(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6633841
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】骨インサートを取り出す器具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/16 20060101AFI20200109BHJP
A61B 17/56 20060101ALI20200109BHJP
A61F 2/40 20060101ALI20200109BHJP
【FI】
A61B17/16
A61B17/56
A61F2/40
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-116235(P2015-116235)
(22)【出願日】2015年6月9日
(65)【公開番号】特開2016-26544(P2016-26544A)
(43)【公開日】2016年2月18日
【審査請求日】2018年5月25日
(31)【優先権主張番号】14/303,433
(32)【優先日】2014年6月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515156197
【氏名又は名称】リマコーポレート・ソチエタ・ペル・アチオニ
【氏名又は名称原語表記】LIMACORPORATE S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147500
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 雅啓
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179914
【弁理士】
【氏名又は名称】光永 和宏
(74)【代理人】
【識別番号】100179936
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 明日香
(72)【発明者】
【氏名】ミケーレ・プレッサッコ
(72)【発明者】
【氏名】シモーネ・ウルゼッラ
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・フィードラー
(72)【発明者】
【氏名】ポール・ディー・パターソン
【審査官】
吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05591170(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0081270(US,A1)
【文献】
特開2008−183412(JP,A)
【文献】
特表2007−521919(JP,A)
【文献】
米国特許第03702611(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/16
A61B 17/56
A61F 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向軸(x−x)に沿って延びるとともに近位把持部(19)が設けられたステム状本体(40)と、
互いに向かってまたは離れるように移動するよう前記ステム状本体(40)に摺動可能に関連付けられた遠位の操作ヘッド(15)と、
該遠位の操作ヘッド(15)内の切削要素(30)と、
前記遠位の操作ヘッド(15)から同軸に突出する先端部(16)と
を備えるタイプの、例えば肩プロテーゼの骨インサートを取り出す器具(9)であって、 該器具は、
前記遠位の操作ヘッド(15)内に挿入されるとともに前記切削要素(30)に作用して、該切削要素(30)を、前記先端部(16)内に隠れるように収容される休止位置から、前記先端部の側部開口(27)を通して片持ち梁式に突出する動作位置まで角度を付けて変位させる押し出し機構(8)であって、前記切削要素(30)は、前記動作位置にあるときに前記長手方向軸(x−x)に対して実質的に横断方向に延びるブレード(31)を有する押し出し機構(8)と、
前記遠位の操作ヘッド(15)と前記ステム状本体(40)との間に配置された弾性要素(34)であって、前記遠位の操作ヘッド(15)及び前記ステム状本体(40)を互いから離れるように絶えず押しやるとともに前記切削要素(30)を前記休止位置に向かって絶えず押しやる弾性要素(34)と
をさらに備えることを特徴とする器具。
【請求項2】
前記切削要素(30)は湾曲しているか又は円弧の形状であり、
前記切削要素(30)は、
前記遠位の操作ヘッド(15)に形成される、適合する形状の案内部(18)内で摺動可能な拡大した近位部分(28)と、
前記遠位の操作ヘッド(15)の前記先端部(16)内に隠れるように収容される前記休止位置と、前記長手方向軸(x−x)に対して横断方向に延びる前記動作位置との間で角度を付けて移動可能であるテーパ状のブレード(31)と
を備えることを特徴とする、請求項1に記載の器具。
【請求項3】
ピン(35)は、前記拡大した近位部分(28)と一体的であり、
前記ピン(35)は、前記拡大した近位部分(28)に対して垂直であり、
前記ピン(35)は、前記ステム状本体(40)に形成される案内スロット(33)内で移動可能であることを特徴とする、請求項2に記載の器具。
【請求項4】
前記遠位の操作ヘッド(15)は、本質的に円筒形状を有し、前記切削要素(30)が内部で移動可能に案内される円形リム案内部(18)を備えることを特徴とする、請求項3に記載の器具。
【請求項5】
前記遠位の操作ヘッド(15)は遠位部分(39)を有し、
前記先端部(16)は、前記遠位の操作ヘッドの直径よりも小さい基本直径を有するとともに前記遠位部分(39)から前記長手方向軸(x−x)と同軸に突出する円錐台形状を有することを特徴とする、請求項4に記載の器具。
【請求項6】
前記切削要素(30)は、前記ピン(35)と一体的に形成され、前記ステム状本体(40)の遠位端(38)の押す力の下で、前記遠位の操作ヘッド(15)に形成される前記適合する形状の案内部(18)から突出することを特徴とする、請求項3に記載の器具。
【請求項7】
前記先端部(16)の前記側部開口(27)は、前記先端部(16)の全長手方向の延びに沿って延びる開口であることを特徴とする、請求項1に記載の器具。
【請求項8】
前記切削要素(30)から横方向及び垂直に突出するとともに前記ステム状本体(40)の遠位端に形成される案内スロット(33)内で摺動可能な案内ピン(35)を備えることを特徴とする、請求項1に記載の器具。
【請求項9】
前記押し出し機構は、前記ステム状本体(40)の遠位端(38)と、前記切削要素(30)に関連付けられるピン(35)とを備え、前記遠位端(38)は、前記ステム状本体(40)が前記遠位の操作ヘッド(15)に向かって移動するときに前記ピンに作用することを特徴とする、請求項1に記載の器具。
【請求項10】
前記ステム状本体(40)の前記操作ヘッドに向かう移動は、前記弾性要素(34)の作用に抗して行われることを特徴とする、請求項9に記載の器具。
【請求項11】
前記ステム状本体(40)の前記遠位端(38)は、円形の断面と、前記遠位の操作ヘッド(15)の内径よりも小さい直径とを有することと、
前記弾性要素(34)は、前記ステム状本体(40)の前記遠位端(38)の周りに巻き付けられるばねからなることと
を特徴とする、請求項10に記載の器具。
【請求項12】
前記ばねは、前記遠位の操作ヘッドの内側縁と、前記ステム状本体の前記遠位端のより小さい直径によって形成される縁との間に画定される可変に延びる円筒形の環状ギャップ内で弾性的に延びることを特徴とする、請求項11に記載の器具。
【請求項13】
前記切削要素(30)は、円弧の形状で本質的に湾曲していることを特徴とする、請求項1に記載の器具。
【請求項14】
前記ステム状本体(40)は、前記弾性要素(34)の作用に抗して行われる移動に従って前記遠位の操作ヘッド(15)に向かって移動することを特徴とする、請求項1に記載の器具。
【請求項15】
前記弾性要素(34)は、前記遠位の操作ヘッド(15)の内側縁と、前記ステム状本体(40)の遠位端のより小さい直径によって形成される縁との間に画定される可変に延びる円筒形の環状ギャップ内で弾性的に延びるばねを含むことを特徴とする、請求項1に記載の器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばリバース型又は解剖学的な肩プロテーゼに意図される骨インサートを取り出す器具に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の原理は、種々の手術の要件に適用可能であるが、以下の説明では、肩に影響を与える外傷又は病理後の関節窩の様々な程度の侵食の治療により詳細に言及する。但し、これは、出願人の権利のいかなる限定も示唆するものではない。
【0003】
添付の特許請求の範囲の内容から、本発明の保護範囲は、上腕骨頭の例に限定されない骨格の領域における骨インサートの取り出しを意図する外科的用途に及ぶことが明らかとなるであろう。
【0004】
周知のように、上腕骨は、上肢の長骨であるとともに腕の骨格構造における主要な要素である。これは、上肢の他の長骨、すなわち橈骨及び尺骨は、解剖学的には、前腕の部分を形成すると考えられるためである。
【0005】
上腕骨は、骨幹と呼ばれる長い本体と、骨端と呼ばれる2つの反対側の端、すなわち近位骨端及び遠位骨端をと含む。近位骨端は、肩甲骨と関節接合されて肩甲上腕関節を形成し、一方で、遠位骨端は、前腕の2つの骨、すなわち橈骨及び尺骨と関節接合されている。
【0006】
上腕骨の頭部、すなわち近位骨端は、軟骨で覆われるとともに肩甲骨の関節窩に着座する大きい平滑な半球面を有する。上腕骨の頭部は、骨の解剖学的及び外科的双方の首部によって底部の境界が定められている。
【0007】
解剖学的な首部の底部において、骨の前部では、内部に肩甲下筋が入るより小さい結節(小結節とも呼ばれる)として知られる、前方に面する結節があることにも留意されたい。より小さい結節に対して上部及び横方向に、より大きい結節(大結節と呼ばれる)があり、これは、その3つの面によって、いわゆる回旋筋腱板の他の筋肉を入れることを可能にする。
【0008】
これらの解剖学的な細部に加えて、本発明では、関節窩上腕関節が、必然的に安定性を損ねる、上肢の大きな移動の程度を可能にすることを指摘するべきである。したがって、解剖学的システムは、可動性と安定性との間の正しいバランスを確実にしなければならず、これは、関節窩上腕関節に臨床的な不安定性を受けやすくする。不安定性は、肩の活発な動きの間の関節窩内の上腕骨頭の過度の変位に関連して激痛の形態で現れる病状である。
【0009】
静的及び動的な因子が、関節の安定性を維持する上で複雑かつ協働的な役割を果たす。徹底した研究によって、関節窩に侵食がある場合には特定の不安定性因子が存在することが確立されている。
【0010】
より詳細には、関節窩の本質的に3つの異なる形態があることが確立されており、これらは以下のように分類することができる。すなわち、
−症例の約54%を表し、少しの中央の摩耗及び中央のドームによって特徴付けられる凹状の形態と、
−症例の42%を表し、多かれ少なかれ部分的な後方転位による後方の外周の摩耗によって特徴付けられる両凹の形態と、
−あまり一般的ではなく、通常は異形成に起因する25°超の関節窩の過剰な後傾の形態をとる後傾の形態とである。
【0011】
関節症を患う患者に対して行った研究では、非同心の関節化膿症(arthropy)及び後方侵食を有する関節窩では、関節接合の安定性及び生物力学に悪影響を与える合併症率が高いことが示された。
【0012】
しかし、これらの問題は、患者が患う痛みを排除するように関節接合の安定性及び生物力学を取り戻そうとすることによって外科的に解決することができる。
【0013】
正確な安定性及び生物力学のパラメータを取り戻すとともに、痛みの排除によって新たな可動性を達成するために、必要に応じて、リバース型又は解剖学的な全プロテーゼを簡便に使用することができる。
【0014】
プロテーゼは、形態的に関節窩上腕関節に似ている金属又はプラスチックから作られる人工関節である。
【0015】
プロテーゼは通常、上腕骨プロテーゼ構成要素及び関節窩構成要素の双方を含み、いわゆるリバース型プロテーゼでは、これらの構成要素は、解剖学的な全プロテーゼに比して実質的に逆である。
【0016】
関節接合の生物力学を最適に取り戻すために、関節窩の侵食及び角度も何らかの方法で直さなければならない。手術技術のうちの1つは、金属インプラントの代わりに骨インプラントを使用する可能性を想定している。
【0017】
これらのインプラントは、最初のインプラントの場合、プロテーゼの上腕骨構成要素のスペースを作るために、いずれの場合も切除されなければならない上腕骨の頭部から得ることができる。
【0018】
例えば、凹状の関節面で終端する関節窩構成要素があるリバース型プロテーゼの場合、関節窩とプロテーゼとの間の骨インサートの存在が想定される。
【0019】
骨インサートの取り出し及び埋め込みを想定する手術技術は例えば、トルニエ名義のフランス特許出願第2,916,961号明細書に詳細に記載されている。
【0020】
その文献に記載されている手術技術は、種々の点における利点があり、ニーズをほぼ満たすにもかかわらず、骨インサートが上腕骨の頭部から取り出される手術ステップに関連する大きな欠点を有する。
【0021】
上腕骨の頭部から取り出される当該骨インサートは、プロテーゼを原位置に固めるための仮骨を形成するようにプロテーゼの関節窩構成要素の凸状の端部と関節腔内に特別に準備される座部との間に配置されるため、関節窩側のプロテーゼの構造を完成させるために用いられる。
【0022】
骨インサートは、適合性を確実にするとともに拒絶のいかなるリスクも防止しながら、リバース型プロテーゼの凹状の上腕骨構成要素を着座させるために上述したようにいずれの場合も外科医が切除しなければならない上腕骨の頭部から好適に取り出される。
【0023】
骨インサートをコア穿孔又は穴あけするステップと、上腕骨の頭部において行われる横方向の切削によるその後の取り出しとは、同じ骨インサートをそのプロテーゼ構成要素に取り付けることができる前に行われる。
【0024】
これは、骨インサートを、その取り出し後に処理しなければならないか、又は、いずれの場合も、潜在的な細菌汚染のリスクを伴って、関節窩を準備するのに必要な他の手術ステップの完了を保留して片側に置いておかなければならないことを意味する。
【0025】
さらに、骨インサートを穿孔して取り出す手術ステップは、客観的に複雑であり、外科医にとって難しく、多数の特定の器具の使用を伴い、結果として、取り出される骨物質の量も、プロテーゼの挿入を準備するステップの完了に厳密に必要であるよりもはるかに多くなる。
【0026】
最後に、従来技術によって提案される骨インサートを取り出す手術技術が、手術の完了に必要な手術ステップのシーケンスの観点からは比較的非効率的であることも述べておかなければならない。
【0027】
別の公知の従来技術の解決策が、添付の請求項1の前提部に記載されている特徴を含む器具に関連する、スピーヴァックの米国特許第5,591,170号明細書に開示されている。
【0028】
しかし、この文献は、切削要素の意図しない伸張を防止する特徴を有していない。
【発明の概要】
【0029】
本発明は、公知の解決策に比してより簡単かつより効率的に骨インサートを取り出すことを可能にすると同時に骨インサートの完全に無菌の取り扱いを確実にすることが可能な器具及び対応する手術方法をどのように提供するかについての技術的課題を検討することによって全てのこれらの欠点を克服することを目的とする。
【0030】
本発明の別の目的は、器具の使用中の患者の安全性を高め、切削要素の意図しない伸張を防止することである。
【0031】
本発明の基礎を形成する提案される解決策は、取り出される骨インサートを、関連するプロテーゼ構成要素の一部に予め関連付ける、すなわち取り付けることによって抜き取るか又は取り出すことである。
【0032】
この基本的な着想は、従来技術によって想定されるステップのシーケンスに比して、骨インサートを取り出す方法の変更も伴う。
【0033】
この提案される解決策に基づいて、本発明の範囲は、解剖学的な又はリバース型の肩プロテーゼの例を参照して明示的に示唆されるよりも広いと考えられる。上述の技術的課題は、
−長手方向軸(x−x)に沿って延びるとともに近位把持部及び遠位の操作ヘッドが設けられたステム状本体と、
−前記操作ヘッド内の切削要素と、
−前記操作ヘッドから同軸に突出する先端部と
を備えるタイプの、例えば肩プロテーゼの骨インサートを取り出す器具であって、
該器具は、
−前記操作ヘッド内に挿入されるとともに前記切削要素に作用して、該切削要素を、前記先端部内に隠れるように収容される休止位置から、前記先端部の側部開口を通して突出する動作位置まで角度を付けて変位させる押し出し機構であって、前記切削要素は、前記動作位置にあるときに前記長手方向軸に対して実質的に横断方向に延びる端部を有する押し出し機構と、
−前記弾操作ヘッドと前記ステム状本体との間に配置された弾性要素であって、前記操作ヘッド及び前記ステム状本体を互いから離れるように絶えず押しやるとともに前記切削要素を前記休止位置に向かって絶えず押しやる弾性要素と
をさらに備えることを特徴とする器具によって解決される。
【0034】
有利には、ステム状本体は、弾性手段の作用に抗して行われる移動に従って操作ヘッドに向かって移動する。
【0035】
さらに、切削要素は湾曲しているか又は円弧の形状であり、切削要素は、操作ヘッドに形成される、適合する形状の案内部内で摺動可能な拡大した近位部分と、操作ヘッドの先端部内に隠れるように収容される休止位置と、長手方向軸に対して突出しながら横断方向に延びる動作位置との間で角度を付けて移動可能であるテーパ状の端部とを備える。
【0036】
操作ヘッドは、本質的に円筒形状を有し、切削要素が内部で移動可能に案内される円形−リム案内部を備える。
【0037】
操作ヘッドの遠位部分は僅かに凹状であり、先端部は、操作ヘッドの直径よりも小さい基本直径を有するとともに遠位部分から長手方向軸と同軸に突出する円錐台形状を有する。
【0038】
押し出し機構は、前記切削要素を前記休止位置に向かって絶えず押しやる弾性要素も備えることに留意されたい。
【0039】
さらに、押し出し機構は、切削要素に作用するステム状本体の遠位端を備える。
【0040】
より詳細には、押し出し機構は、所定の長手方向行程で前記操作ヘッド内をステム状本体が摺動可能であり、それによって、その遠位端が、ばね負荷手段の作用に抗して前記切削要素に作用するようなものであり、ステム状本体の摺動は、外周部分に係合する前進及び後退移動によって得られる。
【0041】
ステム状本体の遠位端は、円形の断面と、操作ヘッドの内径よりも小さい直径とを有し、一方、ばね負荷手段は、ステム状本体の遠位端の周りに巻き付けられるばねからなる。
【0042】
ばねは、操作ヘッドの内側縁と、ステム状本体の遠位端のより小さい直径によって形成される縁との間に画定される可変に延びる円筒形の環状ギャップ内で弾性的に延びる。
【0043】
技術的課題は、例えば肩プロテーゼのために意図される骨インサートを取り出す方法であって、
−前記骨インサートが取り出される骨部分内に所定の直径の穴を形成するステップと、
−前記穴に、切削要素が設けられている器具の操作端を挿入するステップと、
−前記切削要素を、前記操作端内に隠れるように収容される休止位置から、前記操作端の側部開口を通して突出する動作位置まで、器具の長手方向軸に対して横断方向に移動可能に案内するステップと、
−前記器具を360度回転させることによって前記骨インサートの基部を深く切り込むステップと、
−器具を前記穴から取り出すステップと、
−ピン要素を前記穴に挿入するとともに固定するステップと、
−フライスを前記ピン要素上にセンタリングすることによって、所定の直径のインサートの外周をフライス削りするステップと、
−インサート及びインサートに取り付けられているピン要素を取り出すステップと
を含む種類の方法によっても解決される。
【0044】
本発明による器具及び関連する方法の特徴的な特徴及び利点は、添付の図面を参照して提供される実施形態の非限定的な例の説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】従来技術によるリバース型全肩プロテーゼの概略断面図である。
【
図2】本発明の方法が適用される骨部分、例えば上腕骨の頭部の概略斜視図である。
【
図3】処置される骨部分に向かって近づく間の、本発明に従って提供される器具の概略側面図である。
【
図4】手術ステップの前の本発明の器具を示す斜視図である。
【
図5】手術ステップの開始時の本発明による器具の概略断面側面図である。
【
図6】手術ステップの開始時における本発明による器具の、
図5の図と同様の概略断面側面図である。
【
図7】手術ステップの間の本発明による器具の一部を示す斜視図である。
【
図8】手術中の
図7による器具の概略断面側面図である。
【
図10】本発明による器具を用いて深い切り込みが作られている、
図2による骨の細部の縦断面図である。
【
図11】プロテーゼ構成要素が挿入されるところの、
図2による骨の細部の概略斜視図である。
【
図12】
図11によるプロテーゼ部分が
図2による骨部分に挿入されている、縦断面図である。
【
図13】本発明による方法の連続的な手術ステップを受けている、
図2による骨部分の部分断面概略図である。
【
図14】本発明による方法の手術ステップの部分断面概略図である。
【
図15】本発明による方法の手術ステップの部分断面概略図である。
【
図16】
図15に示される例の異なる観点からの斜視図である。
【
図17】実際的に本発明による方法の手術ステップの終了時の、
図2による骨部分の細部の横断面図である。
【
図18】本発明による器具及び方法を用いて行われるインサートの抜き取り及び取り出しの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
既に上述したように、以下で詳細に記載する本発明による器具及び取り出し方法は、出願人の権利のいかなる限定も伴うことなく、大腿骨腸骨ゾーンにも位置付けることができる任意の骨インサートの取り出しに適用可能である。
【0047】
しかし、添付の図面は、概略図の形態で、本発明による器具及び方法の例示的な適用として、ヒトの骨格に沿う骨の頭部、例えば上腕骨の頭部を示している。
【0048】
取り出し方法は、
図1に示されるリバース型全肩プロテーゼの埋め込みに適用される手術技術に言及するが、専ら非限定的な例によって、本発明の説明を簡略化するために以下で説明する。
【0049】
図1は、既知の構造を有するリバース型全肩プロテーゼ1を概略図の形態で示している。
【0050】
全肩プロテーゼの分野では、リバース型プロテーゼは、一方の側では、患者の肩甲骨Sの関節窩Gに関連付けられるとともに凸状の関節面11Aで終端する関節窩構成要素と、他方の側では、凹状の関節面22Aを画定する、上腕骨Hに一体化される構成要素とを備え、これらの2つの関節面11A、22Aは互いに協働し、肩関節を再形成する。
【0051】
図1は、それぞれ符号10及び20によって示され、患者の肩甲骨S及び上腕骨Hに位置する関節窩構成要素又は関節窩及び上腕骨構成要素を備える肩プロテーゼ1を示している。関節窩構成要素10は、肩甲骨Sの関節窩Gとは反対の側に概ね半球形状を有する関節の凸状の面11Aと、肩甲骨Sの関節窩Gに向かって方向付けられる側に平坦な面11Bとを有する頭部11を備えている。図示される例示的な例では、面11Bは、概ね平坦であるがより複雑な幾何学的形状を有し、例えば実質的に凹状又は凸状であってもよい。
【0052】
関節窩構成要素10は、面11Aとは反対の方向に突出する面11Bに対して横断方向に延びる固定ステム12を更に含み、固定ステム12の自由端は関節窩Gにしっかりと固定され、したがって、肩甲骨Sの側への関節窩構成要素の接合を確実にする。シャンク12には外周に雄ねじを切ることができるか、又は概して、固定に都合がよい表面を有することができる。骨インサート2は、プロテーゼの関節窩構成要素10の面11Bと肩甲骨Sの関節窩Gとの間に配置され、前記骨インサートは、円形の基部を有する実質的に円筒形の外形を有し、その外径は、頭部11の直径と実質的に同じである。
【0053】
プロテーゼの関節窩構成要素に関連付けられる骨インサート2は、同じ患者の肩の上腕骨の上側骨端から取り出される。このように、拒絶のリスク、低い生体適合性、又は、病気又は感染症の可能性のある伝染が低減する。
【0054】
さらに、このように、有利には、リバース型全プロテーゼの他の上腕骨構成要素の係合に好適な上腕骨の頭部の切除及び形成も得られる。
【0055】
リバース型プロテーゼの上腕骨構成要素20は、上腕骨Hの随腔M内に挿入されることが意図される髄内ステム21を備えている。上端において、ステム21は頭部22に拡大しており、頭部22は、シャンク21とは反対側に、凸状の面11Aの半径と実質的に同じ半径を有する半球形状の凹状の関節面22Aを有している。
図1に示されるようにプロテーゼ1が埋め込まれると、面11A及び22Aは互いに対して接触し、肩が必要とする種々の動きを可能にする。
【0056】
骨インサート2の存在によって、面11Aは関節窩Gの面から所定の距離に位置し、この配置は、当該分野の技術的な専門用語では、誘導される「側方化」と称される。有利には、プロテーゼの関節窩構成要素の側方化は、回旋筋腱板の筋張力の増大も誘導する。プロテーゼの関節窩構成要素及び上腕骨構成要素はこのように安定化され、したがって、肩がもはや脱臼するリスクなく、改善された相対的な回転及びより良い可動性からの利点が得られる。さらに、プロテーゼの関節接合の幾何学的中心は関節窩に正確に位置付けられる。
【0057】
有利には、本発明によると、本明細書において記載される手術方法及び器具は、例えば、上述したような肩のリバース型プロテーゼ1と、いずれの場合も患者から骨インサートを取り出すことを必要とする他のタイプの手術との双方のための骨インサート2のより容易な取り出しを可能にする。
【0058】
本出願人が開発した手術方法のステップは、
図2に示されるシーケンスから容易に理解することができる。
【0059】
以下の説明は、骨インサート2を取り出す外科的処置に含まれる全てのステップを説明する意図はないが、最も重要であり本発明の説明に関連するステップのみを説明する。したがって、患者をどのように位置させるか、又は、上腕骨又は関節窩の頭部をどのように外科的に露出させるかに関する詳細な説明は省く。
【0060】
本発明の目的に関して、上腕骨の骨端3は、実質的に球状のカップの形状を有する窪んだ凹部4を画定するように最初にフライス削り作業を受ける。
【0061】
所定の直径の中央の穴5、特に円錐台形状を有する穴がこの凹部4の底部に形成されている。
【0062】
明らかに、当業者は、穴5の形状が必要であれば円筒形であってもよいことを理解するであろう。
【0063】
上腕骨端における切除を行うとともに窪んだ凹部4を画定するフライス削り切除手段と、穴5を中央に穿孔する穴あけ手段とは、従来のタイプのものであり、凹部4にセンタリングされる穴5を形成するこれらの手段の適用方向を画定するのを助けるセンタリング又は案内ステム(従来のものには図示せず)と協働して使用することができる。
【0064】
同様に、当業者は、凹部4及び穴5を形成するステップを、凹部4が得られるまで上腕骨端から骨物質を取り出すことに先行し得る穴5の形成と逆にすることもできることを理解するであろう。
【0065】
いずれの場合も、これらの第1の手術ステップの終了時に、上腕骨の頭部は、
図11及び
図12において見えるピン要素25を収容することが後に意図される、穴5及び凹部4のアセンブリによって形成される受け入れ座部6を有している。このピン要素25は、凹部4の形状に適合する形状を有するフランジ23と、中央で突出するとともに穴5に挿入されることが意図されるピン24とを備えている。
【0066】
好ましくは、ピン24は、穴5内にピン要素25をより良く固定し、受け入れ座部6の凹部4内でフランジ23を安定させる円形及び長手方向の溝を有する。
【0067】
本発明によると、器具9は、
図3に示されるようにその操作端15が近づけられ、それによって座部6内に挿入することができる。
【0068】
器具9の内部構造は、
図4、
図5、
図6及び
図8に示される断面図から分かる。
【0069】
器具9は、長手方向軸(x−x)に沿って延びるとともに近位の把持部及び遠位の操作ヘッド15が設けられているステム状本体40を備えている。遠位の操作ヘッドは、ステム状本体40の一端に、休止位置と動作位置との間で摺動可能に取り付けられている。
【0070】
操作ヘッド15は内部に、切削要素30、特に所定の一定の横方向の厚さを有するブレードが設けられている。
【0071】
先端部16は、前記操作ヘッド15から同軸に突出し、一種の横方向に開口した円錐台ビットを形成する。
【0072】
操作ヘッド15は内部に、先端部16内に隠れるように収容される休止位置から、先端部の側部開口27を通して突出する動作位置まで角度を付けて切削要素30を変位させるように切削要素30に作用する押し出し機構8を有している。
【0073】
切削要素30は、動作位置にあるときに前記長手方向軸x−xに対して実質的に横断方向に延びるブレード31を有している。
【0074】
図6、
図7及び
図8にはっきりと示されるように、切削要素30のブレード31は、先端部16の側部開口27を通して出現し始めると、切られる骨の海綿部分におけるその切開機能も行い始める。端31がその作用を行うと、切れ目7が形成され、器具9の360°の回転に続いて、この切れ目は本質的に円形の形状を呈する。
【0075】
切削要素30は、本質的に半円又は円弧の形状で湾曲しており、円弧の大部分にわたって延びるとともに操作ヘッド15の中実材料部分に設けられる案内部18内で摺動可能である拡大部分28と、操作ヘッド15の先端部16内に隠れるように収容される前記休止位置と、鎌のように長手方向軸(x−x)に対して横断方向に延びる前記動作位置との間で角度を付けて移動可能であるテーパ状のブレード31とを備えている。
【0076】
拡大近位部分28は、操作ヘッド15に形成された適合する形状の円形−リム案内部18内で摺動可能であり、したがって、湾曲した切削要素30及び円形−リム案内部18の中心でもある、Oで概略的に示される瞬間的な回転の点を中心に角度を付けて移動する。切削要素30と一体的なピン35も設けられ、
図9においてはっきりと分かるように前記切削要素30がある平面に対して垂直に延びている。
【0077】
小穴形状の案内スロット33は、ステム状本体の遠位端に軸x−xに対して横断方向に形成され、ピン35が係合し、休止位置から動作位置への変位中に当該ピンに作用する。
【0078】
操作ヘッド15は、本質的に円筒形の形状を有し、押し出し機構8と、好ましくはフォーク形状であるステム状本体40の遠位端部8とを囲んでいる。
【0079】
操作ヘッド15の中実材料の遠位部分39は、円錐台の先端部16を有する実質的に円筒形状の蓋又はカバーの端部である先端部16に関連付けられ、蓋又はカバーは、ステム状本体40の遠位端38及び操作ヘッド15の遠位の中実材料部分39の双方を、これらと一体的に形成されるように覆っている。
【0080】
円筒形のカバーに形成されるとともに
図4において見える変形可能な要素によってスナップ係合されるように操作ヘッド15から横方向に突出するピン26が設けられている。
【0081】
器具9の操作ヘッドに固定される先端部16が穴5に挿入されると、操作ヘッド15の遠位面が、上腕骨の骨端において座部6の凹部4に嵌まって接触する。
【0082】
押し出し機構8は弾性要素34も備え、弾性要素34は、ステム状本体40と操作ヘッド15との間に配置されるとともに、ステム状本体40及び操作ヘッド15を互いから離れるように、したがって切削要素30を前記休止位置に向かって絶えず押しやっている。
【0083】
先端部16の側部開口27は、切削要素30のブレード31が十分に出現することを可能にするように、
図7に示されるように先端部の全体的な長手方向の延びに沿って延びる開口である。
【0084】
押し出し機構8と、任意の場合にステム状本体40の遠位端部38とは、所定の長手方向移動だけ操作ヘッド15内を摺動可能である。ステム状本体40のフォーク形状の遠位端38は、案内スロット33を介してピン35に係合し、したがって、切削要素30を、弾性手段34の作用に抗してその適合する座部18内で摺動させる。
【0085】
ステム状本体40の遠位端38は、円形の断面と、操作ヘッド15の内径よりも小さい直径とを有し、弾性要素34の一部を受け入れるとともに圧縮及び解放段階中に案内する機能を有している。
【0086】
ステム40の把持部19に対して作用する、外科医が加える押す力、すなわち押圧力によって、ブレード31を、弾性的な回復手段34の作用に抗して徐々に突出させることができ、それによって、器具の360°の回転とともに切除作用が徐々に生じる。
【0087】
鎌のように作用し、骨インサート2の深い基部の切除の動作、したがって、円形の切り込み7を行うブレード31が完了すると、器具9を取り出すことができ、操作ヘッド15の先端部16内に切削要素30を回復させるそれらの弾性的な回復作用を行う弾性手段34を解放する。
【0088】
このように、器具は再び自由になり、取り出すことができる。
【0089】
骨インサート2の取り出しのために手術される骨Mの端部3は、骨インサート2の深い基部47が円形の切れ目7によって画定されている
図10に示されるような断面を有している。
【0090】
この時点で、
図11及び
図12にはっきりと示されるような、外周の溝を有する係合部分24を有するとともに、座部6の適合する凹部4内でフランジが支持接触するまで締まり嵌めによって穴5内に挿入される、「メタルバック」とも呼ばれるピン要素25を挿入することが可能である。
【0091】
フランジ23は、骨スクリュを安定させる穴を有している。
【0092】
その後、本発明による方法は、連続的な終わりの手術ステップを想定し、そのうちの幾つかは任意であるものとして規定することができる。
【0093】
例えば、
図13は、ピン要素25内に挿入されるねじ端44を有する案内ロッド45を示している。
【0094】
ピン24は内部が中空であり、案内ロッド45の上述した端44が内部で係合することができるねじ山を有している。
【0095】
この案内ロッドは、フランジ23の周りで骨インサート2のコア穿孔を行うように設計されている本質的に円形形状の端部工具48が設けられたフライス50の案内部として働く。
【0096】
図15は、上腕骨Mの頭部に対してフライス50の工具48が行う作用を概略的に示している。
【0097】
外周のフライス削り又はコア穿孔作業は、円形の切れ目7までの深さを貫入する円筒形の切れ目43を作る。このように、骨インサート2は、周囲の骨物質から容易に切除され、好適な取り出し器具によって容易に取り出すことができる。
【0098】
次に、フライス50を取り出し、把持ヘッド54を有する抜き取り具55を用いて、このように切り取った骨インサート2を取り出す。
図18にはっきりと示されるように、抜き取り具55は更に、ピン要素25に依然として締結されている案内ロッド45に沿って案内される。把持ヘッド54はピン要素25のフランジ23にスナップ係合し、ピン要素25に取り付けられた骨インサートを取り出すことができる。
【0099】
より具体的には、メタルバック25の抜き取り具55は案内ロッド45にスナップ係合する。把持ヘッド54は、抜き取り具の軸を中心とする回転運動を安定させ、したがって骨インサートの方向の調整を可能にするために、メタルバック25のフランジ23のねじ穴内に入る。
【0100】
骨Hの骨端3からの骨インサート2の取り出しを可能にする手術ステップは、以下のように極めて簡潔にまとめることができる。
−骨インサート2が取り出される骨部分内に所定の直径の穴5を形成し、
−穴5に、切削要素30が設けられている器具9の操作端16を挿入し、
−切削要素30を、操作ヘッド15の先端部16内に隠れるように収容される休止位置から、前記先端部16の側部開口27を通して突出する動作位置まで、器具9の長手方向軸x−xに対して横断方向に移動可能に案内し、
−
図7にはっきりと示されるように、器具9を360°回転させることによって骨インサート2の基部に深く切り込みを入れ、
−器具9を穴5から取り出し、
−ピン要素25を前記穴5に挿入するとともに固定し、
−フライス50を前記ピン要素25上にセンタリングすることによって、所定の直径の骨インサート2の外周をフライス削りし、
−骨インサート2及び骨インサート2に取り付けられているピン要素25を取り出す。
【0101】
座部6が表面の凹部4も有することは完全に任意である。明らかに、この表面の凹部4は有利には、ピン要素25に取り付けられているフランジ23を受け入れることができる。
【0102】
このフランジ23はピン要素25と一体的であり、骨インサート2の取り出しは、抜き取り具55を用いてフランジ23に係合することによって行われ、これは
図17及び
図18において分かる。
【0103】
骨インサート2の円形の基部47に深く切り込みを入れると、フライス削り作業を行う前であっても骨インサート2に固定されているピン要素25のフランジ23の周りを囲む円形のフライスを用いて骨インサートの外周をフライス削りすることが単に必要とされる。
【0104】
本発明による器具及び方法の結果として、埋め込まれるプロテーゼと組み合わせるのに有用な骨インサートを取り出すように設計されている手術ステップを減らすとともにスピードアップすることが可能であることが完全に明らかである。
【0105】
取り出し方法は、従来技術によって提案される方法よりも更に低侵襲的であり、骨物質の大部分を保存し、取り出される骨インサートに使用することを可能にする。