(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記回収ポリマー溶液から塩を除去して脱塩回収ポリマー溶液とする塩除去手段と、前記脱塩回収ポリマー溶液を前記加熱手段に導入させるポリマー再循環手段とを備えることを特徴とする請求項16に記載の水処理装置。
前記抽出手段が、少なくとも2基のミキサーセトラー、少なくとも1基の多孔板塔、少なくとも1基のスプレー塔、または少なくとも1基の充填塔であることを特徴とする請求項14〜17のいずれか1項に記載の水処理装置。
前記ポリマー溶液の流れ方向に沿った前記抽出手段の上流側、および前記抽出手段の内部の少なくとも一方に、前記ポリマー溶液を冷却するポリマー冷却器が設けられていることを特徴とする請求項14〜18のいずれか1項に記載の水処理装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術においては、ドロー溶液から水を吸水して希釈されたポリマー溶液は、後の分離工程によって、濃縮されたポリマー溶液(濃縮ポリマー溶液)と分離水とに分離される。分離水がさらに精製される一方、回収された濃縮ポリマー溶液は、濃縮ポリマー溶液と希釈された塩水(希釈ドロー溶液)との混合物に導入される。ところが、混合物が形成されてポリマーが吸水を開始すると、ポリマー自体の浸透圧が低下するため、ドロー溶液からポリマー溶液への水の移動量が低下するという問題が生じる。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、ドロー溶液からポリマー溶液への水の移動量を増加させることができる水処理方法および水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る水処理方法は、溶媒として水を含む含水溶液からドロー溶液および曇点を有するポリマー溶液を用いて水を分離する水処理方法であって、前記含水溶液から半透膜を介して前記ドロー溶液に水を移動させて希釈ドロー溶液とする浸透工程と、第1温度の前記希釈ドロー溶液と、前記第1温度より低い温度である第2温度の前記ポリマー溶液との向流接触によって、前記希釈ドロー溶液から前記ポリマー溶液に水を移動させる抽出工程と、前記ポリマー溶液を前記曇点以上の温度に加熱する加熱工程と、前記加熱工程において加熱された前記ポリマー溶液から分離水を分離する水分離工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係る水処理方法は、上記の発明において、前記分離水を精製水と回収ポリマー溶液とに分離する淡水回収工程とをさらに含むことを特徴とする。本発明の一態様に係る水処理方法は、この構成において、ポリマー溶液から塩を分離可能な塩除去ユニットによって、前記回収ポリマー溶液から塩を除去して脱塩回収ポリマー溶液とする脱塩工程と、前記脱塩回収ポリマー溶液を前記加熱工程前の前記ポリマー溶液に導入させる回収ポリマー再循環工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係る水処理方法は、上記の発明において、前記ドロー溶液と前記ポリマー溶液との向流接触を、ミキサーセトラー、多孔板塔、スプレー塔、または充填塔により行うことを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様に係る水処理方法は、上記の発明において、前記ポリマー溶液を複数の孔を有する多孔板を通過させた後に、複数の充填物が詰められた充填部において、前記ドロー溶液と向流接触させることを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係る水処理方法は、上記の発明において、前記抽出工程の前および前記抽出工程中の少なくとも一方において、前記ポリマー溶液を冷却する冷却工程をさらに含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る水処理方法は、上記の発明において、前記抽出工程において前記希釈ドロー溶液から水が抽出された後の濃縮ドロー溶液を、前記浸透工程における前記ドロー溶液に導入させることを特徴とする。本発明の一態様に係る水処理方法は、この構成において、前記濃縮ドロー溶液から、前記濃縮ドロー溶液中に残存する前記ポリマー溶液を除去する残ポリマー除去工程をさらに含むことを特徴とする。本発明の一態様に係る水処理方法は、この構成において、前記残ポリマー除去工程を、コアレッサー、限外ろ過膜、ナノろ過膜、または逆浸透膜を用いて行うことを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る水処理方法は、上記の発明において、前記水分離工程において分離された前記ポリマー溶液を、前記抽出工程における前記ポリマー溶液に導入させることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係る水処理方法は、上記の発明において、前記ドロー溶液が無機塩水溶液であることを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係る水処理方法は、上記の発明において、前記含水溶液が、海水、かん水、汽水、工業排水、随伴水、または下水であることを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係る水処理装置は、溶媒として水を含む含水溶液からドロー溶液および曇点を有するポリマー溶液を用いて水を分離する水処理装置であって、前記含水溶液から半透膜を介して前記ドロー溶液に水を移動させて希釈ドロー溶液とする浸透手段と、第1温度の前記希釈ドロー溶液と、前記第1温度より低い温度である第2温度の前記ポリマー溶液との向流接触によって、前記希釈ドロー溶液から前記ポリマー溶液に水を移動させる抽出手段と、前記ポリマー溶液を前記曇点以上の温度に加熱する加熱手段と、前記加熱手段によって加熱された前記ポリマー溶液から分離水を分離する水分離手段と、を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様に係る水処理装置は、上記の発明において、前記分離水を精製水と回収ポリマー溶液とに分離可能な淡水回収手段をさらに備えることを特徴とする。本発明の一態様に係る水処理装置は、この構成において、前記回収ポリマー溶液から塩を除去して脱塩回収ポリマー溶液とする塩除去手段と、前記脱塩回収ポリマー溶液を前記加熱手段に導入させるポリマー再循環手段とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の一態様に係る水処理装置は、上記の発明において、前記抽出手段が、少なくとも2基のミキサーセトラー、少なくとも1基の多孔板塔、少なくとも1基のスプレー塔、または少なくとも1基の充填塔であることを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様に係る水処理装置は、上記の発明において、前記ポリマー溶液の流れ方向に沿った前記抽出手段の上流側、および前記抽出手段の内部の少なくとも一方に、前記ポリマー溶液を冷却するポリマー冷却器が設けられていることを特徴とする。
【0019】
本発明の一態様に係る水処理装置は、上記の発明において、前記抽出手段によって前記希釈ドロー溶液から水が抽出された濃縮ドロー溶液を、前記浸透手段に導入させるドロー再循環手段が設けられていることを特徴とする。本発明の一態様に係る水処理装置は、この構成において、前記濃縮ドロー溶液から、前記濃縮ドロー溶液中に残存する前記ポリマー溶液を除去する残ポリマー除去手段が設けられていることを特徴とする。本発明の一態様に係る水処理装置は、この構成において、前記残ポリマー除去手段が、コアレッサー、限外ろ過膜、ナノろ過膜、または逆浸透膜からなることを特徴とする。
【0020】
本発明の一態様に係る水処理装置は、上記の発明において、前記水分離手段によって分離された前記ポリマー溶液を、前記抽出手段に導入させるポリマー再循環手段が設けられていることを特徴とする。
【0021】
本発明の一態様に係る水処理装置は、上記の発明において、前記ドロー溶液が無機塩水溶液であることを特徴とする。
【0022】
本発明の一態様に係る水処理装置は、上記の発明において、前記含水溶液が、海水、かん水、汽水、工業排水、随伴水、または下水であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る水処理方法および水処理装置によれば、ドロー溶液からポリマー溶液への水の移動量を増加させることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。
【0026】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態による水処理装置について説明する。
図1は、この第1の実施形態による水処理装置1を示す。
図1に示すように、この第1の実施形態による水処理装置1は、膜モジュール11、抽出部12、冷却器13、加熱器14、分離槽15、および液分離ユニット16を備えて構成される。
【0027】
膜モジュール11は、内部に半透膜11aが設けられている。半透膜11aは、水を選択的に透過できるものが好ましく、正浸透(FO:Forward Osmosis)膜が用いられるが、逆浸透(RO:Reverse Osmosis)膜を用いてもよい。半透膜11aの分離層の材質は、特に限定されるものではなく、例えば、酢酸セルロース系、ポリアミド系、ポリエチレンイミン系、ポリスルホン系、またはポリベンゾイミダゾール系などの材質を挙げることができる。半透膜11aの構成は、分離層に用いられる材質を1種類(1層)のみから構成しても良く、分離層を物理的に支持して実質的に分離に寄与しない支持層を有する2層以上から構成してもよい。支持層としてはポリスルホン系、ポリケトン系、ポリエチレン系、ポリエチレンテレフタラート系、一般的な不織布などの材質を挙げることができる。半透膜11aの形態についても限定されるものではなく、平膜、管状膜、または中空糸など種々の形態の膜を用いることができる。膜モジュール11は、例えば円筒形または箱形の容器であって、内部に半透膜11aが設置されることによって、内部が半透膜11aによって2つの室に仕切られる。膜モジュール11の形態は、例えばスパイラルモジュール型、積層モジュール型、中空糸モジュール型などの種々の形態を挙げることができる。
【0028】
膜モジュール11においては、半透膜11aによって仕切られた一方の室に含水溶液であるフィード溶液を流すことができ、他方の室に吸水溶液である濃縮ドロー溶液(単に、ドロー溶液ともいう)を流すことができる。フィード溶液は、例えば海水、かん水、汽水、工業排水、随伴水、または下水、もしくは必要に応じてこれらの水に対してろ過処理を施した、溶媒として水を含む含水溶液である。フィード溶液は前段の処理によって例えば50℃程度の所定温度に温度制御される。ドロー溶液としては、例えば硫酸マグネシウム(MgSO
4)水溶液、リン酸マグネシウム(Mg
3(PO
4)
2)水溶液、硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)水溶液、またはリン酸水素ナトリウム(Na
2HPO
4)水溶液などの種々の無機塩水溶液(塩水)が用いられる。この第1の実施形態においてドロー溶液は、MgSO
4水溶液が用いられる。膜モジュール11は、公知の半透膜装置を用いることができ、市販品を用いることもできる。
【0029】
正浸透工程
浸透手段としての膜モジュール11においては、正浸透工程が行われる。すなわち、膜モジュール11において、フィード溶液とドロー溶液とを半透膜11aを介して接触させることによって、浸透圧の差によりフィード溶液中の水が半透膜11aを通過してドロー溶液に移動する。フィード溶液が流入した一方の室からは、水が移動して濃縮された濃縮フィード溶液が流出する。ドロー溶液が流入した他方の室からは水が移動して希釈された希釈ドロー溶液が流出する。なお、ドロー溶液は、フィード溶液に対する温度制御、およびフィード溶液との接触時の熱伝導によって温度が調整される。この第1の実施形態において希釈ドロー溶液の温度は、第1温度として例えば45〜60℃程度の温度に調整される。
【0030】
抽出部12は、模式的に少なくとも1基の抽出ユニット、好適には複数の抽出ユニット12−1,…,12−(n−1),12−n(nは、2以上の整数)から構成される。それぞれの抽出ユニット12−1〜12−nは、例えば多孔板塔、スプレー塔、または充填塔からなる。それぞれの抽出ユニット12−1〜12−nは、全て同じ装置から構成しても、複数の異なる種類の装置を組み合わせて構成してもよい。抽出ユニット12−1〜12−nの詳細については後述する。
【0031】
抽出部12内においては、膜モジュール11において希釈された希釈ドロー溶液が、抽出ユニット12−nに流入して、抽出ユニット12−n,12−(n−1),…,12−1を順次通過する。一方、抽出部12内においては、濃縮ポリマー溶液(単に、ポリマー溶液ともいう)が、抽出ユニット12−1に流入して、抽出ユニット12−1,…,12−(n−1),12−nを順次通過する。すなわち、抽出部12は、内部においてドロー溶液とポリマー溶液とが向流接触しつつ通過可能に構成されている。
【0032】
ポリマー溶液は、温度感応性吸水剤(ポリマー)を主体とする溶液である。温度感応性吸水剤は、低温においては親水性で水によく溶けて吸水量が多くなる一方、温度が上昇するにしたがって吸水量が低下して、所定温度以上になると疎水性化し溶解度が低下する物質である。この第1の実施形態においてポリマーは、少なくとも疎水部および親水部が含まれ、基本骨格にエチレンオキシド群とプロピレンオキシドおよびブチレンオキシドからなる少なくとも一方の群とを含む、ブロックまたはランダム共重合体が好ましい。基本骨格は例えば、グリセリン骨格や炭化水素骨格などが挙げられる。具体的には、例えば、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの重合体を有する薬剤(GE1000−BBPP(A3)、特許文献2参照)を用いた。このようなポリマーにおいて、水溶性と水不溶性とが変化する温度は、曇点と呼ばれる。ポリマー溶液の温度が曇点に達すると疎水性化した温度感応性吸水剤が凝集して白濁が生じる。温度感応性吸水剤は、各種界面活性剤、分散剤、乳化剤などとして利用される。この第1の実施形態においては、抽出部12内において、希釈ドロー溶液から水を誘引する誘引物質として用いられる。
【0033】
抽出工程
抽出ユニット12−1,…,12−(n−1),12−nにはそれぞれ、内部にポリマー冷却器12a−1,…,12a−(n−1),12a−nが設けられている。ポリマー冷却器12a−1〜12a−nは、ポリマー溶液を選択的に冷却するための冷却器である。また、冷却器13は、抽出部12に対してポリマー溶液の流れ方向に沿った上流側に設けられ、濃縮ポリマー溶液の温度を低下させる温度制御を行う。冷却器13により濃縮ポリマー溶液は、第2温度として例えば25〜35℃程度に調整される。ポリマー冷却器12a−1〜12a−nおよび冷却器13の少なくとも一方において、ポリマー溶液の冷却工程が行われる。なお、ポリマー冷却器12a−1〜12a−nと冷却器13とは、いずれか一方のみ設けてもよく、ポリマー冷却器12a−1〜12a−nの一部のみ設けてもよい。
【0034】
抽出手段としての抽出部12においては、抽出工程が行われる。すなわち、抽出部12内において、抽出ユニット12−n〜12−1に順次希釈ドロー溶液を流動させるとともに、抽出ユニット12−1〜12−nに順次濃縮ポリマー溶液を流動させる。これによって、希釈ドロー溶液と濃縮ポリマー溶液とが向流接触し、希釈ドロー溶液中の水が、濃縮ポリマー溶液に移動する。希釈ドロー溶液は、抽出ユニット12−nから、抽出ユニット12−(n−1)、…、抽出ユニット12−1に順次流動するにしたがって、ポリマー溶液に水が移動することで順次濃縮される。濃縮された濃縮ドロー溶液は、抽出部12(抽出ユニット12−1)から流出される。一方、濃縮ポリマー溶液は、抽出ユニット12−1、…、抽出ユニット12−(n−1)および抽出ユニット12−nを順次流動するにしたがって、希釈ドロー溶液から水が移動されることによって順次希釈されて、希釈ポリマー溶液となる。希釈ポリマー溶液は、抽出部12(抽出ユニット12−n)から流出される。
【0035】
抽出工程においては、ドロー溶液の流動位置S
n,S
n-1,S
n-2,…,S
1,S
0に沿って、ドロー溶液における含水量が順次減少するとともに、ドロー溶液の浸透圧が順次上昇する。一方、ポリマー溶液の流動位置T
0,T
1,…,T
n-2,T
n-1,T
nに沿って、ドロー溶液から移動された水によってポリマー溶液の含水量は順次増加する。
【0036】
ここで、上述したように、ドロー溶液は温度が調整されて、抽出ユニット12−nに対するドロー溶液の流動位置S
nでの温度は、第1温度として例えば45℃程度になっている。一方、濃縮ポリマー溶液は、冷却器13によって温度が調整されて、抽出ユニット12−1に対するポリマー溶液の流動位置T
0での温度は、第2温度として例えば30℃程度になっている。すなわち、抽出部12(抽出ユニット12−n)に流入するドロー溶液の温度(第1温度)より、抽出部12(抽出ユニット12−1)に流入するポリマー溶液の温度(第2温度)が低くなるように制御される。これにより、抽出部12内においてドロー溶液からポリマー溶液に熱伝導し、ドロー溶液は、流動位置S
n,…,S
0に沿って順次温度が低下して流動位置S
0において例えば40℃程度になる。一方、ポリマー溶液は、流動位置T
0,…,T
nに沿って順次温度が上昇して、流動位置T
nにおいて例えば40℃程度になる。ポリマーは温度が上昇するのに伴って浸透圧が低下する。すなわち、ドロー溶液は流入側から流出側に向かって濃縮されて浸透圧が増加する一方、ポリマー溶液は、流入側から流出側に向かって温度が上がって浸透圧が低下する。これにより、ドロー溶液とポリマー溶液とは、抽出部12内のそれぞれの抽出ユニット12−1〜12−nにおいて、浸透圧が抽出ユニットごとの所定の浸透圧差を維持しつつ向流接触する。そのため、抽出ユニット12−1〜12−nにおいて、効率よくドロー溶液からポリマー溶液に水を移動させることができる。また、ポリマー冷却器12a−1〜12a−nによって、ドロー溶液との向流接触中においてポリマー溶液を冷却することにより、ポリマー溶液の浸透圧を高い状態に維持できるため、ドロー溶液とポリマー溶液との浸透圧の差を大きく維持でき、より効率よく水を移動させることができる。
【0037】
加熱工程
ポリマー溶液の加熱手段としての加熱器14は、ポリマー溶液の流れ方向に沿って分離槽15の上流側に設けられる。加熱器14は、抽出部12から流出した希釈ポリマー溶液を曇点の温度以上に加熱する。
【0038】
加熱器14においては、加熱工程が行われる。すなわち、抽出工程によって希釈ドロー溶液から水が移動して希釈された希釈ポリマー溶液を、加熱器14によって曇点以上の温度まで加熱することにより、ポリマーの少なくとも一部を凝集させる。これにより、ポリマーと水とが相分離して生成した微細な液滴が合一する。加熱工程における加熱温度は、加熱器14を制御することによって調整可能である。
【0039】
水分離工程
水分離手段としての分離槽15は、加熱工程で相分離したポリマーを主体とする濃縮ポリマー溶液と、水を主体とする分離水とに相分離する。分離槽15においては、水分離工程が行われる。すなわち、分離槽15において、濃縮ポリマー溶液と分離水との相分離は、曇点以上の液温で静置することによって行うことができる。希釈ポリマー溶液から分離された分離水は、フィード溶液から得られた最終生成物として、外部に放出される。
【0040】
ポリマー再循環工程
希釈ポリマー溶液から分離水が分離されて濃縮された濃縮ポリマー溶液は、ポリマー再循環手段としての再循環路17aにおいて、ポリマー再循環工程が行われる。すなわち、濃縮ポリマー溶液は、再循環路17aを通じて、冷却器13および抽出部12に順次供給される。冷却器13としては、例えば海水、河川水、または地下水などを冷却水として用いる熱交換器などが用いられる。
【0041】
残ポリマー除去工程
液分離ユニット16は、例えばコアレッサー、限外ろ過膜(UF膜)ユニット、ナノろ過膜(NF膜)ユニット、または逆浸透膜(RO膜)ユニットから構成される。液分離ユニット16は、抽出部12の抽出ユニット12−1から流出した濃縮ドロー溶液に残存するポリマーを、濃縮ドロー溶液から分離する残ポリマー除去手段である。
【0042】
液分離ユニット16においては、残ポリマー除去工程が行われる。すなわち、抽出部12における抽出工程によって水が移動して濃縮された濃縮ドロー溶液内には、ポリマー溶液との向流接触によって混入したポリマーが残存している可能性がある。そこで、液分離ユニット16によって、濃縮ドロー溶液からポリマー溶液を分離する。ポリマー溶液が除去された濃縮ドロー溶液は、ドロー再循環手段としての再循環路17bによって
膜モジュール11に流入する。一方、濃縮ドロー溶液から除去されたポリマー溶液(残ポリマー溶液)は、再循環手段としての再循環路17cによって、ポリマー溶液の流れ方向に沿った冷却器13の上流側に再循環される。
【0043】
(実施例)
次に、以上のように構成された第1の実施形態による水処理装置における抽出ユニットの具体的な実施例について説明する。なお、以下の実施例における抽出ユニットの具体例においては、ポリマー冷却器12a−1〜12a−nについての記載は省略する。
【0044】
(第1実施例)
まず、第1実施例について説明する。
図2は、
図1に示す水処理装置1の抽出ユニット12−1〜12−nに用いられる第1実施例による多段対向式連続装置20を示す略線図である。
【0045】
図2に示すように、多段対向式連続装置20は、少なくとも2基のミキサーセトラーから構成され、この第1実施例においては例えば3基のミキサーセトラー21,22,23から構成される。ミキサーセトラー21は、第1攪拌槽211および第1分離槽212から構成される。第1攪拌槽211には、モータ(図示せず)により回転可能な撹拌翼としてのプロペラ211aが設けられている。第1分離槽212内には、充填材212aが充填されている。同様に、ミキサーセトラー22は、プロペラ221aが設けられた第2攪拌槽221、および充填材222aが充填された第2分離槽222から構成される。ミキサーセトラー23は、プロペラ231aが設けられた第3攪拌槽231、および充填材232aが充填された第3分離槽232から構成される。
図1に示す抽出部12として多段対向式連続装置20を採用した水処理装置を以下、第1の装置という。
【0046】
第1攪拌槽211、第2攪拌槽221、および第3攪拌槽231の寸法の一例を挙げると、高さが1m、幅が0.2m、奥行きが0.2m、および容積が40Lである。第1分離槽212、第2分離槽222、および第3分離槽232の寸法の一例を挙げると、高さが0.2m、幅が1m、奥行きが0.2m、および容積が40Lである。充填材212a,222a,232aは、分離時間を短縮するために液滴の合一を促進するためのものである。充填材212a,222a,232aとしては、網目の大きさとして目幅が5mm、糸径が0.2mmのものを使用できるが、特に限定されない。また、充填材212a,222a,232aの材質としては、具体的に例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の材質から構成されるメッシュ状のものが挙げられるが、特に限定されない。
【0047】
抽出部12としての多段対向式連続装置20を構成するミキサーセトラー21,22,23においてはそれぞれ、第1攪拌槽211、第2攪拌槽221、および第3攪拌槽231において混合物が撹拌される。第1攪拌槽211、第2攪拌槽221、および第3攪拌槽231において撹拌された混合溶液はそれぞれ、第1分離槽212、第2分離槽222、および第3分離槽232に供給されて分離される。
【0048】
具体的に、多段対向式連続装置20においては、分離槽15や冷却器13(
図1参照)などの外部から供給されるポリマー溶液が第1攪拌槽211に流入する。第1攪拌槽211に流入したポリマー溶液は、2段目のミキサーセトラー22における第2分離槽222から供給されたドロー溶液と混合される。ポリマー溶液とドロー溶液とは、第1攪拌槽211のプロペラ211aによって撹拌されて混合される。これにより、ドロー溶液からポリマー溶液に水が抽出される。撹拌後の混合溶液は、第1分離槽212に供給されて、水を吸収したポリマー溶液と水を放出したドロー溶液とに分離される。分離されたポリマー溶液は、2段目のミキサーセトラー22の第2攪拌槽221に供給されて、3段目のミキサーセトラー23の第3分離槽232から供給されるドロー溶液と混合される。同様にして、ポリマー溶液は、第2攪拌槽221、第2分離槽222、第3攪拌槽231、および第3分離槽232に順次供給されて混合、撹拌、および分離が適宜行われ、最終的に外部の加熱器14および分離槽15(
図1参照)に順次供給される。
【0049】
一方、膜モジュール11(
図1参照)などの外部から供給されるドロー溶液は、3段目のミキサーセトラー23における第3攪拌槽231に流入する。第3攪拌槽231に流入したドロー溶液は、2段目のミキサーセトラー22における第2分離槽222から供給されたポリマー溶液と混合される。ドロー溶液とポリマー溶液とは、第3攪拌槽231のプロペラ231aによって撹拌されて混合される。これにより、ドロー溶液からポリマー溶液に水が抽出される。撹拌後の混合溶液は、第3分離槽232に供給されて、ポリマー溶液とドロー溶液とに分離される。分離されたドロー溶液は、2段目のミキサーセトラー22の第2攪拌槽221に供給されて、1段目のミキサーセトラー21の第1分離槽212から供給されるポリマー溶液と混合される。同様にして、ドロー溶液は、第2攪拌槽221、第2分離槽222、第1攪拌槽211、および第1分離槽212に順次供給されて混合、撹拌、および分離が適宜行われ、最終的に外部の液分離ユニット16(
図1参照)に供給される。
【0050】
以上のように、ミキサーセトラー21,22,23は、ポリマー溶液とドロー溶液とを向流接触可能な状態に連結されて多段対向式連続装置20を構成する。多段対向式とは、ポリマー溶液とドロー溶液とを混合撹拌した後に分離する混合撹拌分離装置が複数段から構成され、全体としてポリマー溶液とドロー溶液とが向流接触する方式である。なお、第1実施例において、プロペラ211a,221a,231aによる撹拌時間は、ドロー溶液からポリマー溶液に水を移動させるために必要な最低所要時間に設定し、いずれも例えば6分間とした。また、第1分離槽212、第2分離槽222、および第3分離槽232における滞留時間はそれぞれ、ドロー溶液とポリマー溶液とを分離させるために必要な最低所要時間に設定し、いずれも例えば5分間とした。
【0051】
(第2実施例)
次に、第2実施例について説明する。
図3は、
図1に示す水処理装置1の抽出ユニット12−1〜12−nに用いられる第2実施例による多段多孔板抽出塔30を示す略線図である。
【0052】
図3に示すように、第2実施例における多段多孔板抽出塔30は、円筒形状の塔31の内部に、上部から交互に設けられた3枚の多孔板32a,32b,32cを有して構成されている。塔31の寸法は、内径φが100mm、高さが4.2m、容積が33Lである。多孔板32a〜32cにおける穴の径は3mm、開孔率は33%である。それぞれの多孔板32a,32b,32cどうしの間隔は、溶液の滞留時間がドロー溶液とポリマー溶液とが分離する最低所要時間である1分程度になるように設定した。
【0053】
多段多孔板抽出塔30は、抽出部12における抽出ユニット12−1〜12−nの全体を構成する。多段多孔板抽出塔30は、ポリマー溶液が塔31の下部から流入して上部から流出するとともに、ドロー溶液が塔31の上部から流入して下部から流出するように構成される。これにより、多段多孔板抽出塔30内において、ドロー溶液とポリマー溶液とが多段で向流接触する。
図1に示す抽出部12として多段多孔板抽出塔30を採用した水処理装置を以下、第2の装置という。
【0054】
(第3実施例)
次に、第1の実施形態による水処理装置を用いた第3実施例について説明する。
図4は、
図1に示す水処理装置1の抽出ユニット12−1〜12−nに用いられる第3実施例による多孔板抽出ユニット40を示す略線図である。
【0055】
図4に示すように、第3実施例による多孔板抽出ユニット40は、抽出槽41,42,43の3槽から構成される。それぞれの抽出槽41,42,43の内部にはそれぞれ、中間位置に多孔板41a,42a,43aが設けられている。すなわち、多孔板抽出ユニット40は、第2実施例における3段の多段多孔板抽出塔30を3槽に分けた構成である。第3実施例において、抽出槽41〜43の1槽の寸法は、高さが0.1m、幅が0.4m、奥行きが0.4m、容積が16Lである。多孔板41a〜43aについては、第2実施例と同様である。それぞれの抽出槽41〜43の滞留時間は、ドロー溶液とポリマー溶液とが分離する最低所要時間である2.5分程度になるように設定した。
【0056】
多孔板抽出ユニット40は、抽出部12を構成し、抽出槽41〜43がそれぞれ、各抽出ユニット12−1〜12−nを構成する。多孔板抽出ユニット40のそれぞれの抽出槽41〜43において、ポリマー溶液が抽出槽41〜43の下部から流入して上部から流出する。また、それぞれの抽出槽41〜43において、ドロー溶液が抽出槽41〜43の上部から流入して下部から流出する。これにより、多孔板抽出ユニット40におけるそれぞれの抽出槽41〜43内において、ドロー溶液とポリマー溶液とが向流接触する。
図1に示す抽出部12の抽出ユニット12−1〜12−nとして多孔板抽出ユニット40を採用した水処理装置を以下、第3の装置という。
【0057】
(第4実施例)
次に、第1の実施形態による水処理装置を用いた第4実施例について説明する。
図5は、
図1に示す水処理装置1の抽出ユニット12−1〜12−nに用いられる第4実施例による充填塔50を示す略線図である。
【0058】
図5に示すように、第4実施例による充填塔50は、塔51の高さ方向に沿った中間部分に、充填物が詰められた充填部52を有して構成されている。塔51の寸法は、第2実施例の塔31と同様に内径φが100mm、高さが4.2m、および容積が33Lである。充填部52を構成する充填物は、ポリプロピレン製のネットを円筒状に成型したものである。個々の充填物の寸法は、内径φが24mm、外径φが35mm、および長さが35mmであって、空隙率は88%である。充填部52における滞留時間は、ドロー溶液とポリマー溶液とが分離する最低所要時間である3分程度に設定した。
【0059】
充填塔50は、抽出部12におけるそれぞれの抽出ユニット12−1〜12−nを構成する。充填塔50は、ポリマー溶液が塔51の下部から流入して上部から流出するとともに、ドロー溶液が塔51の上部から流入して下部から流出するように構成される。これにより、充填塔50内において、ドロー溶液とポリマー溶液とが向流接触する。
図1に示すそれぞれの抽出ユニット12−1〜12−nとして充填塔50を採用した水処理装置を以下、第4の装置という。
【0060】
(第5実施例)
次に、第1の実施形態による水処理装置を用いた第5実施例について説明する。
図6は、
図1に示す水処理装置1の抽出ユニット12−1〜12−nに用いられる第5実施例による充填塔60を示す略線図である。
【0061】
図6に示すように、第5実施例による充填塔60は、塔61の高さ方向に沿った中間部分に、充填物が詰められた充填部62を有するとともに、充填部62の下方に多孔板63が設けられている。塔61の寸法は、第2実施例の塔31と同様に内径φが100mm、高さが4.2m、および容積が33Lである。充填部62を構成する充填物は、第4実施例と同様の材料からなり、個々の充填物の寸法は、内径φが24mm、外径φが35mm、および長さが35mmであって、空隙率は88%である。充填部62における滞留時間は、ドロー溶液とポリマー溶液とが分離する最低所要時間である3分程度に設定した。
【0062】
充填塔60は、抽出部12におけるそれぞれの抽出ユニット12−1〜12−nを構成する。充填塔60は、ポリマー溶液が塔61の下部から流入して上部から流出するとともに、ドロー溶液が塔61の上部から流入して下部から流出するように構成される。これにより、充填塔60内において、ドロー溶液とポリマー溶液とが向流接触する。
図1に示すそれぞれの抽出ユニット12−1〜12−nとして充填塔60を採用した水処理装置を以下、第5の装置という。
【0063】
(第1比較例)
第1実施例〜第5実施例と比較するために、ポリマー溶液とドロー溶液とを混合撹拌する混合撹拌装置を用いた例を第1比較例とする。
図7は、混合撹拌装置の略線図を示す。
図7に示すように、従来の混合撹拌装置100は、バッチ方式であって、撹拌槽101内に撹拌翼としてプロペラ101aを備えて構成される。ここで、混合撹拌装置100の寸法は、撹拌槽101の内径φが100mm、高さが0.9m、容積が7Lである。
【0064】
抽出部12として混合撹拌装置100を用いた場合、まず、ポリマー溶液とドロー溶液とを混合撹拌してポリマー溶液に水が移動した後に、混合溶液を静置する必要がある。この混合溶液の静置によって、吸水したポリマー溶液(希釈ポリマー溶液)と水が移動されたドロー溶液(濃縮ドロー溶液)とを分離させる。
図7に示す混合撹拌装置100の場合において撹拌を行う時間は、ドロー溶液からポリマー溶液に水を移動させるために必要な最低所要時間である6分間とする。
図1に示す抽出部12に混合撹拌装置100を採用した水処理装置を以下、第1の従来装置という。第1の従来装置においては、撹拌を停止した時点から界面の変動がなくなるまでの時間を分離時間として測定した。
【0065】
(第2比較例)
第1実施例〜第5実施例と比較するために、ポリマー溶液とドロー溶液とを向流接触させることなく、混合撹拌した後に並流によって分離する例を、第2比較例とする。
図8は、撹拌分離装置の略線図を示す。
図8に示すように、従来の撹拌分離装置200は、連続式であって、撹拌翼としてプロペラ201aを備えた撹拌槽201と、分離槽202とから構成される。撹拌分離装置200においては、プロペラ201aによって混合液を撹拌した後、混合液を分離槽202において並流によって分離する。ここで、撹拌槽201の寸法は、高さが1m、幅が0.2m、奥行きが0.2m、および容積が40Lである。分離槽202の寸法は、高さが0.5m、幅が1m、奥行きが0.4m、容積が200Lである。
【0066】
抽出部12として撹拌分離装置200を用いた場合、撹拌槽201においてポリマー溶液とドロー溶液とを混合撹拌してポリマー溶液に水を移動させた後に、混合溶液を分離槽202において並流によって希釈ポリマー溶液と濃縮ドロー溶液とを分離させる。
図8に示す撹拌分離装置200の場合において撹拌を行う時間は、ドロー溶液からポリマー溶液に水を移動させるために必要な最低所要時間である6分間とする。
図1に示す抽出部12に撹拌分離装置200を採用した水処理装置を以下、第2の従来装置という。第2の従来装置において分離槽202における滞留時間は、ドロー溶液とポリマー溶液とが分離する最低所要時間である30分である。
【0067】
表1は、上述した第1〜第5の装置(向流接触)および第1,第2の従来装置(混合撹拌)において、それぞれのドロー溶液およびポリマー溶液における、流入側(入口)および流出側(出口)の濃度(wt%)および重量(g)と、水の移動量(g)と、水の抽出に要する所要時間とを計測した結果を示す。なお、流量は第1〜第5の装置および第2の従来装置において、入口側の流量をドロー溶液が3.3L/min、ポリマー溶液を3.3L/minとした。第1の従来装置はバッチ式であるため、ポリマー溶液の初期量を3.3L、ドロー溶液を3.3Lとした。また、第1〜第5実施例および第1,第2比較例において、ドロー溶液の入口温度(流動位置S
nでの温度)を50℃、ポリマー溶液の入口温度(流動位置T
0での温度)を30℃とした。
【0069】
まず、第1比較例における第1の従来装置(混合撹拌装置100)は、バッチ式であるため水処理装置1に適用することが困難であるという問題がある。一方、第2比較例における第2の従来装置(撹拌分離装置200)は、連続式であることから水処理装置1に適用できるものの、撹拌によってポリマー溶液の液滴が小さくせん断されるため、合一に長い時間を要して分離時間が約15分と長くなる。
【0070】
表1から、第1の実施例と第2比較例とにおける水の移動量に着目すると、第2比較例の水の移動量に比して、第1実施例の水の移動量が大きくなることが分かる。これは、ポリマー溶液とドロー溶液とを向流接触させることに起因すると考えられる。一方、第1実施例における分離時間に着目すると、第1〜第3分離槽212,222,232のそれぞれの分離時間は、第2の従来装置の分離槽202に比して短縮できることが分かる。これは、第1〜第3分離槽212,222,232においては、充填材212a,222a,232aが用いられているためである。しかしながら、第1実施例においては、ポリマー溶液とドロー溶液との向流接触を行うために、少なくとも2基のミキサーセトラー21,22,23を用いる必要がある。これにより、全体の分離時間を合計すると第2の従来装置の分離槽202での分離時間と同等になり、撹拌時間に関しては長くなることが分かる。
【0071】
従来技術においても、ポリマー溶液とドロー溶液との混合物が分離器に導入される。ところが、一般に、混合物を生成させるための混合の度合いが高く混合時間が長いほど、ポリマー溶液に移動する水の移動量が増加する一方、過度の混合を行うとドロー溶液とポリマー溶液とを分相するまでに長い時間を要する。これによって、ドロー溶液からポリマー溶液への水の抽出に要する撹拌時間や分離時間などのプロセス滞留時間が長くなるという問題があった。
【0072】
これに対し、表1から、第2実施例における第2の装置〜第5実施例における第5の装置においては、第1,第2比較例および第1実施例に比して、分離時間を短縮できることが分かる。この分離時間の短縮は、第2〜第5の装置においては、そもそも撹拌によるポリマー溶液の液滴にせん断が生じないためであると考えられる。分離時間の短縮は抽出ユニット12−1〜12−nの小型化に直結することから、第2〜第5実施例においては、水処理装置の容積を低減することが可能となる。具体的に第2,第4,第5実施例においては、第2比較例に比して、抽出ユニットの容積を1/6以下にすることが可能になり、ポリマーの使用量も大幅に低減することができる。
【0073】
また、表1において水の移動量に着目すると、第2の従来装置に比して、第1〜第5の装置の方が水の移動量が大きいことが分かる。すなわち、ドロー溶液とポリマー溶液とを向流接触させることによって、水の移動量を増加できることが分かる。これは、化学工学的観点から、向流接触させることによって2液間で効率的な接触が可能になるためと考えられる。とりわけ第5の装置は、多孔板63によって適度に細分化されたポリマー溶液の液滴が、充填部62においてドロー溶液と向流接触することになるため、水の移動量が第1〜第4の装置に比して多くなったと考えられる。
【0074】
(第6〜第9実施例および第3比較例)
次に、第1の実施形態による第6〜第9実施例、および第6〜第9実施例と比較するための第3比較例について説明する。すなわち、ドロー溶液における抽出部12の入口(流動位置S
n)での第1温度と、ポリマー溶液における抽出部12の入口(流動位置T
0)での第2温度とを種々変更した場合の水の移動量について実験を行った。ここで、ポリマー溶液は温度が低いほど浸透圧が高くなり、ドロー溶液からの吸水能力が高くなる傾向があるため、ポリマー溶液の温度は低い方が好ましい。反対に、ドロー溶液の温度(第1温度)がポリマー溶液の温度(第2温度)よりも低い場合(第1温度<第2温度)、ポリマー溶液の温度が相対的に高くなるため、ポリマー溶液の吸水能力が低下する傾向になるので、好ましくない。そのため、ドロー溶液の入口での第1温度は、ポリマー溶液の入口での第2温度以上(第1温度≧第2温度)であることを前提とする。
【0075】
すなわち、第6実施例においては、ドロー溶液の入口での第1温度を45℃、かつポリマー溶液の入口での第2温度を35℃(第1条件)にする。第7実施例においては、ドロー溶液の入口での第1温度を50℃、ポリマー溶液の入口での第2温度を30℃(第2条件)にする。第8実施例においては、ドロー溶液の入口での第1温度を55℃、ポリマー溶液の入口での第2温度を25℃(第3条件)にする。第9実施例においては、ドロー溶液の入口での第1温度を58℃、ポリマー溶液の入口での第2温度を23℃(第4条件)にする。なお、第3比較例においては、ドロー溶液の入口での第1温度とポリマー溶液の入口での第2温度とを等しく40℃(一定)にする。
【0076】
第6〜第9実施例および第3比較例の実験結果を表2に示す。なお、水処理装置としては、第5実施例における第5の装置を用い、抽出部12内における平均温度は、第6〜第9実施例および第3比較例において、いずれも等しくなるように設定した。また、ドロー溶液としてはMgSO
4水溶液を用い、ポリマー溶液におけるポリマーとしては、GE1000−BBPP(A3)(特許文献2参照)を用いた。
【0078】
第3比較例と第6実施例(第1条件)とにおいて、出口での温度はどちらも同じ40℃であった。ところが、表2から、入口の温度が異なることによって、第3の比較例に比して第6実施例の方が水の移動量が増加していることが分かる。抽出工程においてポリマー溶液は、温度が低いほど吸水能力が高くなり、ドロー溶液に対して高い濃縮を行うことが可能である。
【0079】
また、ドロー溶液の入口での第1温度とポリマー溶液の入口での第2温度との温度差は、ポリマーの種類によって変化はあるが、表2から、第6〜第8の実施例において用いたポリマーにおいて好ましくは、以下の(1)式になることが分かる。
0℃<第1温度−第2温度≦30℃ …(1)
【0080】
すなわち、表2における第7〜第9実施例の結果から、水の移動量は、ドロー溶液の入口での第1温度とポリマー溶液の入口での第2温度との温度差が20〜30℃でピークになることが分かる。表2の第9実施例の結果から、ドロー溶液の入口での第1温度とポリマー溶液の入口での第2温度との温度差が35℃となると、温度差が30℃以下の場合に比して、水の移動量が減少することが分かる。また、ポリマー溶液の温度が25℃未満の場合、ポリマーを冷却する際に用いる海水や河川水などとの温度差を十分に確保できないことから、ポリマー溶液の温度を低下させるために高いエネルギーが必要になるため、ポリマー溶液の入口での第2温度は25℃以上が好ましい。すなわち、(1)式に加え、さらに以下の(2)式が成立するのが好ましい。
第2温度≧25℃ …(2)
【0081】
以上説明したこの第1の実施形態による水処理方法および水処理装置によれば、水を含むドロー溶液と吸水能力を有するポリマー溶液とを向流接触させて、ドロー溶液からポリマー溶液に水を移動させている。これにより、ドロー溶液からポリマー溶液への水の抽出に要する所要時間である滞留時間を短縮できるとともに、水の移動量を増加できる。
【0082】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態による水処理装置について説明する。
図9は、第2の実施形態による水処理装置2を示す。
図9に示すように、第2の実施形態による水処理装置2は、第1の実施形態による水処理装置1において、さらに、淡水回収ユニット18および塩除去ユニット19を備える。
【0083】
淡水回収工程
淡水回収手段としての淡水回収ユニット18は、例えば従来公知の膜ろ過装置から構成される。淡水回収ユニット18においては、淡水回収工程が行われる。すなわち、淡水回収ユニット18は、分離槽15において分離された分離水に対して膜ろ過処理を行うことにより、精製水である淡水を分離する。分離水から淡水が除去された回収ポリマー溶液は、塩除去ユニット19に供給される。
【0084】
塩除去手段としての塩除去ユニット19は、例えば従来公知の脱塩処理装置からなり、回収ポリマー溶液から塩水を分離可能に構成される。塩除去ユニットにおいては脱塩工程が行われる。塩除去ユニット19は、淡水回収ユニット18から供給された回収ポリマー溶液に対して脱塩処理を行うことにより、回収ポリマー溶液から塩を除去して排出する。このとき、フィード溶液が海水ではなく例えば下水などの場合、塩除去ユニット19に用いるろ過膜の膜種を好適な膜に選択することによって、微量有機物を併せて除去することが可能になる。ろ過膜の膜種としては、限外ろ過膜(UF膜)、ナノろ過膜(NF膜)、または逆浸透膜(RO膜)などが挙げられる。なお、塩除去ユニット19にろ過膜を用いる場合は、ろ過膜を透過した透過水(ろ過水)中に塩や微量有機物が含有されるため、透過水を排出し、濃縮水側を回収ポリマー溶液として使用する。
【0085】
回収ポリマー再循環工程
脱塩された回収ポリマー溶液は、脱塩回収ポリマー溶液として、分離槽15および加熱器14の上流側に再循環される。すなわち、脱塩回収ポリマー溶液を加熱工程前のポリマー溶液または加熱器14に導入して、回収ポリマー再循環工程が行われる。その他の構成は第1の実施形態と同様である。
【0086】
この第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0087】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施形態において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよく、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述および図面により本発明は限定されることはない。
【0088】
上述の実施形態においては、抽出ユニットとして、ミキサーセトラー21,22,23、多段多孔板抽出塔30、多孔板抽出ユニット40、充填塔50,60を採用しているが、スプレー塔などを用いることも可能である。