(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6634850
(24)【登録日】2019年12月27日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】電力変換回路システム
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20200109BHJP
H01F 30/10 20060101ALI20200109BHJP
【FI】
H02M3/28 V
H01F30/10 M
H01F30/10 A
H01F30/10 C
H01F30/10 R
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-15542(P2016-15542)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2017-135924(P2017-135924A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 健一
(72)【発明者】
【氏名】杉山 隆英
【審査官】
麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−186437(JP,A)
【文献】
特開2006−286992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 30/00−38/12
H01F 38/16
H02M 3/00−3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルブリッジ回路を備える1次側変換回路と、
フルブリッジ回路と単一のトランスを介して接続され、互いに並列化された少なくとも第1のセル電圧均等化回路と第2のセル電圧均等化回路を備える2次側変換回路と、
を備え、
2次側変換回路は、少なくとも互いに直列接続された第1のセル、第2のセル、及び第3のセルを備え、
第1のセル電圧均等化回路の正極母線は第1のセルの正極側に接続され、第1のセル電圧均等化回路の負極母線は第2のセルの負極側に接続され、第1のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線の中点は第1のセルと第2のセルの接続点に接続され、
第2のセル電圧均等化回路の正極母線は第1のセルと第2のセルの接続点に接続され、第2のセル電圧均等化回路の負極母線は第3のセルの負極側に接続され、第2のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線の中点は第2のセルと第3のセルの接続点に接続され、
第1のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線及び第2のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線は、両端の脚部に差動巻で巻回され、
トランスは、ギャップを有する中央脚部と、両端脚部を備える3脚コアのトランスであって、両端の脚部にトランスの1次側巻線及び2次側巻線が差動巻で巻回され、
トランスの両端脚部を通る周囲経路で磁束を生じさせて1次側変換回路と2次側変換回路の間で電力を伝送し、トランスのギャップを有する中央脚部を通る経路で磁束を生じさせて第1のセル電圧均等化回路と第2のセル電圧均等化回路の間で電力を伝送する
ことを特徴とする電力変換回路システム。
【請求項2】
請求項1記載の電力変換回路システムにおいて、さらに、
中央脚部に第1のセル電圧均等化回路及び第2のセル電圧均等化回路のリアクトル巻線が巻回される
ことを特徴とする電力変換回路システム。
【請求項3】
フルブリッジ回路を備える1次側変換回路と、
フルブリッジ回路と単一のトランスを介して接続され、互いに並列化された少なくとも第1のセル電圧均等化回路と第2のセル電圧均等化回路を備える2次側変換回路と、
を備え、
2次側変換回路は、少なくとも互いに直列接続された第1のセル、第2のセル、及び第3のセルを備え、
第1のセル電圧均等化回路の正極母線は第1のセルの正極側に接続され、第1のセル電圧均等化回路の負極母線は第2のセルの負極側に接続され、第1のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線の中点は第1のセルと第2のセルの接続点に接続され、第1のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線と直列にリアクトル巻線が接続され、
第2のセル電圧均等化回路の正極母線は第1のセルと第2のセルの接続点に接続され、第2のセル電圧均等化回路の負極母線は第3のセルの負極側に接続され、第2のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線の中点は第2のセルと第3のセルの接続点に接続され、第2のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線と直列にリアクトル巻線が接続され、
第1のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線及び第2のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線は、両端の脚部に差動巻で巻回され、かつ、第1のセル電圧均等化回路のリアクトル巻線及び第2のセル電圧均等化回路のリアクトル巻線は、中央の脚部に巻回される
ことを特徴とする電力変換回路システム。
【請求項4】
フルブリッジ回路を備える1次側変換回路と、
フルブリッジ回路と単一のトランスを介して接続され、互いに並列化された少なくとも第1のセル電圧均等化回路と第2のセル電圧均等化回路を備える2次側変換回路と、
を備え、
2次側変換回路は、少なくとも互いに直列接続された第1のセル、第2のセル、及び第3のセルを備え、
第1のセル電圧均等化回路の正極母線は第1のセルの正極側に接続され、第1のセル電圧均等化回路の負極母線は第2のセルの負極側に接続され、第1のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線の中点は第1のセルと第2のセルの接続点にリアクトル巻線を介して接続され、
第2のセル電圧均等化回路の正極母線は第1のセルと第2のセルの接続点に接続され、第2のセル電圧均等化回路の負極母線は第3のセルの負極側に接続され、第2のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線の中点は第2のセルと第3のセルの接続点にリアクトル巻線を介して接続され、
第1のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線及び第2のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線は、両端の脚部に差動巻で巻回され、かつ、第1のセル電圧均等化回路のリアクトル巻線及び第2のセル電圧均等化回路のリアクトル巻線は、中央の脚部に巻回される
ことを特徴とする電力変換回路システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力変換回路システムに関し、特に絶縁電力伝送とセル電圧均等化に関する。
【背景技術】
【0002】
図12は、特許文献1に記載された、セル電圧均等化機能と、双方向絶縁型コンバータ機能を有する電源システムの回路構成を示す。
【0003】
この回路は、各フルブリッジ回路間に、トランスと磁気結合リアクトルが1つずつ配置されており、合計4つの磁気素子を有する。
【0004】
すなわち、電源システムは、第1電源10、第2電源12、電力変換回路14及び遮断器16(16a〜16c)を含んで構成される。
【0005】
第1電源10は、例えば、リチウムイオン充電池、ニッケル・水素充電池等を適用することができる。第1電源10の出力電圧(第1電圧)V1は、例えば、100V以上200V以下の範囲とされる。第1電源10は、第1サブ電源10a及び第2サブ電源10bから構成される。第1サブ電源10a及び第2サブ電源10bは、同じ程度の出力容量及び出力電圧であり、例えば、第1電源10の出力電圧V1が200Vである場合、第1サブ電源10aの出力電圧(第1サブ電圧VS1)及び第2サブ電源10bの出力電圧(第2サブ電圧VS2)がそれぞれ100Vとなる。第1電源10が複数の電池の直列接続体である場合、それを2分割した各電池群を第1サブ電源10a及び第2サブ電源10bとする。
【0006】
第2電源12は、例えば、鉛充電池等を適用することができる。第2電源12は、第1電源10の負荷となる主機よりも低電力の補機負荷202に対する電源とされることが多く、その出力電圧(第2電圧)V2は例えば14Vとされる。
【0007】
電力変換回路14は、第1電源10(第1サブ電源10a,第2サブ電源10b)及び第2電源12から電力供給を受けて、第1電源10及び第2電源12の出力電圧とは異なる電圧を生成して出力する回路である。例えば、電力変換回路14は、近年ハイブリッド自動車や電気自動車等において近年必要とされている大電力補機負荷204に対して電力を供給する。大電力補機負荷204に対する出力電圧(第3電圧)V3は、第2電源12の出力電圧V2より高く設定され、例えば40V以上48V以下とされる。また、電力変換回路14は、補機負荷202よりも低い電圧で動作する低電圧補機負荷206に対して電力を供給する。低電圧補機負荷206に対する出力電圧(第4電圧)V4は、第2電源12の出力電圧V2より低く設定され、例えば12Vとされる。
【0008】
遮断器16a,16bは、第1電源10と電力変換回路14との間の電気的接続を開閉するために設けられるスイッチである。遮断器16aは、第1サブ電源10aの高圧側端子と電力変換回路14との間に設けられる。遮断器16bは、第2サブ電源10bの低圧側端子と電力変換回路14との間に設けられる。また、遮断器16cは、補機負荷202への電力供給ラインと低電圧補機負荷206への電力供給ラインとの間の電気的接続を開閉するために設けられるスイッチである。これらの遮断器16a,16b,16cは、それぞれ独立して外部の制御ユニット(図示しない)から開閉制御可能とされる。
【0009】
電力変換回路14は、第1サブ電力変換回路14aと第2サブ電力変換回路14bとを含んで構成される。第1サブ電力変換回路14a及び第2サブ電力変換回路14bは、それぞれ複数の電源として機能するマルチポートコンバータである。第1サブ電力変換回路14aの端子T1,T2には第1サブ電源10aの高圧側端子及び低圧側端子がそれぞれ接続される。また、第2サブ電力変換回路14bの端子T1,T2には第2サブ電源10bの高圧側端子及び低圧側端子が接続される。また、第1サブ電力変換回路14aの端子T2と第2サブ電力変換回路14bの端子T1が接続される。 また、第1サブ電力変換回路14aの端子T3と第2サブ電力変換回路14bの端子T3とが接続され、そこに大電力補機負荷204が接続される。第1サブ電力変換回路14aの端子T4には補機負荷202が接続される。第2サブ電力変換回路14bの端子T4には低電圧補機負荷206が接続される。
【0010】
上のセル群から下のセル群へ電力を伝送する場合は、マルチポートコンバータの各トランスに発生する電圧の位相差を別々に変化させ、図中の矢印で示すような経路で電力伝送を行う。
【0011】
図13は、
図12の回路における、トランスTr1とトランスTr2の電圧波形を示す。VH1及びVH2は、それぞれ上のセル群及び下のセル群の高圧側の電圧を示し、VL1及びVL2は、それぞれ上のセル群及び下のセル群の低圧側の電圧を示す。上のセル群のトランスTr1の電圧位相差θ1と、下のセル群のトランスTr2の電圧位相差θ2を制御することで伝送電力を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2015−186437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図12に示す回路では、セル電圧均等化を行う際にトランスTr1、Tr2に別々の位相θ1,θ2を与えるため、トランスは必ず複数個必要となり、均等化すべきセルの数だけトランスの数が増大することになるから、回路サイズが増大してしまう。
【0014】
従って、
図14(a)に示すような、1次側と2次側のトランス電圧の位相差で伝送電力を制御する双方向絶縁型コンバータ20と、
図14(b)に示すような、スイッチングデューティで隣り合うセル間でリアクトルを介して電流をやり取りすることで伝送電力を制御するセル電圧均等化回路22とを統合する際に、できるだけ回路の小型化を図ることが望まれている。
【0015】
図15は、
図14(a)及び
図14(b)に示す2つの機能回路20,22を単に統合した回路24の回路構成例を示す。また、
図16は、
図15の回路におけるトランス30の構成を示す。この回路は、
図14(b)に示すセル電圧均等化回路22のリアクトルをギャップ付きトランスとみなし、
図14(a)に示す双方向絶縁型コンバータ20のトランスとして兼用したものである。
【0016】
図17は、
図15の回路における無負荷時のシミュレーション結果を示す。
図17(a)は1次側及び2次側の電圧波形100,102,104、及びトランス30の漏れインダクタンスの波形106である。
図17(b)は、トランス30の各巻線に流れる電流である。
【0017】
1次側コイル及び2次側コイルに印加される電圧波形の位相が同一であるので、トランスを介した絶縁電力のやり取りは行われず、均等化回路動作のみが行われる。
【0018】
図18は、
図15の回路における負荷時のシミュレーション結果を示す。1次側=100W、2次側=100Wの場合である。1次側コイル及び2次側コイルに印加される電圧波形に位相差があるため、トランスの漏れインダクタンス成分にパルス状電圧が印加され、トランスに台形状の電流が流れる。結果として、トランスを介した絶縁電力伝送が行われる。この場合、2次側台形状電流波形にDCオフセット電流が流れていることから、均等化回路動作も同時に行われている。
【0019】
このように、
図15の回路24は、双方向絶縁コンバータ及びセル電圧均等化回路として動作し得るものの、
図16に示すようにコの字形状のギャップ付トランス30を用いるため、励磁電流を十分小さくして回路の高効率を図る場合には大きなコアを必要とするため、回路の小型化が困難となる。
【0020】
図19及び
図20は、回路の統合に伴う磁気素子の大型化に対して、2つの磁気経路を有する磁気素子を用いた回路26の回路構成を示す。この回路では、
図20に示すように、トランス40としてギャップを有する中央の脚部及びギャップのない左右の脚部を有する3脚コアのトランスとし、左右の脚部にトランス40の1次側巻線及び2次側巻線を巻回し、ギャップのない周囲の磁気経路がトランスコアとして機能して双方向絶縁型コンバータとして機能し、ギャップを有する磁気経路がリアクトルコアとして機能して均等化回路として機能すべくコイルを配置する。
【0021】
図20(a)に示すように、均等化回路動作により2次側巻線へ流れるDC電流が左右で常に等しい、すなわち左の脚部の巻線に流れる電流ia1=右の脚部に流れる電流ia2であれば磁気素子は飽和することなく動作する。しかし、
図20(b)に示すように均等化回路では左右のコイルへ流れるDC電流が常に等しいとは限らず、例えばia1>ia2となると、磁束はギャップのない周囲磁気経路ですぐに飽和してしまう。従って、このような回路は実際には動作不能である。
【0022】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、絶縁電力伝送回路とセル電圧均等化機能とを統合する際に、部品数を削減するとともに回路の小型化を図ることが可能なシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、フルブリッジ回路を備える1次側変換回路と、フルブリッジ回路と単一のトランスを介して接続され、互いに並列化された少なくとも第1のセル電圧均等化回路と第2のセル電圧均等化回路を備える2次側変換回路とを備え、
2次側変換回路は、少なくとも互いに直列接続された第1のセル、第2のセル、及び第3のセルを備え、第1のセル電圧均等化回路の正極母線は第1のセルの正極側に接続され、第1のセル電圧均等化回路の負極母線は第2のセルの負極側に接続され、第1のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線の中点は第1のセルと第2のセルの接続点に接続され、第2のセル電圧均等化回路の正極母線は第1のセルと第2のセルの接続点に接続され、第2のセル電圧均等化回路の負極母線は第3のセルの負極側に接続され、第2のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線の中点は第2のセルと第3のセルの接続点に接続され、第1のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線及び第2のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線は、両端の脚部に差動巻で巻回され、トランスは、ギャップを有する中央脚部と、両端脚部を備える3脚コアのトランスであって、両端の脚部にトランスの1次側巻線及び2次側巻線が差動巻で巻回され、トランスの両端脚部を通る周囲経路で磁束を生じさせて1次側変換回路と2次側変換回路の間で電力を伝送し、トランスのギャップを有する中央脚部を通る経路で磁束を生じさせて第1のセル電圧均等化回路と第2のセル電圧均等化回路の間で電力を伝送することを特徴とする電力変換回路システムである。
【0024】
本発明の1つの実施形態では、さらに、中央脚部に第1のセル電圧均等化回路及び第2のセル電圧均等化回路のリアクトル巻線が巻回される。
【0026】
また、本発明は、フルブリッジ回路を備える1次側変換回路と、フルブリッジ回路と単一のトランスを介して接続され、互いに並列化された少なくとも第1のセル電圧均等化回路と第2のセル電圧均等化回路を備える2次側変換回路とを備え、2次側変換回路は、少なくとも互いに直列接続された第1のセル、第2のセル、及び第3のセルを備え、第1のセル電圧均等化回路の正極母線は第1のセルの正極側に接続され、第1のセル電圧均等化回路の負極母線は第2のセルの負極側に接続され、第1のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線の中点は第1のセルと第2のセルの接続点に接続され、第1のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線と直列にリアクトル巻線が接続され、第2のセル電圧均等化回路の正極母線は第1のセルと第2のセルの接続点に接続され、第2のセル電圧均等化回路の負極母線は第3のセルの負極側に接続され、第2のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線の中点は第2のセルと第3のセルの接続点に接続され、第2のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線と直列にリアクトル巻線が接続され、第1のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線及び第2のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線は、両端の脚部に差動巻で巻回され、かつ、第1のセル電圧均等化回路のリアクトル巻線及び第2のセル電圧均等化回路のリアクトル巻線は、中央の脚部に巻回される
ことを特徴とする電力変換回路システムである。
【0027】
また、本発明は、フルブリッジ回路を備える1次側変換回路と、フルブリッジ回路と単一のトランスを介して接続され、互いに並列化された少なくとも第1のセル電圧均等化回路と第2のセル電圧均等化回路を備える2次側変換回路とを備え、2次側変換回路は、少なくとも互いに直列接続された第1のセル、第2のセル、及び第3のセルを備え、第1のセル電圧均等化回路の正極母線は第1のセルの正極側に接続され、第1のセル電圧均等化回路の負極母線は第2のセルの負極側に接続され、第1のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線の中点は第1のセルと第2のセルの接続点にリアクトル巻線を介して接続され、第2のセル電圧均等化回路の正極母線は第1のセルと第2のセルの接続点に接続され、第2のセル電圧均等化回路の負極母線は第3のセルの負極側に接続され、第2のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線の中点は第2のセルと第3のセルの接続点にリアクトル巻線を介して接続され、第1のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線及び第2のセル電圧均等化回路のトランスの2次側巻線は、両端の脚部に差動巻で巻回され、かつ、第1のセル電圧均等化回路のリアクトル巻線及び第2のセル電圧均等化回路のリアクトル巻線は、中央の脚部に巻回される
ことを特徴とする電力変換回路システムである。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、単一の磁気素子(トランス)により絶縁電力伝送回路とセル電圧均等化機能とを統合することができ、部品数を削減するとともに回路の小型化を図ることができる。
【0029】
また、トランスの3脚コアの両端脚部のみならず、ギャップを有する中央脚部にリアクトル巻線を巻回することで、絶縁電力伝送におけるインダクタンス成分の調整を行うことができ、設計の自由度を上げることができる。
【0030】
さらに、トランスの3脚コアの両端脚部のみならず、ギャップを有する中央脚部にリアクトル巻線を巻回するとともに、当該リアクトル巻線を逆相電流が流れない所定位置に接続することで、効率低下を抑制しつつ、セル電圧均等化におけるインダクタンス成分を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図11】
図9のシミュレーション結果説明図である。
【
図14】双方向絶縁コンバータとセル均等化回路の回路構成図である。
【
図15】双方向絶縁コンバータとセル均等化回路の統合回路図である。
【
図19】双方向絶縁コンバータとセル均等化回路の統合回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0033】
図1は、本実施形態の電力変換回路システムの回路図を示す。本実施形態の回路構成は、基本的には
図19に示す回路構成の2次側の均等化回路部分をマルチフェーズ化したものである。1次側変換回路と2次側変換回路は、磁気素子としての単一のトランス12で絶縁され、1次側変換回路はフルブリッジ回路として構成され、2次側変換回路は2並列化されたセル電圧均等化回路、つまり双方向非絶縁コンバータが階段状に接続された構成である。より詳しくは以下の通りである。
【0034】
1次側変換回路の正極母線と負極母線の間に、互いに直列に接続されるスイッチングトランジスタS1及びS2からなる左アームと、互いに直列に接続されるスイッチングトランジスタS3及びS4からなる右アームが設けられ、これら左アームと右アームは互いに並列に接続されフルブリッジ回路を構成する。1次側変換回路のセルC1は、1次側変換回路の正極母線と負極母線の間に配置される。
【0035】
左アームを構成するスイッチングトランジスタS1及びS2の接続点Muと、右アームを構成するスイッチングトランジスタS3及びS4の接続点Mvの間に、トランス12の1次側巻線が接続される。すなわち、トランスの1次側巻線は、2つの双方向チョッパ回路の中間点に接続される。
【0036】
他方、2次側変換回路は、2並列化された第1の2次側変換回路(第1のセル電圧均等化回路)と第2の2次側変換回路(第2のセル電圧均等化回路)を備える。
【0037】
第1の2次側変換回路の正極母線と負極母線の間に、互いに直列に接続されるスイッチングトランジスタS5及びS6からなる左アームと、互いに直列に接続されるスイッチングトランジスタS7及びS8からなる右アームが設けられ、これら左アームと右アームは互いに並列に接続されフルブリッジ回路を構成する。
【0038】
左アームを構成するスイッチングトランジスタS5及びS6の接続点Mα1と、右アームを構成するスイッチングトランジスタS7及びS8の接続点Mβ1の間に、トランス12の2次側巻線が接続される。
【0039】
また、第2の2次側変換回路の正極母線と負極母線の間に、互いに直列に接続されるスイッチングトランジスタS9及びS10からなる左アームと、互いに直列に接続されるスイッチングトランジスタS11及びS12からなる右アームが設けられ、これら左アームと右アームは互いに並列に接続されフルブリッジ回路を構成する。
【0040】
左アームを構成するスイッチングトランジスタS9及びS10の接続点Mα2と、右アームを構成するスイッチングトランジスタS11及びS12の接続点Mβ2の間に、トランス12の2次側巻線が接続される。
【0041】
2次側変換回路のセルは、図において互いに直列接続された3つのセルC2,C3,C4として示される。セルC2及びC3は接続点B1で接続され、セルC3とセルC4は接続点B2で接続される。第1の2次側変換回路の正極母線はセルC2の正極側に接続され、第1の2次側変換回路の負極母線は接続点B2に接続され、第1の2次側変換回路のトランスの2次側巻線の中点は接続点B1に接続される。第2の2次側変換回路の正極母線は接続点B1に接続され、第2の2次側変換回路の負極母線はセルC4の負極側に接続され、第2の2次側変換回路のトランスの2次側巻線の中点は接続点B2に接続される。セルC1〜C4の出力電圧は、例えば14Vである。
【0042】
1次側変換回路と2次側変換回路は、上記のように単一のトランス12で絶縁されており、1次側のフルブリッジ回路と2次側の全てのセル電圧均等化回路は図中点線で示すように磁気結合される。絶縁電力は1次側と2次側のスイッチングの位相差によって制御され、セル間電圧はスイッチングデューティで制御される。各スイッチングトランジスタS1〜S12のスイッチングは、図示しない制御回路からの制御信号によりオン/オフ制御される。
【0043】
図2は、
図1の回路構成における単一のトランス12の構成を示す。トランスコアは、中央の脚部及び左右の脚部(両端の脚部)を有する3脚コアであり、中央の脚部にギャップを有し、左右の脚部にはギャップを有しない。
【0044】
1次側変換回路のトランス12の1次側巻線は、左の脚部及び右の脚部に差動巻きで巻回される。左の脚部の巻線端部は接続点Muに接続され、右の脚部の巻線端部は接続点Mvに接続される。
【0045】
第1の2次側変換回路のトランス12の2次側巻線は、左の脚部及び右の脚部に差動巻で巻回される。左の脚部の巻線端部は接続点Mα1に接続され、右の脚部の巻線端部は接続点Mβ1に接続され、2次側巻線の中点は接続点B1に接続される。
【0046】
第2の2次側変換回路のトランス12の2次側巻線は、左の脚部及び右の脚部に差動巻で巻回される。左の脚部の巻線端部は接続点Mα2に接続され、右の脚部の巻線端部は接続点Mβ2に接続され、2次側巻線の中点は接続点B2に接続される。
【0047】
このように、トランス12の1次側巻線及び2次側巻線を差動巻(差動接続)とすることで、コイルに流れるDC電流が左右の脚部で必ず等しくなり、ia1=ia2となる。これによりギャップのない周囲磁気経路での磁束の飽和を防止できる。結果として、
図19及び
図20に示された回路構成と異なり、ギャップのない磁気経路ではトランスとして、ギャップのある磁気経路ではリアクトルとしてトランス12が磁気素子として機能することになる。トランスとしての磁気経路にギャップがないことから、トランスコアを大きくしなくてもトランスの励磁インダクタンスが十分に大きくなるので磁気素子の大型化を招くことなく、双方向絶縁型コンバータ機能とセル均等化機能の統合が実現される。
【0048】
図3は、無負荷時の回路シミュレーション結果を示す。各図において横軸は時間であり、
図3(a)は、1次側の電圧Vuvの波形100、2次側の電圧Vαβ1の波形102、2次側の電圧Vαβ2の波形104、及びトランス12の漏れインダクタンス成分Vαβ1−N*Vuvの波形106を示す。また、
図3(b)は、トランス12の各巻線に流れる電流であり、iuは1次側変換回路の1次側巻線に流れる電流、iα1は第1の2次変換回路の2次側巻線に流れる電流、iα2は第2の2次変換回路の2次側巻線に流れる電流である。
【0049】
1次側と2次側の電圧波形の位相は同じであり、波形106に示すようにトランスの漏れインダクタンス成分へのパルス状電圧波形の印加は行われない。また、
図3(b)の波形に示すように、トランスの漏れインダクタンス成分に電圧が印加されないので励磁電流のみがトランス12の各巻線に流れる。従って、絶縁電力のやり取りは行われない。
【0050】
図4は、負荷時の回路シミュレーション結果を示す。
図4(a)は1次側及び2次側電圧波形であり、
図4(b)はトランス12の各巻線に流れる電流である。1次側を200W、2次側を100Wとした場合である。波形100〜104に示すように1次側と2次側のコイルに印加される電圧波形に位相差があるため、波形106に示すようにトランスの漏れインダクタンス成分にパルス状の電圧波形が印加される。このため、
図4(b)に示すようにトランス12の各巻線に台形状の電流波形が生じる。結果として、トランス12を介した絶縁電力の伝送が行われる。また、2次側の台形状電流波形にDC電流が重畳しているので、均等化回路動作も同時に行われる。
【0051】
図5及び
図6は、他の実施形態の回路構成及びトランス12の構成を示す。
図1及び
図2の回路構成との相違は、トランス12のコア中央脚部にもコイルを配置した点である。すなわち、第1の2次側変換回路の接続点Mα1と接続点Mβ1との間に、トランス12の2次側巻線と直列に、互いに磁気結合したコイル(リアクトル巻線)を巻回し、かつ、第2の2次側変換回路の接続点Mα2と接続点Mβ2との間に、トランス12の2次側巻線と直列に、互いに磁気結合したコイル(リアクトル巻線)を巻回する。なお、
図6ではコイルの巻回状態を明示するために、各コイルの接続関係を図示していないが、トランス12の1次側巻線と2次側巻線の接続状態は
図2と同様であり、これに加えて、コア中央脚部のギャップ上部に第1の2次変換回路の2つのコイルが巻回され、2つのコイルのうちの一方のコイルは接続点Mα1と第1の2次変換回路のトランス2次側巻線に接続され、他方のコイルは接続点Mβ1と第1の2次変換回路のトランス2次側巻線に接続される。また、コア中央脚部のギャップ下部に第2の2次変換回路の2つのコイルが巻回され、2つのコイルのうちの一方のコイルは接続点Mα2と第2の2次変換回路のトランス2次側巻線に接続され、他方のコイルは接続点Mβ2と第2の2次変換回路のトランス2次側巻線に接続される。
【0052】
互いに磁気結合した中央脚部のリアクトル巻線を両脚部の巻線とフルブリッジ回路の間に配置することで、双方向絶縁コンバータ動作に関わる小さなインダクタンス成分の調整を中央脚部リアクトル巻線同士の磁気結合の漏れによっても調整できるようになり、設計の自由度が増大する。
【0053】
図7及び
図8は、さらに他の実施形態の回路構成及びトランス12の構成を示す。
図1及び
図2の回路構成との相違は、トランス12のコア中央脚部にもコイルを配置し、かつ、当該コイル(リアクトル巻線)をセルの接続点B1と第1の2次側変換回路のトランス2次側巻線の中点との間、及びセルの接続点B2と第2の2次側変換回路のトランス2次側巻線の中点との間に接続した点である。これら2つのリアクトル巻線は互いに磁気結合し、
図8に示すようにトランス12のコア中央脚部のギャップ上部に巻回される。
【0054】
このように、逆相電流が流れない位置に中央脚部のリアクトル巻線を配置することで、効率低下を抑制しつつ、均等化回路動作に関わるインダクタンス成分を大きくすることができる。
【0055】
図9及び
図10は、さらに他の実施形態の回路構成及びトランス12の構成を示す。
図1の回路構成では、2次側のセルとしてセルC2,C3,C4の3つのセルを例示したが、フルブリッジ回路とコイルを追加することで、磁気素子数は単一のまま、セル数を4つ以上とすることができる。
図9及び
図10は、セル数を5つとした場合の回路構成である。
図10に示すように、セル数が増大しても、2次側変換回路のトランス2次側巻線をコア左右の脚部に差動巻で巻回することで、単一のトランス12を維持し得る。
【0056】
図11は、シミュレーション結果を示す。
図10に示すように、各セルの電圧初期値として、C1=14V、C2=17V、C3=16V、C4=13V、C5=12V、C6=11Vとばらつきを持たせた場合である。なお、各セルの容量は1mFである。時間の経過とともに、セルC2〜C6の電圧が均等化されていくのが分かる。
【0057】
以上のように、本実施形態では、中央脚部にギャップを有する3脚コアの左右脚部(両端脚部)にコイルを巻回し、当該コイルは2並列化されたセル均等化回路から流れてくる電流の同相モード成分に対して中央ギャップ部分を通る経路で磁束を発生させ、逆相モード成分に対してはギャップのない周囲経路(外周経路)で磁束を発生させるような差動巻(差動接続)構成とすることで、磁気素子の大型化を招くことなく、かつ、単一の磁気素子で双方向絶縁型コンバータ機能(絶縁電力伝送機能)とセル電圧均等化機能を統合できる。
【0058】
また、本実施形態では、1次側変換回路及び2次側変換回路のいずれも全てのスイッチング素子をスイッチングトランジスタで構成しており、ターンオン、ターンオフともにソフトスイッチングであり効率が向上する。
【0059】
さらに、本実施形態では、双方向絶縁コンバータの一方の側とセル均等化回路のレグを共有化しているので、半導体素子と磁気素子での損失をシェアして効率が向上する。
【0060】
本実施形態の電力変換回路システムは、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池自動車等に搭載することができる。
【符号の説明】
【0061】
12,30,40 トランス、S1〜S20 スイッチングトランジスタ、C1〜C6 セル、20 双方向絶縁型コンバータ、22 セル電圧均等化回路、24,26 統合回路。