特許第6633872号(P6633872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6633872
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】半導体材料
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/30 20060101AFI20200109BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20200109BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20200109BHJP
   C07D 487/14 20060101ALN20200109BHJP
【FI】
   H01L29/28 250F
   H01L31/04 152G
   H01L31/04 152B
   H01L29/28 100A
   !C07D487/14
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-169260(P2015-169260)
(22)【出願日】2015年8月28日
(65)【公開番号】特開2017-43580(P2017-43580A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】大久保 貴志
(72)【発明者】
【氏名】樋元 健人
(72)【発明者】
【氏名】河野 由樹
(72)【発明者】
【氏名】中谷 研二
(72)【発明者】
【氏名】武田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】前川 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】黒田 孝義
【審査官】 西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0073172(US,A1)
【文献】 特開2015−153864(JP,A)
【文献】 特開2002−094085(JP,A)
【文献】 特表2013−541217(JP,A)
【文献】 特表2014−507406(JP,A)
【文献】 特開2006−302849(JP,A)
【文献】 M. M. Abou Sekkina,Further Studies on the Effects of 60Co γ-Ray Irradiation, Temperature and Medium of Preparation on the Electrical Conductivity of Copper Complexes of Quinaldic Acid and Some Quinaldates,Isotopenpraxis,1985年,Vol. 21, No. 1,pp. 14-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C07F
H01L
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンに配位可能な窒素原子を骨格に含むπ共役有機分子とチオシアン酸銅からなり、前記π共役有機分子と前記チオシアン酸銅の銅イオンが配位結合しており、
前記π共役有機分子がヘキサアザトリフェニレンを骨格に含むことを特徴とする半導体材料。
【請求項2】
請求項1に記載された半導体材料を活性層とする太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布やスプレーによって作製可能な半導体材料に関し、特にヘキサアザトリフェニレン骨格を有する有機分子とチオシアン酸銅からなるものに関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の莫大な使用によって二酸化炭素排出量が多くなり、地球温暖化が進んでいるといわれている。そのため化石燃料に変わるエネルギー源が検討されている。その中でも太陽光線を用いる太陽電池は、コストがゼロで無尽蔵ともいえる太陽光線を利用するため、大きな期待を寄せられている。また、技術的には、すでにシリコン太陽電池の発電効率が25%近くまで高まっている。しかし、パネルが高価格であることが普及を妨げている。このため、廉価な太陽電池の登場が望まれている。
【0003】
有機太陽電池は、発電層そのものを有機物で構成するものである。通常発電層は、p型半導体で生成した励起子がn型半導体との界面で電荷分離することで電流が流れる。しかし、有機物のようにキャリア移動度がそれほど高くないものは、励起子が電荷分離する前に再結合してしまい、電流を取り出しにくい。
【0004】
そこで、p型半導体材料とn型半導体材料を混合したバルクへテロ型が提案された。このバルクへテロ型の登場によって、有機太陽電池は実用化の目途がついたとも言える。バルクへテロ型有機太陽電池は、発電層そのものを材料の粉末化および混錬によるインク化、そして塗布によって製造することができる。そのため、廉価で大量生産が可能というメリットがある。
【0005】
特許文献1では、臭素またはヨウ素イオンを含むジチオカルバミン酸イオンの誘導体の配位高分子とフラーレン誘導体等の有機半導体で形成される有機太陽電池が示されている。
【0006】
有機太陽電池の実用化には、さらなる発電効率の向上が望まれる。そのためには、さまざまな材料の検討が必要となる。p型半導体材料とn型半導体材料としては、特許文献1以外にも知られている。
【0007】
例えば、n型半導体材料としては、ヘキサアザトリフェニレン誘導体が知られている。これは、有機発光表示装置の電子アクセプターとして従来から用いられている(例えば特許文献1)。
【0008】
また、p型半導体材料としては、ヨウ化銅(ハロゲン化銅)が知られている。特許文献2では、電気光学素子の材料のp型半導体材料としてヨウ化銅を用いる点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−216470号公報
【特許文献2】特開2007−264003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、π共役有機分子であるヘキサアザトリフェニレン誘導体はn型半導体特性を示すことから有機EL素子の電子輸送層などに利用されている。一方、ハロゲン化銅はp型半導体特性を示すため、色素増感太陽電池の固体電解質などにも利用可能である。また、p型半導体としては、ハロゲン化銅だけでなく、チオシアン酸銅も知られている。しかしながら、それぞれの材料はバンドギャップが大きいために単独では半導体特性を示さない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、常識的には単独では半導体特性を示さない2つの材料から発電層を形成できることを見出して完成するに至った。より具体的に本発明に係る半導体材料は、これらを混合する。すなわち、本発明は、金属イオンに配位可能な窒素原子を骨格に含むπ共役有機分子とチオシアン酸銅からなり、前記π共役有機分子と前記チオシアン酸銅の銅イオンが配位結合しており、前記π共役有機分子がヘキサアザトリフェニレンを骨格に含むことを特徴とする半導体材料を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の半導体材料は、ヘキサアザトリフェニレン骨格を有するπ共役有機分子とチオシアン酸銅を組み合わせることで、バンドギャップが比較的小さく、なおかつ強い光吸収特性を示す半導体材料が簡便に合成できる。これら半導体材料は有機薄膜太陽電池の活性層として利用可能な光吸収帯を有しており、なおかつ半導体特性を示す。
【0013】
この吸収帯およびバンドギャップは用いるπ共役有機分子の構造、もしくは反応させるチオシアン酸銅の組成比を変えることで調整可能である。また、チオシアン酸銅に別の金属ハロゲン化物を添加することで、キャリア密度の調整も可能であることから、これらをベースに様々な半導体材料の開発へと展開できる。また溶液の塗布により良質な薄膜を形成することからデバイスへの展開も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1のサンプルの反応工程を示す図である。
図2】実施例1のサンプルの吸収スペクトル特性を示すグラフである。
図3】実施例1のサンプルの光電子分光測定の結果を示すグラフである。
図4】実施例1のサンプルで作製した太陽電池の構造を示す図である。
図5図4の太陽電池のI−V特性を示すグラフである。
図6】1,4,5,8,9,12ヘキサアザトリフェニレン誘導体の例示である。
図7】1,4,5,8,9,12ヘキサアザトリフェニレン誘導体の例示である。
図8】1,4,5,8,9,12ヘキサアザトリフェニレン誘導体の例示である。
図9】1,4,5,8,9,12ヘキサアザトリフェニレン誘導体の例示である。
図10】1,4,5,8,9,12ヘキサアザトリフェニレンに硫黄を導入した誘導体の例示である。
図11】1,4,5,8,9,12ヘキサアザトリフェニレンに硫黄を導入した誘導体の例示である。
図12】1,4,5,8,9,12ヘキサアザトリフェニレンに硫黄を導入した誘導体の例示である。
図13】1,4,5,8,9,12ヘキサアザトリフェニレンに硫黄を導入した誘導体の例示である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明に係る半導体材料について図面および実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。なお、H(水素)、C(炭素)、O(酸素)、N(窒素)、F(フッ素)、Br(臭素)、Cl(塩素)、I(ヨウ素)、Mg(マグネシウム)、S(硫黄)、Cu(銅)、Ag(銀)、Au(金)については、逐次元素名の説明なく、使用される場合もある。
【0016】
本発明に係る半導体材料は、金属イオンに配位可能な窒素原子を骨格に含むπ共役有機分子とチオシアン酸銅からなり、π共役有機分子と銅イオンが配位結合している。特にπ共役有機分子としては、1,4,5,8,9,12ヘキサアザトリフェニレン(1,4,5,8,9,12−Hexaazatriphenylene:以後単に「HAT」または「ヘキサアザトリフェニレン」と呼ぶ。)を骨格中に有しているものが望ましい。HAT中には、金属イオンに配位可能な窒素原子が骨格に含まれている。また、ここでHATを骨格中に含むとは、式(1)に示すHATを分子構造中に有するものである。したがって、π共役有機分子としては、HATに官能基が結合したものを含む。
【0017】
【化1】
・・・(1)
【0018】
図6図9にHATに官能基が結合したものを例示する。ここで、図中においてRはH、RAk、CN、OH、ORAk、CHO、COOH、COORAk、CORAk、CONH、F、Cl、Br、Iである。なお、RAkは炭素数1から24までの直鎖または分岐のアルキル基である。また、図中においてXはCHまたはNである。
【0019】
また、図10から図13にHATに硫黄が導入された場合を例示する。ここで、RはH、CN、OH、ORAk、CHO、COOH、COORAk、CORAk、C=C(CN)COORAk、CONH、F、Cl、Br、I、RAkである。なお、一つの配位子にこれらの置換基が混在したものも含むものである。また、RAkは炭素数1〜24の直鎖または分岐のアルキル基であり、XはCHまたはNである。
【0020】
チオシアン酸銅は、HATを分子構造中に有する有機分子(以後「HAT誘導体」と呼ぶ。)に配位する。HAT誘導体は、電子受容体(n型半導体特性)としての特性を有し、銅イオンは電子供与体(P型半導体特性)としての特性を有する。したがって、まず、HAT誘導体はダイオード(半導体材料)として機能する。
【0021】
また、これらの混合物は、光によってチオシアン酸銅からHAT誘導体への電荷移動によって生成したホールと電子がチオシアン酸銅およびHAT誘導体上をそれぞれ拡散することで電流が流れる。つまり太陽電池の半導体材料としても利用できる。
【0022】
なお、本発明に係る半導体材料において、チオシアン酸銅の存在は、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy:X線光電子分光)、蛍光X線分析法、ICP(Inductively Coupled Plasma:高周波誘導結合プラズマ)発光分析法等によって確認することができる。また、π共役有機分子の存在は、CHN元素分析(Elemental Analysis(Carbon,Hydrogen,Nitrogen))、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy:X線光電子分光)、赤外分光法(Infrared Spectroscopy)等によって確認することができる。また、粉末X線構造解析等によってπ−πスタックの距離を測定することでもπ共役有機分子の存在を確認することができる。
【0023】
また、チオシアン酸銅とπ共役有機分子が配位結合を形成しているか否かは、吸収スペクトルを測定することで確認することができる。チオシアン酸銅は無色透明なので可視領域に吸収がない。π共役有機分子は、共役系の広がり方や置換基によって多様な色が出る。
【0024】
チオシアン酸銅の銅イオンと結合すると一般的にπ共役有機分子の吸収より長波長側に銅イオンから配位したπ共役有機分子への電荷移動に起因する大きな吸収が出現する。仮に、配位結合を形成しなければ、配位子の吸収はほとんど変化しない。従って、配位子の吸収より長波長側に吸収が出現した場合、銅イオンが配位していることが確認できる。
【0025】
また、吸収スペクトルによって配位結合を確認できない場合でも、単結晶X線構造解析ができれば、銅イオンとπ共役有機分子の配位結合の有無を観測することができる。
【0026】
本発明に係る半導体材料の製造方法は極めて簡単である。具体的には、HAT誘導体の溶液とチオシアン酸銅の溶液を所定の割合で混合し、乾燥する事で得ることができる。HAT誘導体の量とチオシアン酸銅との混合比は、HAT誘導体の構造である程度の範囲が決まる。
【0027】
今チオシアン酸銅をCuSCNと表す。また、HAT誘導体はHATと表す。チオシアン酸銅とHAT誘導体の混合比をm:1とする。これらを混合すると式(2)の右辺で表される配位高分子が得られる。
CuSCN + HAT → [CuSCN(HAT)] ・・・(2)
【0028】
例えば、HATの、2、3、6、7、10、11の位置にシアノ基(−CN)が結合したもの({HAT−(CN)}とする。)は、mが0<m≦24の範囲で調整することができる。なお、後述する実施例ではmを1から12まで調整した。
【0029】
得られた配位高分子は、半導体領域での電気伝導性が認められる。この配位高分子は、公知の構成により太陽電池とすることができる。具体的な構造は以下の実施例で示す。
【実施例】
【0030】
以下本発明に係る半導体材料について実施例を示して説明する。以下の実施例で用いた測定に関して説明する。
【0031】
<UV−Vis−NIR拡散反射スペクトル測定および吸収スペクトル測定>
UV−Vis−NIR拡散反射(紫外・可視・近赤外拡散反射)および吸収スペクトル測定は日立社製のHITACHI/U−4100形分光光度計を用いて行った。拡散反射については、固体試料の場合MgO(80mg)に試料(0.01mmol)を混合したものを用い、薄膜の場合はガラス板もしくは石英板上に成膜し、2600〜200nmの波長で測定を行った。
【0032】
得られた反射率(%R)をクベルカ−ムンク(Kubelka−Munk)変換することにより吸光度(Abs.)を求め、Abs. vs λおよび[f(R)E]1/2 vs Eをプロットした。なお、吸光度(Abs.)は以下の式(3)で求めた。
【0033】
【数1】
・・・(3)
【0034】
吸収スペクトル測定は、薄膜試料をガラス板もしくは石英板に成膜し、2600〜200nmの波長で測定を行った。吸光度Aと吸収係数αは光の透過距離をxとして式(4)の関係があり、吸光度を測定することで吸収係数の算出が可能となる。
【0035】
【数2】
・・・(4)
【0036】
<光電子分光スペクトル測定>
光電子分光スペクトル測定は北陸先端科学技術大学院大学が所有する理研計器製のAC−2を用いた。
【0037】
<電流−電圧測定(太陽電池素子特性評価)>
太陽電池素子を作製しソーラーシミュレータから疑似太陽光を照射した状態でI−V測定を行った。この電流値を素子が照射光を受ける面積で割ることで得られるJ−Vカーブから短絡電流密度JSCと開放電圧VOCを求めた。
【0038】
FF(フィルファクター)は、J−V特性のグラフより最大電流密度Jmaxと最大電圧Vmaxの積が最大になるように定め短絡電流密度JSCと開放電圧VOSから(5)式によって求めた。
【0039】
【数3】
・・・(5)
【0040】
変換効率PCE(Power Conversion Efficiency)は、最大電流密度Jmaxと最大電圧Vmaxの積および照射光のエネルギーPincを用いて(6)式によって求めた。なお、照射光のエネルギーPincは、AM1.5G(100mW/cm)を用いた。
【0041】
【数4】
・・・(6)
【0042】
<インピーダンス分光測定>
インピーダンス分光測定は東陽テクニカ製の6440B型LCRメーターを用いて行った。作製した素子に微小正弦波電圧信号0.01Vをかけ、DCバイアスは行っていない。得られたインピーダンスのコールコールプロットの半円の直径から抵抗値を求め、モジュラスのコールコールプロットの半円の直径から静電容量(直接には静電容量の逆数)を求めた。また得られた複素インピーダンス成分(Z’,Z’’)と複素誘電率成分(ε’,ε’’)から電気伝導度や誘電率を見積もった。比誘電率は等価回路のCPE(Constant Phase Element)のキャパシタンスから(7)式により算出した。
【0043】
【数5】
・・・(7)
【0044】
なお、ここで、ε、εはそれぞれサンプルの比誘電率、真空の誘電率であり、dは電極間距離、Sは電極面積である。
【0045】
また、電気伝導度σに関しては、複素誘電率成分のε’’が内部損失を示すことから(8)式の関係より求めた。
【0046】
【数6】
・・・(8)
【0047】
なお、ここでωは角周波数である。また、これらの解析にはZViewソフトウェアを用いた。
【0048】
<電気伝導度及びキャリア移動度測定 (SCLC法)>
直流電気伝導度測定およびSCLC(Space−Charge Limited Current)法(空間電荷制限電流法)によるキャリア移動度測定はKEITHLEY 2400型汎用ソースメータとKEITHLEY 6517A 絶縁抵抗計(何れもTFFケースレーインスツルメンツ社製製品)を用い、有機薄膜トランジスタの解析ソフトである株式会社システムハウス・サンライズ社製のW32−6517TFTで測定を行った。具体的には、電圧−電流の関係をlogでプロットし、電圧の2乗に比例する電流が流れる領域における電気伝導度σSCLCを求めた。
【0049】
<実施例1>
配位高分子としてHATNAとチオシアン酸銅を用いた場合について半導体特性および太陽電池の活性層としての特性を調べた。HATANAは、HATのアゾベンゼンの外側にさらにベンゼンが結合したもので、HAT誘導体である。HATANAは以下のようにして合成した。
【0050】
トリキノイル8水和物(12.1g、38.9mmol)とo−フェニレンジアミン(12.8g、119mmol)を酢酸:エタノール=1:1の混合溶液(600mL)を溶媒として140℃で24時間加熱還流した。この混合溶液に吸引ろ過を行い、生成した沈殿を温酢酸(100℃、200mL)で洗浄した。得られた生成物を30%HNO(500mL)に懸濁させ、140℃で3時間加熱還流した後、吸引ろ過で沈殿を集めた。この沈殿をクロロホルムを溶媒としてソックスレー抽出し、精製した。精製物はHATNAである。反応工程を図1に示す。
【0051】
HATNAのクロロホルム(CHCl)溶液とCuSCNのアセトニトリル(CHCN)溶液を混合し、配位高分子[CuSCN(HATNA)]の溶液を合成した。この時、m=1、3、6のモル比で反応させた。この溶液をスプレー法で成膜し、UV−Vis−NIR吸収スペクトルを測定した。結果を図2に示す。図2では、横軸が波長(nm)であり、縦軸は吸収係数α(cm−1)である。m=1の時に可視帯域で大きな吸収が観測された。
【0052】
また、合成した溶液を濃縮し、析出してきた沈殿の光電子分光スペクトル(AC−2で測定)を測定した。その結果を図3に示す。図3では、横軸がエネルギー(eV)であり、光電子のエネルギー(任意単位)である。
【0053】
これらの結果よりそれぞれの配位高分子のHOMO、LUMO準位を算出したものを、表1に示す。何れも太陽電池の活性層として使用できる可能性がある。
【0054】
【表1】
【0055】
次に[CuSCN(HATNA)]を用いた太陽電池を作製した。作製した太陽電池の素子構造を図4に示す。まず、チタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)の75wt%のイソプロパノール溶液を0.5mLを19.5mLのエタノール溶液で薄め、この溶液をFTO(フッ素ドープ酸化スズ)基板上にスプレー法にて成膜することでコンパクト酸化チタン膜を成膜した。
【0056】
この基板を70℃に温めた四塩化チタン水溶液に30分浸し、70℃のホットプレートで加熱することで表面処理を行い、この基板を電気炉で500℃20分間加熱した。この基板上にエタノールで希釈した酸化チタンペーストをスピンコートすることで多孔性酸化チタンを成膜した。作製した基板上にHATNAとCuSCNを溶解したトルエン/アセトニトリル混合溶液をスプレー法にて塗布し、[CuSCN(HATNA)]の活性層を作製した。
【0057】
更にホール輸送層としてSpiro−OMeTAD(N2,N2,N2’,N2’,N7,N7,N7’,N7’−オクタキス(4−メトキシフェニル)−9,9‘−スピロビ[9Hフルオレン]−2,2’,7,7‘−テトラミン)、4−tert−ブチルピリジン、リチウムビス(テトラフルオロメチルサルフォニル)イミドのアセトニトリル/クロロベンゼン混合溶媒をスピンコートした。
【0058】
この素子をグローブボックス内で70℃30分乾燥させ、暗所に設置した乾燥したデシケーター内で一晩放置した。最後にAg(銀)、Au(金)を順次真空蒸着することで、太陽電池素子を作製した。その電流電圧特性および測定パラメータを表2に示す。また、測定結果を図5に示す。なお、図5および表2の中の回数は活性層をスプレー法にて成膜する際に基板に塗布したスプレー回数である。
【0059】
【表2】
【0060】
図5では、横軸に電圧(V)であり、縦軸は電流密度(mA/cm)である。数値自体は小さいものの、太陽電池特性を観測することができた。
【0061】
以上のように、HATを有するHAT誘導体とチオシアン酸銅を混合した配位高分子は、半導体材料としてはもちろんのこと、太陽電池の活性層として利用できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る半導体材料は太陽電池やFET(電界効果トランジスタ)などに好適に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13