(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンシーラントフィルムは、強度物性やヒートシール性、耐熱性、耐寒性に優れた包装材料として多用されている。
【0003】
しかしながら、強度物性に優れるポリエチレンシーラントフィルムでも、過度の衝撃が印加された場合にはフィルムが破断し、包装体としての密封性が損なわれる。十分な衝撃耐性を付与させるのに最も有効な手段は、フィルム厚みを増すことであるが、包装体の原価を増加させる一因となり問題であった。
【0004】
この対策として、フィルムを延伸して配向させることにより、その衝撃耐性が改善されることは知られているが、その反面、ヒートシール性が劣る等の問題を抱えていたため、シーラント用途への展開が難しかった。
【0005】
他に、厚みの増加を最小限に抑え、ポリエチレンシーラントフィルム自体の衝撃耐性を向上すべく、種々の考案がなされているが、実用化で、問題を抱えているのが現状である。
【0006】
特許文献1には、基材フィルム上に2層のシーラント層を積層した積層体が開示されており、このようなシーラント層は、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂またはメタロセン系シングルサイト触媒を用いて重合した直鎖状低密度ポリエチレン樹脂よりなるラミネート側の層と、メタロセン系シングルサイト触媒を用いて重合した直鎖状低密度ポリエチレン樹脂または直鎖状低密度ポリエチレン樹脂よりなる内容物に接する層の2層よりなっている。この積層体はブロッキングの防止を目的としており、シーラント層の表面に多数の凸部を設けたことを特徴としている。
特許文献2には、二軸延伸エチレン重合体フィルム基材層の隣接面にエチレン・α―オレフィンランダム共重合体からなる熱融着層が積層された多層ポリエチレンシーラントフィルムが開示されている。このフィルムは、透明性、収縮性、ヒートシール性、耐屈曲性に優れながら易引裂性を有することを特徴としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に関しては、多層を形成する樹脂がメタロセン系シングルサイト触媒で重合された直鎖状低密度ポリエチレンまたは直鎖状低密度ポリエチレンからなる。当該発明で用いられる直鎖状低密度ポリエチレンは透明性や低温ヒートシール性などの強度物性に優れるが、相互密着性が高くフィルムをロール状に巻き取った際に表裏面が強く密着(ブロッキング)し易く、包材加工時の取扱いに慎重な注意が必要となる。
【0009】
また、特許文献2の発明は、ヒートシール性と易引裂性、加熱による易収縮性を目的に考案されたいわゆるシュリンクフィルムであり、我々が求める高い引張強度物性と衝撃破断耐性、高剛性およびヒートシール性の両立の観点からは相反の物性が発現する。
【0010】
本発明の目的は、強度が大きく、薄肉でありながらヒートシール性が良好なシーラントフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討し、シーラントフィルムを2層以上に分けて、一方が融けていて他方が軟化している状態で延伸を行えば、融けている層は配向が起こらず軟化している層のみが配向して強度が増し、その結果、融けている層は良好なヒートシール性を発揮し、一方、配向した層は強度が増して、シーラントフィルム全体として薄肉でありながら、製膜を円滑に行うことができ、ヒートシール性も良好なフィルムが得られるだろうと考えた。
【0012】
そして、このようなフィルムを製造するには、樹脂がダイスから出てバブルを形成している間での一部延伸配向が可能なインフレーション製膜法が最適であろうと考えた。また、このフィルムを構成する各々の層は、溶融状態での接着性が良好なものがよいと考えて、2つ以上に分けた層の内、シーラント層として機能させる層には低密度ポリエチレン樹脂または直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を用い、配向させて支持層として機能させる層にはポリエチレン樹脂を用いるのがよいであろうと考えた。
【0013】
本発明は、このような考えに基いてなされたものであり、
低密度ポリエチレン樹脂または直鎖状低密度ポリエチレン樹脂からなるシーラント層と該シーラント層より融点が高いポリエチレン樹脂よりなる配向層を、該シーラント層の融点より高く、かつ配向層のビカット軟化温度より高く融点より低い温度でインフレーション法により共押出し延伸することを特徴とする多層ポリエチレンシーラントフィルムの製造方法と、
配向層のポリエチレン樹脂が低密度ポリエチレン樹脂または直鎖状低密度ポリエチレン樹脂である上記の多層ポリエチレンシーラントフィルムの製造方法と、
シーラント層の低密度ポリエチレン樹脂または直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の融点が90〜110℃、ビカット軟化温度が70〜105℃であり、配向層のポリエチレン樹脂の融点が120〜130℃、ビカット軟化温度で80〜120℃である上記の多層ポリエチレンシーラントフィルムの製造方法と、
シーラント層の低密度ポリエチレン樹脂または直鎖状低密度ポリエチレン樹脂のMFRが0.1〜5g/10分であり、配向層のポリエチレン樹脂のMFRが0.1〜5g/10分、分子量分布(Mw/Mn)が6以上、溶融張力が5〜15gである上記の多層ポリエチレンシーラントフィルムの製造方法と、
ブロー比が2〜3.5である上記の多層ポリエチレンシーラントフィルムの製造方法と、
配向層が外層となる中間層の2層よりなり、中間層のポリエチレン樹脂の融点およびビカット軟化温度が外層のポリエチレン樹脂の融点およびビカット軟化温度より低い上記の多層ポリエチレンシーラントフィルムの製造方法と、
これらの方法で製造された共押出インフレーション多層ポリエチレンシーラントフィルムと、その共押出インフレーション多層ポリエチレンシーラントフィルムと基材フィルムとを積層した包装体を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、薄肉でありながら、強度もヒートシール性も良好なシーラントフィルムを製造でき、それにより、シーラントの材料費を節減でき、また、このシーラントフィルムを包装体のシーラント層とすることにより、包装体の強度も改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の多層シーラントフィルムは、シーラント層になる樹脂と配向層となる樹脂を共押出しし、インフレーション製膜法で製膜される。
【0016】
シーラント層となる樹脂は、低密度ポリエチレン樹脂または直鎖状低密度ポリエチレン樹脂であり、MFRが0.1〜5g/10分程度、好ましくは1〜5g/10分程度、より好ましくは2〜4g/10分程度、融点が90〜110℃程度、好ましくは100〜110℃程度、ビカット軟化温度で70〜105℃程度、好ましくは90〜105℃程度のものが好ましい。また、分子量分布(Mw/Mn)は6以上のものが好ましい。特に、好ましい樹脂はシングルサイト触媒を用いて得られた直鎖状低密度ポリエチレン、特に単段重合で得られた直鎖状低密度ポリエチレンを主成分とするものである。
【0017】
シングルサイト触媒から得られる直鎖状低密度ポリエチレンは、高い引張強度物性と衝撃破断耐性を有することを特徴としている。
【0018】
尚、本明細書におけるMFRとは、「メルトフローレート」を指し、JISK7210に準拠し、ポリエチレンの場合は190℃、荷重21.18Nの条件で測定したものである。
【0019】
本明細書における分子量分布は、ゲル・パーミエィション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)を測定し、Mw/Mnを求めたものである。
【0020】
配向層となる樹脂はポリエチレン樹脂であり、高密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂などであり、シーラント層の樹脂と溶着できるものである。物性値では、MFRが0.1〜5g/10分程度、好ましくは0.1〜0.5g/10分程度、より好ましくは0.15〜0.3g/10分程度、融点が120〜130℃程度、ビカット軟化温度で80〜120℃程度、好ましくは100〜115℃程度のものが好ましい。
また、分子量分布(Mw/Mn)が6以上、溶融張力が5〜15g程度のものが好ましい。特に好ましい樹脂は直鎖状低密度ポリエチレン、特に多段重合で得られた直鎖状低密度ポリエチレンを主成分とするものである。
【0021】
本発明における溶融張力とは、長さ8mm、直径2mm、流入角90°のオリフィスが装着されたキャピラリーレオメーターを用いて、温度190℃、ピストン降下速度10mm/分、巻取り速度10m/分、における引き取りに必要な荷重(g)である(JIS K7119)。
【0022】
直鎖状低密度ポリエチレンは、比較的、分子量分布や組成分布が狭く、高強度であり、安全衛生面で問題となる可能性がある溶出成分が少なく、ヒートシール性に優れるという特徴を有している。しかし、一方では分子量分布が狭いために溶融張力が低く、薄肉且つ高速の製膜安定性と強度物性のバランスがとりづらい樹脂である。本発明では双方のバランスを取るため、配向層に分子量分布が6以上、且つ溶融張力が5〜15gである直鎖状低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。分子量分布が6未満あるいは溶融張力が5g未満であると、上向きの空冷(吹き込み)インフレーション製膜や延伸での溶融張力が不足して、製膜バブルの破裂や延伸破断が生じるため好ましくない。一方、溶融張力が15gを超えると、たとえばインフレーション製膜においては溶融バブルが十分に膨らまないばかりか、本発明の特徴である延伸配向が不十分となり、得られたフィルムの強度物性が不十分となり好ましくない。
【0023】
配向層を外層と中間層を含む2層以上とすることも好ましい。中間層は、主に強度物性の強化を担う層であり、外層はこれに加えて包装体を作製する際のラミネート積層面となる層である。
【0024】
この場合、外層も中間層も、樹脂の種類およびMFR、融点、ビカット軟化温度は前述の範囲のものが選ばれるが、外層は、強度物性の強化もさることながら、安定した製膜性を得るために分子量分布が6以上で、溶融張力が5g以上、好ましくは10〜15gのものが好ましい。分子量分布が6未満あるいは溶融張力が5g未満であると、上向きの空冷(吹き込み)インフレーション製膜や延伸時の溶融張力が不足して、製膜バブルの破裂や延伸破断が生じるため好ましくない。
【0025】
外層の一部に180℃以上の剪断熱履歴を施したポリエチレン樹脂を用いることも好ましい。その量は外層のポリエチレン樹脂成分の構成において40%を上限として含有させることが好ましい。180℃以上の剪断熱理履歴を施してMFRが0.1〜5g/10分である直鎖状低密度ポリエチレンについて説明する。該ポリエチレンに施す剪断熱履歴は、温度が180℃以上、好ましくは200℃以上である。温度の上限は、実用上270℃までであり、好ましくは250℃程度までである。剪断速度は100〜200
SEC−1程度が適当である。この温度範囲に保って熱履歴を付与する時間は30〜600
SEC程度、好ましくは60〜300
SEC程度である。このような剪断熱履歴を与える装置としては、例えば、混練スクリューが装備されたプラスチック用押出機(スクリューは単軸でも二軸でも可)を用いることができる。他にはバンバリーミキサー等も好適である。但し、次工程である溶融混練の利便性からペレット状にし易い前者が最も好ましい。熱履歴を与える回数としては、通常は1回であるが、2回以上であってもよい。さらに実生産上の観点からは、本発明のポリエチレンシーラントフィルムの製膜時に生じたスリット等の不要部分を再生材料として使用することも有用である。
【0026】
剪断熱履歴を施された樹脂は、カルボニル基等の酸化官能基を有するため、ラミネート工程での積層接着材の塗工時の親和性が向上するため好ましい。
【0027】
外層の一部に、上記の剪断熱履歴を施された樹脂を用いることと同様の効果は、有機過酸化物を用いて架橋されたポリエチレンを用いることでも得られる。すなわち外層の一部を構成するポリエチレン樹脂100重量部に対して有機過酸化物0.05〜0.5重量部を添加し、180℃以上の剪断熱履歴を施すことにより得られたポリエチレンはカルボニル基を主とする酸化官能基を有するため、ラミネート工程での積層接着剤の塗工時の親和性が向上するため好ましい。好適な剪断熱履歴は、前記と同様である。
【0028】
好ましい有機過酸化物の代表例としては、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシン)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイドが挙げられる。該有機過酸化物のうち、1分間の半減期が100〜280℃のものが望ましく、とりわけ120〜230℃のものが好適である。これらの有機過酸化物は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。有機過酸化物は0.05重量部未満でも、前記の如く、溶融張力の増加があり好ましいが、有機過酸化物を添加したことによる相乗効果はみられない。一方、有機過酸化物が0.5重量部を超えると、過度の架橋を形成し、溶融張力が増大することによる前記弊害が生じるばかりか、フィルムにゲルやフィッシュアイとよばれる点状異物が生じるため好ましくない。
【0029】
中間層と外層の融点は、外層融点≧中間層融点 が好ましい。何故ならば、包装袋を作製する工程でのヒートシールを行う際、熱板は袋の外面から加熱されるためシーラントフィルムの熱ダメージが少なくなるためには外層融点≧中間層融点が好ましい。
【0030】
また、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、各層に強度改善、減容化、燃料廃棄時の低カロリー化等を目的として、有機又は無機充填材を配合したり、その他通常用いられる公知の添加剤、例えば帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、有機あるいは無機系の着色顔料、紫外線吸収剤、分散剤などを適宜必要に応じて配合したりすることができる。
【0031】
本発明の多層ポリエチレンシーラントフィルムに用いる各層の組成物の調製方法は特に限定されないが、各種のポリエチレン材料をミキシングロール、バンバリーミキサー、ヘンシェル、タンブラー、リボンブレンダー等の混合機にて混合する方法等が挙げられる。
【0032】
本発明の多層ポリエチレンシーラントフィルムは、シーラント層が溶融状態で、配向層が軟化状態で延伸して製造する。このような設備としてインフレーションフィルム製膜機が好適である。
【0033】
インフレーション製膜機には二層以上を押出しできるものであれば市販の設備を使用できる。冷却手段は空冷と水冷とがあるが、空冷式のものが、バブル内部に吹き込む冷却エアーによって徐冷させながら固化させることができるため好ましい。インフレーション製膜機では、外側の方がエアリングから直接冷却エアーが吹出されるため冷却効率が良く、配向面から有利であり、こちらに配向層を設置した方が有利である。
【0034】
本発明の多層ポリエチレンシーラントフィルムは、高い引張強度物性と衝撃破断耐性を付与するために、配向層に延伸配向を施すことが特長である。例えば、配向層を2層として製膜する場合、製膜時の冷却固化過程において、中間層と外層とからなる配向層は、これらの主成分であるポリエチレンのビカット軟化温度以上〜融点以下で配向を施す際に、シーラント層の主成分であるポリエチレンは配向が形成されない融点以上となる温度であることが不可欠である。すなわち、外層、中間層、シーラント層の融点をそれぞれT
m1、T
m2、T
m3としビカット軟化温度をT
v1、T
v2、T
v3とすると、
T
v1以上T
m1未満、且つ、T
v2以上T
m2未満、且つ、T
m3以上、
(但し、T
m1≧T
m2>T
m3、且つ、T
v1≧T
v2>T
v3、)
の温度で配向を施すことを特徴とする。
【0035】
好適な製膜温度は特に限定されないが、押出機先端のダイス出口から吐出された直後の位置で測定して140〜240℃が好ましく、150〜220℃がより好ましく、160〜210℃が特に好ましい。この溶融押出温度が240℃を超えると、樹脂自体の熱劣化や著しい溶融粘度低下が生じ、製膜バブルが不安定となる恐れがある。また、140℃未満になると、ポリエチレンの溶融が不十分となり、未溶融部分が発生しやすく外観が低下する恐れがあるばかりか、冷却工程における延伸最適温度に短時間で到達してしまうため、配向が不十分となりやすい。
【0036】
本発明の多層ポリエチレンシーラントフィルムは、衝撃破断耐性等の良好な強度物性を発現させるため、製膜時に、シーラント層を除く各層の主成分であるポリエチレンがビカット軟化温度以上〜融点以下となる温度で、製膜の平行方向および直交方向に延伸配向を施すことを特長とする。製膜時の延伸配向とは、下記の式で算出されるブロー比、および製膜速度によって整理することができる。
ブロー比(BUR)=フィルムのバブル直径/ダイス口径
ブロー比を大きくすることで、主に製膜の直交方向に延伸配向を印加することができる。好ましいブロー比は、2〜3.5である。2未満では直交方向の延伸配向が不十分となり好ましくない。一方、3.5を超えると延伸配向により強度物性は著しく向上する反面、延伸によって結晶軸が整列し易く、過延伸によりシーラント層にも弱延伸が生じ溶融時のポリエチレンどうしの絡まり合いが不足するためヒートシール性が低下する一因となる。
【0037】
製膜時において、製膜速度を速くすることで、主に製膜の平行方向に延伸配向を印加することができる。好ましい製膜速度は、15〜30m/分である。15m/分未満では製膜方向の延伸配向が不十分となり好ましくない。一方、30m/分を超えると延伸配向により強度物性は著しく向上する反面、延伸によって結晶軸が整列し易く、シーラント層においても溶融時のポリエチレンどうしの絡まり合いが不足するためヒートシール性が低下する一因となるばかりか、冷却が追随できずに発生する亀裂がフィルムの破断を助長するおそれがあり好ましくない。
【0038】
こうして得られる多層シーラントフィルムは、シーラント層の厚みが20〜150μm程度、通常30〜100μm程度である。
なお、配向層は2層以上であってもよい。
【0039】
例えば、多層シーラントフィルムが、外層、中間層、シーラント層の3層よりなる場合の各層の厚みは、外層が総厚みの5〜30%、中間層が総厚みの50〜80%、シーラント層が総厚みの5〜45%である。中間層と外層の和が55%未満では、期待する衝撃破断耐性が得られない。これを補うにはフィルム厚みを増すことになるが、不必要な原価の増加の一因となるため好ましくない。一方、中間層と外層の和が95%を超えると、シーラント層が薄くなり十分なヒートシール強度が得られず好ましくない。多層シーラントフィルムが配向層とシーラント層の2層よりなる場合の各層の厚みは、配向層が総厚みの55〜95%、シーラント層が総厚みの5〜45%である。配向層が55%未満では、期待する衝撃破断耐性が得られない。一方、配向層が95%を超えると、シーラント層が薄くなり十分なヒートシール強度が得られにくくなる。
【0040】
本発明の多層ポリエチレンシーラントフィルムは、溶融製膜時の冷却固化過程において、シーラント層を除く層に延伸配向を印加することによって、高い引張強度物性および衝撃破断耐性を付与することができる。本発明では、この製膜時に施された延伸の配向度は、偏光赤外法を用いた赤外二色比を測定して求めた。具体的には波数720cm
−1における偏光赤外の吸光度を用いて下記のようにして算出した。
D‖:720cm
−1における偏光0°での吸光度
D⊥:720cm
−1における偏光90°での吸光度
D=D‖/D⊥ または D=D⊥/D‖ (いずれかD≧1の方) ・・・(1)
θ :CH2横揺れ振動角、ポリエチレンの場合はθ=90°
f={(D−1)/(D+2)}・{2/(3cos
2θ−1)} ・・・(2)
により求めることができる。
このようにして求めた配向度fが、
0.05 < f < 0.5、
であることが好ましい。
配向度fが0.05以下では配向が不十分になり、期待する衝撃破断耐性が得られない。これを補うにはフィルム厚みを増すことになるが、不必要な原価の増加の一因となるため好ましくない。
【0041】
一方、0.5を超えると配向が過剰となるため、衝撃破断耐性は著しく向上するが、ヒートシール性が低下するばかりか、結晶軸の規則的な整列により引裂強度が低下するため好ましくない。さらに過度の配向は包装体としたときの熱収縮が大きく、形状保持性の観点から好ましくない。
【0042】
上記の配向度はフィルム全体の配向度を測定したものである。本発明のシーラント層は、基本的には良好なヒートシール性を発揮できる程度に配合度が小さくなっているが、配向度がゼロとは限らない。
【0043】
本発明の多層ポリエチレンシーラン
トフィルムは、そのまま単独で包装フィルムとして使用することもできるが、基材フィルムへのラミネートなどの積層加工を施し、包装体として利用することができる。例えば、印刷表示、美粧性、遮光性、ガスバリア性、断熱性、蒸着層の保護等を目的に適正な基材フィルムと積層して使用してもよい。具体的な基材フィルムとしては、紙、金属箔、(蒸着)(無)延伸ポリエステルフィルム、(蒸着)(無)延伸ポリアミドフィルム、(蒸着)延伸ポリプロピレンフィルム、発泡フィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム、等が挙げられる。積層方法は、一般的なドライラミネートや押出ラミネートが用いられるが、とりわけ積層方法として常用されているドライラミネートが好適である。その際、本発明の多層ポリエチレンシーラントフィルムは、製膜直後にコロナ放電処理を施すことが更に好ましい。コロナ放電処理量は処理直後のフィルム表面の濡れ指数で37〜47dyne/cmが好適である。
【0044】
この積層された2枚の多層ポリエチレンシーラントフィルムのシーラント層側を向い合せでヒートシールした包装体のヒートシール強度は12〜20N/15mm幅程度、特に13〜16N/15mm幅程度とすることができる。
【実施例】
【0045】
<使用した樹脂>
・LLD-1:多段重合による直鎖状低密度ポリエチレン
(MFR=0.25g/10分、Tm=124℃、Tv=103℃、密度=0.923g/cm
3、Mw/Mn=10、溶融張力=12g)
・LLD-2:多段重合による直鎖状低密度ポリエチレン
(MFR=0.20g/10分、Tm=127℃、Tv=112℃、密度=0.931g/cm
3、Mw/Mn=10、溶融張力=6g)
・LLD-3:シングルサイト触媒による直鎖状低密度ポリエチレン
(MFR=2.5g/10分、Tm=108℃、Tv=102℃、密度=0.921g/cm
3)
・LLD-4:シングルサイト触媒による直鎖状低密度ポリエチレン
(MFR=1.0g/10分、Tm=120℃、Tv=88℃、密度=0.906g/cm
3、Mw/Mn=3.5、溶融張力=4g)
・LLD-5:チーグラー・ナッタ触媒を用いた単段重合による直鎖状低密度ポリエチレン
(MFR=0.9g/10分、Tm=124℃、Tv=107℃、密度=0.926g/cm
3、Mw/Mn=3.5、溶融張力=3g)
【0046】
<シーラントフィルムの製膜>
直径=300mmのサーキュラーダイスを備え、直径=55mm、L/D=25のスクリューを備えた外層用の第1押出機、直径=65mm、L/D=28のスクリューを備えた中間層用の第2押出機、直径=55mm、L/D=25のスクリューを備えた内層用の第3押出機、からなる3層空冷式インフレーション製膜機を用いて、各樹脂をダイスからの押出温度200℃、ブロー比=2.7、製膜速度=23m/分で厚み45μmのシーラントフィルムを作製した。
【0047】
このときのフロストライン(インフレーション製膜において、ダイスから押し出された材料が冷却され溶融状態から固化するとき透明度が急変する境界線であり、フィルムの配向層は、このフロストラインに到達するまでに延伸配向され、製膜チューブの径が最大となる。)部分の表面温度を周方向4点(90度間隔)に対し非接触赤外温度計で測定しその平均温度で表示した。
【0048】
尚、作製したフィルムの外層側には、濡れ指数で42〜44dyne/cmとなるようにコロナ放電処理を施した。
実施例および比較例で作製したフィルムの製膜条件を表1に示す。
【0049】
<シーラントフィルムの評価>
配向度
グリッド偏光子((株)島津製作所製、GPR-8000)を設置したフーリエ変換赤外分光光度計((株)島津製作所製、FTIR-8000)に、検体となるシーラントフィルムをセットし、前述の算出法に準じて配向度fを測定した。
フィルム強度
JIS K−6922−2に準拠して、破断強度を測定した。
評価結果を表1に示す。
【0050】
同表からわかるようにバブル最大径部の表面温度がシーラント層の融点(108℃)より高く、配向層である外層および中間層の融点の124℃、127℃より低く、ビカット軟化温度の103℃、112℃より高い118℃である実施例1〜3では配向度が0.07〜0.34であり、破断強度(MD/TD)も40〜42MPa/33〜37MPaと良好である。これに対し、バブル最大径部の表面温度が外層および中間層の融点の124℃、127℃より高い129℃の比較例1では配向度が0.02とほとんど配向しておらず、破断強度(MD/TD)も37MPa/30MPaとあまり大きくない。尚、シーラント層に融点が124℃でビカット軟化温度が107℃の直鎖状低密度ポリエチレンを使った比較例2では配向度が0.40と非常に大きくなっている。
【0051】
<包装体の作製>
ラミネート接着剤(DICグラフィックス(株)製、LX−500)を用いて、表層から、
・二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム
(東洋紡(株)製、T4100、厚み=12μm)、
・アルミ箔(東洋アルミニウム(株)製、8079、厚み=7μm)、
・二軸延伸ポリアミドフィルム
(興人フィルム&ケミカルズ(株)製、ボニールW、厚み=15μm)、
・シーラントフィルム(厚み=45μm)、
の順でドライラミネートを行い、積層フィルムを作製した。
この積層フィルムを2枚重ね合わせ、周縁部をヒートシール(165℃×0.2MPa×1秒)して、内寸80×135mmの袋を作製した。
【0052】
<包装体の評価>
上述の袋内に水180mLを満注充填し、開口部を前記同条件でヒートシールして密封した。この袋を5℃×24時間の環境下に静置したものを包装体として評価した。
・包装体のヒートシール強度
当該袋の水を抜いた後、ヒートシール部を縦方向、横方向に15mm巾で任意に採取(N=5)し、これらのヒートシール試験片をJIS−Z0238に準拠して、引張試験機を用いて剥離強度を求めた。
・包装体の落体強度
5℃に調温された水入りの袋10袋準備した。落差100cmから10cm刻みで最高200cmまで、同一の袋に対して落体試験を行った。各落差において、平面部から着地させる水平落下を3回、周縁ヒートシールから着地させる垂直落下を3回ずつ行い、袋が破れなかった場合に落差を10cm上昇させて、同上の落下を行った。袋が破れた場合は、その落差で試験を終了した。検体10袋すべてが破れなかった落差を落体強度の値とした。
・包装体の圧縮強度
5℃に調温された水入りの袋10袋準備した。1袋を定盤上に水平静置し、その上面に80kgから10kg刻みで最大150kgまでの面荷重を印加した。各荷重において1分間で袋が破裂しなかった場合に荷重を10kg増加させて同上の試験を行った。袋が破裂した場合は、その荷重で試験を終了した。検体10袋すべてが破裂しなかった荷重を圧縮強度の値とした。
評価結果を表1に示す。
【0053】
同表からわかるように、実施例1〜3の多層シーラントフィルムを用いた包装体は、ヒートシール強度が大きく、落体強度、圧縮強度とも非常に大きい。これに対し、比較例1の多層シーラントフィルムを用いた包装体は、ヒートシール強度が弱いばかりでなく、落体強度も圧縮強度も弱い。比較例2ではシーラント層の樹脂が実施例1〜3のものと異なるが、ヒートシール強度が比較例1よりもさらに悪くなっている。
【0054】
外層あるいは中間層に他の樹脂を用いた実施例4〜
7でも、いずれも配向度が適正でヒートシール強度も良好であった。