特許第6634437号(P6634437)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6634437DDR型ゼオライト種結晶及びDDR型ゼオライト膜の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6634437
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】DDR型ゼオライト種結晶及びDDR型ゼオライト膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/04 20060101AFI20200109BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20200109BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20200109BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20200109BHJP
【FI】
   C01B39/04
   B01D71/02
   B01D69/10
   B01D69/12
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-509832(P2017-509832)
(86)(22)【出願日】2016年3月22日
(86)【国際出願番号】JP2016059044
(87)【国際公開番号】WO2016158580
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2018年10月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-71569(P2015-71569)
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】柴田 宏之
(72)【発明者】
【氏名】市川 明昌
(72)【発明者】
【氏名】木下 直人
(72)【発明者】
【氏名】萩尾 健史
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/147327(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/105407(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/058387(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20−39/54
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.2μm以下であり、平均アスペクト比が1.3以下である、
DDR型ゼオライト種結晶。
【請求項2】
結晶性指数が60以上である、
請求項1に記載のDDR型ゼオライト種結晶。
【請求項3】
DDR型ゼオライト結晶を含む核を含有し、かつ、前記核の濃度が0.4質量%以上である原料溶液を110℃以上150℃以下で24時間以上加熱することによって、平均粒子径が0.2μm以下であり、平均アスペクト比が1.3以下のDDR型ゼオライト種結晶を形成する工程と、
前記DDR型ゼオライト種結晶を含有するスラリーを支持体の表面に塗布する工程と、
前記DDR型ゼオライト種結晶を結晶成長させることによって、DDR型ゼオライト膜を形成する工程と、
を備えるDDR型ゼオライト膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DDR型ゼオライト種結晶及びDDR型ゼオライト膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、DDR型ゼオライト種結晶(以下、「種結晶」という。)を用いて支持体の表面にDDR型ゼオライト膜を形成する手法が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。支持体の表面に塗布された種結晶が膜状に結晶成長することによってDDR型ゼオライト膜は形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−82008号公報
【特許文献2】特開2008−74695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、DDR型ゼオライト膜の分離性は緻密性が高いほど向上し、DDR型ゼオライト膜の透過性は膜厚が薄いほど向上する傾向がある。しかしながら、緻密性を向上させるために種結晶どうしの隙間がなくなるように結晶成長させると膜厚が厚くなってしまうため、分離性と透過性を両立させることは容易ではない。
【0005】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、DDR型ゼオライト膜の分離性と透過性を向上可能なDDR型ゼオライト種結晶及びDDR型ゼオライト膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るDDR型ゼオライト種結晶は、平均粒子径が0.2μm以下であり、平均アスペクト比が1.3以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、DDR型ゼオライト膜の分離性と透過性を向上可能なDDR型ゼオライト種結晶及びDDR型ゼオライト膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】分離膜構造体の断面図
図2(a)】比較例に係る種結晶の塗布状態を説明するための模式図
図2(b)】比較例に係る種結晶の塗布状態を説明するための模式図
図2(c)】実施例に係る種結晶の塗布状態を説明するための模式図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(DDR型ゼオライト種結晶)
本実施形態に係るDDR型ゼオライト種結晶(以下、「種結晶」という。)の平均粒子径は、0.2μm以下である。平均粒子径を0.2μm以下とすることによって、支持体の表面に塗布される種結晶の隙間を小さくすることができる。
【0010】
種結晶の平均粒子径は、0.05μm以上であることが好ましい。平均粒子径を0.05μm以上とすることによって、種結晶が支持体の細孔内に拡散することを抑制するために支持体の細孔径を過剰に小さくしなくてもよいため、分離膜構造体の透過量が減少することを抑制できる。
【0011】
本実施形態において、種結晶の平均粒子径とは、体積ベースでの粒子径の中央値のことであり、動的光散乱法によって測定することができる。具体的には、種結晶を水に分散させた分散液を測定可能な濃度となるよう水に滴下した後に超音波で分散させて得られる懸濁液の粒度分布を動的光散乱式粒子径分布測定装置で測定する。測定された粒度分布から求められるメジアン径(D50)が種結晶の平均粒子径である。
【0012】
種結晶の平均アスペクト比は、1.3以下である。種結晶の平均アスペクト比を1.3以下とすることによって、塗布された種結晶の密集度を向上させることができる。種結晶の平均アスペクト比の下限値は、1.0である。
【0013】
本実施形態において、種結晶のアスペクト比とは、最大フェレー径を最小フェレー径で除した値(最大フェレー径/最小フェレー径)である。最大フェレー径とは、種結晶のFE−SEM(電界放射型走査電子顕微鏡)画像上において種結晶を挟む2本の平行な直線の最大距離である。最小フェレー径とは、種結晶のFE−SEM画像において種結晶を挟む2本の平行な直線の最小距離である。最大フェレー径と最小フェレー径は、インレンズ式FE−SEMを用いて測定することができる。種結晶の平均アスペクト比とは、FE−SEM画像上において任意に選択した20個の種結晶のアスペクト比を算術平均した値である。なお、種結晶の平均アスペクト比を求める際、1枚のFE−SEM画像内に20個の種結晶が存在しない場合には、複数枚のFE−SEM画像から任意に20個の種結晶を選択すればよい。
【0014】
種結晶の結晶性指数は60以上であることが好ましい。結晶性指数とは、DDR型ゼオライト結晶とアモルファスの存在比を示す代表値である。種結晶の結晶性指数を60以上とすることによって残存するアモルファスを低減することができるため、DDR型ゼオライト膜の成膜性を向上させることができる。
【0015】
本実施形態において、結晶性指数とは、XRD(粉末X線回折)測定によって求められる(024)面に起因する回折ピークの回折強度をAとし、(024)面と(116)面のピーク間における回折強度の最低値をBとし、(024)面と(202)面のピーク間における回折強度の最低値をCとしたときの(A−C)/(B−C)の値である。
【0016】
(DDR型ゼオライト種結晶の製造方法)
種結晶の製造方法の一例について説明する。
まず、DDR型ゼオライトを含む核(以下、「核」という。)を準備する。核は、DDR型ゼオライト結晶、又は、DDR型ゼオライト結晶とアモルファスシリカとの混合物であることが好ましい。核の平均粒子径は、0.100〜0.200μmとすることができる。核の平均粒子径は、動的光散乱法によって測定することができる。核の製造方法は特に限定されない。
【0017】
次に、核、シリカ及び構造規定剤としての1−アダマンタンアミンを含有する原料溶液(原料ゾル)を調製する。原料溶液は、水、エチレンジアミンなどを含有していてもよい。原料溶液における核の濃度は0.4質量%以上とすることができ、0.5質量%以上であることが好ましい。
【0018】
次に、原料溶液を110〜150℃で4時間以上加熱(水熱合成)することによって種結晶を生成する。この際、加熱温度を低くするほど種結晶のアスペクト比を小さくすることができ、加熱時間を長くするほど種結晶のアスペクト比を小さくすることができる。原料溶液の加熱時間は24時間以上が好ましい。
【0019】
次に、種結晶を分散媒(水、アルコール類など)に分散させてpH7.5以上に調整した分散液を振とう法や超音波法で洗浄する。
【0020】
以上により、平均粒子径が0.2μm以下であり、かつ、アスペクト比が1.3以下の種結晶が製造される。
【0021】
なお、上記製造方法では機械的処理(例えば、粉砕や割断)が行われないため、結晶性指数が57以上の種結晶を得ることができる。
【0022】
(分離膜構造体10の構成)
図1は、分離膜構造体10の構成を示す断面図である。分離膜構造体10は、支持体20とDDR型ゼオライト膜30を備える。
【0023】
支持体20は、DDR型ゼオライト膜30を支持する。支持体20は、表面にDDR型ゼオライト膜30を膜状に形成(結晶化、塗布、あるいは析出)できるような化学的安定性を有する。支持体20は、分離対象である混合流体をDDR型ゼオライト膜30に供給できるような形状であればよい。支持体20の形状としては、例えばハニカム状、モノリス状、平板状、管状、円筒状、円柱状、及び角柱状などが挙げられる。本実施形態において、支持体20は、基体21と中間層22と表層23を有している。
【0024】
基体21は、多孔質材料によって構成される。多孔質材料としては、例えば、セラミックス焼結体、金属、有機高分子、ガラス、或いはカーボンなどを用いることができる。セラミックス焼結体としては、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素などが挙げられる。金属としては、アルミニウム、鉄、ブロンズ、銀、ステンレスなどが挙げられる。有機高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリイミドなどが挙げられる。
【0025】
基体21は、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも一つを用いることができる。
【0026】
基体21の平均細孔径は、例えば5μm〜25μmとすることができる。基体21の平均細孔径は、水銀ポロシメーターによって測定できる。基体21の気孔率は、例えば25%〜50%とすることができる。基体21を構成する多孔質材料の平均粒径は、例えば5μm〜100μmとすることができる。基体21の平均粒径は、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いた断面微構造観察によって測定される30個の測定対象粒子の最大直径を算術平均した値である。
【0027】
中間層22は、基体21上に形成される。中間層22は、基体21に用いることのできる上記多孔質材料によって構成することができる。中間層22の平均細孔径は、基体21の平均細孔径より小さくてもよく、例えば0.005μm〜2μmとすることができる。中間層22の平均細孔径は、パームポロメーターによって測定することができる。中間層22の気孔率は、例えば20%〜60%とすることができる。中間層22の厚みは、例えば30μm〜300μmとすることができる。
【0028】
表層23は、中間層22上に形成される。表層23は、基体21に用いることのできる上記多孔質材料によって構成することができる。表層23の平均細孔径は、中間層22の平均細孔径より小さくてもよく、例えば0.001μm〜0.5μmとすることができる。表層23の平均細孔径は、パームポロメーターによって測定することができる。表層23の気孔率は、例えば20%〜60%とすることができる。表層23の厚みは、例えば1μm〜50μmとすることができる。
【0029】
DDR型ゼオライト膜30は、上述した種結晶を用いて形成される。そのため、DDR型ゼオライト膜30は良好な分離性と透過性を有している。DDR型ゼオライト膜30の製造方法については後述する。
【0030】
DDR型ゼオライト膜30は、DDR型ゼオライトを主成分として含有する。ゼオライト膜30は、無機バインダ(シリカやアルミナなど)、有機バインダ(ポリマーなど)及びシリル化剤などを含有していてもよい。本実施形態において、組成物Xが物質Yを「主成分として含む」とは、組成物X全体のうち、物質Yが60重量%以上を占めることを意味する。
【0031】
(分離膜構造体の製造方法)
分離膜構造体10の製造方法について説明する。
【0032】
まず、押出成形法、プレス成形法や鋳込み成形法などによって、所望の形状の基体21の成形体を形成する。次に、基体21の成形体を焼成(例えば、900℃〜1450℃)して基体21を形成する。
【0033】
次に、所望の粒径のセラミックス原料を用いて調製した中間層用スラリーを基体21の表面に成膜することによって中間層22の成形体を形成する。次に、中間層22の成形体を焼成(例えば、900℃〜1450℃)して中間層22を形成する。
【0034】
次に、所望の粒径のセラミックス原料を用いて調製した表層用スラリーを中間層22の表面に成膜することによって表層23の成形体を形成する。次に、表層23の成形体を焼成(例えば、900℃〜1450℃)して表層23を形成する。
【0035】
次に、上記手法にて製造された種結晶を準備する。
【0036】
次に、流下法やディップ法などによって、種結晶をアルコールに分散させたスラリーを表層23の表面に塗布する。この際、種結晶の平均粒子径は0.2μm以下であり、アスペクト比は1.3以下であるため、種結晶による表層23の表面のパッキング性(被覆率)を高めることができる。
【0037】
種結晶の付着量はスラリーにおける種結晶の含有率により制御することができ、種結晶の含有率は0.001質量%〜0.5質量%であることが好ましい。種結晶の含有率を0.001質量%以上とすることによって、DDR型ゼオライト膜が生成し難くなることを抑制できる。種結晶の含有率を0.5質量%以下とすることによって、DDR型ゼオライト膜の厚さが不均一になることを抑制できる。種結晶の含有率は、0.01質量%〜0.4質量%であることがより好ましく、0.05〜0.3質量%であることが特に好ましい。
【0038】
次に、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水などを含む原料溶液が入った耐圧容器に支持体20を浸漬させる。原料溶液には有機テンプレートが含まれていてもよい。
【0039】
次に、耐圧容器を乾燥器に入れ、100〜200℃で1〜240時間ほど加熱(水熱合成)することによって、種結晶を膜状に結晶成長させる。表層23の表面における種結晶のパッキング性が高いため、短時間で緻密なDDR型ゼオライト膜30が形成される。
【0040】
次に、DDR型ゼオライト膜30が形成された支持体20を洗浄して、80〜100℃で乾燥する。
【0041】
その後、原料溶液中に有機テンプレートが含まれていた場合には、支持体20を電気炉に入れて大気中で加熱(400〜800℃、1〜200時間)することによって有機テンプレートを燃焼除去する。
【0042】
(特徴)
本実施形態に係る種結晶は、平均粒子径が0.2μm以下であり、アスペクト比が1.3以下である。従って、平均粒子径が0.2μmより大きい場合(図2(a)参照)やアスペクト比が1.3より大きい場合(図2(b)参照)に比べて、表層23の表面の種結晶によるパッキング性を高めることができる(図2(c)参照)。その結果、短時間で緻密なDDR型ゼオライト膜30を形成できるため、DDR型ゼオライト膜30の薄膜化と緻密化によって分離性と透過性を共に向上させることができる。
【0043】
(他の実施形態)
上記実施形態において、支持体20は、基体21と中間層22と表層23を有することとしたが、中間層22と表層23の一方又は両方を有していなくてもよい。
【0044】
上記実施形態において、分離膜構造体10は、支持体20とDDR型ゼオライト膜30を備えることとしたが、DDR型ゼオライト膜30上に積層された機能膜又は保護膜をさらに備えていてもよい。このような膜としては、ゼオライト膜、炭素膜及びシリカ膜などの無機膜やポリイミド膜やシリコーン膜などの有機膜を用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下において本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0046】
(サンプルNo.1〜11の作製)
まず、フッ素樹脂製の密閉容器に12.63gのエチレンジアミン(和光純薬工業社製)を入れた後、1.98gの1−アダマンタンアミン(シグマアルドリッチ社製)を加えて、超音波によって1−アダマンタンアミンを溶解した。
【0047】
次に、別の容器に核としてのDDR型ゼオライト結晶を0.90質量%含む水溶液を149.45g入れ、シリカを30質量%含むシリカゾル(スノーテックスS、日産化学工業社製)を97.90g加えて攪拌することによって核を含むシリカゾルを得た。核としてのDDR型ゼオライト結晶は、国際公開第2010/090049A1に記載の方法に基づいて、平均粒子径2.9μのDDR型ゼオライト粉末をアシザワ・ファインテック社製ビーズミル(商品名:スターミル)によって粉砕した後に遠心分離して粗粒子を取り除くことによって得た。核の平均粒子径は表1に示す通りであった。
【0048】
次に、1−アダマンタンアミンを溶解したエチレンジアミンの入った密閉容器に、先に用意した核を含むシリカゾルを加えて攪拌することによって原料溶液(原料ゾル)を得た。原料溶液中の核の濃度は表1に示す通りであった。
【0049】
次に、フッ素樹脂製内筒付きステンレス製耐圧容器に原料溶液を入れて、表1に示す条件で加熱(水熱合成)した。
【0050】
次に、水熱合成後の溶液を水洗することによって、DDR型ゼオライト種結晶が分散した分散液を得た。
【0051】
次に、種結晶分散液を超音波にさらした後、種結晶分散液をエタノール中に滴下して攪拌することによって種結晶の濃度が0.075質量%の種付け用スラリーを作製した。
【0052】
次に、縦置きしたモノリス状の支持体(直径30mm×長さ160mm、平均細孔径0.10μm)の上方から種付け用スラリーを支持体のセルに流し込んだ。
【0053】
次に、セルに風速2〜7m/秒で室温の空気を10分間流すことによって、セルの壁面に塗布された種付け用スラリーを乾燥させた。
【0054】
次に、種付け用スラリーの塗布と乾燥を上述の手法で再度繰り返した。
【0055】
次に、フッ素樹脂製容器に2.252gのエチレンジアミン(和光純薬工業社製)を入れた後に0.354gの1−アダマンタンアミン(シグマアルドリッチ社製)を加えて溶解させた。
【0056】
次に、別の容器にシリカを30質量%含む30.02gのシリカゾル(スノーテックスS、日産化学工業社製)と35.71gのイオン交換水を入れて攪拌することによってシリカ分散液を調製した。
【0057】
次に、1−アダマンタンアミンを溶解させたエチレンジアミン溶液をシリカ分散液に加えて攪拌した後、イオン交換水で希釈することによって膜形成用原料溶液を調製した。
【0058】
次に、フッ素樹脂製内筒付きステンレス製耐圧容器内に種結晶が付着した支持体を配置した。
【0059】
次に、膜形成用原料溶液を容器に入れて、125℃にて20時間加熱(水熱合成)することによって、1−アダマンタンアミンを含有するDDR型ゼオライト膜を支持体のセル壁面に形成した。
【0060】
次に、容器から支持体を取り出して、水中で洗浄し、80℃で16時間乾燥した。
【0061】
(種結晶の平均粒子径の測定)
各サンプルの種結晶分散液を約20mlの水に測定可能な濃度となるよう滴下した後、超音波で5分以上分散させることによって種結晶の懸濁液を得た。
【0062】
次に、懸濁液の粒度分布を動的光散乱式粒子径分布測定装置(日機装社製、商品名:Nanotrac)で測定した。
【0063】
そして、粒度分布のメジアン径(D50)を平均粒子径として取得した。各サンプルの種結晶の平均粒子径は表1に示す通りであった。
【0064】
(種結晶のアスペクト比の測定)
各サンプルの種結晶分散液から取り出して、種結晶のFE−SEM(ZEISS社製、商品名(型番):ULTRA55)画像を取得した。
【0065】
次に、FE−SEM画像において20個の種結晶の平均アスペクト比(最大フェレー径/最小フェレー径の算術平均値)を算出した。各サンプルの種結晶の平均アスペクト比は表1に示す通りであった。
【0066】
(種結晶の結晶性指数の測定)
各サンプルの種結晶分散液を120℃で1時間乾燥した後に、メノウ製マグネット乳鉢にて粉末状とした種結晶の(024)面に起因する回折ピークの回折強度(A)、(024)面と(116)面のピーク間における回折強度の最低値(B)、及び(024)面と(202)面のピーク間における回折強度の最低値(C)をX線回折装置(リガク社製、商品名(型番):RINT−2500)で測定した。
【0067】
次に、測定された値に基づいて(A−C)/(B−C)を結晶性指数として算出した。各サンプルの種結晶の結晶性指数は表1に示す通りであった。
【0068】
(DDR型ゼオライト膜のN透過量の測定)
各サンプルのDDR型ゼオライト膜の緻密性を評価するためにN透過量を測定した。具体的には、100KPaのNガスを支持体のセルに導入して、支持体を透過したNガスの透過量をマスフローメーターで測定した。測定結果は表1に示す通りであった。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示すように、平均粒子径が0.2μm以下であり、アスペクト比が1.3以下の種結晶を用いたサンプルNo.1〜No.6では、DDR型ゼオライト膜のN透過量を十分に抑えることができた。これは、セル表面における種結晶のパッキング性を高めることによって、短時間で緻密なDDR型ゼオライト膜を形成できたためである。
【0071】
一方、平均粒子径が0.2μmより大きい種結晶やアスペクト比が1.3よりも大きい種結晶を用いたサンプルNo.7〜No.11では、DDR型ゼオライト膜のN透過量を抑えることができなかった。これは、セル表面における種結晶のパッキング性が低かったため、サンプルNo.1〜No.6と同じ合成条件下では緻密なDDR型ゼオライト膜を形成できなかったためである。サンプルNo.7〜No.11で緻密な膜を得るには、水熱合成の長時間化などの結晶成長促進が必要であり、厚膜化して透過性が低い膜になってしまうため好ましくない。
【0072】
以上より、平均粒子径が0.2μm以下であり、かつ、アスペクト比が1.3以下の種結晶を用いることによって、DDR型ゼオライト膜の分離性と透過性を向上できることが分かった。
【0073】
また、結晶性指数を60以上としたサンプルNo.1〜No.5では、DDR型ゼオライト膜のN透過量を更に抑えることができた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、DDR型ゼオライト膜の分離性と透過性を向上させることができるため、分離膜分野において有用である。
【符号の説明】
【0075】
10 分離膜構造体
20 支持体
21 基体
22 中間層
23 表層
30 分離膜
図1
図2(a)】
図2(b)】
図2(c)】