特許第6633846号(P6633846)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6633846付加反応硬化型樹脂組成物及び光半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6633846
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】付加反応硬化型樹脂組成物及び光半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20200109BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20200109BHJP
   C08K 5/3477 20060101ALI20200109BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20200109BHJP
   H01L 33/56 20100101ALI20200109BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08L83/05
   C08K5/3477
   C09K3/10 G
   H01L33/56
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-129566(P2015-129566)
(22)【出願日】2015年6月29日
(65)【公開番号】特開2017-14327(P2017-14327A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年4月18日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】間下 琢史
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/005247(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/176238(WO,A1)
【文献】 特開2010−109034(JP,A)
【文献】 特開2005−307015(JP,A)
【文献】 特開2015−110694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
H01L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロシリル化反応によりSiH基と反応する官能基を1分子中に2個以上有する有機環状化合物としてイソシアヌル酸誘導体(A)と、
1分子中にSiH基と反応する珪素結合アルケニル基を少なくとも2個有し、少なくとも1個の珪素結合アリール基を有すると共に、シロキサン単位として少なくともSiO3/2単位又はSiO4/2単位のいずれか一つを有する分岐鎖状オルガノポリシロキサン(B)と、
1分子中に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノ水素ポリシロキサン(C)と、
付加反応に必要な硬化触媒(D)とを含み、
有機環状化合物(A)と分岐鎖状オルガノポリシロキサン(B)の全アルケニル基に対するオルガノ水素ポリシロキサン(C)の珪素原子結合水素基のモル比が0.1〜4.0であり、
有機環状化合物(A)と分岐鎖状オルガノポリシロキサン(B)とオルガノ水素ポリシロキサン(C)の合計100重量部に対して有機環状化合物(A)は3.1〜50重量部であることを特徴とする付加反応硬化型樹脂組成物。
【請求項2】
イソシアヌル酸誘導体(A)が、トリアリルイソシアヌレート及びジアリルモノグリシジルイソシアヌレート及びモノメチルジアリルイソシアヌレートからなる群より選択されることを特徴とする請求項1記載の付加反応硬化型樹脂組成物。
【請求項3】
分岐鎖状オルガノポリシロキサン(B)は珪素原子に結合した有機置換基全体の0〜70モル%がフェニル基であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の付加反応硬化型樹脂組成物。
【請求項4】
オルガノ水素ポリシロキサン(C)は珪素原子に結合している水素原子の含有量が1.0mmol/g〜20.0mmol/gであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の付加反応硬化型樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項のいずれかに記載の付加反応硬化型樹脂組成物の硬化物で光半導体素子が封止されていることを特徴とする光半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素透過率が低く、硫黄から生じるガス等のガスバリア性が良好で、高い屈折率を有し、高温環境下でも透過率が落ちることなく、変色しづらい性能を有する付加反応硬化型樹脂組成物及び光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、LEDなどの光半導体封止用の組成物として、シリコーン樹脂組成物が使用されており、一般的にはジメチルシロキサンを含む付加反応硬化型シリコーン樹脂組成物が使用されている。特に最近では高い透明性と屈折率を得ることを目的として、フェニル変性したオルガノポリシロキサンが光半導体封止用のシリコーン樹脂組成物として提案されている(特許文献1乃至特許文献5)。
【0003】
特許文献1に係る光学用硬化性シリコーン組成物は、(A)両末端にビニル基を有し、他の有機基がメチル基とフェニル基とからなる線状オルガノポリシロキサン、(B)CH=CH(CHSiO0.5、(CHSiO0.5、PhSiO1.5(ただし、Phはフェニル基である)とSiOシロキサン単位とからなり、SiO単位に対するCH=CH(CHSiO0.5単位と(CHSiO0.5単位との合計のモル比が0.5〜2.0であり、分子中のケイ素原子に結合した全有機基の9モル%以上はフェニル基である分岐したオルガノポリシロキサン共重合体、(C)有機基がメチル基またはフェニル基であり、前記(A)成分および(B)成分と相溶性を有するオルガノハイドロジエンポリシロキサン、および(D)白金系触媒を含有してなる光学用硬化性シリコーン組成物である。
【0004】
また特許文献2に係る硬化性シリコーンゴム及び半導体装置は、(A)該文献に示される一般式(1)で表され、25℃において10〜1,000,000mPa・sの粘度を有する直鎖状オルガノポリシロキサン(A−1)、または、前記オルガノポリシロキサン(A−1)と、レジン構造のオルガノポリシロキサン(A−2)であって、SiO単位、RkRpSiO0.5単位及びRqRrSiO0.5単位からなる(但し、上記式において、Rはビニル基又はアリル基、Rは脂肪族不飽和結合を含まない一価炭化水素基、kは2又は3、pは0又は1で、k+p=3、qは0又は1、rは2又は3で、q+r=3である。)オルガノポリシロキサンとの組み合わせ、(B)一分子中にSiH基を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)金属系縮合反応触媒、(D)白金族金属系付加反応触媒、及び(E)アルケニル基、アルコキシ基、及びエポキシ基から選ばれる官能性基を少なくとも2種含有するオルガノポリシロキサン接着付与成分を含有して成り、(A)成分、(B)成分及び(E)成分の何れもが芳香族基を含有し、(A)成分、(A)成分と(B)成分の混合物、及び(E)成分各々の屈折率のうちの最大値と最小値の差が0.03以下であることを特徴とする硬化性シリコーンゴム組成物である。
【0005】
また特許文献3に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び半導体装置は、(A)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合アルケニル基と少なくとも1個のケイ素原子結合アリール基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン、(B)一分子中に少なくとも1個のケイ素原子結合アルケニル基と少なくとも1個のケイ素原子結合アリール基を有し、一般式:RSiO3/2(式中、Rは置換または非置換の一価炭化水素基である。)で表されるシロキサン単位を有する分岐鎖状のオルガノポリシロキサン{(A)成分に対する本成分の含有量の比が重量単位で1/99〜99/1となる量}、(C)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン{(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して1〜200重量部}、および(D)ヒドロシリル化反応用触媒(本組成物の硬化を促進する量)からなる硬化性オルガノポリシロキサン組成物である。
【0006】
また特許文献4に係る付加硬化型シリコーン組成物は、(A)1分子中に少なくとも1個のケイ素原子に結合するアルケニル基を有し、PhSiO2/2 単位(ただし、Phはフェニル基である)を20〜60モル%含有する直鎖状オルガノポリシロキサン;100重量部、(B)ViRSiO2/2単位2〜20モル%、PhSiO3/2単位10〜80モル%、PhSiO2/2単位10〜80モル%およびRSiO2/2単位0〜30モル%からなり、残存水酸基をRSiO1/2単位で封鎖してなる分岐状オルガノポリシロキサン;10〜300重量部(式中、Viはビニル基、Phはフェニル基、Rは脂肪族不飽和基を含まない1価の炭化水素基、Rはメチル基またはフェニル基である)、(C)RHSiO1/2単位およびSiO単位からなり、1分子中におけるSiO単位数が1〜10個の割合が70%以上であるオルガノハイドロジェンシロキサン;(A)、(B)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対してSiH結合が0.4〜3モルとなる量(式中、Rは脂肪族不飽和基を含まない1価の炭化水素基である)、(D)ヒドロシリル化反応用触媒を含有してなる付加硬化型シリコーン組成物である。
【0007】
また特許文献5に係る付加硬化型シリコーン組成物、及び該組成物の硬化物により半導体素子が被覆された半導体装置は、少なくとも、(A)下記平均単位式(1)で表されるオルガノポリシロキサン:100質量部、(RSiO3/2a1(RSiO2/2b1(RSiO1/2c1(X1/2d1 (1)、{式中、R 1 は同一又は異なっていても良い、置換又は非置換の一価炭化水素基(但し、Rの0.1〜50モル%はアルケニル基であり、R 1 の10モル%以上はアリール基である)であり、Xは水素原子又はアルキル基である。a1は0.25〜1、b1は0〜0.75、c1は0〜0.3、d1は0〜0.1であり、a1+b1+c1+d1は1である。}、(B)下記平均単位式(2)で表されるオルガノポリシロキサン:1〜99質量部、 (RSiO3/2a2(RSiO2/2b2(RSiO1/2c2(X1/2d2 (2)、{式中、Rは同一又は異なっていても良い、置換又は非置換の一価炭化水素基(但し、Rの0.001〜20モル%はアルケニル基であり、Rの10モル%以上はアリール基である)であり、Xは水素原子又はアルキル基である。a2は0.005〜0.1、b2は0.5〜0.95、c2は0.005〜0.1、d2は0〜0.1であり、a2+b2+c2+d2は1である。}、(C)下記平均組成式(3)で表される、1分子中に少なくとも2個のSi−H結合を有し、ケイ素原子に結合したR’とHの合計の5モル%以上がフェニル基であるオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)+(B)成分の合計100質量部に対して1〜200質量部となる量、R’a’b’SiO[(4−a’−b’)/2] (3)、(式中、R’は脂肪族不飽和炭化水素基を除く、同一又は異なっていても良い、置換又は非置換の一価炭化水素基である。a’,b’は0.7≦a’≦2.1、0.01≦b’≦1.0、かつ0.8≦a’+b’≦2.7を満たす正数である。)及び(D)ヒドロシリル化反応用触媒:本組成物の硬化を促進する量を含有することを特徴とする付加硬化型シリコーン組成物である。
【0008】
しかしながら、これらの付加反応硬化型シリコーン組成物では、空気中に存在する酸性成分である、例えば硫黄から生じるガス等の腐食性ガスによりLED等の光反射板として用いられている銀メッキ表面の腐食が生じ、点灯時または外部高温環境下では上記銀メッキ表面の腐食が促進されることがあり、結果としてLEDの輝度が低下する場合があるという課題がある。
【0009】
これに対して、オルガノポリシロキサン系組成物を封止剤として用いてなる光学デバイスであって、該組成物の硬化後の透湿度が30g/m/24h以下であり、該組成物が、(A)アルケニル基を含有する多面体構造ポリシロキサン系化合物(a)に対して、ヒドロシリル基を有する化合物(b)を変性して得られた多面体構造ポリシロキサン変性体、(B)1分子中にアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン、(C)1分子中にアルケニル基またはヒドロシリル基を1個有する有機ケイ素化合物、から成るオルガノポリシロキサン系組成物であることを特徴とする光学デバイスが提案されている(特許文献6)。
【0010】
しかしながら、該特許文献6に示されるオルガノポリシロキサン系組成物を用いた光学デバイスは、特別の構造を有する化合物又はオルガノポリシロキサンを使用しなければならず、該化合物等を得るために時間と手間を有し、製造時に触媒として使用する白金錯体を十分除去しないと、保存時安定性が悪くなるという課題があると共に、該文献にはオルガノポリシロキサン系組成物の硬化後の透湿度が示されているのみであって、上記銀メッキ表面の腐食保護の観点から求められる評価項目である酸素透過率が高い場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−134358号公報
【特許文献2】特許第5136963号公報
【特許文献3】特許第4409160号公報
【特許文献4】特許第4180474号公報
【特許文献5】特許第5524017号公報
【特許文献6】特開2012−12556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、特許文献6に示されるような特別の構造を有する化合物やオルガノポリシロキサンを使用することなく、酸素透過率が低く、また硫黄から生じるガス等のガスバリア性が良好で、LED等の光反射板に用いられている銀メッキ表面が腐食されることが無く、さらにはLED封止剤として使用した際の高温環境下でも光の透過率が落ちることなく、変色が少ない付加反応硬化型樹脂組成物及び光半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、
ヒドロシリル化反応によりSiH基と反応する官能基を1分子中に2個以上有する有機環状化合物としてイソシアヌル酸誘導体(A)と、
1分子中にSiH基と反応する珪素結合アルケニル基を少なくとも2個有し、少なくとも1個の珪素結合アリール基を有すると共に、シロキサン単位として少なくともSiO3/2単位又はSiO4/2単位のいずれか一つを有する分岐鎖状オルガノポリシロキサン(B)と、
1分子中に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノ水素ポリシロキサン(C)と、
付加反応に必要な硬化触媒(D)とを含み、
有機環状化合物(A)と分岐鎖状オルガノポリシロキサン(B)の全アルケニル基に対するオルガノ水素ポリシロキサン(C)の珪素原子結合水素基のモル比が0.1〜4.0であり、
有機環状化合物(A)と分岐鎖状オルガノポリシロキサン(B)とオルガノ水素ポリシロキサン(C)の合計100重量部に対して有機環状化合物(A)は3.1〜50重量部であることを特徴とする付加反応硬化型樹脂組成物を提供する。
【0014】
また、請求項2記載の発明は、イソシアヌル酸誘導体(A)が、トリアリルイソシアヌレート及びジアリルモノグリシジルイソシアヌレート及びモノメチルジアリルイソシアヌレートからなる群より選択されることを特徴とする請求項1記載の付加反応硬化型樹脂組成物を提供する。
【0015】
また、請求項3記載の発明は、分岐鎖状オルガノポリシロキサン(B)は珪素原子に結合した有機置換基全体の0〜70モル%がフェニル基であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の付加反応硬化型樹脂組成物を提供する。
【0016】
また、請求項4記載の発明は、オルガノ水素ポリシロキサン(C)は珪素原子に結合している水素原子の含有量が1.0mmol/g〜20.0mmol/gであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の付加反応硬化型樹脂組成物を提供する。
【0017】
また、請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項のいずれかに記載の付加反応硬化型樹脂組成物の硬化物で光半導体素子が封止されていることを特徴とする光半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の付加反応硬化型樹脂組成物は、特別の構造を有する化合物やオルガノポリシロキサンを使用することなく、酸素透過率が低く、また硫黄から生じるガス等のガスバリア性が良好であるという効果があり、LED等の光反射板に用いられている銀メッキ表面が腐食されることが無い、という効果がある。また、実際のLEDの使用で高温になった時でも光の透過率が低下しにくく、変色が少ないという効果があり、LEDなどの光半導体を封止するのに適しているという効果がある。
【0020】
また、請求項6記載の光半導体装置は、酸素透過率が低く、また硫黄から生じるガス等のガスバリア性が良好な付加反応硬化型樹脂組成物によって光半導体素子が封止されているため、反射板や電極部に用いられることのある銀メッキが腐食することがないという効果があり、このため輝度の低下が生じないという効果がある。また、実際のLEDの使用時の高温環境下でも樹脂の劣化が少なく、輝度の低下が生じにくいという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る付加反応硬化型樹脂組成物について具体的に説明する。
【0022】
<有機環状化合物(A)>
有機環状化合物(A)は、ヒドロシリル化反応によりSiH基と反応する官能基を1分子中に2個以上有する有機環状化合物(A)であって、本発明に係る付加反応硬化型樹脂組成物の硬化物の酸素透過率を低減させ硫黄から生じるガス等のガスバリア性を良好とすることを目的として配合され、例えば下記一般式(1)で示される化合物である。
【0023】
【化1】
【0024】
上記式(1)中、R1は炭素数1〜50の一価の有機基であって、3個のRは同一であっても異なっていてもよく、3個のRのうち少なくとも2個はSiH基と反応する炭素−炭素二重結合を含む基である。これらに該当する有機環状化合物としては、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、モノメチルジアリルイソシアヌレートがある。
【0025】
該有機環状化合物(A)の配合量は、該有機環状化合物(A)と以下に示す直鎖状オルガノポリシロキサン(B)とオルガノ水素ポリシロキサン(C)の合計100重量部に対して1〜50重量部であることが好ましく、より好ましくは5〜30重量部である。1重量部未満では酸素透過率が高くなると共に硫黄から生じるガス等のガスバリア性が低下する。50重量部超では硬化不良が起こりやすくなり、十分な硬度を得ることが出来なくなる。5重量部未満では酸素透過率が高くなると共に硫黄から生じるガス等のガスバリア性が低下する傾向にあり、30重量部超では硬化物の硬度が低下する傾向がある。
【0026】
<分岐鎖状オルガノポリシロキサン(B)>
分岐鎖状オルガノポリシロキサン(B)は、1分子中にSiH基と反応する珪素結合アルケニル基を少なくとも2個有し、少なくとも1個の珪素結合アリール基を有すると共に、シロキサン単位として少なくともSiO3/2単位又はSiO4/2単位のいずれか一つを有する分岐鎖状オルガノポリシロキサン(B)であって、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基などの炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサンであり、末端や繰り返し単位中のケイ素に結合した他のオルガノ基として、フェニル基、ベンジル基、トリル基等のアリール基などが結合している。また、シロキサン単位として、少なくともSiO3/2単位又はSiO4/2単位のいずれか一つを有し、具体例としては、分岐鎖状のメチルフェニルビニルポリシロキサンが挙げられる。珪素原子に結合したアリール基がフェニル基である場合は、珪素原子に結合した有機置換基全体の0〜70モル%がフェニル基であることが好ましい。本発明においてはフェニル基が0%モルであっても、分岐鎖状のオルガノポリシロキサン(B)を使用することで硫黄から生じるガス等に対するガスバリア性は良好となるが、70モル%超では耐熱性が不十分となり硬化物が黄変し易く成る。
【0027】
<オルガノ水素ポリシロキサン(C)>
オルガノ水素ポリシロキサン(C)は、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノ水素ポリシロキサン(C)であり、少なくと末端又は繰返し構造中において、2個以上のSiH基を含有する。珪素原子に結合している水素原子の含有量は1.0mmol/g〜20.0mmol/gであることが好ましく、1.0mmol/g以上であると硬化性がよくなり、硬さも得やすくなる。水素原子の含有量が20.0mmol/g超であると、硬化物表面にタックが生じやすくなる。良好な硬さを得るためには水素原子含有比率を1.5mmol/g以上であることがより好ましい。タックを生じ難くするためには水素原子含有量は10.0mmol/g未満であることがより好ましい。珪素原子に結合するオルガノ基としては、メチル基、エチル基、フェニル基などが例示される。該オルガノ水素ポリシロキサンは、例えば直鎖状または分岐鎖状、であってもよく、具体例としては、メチルフェニル水素ポリシロキサンが挙げられる。
【0028】
有機環状化合物(A)と分岐鎖状オルガノポリシロキサン(B)の全アルケニル基に対するオルガノ水素ポリシロキサン(C)の珪素原子結合水素基のモル比は0.1〜4.0であることが好ましく、該モル比が0.1未満及び4.0超では、硬化物として十分な強度を得ることが出来ない。
【0029】
<付加反応に必要な硬化触媒(D)>
付加反応に必要な硬化触媒(D)は、有機環状化合物(A)成分と分岐鎖状オルガノポリシロキサン(B)成分とオルガノ水素ポリシロキサン(C)成分のヒドロシリル化反応を促進させるために添加され、ヒドロシリル化反応の触媒活性を有する公知の金属、金属化合物、金属錯体などを用いることができる。特に白金、白金化合物、それらの錯体を用いることが好ましい。これらの触媒は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、助触媒を併用してもよい。付加反応触媒(C)の配合量は組成物全体に対して1ppm〜50ppmとすることが好ましく、より好ましくは5〜20ppmである。1ppm未満では硬化性が低下し十分な硬さが得にくくなり、50ppm超では硬化後の透明性が低下する要因となる。
【0030】
本組成物には、その他任意の成分として、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、エチニルシクロヘキサノール等のアルキンアルコール;3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−イン等のエンイン化合物;1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン、1,3ジビニルテトラメチルジシロキサン等の脂肪族不飽和結合を有する化合物、ベンゾトリアゾール等の反応抑制剤を含有してもよい。この反応抑制剤は硬化性を抑制しない程度の含有量として(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計100重量部に対して0.0001〜1重量部の範囲内であることが好ましい。
【0031】
また、本組成物には、その接着性を向上させるために接着性付与剤を含有してもよい。この接着性付与剤としては、エポキシ基またはアルコキシ基含有有機ケイ素化合物、またはそれらの縮合物を用いても良い。このアルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基が例示され、特に、メトキシ基であることが好ましい。また、この有機ケイ素化合物のケイ素原子に結合するアルコキシ基以外の基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン置換アルキル基等の置換もしくは非置換の一価炭化水素基;3−グリシドキシプロピル基、4−グリシドキシブチル基等のグリシドキシアルキル基;2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピル基等のエポキシシクロヘキシルアルキル基;4−オキシラニルブチル基、8−オキシラニルオクチル基等のオキシラニルアルキル基等のエポキシ基含有一価有機基;3−メタクリロキシプロピル基等のアクリル基含有一価有機基;水素原子が例示される。またこの有機ケイ素化合物は前記(A)成分又は(B)成分と反応し得る基を有することが好ましく、具体的には、ケイ素原子結合アルケニル基またはケイ素原子結合水素原子を有することが好ましい。また、各種の基材に対して良好な接着性を付与できることから、この有機ケイ素化合物は一分子中に少なくとも1個のエポキシ基含有一価有機基を有するものであることが好ましい。
【0032】
また、本組成物には、さらに耐熱性を向上させるために酸化防止剤を含有してもよい。この酸化防止剤としては一般的に使用されているものを用いる事ができる。例えばヒンダートフェノール系の他、リン系、ヒンダートアミン系、チオエーテル系酸化防止剤が挙げられる。この酸化防止剤の含有量として(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計100重量部に対して0.0001〜1重量部の範囲内であることが好ましい。
【0033】
また本組成物には発明の目的を損なわない程度に、その他任意成分として粘度調整、硬さ調整のために炭酸カルシウム、硅砂、タルク、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、カオリン、二酸化ケイ素、メラミン等の無機充填材を含有してもよく、有機充填材、硬化樹脂の補強のためにガラス繊維等の補強材、軽量化及び粘度調整などのためにシラスバルーン、ガラスバルーン等の中空体を添加できる。その他、酸化防止剤、有機顔料、蛍光顔料、腐食防止剤などを適宜使用することができる。
【0034】
本発明の請求項6に記載の光半導体装置は、上記請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の付加反応硬化型樹脂組成物の硬化物により光半導体(LED)等の光半導体素子が封止されている光半導体装置である。
【実施例】
【0035】
次に、本発明である付加反応硬化型樹脂組成物について、実施例及び比較例により詳細に説明する。
【0036】
<実施例及び比較例>
有機環状化合物(A)として、トリアリルイソシアヌレート(A−1)、及びジアリルモノグリシジルイソシアヌレート(A−2)を、分岐鎖状オルガノポリシロキサン(B)として、末端がM単位、MVi単位で封止され、中間単位がD単位、T単位からなり、粘度20.0Pa.s/25℃で質量平均分子量が1,500であり、有機置換基全体に対するフェニル基の含有量が50モル%である分岐鎖状メチルフェニルビニルポリシロキサン(B−1)、及び末端M単位、MVi単位で封止され、中間単位がD単位、Q単位を含有し、粘度10.0Pa.s/25℃で質量平均分子量が1,500で、有機置換基全体に対するフェニル基の含有量が50モル%である分岐鎖状メチルフェニルビニルポリシロキサン(B−2)、末端M単位、MVi単位で封止され、T単位を含有し、粘度18.0Pa・s/25℃で質量平均分子量1,500で、有機置換基全体に対するフェニル基の含有量が60モル%である分岐鎖状メチルフェニルビニルオルガノポリシロキサン(B−3)を、オルガノ水素ポリシロキサン(C)として、末端M単位、M単位で封止され、D単位、T単位を含有し、粘度4.5Pa.s/25℃で質量平均分子量が1,500、珪素原子に結合した水素原子の含有量が2.08mmol/gである分岐鎖状メチルフェニルビニルポリシロキサン(C−1)、(M2で表される粘度0.0004Pa.s/25℃で質量平均分子量が332で、珪素原子に結合した水素原子の含有量が6.01mmol/gである直鎖状メチルフェニル水素オルガノポリシロキサン(C−2)を、付加反応に必要な硬化触媒(D)として、白金―ビニルダイマー錯体(Pt:12%wt)(D−1)を、この他に両末端MVi単位で封止され、中間単位がD単位、DVi単位を含有し、粘度7.0Pa.s/25℃で質量平均分子量が8,300であり、有機置換基全体に対するフェニル基の含有量が42モル%である直鎖状オルガノポリシロキサン(b−1)を、それぞれ使用し、表1の配合にて均一に混合し実施例又は比較例の付加反応硬化型樹脂組成物を得た。表1中の数字は重量部を示す。なお、上記略号はそれぞれ以下の構造式で表される。
【0037】
M単位:(CHSiO1/2
Vi単位:(CH(CH=CH)SiO1/2
単位:(CHHSiO1/2
D単位:(CHSiO2/2 又は(CSiO2/2又は(CH3)(C)SiO2/2
Vi単位:(CH)(CH=CH)SiO2/2
単位:(CH)HSiO2/2
T単位:(CSiO3/2
Q単位:SiO4/2
【0038】
【表1】
【0039】
<評価項目及び評価方法>
【0040】
<外観>
各付加反応硬化型樹脂組成物を150℃4時間で硬化させ、厚み6mmの試験体を作成し、23℃下にて目視にて外観を評価した。
【0041】
<デュロメータ硬さ>
各付加反応硬化型樹脂組成物を150℃4時間で硬化させ、厚み6mmの試験体を作成した。JIS K6253−3(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−硬さの求め方−第3部:デュロメータ硬さ)に準拠し、タイプA、またはタイプDデュロメータを用いて23℃においてデュロメータ硬さを測定した。
【0042】
<酸素透過度>
各付加反応硬化型樹脂組成物を150℃4時間で硬化させ、厚さ1mmのシート作成した。JIS K7126−1 プラスチックーフィルム及びシート−ガス透過度試験方法−第1部:差圧法 に準拠し、酸素透過度(cc/m・24h・atm)を測定した。
【0043】
<耐硫黄腐食性>
底部が銀メッキされているLEDパッケージ(外形寸法50×50mm)に各付加反応硬化型樹脂組成物を充填し、150℃4時間で硬化させて試験体とする。該試験体を各々3個ずつ硫黄粉末1gが予め充填された100ccガラスビンに封入し、80℃24時間放置した。その後試験体を取り出し底部の銀メッキの腐食の程度を目視にて観察し、腐食無しを○、部分的に腐食ありを△、全面腐食を×と評価した。
【0044】
<透過率>
各付加反応硬化型樹脂組成物を150℃4時間で金型により硬化させ、厚み4mmの試験体を作成し、該試験体を紫外可視分光光度計(島津製作所製)を用いて450nmの透過率(%)を測定した。
【0045】
<耐熱試験後透過率>
上記透過率の測定に使用した試験体をさらに150℃に設定した対流式オーブン内に300時間保存した後、再度、紫外可視分光光度計(島津製作所製)を用いて450nmの透過率(%)を測定して耐熱試験後透過率とし、上記透過率に対する変化率(%)を測定した。
【0046】
<評価結果>
評価結果を表2に示す。
【0047】
【表2】