によって接続する。これにより、降圧安定部120からの電圧がダイオードスタック170のダイオード172、174に逆電圧として印加されるようになる。測定モード時、出力端子180と電極220との測定線230の接続は現場の作業者によって行なっても良いが、出力端子180に接続されている棒状の端子を、溶接ロボットにより電極220で挟み、自動的にダイオード172、174の劣化の進行度合いの測定ができるようにしても良い。
【0029】
まず、図6の動作フローチャートに示すように、降圧安定部120は、整流部105によって整流された後の直流電圧を用いて、ダイオード172、174に直流の逆電圧を一定の電圧で、または段階的に上昇させて印加する(S200)。
【0030】
降圧安定部120は、図7の実線で示したように、ダイオード172、174に印加する逆電圧Vaを段階的に上昇させる。たとえば、降圧安定部120は、ダイオード172、174に、まず逆電圧としてV1を印加し、次にV2を印加し、最後にV3を印加する。なお、本実施形態では、50Vずつ、3段階に電圧を上昇させているが、一定電圧、2段階、または4段階以上の段階を経て電圧を上昇させるようにしても良い。このように段階的に上昇させるのは、万が一、ダイオード172、174の劣化が著しいときでも、ダイオード172、174を破損させることなく、ダイオード172、174の劣化の進行度合いを測定できるようにするためである。
【0031】
また、その逆電圧の段階的な上昇は、次の段階に上昇させるときに、現段階の電圧から次の段階の電圧まで一定の時間をかけて上昇させる。たとえば、降圧安定部120は、ダイオード172、174に、まず逆電圧としてV1を印加し、次にV2を印加するときには、V1からV2に突然上昇させるのではなく、図7に示すように、T2からT3までの時間をかけて上昇させている。なお、本実施形態では、V1からV2のへの電圧の上昇を直線的に行っているが、直線的ではなく曲線的に行うようにしても良い。0からV1、V2からV3への電圧の上昇についても同様である。また、V1からV2への電圧の上昇速度は、たとえば、0からV1への電圧の上昇速度またはV2からV3への電圧の上昇速度と同一でなくとも良い。このように、現段階の電圧から次の段階の電圧まで一定の時間をかけて上昇させるのは、インバータトランス160の二次側巻線162に流れる電流の変化によってインバータトランス160の一次側巻線164に高電圧が発生することを防止するためである。さらに、段階的に上昇させた電圧を維持する時間は、各段階において同一の時間である。たとえば、逆電圧をV1に上昇させたときには、T1からT2までの時間、その電圧を維持し、逆電圧をV2に上昇させたときには、T3からT4までの時間、その電圧を維持し、逆電圧をV3に上昇させたときには、T4からT6までの時間、その電圧を維持する。なお、T1からT2までの時間、T3からT4までの時間、T4からT6までの時間はそれぞれ同一の時間である。段階的に上昇させた電圧を維持するこれらの時間は、各段階において異なる時間としても良い。たとえば、逆電圧の電圧値が高くなるにしたがって、その電圧の維持時間を短くするようにしても良い。
【0032】
さらに、逆電圧の最大電圧、すなわちV3は、劣化が進んでいるダイオード172、174に印加しても、ダイオード172、174が破損しないように、ダイオード172、174の逆耐圧の20〜60%の間の電圧としている。このように逆耐圧よりも低い電圧を印加しているのは、万が一、ダイオード172、174の劣化が著しいときでも、ダイオード172、174を破損させることなく、ダイオード172、174の劣化の進行度合いを測定できるようにするためである。なお、逆電圧の最大電圧はダイオード172、174の逆耐圧の20〜60%が最も好ましいが、2〜90%の間であっても良い。
【0033】
次に、絶縁アンプ130は、ダイオード172、174に流れる電流を検出する(S201)。上記のように、ダイオード172、174を流れる電流は、絶縁アンプ130に設けた抵抗器の端子間電圧Vbとして検出される。たとえば、ダイオード172、174の劣化が進んでいないとき(IRD=OK時)には、その電流は、図示点線のI1のように検出される。一方、ダイオード172、174の劣化が進んでいるとき(IRD=NG時)には、図示点線のI2のように検出される。
【0034】
次に、インバータ制御部140は、検出した電流が判定電流値よりも大きいか否かを判断する(S202)。インバータ制御部140は、図示点線のI2のように、ダイオード172、174を流れる電流が判定電流値よりも大きければ(S202:YES)、ダイオード172、174は劣化していると判断する(S203)。一方、インバータ制御部140は、図示点線のI1のように、ダイオード172、174を流れる電流が判定電流値よりも小さければ(S202:NO)、ダイオード172、174は劣化していないと判断する(S204)。
【0035】
このように、本実施形態のインバータ電源装置100によれば、通常モード時には溶接ロボットに溶接をさせることができ、測定モード時には自己の電源を用いてダイオード172、174の劣化の進行度合いを測定させることができる。この測定を定期的にすることによって、ダイオード172、174の劣化の進行度合いを知ることができ、ダイオード172、174の予防保全が可能となり、計画的な保守が可能となる。たとえば、溶接ロボットが配置されている製造ラインで本実施形態のインバータ電源装置100を用いると、インバータ電源装置100内の電源の電圧(DC600V程度)を降圧させた電圧をダイオード172、174に印加することができ、これにより、ダイオード172、174の予防保全ができることから、製造ラインの停止を防止でき、製造効率の向上と製造コストを低下が実現できる。
【0036】
なお、本実施形態では、測定モード時にインバータ電源装置100の出力端子180と溶接ガン210の電極220とを測定線230で接続するようにしたが、インバータ電源装置100の出力端子180に繋がる測定線230をあらかじめ溶接ガン210の電極220に接続しておき、ロボットアーム沿いに配線しておくことで、測定作業を自動化または簡素化できる。
【0037】
以上のように、本実施形態のインバータ電源装置によれば、ダイオードなどの整流素子の劣化の進行度合いを、現場で容易に測定できる。このため、ダイオードの劣化が原因で、たとえば溶接ロボットのような生産機械が突然停止し、ダイオードスタックをトランスごと交換するため、製造ラインの長時間の停止を余儀なくされるようなことを防止できる。また、予防保全が可能となるため、ダイオードスタックの計画的な交換ができる。
【0038】
以上、インバータ電源装置の実施形態を述べたが、本発明の技術的範囲は、この実施形態の記載内容に限定されるものではない。したがって、本実施形態には明確に記載されていなくとも、特許請求の記載の範囲内において当業者によって改変されたものは本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0039】
100 インバータ電源装置、
105 整流部、
110 スイッチング部、
115、145 A接点リレー、
120 降圧安定部、
130 絶縁アンプ(電流検出部)、
140 インバータ制御部(判断部)、
150 切換部、
155 B接点リレー、
160 インバータトランス、
162 二次側巻線、
164 一次側巻線、
170 ダイオードスタック、
172、174 ダイオード、
176 冷却水路、
178 マニホールド、
180 出力端子、
210 溶接ガン、
220 電極、
230 測定線。
【要約】
【課題】ダイオードなどの整流素子の劣化を測定する測定機能を備えたインバータ電源装置を提供する。
【解決手段】徐々に上昇する逆電圧をダイオード172、174に印加する降圧安定部120と、逆電圧を印加しているときにダイオード172、174に流れている電流の電流値を検出する絶縁アンプ130と、検出した電流値がダイオード172、174の劣化を判定するための判定電流値よりも大きければダイオード172、174は劣化していると判断し、小さければダイオード172、174は劣化していないと判断するインバータ制御部140と、を有する。
【選択図】図1
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図7