特許第6633910号(P6633910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6633910音響管及びその音響管を用いた狭指向性マイクロホン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6633910
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】音響管及びその音響管を用いた狭指向性マイクロホン
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/00 20060101AFI20200109BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20200109BHJP
   H04R 1/32 20060101ALI20200109BHJP
【FI】
   H04R1/00 321
   H04R1/02 106
   H04R1/32 320
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-252874(P2015-252874)
(22)【出願日】2015年12月25日
(65)【公開番号】特開2017-118372(P2017-118372A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】 篠田 享佑
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−103982(JP,A)
【文献】 特開2008−258998(JP,A)
【文献】 特開2006−101314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00
H04R 1/02
H04R 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の音響管基材を備え、
前記音響管基材は、
前記音響管基材の長手方向に沿って形成された少なくとも一つのスリット状の間隙を有し、
前記音響管基材の外周面と前記間隙を形成する基材端面とに多数の短繊維が植毛され、
前記間隙は前記短繊維により覆われることを特徴とする音響管。
【請求項2】
前記音響管基材は、
管長手方向に沿った分割線により複数の基材パーツに分割可能とされ、
各基材パーツの外周面と前記分割線に沿った基材端面とに多数の短繊維が植毛され、
前記複数の基材パーツの基材端面が互いに合わせられることにより前記短繊維に覆われたスリット状の間隙が複数形成されることを特徴とする請求項1に記載された音響管。
【請求項3】
収音を行うマイクロホンユニットと、前記マイクロホンユニットを後端側に装着する請求項1または請求項2に記載された音響管と、
周面に複数の開口が形成され、前記音響管を収容する円筒状のケーシング管と、
を備え、
前記ケーシング管と前記音響管との間に該音響管を管内に固定する係止部材が設けられていることを特徴とする狭指向性マイクロホン。
【請求項4】
前記係止部材は、前記ケーシング管の一端部側と前記音響管の一端部側との間に設けられていることを特徴とする請求項3に記載された狭指向性マイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響管及びその音響管を用いた狭指向性マイクロホンに関し、特に水の浸入を防止することのできる音響管及びその音響管を用いた狭指向性マイクロホンに関する。
【背景技術】
【0002】
音響管を持つ狭指向性マイクロホンは、マイクロホンユニットの前部に音響管を結合し、この結合部分から音波が入り込まないように密閉されている。このような構成は、狭い指向性を実現するが、風雑音の影響や音源が近い場合において近接効果の影響が高くなるという課題があった。
【0003】
前記の課題を解決するものとして、本願出願人は、特許文献1において、マイクロホンユニットを収容した音響管(アルミニウム管)の管壁に複数の開口(音波導入口)を設け、この開口の外側の部分に音響抵抗(布、不織布等)を貼り付けた構成を開示している。
前記特許文献1に開示の構成によれば、従来の狭指向性マイクロホンに比べて風雑音や近接効果を低くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2562295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記のような狭指向性マイクロホンは、周囲の雑音を排除して、ターゲットとなる音源を収音できるため、屋外で使用されることも多い。
しかしながら、特許文献1に開示したように音響管の管壁に多数の開口を設けた構造にあっては、雨等によって音響管が濡れると、管壁の開口に貼付された音響抵抗材に水が浸み込み、管内部に水が浸入してマイクロホンユニットの故障の原因となるという課題があった。
【0006】
本発明は、前記した点に着目してなされたものであり、音響管を用いた狭指向性マイクロホンにおいて、音響管が雨等で濡れても、マイクロホンユニットの収容空間への水の浸入を防止することのできる音響管及びその音響管を用いた狭指向性マイクロホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するために、本発明に係る音響管は、円筒状の音響管基材を備え、前記音響管基材は、前記音響管基材の長手方向に沿って形成された少なくとも一つのスリット状の間隙を有し、前記音響管基材の外周面と前記間隙を形成する基材端面とに多数の短繊維が植毛され、前記間隙は前記短繊維により覆われることに特徴を有する。
尚、前記音響管基材は、管長手方向に沿った分割線により複数の基材パーツに分割可能とされ、各基材パーツの外周面と前記分割線に沿った基材端面とに多数の短繊維が植毛され、前記複数の基材パーツの基材端面が互いに合わせられることにより前記短繊維に覆われたスリット状の間隙が複数形成されることが望ましい。
【0008】
このような構成によれば、音響管において管の長手方向に沿ったスリット状の間隙が形成され、その間隙を覆う短繊維が音響抵抗材として機能するように構成される。また、前記音響管の外周面には多数の短繊維が植毛されているため、外周面において水を弾き、さらに前記間隙は前記短繊維に覆われているため、管内部への水の浸入を防止することができる。
【0009】
また、前記課題を解決するために本発明に係る狭指向性マイクロホンは、収音を行うマイクロホンユニットと、前記マイクロホンユニットを後端側に装着する前記音響管と、周面に複数の開口が形成され、前記音響管を収容する円筒状のケーシング管と、を備え、前記ケーシング管と前記音響管との間に該音響管を管内に固定する係止部材が設けられていることに特徴を有する。
尚、前記係止部材は、前記ケーシング管の一端部側と前記音響管の一端部側との間に設けられていることが望ましい。
【0010】
このような構成によれば、前記音響管がケーシング管に挿入され、該ケーシング管と音響管との間に係止部材が設けられることによって、前記間隙を覆う短繊維が圧縮され、その圧縮強さにより間隙における音響抵抗が調整可能となされる。
また、ケーシング管の一端部側において音響管との間に係止部材が設けられることにより、前記間隙は、音響管の一端側から他端側に向けて徐々に隙間の大きさ(音響抵抗の大きさ)が変化する。これにより、一端側から他端側に向けて径が拡がるホーンのように音響管を用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
音響管が雨等で濡れても、マイクロホンユニットの収容空間への水の浸入を防止することのできる音響管及びその音響管を用いた狭指向性マイクロホンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1(a)は、本発明に係る音響管の短手方向の断面図であり、図1(b)は長手方向の断面図である。
図2図2は、図1の音響管を構成する基材パーツの短手方向の断面図であり、図2(b)は、その長手方向の断面図である。
図3図3(a)は、図1の音響管を構成する基材パーツに短繊維を植毛した状態の該基材パーツの短手方向の断面図であり、図3(b)は、その長手方向の断面図である。
図4図4は、図1の音響管を収容可能なケーシング管の側面図である。
図5図5は、図1の音響管を収容した状態のケーシング管の長手方向の断面図である。
図6図6は、図1の音響管を収容した状態のケーシング管の短手方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。図1(a)は、本発明に係る音響管の短手方向の断面図であり、図1(b)は長手方向の断面図である。
尚、図示する音響管は、その後端に図示せぬマイクロホンユニットの前部音響端子側が接続され、前記マイクロホンユニットと協働して狭指向性を奏するために用いられるものであり、これにより狭指向性マイクロホンが構成される。
図1(a)、図1(b)に示すように、この音響管1は例えば樹脂により形成された長尺円筒状の音響管基材2を有する。この音響管基材2の外周面等には、多数の短繊維(パイル)が植毛されている。
【0014】
具体的に説明すると、音響管基材2は、図示するように管長手方向に沿った分割線により例えば二分割されており、基材パーツ2Aと基材パーツ2Bとにより構成される。分割された二つの基材パーツ2A、2Bは、分割面2A1、2B1(分割線に沿った基材端面)を互いに対向させ合わせられることにより円筒状を形成する。前記基材パーツ2Aと基材パーツ2Bの外周面2A2、2B2、及び分割面2A1、2B1には、短繊維(パイル)3が植毛されている。分割面2A1、2B1同士が合わせられる部分には互いの短繊維3に覆われたスリット状の間隙10が形成されている(左右両側に2つの間隙10が形成される)。この間隙10に設けられる短繊維3は音響抵抗材として機能する。
【0015】
この音響管1を作製する手順を説明する。図2(a)および図2(b)に示した断面を有する基材パーツ2A(2B)が形成される。
次いで、基材パーツ2A(2B)の外表面2A2(2B2)、及び分割面2A1(2B1)に対し、例えば静電植毛により多数の短繊維(パイル)3が形成される。
【0016】
この静電植毛は、例えば、以下の手順で行われる。基材パーツ2A(2B)の植毛要する対象表面に予め接着剤が塗布される。植毛(付着)させたい短繊維3が図示せぬ電極板上に配置され、前記対象表面と電極板との間に直流の高電圧が印加される。
【0017】
前記対象表面に例えば陽極(プラス)電位が、前記電極板に負極(マイナス)電位が印加されると、前記短繊維3に分極が生じる。マイナス電荷を帯びた短繊維3は前記対象表面に引き付けられて植毛される。すなわち、図3(a)の短手方向の断面図及び図3(b)の長手方向の断面図に示すように、接着剤の硬化によりその植毛状態は機械的に保持される。
【0018】
前記した静電植毛を利用すると、植毛された短繊維3の頂端部が同極(プラス電位)になされるために、各短繊維3の頂端部同士が反発し合う作用が生じ、これにより短繊維3は植毛面に対して夫々垂直に立つようにして植毛される。
尚、短繊維3の長さは、好ましくは、0.2〜2mmである。また、短繊維の素材としては、レーヨン、ポリアミド、ポリエステル繊維などを適宜利用することができる。
【0019】
このようにして図3(a)、図3(b)に示すような基材パーツ2A、2Bが形成され、図1に示すように、それらの分割面2A1、2B1が短繊維3を挟んで組み合わせられる。このことにより円筒状の音響管1が完成する。
この音響管1によれば、その外周面に短繊維(パイル)3が植毛されているため、雨等で外周面が濡れても水を弾くことができる。さらに、間隙10は短繊維(パイル)3により覆われているため、間隙10から管内部への水の浸入を防ぐことができる。
【0020】
また、前記したように音響管1は二つの基材パーツ2A、2Bを単に合わせたものであるため、それらを固定する手段が必要である。
本実施の形態においては、前記固定手段として図4に示すようなケーシング管5が用いられる。このケーシング管5は音響管1を収納可能な例えば樹脂製の円筒管であって、その周面には例えば管長手方向に沿って多数の開口5aが形成されている。
【0021】
前記ケーシング管5に音響管1を挿入されると、基材パーツ2A、2Bは簡易的に一体となされる。この状態では、音響管1がケーシング管5内で固定されない虞がある。そのため本実施の形態においては、図5に示すようにケーシング管5と音響管1との間にスペーサ(係止部材)6が配置される。このスペーサ6は円筒状であってもよいが、円筒状でなくてもよい。少なくとも基材パーツ2A、2Bが互いに密着する方向に押圧力が与えられるように、部分的に複数のスペーサ6が配置されてもよい。スペーサ6は、管内に音響管1を固定するだけでなく、間隙10を覆う短繊維3を圧縮する。そのため、スペーサ6の圧縮強さ(押圧力)を変化させることにより、スペーサ6は間隙10における音響抵抗の調整を可能にする。また、音響抵抗の大きさを調整できるため、収音の指向角を変化させることができる。
尚、前記スペーサ6の材料としては、例えば、ポリカーボネイト、ABS等を用いることができる。
【0022】
また、図示するようにケーシング管5内の一端部側のみにスペーサ6が設けられることにより、音響管1の基材パーツ2A、2Bを合わせた部分の間隙10が音響管1の一端側から他端側に向かって徐々に拡がるようになされる。これにより音響管1の一端部側から他端部側に向かって音響抵抗の大きさが徐々に低くなるように構成することができ、音響管1をホーンのように用いることができる。
【0023】
尚、前記のようにケーシング管5には多数の開口5aが形成されているため、ケーシング管5による収音への影響は大きく低減される。
また、前記ケーシング管5の開口5aから水が浸入しても音響管1の外面において水が弾かれ、開口5aから水が排出されるため、ケーシング管5内に水が溜まることがない。
【0024】
以上のように本発明に係る実施の形態によれば、音響管1(音響管基材2)が基材パーツ2A、2Bの二つに分割されることにより、管の長手方向に沿ったスリット状の間隙10が形成される。その間隙10を覆う短繊維3は音響抵抗材として機能する。また、前記音響管1の外周面には多数の短繊維3が植毛されているため、本実施の形態における音響管は、外周面において水を弾き、さらに間隙10が短繊維3に覆われているため、管内部への水の浸入を防止する。
また、前記音響管1は、二つの前記基材パーツ2A、2Bがケーシング管5に挿入されることによって構成されており、ケーシング管5の一端部側において音響管1との間に設けられた係止部材6によってケーシング管5内に固定される。
これにより、前記間隙10の大きさ(音響抵抗の大きさ)は音響管1の一端側から他端側に向けて徐々に変化するため、音響管1は他端側に向けて径が拡がるホーンのように機能する。
【0025】
尚、前記実施の形態においては、音響管1を二つに分割することによって、管長手方向に沿ったスリット状の間隙10を二つ形成するものとしたが、本発明にあってはその形態に限定されるものではない。
例えば、三分割以上に分割された音響管1により、スリット状の間隙10が3つ以上形成されてもよい。
或いは、音響管1が分割されず、音響管1の長手方向に沿って1つのスリット状の間隙10が形成されてもよい。
【0026】
また、前記実施の形態においては、ケーシング管5の一端部側において、該ケーシング管5と音響管1との間にスペーサ6を設ける構成としたが、本発明にあっては、その形態に限定されるものではない。
例えば、ケーシング管5の中央付近、或いはケーシング管5の両端側などにおいて、ケーシング管5と音響管1との間にスペーサ6が設けられ、短繊維3が略均一に圧縮されるように音響管1が構成されてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 音響管
2 音響管基材
2A 基材パーツ
2A1 分割面(基材端面)
2A2 外周面
2B 基材パーツ
2B1 分割面(基材端面)
2B2 外周面
3 短繊維
5 ケーシング管
5a 開口
6 スペーサ(係止部材)
10 間隙
図1
図2
図3
図4
図5
図6