特許第6633828号(P6633828)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6633828
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】多糖類の測定方法及び測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20200109BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20200109BHJP
   G01N 30/74 20060101ALI20200109BHJP
   G01N 30/32 20060101ALI20200109BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20200109BHJP
【FI】
   G01N30/88 N
   G01N30/06 E
   G01N30/74 F
   G01N30/32 A
   G01N21/78 C
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-213033(P2014-213033)
(22)【出願日】2014年10月17日
(65)【公開番号】特開2016-80542(P2016-80542A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年5月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】山田 明男
(72)【発明者】
【氏名】越智 大介
【審査官】 高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−062220(JP,A)
【文献】 特表2005−517955(JP,A)
【文献】 特開平04−029058(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/133269(WO,A1)
【文献】 特開2010−145191(JP,A)
【文献】 特開2006−095516(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02642288(EP,A1)
【文献】 加藤武彦,その他,タウリン-過ヨウ素酸試薬を用いた高速液体クロマトグラフィーによる糖類の蛍光分析,分析化学,日本,1986年,P869-874
【文献】 移動相の脱気 3・流路中での気泡発生によるトラブル 3-4)検出器セル内での気泡発生・滞留によるベースラインノイズ,島津製作所HP[オンライン],日本,株式会社島津製作所,2002年 7月 1日,URL,https://www.an.shimadzu.co.jp/hplc/support/lib/lctalk/s5/034.htm
【文献】 加藤貴大,その他,プロピレングリコールを用いるセロトニンの簡便かつ高感度な蛍光光度法,BUNSEKI KAGAKU,日本,2011年,Vol. 60,P685-689
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
G01N33/48−33/98
B01D15/00−15/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類と、前記多糖類中のヒドロキシル基をアルデヒド基に酸化することが可能な酸化剤と、を反応させて前記多糖類を多糖類誘導体とする誘導体化工程と、
前記多糖類誘導体と、ポストラベル化試薬と、を反応させて前記多糖類誘導体を蛍光物質とするラベル化工程と、
前記蛍光物質を蛍光検出器により検出する工程であって前記蛍光検出器の下流に備えられた背圧調整器により、0.5〜1.0MPaの圧を付与して検出する検出工程と、
が少なくとも行われることにより、前記多糖類の平均分子量が測定され、前記ラベル化工程は、170℃以上で行われる、多糖類の測定方法。
【請求項2】
更に前記多糖類の含有量が測定される、請求項1に記載の多糖類の測定方法。
【請求項3】
前記誘導体化工程と前記ラベル化工程とは同時に行われる、請求項1又は2に記載の多糖類の測定方法。
【請求項4】
前記測定は、高速液体クロマトグラフ法により行われる、請求項1から3のいずれか一項に記載の多糖類の測定方法。
【請求項5】
前記多糖類は、高分子多糖類である、請求項1から4のいずれか一項に記載の多糖類の測定方法。
【請求項6】
前記高分子多糖類は、ヒアルロン酸である、請求項5に記載の多糖類の測定方法。
【請求項7】
試料中の多糖類と、前記多糖類以外の物質と、を分離するための分離カラムと、
前記多糖類中のヒドロキシル基をアルデヒド基に酸化することが可能な酸化剤を収容する酸化剤収容部と、ポストラベル化試薬を収容するポストラベル化試薬収容部と、を一つの収容部として備える反応試薬供給装置と、
蛍光物質を検出するための蛍光検出器と、
前記分離カラムと前記反応試薬供給装置とを連結する連結部と、前記蛍光検出器と、の間に備えられ、加熱反応を行うための加熱反応管と、
前記蛍光検出器の下流に、0.5〜1.0MPaの圧を付与するための圧調整器と、
が備えられ、前記加熱反応管内は、170℃以上の一定温度に設定された多糖類の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、多糖類の測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料中の多糖類を定量する方法として、パーク−ジョンソン法、ソモギ−ネルソン法、カルバゾール−硫酸法など、試料中の多糖類と発色試薬とを反応させることにより定量する方法が知られている(非特許文献1)。その他にも、完全な水系において、ウロン酸を含有する多糖類を比色定量する方法も報告されている(特許文献1)。
しかしながら、これらの方法では、多糖類と発色試薬との反応により生じる反応物質の色調・蛍光性と同様の色調・蛍光性を有する多糖類以外の物質(夾雑物)を含む試料に対しては、正確な定量が行えないという問題点があった。
【0003】
また、分子サイズの違いによりカラムへの担持時間が変化する性質を利用し、多糖類を分離する、いわゆるサイズ排除クロマトグラフ法(以下、単に、SECともいう)を用いた方法も知られている(非特許文献2)。
更に、SECを用いた後、示差屈折率検出器や、蒸発型光散乱検出器により検出する方法も報告されている(特許文献2、非特許文献3)。その他にも、SECを用いた後、比色定量する方法も報告されている(特許文献3)。
しかしながら、これらの方法では、非選択的な検出法により検出を行っているため、複雑なマトリックス中の多糖類を測定する際に、夾雑物の影響を受け易い。したがって、前処理や塩析操作などにより、事前に試料中の妨害成分を除去する必要があり、測定操作が非常に煩雑であるという問題点があった。
【0004】
また、多糖類に特異的な分解酵素を用いて定量する方法や(特許文献4)、多糖類と多糖類に特異的な分解酵素とを反応させた後、高速液体クロマトグラフ法を用いて定量する方法も報告されている(非特許文献4)。
しかしながら、これらの方法では、多糖類を構成する糖を測定対象物とするため、元々の多糖類自体の平均分子量を測定することができないという問題点があった。
【0005】
更に、高速液体クロマトグラフ法を用いた後、多糖類を蛍光物質に変化させた後、当該蛍光物質を蛍光検出器により検出する方法も報告されている(特許文献5)。
しかしながら、この方法では、グルコース、ガラクトース等の低分子の糖を定量することはできても、分子量が大きい糖に対しては十分な感度を得ることができず、正確な測定が行えないという問題点があった。また、多糖類の分子量の違いにより反応性が異なるという問題点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−233068号公報
【特許文献2】特開平5−119031号公報
【特許文献3】特開2009−270966号公報
【特許文献4】特開2007−228896号公報
【特許文献5】特開平8−62220号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】新実験化学講座 20巻「生物化学(II)」、1978年 社団法人日本化学会編 丸善株式会社発行、第1081〜1092頁
【非特許文献2】生物化学実験法 20巻「多糖の分離・精製法」、1987年 松田和雄編 株式会社学会出版センター発行、第91〜93頁
【非特許文献3】「サイズ排除クロマトグラフィー」、1991年 森定雄著 共立出版株式会社発行、第166〜170頁
【非特許文献4】「分析化学」 38(2)、1989年 公益社団法人日本分析化学会発行、第92〜93頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の通り、従来、試料中の多糖類を定量する技術について、様々な研究が行われている。しかしながら、従来技術では、測定操作が非常に煩雑であるという問題点や、得られた測定結果の正確性に欠けるという問題点が存在した。更には、多糖類自体の平均分子量を測定することができないという問題点も存在した。
【0009】
そこで、本技術では、新規な多糖類の測定方法及び測定装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来技術における問題点を解決するために、多糖類の測定方法について鋭意研究を行った結果、多糖類を多糖類誘導体とする誘導体化工程と、前記多糖類誘導体を蛍光物質とするラベル化工程と、前記蛍光物質を検出する検出工程と、を少なくとも行うことにより、簡便かつ高感度で多糖類の平均分子量を測定することに成功し、本技術を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本技術は、まず、多糖類と、前記多糖類中のヒドロキシル基をアルデヒド基に酸化することが可能な酸化剤と、を反応させて前記多糖類を多糖類誘導体とする誘導体化工程と、
前記多糖類誘導体と、ポストラベル化試薬と、を反応させて前記多糖類誘導体を蛍光物質とするラベル化工程と、
前記蛍光物質を蛍光検出器により検出する工程であって前記蛍光検出器の下流に備えられた背圧調整器により、0.5〜1.0MPaの圧を付与して検出する検出工程と、
が少なくとも行われることにより、前記多糖類の平均分子量が測定され、前記ラベル化工程は、170℃以上で行われる、多糖類の測定方法を提供する。
本技術に係る多糖類の測定方法においては、更に多糖類の含有量が測定されることを態様としている。
更に、前記誘導体化工程と前記ラベル化工程とは、同時に行われることを態様としている。
加えて、前記測定は、高速液体クロマトグラフ法により行われることを態様としている。
本技術に係る多糖類の測定方法において、測定対象物である多糖類は特に限定されないが、高分子多糖類を測定対象物とすることができる。
また、前記高分子多糖類も特に限定されないが、ヒアルロン酸を測定対象物とすることもできる。
【0012】
本技術では、次に、試料中の多糖類と、前記多糖類以外の物質と、を分離するための分離カラムと、
前記多糖類中のヒドロキシル基をアルデヒド基に酸化することが可能な酸化剤を収容する酸化剤収容部と、ポストラベル化試薬を収容するポストラベル化試薬収容部と、を一つの収容部として備える反応試薬供給装置と、
蛍光物質を検出するための蛍光検出器と、
前記分離カラムと前記反応試薬供給装置とを連結する連結部と、前記蛍光検出器と、の間に備えられ、加熱反応を行うための加熱反応管と、
前記蛍光検出器の下流に、0.5〜1.0MPaの圧を付与するための圧調整器と、
が備えられ、前記加熱反応管内は、170℃以上の一定温度に設定された多糖類の測定装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本技術によれば、新規な多糖類の測定方法及び測定装置を提供することができる。なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本技術中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本技術に係る多糖類の測定装置の一例を示す模式図である。
図2】試験例1における試験結果を示す検量線である。
図3】試験例2における試験結果を示すグラフである。
図4】試験例3における試験結果を示すクロマトグラムである。
図5】試験例3において、予め作成した、ピークの保持時間と分子量との関係を示すグラフである。
図6】試験例3において、予め作成した、ピーク面積比と分子量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本技術を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術が、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0016】
1.多糖類の測定方法
本技術に係る多糖類の測定方法は、誘導体化工程と、ラベル化工程と、検出工程と、が少なくとも行われることを特徴とする。本技術に係る多糖類の測定方法を用いることにより、簡便かつ高感度で多糖類を測定することができる。また、定量性・再現性に優れた測定結果を得ることができ、更には使用者の利便性も向上する。以下、各工程について、詳細に説明する。
【0017】
(1)誘導体化工程
本技術において、誘導体化工程とは、多糖類と、前記多糖類中のヒドロキシル基をアルデヒド基に酸化することが可能な酸化剤と、を反応させて前記多糖類を多糖類誘導体とする工程である。
【0018】
本技術において、「多糖類」とは、加水分解によって二分子以上の単糖類を生じる糖類を意味し、加水分解の際に、単糖類の誘導体も同時に生じるものも含む。
【0019】
多糖類は、その多糖類を構成する糖に着目した場合、一般的に、同種の単糖からなる単純多糖(ホモ多糖)と、2種以上の単糖からなる複合多糖(ヘテロ多糖)と、に大別することができる。単純多糖としては、例えば、セルロース、デンプン、グリコーゲン、グルカン、キシラン、イヌリン、マンナンなどが知られている。複合多糖としては、例えば、グルコマンナン、アガロースなどが知られている。
【0020】
また、複合多糖の中でも特に、アミノ糖を含む多糖類については、ムコ多糖と呼ばれている。ムコ多糖としては、例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン等の酸性ムコ多糖;キチン、キトサン等の中性ムコ多糖などが知られている。
【0021】
本技術においては、測定対象物である多糖類は特に限定されず、単純多糖、ムコ多糖を含む複合多糖など、全ての多糖類を測定対象物とすることができる。
【0022】
また、多糖類を、その多糖類の分子量に着目した場合、高分子多糖類と、低分子多糖類と、に分けることもできる。本技術において、「高分子多糖類」とは、約1万以上の平均分子量を有する多糖をいう。なお、高分子多糖類の分子量の上限は特に限定されない。高分子多糖類としては、例えば、グルコマンナン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、キチン、キトサン、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、デキストラン、グリコーゲン、フコイダンなどが知られている。
また、本技術において、「低分子多糖類」とは、約1万未満の平均分子量を有する多糖類をいう。低分子多糖類としては、例えば、スクロース、ラクトース、マルトース、マルトトリオース、スタキオースなどが知られている。
【0023】
本技術においては、測定対象物である多糖類は特に限定されないが、低分子多糖類のみならず、高分子多糖類も測定対象物とすることができる。
従来技術では、前述の通り、高分子多糖類に対しては十分な感度を得ることができなかった。しかしながら、生体試料、医薬品、食品、化粧品などに含まれている高分子多糖類を正確に定量する技術は以前から需要が多いことが知られており、本技術は、簡便かつ高感度で高分子多糖類を定量できるため、非常に有用である。
【0024】
また、本技術においては、高分子多糖類の中でも特に、ヒアルロン酸を測定対象物とすることができる。ヒアルロン酸は、酸性ムコ多糖の一種であり、軟骨、滑膜、関節液、皮膚、臍帯、眼硝子体、その他の結合組織に広く存在し、水分を大量に保持しており、ゲル状の形態を呈するという性質を有する。したがって、ヒアルロン酸は、生体内において非常に重要な役割を果たしており、現在、医薬品、食品、化粧品などの様々な用途で用いられている。そのため、高分子多糖類の中でも特に、ヒアルロン酸を正確に定量する技術は、需要度が非常に高いといえる。
【0025】
本技術によれば、生体試料、医薬品、食品、化粧品などに含まれるヒアルロン酸の平均分子量、更には含有量を高感度で測定することができるため、従来技術では非常に困難であったヒアルロン酸の定量も、正確に行うことが可能となる。
【0026】
本技術において、「多糖類中のヒドロキシル基をアルデヒド基に酸化することが可能な酸化剤(以下、単に、酸化剤ともいう)」とは、多糖類中のヒドロキシル基をアルデヒド基に酸化することができる試薬のことをいう。本技術において、酸化剤は、多糖類中のヒドロキシル基をアルデヒド基に変化させることで、後述するポストラベル化試薬が反応する箇所を作る役割を果たす。
【0027】
本技術では、酸化剤は特に限定されず、過マンガン酸塩、過塩素酸、過ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸、過酸化水素、オゾンなどを使用することができるが、中でも特に、過ヨウ素酸が好ましい。過ヨウ素酸は反応性が高く、多糖類中のヒドロキシル基と即座に反応し、効率良くヒドロキシル基をアルデヒド基に変化させることができるからである。
【0028】
本技術において、酸化剤として過ヨウ素酸を選択した場合、過ヨウ素酸のpHは特に限定されないが、多糖類との反応効率を考慮して、pH2〜12とすることが好ましく、pH5〜11とすることがより好ましい。
また、使用者の利便性及び反応性の観点から、ホウ酸緩衝液に溶解して用いることが好ましい。
【0029】
過ヨウ素酸の濃度も特に限定されないが、多糖類との反応効率を考慮して、0.05〜50mMとすることが好ましく、0.1〜5mMとすることがより好ましい。
【0030】
本技術において、「多糖類誘導体」とは、測定対象物である多糖類が酸化剤と反応することにより生成され、多糖類中の少なくとも一つのヒドロキシル基が、アルデヒド基に変化したものをいう。
【0031】
(2)ラベル化工程
本技術において、ラベル化工程とは、多糖類誘導体と、ポストラベル化試薬と、を反応させて前記多糖類誘導体を蛍光物質とする工程である。
【0032】
本技術に係る多糖類の測定方法は、ポストラベル法を用いた方法である。
感度が低い等の理由により測定対象物がそのまま分析できない場合、感度を上げるために測定対象物を誘導化する方法がある。測定対象物を誘導化する方法には、プレラベル法とポストラベル法があり、本技術に用いられるポストラベル法は、試料を分離した後に誘導化する方法である。
【0033】
ポストラベル法は、プレラベル法と比較して、測定対象物以外の成分(夾雑物)の影響により誘導体化効率が変化することが少なく、定量性・再現性に優れた測定結果を得ることができる。また、一度反応系を最適化すれば、広範囲の試料に適用することができるため、ルーチン分析にも向いている。
【0034】
前述した「測定対象物を誘導化する」とは、具体的には、ポストラベル法においてはポストラベル化試薬を用いて測定対象物を蛍光物質とする、いわゆるラベル化(蛍光誘導化)により行われる。ラベル化とは、蛍光を発しない物質を化学反応で蛍光物質に変換すること又は蛍光物質を化学的に結合させることである。本技術においては、ポストラベル化試薬は、多糖類誘導体中のアルデヒド基に反応し、蛍光を発しない物質である多糖類誘導体を蛍光物質に変換するため、前者の役割を果たす。
【0035】
本技術では、ポストラベル化試薬は特に限定されず、グアニジノ化合物、2−シアノアセトアミド、ニンヒドリン、オルトフタルアルデヒド、グアニジン/ホウ酸などを使用することができるが、中でも特に、グアニジン/ホウ酸を用いることが好ましい。グアニジン/ホウ酸は多糖類誘導体と効率良く反応して蛍光物質とすることができるからである。更に、酸化剤として過ヨウ素酸を選択した場合には、過ヨウ素酸の働きにより生成した多糖類誘導体との反応性が高く、効率良く当該多糖類誘導体を蛍光物質に変換できるからである。
【0036】
本技術において、ポストラベル化試薬としてグアニジン/ホウ酸を選択した場合、グアニジン/ホウ酸のpHは特に限定されないが、多糖類誘導体との反応効率を考慮して、pH6〜14とすることが好ましく、pH7〜11とすることがより好ましい。
また、使用者の利便性及び反応性の観点から、緩衝液に溶解して用いることが好ましい。
【0037】
グアニジン/ホウ酸の濃度も特に限定されないが、多糖類誘導体との反応効率を考慮して、グアニジンの濃度は、0.5〜500mMとすることが好ましく、1〜150mMとすることがより好ましい。また、ホウ酸の濃度は、同様に、多糖類誘導体との反応効率を考慮して、1〜500mMとすることが好ましく、10〜300mMとすることがより好ましい。
【0038】
本技術において、前述した酸化剤とポストラベル化試薬とは、別々の反応液として反応装置に順次配備することも可能であるが、誘導体化工程とラベル化工程を同時に行う場合においては、混合して一つの反応液として使用することもできる。混合して一つの反応液とした場合、過ヨウ素酸などの反応性の高い酸化剤、及び、グアニジン/ホウ酸などの多糖類誘導体と効率良く反応できるポストラベル化試薬をそれぞれ選択し、混合することが好ましい。
【0039】
混合して一つの溶液とした場合、当該溶液のpHは特に限定されないが、反応効率を考慮して、pH7〜11とすることが好ましい。
また、使用者の利便性及び反応性の観点から、当該溶液は、ホウ酸緩衝液に溶解して用いることが好ましい。
更に、酸化剤として過ヨウ素酸、ポストラベル試薬としてグアニジン/ホウ酸を選択した場合、これらの溶液中の濃度も特に限定されないが、多糖類との反応効率を考慮して、過ヨウ素酸の濃度を0.05〜50mM、グアニジンの濃度を0.5〜500mM、ホウ酸の濃度を1〜500mMとすることが好ましく、過ヨウ素酸の濃度を0.1〜5mM、グアニジンの濃度を1〜150mM、ホウ酸の濃度を10〜300mMとすることがより好ましい。
【0040】
また、本技術において、ラベル化工程の設定温度は特に限定されないが、150℃以上で行うことが好ましく、160℃以上で行うことがより好ましく、170℃以上で行うことが更に好ましい。これにより、測定時に高感度が得られ、より正確に多糖類の測定を行うことができる。なお、設定温度の上限は反応を阻害することがない限り特に限定されない。
【0041】
更に、本技術に係る多糖類の測定方法において、誘導体化工程とラベル化工程とは、別々の工程とすることもできるが、両工程を同時に行うことが好ましい。これにより、特に、反応性が高い酸化剤(例えば、過ヨウ素酸)を用いた場合においては、即座に酸化反応が進行して多糖類誘導体を生成し、当該多糖類誘導体とポストラベル化試薬(例えば、グアニジン/ホウ酸)とが直ちに反応するため、これらの一連の反応における反応効率を向上させることができる。更には、誘導体化工程とラベル化工程とを一段階の工程で処理できるため、使用者の利便性も向上し、測定時のコストダウンにも貢献できる。
【0042】
両工程を同時に行う態様は特に限定されないが、例えば、酸化剤とポストラベル化試薬とを混合して一つの反応液として使用することができる。これにより、使用者の利便性が向上し、酸化剤とポストラベル化試薬とを一箇所に収容することもできるため、測定装置の簡素化を図ることも可能となる。なお、混合して一つの溶液とした場合の好適な条件については、前述したものと同様であるため、ここでは説明を割愛する。
【0043】
更に、誘導体化工程及びラベル化工程を同時に行う場合においても、設定温度は特に限定されないが、150℃以上で行うことが好ましく、160℃以上で行うことがより好ましく、170℃以上で行うことが更に好ましい。これにより、測定時に高感度が得られる。なお、設定温度の上限は反応を阻害することがない限り特に限定されない。
【0044】
(3)検出工程
本技術において、検出工程とは、蛍光物質を検出する工程である。
【0045】
蛍光物質を検出する具体的な方法は、蛍光物質を検出することができれば特に限定されないが、例えば、蛍光検出器を用いて検出する方法が挙げられる。これにより、蛍光物質を選択的に高感度で検出でき、測定精度が向上する。また、使用者の利便性も向上させることができる。
【0046】
本技術に係る多糖類の測定方法は、得られた測定結果(クロマトグラム)から、多糖類の平均分子量を測定できることも特徴とする。
従来技術では、前述の通り、元々の多糖類自体の平均分子量を正確に測定できなかった。しかしながら、本技術によれば、多糖類自体の元々の平均分子量を、高感度で測定することができる。
なお、クロマトグラムから多糖類の平均分子量を測定する方法の詳細については、後述する実施例にて説明する。
【0047】
更には、本技術では、測定結果から算出された多糖類の平均分子量に基づき、含有量を測定することもできる。したがって、一回の測定で測定対象物である多糖類の平均分子量及び含有量の両方を求めることもでき、複数回の測定を行う必要がないため、使用者にとっては測定操作が煩雑とならない。その結果、利便性が非常に高く、測定時のコストダウンにも貢献できる。
なお、多糖類の平均分子量に基づき、含有量を測定する方法の詳細についても、後述する実施例にて説明する。
【0048】
本技術に係る多糖類の測定方法において、注入される多糖類の量は特に限定されないが、0.05〜10μgの範囲内に設定することが好ましい。これにより、良好な直線性を有する検量線を得ることができる。
【0049】
また、注入される多糖類の量を、0.05〜10μgの範囲内に設定した場合、多糖類を含む試料の測定装置への注入容積などを適宜変更することで、結果として、1〜100ng/μlの範囲内で多糖類を定量的に測定することが可能となる。
【0050】
本技術において、多糖類の測定は、高速液体クロマトグラフ法により行うことができる。
高速液体クロマトグラフ法とは、物質が固定相(分離カラム)とこれに接して流れる移動相(液体)との親和力の違いから一定の比率で分布し、その比率が物質によって異なることを利用して分離する分析手法である。多糖類の測定を高速液体クロマトグラフ法により行うことで、高い分離及び感度を得ることができ、測定精度が向上する。また、ルーチン分析にも向いており、使用者の利便性や、測定時のコストダウンにも貢献できる。
【0051】
2.多糖類の測定装置
図1は、本技術に係る多糖類の測定装置の一例を示す模式図である。
本技術に係る多糖類の測定装置は、分離カラム1、反応試薬供給装置2、蛍光検出器3、加熱反応管4及び圧調整器5を備えることを特徴とする。本技術に係る多糖類の測定装置を用いることにより、簡便かつ高感度で多糖類を測定することができる。また、多糖類と反応する反応試薬の連続的な供給に好適である。
【0052】
本技術に係る多糖類の測定装置は、必要に応じて、更に移動相供給装置6、試料注入装置7、冷却管8及びデータ処理装置9を備えることもできる。
以下、各部位について、詳細に説明する。
【0053】
(1)分離カラム1
分離カラム1は、試料中の多糖類と前記多糖類以外の物質とを分離するための部位であり、その下流に後述する反応試薬供給装置2が連結されていることを特徴とする。本技術に係る多糖類の測定装置が分離カラム1を備えることにより、試料中の多糖類と前記多糖類以外の物質とをより正確に分離することができ、これに伴い測定精度も向上する。
【0054】
本技術において、分離カラム1は、試料中の多糖類と前記多糖類以外の物質とを分離できるものであれば特に限定されないが、分離カラム1に充填される充填剤としては、例えば、SEC用の親水性充填剤;オクタデシル基、オクチル基、アミノ基、ポリヒドロキシアスパラミド基、スルホン酸基、4級アミン基等を化学結合したシリカゲル;ポリマー系の充填剤などが用いられる。また、市販の分離カラムを用いることもできる。更には、例えば、SEC用のTSKgel PWxLカラム(東ソー社製:内径7.8mm×長さ300mm)、逆相カラム用のPLRP−Sカラム(polymer Laboratories社製:内径2.1mm×長さ50mm)などを適宜組み合わせて用いることもできる。
【0055】
分離カラム1内の設定温度は特に限定されないが、反応効率を向上させるため、設定温度を10〜50℃の範囲内の一定温度に設定することが好ましい。したがって、温度条件を一定にする目的で、分離カラム用恒温槽11を更に設置し、その中に分離カラム1を収容しておくこともできる。
【0056】
(2)反応試薬供給装置2
反応試薬供給装置2は、反応試薬を供給するための部位であり、酸化剤収容部21と、ポストラベル化試薬収容部22と、を一つの収容部として備えることを特徴とする。本技術に係る多糖類の測定装置が反応試薬供給装置2を備えることにより、多糖類と反応する反応試薬の連続的な供給を行うことができ、使用者の利便性が向上する。
【0057】
酸化剤収容部21は、多糖類中のヒドロキシル基をアルデヒド基に酸化することが可能な酸化剤を収容する部位である。酸化剤については、前述したものと同様であるため、ここでは説明を割愛する。
【0058】
ポストラベル化試薬収容部22は、ポストラベル化試薬を収容する部位である。ポストラベル化試薬については、前述したものと同様であるため、ここでは説明を割愛する。
【0059】
本技術においては、図1に示すように、酸化剤収容部21及びポストラベル化試薬収容部22を一つの収容部としている。これにより、特に、反応性が高い酸化剤(例えば、過ヨウ素酸)を用いた場合においては、即座に酸化反応が進行して多糖類誘導体を生成し、当該多糖類誘導体とポストラベル化試薬(例えば、グアニジン/ホウ酸)とが直ちに反応するため、これらの一連の反応における反応効率を向上させることができる。更には、酸化剤による反応とポストラベル化試薬による反応とを一度に処理できるため、使用者の利便性も向上し、測定時のコストダウンにも貢献できる。
【0060】
酸化剤収容部21及びポストラベル化試薬収容部22を一つの収容部とする態様は特に限定されないが、例えば、酸化剤とポストラベル化試薬とを混合して一つの反応液とし、一箇所に収容することが挙げられる。これにより、使用者の利便性が向上し、本技術に係る多糖類の測定装置の簡素化を図ることも可能となる。
【0061】
反応試薬供給装置2には、図1に示すように、更に反応試薬供給装置用送液ポンプ23を備えることもできる。反応試薬供給用装置送液ポンプ23は、反応試薬を一定流速で供給するための部位であり、反応試薬の連続的な供給を、より効率的に行うことができる。
【0062】
(3)蛍光検出器3
蛍光検出器3は、蛍光物質を検出するための部位であり、後述する加熱反応管4の下流に備えられていることを特徴とする。本技術に係る多糖類の測定装置が蛍光検出器3を備えることにより、蛍光物質の検出までを連続的に行うことができ、使用者の利便性が向上する。
【0063】
本技術において、蛍光検出器3は、蛍光物質を検出することができれば特に限定されず、例えば、分光蛍光検出器(島津製作所製)などを使用することができる。
【0064】
蛍光検出器3の検出条件は、検出対象である蛍光物質の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、酸化剤として過ヨウ素酸、ポストラベル化試薬としてグアニジン/ホウ酸を選択した場合における検出条件は、励起波長:300〜350nm、蛍光測定波長:400〜450nmに設定する。
【0065】
(4)加熱反応管4
加熱反応管4は、加熱反応を行うための部位であり、前述した分離カラム1及び反応試薬供給装置2の連結部と、蛍光検出器3と、の間に備えられていることを特徴とする。本技術に係る多糖類の測定装置が加熱反応管4を備えることにより、加熱反応を行うことができるため、多糖類と反応試薬との反応効率が向上し、これに伴い測定精度も向上する。
【0066】
本技術において、加熱反応管4は加熱反応を行うことができれば特に限定されず、例えば、素材としてピーク(peek)を使用したピークチューブ(GLサイエンス社製)などを用いることができる。
【0067】
また、加熱反応管4の内径も特に限定されず、流速、反応時間などに応じて適宜選択することができるが、熱の伝導効率を考慮して、0.25〜0.8mmとすることが好ましい。
【0068】
加熱反応管4の長さも特に限定されず、適宜選択することができるが、1〜40mとすることが好ましい。これにより、試料を十分に加熱することができ、測定対象物である多糖類と反応試薬との反応をより高感度で行うことができる。
【0069】
更に、加熱反応管4に対して熱を加える手段は特に限定されないが、例えば、図1に示すように、加熱反応管用恒温槽41を設置することにより、加熱反応管4に熱を加える方法が挙げられる。なお、加熱反応管用恒温槽41は、加熱反応管4に熱を加えることができれば特に限定されず、例えば、ドライ反応槽(島村計器製作所製:DB−5)などを用いることができる。
【0070】
なお、ここでは図示しないが、加熱反応管用恒温槽41は、前述した分離カラム用恒温槽11と共に一つの恒温槽とすることもできる。
【0071】
また、加熱反応管4内の設定温度は特に限定されないが、150℃以上の一定温度に設定することが好ましく、160℃以上の一定温度に設定することがより好ましく、170℃以上の一定温度に設定することが更に好ましい。これにより、測定時に高感度が得られ、より正確に多糖類の測定を行うことができる。なお、設定温度の上限は反応を阻害することがない限り特に限定されない。
【0072】
(5)圧調整器5
圧調整器5は、圧を付与するための部位であり、前述した蛍光検出器3の下流に備えられていることを特徴とする。本技術に係る多糖類の測定装置が圧調整器5を備えることにより、泡の発生を抑制することができ、測定精度が向上する。より具体的には、加熱反応管4において試料溶液が高温に加熱されることで泡が発生し、この泡が蛍光検出器3での蛍光物質の検出を妨害するため、圧調整器5により圧を付与することでこの泡を除去し、蛍光物質の検出を高感度で行うことが可能となる。
【0073】
本技術において、圧調整器5は圧を付与することができれば特に限定されず、例えば、圧調整器(UPCHURCHSCIENTIFIC社製)などを用いることができる。
【0074】
圧調整器5で付与する圧力は、反応条件などに応じて適宜設定することができるが、泡を効率良く除去するため、0.5〜1.0MPaとすることが好ましい。
【0075】
(6)移動相供給装置6
本技術に係る多糖類の測定装置は、必要に応じて、移動相供給装置6を備えることもできる。移動相供給装置6は、移動相を供給するための部位であり、移動相収容部61と、移動相供給装置用送液ポンプ62と、を備えている。本技術に係る多糖類の測定装置が移動相供給装置6を備えることにより、移動相の連続的な供給を行うことができ、使用者の利便性が向上する。
【0076】
移動相収容部61は、移動相を収容する部位である。移動相収容部61に収容される移動相は、高速液体クロマトグラフ法において多糖類を分離できるものであれば特に限定されないが、前述した分離カラム1の種類に応じて、例えば、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン酸塩等の無機塩;ギ酸、酢酸等の酸又はその塩;アセトニトリル、メタノール、エタノール等の有機溶媒などを加えた水溶液を用いることができる。
【0077】
移動相供給装置用送液ポンプ62は、移動相を一定流速で供給するための部位である。移動相供給装置用送液ポンプ62は、移動相を一定流速で供給できる定量ポンプであれば特に限定されないが、例えば、定量ポンプ(島津製作所製:LC−10AD)などを用いることができる。
【0078】
移動相供給装置用送液ポンプ62の流速も特に限定されないが、反応効率を考慮して、0.1〜2ml/分の範囲内とすることが好ましい。
【0079】
(7)試料注入装置7
本技術に係る多糖類の測定装置は、必要に応じて、試料注入装置7を備えることもできる。試料注入装置7は、多糖類を含む試料を注入するための部位であり、前述した移動相供給装置6の下流に備えられている。本技術に係る多糖類の測定装置が試料注入装置7を備えることにより、正確な量の試料を注入することができ、測定精度が向上する。
【0080】
本技術において、試料注入装置7は、一般的に、高速液体クロマトグラフ法で分離測定可能な測定対象物の注入容積が0.1〜1000μlであることから、この範囲の注入容積を注入できる試料注入装置であれば特に限定されない。
【0081】
(8)冷却管8
本技術に係る多糖類の測定装置は、必要に応じて、冷却管8を備えることもできる。冷却管8は、蛍光物質を冷却するための部位であり、前述した加熱反応管4の下流に備えられている。本技術に係る多糖類の測定装置が冷却管8を備えることにより、蛍光物質が高温となり、検出に適合しない場合などにおいて、低温にて蛍光物質を検出することを可能とする。したがって、自然に、或いは他の方法により、検出の適温範囲内の一定温度に冷却可能な場合には、冷却管8を備える必要はない。
【0082】
本技術において、冷却管8は蛍光物質を冷却することができれば特に限定されず、例えば、素材としてピーク(peek)を使用したピークチューブ(GLサイエンス社製)などを用いることができる。
【0083】
また、冷却管8の内径も特に限定されず、流速、反応時間などに応じて適宜選択することができるが、冷却効率を考慮して、0.25〜0.8mmとすることが好ましい。
【0084】
冷却管8の長さも特に限定されず、適宜選択することができるが、冷却効率向上のため、0.5〜10mとすることが好ましい。
【0085】
(9)データ処理装置9
本技術に係る多糖類の測定装置は、必要に応じて、データ処理装置9を備えることもできる。データ処理装置9は、前述した蛍光検出器3から得られるデータ(クロマトグラム)を処理するための部位であり、蛍光検出器3に接続されている。本技術に係る多糖類の測定装置がデータ処理装置9を備えることにより、検量線を予め作成しておき、ピーク面積から多糖類を精度良く定量できる。また、ノイズのピークの高さの平均値:Nを求め、シグナルとして検出される試料中の測定対象物のピークの高さの値:Sより、感度の指標となるS/N比を求めることもできる。なお、得られたクロマトグラム中のピークの同定は、市販されている標準物質のピークの保持時間と比較することにより行うことができる。
【0086】
本技術において、データ処理装置9は、前述した蛍光検出器3から得られるデータ(クロマトグラム)を処理できれば特に限定されず、例えば、データ処理装置(島津製作所製:ClassLC−10)などを用いることができる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例に基づいて本技術を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本技術の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0088】
<試験例1:検量線の作成>
試験例1では、本技術に係る多糖類の測定方法を用いて、検量線を作成した。
【0089】
(1)試料溶液の調製
多糖類(ヒアルロン酸)の標準品(中原社製)を、精製水(ミリポア社製)を使用して希釈し、100ppm(100ng/μl)の水溶液を調製し、これを試料溶液として用いた。
【0090】
(2)ピーク面積の測定
前記試料溶液の注入容積を、0.5〜100μlの範囲で変更して注入し、後述する試験例3に示す測定方法及び測定装置を用いて、ヒアルロン酸量:0.05μg、0.1μg、0.2μg、0.5μg、1μg、2μg、5μg及び10μgにおけるピーク面積を測定した。
【0091】
(3)試験結果
得られた試験結果を図2に示す。図2に示す検量線において、縦軸はピーク面積、横軸はヒアルロン酸量を示す。
【0092】
(4)考察
ヒアルロン酸量が0.05〜10μgの範囲で、良好な直線性(相関係数:γ=0.999)を有する、下記式(1)で表される検量線が得られることが判明した。なお、下記式(1)において、Xはヒアルロン酸量、Yはピーク面積を示し、A及びBは定数である。
【0093】
【0094】
また、多糖類の種類をヒアルロン酸から適宜変更し、同様の測定装置及び測定方法にて試験を行った結果、試験を行った全ての多糖類について、多糖類量が0.05〜10μgの範囲で、良好な直線性を有する検量線が得られた。
【0095】
更に、試験例3に示す測定装置と構成を変更した本技術に係る多糖類の測定装置を用いて、多糖類としてヒアルロン酸を選択し、同様の測定方法にて試験を行った結果、多糖類量が0.05〜10μgの範囲で、良好な直線性を有する検量線が得られた。
【0096】
<試験例2:設定温度の検討>
試験例2では、本技術に係る多糖類の測定方法において、誘導体化工程及びラベル化工程を同時に行った場合の設定温度について、検討を行った。
【0097】
(1)感度の指標の決定
データ処理装置(島津製作所製:Class LC−10)を使用して、ノイズのピークの高さの平均値:Nを求め、シグナルとして検出される試料溶液中に一定量:15ngのヒアルロン酸を含有するピークの高さの値:Sを求めた。これら2つの値から、S/N比を算出し、これを感度の指標とした。
なお、本技術に係る多糖類の測定方法において、多糖類としてヒアルロン酸を選択した場合の検出限界は15ngであることが予め判明しているため、前記一定量として検出限界の値を用いた。
【0098】
(2)試料溶液の調製
多糖類(ヒアルロン酸)の標準品(中原社製)を、精製水(ミリポア社製)を使用して溶解し、500ppmの水溶液を調製し、これを試料溶液として用いた。
【0099】
(3)試験方法
前記試料溶液を20μl(ヒアルロン酸量として10μg)注入し、後述する試験例3に示す測定方法及び測定装置を用いて、設定温度の範囲を100℃〜180℃とした場合の感度の指標(S/N比)を算出した。
なお、前述の通り、設定温度の上限は反応を阻害することがない限り特に限定されないが、測定装置に使用した素材の特性を鑑みて、試験例2においては上限を180℃に設定した。
【0100】
(4)試験結果
得られた試験結果を図3に示す。図3に示すグラフにおいて、縦軸はS/N比を示し、横軸は設定温度を示す。
【0101】
(5)考察
感度の指標となるS/N比が、設定温度を100℃とした場合と比較して、150℃以上の温度で2倍以上となった。したがって、高感度かつ高精度で多糖類を測定するためには、設定温度を少なくとも150℃以上とすることが好ましいことが判明した。また、図3に示すグラフからも明らかなように、設定温度を160℃以上、170℃以上とする毎に、感度が高くなることも判明した。
【0102】
また、誘導体化工程及びラベル化工程を別々の工程とした場合において、ラベル化工程のみの設定温度についても検討した結果、ほぼ同様の結果が得られた。
【0103】
更に、多糖類の種類をヒアルロン酸から適宜変更し、同様の測定装置及び測定方法にて試験を行った結果、試験を行った全ての多糖類について、ほぼ同様の結果が得られた。
【0104】
<試験例3:多糖類の測定>
試験例3では、本技術に係る多糖類の測定方法及び測定装置を用いて、試料中の多糖類を測定した。
【0105】
(1)多糖類の測定装置
試験例3においては、図1に示す多糖類の測定装置を用いた。
当該測定装置の詳細について、以下に記載する。
・分離カラム:分離カラム用恒温槽(島津製作所製)に収容され、TSKgelG5000PWXL、TSKgelG6000 PWXL及びPLRP−S1000Åの3本を連結したもの
・反応試薬供給装置:酸化剤及びポストラベル化試薬の収容部(遮光ガラス瓶、岩城硝子社製)及び反応試薬供給装置用送液ポンプ(定量ポンプ、島津製作所社製:LC−10AD)から構成
・蛍光検出器:分光蛍光検出器、島津製作所製
・加熱反応管:加熱反応管用恒温槽(ドライ反応槽、島村計器製作所製:DB−5)に収容されたピークチューブ、GLサイエンス社製:内径0.5mm×長さ10m
圧調整器:UPCHURCH SCIENTIFIC社製
・移動相供給装置:移動相収容部(遮光ガラス瓶、岩城硝子社製)及び移動相供給装置用送液ポンプ(定量ポンプ、島津製作所製:LC−10AD)から構成
・試料注入装置:島津製作所製
・冷却管:テフロンチューブ、GLサイエンス社製:内径0.5mm×長さ2m
・データ処理装置:島津製作所製:Class LC−10
【0106】
当該測定装置は、反応試薬供給装置を備えているため、多糖類と反応する反応試薬の連続的な供給に好適である。また、加熱反応管を更に備えており、高温条件下での測定にも優れている。更には、0.7MPaの圧を付与できる圧調整器を備えており、高温条件下での測定に起因して発生する泡を抑制できる。
【0107】
(2)多糖類の測定方法
食品用ヒアルロン酸(中原社製)を試料とし、カラム内温度を40℃に設定した分離カラムに、前記試料10μlを試料注入装置により注入した。
これに対して、塩化ナトリウム及びアセトニトリル(国産化学社製)で調製した水溶液からなる移動相を、移動相供給装置により0.8ml/分の流速で連続的に供給し、ヒアルロン酸を溶出させ、分離した。
【0108】
分離されたヒアルロン酸を含む溶出液に対して、ホウ酸緩衝液に溶解させ、一つの反応液とした酸化剤(4.5mMの過ヨウ素酸)及びポストラベル化試薬(45mMのグアニジン/150mMのホウ酸)の混液(pH9.5)を、反応試薬供給装置により0.4ml/分の流速で連続的に供給し、管内の温度を180℃に設定した加熱反応管中でヒアルロン酸と反応させ、最終的に蛍光物質とし、冷却管により25℃に冷却した。
【0109】
次に、生成された蛍光物質を含む溶出液を、連続的に蛍光検出器に供給し、励起波長325nm及び蛍光測定波長420nmの検出条件で、蛍光物質を検出した。
【0110】
(3)試験結果
得られた試験結果(クロマトグラム)を、図4に示す。図4に示すグラフにおいて、縦軸は蛍光検出器の出力、横軸は保持時間を示す。
【0111】
(4)考察
ここで、図5に示すグラフは、試験例3に示す測定方法及び測定装置を用い、標準物質(R&D社製、分子量:154万、21.5万、2.9万及び0.75万)を測定して予め作成した、ピークの保持時間と分子量との関係を示すグラフである。図5に示すグラフにおいて、縦軸は分子量の対数、横軸は保持時間を示す。
【0112】
測定対象物のピークの保持時間(22分)及び図5に示すグラフから、測定対象物は、平均分子量56万のヒアルロン酸であることが判明した。これは、ヒアルロン酸の規格書に記載された平均分子量(50〜70万、固有粘度により算出)と一致した。
【0113】
また、図6に示すグラフは、試験例3に示す測定方法及び測定装置を用い、標準物質(R&D社製、分子量:154万、21.5万、2.9万及び0.75万)各10μgを測定して予め作成した、ピーク面積比と分子量との関係を示すグラフである。図6に示すグラフにおいて、縦軸はピーク面積比、横軸は分子量を示す。
【0114】
測定対象物のピーク面積(120万)、前述した試験例1で求めた図2に示す検量線及び図6に示すグラフから、試料10μl中に含まれるヒアルロン酸量は、9.4μgであることが判明した。
【0115】
本技術においては、試験例3に記載の通り、一回の測定で測定対象物である多糖類の平均分子量及び含有量の両方を求めることができ、複数回の測定を行う必要がないため、使用者にとっては利便性が非常に高い。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本技術に係る多糖類の測定方法によれば、簡便かつ高感度で多糖類を測定することができる。また、使用者にとっては利便性が非常に高く、測定時のコストダウンにも貢献できる。
【0117】
また、本技術に係る多糖類の測定装置によれば、簡便かつ高感度で多糖類を測定でき、多糖類と反応する反応試薬の連続的な供給に好適である。更に、装置の簡素化を図ることも可能であり、高温条件下での測定にも優れ、高温条件下での測定に起因して発生する泡も抑制できる。
【符号の説明】
【0118】
1:分離カラム
11:分離カラム用恒温槽
2:反応試薬供給装置
21:酸化剤収容部
22:ポストラベル化試薬収容部
23:反応試薬供給装置用送液ポンプ
3:蛍光検出器
4:加熱反応管
41:加熱反応管用恒温槽
5:圧調整器
6:移動相供給装置
61:移動相収容部
62:移動相供給装置用送液ポンプ
7:試料注入装置
8:冷却管
9:データ処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6