【実施例】
【0030】
以下本発明に係る半導体材料について実施例を示して説明する。以下の実施例で用いた測定に関して説明する。
【0031】
<UV−Vis−NIR拡散反射スペクトル測定および吸収スペクトル測定>
UV−Vis−NIR拡散反射(紫外・可視・近赤外拡散反射)および吸収スペクトル測定は日立社製のHITACHI/U−4100形分光光度計を用いて行った。拡散反射については、固体試料の場合MgO(80mg)に試料(0.01mmol)を混合したものを用い、薄膜の場合はガラス板もしくは石英板上に成膜し、2600〜200nmの波長で測定を行った。
【0032】
得られた反射率(%R)をクベルカ−ムンク(Kubelka−Munk)変換することにより吸光度(Abs.)を求め、Abs. vs λおよび[f(R)E]
1/2 vs Eをプロットした。なお、吸光度(Abs.)は以下の式(3)で求めた。
【0033】
【数1】
・・・(3)
【0034】
吸収スペクトル測定は、薄膜試料をガラス板もしくは石英板に成膜し、2600〜200nmの波長で測定を行った。吸光度Aと吸収係数αは光の透過距離をxとして式(4)の関係があり、吸光度を測定することで吸収係数の算出が可能となる。
【0035】
【数2】
・・・(4)
【0036】
<光電子分光スペクトル測定>
光電子分光スペクトル測定は北陸先端科学技術大学院大学が所有する理研計器製のAC−2を用いた。
【0037】
<電流−電圧測定(太陽電池素子特性評価)>
太陽電池素子を作製しソーラーシミュレータから疑似太陽光を照射した状態でI−V測定を行った。この電流値を素子が照射光を受ける面積で割ることで得られるJ−Vカーブから短絡電流密度J
SCと開放電圧V
OCを求めた。
【0038】
FF(フィルファクター)は、J−V特性のグラフより最大電流密度J
maxと最大電圧V
maxの積が最大になるように定め短絡電流密度J
SCと開放電圧V
OSから(5)式によって求めた。
【0039】
【数3】
・・・(5)
【0040】
変換効率PCE(Power Conversion Efficiency)は、最大電流密度J
maxと最大電圧V
maxの積および照射光のエネルギーP
incを用いて(6)式によって求めた。なお、照射光のエネルギーP
incは、AM1.5G(100mW/cm
2)を用いた。
【0041】
【数4】
・・・(6)
【0042】
<インピーダンス分光測定>
インピーダンス分光測定は東陽テクニカ製の6440B型LCRメーターを用いて行った。作製した素子に微小正弦波電圧信号0.01Vをかけ、DCバイアスは行っていない。得られたインピーダンスのコールコールプロットの半円の直径から抵抗値を求め、モジュラスのコールコールプロットの半円の直径から静電容量(直接には静電容量の逆数)を求めた。また得られた複素インピーダンス成分(Z’,Z’’)と複素誘電率成分(ε’,ε’’)から電気伝導度や誘電率を見積もった。比誘電率は等価回路のCPE(Constant Phase Element)のキャパシタンスから(7)式により算出した。
【0043】
【数5】
・・・(7)
【0044】
なお、ここで、ε
r、ε
0はそれぞれサンプルの比誘電率、真空の誘電率であり、dは電極間距離、Sは電極面積である。
【0045】
また、電気伝導度σに関しては、複素誘電率成分のε’’が内部損失を示すことから(8)式の関係より求めた。
【0046】
【数6】
・・・(8)
【0047】
なお、ここでωは角周波数である。また、これらの解析にはZViewソフトウェアを用いた。
【0048】
<電気伝導度及びキャリア移動度測定 (SCLC法)>
直流電気伝導度測定およびSCLC(Space−Charge Limited Current)法(空間電荷制限電流法)によるキャリア移動度測定はKEITHLEY 2400型汎用ソースメータとKEITHLEY 6517A 絶縁抵抗計(何れもTFFケースレーインスツルメンツ社製製品)を用い、有機薄膜トランジスタの解析ソフトである株式会社システムハウス・サンライズ社製のW32−6517TFTで測定を行った。具体的には、電圧−電流の関係をlogでプロットし、電圧の2乗に比例する電流が流れる領域における電気伝導度σ
SCLCを求めた。
【0049】
<実施例1>
配位高分子としてHATNAとチオシアン酸銅を用いた場合について半導体特性および太陽電池の活性層としての特性を調べた。HATANAは、HATのアゾベンゼンの外側にさらにベンゼンが結合したもので、HAT誘導体である。HATANAは以下のようにして合成した。
【0050】
トリキノイル8水和物(12.1g、38.9mmol)とo−フェニレンジアミン(12.8g、119mmol)を酢酸:エタノール=1:1の混合溶液(600mL)を溶媒として140℃で24時間加熱還流した。この混合溶液に吸引ろ過を行い、生成した沈殿を温酢酸(100℃、200mL)で洗浄した。得られた生成物を30%HNO
3(500mL)に懸濁させ、140℃で3時間加熱還流した後、吸引ろ過で沈殿を集めた。この沈殿をクロロホルムを溶媒としてソックスレー抽出し、精製した。精製物はHATNAである。反応工程を
図1に示す。
【0051】
HATNAのクロロホルム(CHCl
3)溶液とCuSCNのアセトニトリル(CH
3CN)溶液を混合し、配位高分子[Cu
mSCN
m(HATNA)]
nの溶液を合成した。この時、m=1、3、6のモル比で反応させた。この溶液をスプレー法で成膜し、UV−Vis−NIR吸収スペクトルを測定した。結果を
図2に示す。
図2では、横軸が波長(nm)であり、縦軸は吸収係数α(cm
−1)である。m=1の時に可視帯域で大きな吸収が観測された。
【0052】
また、合成した溶液を濃縮し、析出してきた沈殿の光電子分光スペクトル(AC−2で測定)を測定した。その結果を
図3に示す。
図3では、横軸がエネルギー(eV)であり、光電子のエネルギー(任意単位)である。
【0053】
これらの結果よりそれぞれの配位高分子のHOMO、LUMO準位を算出したものを、表1に示す。何れも太陽電池の活性層として使用できる可能性がある。
【0054】
【表1】
【0055】
次に[Cu
6SCN
6(HATNA)]
nを用いた太陽電池を作製した。作製した太陽電池の素子構造を
図4に示す。まず、チタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)の75wt%のイソプロパノール溶液を0.5mLを19.5mLのエタノール溶液で薄め、この溶液をFTO(フッ素ドープ酸化スズ)基板上にスプレー法にて成膜することでコンパクト酸化チタン膜を成膜した。
【0056】
この基板を70℃に温めた四塩化チタン水溶液に30分浸し、70℃のホットプレートで加熱することで表面処理を行い、この基板を電気炉で500℃20分間加熱した。この基板上にエタノールで希釈した酸化チタンペーストをスピンコートすることで多孔性酸化チタンを成膜した。作製した基板上にHATNAとCuSCNを溶解したトルエン/アセトニトリル混合溶液をスプレー法にて塗布し、[Cu
6SCN
6(HATNA)]
nの活性層を作製した。
【0057】
更にホール輸送層としてSpiro−OMeTAD(N2,N2,N2’,N2’,N7,N7,N7’,N7’−オクタキス(4−メトキシフェニル)−9,9‘−スピロビ[9Hフルオレン]−2,2’,7,7‘−テトラミン)、4−tert−ブチルピリジン、リチウムビス(テトラフルオロメチルサルフォニル)イミドのアセトニトリル/クロロベンゼン混合溶媒をスピンコートした。
【0058】
この素子をグローブボックス内で70℃30分乾燥させ、暗所に設置した乾燥したデシケーター内で一晩放置した。最後にAg(銀)、Au(金)を順次真空蒸着することで、太陽電池素子を作製した。その電流電圧特性および測定パラメータを表2に示す。また、測定結果を
図5に示す。なお、
図5および表2の中の回数は活性層をスプレー法にて成膜する際に基板に塗布したスプレー回数である。
【0059】
【表2】
【0060】
図5では、横軸に電圧(V)であり、縦軸は電流密度(mA/cm
2)である。数値自体は小さいものの、太陽電池特性を観測することができた。
【0061】
以上のように、HATを有するHAT誘導体とチオシアン酸銅を混合した配位高分子は、半導体材料としてはもちろんのこと、太陽電池の活性層として利用できることがわかった。