【実施例1】
【0013】
以下、本発明の土石流発生予測システムおよび土石流発生予測方法の実施例について図面を参照して説明する。
本発明の土石流発生予測システムおよび土石流発生予測方法は、土石流が起こる際の前兆現象の一つに「降雨があるのに水位が急激に低下する」という水位の挙動があり、この前兆現象は山腹崩壊による天然ダムの形成によって引き起こされるとされている点と、
図4に一例を示すように豪雨による水位の上昇は発災の2時間以上前に確認されているとともに天然ダムによる水位の急激な低下は発災の1時間前までに確認されている点と、発災の1時間前であれば避難するのに十分な時間的余裕がある点とに着目して、「豪雨で水位が上昇したのちに天然ダムで渓流が堰き止められて水位が急激に低下する」という水位のアップダウンを水位計で水位を計測することによって監視し、水位計で計測した水位のみに基づいて発災から1時間以上前に土石流発生を予測することを特徴とする。
【0014】
そのため、本発明の一実施例による土石流発生予測システム10は、
図1(a)に示すように、水位計11と、水位計11に接続された通信装置12と、予測装置20とを具備する。
【0015】
ここで、水位計11としては、平常時には渓流に流水がない場合も想定されることから、ロッド型の土壌水分計(導電率測定型)を用いて、土壌水分計のロッドの一部を渓流の底の土壌に挿し込んで固定するのが好ましい。
また、水位計11は、雨量計のように計測結果が樹木等に影響されることを防止するために、渓流の下流域(好ましくは、他の河川との最終合流点と下流域近傍の集落との間)に設置する。
水位計11によって計測された水位(以下、「計測水位」と称する。)は、予測装置20において連続してリアルタイムにモニタリングするために、通信装置12を介して予測装置20に送信される。
【0016】
予測装置20は、水位計11によって計測された計測水位のみに基づいて発災から1時間以上前に土石流発生を予測するためのものであり、送受信部21と、水位監視部22と、水位メモリ23と、土石流発生予測部24と、土石流警報発生部25とを備える。
【0017】
ここで、送受信部21は、無線または有線等で通信装置12と相互接続されているとともに、インターネット通信網等を介して防災情報提供サイトや住民の携帯端末等と相互接続されている。
【0018】
水位監視部22は、水位計11から通信装置12および送受信部21を介して入力される計測水位をリアルタイムで監視するとともに、計測水位を水位メモリ23に格納するためのものである。
また、水位監視部22は、平常時の計測水位の平均値を例えば1日毎に求め、求めた計測水位の平均値(以下、「平常時水位NWL」と称する。)を水位メモリ23に格納する。
【0019】
土石流発生予測部24は、外部から動作開始指令信号Saが入力されると、水位メモリ23からその時点以降の計測水位および判定基準水位を水位メモリ23から読み出して、読み出した計測水位および判定基準水位(例えば、平常時水位NWL)に基づいて土石流の前兆現象を定量的に把握して、土石流が発生するか否かを判定するためのものである。
土石流発生予測部24は、「土石流が発生する」と判定すると、「土石流が発生する可能性がある」旨を示す土石流警報を発するように指示する警報発生指示信号Sbを土石流警報発生部25に出力する。
【0020】
土石流警報発生部25は、警報発生指示信号Sbが土石流発生予測部24から入力されると、土石流警報を防災情報提供サイトや住民の携帯端末等に送信するように送受信部21に指示する。
【0021】
次に、土石流発生予測部24の動作について、
図1(b),
図2および
図3を参照して説明する。
なお、以下では、判定基準水位を平常時水位NWLとして説明する。
【0022】
気象庁等から大雨注意報や豪雨注意報等が発せられると、予測装置20と相互接続された端末装置等から動作開始指令信号Saが土石流発生予測部24に入力される(ステップS11)。
【0023】
土石流発生予測部24は、動作開始指令信号Saが入力されると、水位メモリ23からその時点以降の計測水位およびその時点の平常時水位NWLを読み出すとともに、読み出した計測水位に基づいて水位が最高値(以下、「最高水位HWL」と称する。)に達した時点t
0(以下、「最高水位時点t
0」と称する。)を検出する(ステップS12)。
【0024】
土石流発生予測部24は、最高水位時点t
0を検出すると、水位メモリ23から読み出した最高水位時点t
0以降の計測水位に基づいて3分(所定の時間間隔)毎の計測水位(以下、最高水位時点t
0から3×n分(nは整数)経過後の計測水位を「第nの計測水位WL
n」と称する。)の差分値を算出し、算出した差分値に基づいて第nの水位下降率R
nを求める(ステップS13)。
例えば、
第1の水位下降率R
1=最高水位HWL−第1の計測水位WL
1
第2の水位下降率R
2=第2の計測水位WL
2−第1の計測水位WL
1
【0025】
続いて、土石流発生予測部24は、求めた第nの水位下降率R
nで水位が下降したときの第nの予測水位PWL
nが平常時水位NWL(判定基準水位)となる時点T(以下、「判定基準水位到達時点T」と称する。)を求めたのち、求めた判定基準水位到達時点Tが最高水位時点t
0から1時間以内であるか否かを判定する(ステップS14,S15)。
その結果、判定基準水位到達時点Tが最高水位時点t
0から1時間以内でない場合には、ステップS13からの動作を繰り返す。
【0026】
一方、判定基準水位到達時点Tが最高水位時点t
0から1時間以内である場合には、「土石流が発生する」と判定して、「土石流が発生する可能性がある」旨を示す土石流警報を発するように指示する警報発生指示信号Sbを土石流警報発生部25に出力する(ステップS16)。
【0027】
これにより、例えば
図4に示したような土石流が発生する前の豪雨による水位の変化があった場合には、最高水位HWLと最高水位時点t
0から3分後の第1の計測水位WL
1との差分値(=HWL−WL
1)に基づいて求めた第1の水位下降率R
1で水位が下降したときの第1の予測水位PWL
1が平常時水位NWL(判定基準水位)となる時点t
1(=判定基準水位到達時点T)は最高水位時点t
0から1時間以内とならないため(
図1(b)に一点鎖線で示した直線参照)、最高水位時点t
0から3分経過後には、土石流発生予測部24は「土石流が発生する」とは判定しない。
しかし、最高水位時点t
0から3分後の第1の計測水位WL
1と最高水位時点t
0から6分後の第2の計測水位WL
2との差分値(=WL
1−WL
2)に基づいて求めた第2の水位下降率R
2で水位が下降したときの第2の予測水位PWL
2が平常時水位NWL(判定基準水位)となる時点t
2(=判定基準水位到達時点T)は最高水位時点t
0から1時間以内になるため(
図1(b)に二点鎖線で示した直線参照)、最高水位時点t
0から6分経過後に、土石流発生予測部24は「土石流が発生する」と判定する。
その結果、計測水位のみに基づいて発災から1時間以上前に土石流発生を予測して、避難するのに十分な時間的余裕をもって「土石流が発生する可能性がある」旨を通知することができる。
【0028】
また、気象庁等から大雨注意報や豪雨注意報等が発せられても土石流が発生しない場合には、
図3に一例を示すように水位は最高水位HWLに達したのち徐々に下降しながら平常時水位NWL(判定基準水位)になるため、判定基準水位到達時点Tが最高水位時点t
0から1時間以内となることはない(
図3に一点鎖線で示した直線参照)。
その結果、このような場合に予測装置20が「土石流が発生する可能性がある」旨を通知することはないため、誤警報を発することを防止できる。
【0029】
以上の説明では、気象庁等から大雨注意報や豪雨注意報等が発せられ際に動作開始指令信号Saを予測装置20の土石流発生予測部24に入力したが、気象庁等からの大雨注意報や豪雨注意報等に応答して動作開始指令信号Saを土石流発生予測部24に自動的に入力するようにしてもよい。
また、所定の時間間隔を3分間隔としたが、任意の秒単位または分単位間隔としてもよい。
さらに、判定基準水位を平常時水位NWLとしたが、これ以外の水位(例えば、水位=0)としてもよい。