特許第6633822号(P6633822)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新明和工業株式会社の特許一覧

特許6633822電線矯正装置、それを備えた電線処理装置、電線の矯正方法及び製造方法
<>
  • 特許6633822-電線矯正装置、それを備えた電線処理装置、電線の矯正方法及び製造方法 図000002
  • 特許6633822-電線矯正装置、それを備えた電線処理装置、電線の矯正方法及び製造方法 図000003
  • 特許6633822-電線矯正装置、それを備えた電線処理装置、電線の矯正方法及び製造方法 図000004
  • 特許6633822-電線矯正装置、それを備えた電線処理装置、電線の矯正方法及び製造方法 図000005
  • 特許6633822-電線矯正装置、それを備えた電線処理装置、電線の矯正方法及び製造方法 図000006
  • 特許6633822-電線矯正装置、それを備えた電線処理装置、電線の矯正方法及び製造方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6633822
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】電線矯正装置、それを備えた電線処理装置、電線の矯正方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/012 20060101AFI20200109BHJP
   H02G 1/06 20060101ALI20200109BHJP
   B21F 1/02 20060101ALI20200109BHJP
【FI】
   H01B13/012 Z
   H02G1/06
   B21F1/02 B
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-558653(P2019-558653)
(86)(22)【出願日】2019年8月5日
(86)【国際出願番号】JP2019030782
【審査請求日】2019年10月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002358
【氏名又は名称】新明和工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 征一郎
【審査官】 久保 正典
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/163239(WO,A1)
【文献】 特開2009−172642(JP,A)
【文献】 特開2017−113805(JP,A)
【文献】 特開2005−166399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/012
B21F 1/02
H02G 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の曲がり癖を矯正する電線矯正装置であって、
供給される上記電線の外径を計測する外径計測部と、
上記外径計測部の下流側又は上流側に設けられた第1支持部材において、上記電線の送出経路に沿って配置された複数の第1矯正ローラと、
上記第1支持部材と送給経路を挟んで設けられた第2支持部材において、上記送出経路に沿ってかつ上記複数の第1矯正ローラが配置された側と上記送給経路を挟んで反対側に、該複数の第1矯正ローラと上記送出経路に関して交互に配置された複数の第2矯正ローラと、
上記第1支持部材と上記第2支持部材の少なくとも一方を上記電線の送出経路と垂直方向にスライド移動させるスライド機構と、
上記外径計測部の計測値に基づいて上記スライド機構を制御し第1矯正ローラと第2矯正ローラとの間の距離を調整する制御部とを備えている
ことを特徴とする電線矯正装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電線矯正装置において、
上記第1支持部材と上記第2支持部材との間の支持部材間距離を計測するローラ間隔計測部と、
上記制御部は、上記外径計測部によって計測された上記電線の外径値に基づいて適切な支持部材間距離を決定し、上記スライド機構を制御すると共に、上記ローラ間隔計測部の計測値を検知して上記適切な支持部材間距離に調整するように構成されている
ことを特徴とする電線矯正装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電線矯正装置において、
上記制御部は、上記電線の外径に対応する目標支持部材間距離を予め記憶しておき、上記外径計測部で計測された外径値に基づいて上記目標支持部材間距離を選択し、該目標支持部材間距離となるように上記スライド機構を制御して支持部材間距離を調整するように構成されている
ことを特徴とする電線矯正装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電線矯正装置において、
上記外径計測部が計測した外径と、上記制御部が選択した目標支持部材間距離とを表示可能なタッチパネルをさらに備え、
上記タッチパネルを用いて上記目標支持部材間距離を手動入力可能となっている
ことを特徴とする電線矯正装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の電線矯正装置において、
上記制御部の上位システムの指令によって上記目標支持部材間距離を調整可能に構成されている
ことを特徴とする電線矯正装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の電線矯正装置と、
上記電線矯正装置に上記電線を供給する送給装置と、
上記電線矯正装置を通過した上記電線を挟んで搬送するクランプと、
上記クランプに挟まれた上記電線の被覆を剥ぐカッター装置と、
上記クランプに挟まれた上記電線に端子を圧着する端子圧着機と、
上位システムとしての全体コントローラとを有する
ことを特徴とする電線処理装置。
【請求項7】
請求項6に記載の電線処理装置において、
上記全体コントローラは、上記外径計測部が計測した計測値に基づいて上記送給装置、上記クランプ、上記カッター装置及び上記端子圧着機の少なくとも一部をフィードバック制御する
ことを特徴とする電線処理装置。
【請求項8】
電線の矯正方法であって、
供給される上記電線の外径を計測する外径計測部と、
上記外径計測部の下流側又は上流側に設けられた第1支持部材において、上記電線の送出経路に沿って配置された複数の第1矯正ローラと、
上記第1支持部材に対向してスライド移動可能に設けられた第2支持部材において、上記送出経路に沿ってかつ上記複数の第1矯正ローラが配置された側と反対側に、該複数の第1矯正ローラと上記送出経路に関して交互に配置された複数の第2矯正ローラと、
上記第2支持部材を上記第1支持部材に対してスライド移動させるスライド機構と、
上記第1支持部材と上記第2支持部材との間の支持部材間距離を計測するローラ間隔計測部とを備えた電線矯正装置を準備する準備工程と、
電線の送給装置によって電線を供給する電線供給工程と、
上記ローラ間隔計測部によって、上記支持部材間距離を計測するローラ間隔計測工程と、
供給されてきた上記電線の外径を上記外径計測部で計測する外径計測工程と、
上記外径計測部の計測値に基づいて上記スライド機構を制御して第1矯正ローラと第2矯正ローラとの間の距離を調整し、上記電線を上記第1矯正ローラ及び上記第2矯正ローラで矯正する矯正工程とを含む
ことを特徴とする電線の矯正方法。
【請求項9】
請求項8に記載の電線の矯正方法を含み、
上記外径計測部が計測した計測値に基づいて上記電線を供給する送給装置、該電線を掴むクランプ、該電線の被覆を剥ぐカッター装置及び被覆を剥がれた電線に端子を圧着する端子圧着機の少なくとも一部をフィードバック制御する
ことを特徴とする電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線矯正装置、それを備えた電線処理装置、電線の矯正方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線が巻き取られたリールから電線を引き出し、その電線を切断し、端子圧着、半田付けなどの処理を行うことが知られている。電線は導線とそれを覆う被覆で構成され、リールに巻かれることなどにより巻き癖又は曲がり癖がついている。このため、電線処理装置等の上流側において電線矯正装置(伸線機ともいう)によって電線の曲がり癖を矯正することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1のケーブル矯正装置は、2列のローラと、これらローラ間の距離を調整する調整装置と、ローラ間の距離を測定する測定装置と、この測定装置によって決定されるローラ間距離の実際値に対する公称値からの偏差が視覚的に示される指示器装置とを備えている。この指示器装置は、矯正パラメータの公称値と比べて大きい、及び/又は低い実際値を指示する光学的誤差指示要素、並びに、実際の値が公称値と一致することを指示するための光学的な「正しい」指示要素を有する。
【0004】
また、特許文献2の線状体矯正装置は、矯正ローラを支持する支持体と、支持体の位置を制御する制御ユニットとを備え、この制御ユニットは、支持体を移動させる駆動部と、線状体に掛かる荷重を検出するための荷重検出部と、支持体を所定位置へ移動させるように駆動部を制御する制御部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−113805号公報
【特許文献2】特開2009−172642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のような電線矯正装置では、ローラ間距離の実際値と矯正パラメータの公称値とを比べた結果を表示してユーザが正しいローラ間距離に近付くように調整装置の回転ツマミを回転させるようにしているが、そもそもユーザは、生産性やその他の効率を優先するために調整しなかったり、自らの好みで意図的に公称値から遠ざけたりするように調整することがある。このような場合には、電線を締め付けすぎて電線が傷んで信頼性や耐久性が低下したり、緩すぎて十分に矯正が行われなかった結果、適切に電線を加工することができなかったりするおそれがある。
【0007】
また、ケーブル矯正装置の公称値が実際に供給されてくる電線に適切に対応したものであるかを確認する手段が設けられていないという問題がある。
【0008】
同様に特許文献2の線状体矯正装置でも、制御部は、予め記憶された処理対象の電線に対応する支持体の位置に基づいて制御を行っているが、実際に流れてくる電線が、処理対象として設定されている電線と同一であるかの確認手段がない。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡単かつ確実に電線の外径に合わせた最適なローラ間距離を確保できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、この発明では、外径計測部による電線外径の実測値を利用してスライド機構を制御して第1矯正ローラと第2矯正ローラとの間の距離を調整するようにした。
【0011】
具体的には、第1の発明では、電線の曲がり癖を矯正する電線矯正装置を対象とし、
上記電線矯正装置は、
供給される上記電線の外径を計測する外径計測部と、
上記外径計測部の下流側又は上流側に設けられた第1支持部材において、上記電線の送出経路に沿って配置された複数の第1矯正ローラと、
上記第1支持部材と送給経路を挟んで設けられた第2支持部材において、上記送出経路に沿ってかつ上記複数の第1矯正ローラが配置された側と上記送給経路を挟んで反対側に、該複数の第1矯正ローラと上記送出経路に関して交互に配置された複数の第2矯正ローラと、
上記第1支持部材と上記第2支持部材の少なくとも一方を上記電線の送出経路と垂直方向にスライド移動させるスライド機構と、
上記外径計測部の計測値に基づいて上記スライド機構を制御し第1矯正ローラと第2矯正ローラとの間の距離を調整する制御部とを備えている。
【0012】
上記の構成によると、使用者が支持部材間距離を手動で設定することなく、実際に流れてくる電線の外径実測値に基づいて最適なローラ間距離に自動で設定されるので、調整間違いや調整忘れによる電線へのダメージや加工不良を未然に防ぐことができると共に、調整にかかる時間を短縮することができる。なお、電線矯正装置は、電源さえあれば単独でも制御可能に構成できる。また、第2支持部材は、単独で第1支持部材に対して電線の送出経路と垂直方向に移動してもよいし、第2支持部材と共に第1支持部材も電線の送出経路と垂直方向に移動するようにしてもよい。
【0013】
第2の発明では、第1の発明において、
上記第1支持部材と上記第2支持部材との間の支持部材間距離を計測するローラ間隔計測部と、
上記制御部は、上記外径計測部によって計測された上記電線の外径値に基づいて適切な支持部材間距離を決定し、上記スライド機構を制御すると共に、上記ローラ間隔計測部の計測値を検知して上記適切な支持部材間距離に調整するように構成されている。
【0014】
上記の構成によると、供給される電線に対して適切なローラ間距離が保たれるので、どの使用者が操作する場合でも安定した品質の電線が得られる。
【0015】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、
上記制御部は、上記電線の外径に対応する目標支持部材間距離を予め記憶しておき、上記外径計測部で計測された外径値に基づいて上記目標支持部材間距離を選択し、該目標支持部材間距離となるように上記スライド機構を制御して支持部材間距離を調整するように構成されている。
【0016】
上記の構成によると、電線の外径をリアルタイムに計測し、その外径に合わせて予め記憶された目標支持部材間距離から適切な目標支持部材間距離が選択され、スライド機構が自動で制御されるので、簡単かつ確実に最適なローラ間距離が維持される。
【0017】
第4の発明では、第3の発明において、
上記外径計測部が計測した外径と、上記制御部が選択した目標支持部材間距離とを表示可能なタッチパネルをさらに備え、
上記タッチパネルを用いて上記目標支持部材間距離を手動入力可能となっている。
【0018】
上記の構成によると、タッチパネルを用いて使用者による手動入力でもローラ間距離を調整でき、微調整が必要な場合にも容易に対応できる。
【0019】
第5の発明では、第3又は第4の発明において、
上記制御部の上位システムの指令によって上記目標支持部材間距離を調整可能に構成されている。
【0020】
上記の構成によると、下流側での加工処理や他のセンサの計測値に合わせて上位システムが目標支持部材間距離を調整することもできる。
【0021】
第6の発明の電線処理装置は、
第1から第5のいずれか1つの発明の電線矯正装置と、
上記電線矯正装置に上記電線を供給する送給装置と、
上記電線矯正装置を通過した上記電線を挟んで搬送するクランプと、
上記クランプに挟まれた上記電線の被覆を剥ぐカッター装置と、
上記クランプに挟まれた上記電線に端子を圧着する端子圧着機と、
上位システムとしての全体コントローラとを備えている。
【0022】
上記の構成によると、電線矯正装置において調整間違いや調整忘れによる電線へのダメージや加工不良を未然に防ぐことができるので、切断、端子圧着などの後処理も容易であり、効率よく品質の高い電線が得られる。
【0023】
第7の発明では、第6の発明において、
上記全体コントローラは、上記外径計測部が計測した計測値に基づいて上記送給装置、上記クランプ、上記カッター装置及び上記端子圧着機の少なくとも一部をフィードバック制御する。
【0024】
上記の構成によると、制御部の上位システムである全体コントローラは、電線矯正装置だけでなく、その下流側のクランプ、カッター装置、端子圧着機などにも電線の外径実測値に基づいて最適な制御を行うことができる。
【0025】
第8の発明の電線の矯正方法は、
供給される上記電線の外径を計測する外径計測部と、
上記外径計測部の下流側又は上流側に設けられた第1支持部材において、上記電線の送出経路に沿って配置された複数の第1矯正ローラと、
上記第1支持部材に対向してスライド移動可能に設けられた第2支持部材において、上記送出経路に沿ってかつ上記複数の第1矯正ローラが配置された側と反対側に、該複数の第1矯正ローラと上記送出経路に関して交互に配置された複数の第2矯正ローラと、
上記第2支持部材を上記第1支持部材に対してスライド移動させるスライド機構と、
上記第1支持部材と上記第2支持部材との間の支持部材間距離を計測するローラ間隔計測部とを備えた電線矯正装置を準備する準備工程と、
電線の送給装置によって電線を供給する電線供給工程と、
上記ローラ間隔計測部によって、上記支持部材間距離を計測するローラ間隔計測工程と、
供給されてきた上記電線の外径を上記外径計測部で計測する外径計測工程と、
上記外径計測部の計測値に基づいて上記スライド機構を制御して第1矯正ローラと第2矯正ローラとの間の距離を調整し、上記電線を上記第1矯正ローラ及び上記第2矯正ローラで矯正する矯正工程とを含む。
【0026】
上記の構成によると、使用者が支持部材間距離を設定することなく、実際に流れてくる電線の外径実測値に基づいて最適なローラ間距離に自動で設定されるので、調整間違いや調整忘れによる電線へのダメージや加工不良を未然に防ぐことができると共に、調整にかかる時間を短縮することができる。
【0027】
第9の発明の電線の製造方法は、第8の発明の電線の矯正方法を含み、
上記外径計測部が計測した計測値に基づいて上記電線を供給する送給装置、該電線を掴むクランプ、該電線の被覆を剥ぐカッター装置及び被覆を剥がれた電線に端子を圧着する端子圧着機の少なくとも一部をフィードバック制御するように構成されている。
【0028】
上記の構成によると、電線矯正装置だけでなく、送給装置、クランプ、カッター装置、端子圧着機などにも電線の外径実測値に基づいて最適な制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明によれば、外径計測部によって実測した電線の外径値を利用してスライド機構を制御して第1矯正ローラと第2矯正ローラとの間の距離を調整するようにしたことにより、簡単かつ確実に電線の外径に合わせた最適なローラ間距離を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施形態に係る電線矯正装置を示す平面図である。
図2】電線処理装置の概略を示す平面図である。
図3】電線矯正装置が電線を矯正する様子を示す図1相当図である。
図4】タッチパネルの表示画面の一例を拡大して示す正面図である。
図5】電線矯正装置及びコントローラを示すブロック図である。
図6】電線の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0032】
(実施形態1)
図2は本発明の実施形態1の電線処理装置1を示し、この電線処理装置1は、電線2が巻かれたリール3と、電線2の曲がり癖を矯正する電線矯正装置20と、電線2の送り出し量(送り出し長さ)を測定する測長ユニット4と、電線2を送り出す送給装置5と、送給装置5により送り出された電線2の前端部を挟持するクランプ6Fと、クランプ6Fに挟持された電線2の前端部に端子8を圧着する端子圧着機9Fと、カッター装置7と、カッター装置7の下流側の電線2の後端部を挟持するクランプ6Rと、クランプ6Rに挟持された電線2の後端部に端子8を圧着する端子圧着機9Rとを備えている。なお、クランプ6F、クランプ6Rは、それぞれ電線2の前端部、後端部を挟持するものであるので、以下では、それぞれF側(前側)、R側(後側)のクランプと適宜称する。端子圧着機9F、端子圧着機9Rは、それぞれ電線2の前端部、後端部に端子8を圧着するものであるので、それぞれF側(前側)、R側(後側)の端子圧着機と適宜称する。
【0033】
電線2はいわゆる被覆電線であり、金属などの導体からなる心線と、心線の周囲を囲む樹脂などの絶縁材とを含んでいる(図示省略)。送給装置5の構成は特に限定されないが、左右の搬送ベルトに挟まれた電線2を前方(下流側)に送り出すように構成されている。カッター装置7は、電線2を切断する切断刃7aと、F側クランプ6Fに挟持された電線2の前端部の絶縁材を剥ぎ取るストリップ刃7Fと、R側クランプ6Rに挟持された電線2の後端部の絶縁材を剥ぎ取るストリップ刃7Rとを有している。
【0034】
本実施形態の電線矯正装置20は、供給される電線2の外径Dを計測する外径計測部40を備えている。図1に示すように、この外径計測部40は、例えば、板状の外径計測部基部41と、この外径計測部基部41における電線2の送出経路2A上に複数並べられた電線ガイド部42とを備えている。そして、一対の電線ガイド部42の間の電線が、固定側ローラ43と可動側ローラ44とで挟まれている。詳しくは図示しないが、この可動側ローラ44は、図示しない引っ張りバネで引っ張られ固定側ローラ43側へ付勢された状態で、長孔45の内部でスライド移動可能に構成されている。この可動側ローラ44の変位を例えば、変位センサ46(近接変位センサ)で実測することで、電線2の外径Dをリアルタイムで計測できるようになっている。変位センサ46の構成は特に限定されないが、例えば、可動側ローラ44と共に移動する被検出部までの距離を非接触型の変位センサ46で検出すればよい。
【0035】
電線矯正装置20は、図5に示すように、これらの各部位を制御するCPU28a、AD変換器28b、メモリなどを有する制御部としてのコントローラ28を備えている。上記近接変位センサの検出値は、アナログ出力としてコントローラ28のAD変換器28bに送信される。電源10からの電力は、コントローラ28を介して各部品に供給されるようになっている。
【0036】
一方、電線矯正装置20の上位システムである電線処理装置1は、全体コントローラ50を備え、この全体コントローラ50によって、電線処理装置1の各部品が制御されるようになっている。詳しくは図示しないが、高圧エアも全体コントローラ50の指示を受けた制御バルブ等を介して各種空圧アクチュエータに供給されるようになっている。本実施形態では、各種機械に後付けできるよう電線矯正装置20のコントローラ28と、上位システムである電線処理装置1を制御する全体コントローラ50とを独立して構成しているが、コントローラ28が全体コントローラ50に含まれていてもよい。
【0037】
電線矯正装置20は、さらに外径計測部40の下流側に板状の矯正装置基部21を備えている。この矯正装置基部21の送出経路2A上の少なくとも上流側には、電線ガイド部42が設けられている。そして、矯正装置基部21における送出経路2Aに対して一方側に送出経路2Aに沿って延びる、例えば角棒状の第1支持部材22が固定されている。この第1支持部材22には、電線2の送出経路2Aと平行に複数の第1矯正ローラ23が配置されている。第1矯正ローラ23の数は特に限定されないが、例えば、4つである。
【0038】
同様に矯正装置基部21には、第1支持部材22に対向して第2支持部材24が送出経路2Aに垂直な方向にスライド移動可能に設けられている。そして、この第2支持部材24には、送出経路2Aと平行かつ複数の第1矯正ローラ23が配置された側と反対側に、これら複数の第1矯正ローラ23と送出経路2Aに関して交互に複数の第2矯正ローラ25が配置されている。本実施形態では、第2矯正ローラ25は、第1矯正ローラ23の数と同じで4個設けられているが、それよりも多くてもよいし、少なくてもよい。本実施形態の第2矯正ローラ25の電線2に当接する溝部の外径は、第1矯正ローラ23のそれと等しいが、大きくしてもよい。
【0039】
そして、第2支持部材24は、第1支持部材22に対してスライド機構26によってスライド移動されるように構成されている。スライド機構26は、電動モータなどのスライドモータ26aと、このスライドモータ26aの回転によって送出経路2Aに垂直方向に進退可能に構成され、先端が第2支持部材24の雌ネジ部に連結されたボールネジ26bとを備えている。スライド機構26は、エアシリンダなどの別のアクチュエータで構成してもよい。コントローラ28からの制御信号がドライバ26c(図5に示す)を介してスライドモータ26aに供給されるようになっている。
【0040】
また、電線矯正装置20は、第1支持部材22と第2支持部材24との間の支持部材間距離hrを計測するローラ間隔計測部27も備えている。ローラ間隔計測部27は、ピン状の検知部27aが第2支持部材24に当接しており、この第2支持部材24の移動に伴って内部のホールIC直線変位センサが変位を検出することで、支持部材間距離hrを実測し、アナログ出力としてコントローラ28に送信するように構成されている。
【0041】
外径計測部40が計測した外径Dと、ローラ間隔計測部27が計測した支持部材間距離hrと、コントローラ28が選択した目標支持部材間距離htとを表示可能なタッチパネル30をさらに備え、ユーザは、このタッチパネル30を用いて目標支持部材間距離htを手動入力可能となっている。図4に示すように、例えば、タッチパネル30には、目標支持部材間距離htを示すターゲット値表示部31、ローラ間隔計測部27が計測した支持部材間距離hrを示す現在値表示部32、外径計測部40が計測した電線2の外径Dを示す直径表示部33とを備えている。ターゲット値表示部31は、増減ボタン34による手動入力によって適宜増減できるようになっている。また、タッチパネル30には、セットボタン35、運転状態表示部36、作動状態表示部37、電線供給状態表示部38、緊急停止ボタン39とが設けられている。なお、タッチパネル30の構成はこれに限定されず、適宜変更できる。
【0042】
そして、詳細は後述するが、コントローラ28は、外径計測部40によって計測された電線2の外径Dの値から適切な支持部材間距離hrを判定し、スライド機構26に指示を出すと共に、ローラ間隔計測部27の値を検知して支持部材間距離hrを調整するように構成されている。
【0043】
また、コントローラ28は、電線2の外径Dに対応する目標支持部材間距離htを予め記憶しておき、外径計測部40で計測された外径Dから適切な支持部材間距離hrとして目標支持部材間距離htを選択し、この目標支持部材間距離htとなるようにスライド機構26を制御するように構成されている。
【0044】
詳しい説明は省略するが、全体コントローラ50は、クランプ6F,6R、カッター装置7、端子圧着機9F,9Rなどにも電線2の外径Dの実測値に基づいて最適な制御を行うことができる。
【0045】
−電線の製造方法−
次いで、図6等を用いて電線2の製造方法の一例について説明する。
【0046】
まず、準備工程において、上述した電線矯正装置20を含む電線処理装置1を準備する。
【0047】
次いで、ステップS01の電線供給工程において、電線2が巻き取られたリール3をセットし、先端を少なくとも送給装置5よりも下流側まで延ばしておく。電線2の送給装置5によって電線2を全体コントローラ50で指示されたタイミング及び速度で供給する。
【0048】
次いで、ステップS02のローラ間隔計測工程において、ローラ間隔計測部27が支持部材間距離hrを計測する。ここでは、実際のローラ間距離を計測するのではなく、計測が容易な支持部材間距離hrを計測している。
【0049】
次いで、ステップS03の外径計測工程において、送給装置5によって引き出されてリール3から供給されてきた電線2の外径Dを外径計測部40の固定側ローラ43と可動側ローラ44との間に挟んで可動側ローラ44の変位を元に計測する。例えば、計測は、変位センサ46が常時行い、そのアナログ出力がコントローラ28に送信される。
【0050】
次いで、矯正工程において、コントローラ28は、外径計測部40の値からスライド機構26を制御して第1矯正ローラ23と第2矯正ローラ25との間の距離を調整し、電線2を第1矯正ローラ23及び第2矯正ローラ25で矯正する。
【0051】
具体的には、ステップS04において、外径Dが0よりも大きいか判定され、0よりも大きければ、ステップS05に進み、計測の前後で外径Dに大きな変化がないか判定される。例えば、外径が0.2mmよりも小さい値だけ増減したときには、急激な変化がないと判断し、ステップS06に進む。
【0052】
ステップS06では、外径Dの実測値に合わせた目標支持部材間距離htが選択され、その値がタッチパネル30に表示されると共に、スライド機構26のスライドモータ26aが駆動され、回転するボールネジ26bによって第2支持部材24がスライド移動する。
【0053】
そして、ステップS02に戻って支持部材間距離hrが再び計測され、目標支持部材間距離htに近付くような制御が行われ、ステップS03へ進む。
【0054】
一方、ステップS04において、外径が0以下と計測されるときには、ステップS08において、電線2が無いと判定し、「電線無し」の信号がコントローラ28に送信される。そして、タッチパネル30の電線供給状態表示部38において、電線無しとの表示がされる。電線2が無いので、下流側の各装置は停止する。
【0055】
また、ステップS05において、外径Dに急激な変化があったときには、ステップS07に進み、電線つなぎ信号がコントローラ28に出力され、外径Dの異なる電線2が流れてきたことが報知される。これにより、必要な措置がとられる。
【0056】
なお、場合によっては、タッチパネル30を用いて使用者による手動入力可能にすることもできる。
【0057】
このように、本実施形態では、使用者が支持部材間距離hrを設定することなく、実際に流れてくる電線2の外径Dの実測値に基づいて最適なローラ間距離に自動で設定されるので、調整間違いや調整忘れによる電線2へのダメージや加工不良を未然に防ぐことができると共に、調整にかかる時間を短縮することができる。
【0058】
また、自動で流れてくる電線2に対して適切なローラ間距離が保たれるので、どの使用者が操作する場合でも安定した品質の電線2が得られる。
【0059】
また、電線2の外径Dをリアルタイムに計測し、その外径Dに合わせた適切な目標支持部材間距離htが選択され、それに近付くようにスライド機構26が自動で制御されるので、簡単かつ確実に最適なローラ間距離が維持される。
【0060】
以上説明したように、本実施形態によれば、簡単かつ確実に電線2の外径Dに合わせた最適なローラ間距離を確保できる。
【0061】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0062】
すなわち、上記実施形態では、外径計測部40の変位センサとして近接変位センサを用いており、また、ローラ間隔計測部27では、ホールIC直線変位センサを用いた。これらは、物体位置により出力が変化するものであれば、ポテンショメータ等の可変抵抗器、赤外LED測距センサ、渦電流式変位センサ、超音波変位センサ、レーザー変位計などで構成してもよい。また、アナログ出力機能が無くても、通信機能を備えたものでもよい。
【0063】
また、コントローラ28は、外径計測部40が計測した外径実測値を利用して送給装置、クランプ、カッター装置及び端子圧着機の少なくとも一部をフィードバック制御するように構成してもよい。このように構成すれば、全体コントローラ50は、電線矯正装置20だけでなく、他の処理装置等にも電線2の外径Dの実測値に基づいて最適な制御を行うことができる。具体的には、例えば、外径実測値情報は、送給装置5、アキュムレータの圧力(張力)調整、測長ベルト(測長ローラ)の挟み力(エア圧)調整、クランプ6F,6Rの把持力(エア圧)調整、カッター装置7、端子圧着機9F,9Rの他、上位システムである全体コントローラ50やHMI入力値との正誤確認、電線有無検出、電線種が変わる際のつなぎ目の検出に利用可能である。
【0064】
例えば、カッター装置7の制御では、カッターの切込み値を制御できる。この場合、電線2の被覆外径よりも芯線外径のほうが重要だが、電線2では、被覆の厚みは、0.2mm程度しかないものが多いため、被覆外径−0.2mm×2=芯線外径とすれば、おおよその切込み値を推定できる。
【0065】
また、端子圧着機9F,9Rの制御では、圧着高さを制御できる。端子8の圧着高さは被覆外径に比例するため、適当な係数を掛ければ、おおよその圧着高さを推定できる。
【0066】
また、コントローラ28よりも上位の上位システム(全体コントローラ50)の指令によっても目標支持部材間距離htを調整可能に構成してもよい。この場合、下流側の処理や他のセンサの計測値に合わせて全体コントローラ50が目標支持部材間距離htを調整することもできる。
【0067】
さらに、電線矯正装置20は、電源10さえあれば単独でも制御可能に構成できる。
【0068】
また、上記実施形態では、第2支持部材24を単独で第1支持部材22に対して送出経路2Aと垂直方向に移動するように構成したが、第2支持部材24と共に第1支持部材22も送出経路2Aと垂直方向に移動するように構成してもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、第1支持部材22及び第2支持部材24は、送出経路2Aに平行に配置したが、これに限定されず、両者は、送出経路2Aに沿って配置されていればよく、例えば、互いに間隔が徐々に広がるように配置してもよい。
【0070】
なお、ローラ間隔計測部27として、ローラ位置検出用の原点センサ29を設けてもよい。例えば、原点センサ29からの移動量をスライドモータ26aやボールネジ26bの回転数などをカウントすることで、本実施形態のように直線変位センサによって直接測定しなくても支持部材間距離hrを推定することもできる。原点合わせ後の位置は、サーボモータなら、それ自身のエンコーダで保証できる。さらに、モータ自身が位置を記憶できるものもある。本実施形態では、例えば、スライドモータ26aとして入手性のよいエンコーダ無しのステッピングモータを用いているので、入力パルスに同期しなくなった脱調による位置ズレや可動初期の原点合わせでローラ間隔が一時的に変化してしまうのをさけるために、ローラ間隔計測部27で実測をしている。
【0071】
上記実施形態では、外径計測部40の下流側に電線矯正装置20を設けたが、上流側に設けてもよい。
【0072】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0073】
1 電線処理装置
2 電線
2A 送出経路
3 リール
4 測長ユニット
5 送給装置
6F,6R クランプ
7 カッター装置
7F ストリップ刃
7R ストリップ刃
7a 切断刃
8 端子
9F,9R 端子圧着機
10 電源
20 電線矯正装置
21 矯正装置基部
22 第1支持部材
23 第1矯正ローラ
24 第2支持部材
25 第2矯正ローラ
26 スライド機構
26a スライドモータ
26b ボールネジ
26c ドライバ
27 ローラ間隔計測部
27a 検知部
28 コントローラ(制御部)
28a CPU
28b AD変換器
30 タッチパネル
31 ターゲット値表示部
32 現在値表示部
33 直径表示部
34 増減ボタン
35 セットボタン
36 運転状態表示部
37 作動状態表示部
38 電線供給状態表示部
39 緊急停止ボタン
40 外径計測部
41 外径計測部基部
42 電線ガイド部
43 固定側ローラ
44 可動側ローラ
45 長孔
46 変位センサ
50 全体コントローラ(上位システム)
【要約】
送給装置によって電線(2)を供給し、ローラ間隔計測部(27)によって、支持部材間距離(hr)を計測し、供給されてきた電線(2)の外径(D)を外径計測部(40)で計測し、この外径計測部(40)の計測値に基づいてスライド機構(26)を制御して第1矯正ローラ(23)と第2矯正ローラ(25)との間の距離を調整し、電線(2)を第1矯正ローラ(23)及び第2矯正ローラ(25)で矯正する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6