特許第6633835号(P6633835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6633835
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】導電性ポリアミド成形材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20200109BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20200109BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20200109BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20200109BHJP
【FI】
   C08L77/00
   C08K7/06
   C08L71/12
   C08K3/00
【請求項の数】13
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-78391(P2015-78391)
(22)【出願日】2015年4月7日
(65)【公開番号】特開2015-199959(P2015-199959A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2018年1月18日
(31)【優先権主張番号】00543/14
(32)【優先日】2014年4月8日
(33)【優先権主張国】CH
(31)【優先権主張番号】15155617.2
(32)【優先日】2015年2月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505343930
【氏名又は名称】エムス−パテント アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】エティエンヌ・エプリ
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・デュボン
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−065410(JP,A)
【文献】 特開2001−067933(JP,A)
【文献】 特開2001−081318(JP,A)
【文献】 特開平01−104658(JP,A)
【文献】 特開平03−045652(JP,A)
【文献】 特表2009−533523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/00−77/10
C08K 3/00− 3/40
C08K 7/06
C08L 71/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の組成:
(a)25〜50重量%の、少なくとも1種の半結晶性ポリアミド;
(b)4〜18重量%の、2〜10μmの範囲に繊維径を有する炭素繊維;
(c)10〜60重量%の、少なくとも1種の粒子状鉱物または塩類充填剤であって、
炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、バライト、ケイ酸アルミニウム、カオリン、チョーク、マイカ、層状珪酸塩、滑石、クレー、および/または前記充填剤の混合物からなる群から選択される、少なくとも1種の粒子状鉱物または塩類充填剤;
(d)3〜30重量%の、ISO11357に従い測定された少なくとも45℃のガラス転移温度を有する少なくとも1種の非晶質ポリマーであって、
PA 6I、PA 10I、イソフタル酸対テレフタル酸のモル比が1:0〜3:2であるコポリアミド6I/6T、イソフタル酸対テレフタル酸のモル比が1:0〜3:2であるコポリアミド10I/10T、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレン) エーテル、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジプロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、2,3,6-トリメチルフェノールを含有するポリフェニレンエーテルコポリマーの群からのポリフェニレンエーテル、前記ポリフェニレンエーテルのグラフト化変形体、前記ポリフェニレンエーテルの更なる混合物および/または前記非晶質ポリマーの混合物から成る群から選択される、少なくとも1種の非晶質ポリマー;
(e)0〜20重量%のカーボンブラック;
(f)0〜20重量%の少なくとも1種のさらなる添加剤および/または付加剤
を有し、
成分(a)〜(f)の合計は100重量%となる、
ポリアミド成形材料。
【請求項2】
半結晶性ポリアミド(a)が脂肪族または半芳香族ポリアミドであることを特徴とする、請求項1に記載のポリアミド成形材料。
【請求項3】
半結晶性ポリアミド(a)が、PA 46、PA 6、PA 66、PA 11、 PA 12、 PA 610、 PA 1212、PA 1010 PA 10/11、PA 10/12、PA 11/12、PA 6/10、PA 6/12、PA 6/9、PA 8/10、PA 612、PA 614、PA 66/6、PA 4T/4I、PA 4T/6I、PA 5T/5I、PA 6T/6I、PA 6T/6I/6、PA 6T/66、PA 6T/610、PA 10T/106、PA 6T/612、PA 6T/10T、PA 6T/10I、PA 9T、PA 10T、PA 12T、PA 10T/10I、PA10T/12、PA10T/11、PA 6T/9T、PA 6T/12T、PA 6T/10T/6I、PA 6T/6I/6、PA 6T/6I/12、PA 10T/612、PA 10T/610および/または前記ポリアミドの混合物、ブレンドまたはアロイから成る群から選択されることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載のポリアミド成形材料。
【請求項4】
少なくとも1種の半結晶性ポリアミド(a)が、27〜45重量%の量でポリアミド成形材料中に含有されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリアミド成形材料。
【請求項5】
炭素繊維(b)が、5〜16重量%の量でポリアミド成形材料中に含有されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリアミド成形材料。
【請求項6】
少なくとも1種の粒子状鉱物または塩類充填剤(c)が、15〜55重量%の量でポリアミド成形材料に含有されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリアミド成形材料。
【請求項7】
少なくとも1種の非晶質ポリマー(d)が、ISO 11357に従って測定した50℃〜280℃のガラス転移温度を有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリアミド成形材料。
【請求項8】
少なくとも1種の非晶質ポリマー(d)が、5〜27重量%の量でポリアミド成形材料中に含有されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリアミド成形材料。
【請求項9】
少なくとも1種の非晶質ポリマー(d)が、ポリフェニレンエーテルを含有し、該ポリアミド成形材料は、5〜9重量%のポリフェニレンエーテルを含有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリアミド成形材料。
【請求項10】
カーボンブラック(e)が、1〜15重量%の量で、ポリアミド成形材料中に含有されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリアミド成形材料。
【請求項11】
少なくとも1種の更なる添加剤および/または少なくとも1種の更なる付加剤(f)が、UV吸収剤、UV安定剤、熱安定剤、加水分解安定剤、架橋活性化剤、架橋剤、難燃剤、着色剤、接着促進剤、相溶化剤、潤滑剤、ガラス繊維、補助潤滑剤及び離型剤、無機顔料、有機顔料、赤外線吸収剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、核剤、結晶化促進剤、結晶化遅延剤、鎖延長剤、蛍光増白剤、フォトクロミック剤、耐衝撃性改良剤から選択されることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリアミド成形材料。
【請求項12】
更なる添加剤および/または更なる付加剤(f)が、0.1〜15重量%の量でポリアミド成形材料中に含有されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリアミド成形材料。
【請求項13】
少なくとも請求項1〜12のいずれか1項に記載のポリアミド成形材料が一部を構成するポリアミド成形体であって、該ポリアミド成形体が、導電性を必要とする構成要素の形態で提供され、自動車産業および他の交通手段の領域、電気/電子分野、家具、スポーツ、機械工学、衛生および医療、医薬、エネルギーならびに駆動技術分野から選択されるいずれかにおける内装部品または外装部品用であることを特徴とする、ポリアミド成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ポリアミド成形材料、前記成形材料から製造した成形体、および炭素繊維を含有するポリアミド成形材料の導電性を増加させるための粒状充填剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、その良好な熱および電気伝導性に加えて、特に、軽量であることを特徴とする。炭素繊維は、通常、2〜10μmの範囲の直径を有し、主にポリアクリロニトリル(PAN)に基づき製造されている。炭素繊維強化プラスチック材料(略称CFRPとしても知られている)は、前述の軽量性とその優れた機械的特性に基づき、航空、宇宙分野における軽量構造体、または例えば、スポーツ用具に使用されている。
【0003】
その良好な導電性の結果として、CFRPは、帯電防止性の役割を果たす用途においてとりわけ好ましい。また、CFRPは、静電塗装に有利に使用できる。後者の用途では、成形品の表面品質にも高い要求がなされている。炭素繊維が高価格であるので、静電導電性をもたらす要望がある場合、炭素繊維の含有量を可能な限り低くすることが各用途において要求されている。
【0004】
WO 2010/128013 A1の目的は、その導電性が水の吸収とはほとんど無関係である導電性ポリアミド成形材料を提供することである。熱可塑性ポリアミド、プロピレン重合体、特定の相溶化剤および炭素繊維とカーボンナノチューブを含む導電性添加剤から構成される成形材料が、発明の目的を解決する要件として開示されている。プロピレン重合体の目的は、成形材料が吸水することを低減させるためである。相溶化剤は、ポリオレフィンとポリアミドとの相溶性をもたらす。
【0005】
US2003/0134963 A1は、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル(PPE)、耐衝撃性改良剤と導電性フィラーを含む導電性樹脂組成物に関する。導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブおよびカーボンナノファイバーは、導電性フィラーとして開示されている。カーボンナノチューブは、実施例において、所定の導電性カーボンブラックに加えて適用されている。
【0006】
US2006/0124906 A1は、導電性充填材を含むポリアミドをベースとする組成物を開示している。これらの成形材料は、静電塗装工程にとりわけ適している。炭素繊維は、導電性フィラーとして、とりわけ開示されている。特定の導電性カーボンブラックが実施例で使用されている。
【0007】
EP 0877049 A1は、静電塗装されたポリアミド材料が記載されている。組成物は、25〜90重量%のポリアミド、5〜50重量%の無機充填剤および0.1〜25重量%のカーボンブラックおよび/または炭素繊維を含有するポリアミド材料を開示している。無機充填剤の添加は、材料に一定の電荷分布を確実にもたらし、改良され、より一定な塗料の密着性をもたらす。好ましい球状セラミック材料に加えて、カオリン、炭酸カルシウム、カルシウムおよび硫酸バリウム、ならびにクレーおよびマイカが提案されている。
【0008】
EP2463341 A1は、ポリアミド、ポリフェニレンエーテルと微細炭素繊維を含有する導電性プラスチック成形材料を開示している。成形材料は、例えば、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー鉱物および滑石などの更なる組成を含有できる。この明細書に記載されている微細炭素繊維は円筒構造を有さず、面格子を有する釣鐘状炭素結晶の凝集体であって、該結晶が軸方向において互いの上に積層されている。この長手方向に凝集した結晶構造の導電機構は、他の炭素フィブリルまたは通常の炭素繊維と比較することはできないが、電気伝導は、重複端部の領域における表面およびトンネル効果を介して生じる。EP2463341 A1の特定構造を有する微細炭素繊維は、5〜40nmの外径を有する。
【0009】
US2006/0122310 A1は、静電塗装に適しており、高い表面品質を示す導電性ポリアリーレンポリアミド混合物を開示している。カオリンおよびケイ酸アルミニウムと共にクレーが好ましい添加剤である。導電剤は、カーボンブラックおよび/またはカーボンフィブリルから選択される。これらのカーボンフィブリルは最大75nmの外径を有するカーボンナノチューブに関する。これらの質量割合は、0.1〜3重量%である。
【0010】
WO 01/36536 A1は、カーボンフィブリルを有する導電性ポリフェニレンエーテルポリアミドブレンドに関する。US2006/0122310 A1と同様のカーボンフィブリル(カーボンナノチューブ)が使用され、ハイペリオン(Hyperion)も原料として記載されている。成形材料における炭素繊維の含有量は、0.4から3.0重量%で示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2010/128013A1
【特許文献2】US2003/0134963 A1
【特許文献3】US2006/0124906 A1
【特許文献4】EP0877049 A1
【特許文献5】EP2463341 A1
【特許文献6】US2006/0122310 A1
【特許文献7】WO 01/36536 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、高い電気伝導性と低い電気抵抗を示し、常套の範囲に炭素繊維径を有する炭素繊維強化ポリアミド成形材料を提供することである。本発明の更なる目的は、滑らかな表面(高光沢)を有するポリアミド成形体を製造できるポリアミド成形材料を提供することである。さらに、本発明による成形材料から得られる成形体は、非常に良好な機械的特性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、本発明に基づき以下の組成を有するポリアミド成形材料によりもたらされる:
(a)20〜85重量%の、少なくとも1種の半結晶性ポリアミド;
(b)4〜18重量%の、2〜10μmの範囲に繊維径を有する炭素繊維、
(c)10〜60重量%の、少なくとも1種の粒子状鉱物または塩類充填剤(saline filler);
(d)3〜30重量%の、ISO11357に従い測定された少なくとも45℃のガラス転移温度を有する少なくとも1種の非晶質ポリマー;
(e)0〜20重量%のカーボンブラック、
(f)0〜20重量%の少なくとも1種のさらなる添加剤および/または付加剤、
ただし、成分(a)〜(f)の合計は100重量%となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るポリアミド成形材料の好ましい実施態様は、独立項に規定されている。ポリアミド成形体は更なる請求項に規定されており、それは、少なくとも本発明によるポリアミド成形材料によりで構成されている。炭素繊維含有ポリアミド成形材料における粒子状鉱物または塩類充填剤の使用が、更に請求項に規定されている。
【0015】
用語「ポリアミド」(PAと略記)は、ホモポリアミドおよびコポリアミドならびにその混合物を含む総称であることに留意すべきである。ポリアミドおよびそれらのモノマーに関する表記法および略語は、ISO規格1874-1:1992(E)に規定されている。
【0016】
少なくとも1種の半結晶性ポリアミド(a)は、好ましくは脂肪族、特に直鎖状脂肪族または半芳香族ポリアミド(semi-aromatic polyamide)である。
【0017】
特に好ましい半結晶性ポリアミド(a)は、PA 46、PA 6、PA 66、PA 11、 PA 12、 PA 610、 PA 1212、PA 1010 PA 10/11、PA 10/12、PA 11/12、PA 6/10、PA 6/12、PA 6/9、PA 8/10、PA 612、PA 614、PA 66/6、PA 4T/4I、PA 4T/6I、PA 5T/5I、PA 6T/6I、PA 6T/6I/6、PA 6T/66、PA 6T/610、PA 10T/106、PA 6T/612、PA 6T/10T、PA 6T/10I、PA 9T、PA 10T、PA 12T、PA 10T/10I、PA10T/12、PA10T/11、PA 6T/9T、PA 6T/12T、PA 6T/10T/6I、PA 6T/6I/6、PA 6T/6I/12、PA 10T/612、PA 10T/610および/または前記ポリアミドの混合物、ブレンドまたはアロイから成る群から選択され、PA 66およびPA 612が特に好ましい。
【0018】
好ましい実施態様において、少なくとも1種の半結晶性ポリアミド(a)は、25〜50重量%、特に好ましくは27〜45重量%、およびより好ましくは30〜40重量%の量でポリアミド成形材料中に含有される。本発明によるポリアミド成形材料は、4〜18重量%、および好ましくは5〜16重量%の炭素繊維(b)を含有する。
【0019】
より高い量の炭素繊維が使用される場合、成形材料は非常に高価になり、表面品質は劣化するおそれがある。その上、材料は、さらに電気的特性を向上させることなく、より高い炭素繊維画分により脆くなる。しかしながら、炭素繊維の量がより少ない場合には、成形材料の電気的および機械的特性が悪くなるおそれがある。
【0020】
さらに、本発明のポリアミド成形材料は、100〜15000μmの範囲に平均長さを有する炭素繊維(b)を使用することが好ましい。配合した後、造粒物中の繊維長は、通常、100〜500μmであり、完成した部品において通常100〜400μmである。引抜成形法が適用される場合、造粒物中の繊維長は、造粒物の長さに対応する。炭素繊維の直径は、2〜10μmの範囲、好ましくは3〜9μmの範囲である。炭素繊維(b)は、好ましくは円筒状である。
【0021】
被覆炭素繊維および非被覆炭素繊維を使用できる。単一種の炭素繊維を使用することが可能であり、または二種以上の炭素繊維の混合物であってもよい。
【0022】
特定の実施態様において、ポリアミド成形材料は、炭素繊維以外の繊維強化材を全く含まない。
【0023】
粒子状鉱物または塩類充填剤(c)は、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、バライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、カオリン、チョーク、マイカ、層状珪酸塩、滑石、クレー、および/または前記充填剤の混合物からなる群から好ましく選択され、炭酸カルシウムが特に好ましい。
【0024】
粒子状鉱物または塩類充填剤(c)の平均径は、通常0.01〜100μmの範囲、好ましくは0.05〜25μmの範囲、および特に好ましくは0.06〜5μmの範囲である。
【0025】
粒子状鉱物または塩類充填剤(c)は、その構造または粒子サイズに応じて、本発明におけるポリアミド成形材料から製造した成形体の表面光沢に影響を与え得る。
【0026】
粒子状鉱物または塩類充填剤(c)は、好ましくは15〜55重量%の割合でポリアミド成形材料に含まれ、特に好ましくは20〜55重量%の割合でポリアミド成形材料に含まれ、より好ましくは35〜45重量%の割合でポリアミド成形材料に含まれる。より多い量の充填剤(c)が使用される場合、成形材料の機械的特性は低くなり、各成形部品は脆くなるおそれがある。より少ない量の充填剤(c)が使用される場合、成形材料の電気的特性が低下するおそれがある。
【0027】
少なくとも1種の非晶質ポリマー(d)は、非晶質ポリアミドおよびポリフェニレンエーテルから成る群から好ましく選択される。
【0028】
少なくとも1種の非晶質ポリマー(d)は、PA 6I、PA 10I、イソフタル酸対テレフタル酸のモル比が1:0〜3:2であるコポリアミド6I/6T、イソフタル酸対テレフタル酸のモル比が1:0〜3:2であるコポリアミド10I/10T、ポリフェニレンエーテル、特にポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレン) エーテル、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレン)エーテル、 ポリ(2-メチル-6-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジプロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、2,3,6-トリメチルフェノールを含有するポリフェニレンエーテルコポリマー、上記ポリフェニレンエーテルのグラフト化変形体(好ましくは無水マレイン酸でグラフト化したもの、略記MAH)、および上記ポリフェニレンエーテルの更なる混合物および/または上記非晶質ポリマーの混合物から成る群から選択され、イソフタル酸対テレフタル酸のモル比が2:1であるコポリアミド6I/6Tが特に好ましい。成分(d)に関連した表現「混合物」は、2つ以上の非晶質ポリマー(d)が本発明に係るポリアミド成形材料に含まれるようなものを意味する。これらは、ポリアミド成形材料の製造における配合機に別々に添加することができ、予め混合する必要がない。
【0029】
特に好ましい実施態様において、少なくとも一つの非晶質ポリマー(d)は、非晶質ポリアミドとポリフェニレンエーテルとの混合物である。
【0030】
ポリフェニレンエーテルは、単独で、または別のポリマーとのブレンドとして、本発明に係るポリアミド成形材料を製造する配合機に添加できる。好ましい変形例において、ブレンドはポリアミドとの混合物である。ブレンドのポリアミドは、特に好ましい方法において、半結晶性ポリアミドであり、より好ましくは、本発明に係るポリアミド成形材料の成分(a)と同種のものである。
【0031】
さらに、少なくとも一つの非晶質ポリマー(d)は、ISO11357に従って測定した50℃〜280℃のガラス転移温度、特に好ましくは60℃〜250℃、およびより好ましくは75℃〜220℃のガラス転移温度を有する。
【0032】
少なくとも1種の非晶質ポリマー(d)は、ポリアミド成形材料中に5〜27重量%の量、特に好ましくは8〜20重量%、最も好ましくは7〜17重量%の量で含有される。
【0033】
少なくとも一つの非晶質ポリマー(d)が、ポリフェニレンエーテルを含む場合、ポリアミド成形材料は、好ましくは、5〜9重量%のポリフェニレンエーテルを含有する。ポリアミド成形材料は、他の好ましい実施形態においては、ポリフェニレンエーテルを含有しない。
【0034】
さらなる好ましい実施態様において、本発明に係るポリアミド成形材料は、わずか1〜15重量%、特に好ましくは2〜12重量%、およびより好ましくは3〜8重量%のカーボンブラック(e)を含有する。好適なカーボンブラックは、商業的に入手可能な製品、例えば、Ketjenblack(登録商標), Ensaco(登録商標), BASIONICS VS03, BASIONICS LQ01, Vulcan P, Vulcan XC-72, Black Pearls 2000などから選択される。1種のカーボンブラックを使用してもよく、2種以上のカーボンブラックを混合して使用してもよい。
【0035】
本発明に係るポリアミド成形材料は、更に好ましい実施態様において、少なくとも1種のさらなる添加剤および/または少なくとも1種の付加剤(f)であって、UV吸収剤、UV安定剤、熱安定剤、加水分解安定剤、架橋活性化剤、架橋剤、難燃剤、着色剤、接着促進剤、相溶化剤、潤滑剤、ガラス繊維、補助潤滑剤及び離型剤、無機顔料、有機顔料、赤外線吸収剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、核剤、結晶化促進剤、結晶化遅延剤、鎖延長剤、蛍光増白剤、フォトクロミック剤、耐衝撃性改良剤(無水マレイン酸変性オレフィン系コポリマーおよび/またはそれらの混合物が耐衝撃性改良剤として好ましい)から選択される添加剤および/または付加剤(f)を含有する。
【0036】
好ましい耐衝撃性改良剤の例は、市販されている以下のものである:
・TAFMER MC201: 67% EP コポリマー (20 mol% プロピレン) + 33% EB コポリマー (15 mol-% ブテン-1)のg-MAH (-0.6 %) ブレンド;三井化学、日本
・TAFMER MH5010: g-MAH (-0.6 %) エチレンブチレンコポリマー; 三井化学
・TAFMER MH7010: g-MAH (-0.7 %) エチレンブチレンコポリマー; 三井化学
・TAFMER MH7020: g-MAH (-0.7 %) EP コポリマー; 三井化学
・EXXELOR VA1801: g-MAH (-0.7 %) EP コポリマー; エクソンモービルケミカル, 米国
・EXXELOR VA1803: g-MAH (0.5-0.9 %) EP コポリマー, 非晶質, エクソン
・EXXELOR VA1810: g-MAH (-0.5 %) EP コポリマー, エクソン
・EXXELOR MDEX 94-1 1: g-MAH (0.7 %) EPDM, エクソン
・FUSABOND MN493D: g-MAH (-0.5 %) エチレンオクテンコポリマー, デュポン, 米国
・FUSABOND A EB560D (g-MAH) エチレン-n-ブチルアクリレートコポリマー, デュポン
・ELVALOY, デュポン
・Lotader AX 8840, アルケマ、フランス
・Bondyram, IL.
【0037】
ポリアミド成形材料は、好ましい実施態様において、潤滑剤および/または相溶化剤を含有しない。
【0038】
さらなる添加剤および/または付加剤(f)は、ポリアミド成形材料中に、0.1〜15重量%の量で、特に好ましくは0.2〜10重量%の量で、およびより好ましくは0.25〜5重量%の量で含有される。
【0039】
本発明に係るプラスチック成形材料は、1×10−1〜1×10の表面固有抵抗、特に好ましくは1〜1×10、およびより好ましくは1×10〜9×10オームの表面固有抵抗を有する。本発明に係るプラスチック成形材料は、好ましくは1×10−2〜1×10、特に好ましくは1×10−1〜1×10、より好ましくは1〜5×10オーム×mの体積固有抵抗を有する。
【0040】
以下に記載した方法で測定した、好ましい光沢値は、少なくとも80であり、特に好ましくは少なくとも90である。驚くべきことに、本発明者らは、このような高光沢値の達成に重要な影響因子は、少なくとも45℃のガラス転移温度を有する非晶質ポリマー(d)を半結晶性ポリアミドに添加することによりもたらされることを見出した。
【0041】
機械的特性は、好ましくは衝撃強度の最小値が少なくとも28kJ/m2であり、ノッチ付衝撃強さが少なくとも4.8kJ/mであり、引裂き点伸び(elongation at tear)が少なくとも1.4%であり、引張弾性率が少なくとも5000MPaであり、引裂強度は少なくとも70MPaである。
【0042】
特に好ましい成形材料は、以下の組成を有する:
(a)32〜58重量%の、少なくとも1種の半結晶性脂肪族ポリアミド、特にPA66またはPA612
(b)4〜17重量%の、2〜10μmの範囲に繊維径を有する炭素繊維、
(c)30〜45重量%の、少なくとも1種の粒子状鉱物または塩類充填剤、
(d)8〜20重量%の、ISO11357に従い測定された少なくとも45℃のガラス転移温度を有する少なくとも1種の非晶質ポリマー、
(e)0重量%のカーボンブラック、
(f)0〜5重量%の少なくとも1種のさらなる添加剤および/または付加剤、
ただし、成分(a)〜(f)は、合計100重量%となる。
【0043】
また、ポリアミド成形体が本発明において提供され、例えば射出成形により、上述のポリアミド成形材料から少なくとも部品を製造できる。これらのポリアミド成形体は、好ましくは、導電性を必要とする構成要素の形態で提供され、例えば、自動車産業および他の交通手段の領域における内装部品および外装部品、好ましくは、フィラーキャップカバー、電気/電子分野、特に、携帯用電子機器用のハウジング部品またはハウジングコンポーネント、家電製品、家庭用機器、電気通信、家電機器用の装置および機器、好ましくは携帯電話、電気、家具、スポーツ、機械工学、衛生および医療、医薬、エネルギーならびに駆動技術分野において、電気伝導性を有し、好ましくは機械的機能を補助する内装部品および外装部品を提供する。
【0044】
本発明はさらに、2〜10μmの範囲の炭素繊維径を有する炭素繊維含有ポリアミド成形材料の表面固有抵抗および/または体積固有抵抗を低減するための粒子状鉱物または塩類充填剤の使用に関する。
【実施例】
【0045】
本発明は、以下の実施例を参照することにより詳細に説明されるが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0046】
表1に記載した材料を、実施例および比較例で使用した:
【0047】
【表1】
【0048】
配合
一般に、構成要素は、一軸または二軸押出機などの常套の配合装置またはプラスチック成形材料を調製するスクリューミキサーを用いてポリマー溶融体に混合される(配合される)。構成要素は、フィードに個別に投入されるか、乾燥したブレンドの形態で供給される。添加剤(付加剤)を使用する場合、それらを直接導入してもよく、またはマスターバッチの形態で導入してもよい。乾燥したブレンドを用いて調製する場合、乾燥したポリマー顆粒と添加剤が混合される。混合は、湿気の吸収を回避するために、乾燥させた保護ガス下で行ってもよい。
【0049】
配合は、例えば、230℃〜350℃の温度に押出機のシリンダー温度を設定して行われる。真空条件をノズルの上流に適用することができ、または大気圧条件で脱気してもよい。溶融物を水浴中にストランド形状で放出し、粒状化する。水中造粒またはホットダイフェイスカットが、造粒のために好ましく使用される。次いで、好ましくはこのようにして粒子状で得られたプラスチック成形材料を乾燥させ、次いで、成形体へと更に加工できる。
【0050】
本発明に係る実施例B1〜B8に関する成形材料および、比較例VB1〜VB6に関する成形材料は、"Werner und Pfleiderer"社製の二軸押出機を用いて調製した。全成形材料の100重量%に対して、表2に記載した重量%で表される質量分率で、出発物質を、2軸押出機を用いて配合した。得られた粒状物から成形体のサンプルを射出成形し、表3に記載された特性を測定した。
【0051】
機械的データと電気伝導特性を決定するための基準
表3に記載された機械的データと導電特性(後者は導電率に反比例して作用する電気抵抗によって表される)は、以下の基準に従って測定した:
【0052】
引張弾性率:
ISO527、引張り速度1mm/分
ISO試験片、標準規格:ISO3167、タイプA、170×20/10×4mm、温度23℃
【0053】
引裂強度および引裂き点伸び:
ISO527、引張り速度5mm/分
ISO試験片、標準規格:ISO3167、タイプA、170×20/10×4mm、温度23℃
【0054】
シャルピー衝撃強度およびノッチ付試験片のシャルピー衝撃強度
ISO179−2/1eU(シャルピー衝撃強度)
ISO試験片、標準規格:ISO179−1、タイプ1、80×10×4mm、温度23℃
【0055】
固有(電気)抵抗率:
(体積固有抵抗、単位[オーム×m]としても既知)
IEC60093
プレート100×100×2mm、導電性銀との接触
【0056】
固有(電気)表面抵抗率:
(電極配置に基づくΩスクエア、単位[オーム]としても既知)
IEC60093
プレート100×100×2mm、導電性銀との接触
【0057】
光沢値
光沢値は、ISO2813に従い、温度23℃、および85°の角度の条件にてMinolta Multi Gloss 268を用い、80×80×1mm寸法のプレートにおいて測定した。光沢値は、無次元光沢単位(GU、グロス単位)で記載される。
【0058】
試験
実施した試験の成形材料の組成(B=本発明に係る実施例、およびVB=比較例)を、表2に示す。
【0059】
測定結果を表3に要約する。
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
本発明に係る実施例によれば、ポリアミド成形材料は、本発明による特徴の組合せによって得られ、それは、良好な機械的特性に加えて、驚くべきことに、極めて良好な導電性と極めて良好な表面特性を示すことが分かった。光沢は、表面特性の尺度として使用される。本発明に係る炭素繊維の代わりにカーボンブラックのみを有する比較例VB1は、極めて低い光沢値を示し、極めて不十分な機械的特性を示す。比較例VB2のように半結晶成分を除外することによって、光沢および衝撃強度が損なわれる。
【0063】
比較例VB6によると、いかなる非晶質ポリマーをも成形材料に含まない場合、光沢が明らかに低下することが分かる。比較例VB3〜VB5は、炭素繊維と微粒子フィラーが共に非常に良好な導電性をもたらすために必要であることを明確にし、または、比較例VB3〜VB5は、これらの二つの成分のいずれかが欠落している場合、良好な導電性が得られないことを明確にする。電気伝導率に反比例して作用する、測定した固有抵抗は、本発明に係る実施例の値よりも、VB3、VB4およびVB5において10〜10倍高いことが分かる。実施例B4は、非晶質ポリアミドおよびポリフェニレンエーテルの両方が含まれている好ましい実施態様に関する実施例であり、すなわち、該実施例においては、少なくとも1種の非晶質ポリマー(d)は、非晶質ポリアミドとポリフェニレンエーテルとの混合物を表す例である。実施例B5〜B7は、カーボンブラックを成形材料に添加する際に炭素繊維画分を低減できることを示す。幾分良好な導電率(低い抵抗値)は、8重量%のカーボンブラックよりも(VB1と比較して)、5重量%の炭素繊維と3重量%のカーボンブラックを用いる場合に得られる。実施例B8は、非晶質ポリアミドの代わりにポリフェニレンエーテルなどの非晶質非ポリアミドを、非晶質ポリマー(d)として含有する成形材料の場合に、極めて良好な光沢値が得られることを示す。
【0064】
このように、本発明は、当業者には予期できない形態で有利なポリアミド成形材料を提供でき、かつ、高い電気伝導性、滑らかな表面(高光沢)と非常に良好な機械的特性の要件を満たすポリアミド成形材料を提供できる。このような成形材料から製造された成形体は、高品質であり、美しい外観を有し、また、静電粉体塗装および電気ディップ塗装(KTL工程)に対してとりわけ適している。このような(カーボンナノチューブの代わりに)常套の径範囲における炭素繊維を用いることにより、また、好ましくは、ポリフェニレンエーテル成分を用いない場合であって、本発明によりもたらされる効果は、先行技術に関連する当業者にとって自明なものではなかった。