特許第6633776号(P6633776)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6633776
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】メカニカルシール装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20200109BHJP
   F16J 15/36 20060101ALI20200109BHJP
   F16L 27/08 20060101ALI20200109BHJP
【FI】
   F16J15/34 K
   F16J15/36 Z
   F16L27/08 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-557680(P2018-557680)
(86)(22)【出願日】2017年12月11日
(86)【国際出願番号】JP2017044318
(87)【国際公開番号】WO2018116880
(87)【国際公開日】20180628
【審査請求日】2019年2月25日
(31)【優先権主張番号】特願2016-248582(P2016-248582)
(32)【優先日】2016年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 健吾
(72)【発明者】
【氏名】本田 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀和
【審査官】 羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−270915(JP,A)
【文献】 特開平7−35149(JP,A)
【文献】 特開2001−141149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00−13/00
F16J 15/16−15/32
F16J 15/324−15/38
F16J 15/46−15/53
F16L 27/00−27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円柱形状に突出する突出部を有するハウジングにあって該突出部の内部にその軸方向に形成されている第一流路から、回転軸体の内部に前記第一流路と同じ軸方向に延伸するように形成されている第二流路へと、又はその逆方向に液体を供給する際に、該液体が前記第一流路と前記第二流路との連結部から外部へと漏出するのを防止するために前記ハウジングと前記回転軸体との間に介設されるメカニカルシール装置であって、
a)前記ハウジングの前記突出部との間で所定の二次シール部材によりシールされた状態で且つ該ハウジングに回転不能に装着された固定側環状部と、
b)前記回転軸体との間で所定の二次シール部材によりシールされた状態で且つ該回転軸体と一体に回転するように装着された回転側環状部と、
c)前記固定側環状部が前記回転側環状部と接触するように該固定側環状部を該回転側環状部へと向かって軸方向に押圧するべく、前記ハウジングと前記固定側環状部との間に位置するように前記突出部に挿設されたベローズと、
を備えることを特徴とするメカニカルシール装置。
【請求項2】
請求項1に記載のメカニカルシール装置であって、
前記固定側環状部と前記突出部との間の二次シール部材は、前記ベローズと前記ハウジングとの接触部と、前記第一流路と前記第二流路との連結部と、の間に配置されていることを特徴とするメカニカルシール装置。
【請求項3】
請求項2に記載のメカニカルシール装置であって、
前記ベローズは溶接型のベローズであることを特徴とするメカニカルシール装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメカニカルシール装置に関し、さらに詳しくは、ロータリージョイントなどに使用されるアウトサイド形のメカニカルシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な産業用の装置や機器において、固定された状態にある配管(以下「固定側配管」という)から回転体に設けられた配管(以下「回転側配管」という)に又はその逆方向に流体(液体)を搬送する際には、通常、ロータリージョイント(回転継手)と呼ばれる装置が利用されている。一般的なロータリージョイントは、固定側配管の端面が開口しているハウジング部と回転側配管の端面が開口している回転軸体との間に、両配管の端面開口の間の僅かな間隙から漏れた流体が外周方向へ漏出するのを防止するためのメカニカルシール装置を有している(特許文献1など参照)。
【0003】
メカニカルシール装置には大別してインサイド形とアウトサイド形とがあるが、ロータリージョイントに使用されるメカニカルシール装置はアウトサイド形である。以下の説明では、特に明記しない限り、アウトサイド形のメカニカルシール装置を単にメカニカルシール装置という。
【0004】
一般にメカニカルシール装置は、回転軸体と共に回転するメイティングリング(回転環)と、固定側に設けられるシールリング(固定環)と、該シールリングをメイティングリングの側へと付勢して押し付けるばね機構と、メイティングリングと回転軸体との間及びシールリングとハウジングとの間をそれぞれ密封する二次シールと、を備える。ばね機構によってシールリングがメイティングリングの側へと押し付けられることで両者は接触し、回転軸体の回転に伴ってメイティングリングが回転するとき、上記両者の接触面は摺動面となる。この摺動面が外周側への流体の漏出を阻止する一次的なシールの機能を有する。また、二次シールは、上記摺動面で流体が阻止されることで例えばメイティングリングと回転軸体との間の隙間(デッドボリウム)に回り込んだ流体の漏出を阻止する機能を有する。
【0005】
近年、ロータリージョイントを使用する各種装置に対する高性能化の要求などから、より高い回転速度に対応可能であるメカニカルシール装置が求められている。また、特に液体を扱う装置では、配管に供給する液体の流量を増やすために、より高い液圧に対して高い液密性(シール性)を有することも求められている。一方で、装置の小形化も要望されており、メカニカルシール装置にも一層の小形化が求められている。しかしながら、メカニカルシール装置において、高回転速度や高液圧への対応と小形化とは相反する要求である。
【0006】
即ち、インサイド形とは異なりアウトサイド形のメカニカルシール装置では、漏出しようとする液体に遠心力が作用するため、回転速度を高くしようとすると摺動面(シール面)に掛かる液体の圧力が高くなる。液体の流量増加に加えて回転速度を高めると、摺動面に掛かる液圧はかなり増大するため、シール性の低下に繋がる。このシール性を上げるにはシールリングを押圧するばね機構の付勢力を上げればよいものの、付勢力を上げるためにばねの軸方向の長さを長くすると、メカニカルシール装置の軸方向のサイズを小さくすることが困難になる。また、ばねの軸方向の長さを抑えながら付勢力を上げるには、ばねの本数を増やすことも考えられるが、ばねの本数を増やすには回転軸の中心から外周側に離れた位置にばねを取り付ける必要が生じるため、メカニカルシール装置の径方向のサイズを小さくすることが困難になる。また、ばねの径方向のサイズを大きくすることで付勢力を上げることも可能であるが、この場合にもメカニカルシール装置の径方向のサイズを小さくすることが困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−25597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、回転速度の増加や送液量の増加等による液圧の増大に対して高いシール性を確保しながら、軸方向及び径方向のいずれにおいても小形化を図ることができるアウトサイド形のメカニカルシール装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明は、略円柱形状に突出する突出部を有するハウジングにあって該突出部の内部にその軸方向に形成されている第一流路から、回転軸体の内部に前記第一流路と同じ軸方向に延伸するように形成されている第二流路へと、又はその逆方向に液体を供給する際に、該液体が前記第一流路と前記第二流路との連結部から外部へと漏出するのを防止するために前記ハウジングと前記回転軸体との間に介設されるメカニカルシール装置であって、
a)前記ハウジングの前記突出部との間で所定の二次シール部材によりシールされた状態で且つ該ハウジングに回転不能に装着された固定側環状部と、
b)前記回転軸体との間で所定の二次シール部材によりシールされた状態で且つ該回転軸体と一体に回転するように装着された回転側環状部と、
c)前記固定側環状部が前記回転側環状部と接触するように該固定側環状部を該回転側環状部へと向かって軸方向に押圧するべく、前記ハウジングと前記固定側環状部との間に位置するように前記突出部に挿設されたベローズと、
を備えることを特徴としている。
【0010】
一般にメカニカルシール装置では、二次シール部材としてベローズが用いられることがあるが、本発明に係るメカニカルシール装置では、二次シール部材としてではなく、固定側環状部つまりはシールリングを押圧する弾性部材としてベローズを使用する。即ち、従来一般にアウトサイド形のメカニカルシール装置では、固定側環状部に付勢力を与える弾性部材としてばねが利用されていたが、本発明に係るメカニカルシール装置では、このばねの代わりにベローズを用いる。具体的には、ハウジングの略円柱形状である突出部の外径よりも僅かに大きな内径である中空部が形成された一本のベローズを使用し、該ベローズを突出部に挿設したうえで固定側環状部を二次シール部材を介して突出部に装着する。なお、二次シール部材としてはOリングなどを用いればよい。
【0011】
ベローズの付勢力によって固定側環状部は押圧され、該固定側環状部は全周に亘り回転側環状部に密着する。それによって、固定側環状部と回転側環状部との間のシール性が確保される。例えば第一流路中に外部から液体が供給され、該第一流路から第二流路中に搬送されるとき、対向配置される第一流路の端部と第二流路の端部との間には僅かな間隙があるため、該間隙から漏れ出した液体が周囲に広がろうとする。しかしながら、回転軸体と一体に回転する回転側環状部と静止状態にある固定側環状部との間は上述した密着面(摺動面)で良好にシールされているので、液体の広がりはその面の内側で封じ込められる。固定側環状部と突出部との間、及び回転側環状部と回転軸体との間にはそれぞれ間隙があり、上述したように封じ込められた液体はそれら間隙に流れ込むが、該間隙も二次シール部材でシールされているので、該二次シール部材から外側には漏出しない。これにより、本発明に係るメカニカルシール装置では、第一流路から第二流路へ又はその逆方向に液体が流通する際の外部への液体の漏出を防止することができる。
【0012】
本発明に係るメカニカルシール装置で用いたベローズはばねとは異なり、周方向の全周に亘り軸方向に付勢力を有し、しかもその付勢力は周上でほぼ均一である。そのため、一本のベローズを用いても固定側環状部はその全周でほぼ均等に軸方向に押圧され回転側環状部に密着する。そのため、周方向における押圧力の偏りがなく、周方向で略均等なシール性が得られる。また、ベローズはばねに比べて軸方向の長さや径方向の大きさを抑えながらも高い付勢力が得られる。また、ベローズを突出部に挿設することで該ベローズをハウジングに対して固定することができるので、例えばばねを複数用いる従来の構成のようにばねの端部を保持するための凹部をハウジングに設ける必要がなく、その点でもメカニカルシール装置の軸方向のサイズを小形化するのに有利である。
【0013】
また本発明に係るメカニカルシール装置では、好ましくは、前記固定側環状部と前記突出部との間の二次シール部材は、前記ベローズと前記ハウジングとの接触部と、前記第一流路と前記第二流路との連結部と、の間に配置されている構成とするとよい。
【0014】
上記好ましい構成では、上述したようにばねと異なりそれ自身がシール性を有しているベローズが二次シール部材よりも外側(大気側)に位置しているため、固定側環状部と回転側環状部との接触面つまりは摺動面を経て液体が大気側に漏出した場合でも、その液体がベローズで概ね阻止され固定側の二次シール部材に達しにくい。液体が結晶性流体である場合、Oリング等の二次シール部材に結晶が析出すると該結晶がシール面に固着して液密性が低下する。これに対し上記構成では、回り込んだ液体が二次シール部材に達しにくくいため、こうした液密性の低下を防止することができる。
【0015】
また、固定側環状部はベローズによって押圧されることによって軸方向に微動するため、固定側環状部と突出部との間に設けられる二次シール部材には回転側環状部と回転軸体との間に設けられる二次シール部材に比べて大きな力が掛かり易く劣化し易い。これに対し上記好ましい構成によれば、仮に二次シール部材を経て液体が漏出したとしても、該液体はベローズによって阻止され外部へと漏出することを防止できる。即ち、固定側(ハウジング側)では二次シール部材とベローズとの二つの段階で液体が阻止されるので、外部への液体の漏出をより確実に防止することができる。
【0016】
なお、上記効果をより高めるには、前記ベローズと前記ハウジングとの間、及び前記ベローズと前記固定側環状部との間にそれぞれシール部材を設置する、又は、前記ベローズと前記ハウジングとの間及び前記ベローズと前記固定側環状部との間を接着等により接合するとよい。
【0017】
また、ベローズには大別して成形型と溶接型とがあるが、ここでは、複数のドーナツ状金属薄板の内周縁と外周縁とを軸方向に交互に溶接することで製作された溶接型のベローズが好ましい。何故なら、溶接型は成形型に比べて軸方向により短いサイズであっても大きな付勢力を得ることができるからである。上記固定側環状部及び回転側環状部は例えばSiCなどから成るものとすればよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るメカニカルシール装置によれば、回転軸体と固定されたハウジングとの間の高いシール性を確保しながら装置を小形化することができる。これにより、回転軸体の回転速度を高くすることで、或いは、流路に供給する液体の流量を増加させることで、摺動面に掛かる液圧が高くなった場合でも、その摺動面を経て液体が漏出することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施例であるメカニカルシール装置を含む流路接続部分の概略断面図。
図2図1の部分的な拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施例であるメカニカルシール装置について、添付図面を参照して説明する。図1は本実施例のメカニカルシール装置を含む流路接続部分の概略断面図、図2図1の軸Cより上の部分の拡大図である。なお、図1では、各部を指し示す符号のほかに、要部の寸法(単位はmm)を括弧[]内に記載している。
【0021】
本実施例のメカニカルシール装置は例えば、固定部側の流路と該固定部に対して回転する回転部側の流路との間に設けられ、一方の流路から他方の流路へと液体を供給する接続部分に用いられる。即ち、図1において、回転部2は固定部1に対し、図示しない回転駆動機構によって軸Cを中心に回転される。
【0022】
固定部1にあって、例えばステンレス等の金属製であるハウジング11は略円柱形状に突出する突出部11aを有し、該突出部11aの内部には、軸方向に延伸するように固定側流路(本発明における第一流路に相当)12が形成されている。該固定側流路12の一方の端部は、突出部11a先端の略円形状端面において開口(12a)している。一方、回転部2にあって、略円柱形状である回転軸体21の内部にはその軸方向に延伸するように回転側流路(本発明における第二流路に相当)22が形成されている。回転軸体21の回転中心と回転側流路22の中心軸とは一致している。回転側流路22の一方の端部は、回転軸体21先端の略円形状端面において開口(22a)している。
【0023】
図示しない保持機構によって、回転軸体21の先端の略円形状端面と突出部11a先端の略円形状端面とが略平行に対向し、且つ両端面の間に所定の間隙が形成されるように、回転軸体21はハウジング11に対し回転自在に保持されている。これにより、固定側流路12の開口12aと回転側流路22の開口22aとは僅かな間隙を隔てて対向している。両開口12a、22aは同径であり、図1中に点線矢印で示したように、固定側流路12から回転側流路22に液体を供給したり、その逆に、回転側流路22から固定側流路12に液体を供給したりするようになっている。その際に、両開口12a、22aの間の間隙から漏れ出した液体が周囲、つまりは大気側へと漏れ出すことを防止するのが、本実施例のメカニカルシール装置の機能である。
【0024】
メカニカルシール装置は、固定部1側の突出部11aの外周に緩く嵌設された略円環形状であるシールリング(本発明における固定側環状部に相当)13と、該シールリング13の中心開口の内周面と突出部11aの外周面との間に設けられた円環状のOリング(本発明における二次シール部材に相当)14と、シールリング13とハウジング11との間に配設された略円環状である溶接ベローズ15と、回転軸体21の先端部の外周に嵌設された略円環形状であるメイティングリング(本発明における回転側環状部に相当)23と、該メイティングリング23と回転軸体21の先端部外周との間に設けられた円環状のOリング(本発明における二次シール部材に相当)24と、を含む。
【0025】
突出部11aの根元の外径はφ8.5mm、突出部11aのOリング装着部の外径はφ6.3mm、回転軸体21の先端部の外径はφ4.4mm、該回転軸体21のOリング装着部の軸方向の長さ(凹部の深さ)は1.15mmである。また、シールリング13の外径はφ24mm、メイティングリング23の外径はφ16mmである。
【0026】
シールリング13は外周面の一部に内周側に凹んだ係止溝13aを有しており、ハウジング11に突設された係止ピン11bが該係止溝13aに係合することで、シールリング13はハウジング11に対し軸方向に移動可能に保持されている。他方、メイティングリング23も同様に外周面の一部に内周側に凹んだ係止溝23aを有しており、回転軸体21に突設された係止ピン21aが該係止溝23aに係合することで、メイティングリング23は回転軸体21に対し固定され、該回転軸体21と一体に回転する。なお、シールリング13、メイティングリング23は例えばSiCからなるものとするとよい。特にシールリング13としては高い硬度が要求されるため、特殊転換法によるSiCを用いたものとするとよい。
【0027】
シールリング13は溶接ベローズ15によって軸方向に、つまり図1図2では右方向に押圧され、該シールリング13の一面から軸方向に張り出した円環状のシールリップ13bがメイティングリング23に密着する。この、シールリップ13bとメイティングリング23とが接触する略円環状の面が回転軸体21が回転する際の摺動面30となる。このとき、ハウジング11の突出部11aの根元の面(つまりは溶接ベローズ15の一端の係止面)と摺動面との間の軸方向の距離は10mm、メイティングリング23の係止面と摺動面との間の軸方向の距離は6mm(ただし、ハウジング11の突出部11aの根元の面とメイティングリング23の係止面との間の軸方向の距離は16mm)である。
【0028】
従来一般に、こうした構造のメカニカルシール装置では、シールリング13を押圧する弾性部材として複数本のばねが利用されている。それに対し、本実施例のメカニカルシール装置では、複数本のばねの代わりに、略ドーナツ形状のごく薄い金属板を内周縁と外周縁とを軸方向に交互に溶接することで蛇腹状に形成した、一本の溶接ベローズ15を用いている。この溶接ベローズ15の内径はφ9mm、外径はφ17mmである。即ち、溶接ベローズ15の略円柱状の中空部の外径はφ9mmであって、突出部11aの根元の外径φ8.5mmより僅かに大きいため、溶接ベローズ15は突出部11aの最も奥の位置まで挿通された状態で保持される。
【0029】
溶接ベローズ15は軸方向に全周で隣接する金属板同士が溶接されているため、周方向でほぼ均一に軸方向への押圧力を有する。そのため、シールリング13は周方向のいずれの位置においても軸方向にほぼ同じ力で押され、シールリップ13bは全周で良好にメイティングリング23に接触する。これによって、シールリップ13bとメイティングリング23との接触面つまり摺動面は高い液密性を達成する。また、溶接ベローズ15は全長を短くしても高い押圧力を確保することができる。そのため、本実施例では、全長が2.9mmの溶接ベローズ15を用いて十分な付勢力を得ることができる。なお、溶接ベローズ15のばね定数は1.45である。
【0030】
固定側流路12から回転側流路22に液体を供給している状態で回転軸体21を所定回転速度で回転させると、図2に示すように、固定側流路12の開口12aと回転側流路22の開口22aとの間の間隙から液体が流路外へと漏出する。漏出する液体には流路12、22に供給される液体の液圧と回転による遠心力とが加わるが、上述したようにシールリング13のシールリップ13bとメイティングリング23との接触面(摺動面)は高い液密性を有するため、この接触面を通しての大気側への液体の漏れ出しは殆ど起こらない。一方、シールリング13と突出部11aとの間には僅かながら間隙があるため該間隙に液体が流入する。一方、メイティングリング23と回転軸体21の先端部との間も完全な液密ではないので、その間隙に僅かながら液体が流入する。しかしながら、これら液体はそれぞれOリング14、24でほぼ確実に阻止される。
【0031】
さらに、シールリング13とハウジング11との間に溶接ベローズ15が配置されており、溶接ベローズ15の蛇腹部分は溶接により一体化された金属薄板から成り、該ベローズ15との端部とハウジング11及びシールリング13のとの間の密着性も高いので、その内周側から外周側へ、又その逆に外周側から内周側へと液体は流出しにくい。そのため、仮にOリング14が劣化して液体が漏れ出したとしても該Oリング14よりもさらに大気側に位置する溶接ベローズ15によって液体は阻止され、大気側へと漏れ出さない。溶接ベローズ15によって常に力を受けているシールリング13が軸方向に移動すると、該シールリング13に接しているOリング14にも力が加わるため、固定部1側のOリング14は回転部2側のOリング24に比べれば劣化し易い。しかしながら、上述したように、固定部1においてはOリング14の外側にさらに溶接ベローズ15がシール手段として存在するので、液体の漏出を確実に防止することができる。
【0032】
また逆に、万が一、シールリング13のシールリップ13bとメイティングリング23との接触面から液体が大気側へと漏れ出しシールリング13の外周面を伝って来たとしても、溶接ベローズ15で阻止されてOリング14には到達しにくい。液体が結晶性流体である場合、大気側から回り込んだ液体がOリング14には到達して結晶が析出するとOリング14の液密性の低下の大きな要因となるが、上記のように液体の回り込みを防止することでOリング14での結晶の析出も避けることができる。
【0033】
なお、一般的には、溶接ベローズ15とシールリング13との間、及び、溶接ベローズ15とハウジング11との間は接着等による接合を行わなくても十分な密着性が確保できるが、接着等による接合を行うことで液密性を高めるようにしてもよい。
【0034】
本発明者は本実施例のメカニカルシール装置の効果を確認するため、図1に示したサイズのメカニカルシール装置を試作し以下のような試験を行った。
[試験条件]
・液体の種類:水+界面活性剤
・流量:1.65mL/min
・圧力:3MPa
・温度:室温(常温)
・回転速度:8000rpm
・運転時間:約20分
・冷却:なし(流路に流す液体による放熱のみ)
[試験結果]
・漏れ量:目視上で漏れなし、また当該装置を囲むように設けた飛散カバーへの液滴の付着なし
・試験後の摺動面状況:極めて良好(均一な当たりであって面荒れや摩耗観測されず)
・周囲の温度上昇:ごく僅か
【0035】
上述したように、本実施例のメカニカルシール装置は、軸方向に17mm程度、径方向にφ24mm程度のごく小さいスペースに収まる構成でありながら、高い液圧、高い回転速度の条件の下でもほぼ完全なシール性を達成し得るということを実験的に確認することができた。また、一般には、摺動面で発生する熱を抑えるために冷却用水などを供給することが必要であることが多いが、そうした冷却も不要であることが確認できた。このように、本実施例のメカニカルシール装置は、部品点数が少なく簡単な構造であり、小さなサイズを実現しながら、高いシール性やその耐久性を達成できるものである。
【0036】
なお、上記実施例は本発明の一例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜修正、変更、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0037】
1…固定部
11…ハウジング
11a…突出部
11b…係止ピン
12…固定側流路
12a、22a…開口
13…シールリング
13a、23a…係止溝
13b…シールリップ
14、24…Oリング
15…溶接ベローズ
2…回転部
21…回転軸体
21a…係止ピン
22…回転側流路
23…メイティングリング
30…摺動面
C…軸
図1
図2